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第1節 地方再犯防止推進計画の策定とそれに基づく取組

第1節 地方再犯防止推進計画の策定とそれに基づく取組

 推進法第8条では、都道府県及び市町村において、地方計画を定める努力義務が明記されている。また、国は、再犯防止推進計画(2017年(平成29年)12月15日閣議決定)及び再犯防止推進計画加速化プラン(2019年(令和元年)12月23日犯罪対策閣僚会議決定)において、具体的施策として、地方計画の策定等のために、必要な支援を実施することとしている。

 地方計画の策定は、地方公共団体にとって、「安全・安心な地域づくりを進めていく」という姿勢をその地域内外に対して明示できるほか、各地域の実情も踏まえつつ、就労、住居、保健医療、福祉等複数の行政領域にまたがる施策を有機的に関連付け、再犯防止の取組を総合的に進めていくことが可能となるなど、多くの意義がある。

 そのため、国は、これまでも地方計画の策定等の促進(【施策番号108】参照)のための取組として、市町村再犯防止等推進会議や都道府県再犯防止等推進会議の開催(【施策番号110】参照)、再犯防止施策等に関する情報の共有といった取組を進めるとともに、「地方再犯防止推進計画策定の手引き」(【施策番号108】参照)を全地方公共団体に送付し、地方計画の策定のために必要な情報を提供してきた。

 これらの取組等により、地方公共団体において、地域の課題に応じた地方計画の策定に向けた動きが活発となり、2020年(令和2年)4月1日現在で69の地方公共団体が地方計画を策定し(【指標番号17】参照)、その他の地方公共団体においても、策定に向けた具体的な検討が進められている。また、地方計画が策定された地方公共団体においては、その計画を踏まえた様々な取組が着実に進められているところである。

 本節では、地方計画を策定した地方公共団体のうち、鳥取県、福岡県、石川県小松市を取り上げ、計画策定に至るまでの経緯、計画の主な内容、計画に基づく取組の現状や成果などについて紹介することで、地方公共団体における地方計画策定の意義等について改めて確認したい。

鳥取県における再犯防止施策

 鳥取県では、かねてより罪を犯した者が孤立することなく、地域社会で支援を受けながら、再び社会を構成する一員として暮らしていく、ソーシャルインクルージョンの考え方に基づく地域づくりの重要性を感じていました。

 このような中、2016年(平成28年)12月に再犯の防止等の推進に関する法律が施行されたことを受け、全国に先駆けて計画策定の検討を始め、2018年(平成30年)4月1日に、①国・民間団体等との連携強化、②就労・住宅の確保、③保健医療・福祉サービスの利用促進、④非行防止と学校等と連携した修学支援、⑤民間協力者の活動促進等を重点課題とする「鳥取県再犯防止推進計画」を策定しました。

 また、同年6月には、刑事司法手続において高齢者や障がい者の状況把握と支援体制が不十分といった課題に対応するため、法務省の地域再犯防止推進モデル事業を活用して「鳥取県社会生活自立支援センター」(以下「センター」という。)を設置しました。

 センターでは、起訴猶予者、執行猶予者、罰金・科料を受けた者等で福祉的な支援が必要な者を対象に、福祉・住居・生活困窮等の相談や関係機関へのつなぎ支援を行っており、依頼元の弁護士、検察庁等から、これまでに76件の相談を受け、現在45件の支援を行っています(2020年(令和2年)3月末現在)。

 また、従来より「鳥取県地域生活定着支援センター」において、刑務所を出所する高齢者、障がい者のうち福祉的な支援が必要な者への支援を行っていましたが、センターを設置したことで、起訴段階から刑務所出所まで、罪を犯した者への切れ目ない支援を行うことが可能となりました。

 実際のセンターの活動の中で、5年間ホームレスをしていた方が万引きで逮捕されたことをきっかけにセンターが支援に入り、療育手帳の取得、生活保護の受給、住居確保、就労継続支援事業所への通所等を調整したことにより、支援開始当初は孤立状態であった方が、多くの支援者に囲まれ、本人から悩み事等を周囲の支援者に相談できるようになったこともありました。

 きっかけは逮捕かもしれませんが、本人のSOSに気付くことができたこと、支援があれば孤立することなく安定した生活につながったことなど、鳥取県が目指すソーシャルインクルージョンの考え方に基づく支援を行うことができた事例となりました。

 鳥取県では、引き続き、関係機関と連携し、罪を犯した者が社会で孤立することなく、誰もが安心して暮らせる地域づくりを目指して取組を推進していきます。

鳥取県社会生活自立支援センターでの取組の様子【提供:鳥取県】

福岡県における地方再犯防止推進計画の具体化に向けた取組

 福岡県では、2019年(平成31年)3月、「犯罪や非行をした人が、社会において孤立することなく、再び社会を構成する一員となることを支援することにより、再犯を防止し、円滑に社会復帰できるようにするとともに、誰もが安全で安心して暮らせる社会の実現」を基本理念として、「福岡県再犯防止推進計画」を策定しました。

