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第2節 主な属性別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望

3 少年・若年者

(1)序論

 政府は、「再犯防止推進計画」(平成29年12月15日閣議決定)に、「学校等と連携した修学支援の実施等」や「少年・若年者に対する可塑性に着目した指導等」などを明記し、それらの取組を推進してきた。その結果、若年(26歳未満)の出所者の2年内再入率(特2-3-1参照)や少年院出院者の2年以内再入院率(特2-3-2参照)はおおむね減少傾向にあるなど、若年者や少年に対する再犯防止の取組には、一定の成果が認められるものの、出所受刑者(全体)の2年以内再入率(【指標番号3】参照)のそれと比較すると、いずれの減少幅も小さい現状にあることが認められる。また、少年院出院者の2年以内再入院率は、直近の2020年(令和2年)出院者で9.0%となっており、政府目標(8.8%)にわずかに届いておらず、若年者、少年の再犯・再非行防止のための取組は、今後も、重点的に取り組む必要がある。

(2)指標

特2-3-1 若年の出所者の2年以内再入率
特2-3-1 若年の出所者の2年以内再入率
特2-3-2 少年院出院者の2年以内再入院率・刑事施設入所率
特2-3-2 少年院出院者の2年以内再入院率・刑事施設入所率

(3)主な取組と課題

ア 「少年受刑者」及び「26歳未満の若年受刑者」に対する処遇の現状と課題

 2020年(令和2年)10月、法務大臣による諮問第103号に対し、法制審議会において、再犯防止対策の観点から、「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」として、刑事施設において、少年院の知見・施設を活用して、若年受刑者(おおむね26歳未満の受刑者をいう。以下同じ。)の特性に応じた処遇の充実を図るための施策が講じられることを期待するとの答申がなされた。

 従来から、20歳未満の少年受刑者に対しては、少年院と同様、個別担任制を導入するなどし、手厚い処遇を実施していたが、本答申を受けて、その対象年齢を拡大するとともに、少年院における矯正教育の手法やノウハウ等を活用した刑事施設における処遇を充実させるため、2022年(令和4年)9月から、川越少年刑務所及び美祢社会復帰促進センターにおいて、小集団のユニットの中で、手厚い指導を実施する「若年受刑者ユニット型処遇」を開始した。

 具体的には、若年受刑者のうち、犯罪傾向が進んでいない者から対象者を選定し、おおむね30名以下の小集団に編成したユニットで共同生活を送らせることにより、基本的な生活能力、対人関係スキル等の向上、自主性、自律性、社会性等の伸長を図ることとした。また、個別担任制の導入等により、受刑者と職員間の対話を通した信頼関係構築に基づく処遇の展開を柱に据えつつ、矯正処遇等の実施に当たっては、自身の犯した罪と向き合い、犯した罪の大きさや被害者等の心情等を認識させるとともに、出所後の進路選択や生活設計を念頭に置いた作業指定や職業訓練、それぞれの学力を踏まえた重点的な教科指導等を行うなど、若年受刑者の特性に応じたものになるよう配慮している。加えて、必要に応じ円滑な社会復帰を図るため、更生保護官署が行う生活環境の調整への積極的な協力、出所後の就労に向けた各種支援を丁寧に実施している。

 さらに、少年院である市原学園を刑事施設に転用することとし、2023年度(令和5年度)内を目途に、知的障害等により特に手厚い処遇が必要と認められる若年受刑者を、少年院と同様の構造・設備を備えた施設に収容し、基本的な生活能力、対人関係スキル等を習得させるための指導を中心とした処遇を行う「少年院転用型処遇」を開始する予定である。

 今後は、「若年受刑者ユニット型処遇」及び「少年院転用型処遇」の効果的な運用に努めるとともに、その実施状況を検証し、更なる処遇の充実を図っていく必要がある(特2-3-3参照)。

特2-3-3 「若年受刑者ユニット型処遇」及び「少年院転用型処遇」の概要
特2-3-3 「若年受刑者ユニット型処遇」及び「少年院転用型処遇」の概要

イ 在院者に対する処遇の現状と課題(修学支援を含む)

