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第3節 実施者別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望

3 民間協力者2(協力雇用主)

(1)序論

 刑務所出所者等の就労の機会を確保することは、再犯防止のために重要であり、「宣言:犯罪に戻らない・戻さない」(平成26年12月16日犯罪対策閣僚会議決定)において、犯罪や非行をした者を実際に雇用している協力雇用主の数を、2020年(令和2年)までに約1,500社まで増加させるという数値目標が設定された。政府においては「宣言」で設定された数値目標の確実な達成を図るべく、協力雇用主の活動に対する支援の充実に向けた施策を推進し、刑務所出所者等の就労の機会の増加に取り組んできた。

(2)指標

特3-3-1 協力雇用主数・実際に雇用している協力雇用主数
特3-3-1 協力雇用主数・実際に雇用している協力雇用主数
特3-3-2 業種別の協力雇用主の割合
特3-3-2 業種別の協力雇用主の割合

(3)主な取組と課題

 2018年度(平成30年度)から2021年度(令和3年度)までの協力雇用主の活動に対する支援の取組状況を紹介する。

 刑務所出所者等を雇用する協力雇用主の不安や負担を軽減させるため、「刑務所出所者等就労奨励金支給制度」(【施策番号11】参照)により、4年間で13,967件の支給を実施したほか、「身元保証制度」(【施策番号11】参照)を4年間で7,558件を活用した。

 また、刑務所出所者等を雇用する企業等の社会的評価の向上等を目的として、公共調達において、協力雇用主の受注の機会の増大を図るための取組(【施策番号15】参照)を推進し、更生保護官署では4年間で117件の公共調達を協力雇用主が受注しているほか、入札参加資格審査及び総合評価落札方式において刑務所出所者等の雇用実績がある協力雇用主に対して優遇措置を導入する地方公共団体は、2018年(平成30年)の198団体から、2021年(令和3年)12月末時点では239団体に増加している。

 こうした取組により、2018年(平成30年)4月1日において20,704社であった協力雇用主の数は、2021年(令和3年)10月1日現在24,665社に増加した。また、実際に刑務所出所者等を雇用している協力雇用主数(以下「実雇用主数」という。)は、2018年(平成30年)4月1日の887社から、2019年(令和元年)10月1日には1,556社まで増加し、2021年(令和3年)10月1日現在は1,208社となっている。(特3-3-1参照)

 一方、協力雇用主数と実雇用主数には大きな開きが見られ、協力雇用主となりながらも実際に刑務所出所者等の雇用に結びついていない事業主が多いこと、協力雇用主の約5割が建設業を占めるなど業種の偏りが生じていることが、今後の課題である(特3-3-2参照)。

【当事者の声】~協力雇用主の下で働いて~ 男性・サービス業((有)野口石油)

1 協力雇用主の下で働くことになったきっかけを教えてください。

 仕事のことを担当保護観察官に相談し、私がこれまで10年間経験した自動車関係の仕事に就きたいと希望すると、犯罪をした人の事情を承知した上で進んで受け入れてくれるガソリンスタンドがあると教えてくれました。

2 業務の内容や、やりがいについて教えてください。

 現在、給油・洗車・整備など、ガソリンスタンドで行うあらゆる仕事をしています。また、新入社員や後輩にアドバイスをすることなども任されています。皆で決めた目標が達成できたときにやりがいを感じています。

3 協力雇用主の下で働いて良かったこと、安心したことについて教えてください。

 自分の立場を理解してくれることです。保護観察中は、平日に保護観察所で保護観察官の面接を受けなければなりません。職場に迷惑をかけるのではないかと心配でしたが、会社が仕事の融通を利かせてくれ、安心して保護観察所に行くことができました。

4 働く上で大切にしていること、これからの目標などがあれば、教えてください。

 この会社では、犯罪者という立場を気に掛けず、普通に接してくれる人ばかりです。こうした温かい目で見てくれる人たちを大切にしていきたいです。

 刑務所に入っているときは、投げやりな気持ちになることもありましたが、今、仕事を優先した、犯罪とは縁のない生活を送ることができているので、自分のように人生をあきらめずに更生したいと思っている人にとって、何かの支えになればいいなと思っています。

(4)今後の展望

 当事者の声からも分かるように、刑務所出所者等の個々の事情を理解し、「雇用」という側面から自立を支える協力雇用主は、再犯防止に欠かせない重要な民間協力者であり、政府においては協力雇用主の活動に対する支援を充実させ、実雇用主数の増加に向けた取組を一層進めることが肝要である。

 刑務所出所者等の場合、就労後の職場定着に課題を抱える者が少なくないことから、雇用した協力雇用主に対する継続的な支援として、職場定着に必要な寄り添い型の支援を刑務所出所者等と雇用主の双方に行う更生保護就労支援事業(【施策番号5ウ】参照)の充実を図るほか、適切な職業マッチングを実現するよう、協力雇用主の職種の多様化を進めていくことが必要である。

【再犯防止推進計画等検討会 有識者委員からの講評】

野口義弘委員(有限会社野口石油取締役会長(協力雇用主))

 「再犯防止推進計画」(平成29年12月15日閣議決定)の重点課題において、就労・住居の確保が1番目に掲げられたことからもわかるように、刑務所出所者等の社会復帰には就労が欠かせません。そのため、この5年間で様々な取組が進められ、相応の成果が得られたと思います。

 私自身も協力雇用主として多くの刑務所出所者等を雇用してきましたが、協力雇用主は、刑務所出所者等が再犯・再非行しないように、就労を通じて、本人の人権を尊重して、立ち直りを支援していくことが社会的な使命と考えています。

 【当事者の声】に寄稿した職員を採用した当初は、就労意欲はありましたが、目が鋭く威圧的な雰囲気を感じました。そこで、仕事の技能とともに礼儀作法を丁寧に教え続けたところ、見違えるほど成長し、今では当社にとって欠かせない人材に成長しました。

 今後も、一人でも多くの刑務所出所者等を社会復帰させるため、彼らと向き合いながら、就労を通じて支援していきたいと思います。