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第3節 実施者別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望

2 民間協力者1(矯正施設での処遇)

(1)序論

 民間協力者による矯正施設内での活動については、篤志面接委員や教誨師といった長年矯正の分野で活動している方々に加えて、近年では、IT企業・アスリート等、これまで矯正施設とは関わりがなかった方々が新たに矯正施設での処遇に携わる事例が増えている。この傾向は、刑事施設、少年院を問わず確認でき、社会全体で再犯防止に取り組む機運が高まってきている。

(2)主な取組と課題

ア 広告ポスター制作の職業訓練「販売戦略科」の現状

 美祢社会復帰促進センターでは、2018年度(平成30年度)から、法務省、美祢市、株式会社小学館集英社プロダクション及びヤフー株式会社との連携による再犯防止・地方創生連携協力事業として、職業訓練「ネット販売実務科」を実施している。本職業訓練は、Eコマース(電子商取引)等の専門知識及びネットストア運用スキルを受刑者に付与することで再犯防止に寄与するとともに、職業訓練として美祢市の特産品を販売するストアサイトを制作することで、地方創生にも寄与する取組となっている。

 2021年度(令和3年度)からは、ネット販売実務科に続く取組として、美祢市、株式会社小学館集英社プロダクション及び株式会社セイタロウデザインと連携し、美祢市の特産品の魅力を引き出す広告ポスターを制作する職業訓練「販売戦略科」を開始した。本職業訓練も、ネット販売実務科と同様に2つの目的がある。1つ目は、広告ポスターの制作過程を通じ、受刑者に物事を的確に伝える表現力や他者との協働の仕方等を学ばせることである。2つ目は、特産品の隠れた魅力を引き出す広告ポスターを制作し、美祢市や生産者に使ってもらうことで、特産品の地産外商を推進し、美祢市の地方創生に貢献することである。受刑者は広告ポスターのレイアウトまで作成し、このレイアウトを基に株式会社セイタロウデザインがポスターとして完成させているところ、初回である2021年度(令和3年度)は、「厚保(あつ)くり」及び「原木しいたけ」の広告ポスターを制作した(特3-2-1、特3-2-2参照)。

 株式会社小学館集英社プロダクション及び株式会社セイタロウデザインは、再犯防止や地方創生の取組の必要性に鑑み、社会貢献事業の一環として本職業訓練に取り組み、効果の検証も予定している。本職業訓練は、国、地方公共団体そして民間企業が緊密な連携協力を通じ、「再犯防止推進計画」(平成29年12月15日閣議決定)を着実に推進するものであり、SDGsに掲げられているマルチステークホルダー・パートナーシップの下、犯罪をした人を再び受け入れることが自然にできる「誰一人取り残さない」社会の実現につながる取組となっている。

特3-2-1 「販売戦略科」で制作された広告ポスター「厚保(あつ)くり」「原木しいたけ」
特3-2-1 「販売戦略科」で制作された広告ポスター「厚保(あつ)くり」「原木しいたけ」
特3-2-2 美祢社会復帰促進センターにおける再犯防止・地方創生連携協力事業
特3-2-2 美祢社会復帰促進センターにおける再犯防止・地方創生連携協力事業

【当事者の声】~職業訓練「販売戦略科を受講して」~

受講者A(男性(24歳) 罪名:窃盗)

 最初はどんな内容なのかもわからずどのようなことを学べるのか、という気持ちで受講させていただいたのですが、1回、2回と受講していくうちに販売戦略科という職業訓練を楽しみにしている自分がいるくらい受講内容を魅力的に感じていました。

 キャッチコピーというのはふだん自分が物を買う時等様々な場面で何気なく目にするために、どれだけ考えて答えを出すか、目にしたあとアクションを起こしてもらうには何を求めているのか、相手の気持ちを思うこと等、自分が作る側になって初めてわかった視点を見させてもらうことができました。この先の生活でも今回学んだことを無駄にせず生活をしていき、相手のことを思い、気持ちを考えて行動ができるようにしていきます。そしてとても貴重な体験、楽しい時間を過ごさせていただきありがとうございました。

受講者B(男性(27歳) 罪名:①詐欺、有印私文書偽造・同行使、②窃盗)