 少年法等の一部を改正する法律(令和3年法律第47号、以下、本項において「改正少年法」という。)において、18歳及び19歳の者を、特定少年として他の少年と別に扱う特例が設けられたことや、民法等の一部を改正する法律(平成30年法律59号、以下、本項において「改正民法」という。)の施行により新たに、18歳及び19歳の在院者が成年となることを踏まえ、法務省は、2021年(令和3年)に「罪を犯した18歳及び19歳の者に対する矯正教育(仮)に係る検討会」を開催し、特定少年に対する矯正教育等の在り方について検討を行った。同検討会は、2021年(令和3年)5月、特定少年が自己の責任を自覚するための指導、成年としての権利と義務を理解できるような教育の充実、18歳及び19歳の若者の多くが高等学校へ進学している現状等を踏まえたより積極的な修学支援や出院後の継続的な学習支援等の実施のほか、時代のニーズに適合した知識や技能を習得できるような職業指導や、社会復帰を見据えた職場体験の機会の拡大等を内容とする報告書を取りまとめた(特2-3-4参照)。

 法務省は、改正少年法の施行後、こうした各種施策を実施している(【施策番号13及び80】参照)。今後は、同法の施行状況を踏まえつつ、特定少年に対する処遇を含めた少年院における処遇の在り方を更に検討していく必要がある。

特2-3-4 18歳・19歳の者に対する矯正教育の充実
特2-3-4 18歳・19歳の者に対する矯正教育の充実

【当事者の声】~少年院を仮退院するにあたって~

少年1(性別:男子、非行名:恐喝、窃盗)

①少年院に入る前の生活

 高校をさぼったり、問題を起こして退学になりました。家族ともうまくいかず、家にも居場所はありませんでした。不良仲間と過ごす場所が自分の居場所になり、盗みや暴力等の非行を繰り返し、少年院送致になりました。

②少年院の生活で得たものや学んだこと

 集団生活で感情のコントロールができるようになったり、人の気持ちを考えられるようになりました。また、役割活動を通して責任感を持って行動できるようになり、初めて自信が持てました。苦手なことも挑戦することで、継続力、忍耐力、協調性が身に付きました。

③仮退院後の目標や展望

 再犯しないために、少年院で学んだことを忘れず、被害者のためにも仕事中心の生活をしたいです。そして、周りに流されず、よく考えて生活したいです。家族とは、少年院の面会で話し合えるようになったので、悩み等を相談していきたいです。

少年2(性別:女子、非行名:覚醒剤取締法違反)

①少年院に入る前の生活

 少年院に入る前は、昼夜逆転し、家に帰らないことも多くあったと思う。仕事は風俗関係でそこの先輩から覚醒剤や大麻を譲ってもらい、一人で使ったり、何人かで使い回すこともあった。薬に依存している訳ではなかったが、やめる気はなかった。また、周りはヤクザや不良が多く、断れる雰囲気ではなかった。

②少年院の生活で得たものや学んだこと

 少年院の生活では、危険物取扱者試験や珠算・漢字検定等に挑戦し、当初は私は何もできないと思っていたので、合格し自信になったと思う。また、問題性別指導の授業では、自分の考え方の間違いに気が付くことができ、人に頼ることができるようになったと思う。さらに今まで気付けなかったけど、多くの人に支えられていることが分かり、感謝する気持ちを持てるようになった。

③仮退院後の目標や展望

 仮退院後は、犯罪や非行のない普通の生活を送っていきたいと思う。普通が一番だと今は思う。私は現場仕事が好きなので、将来の夢は建設・建築関係の会社の社長になることと同時に、ガテン系女子の作業服や美容についても興味があるので、そのような分野にも携われるような仕事をしていきたい。

ウ 少年に対する保護観察処遇の現状と課題

 少年の保護観察対象者の特性について見ると、保護観察の類型別処遇における「精神障害」類型に該当する少年の割合が増えており、2021年(令和3年)末現在係属中の保護観察事件では、少年院仮退院者の4人に1人が当該類型に該当し、そのうち約6割が発達障害と認定される現状にある。こうした現状を背景として、少年に対する保護観察においては、少年一般に求められる処遇の充実に加え、個々の特性に応じた指導・支援の実施がこれまで以上に求められている。

