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第1節 主な罪名別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望

2 性犯罪

(1)序論

 性犯罪の2年以内再入率は2020年(令和2年)出所者で5.0%となっており、出所者全体(15.1%)と比べると低く、再犯率が高いとまでは言えない(特1-2-1参照)。しかし、その一方で、性犯罪は、「魂の殺人」と言われるように、被害者の尊厳を著しく踏みにじる行為であり、その心身に長期にわたり重大な悪影響を及ぼすことから、再犯率の高低にかかわらず、その根絶は、喫緊に取り組むべき課題といえ、性犯罪の再犯防止に積極的に取り組んでいく必要がある。

 政府においては、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」※10(令和2年6月11日性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議決定)において、2020年度(令和2年度)から2022年度(令和4年度)までの3年間を「集中強化期間」として、性犯罪の再犯防止対策を含む実効性ある取組を進めている。

(2)指標

特1-2-1 性犯罪の同種犯罪による2年以内再入率
特1-2-1 性犯罪の同種犯罪による2年以内再入率

(3)主な取組と課題

ア 刑事施設及び保護観察所における専門的プログラムの充実化について

 法務省は、2019年度(令和元年度)に、刑事施設及び保護観察所における性犯罪者等に対する専門的処遇の一層の充実を図るため、法律、心理学、医学等の有識者を構成員とする検討会を開催し、2020年(令和2年)10月にその結果を「性犯罪者処遇プログラム検討会報告書」※11として取りまとめ、公表した。

 同報告書では、従来のプログラムの課題と更なる充実に向けた方向性、矯正施設収容中から出所後までの一貫性のある効果的な指導、指導担当者の研修体制の3つの論点について提言がなされた。

 法務省は、同提言の内容を踏まえ、専門的プログラムの内容を改訂し(特1-2-2参照)、2022年度(令和4年度)から新たなプログラムを実施しているほか、その実施体制の充実を図っている。

 新たなプログラムにおいては、従前、「夜出歩かない」など、再犯をしないための取組を実行させる指導が中心であったが、対象者の前向きな意欲を活用する観点から、再犯をしないという目標だけでなく、将来なりたい自分や達成したい目標とその実現に向けた取組を対象者に考えさせ、対象者の主体性を喚起し、プログラムの指導効果を高めることとしている。また、特定の問題性を有する者に対する指導効果が不十分であるとの効果検証の結果等を踏まえ、小児に対する性加害や痴漢などの習慣的な行動とみなせる性加害を行った者等に対応した指導内容を追加した。さらに、対象者自らが再び性犯罪をしないために作成する再発防止計画について刑事施設及び保護観察所の様式を共通化するとともに、保護観察所による再発防止計画作成後の指導として、毎月1回の頻度で性的な興味関心や問題の対処状況等に関する自己点検シートを作成させ、指導効果の維持を図るとともに、再犯の兆候等を可能な限り把握できるようにしている。

 指導担当者の研修に関しては、2022年度(令和4年度)は、刑事施設及び保護観察所における指導担当者が互いに方向性を共有してプログラムを発展させていくことを目的として、機関の枠を超えて合同の研修を実施した。

 今後も、改訂後のプログラムの運用状況等を適切に検証し、対象者の再犯防止に一層効果的なものとなるよう必要に応じて見直しを図っていくこととしている。

特1-2-2 性犯罪者に対する処遇プログラムの改訂について(令和4年度~)※12
特1-2-2 性犯罪者に対する処遇プログラムの改訂について(令和4年度~)※12

【当事者の声】~性犯罪に関する処遇を受けて~ 男性(40歳代) 罪名:迷惑防止条例違反等

 私は刑務所で性犯罪に関する教育を受講し、被害者の苦しみを考えるとともに、人と関わる大切さを改めて知りました。事件当時の私は周囲と壁を作り、1人の時間に偏っていました。独善的な考えにすがり、衝動が止められないリスクを選んでいたのです。

 教育はグループ形式で進み、メンバーの皆さんとの語らいを通じ、大きく2つのことを学びました。1つ目は、気心が知れてきた頃に、お互いの長所を出し合う時間がありました。私の長所を耳にすると、全身にこそばゆさを感じました。しかし、決して悪い感覚ではありません。褒められた記憶に乏しい私は、自分の欠点ばかり目につき、それが負の感情につながって、人付き合いにも影響したと思います。人を認める言葉の素晴らしさを感じました。2つ目は、我慢の多かった私の生い立ちに触れて、「大変でしたね」との言葉を頂いたことは、自分のつらい過去を余り語らない私にとって、人生初のことでした。つらい気持ちに共感が得られたことで、新たな自分に向かう前向きな気持ちになりました。

 こうした経験ができたのも、ありのままを語れた自分、それを聞き届けてくれた人たちのおかげです。この経験をしっかり胸に刻み、社会に戻ってからは認め合いながら、お互いが元気づけられるような人との関わりを積極的に築いていきます。事件当時の自分と決別し、苦しむ被害者を新たに生まないためにも必ず実行していきます。

イ 出所者情報の提供の現状と課題

(ア)性犯罪・性被害に係る地方公共団体の条例について

 大阪府や福岡県などの一部の地方公共団体では、性犯罪から住民を守るための条例を独自に制定し、性犯罪の未然の防止や再発防止に取り組んでいる。

 例えば、大阪府では、「大阪府子どもを性犯罪から守る条例」(平成24年10月施行。)を制定し、性犯罪により受刑した者が刑期満了となり、大阪府内に住居を定めた場合、その氏名や住所、連絡先等を府知事に届け出ることを義務付けた上で、そのうち希望する者に対しては、社会生活のサポートや専門家による心理相談等の社会復帰支援を実施している。