 今回の販売戦略科の職業訓練を通して、顧客の立場で考えるなど、顧客のニーズに沿って考えることで、訴求力を高めることができ、背景の写真と言葉のバランスを考えることで、より読みやすく、伝わりやすい、ひきつけられる広告を作ることができるということを学びました。また、広告の作成だけでなく、プレゼンテーションをさせていただく機会も作っていただき、大勢の人の前で成果を発表することの緊張感を感じ、仕事の厳しさや達成感を身をもって感じることができ、社会復帰への自信にもなりました。この訓練を通して学んだ知識や技術を社会復帰に向けての就職活動に生かしていくことはもちろんですが、私生活の中でも「相手の立場で考える」という、この訓練で学んだことは、とても大切な事であり、これからの自分に必要なことだと思うので、他人を思いやった行動が取れる人になれるよう、日々、取り組んでいきたいと思います。また、残りの受刑生活の中で、もし、もう一度、機会があるのであれば、小売業の仕事に携わりたいという気持ちを強く持っているので、また受講させていただきたいという気持ちを持っています。広告作成の大変さは十分に理解しましたが、何より楽しいと思えたことが今回の一番の収穫だったと思います。

イ 少年院で活動する民間協力者

 各少年院は、民間協力者を招へいした教育を積極的に展開しており、その活動の場は、各種講話や行事のほか、プログラミング講座や職業体験等の職業指導、寮内での学習支援にまで広がっている。外部の方々との関わりを得ることは、施設内で生活する少年院在院者が社会を感じることのできる貴重な機会であるとともに、少年院の法務教官にとっても、様々な気付きを得る貴重な機会となっている。以下では、少年院での学習支援を行う認定特定非営利活動法人育て上げネット様から、その活動の中で感じた課題等を紹介いただく。

【民間協力者の声】~たくさんの、少しずつのつながりを~ 認定特定非営利活動法人育て上げネット

 認定特定非営利活動法人育て上げネットでは、すべての若者が社会的所属を獲得し、「働く」と「働き続ける」を実現できる社会を目指し、若者と社会をつなぐ活動をしています。現在、4か所の少年院で定期的に活動しながら、出院した少年に食糧・生活用品の給付、就労支援を行っています。

 複雑な成育歴があり、目の前のことに困っている少年たちとのかかわりは、NPO単体で更生・自立を支えるのではなく、一人ひとりの少年を応援するたくさんの応援者の必要性を私たちに教えてくれています。

 私たちは、少年院でのスタディツアーやイベント等を通じて理解者を増やし、少年の更生・自立のための応援団を募っています。企業やNPOだけでなく、プロスポーツクラブや教育機関等も、少年のために活動してくれています。

 2021年(令和3年)より、ある高校と協働し、進路相談を開始しました。在学中の生徒や卒業生等に対して、進路相談を軸に、若者が孤立しない場として機能しています。

 ある日、その活動に入っているある少年院の先生が、私たちと少年をつないでくれました。その少年は高校に再入学し、進路相談で、再び私たちと出会ったのです。少年の「アルバイト先とうまくいかない悩み」を知り、応援団である企業の方が来てくれました。

 春休み、その企業のもとで、体験的にアルバイトをしてみた少年は、今は正社員となり、再犯をせずに頑張っています。ある日、その少年は私たちに教えてくれました。

 「出会いと出会うひとが大事だと痛感しました。本当にありがとうございます」と。

(3)今後の展望

 矯正施設での処遇における民間協力者との連携は、施設内での処遇を社会での活動と直結した実践的なものにするだけでなく、被収容者が社会とのつながりを感じるいわば実社会への窓としての役割を担っている。再犯防止と円滑な社会復帰を進めるため、今後も多様な民間協力者の方々と連携協力していくことが重要と考えられる。

【再犯防止推進計画等検討会 有識者委員からの講評】

松田美智子委員(公益財団法人矯正協会特別研究員)

 矯正施設においては、長年、篤志面接委員や教誨師を始め多くの民間ボランティアの方々の協力をいただいてきましたが、再犯防止への取組が進む中、今まで以上に様々な分野から矯正施設の処遇への関与がなされています。中でも、民間企業の職業訓練や学習支援等への参画は、一定の組織や収益を含めたスキームを整え、企業活動として矯正施設での処遇に携わるもので、民間団体等の資金も含めた創意、工夫の活用として、矯正施設における民間協力の新しい展開と言えると思います。今後とも民間ボランティアの方々の活動に加え、「再犯防止推進計画加速化プラン」(令和元年12月23日犯罪対策閣僚会議決定)にもあるとおり、民間委託の様々な仕組みを考案、実施することを通して、社会的課題に取り組むNPO、民間企業・団体等と連携した再犯防止活動の推進も必要と考えます。

 あわせて、民間協力者(団体)におかれては、活動を通して承知される矯正施設の被収容者が抱える困難や問題の諸相や、日々彼らの傍らで励まし指導する矯正職員の姿を、もとより個人情報保護に配意した上で、一般社会の方々に広く発信していただけたらと思います。矯正施設の被収容者にとって民間協力者(団体)の方々は「社会との懸け橋」であり、それはどのような活動形態であっても等しく第一番の意義であると考えます。