再犯防止推進白書ロゴ

第1節 主な罪名別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望

3 近年増加傾向にある犯罪(児童虐待、配偶者からの暴力)

(1)序論

 刑法犯の検挙件数は毎年減少する中、児童虐待に係る検挙件数は増加傾向にあり(特1-3-1参照)、配偶者からの暴力事案等の検挙件数も10年前と比較すると3倍以上に増加するなど(特1-3-2参照)、これらの犯罪を防ぐための取組が急務となっている。これらの犯罪についての再犯防止を推進する上では、加害者と被害者の関係性を踏まえた指導が必要であり、加害者と被害者が再び一緒に生活する可能性があることも想定した上で、指導を行わなければならない場合もあるという特性がある。

(2)指標

特1-3-1 児童虐待に係る事件の検挙件数
特1-3-1 児童虐待に係る事件の検挙件数
特1-3-2 配偶者からの暴力事案等の検挙件数
特1-3-2 配偶者からの暴力事案等の検挙件数

(3)主な取組と課題

ア 刑事施設における児童虐待、配偶者への暴力に関する処遇の現状と課題

 刑事施設においては、児童虐待や配偶者への暴力に特化した標準的なプログラム等は策定していないが、児童虐待や配偶者への暴力に及んだ受刑者に対し、その問題性や事案の内容に応じて、例えば、暴力を振るうことなく生活するための具体的なスキルを身に付けさせるための一般改善指導「暴力防止プログラム」(【施策番号83】参照)を実施している。同プログラムにおいては、「親密な相手への暴力」の単元において、児童虐待や配偶者への暴力に陥りやすい場面・考え方、被害者に与える影響等を理解させる指導を行い、具体的な対処法等を学ばせている。また、家庭等で円滑な人間関係を維持するために必要な対人関係スキルを身に付けさせるための「対人関係円滑化指導」や、被害者の命を奪う又は身体に重大な被害をもたらす犯罪を起こした者には、その罪の大きさや被害者の心情等を認識させ、再び罪を犯さない決意を固めさせるための「被害者の視点を取り入れた教育」(【施策番号86】参照)も実施している。

 今後は、これらの対象者の再犯防止や円滑な社会復帰を進めるため、「暴力防止プログラム」等の各種指導の一層の充実を図っていくこととしている。

イ 保護観察所における児童虐待、配偶者への暴力に関する処遇の現状と課題

 児童虐待や配偶者からの暴力は、家族間の濃密な関係性の中で起きるため、深刻化するまで表面化しにくい面があり、また、加害者自身に被虐待経験があるなど複雑な背景要因が認められることが少なくない。このため、保護観察の実施に当たっては、2021年(令和3年)1月から導入しているアセスメントツール(CFP)(【施策番号66】参照)を活用し、保護観察対象者の生育歴等から、犯罪に結び付く要因や改善更生に資する強みなどを綿密に抽出・分析した上で、保護観察の実施計画を策定するとともに、犯した犯罪事実の内容等に応じ、「児童虐待」又は「配偶者暴力」の類型として認定した上で、「類型別処遇」の対象とし、どのような言動が児童虐待や配偶者への暴力に該当するのかや適切な関係性について考えさせ、必要に応じて関係機関の支援等を受けるよう働き掛けるなど、実効性の高い指導・支援を実施している。なお、2021年(令和3年)末時点で係属中の保護観察事件のうち、「児童虐待」類型に該当するものは137件、「配偶者暴力」に該当するものは170件である。

 これら類型に該当する保護観察対象者については、事案に応じて特別遵守事項として、傷害、暴行等の他人の生命又は身体の安全を害する犯罪に当たる行為を反復する傾向を有する保護観察対象者を対象とする「暴力防止プログラム」(【施策番号83】参照)の受講を義務付けており、「配偶者暴力」の問題を有する保護観察対象者については、配偶者への暴力につながる態度やその背景にある考え方の変容、配偶者暴力につながるリスクへの対処、配偶者等との適切な関わり方などについて指導しているほか、「児童虐待」の問題を有する保護観察対象者については、児童虐待の問題に特化した同プログラムの児童虐待防止版(【施策番号83】参照)を策定し、2019年(令和元年)10月から試行的に実施している。

 さらに、児童虐待事案については、保護観察所が各地域の要保護児童対策地域協議会に参画するなど、児童相談所を始めとする地域の関係機関等との連携を積極的に図ることとしており、児童虐待の再発防止等の観点からも、引き続き地域の関係機関等との一層緊密な連携の確保に取り組むこととしている。

(4)今後の展望

 矯正施設や保護観察所で行う専門的プログラムの類型化・細分化を進めた結果、「児童虐待」や「配偶者暴力」にも対応した指導が可能となった。そうした指導の効果を最大限に高めるためには、個々の加害者が抱える問題や特性を踏まえ、指導方法を工夫する必要があることから、加害者と被害者との関係性はもちろんのこと、身近な者への加害行為に至る経緯や要因も的確に把握することが重要である。

 また、加害者と被害者が親密な関係にあれば、被害者が加害者との関係を絶つことを望まず、一度崩れた関係の再構築を目指す場合もある。そうした場合には、被害者の意向や心情を慎重に確認した上で、加害者への指導に反映させることも重要であり、被害者に対する支援を行う関係機関と連携を強化していくことも必要になると考えられる。

【再犯防止推進計画等検討会 有識者委員からの講評】 堂本暁子委員(元千葉県知事)

 紆余曲折を経て、2001年(平成13年)の通常国会で、私が立法に関わった「配偶者からの暴力防止及び被害者の保護に関する法律」が成立した。

 その直後の2001年(平成13年)4月、私は千葉県知事に就任。直ちに、成立したばかりのDV防止法を現場で施行できる、という千載一遇の機会に恵まれた。就任後、職員を集め、「私は、DV防止法に関わってきました。DVは現代社会の歪みの一つ、千葉をDV防止先進県にしたい」と決意のほどを述べ、重要施策に位置づけた。どれだけ効果があったかはわからないが、今でも当時と同じ気持ちである。

 しかし、法律や規則で人間の行動をコントロールし、支配することはできない。大事なのは一人ひとりが暴力は「人間としてやってはいけないことだ」と認識し、それに従って自らを律し、行動することである。それが家庭の平和、地域の平和、学校での平和、あらゆるところの平和の土台となって、誰もが生きやすい社会が実現するものと確信する。DV事案に関する再犯防止の核心はそこにある。