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第3節 実施者別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望

第3節 実施者別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望
1 地方公共団体

(1)序論

 2016年(平成28年)12月に成立・施行された「再犯防止等の推進に関する法律(平成28年法律第104号)」において、地方公共団体は、その地域の実情に応じ、再犯防止施策の推進に関する計画(以下「地方再犯防止推進計画」という。)を定め、それらの施策を実施する責務を有することが明記された。しかしながら、多くの地方公共団体にとって、再犯防止はこれまで取り組んだことがない事業であり、具体的な取組を進めるためのノウハウや知見が蓄積されていなかったため、法務省では、「地域再犯防止推進モデル事業」の実施や協議会の開催など、地方公共団体の再犯防止施策を推進するための取組を進めている。

 また、「再犯防止推進計画加速化プラン」(令和元年12月23日犯罪対策閣僚会議決定)の成果目標の一つとして「2021年度(令和3年度)末までに、100以上の地方公共団体で地方再犯防止推進計画が策定されるよう支援する」旨が定められていたところ、2022年(令和4年)4月1日現在、371の地方公共団体で同計画が策定されている。

(2)指標

特3-1-1 地方再犯防止推進計画策定数(策定方法別)
特3-1-1 地方再犯防止推進計画策定数(策定方法別)

(3)主な取組と課題

ア 地方公共団体の取組の推進

 法務省は、国と地方公共団体の協働により、地域における効果的な再犯防止施策の在り方について調査・検討するため、2018年度(平成30年度)から2020年度(令和2年度)までの3年間、「地域再犯防止推進モデル事業」(以下本項において「モデル事業」という。)を実施したところ、法務省からの委託を受けた36の地方公共団体において、地域の実情に応じた様々な取組が進められた。一部の地方公共団体においては、モデル事業が終了した2021年度(令和3年度)以降も、事業を継続して実施している。本項の【当事者の声】では、奈良県がモデル事業以降も取り組んでいる「一般社団法人かがやきホーム」において、実際に林業に従事している当事者の声を紹介する(具体的な取組の内容は、令和2年版再犯防止推進白書の特集p169を参照)。

 また、2021年度(令和3年度)からは、こうしたモデル事業の成果や好事例を他の地方公共団体に広く周知・共有するとともに、都道府県と市町村が連携した取組を促進するため、「地方公共団体における再犯防止の取組を促進するための協議会」を開催した。

【当事者の声】~「かがやきホーム」で就労して~

 奈良県では「奈良県更生支援の推進に関する条例」に基づき設立した「一般財団法人かがやきホーム」において、出所者等を直接雇用して住居を貸与し、職業訓練や社会的な教育等を実施しています。2021年(令和3年)11月採用の研修員2名(森林組合で林業に従事)から「かがやきホームに就労して」と題し、現在の心境等について次のとおり質問しました。

問1 かがやきホームに採用されて感じたこと

A 逮捕され全てを失い、やり直したいと志望し採用され、以前とは違う環境で生活できておりとても感謝しています。

B 他人とのつながりを感じ、当初は知らない土地に不安もありましたが、今は楽しく生活しています。

特3-1-2 「かがやきホーム」での就労の様子
特3-1-2 「かがやきホーム」での就労の様子

問2 林業の就労研修について

A 力仕事や危険なイメージですが、2ないし3人のグループ作業であり、組合員間に気遣いが感じられ明るく楽しい職場です。

B 林業は正直きついですが、山奥での仕事は煩わしさがない分気持ちいいです。山中での自作弁当も美味しく、今は慣れて山仕事が楽しいです。

問3 これまで種々の支援を受けて感じたこと

A 社会貢献作業において福祉施設利用者との交流は非常に励みになります。五條地区更生保護女性会からの生活必需品等の援助に感謝しています。かがやきホーム理事主催の激励会で直接お話を聞けて良かったです。

B 良好な職場環境や確実な休日等は自分の時間を持て毎日が楽しいです。五條地区更生保護女性会の多大な支援で充実した暮らしができています。激励会でかがやきホーム理事の奈良県の荒井知事、五條市の太田市長、千房グループの中井会長など多くの方々とつながりができて大変うれしかったです。

問4 今後の目標について

A 五條市で家庭を持ち、林業を続けたいです。他人を大切に思う気持ちで地域貢献活動をしながら普通の暮らしをしたいです。

B 林業を続けたいです。小さな山を管理しながら山仕事だからできる副業も考えたいです。ベテランと呼ばれるだけの経験を積み重ねます。

イ 今後の課題

 モデル事業や協議会等の取組から、地域における再犯防止の取組を促進していく上で、以下の課題が明らかになった。

 1点目は、国と地方公共団体の役割分担である。現行の再犯防止推進計画等では、国と地方公共団体の役割分担が明確に示されておらず、地方公共団体が実施すべき具体的な施策が明らかでないまま、各地域の実情に応じた取組が進められているため、地方公共団体から国に対し、都道府県や市区町村が果たすべき役割を明示することが求められている。

 2点目は、地域における再犯防止の取組に対する理解である。再犯防止施策は、福祉をはじめとした様々な分野にまたがる取組であり、地方公共団体の再犯防止の担当窓口のみで対応できるものではなく、また、取組を進めるためには、地域の関係機関や地域住民の理解が重要となることから、地方公共団体内の関係部局や地域住民等への理解促進が必要である。

 3点目は、国から地方公共団体への円滑な情報提供である。地方公共団体が再犯防止施策を企画立案し、対象者へ必要な支援を実施するためには、統計情報や支援対象者の情報等を適切に把握することが必要である。法務省では地方公共団体に対して、個人情報に配慮しながらそれらの情報を提供することとしているが、より柔軟かつ円滑な情報提供の方法等について検討することが求められている。

(4)今後の展望

 これまでの取組から明らかとなった課題について、2023年度(令和5年度)からの次期「再犯防止推進計画」において、検討を進め、取組を推進するとともに、協議会の場などを通して把握できる地方公共団体のニーズ等を踏まえ、より一層、地方公共団体における再犯防止の取組を促進していくことが必要である。

【再犯防止推進計画等検討会 有識者委員からの講評】

 川出敏裕委員(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

 再犯を防止するためには、犯罪をした人が再び犯罪を行うことなく生活していくことができるような環境を整えることが必要であり、そのための就労・住居の確保、医療・福祉の提供などは、その人が現に生活している地方公共団体こそが行い得るものである。その意味では、再犯防止推進法が、再犯防止における地方公共団体の責務を明記したのは必然であったといえよう。その一方で、それまで刑事政策に関与してこなかった地方公共団体にとっては、まさに手探りの状態で活動を始めたというのが実感ではないかと思う。そのような状況で、この間、地方再犯防止推進計画を策定する地方公共団体が成果目標を大きく上回るペースで増加するとともに、モデル事業等を通じて地域の実情に応じた施策が実施されてきたことは、大きな成果といえる。他方で、取組の度合いには地域による格差があることも否定しがたいうえに、モデル事業についてもその期間だけで終わってしまったものもある。今後は、広域自治体である都道府県と、基礎自治体である市区町村それぞれについて、再犯防止において果たすべき役割を明確にしたうえで、再犯防止のための施策を継続し、進展させられるように、国から、必要な情報提供や人的・物的援助を行っていくことが求められよう。