 個々の特性に応じた指導・支援の実施については、2021年(令和3年)1月から新たな類型別処遇を開始し、精神障害の下位類型として、発達障害と知的障害を加えるなどした上、類型ごとの問題性に応じた処遇指針を新たに策定し、これに即した効果的な指導・支援の実施を進めている(【施策番号82】参照)。

 また、関係機関との連携の推進の点においては、少年院に送致された少年のうち、精神障害を有する者や保護者等が引受けに消極的な者など、その資質や環境上の事情等に照らして、円滑な社会復帰のため特別な配慮が必要な者について、少年院送致後の早期から関係機関が効果的に連携・協議を行い、生活環境調整の基本方針や社会復帰支援計画を作成するなど、保護観察期間の満了に至るまで、継続的かつ効果的な指導・支援体制の構築を図っている。

 さらに、2022年(令和4年)4月の改正少年法の施行を受け、18歳及び19歳の特定少年に対する処遇の充実を図るための方策として、薬物再乱用防止プログラムや性犯罪再犯防止プログラム等の専門的処遇プログラムについて、必要性が認められる場合は、これらの受講を特別遵守事項として義務付けることができるようにしたほか、特定少年は就労等を通じた社会的自立を果たしていく過程にあること等を考慮し、就労支援の一環として、社会的自立に向けた勤労観・職業観を身に付けることなどを内容とする「ジョブキャリア学習」を導入した。

 これらのほか、高等学校に進学していない者及び高等学校中退である者が少年の保護観察対象者の半数以上を占めている実情から、修学の継続が必要な事案について、民間ボランティア等の協力も得て、地域における効果的な修学支援を推進することとしている。また、修学支援の一環として、沼田町就業支援センター(【施策番号92】参照)において、少年の保護観察対象者を対象とするキャリア教育※19を実施することとしている。

(4)今後の展望

 改正民法や改正少年法により、少年・若年者の位置付けに大きな変革があった。また、「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号)により、受刑者について改善更生のために必要な作業と指導を柔軟に組み合わせた処遇が可能となった。

 こうした各法改正の趣旨を踏まえ、少年・若年者に対する処遇の在り方は大きな転換点を迎えているといえ、今後、各法改正の趣旨を踏まえた新たな取組の効果も検証しつつ、更なる処遇の充実を図っていく必要がある。

【再犯防止推進計画等検討会 有識者委員からの講評】

清水義悳委員(更生保護法人清心寮理事長)

 「(1)序論」において、再入率がおおむね減少傾向にあるもののなお一層の重点的取組みが必要とされている。国の計画として数値目標と評価は必要である。一方で、現場で取り組む刑務官、少年院教官、保護観察官、保護司、あるいは更生保護施設職員の方々はこのような数字を気にすることは少ない。彼らが向き合っているのは数字ではなく目の前にいる一人ひとりがすべてであり、そこにかけた思いの深さがこの制度を支えている。本特集を概観すると、「個別担任制の拡大」、「小集団ユニットによる処遇」、「個々の特性に応じた指導・支援」、「修学・就労などのキャリア教育」など、一人ひとりに向き合う取組を支える仕組みが丁寧に施され、現場従事者の思いとかみ合わされている。この方向性が大切であり、さらに進めていただきたい。

 若い人たちの更生を支える現場はいわば社会の「川下」で課題を受けとめる後がない役割でもある。近年はその課題の重さが年々増している。そこで大切なのは、若い人たちの抱える課題をこの「川下」だけで抱え込むのではなく、その優れた知見を保護者、教育機関、地域社会などの「川上」に届け、連携して社会全体の課題にしていくことであり、苦しんできた若い人たちが「相談することを知った」と言っているように、安心と信頼を感じさせ、大人への相談につながる環境作りが重要である。

 

  1. ※19 キャリア教育:一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育