(イ)法務省から地方公共団体への情報提供について

 地方公共団体が再犯防止のための支援を行うに当たっては、対象者の把握や確認のために対象者本人に係る情報を得る必要があるものの、地方公共団体がそうした情報を独自に収集することは容易ではない。そこで、法務省は、個人情報の取扱いに配慮しながら、それらの情報を適切に提供することとしている。

 上記の大阪府の条例では、①あらかじめ、大阪府と法務省との間で本条例への協力に関する申合せを結んだ上で、②大阪府に届出があった者の同意を得て、大阪府から刑事施設又は保護観察所(以下「刑事施設等」という。)に情報の提供を依頼し、③「受刑事実の有無」や刑事施設等で実施した「処遇プログラムの受講結果」等について、刑事施設等から大阪府に対して提供することとしている(特1-2-3参照)。

 上記の大阪府の条例に基づき届出がなされた件数は、同条例が施行された2012年(平成24年)10月から2022年(令和4年)3月までの間に計197件※13あり、その全てについて、刑事施設から大阪府に対して、「受刑事実の有無」に関する情報提供を行った。また、そのうち社会復帰支援の対象となった者は計72人であり、「処遇プログラムの受講結果」については、刑事施設等から計19件※14の情報提供を行った(2020年(令和2年)9月~2022年(令和4年)3月)。

 なお、同様の取組は福岡県でも行われており、「福岡県における性暴力を根絶し、性被害から県民等を守るための条例」が施行された2020年(令和2年)5月から2021年(令和3年)10月までの間に14件の届出がなされ、その全てについて、刑事施設から福岡県に対して、「受刑事実の有無」に関する情報提供を行った。

(ウ)今後の課題

 支援対象者となり得る者の情報を地方公共団体が適切に把握し、個々の対象者の状況に応じた支援を実施することは極めて重要といえる。法務省としては、地方公共団体のニーズも踏まえながら、適切な情報提供の在り方について検討する必要があると考えている。

特1-2-3 大阪府における条例に基づく情報提供スキーム
特1-2-3 大阪府における条例に基づく情報提供スキーム

(4)今後の展望

 性犯罪者の再犯防止のためには、刑事司法関係機関における取組を更に充実させる必要があることは言うまでもない。他方で、性犯罪により刑事施設に入所する者は、性犯罪者の一部であり、例えば、罰金や保護観察が付かない執行猶予判決を受けた者など、刑事司法関係機関からの指導を受けないまま、社会に戻る者も存在する。そうした者たちの再犯を防止するためには、地域住民に身近な各種サービスを提供している地方公共団体による取組を進めることも不可欠であるが、性犯罪者に対する支援は、専門的な知見を必要とすることなどから、地方公共団体が独自に、性犯罪者に特化した取組を進めることは容易ではないと考えられる。そのため、政府においては、対象者本人に係る必要情報を地方公共団体に適切に提供するだけではなく、2022年度(令和4年度)中に、地方公共団体等が活用可能なプログラムを開発することとしており、今後、地方公共団体が連携した性犯罪者の再犯防止対策を一層推進していくこと必要であると考えている。

【再犯防止推進計画等検討会 有識者委員からの講評】 宮田桂子委員(弁護士)

 性犯罪は、性欲に基づくというよりも、認知の歪みが根底にあることが多く、男尊女卑思想、支配欲等が主原因たり得るし、発達障害などのため被害者の了解があったと思い込む、ポルノが事実と誤信するという事案もある。プログラム実施に当たっては、事件の経緯や個々の特性等も考えた丁寧なアセスメントや本人にとってわかりやすい指導が望まれる。また、「重大」な性犯罪だけでなく、下着盗、痴漢などの比較的軽微で、しかも繰り返され得る犯罪類型への対応も十分考えていく必要がある。

 刑務所内より社会内での指導・支援が重要であり、性犯罪への宣告刑が非常に重くなった現在、GPS利用をしてでも仮釈放期間伸長を検討すべきだ。が、処分終了後までGPS装着を求めるのは行きすぎだろう。

 氏名等を広く公表する「メーガン法」的手法をとると、社会からの排除につながり、かえって別な形での再犯を招くおそれがある。情報の公開の方法、管理のあり方も今後の重要な検討課題といえよう。

 性犯罪を防止するには、全ての国民への啓発が必要である。とくに、子ども達を、加害者にも被害者にもしないよう、人間関係や生き方なども含めた、ユネスコ等が提唱する包括的性教育を実施すべきであり、特に国におかれては、速やかにご対応をいただきたいと考える。

  1. ※10 性犯罪・性暴力対策の強化の方針
    https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/measures.html#policy性犯罪・性暴力対策の強化の方針のqr
  2. ※11 「性犯罪者処遇プログラム検討会報告書」関係資料URL
    https://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo10_00027.html
    (法務省ホームページ「性犯罪者処遇プログラム検討会報告書について」へリンク。)性犯罪者処遇プログラム検討会報告書についてのqr
  3. ※12 「性犯罪者に対する処遇プログラムの改訂について(令和4年度~)関係資料URL
    https://www.moj.go.jp/hogo1/kouseihogoshinkou/hogo_hogo06_00002.html刑事施設及び保護観察所の連携を強化した性犯罪者に対する処遇プログラムの改訂について(令和4年度~)のqr

    (法務省ホームページ「刑事施設及び保護観察所の連携を強化した性犯罪者に対する処遇プログラムの改訂について(令和4年度~)」へリンク。)
  4. ※13 大阪府において本条例に基づき性犯罪者の氏名等の届出がなされた件数(合計197件)の内訳
    強制わいせつ115件、強制性交等(強姦含む)49件、その他33件
  5. ※14 「処遇プログラムの受講結果」に関する情報提供(合計19件)の提供元の内訳
    刑事施設から11件、保護観察所から8件