 この計画を具体化するための取組として、2019年度(令和元年度)から法務省の地域再犯防止推進モデル事業を受託し、起訴猶予、執行猶予といった形で刑事司法手続を終えて地域に戻ってきた人で生活環境が不安定な人を「生きづらさを抱えた地域の住民」として捉え、「切れ目のない、息の長い支援」に取り組む、いわゆる「入口支援」の仕組みづくりに取り組んでいます。

 入口支援を必要とする人の中には、家族をまるごと支援しなければ生活環境が整わないというケースが多く見られます。このようなケースにおいては、早い段階から福祉の支援につなぎ、安定した生活環境を整備することが重要です。

 国における福祉の分野では、既存の制度の枠組みでは支援が行き届かない人に対するアウトリーチの支援や、多機関の連携による包括的支援体制の構築等を推進する「地域共生社会」の実現に向けた取組が進められています。福岡県においても、市町村の体制構築を促進するため、国のモデル事業の活用に向けた助言や研修会の開催等の支援を行っていますが、改めてその重要性を実感しています。

 また、市町村における「地方再犯防止推進計画」の策定を進めるため、2020年(令和2年)2月、「福岡県再犯防止推進市町村連絡会議」を開催(例年開催している「市町村地域福祉計画に係る研修会」と同時開催)し、市町村の再犯防止施策担当職員や地域福祉計画担当職員、市町村社会福祉協議会職員計116人の方に御参加いただきました。会議の中で、法務省から「地方再犯防止推進計画」策定の意義について説明があり、福岡県からは「地域共生社会」実現に向けた取組は再犯防止推進施策の推進につながること等について説明しました。

 さらに、2020年度からは、福岡矯正管区及び福岡保護観察所と共同で市町村を個別に訪問し、「地方再犯防止推進計画」策定に向けた意見交換を行っています。市町村においては、担当部局が未定である、域内の社会資源が十分でないなどの課題を抱えていることから、解決に向けた助言を行うとともに、相談窓口の職員に更生支援に取り組む団体や機関を地域の社会資源として認識してもらうよう周知を図っています。

 今後も、福岡矯正管区及び福岡保護観察所と連携し、市町村の実情に応じた支援に取り組んでまいります。

福岡県再犯防止推進市町村連絡会議の様子【提供:福岡県】

「小松市「リ・スタート」計画」(再犯防止推進計画)の策定について

 小松市は、2019年(令和元年)7月に地方再犯防止推進計画である「小松市「リ・スタート」計画」を策定しました。

 2016年(平成28年)12月に再犯の防止等の推進に関する法律が施行され、地方再犯防止推進計画の策定が努力義務とされました。小松市では、以前から、“社会を明るくする運動”や保護司会の活動への支援を通じて、再犯防止に関する取組を推進してきましたが、2017年(平成29年)12月に国の再犯防止推進計画が閣議決定されたことを受け、小松市でも、計画策定の準備に入りました。策定に当たり、当初、国から計画のひな型が示されると考えていましたが、2018年(平成30年)3月に法務省が主催で行われた担当者説明会においては、指針やひな型を出す予定はないとの説明があり、市独自に一から策定することとなりました。

 同計画の策定に向けた準備を進める中で、課題として見えてきたのは、小松市では、市内における犯罪や再犯者の状況などの情報を全くつかめていないことでした。そこで、金沢保護観察所に依頼し、まずは管内の犯罪をした者等に関する現状と動向を把握するため、勉強会を開きました。また、「現場を御覧になってはどうか。」との同保護観察所のアドバイスを受け、金沢刑務所、湖南学院(少年院)、金沢少年鑑別所をそれぞれ見学し、現状と課題について意見聴取を行い、さらに、小松警察署や同保護観察所から関係する統計データを収集していきました。情報を整理していく中で分かってきたことは、自治体だけではできることが非常に限られているということでした。

 策定した小松市の計画は非常にシンプルな構成になっており、2014年度(平成26年度)から取り組んできた「やさしいまちづくり」※1をベースに、同計画の目標を、犯罪をした者等が、円滑に社会の一員として復帰し新たな出発(リ・スタート)ができるよう、保護観察所や矯正施設等との連携や民間資源を活用することにより、犯罪が起きにくく、誰もが安心して暮らすことができる「共生社会」を実現することとしています。

 また、犯罪をした者等が円滑に社会の一員として復帰するためには、住まいと仕事の確保が重要であるため、民間の協力が不可欠と考えました。そこで、小松市では、計画策定と同時に、保護観察所や矯正施設等のほか、警察署、保護司会、更生保護女性会、市社会福祉協議会、民間企業、農業団体、宅建協会で組織される「リ・スタート」サポート協議会を立ち上げました。そして、計画では施策の方向性を示すにとどめ、具体的な施策や取組については、同協議会で議論し、肉付けをしていくという方針をとっています。

 今後、行政と行政、行政と民間、民間と民間がそれぞれ知恵を出し合い、地域で支える仕組みづくりについてより一層の検討をしていくこととしています。

「リ・スタート」サポート協議会の様子【提供:石川県小松市】
  1. ※1 小松市「やさしいまちづくり」ウェブサイト
    URL:https://www.city.komatsu.lg.jp/soshiki/hatsuratsukyoudou/yasashiimachidukuri/index.html小松市「やさしいまちづくり」ウェブサイトのqr