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第2節 地域再犯防止推進モデル事業の取組

第2節 地域再犯防止推進モデル事業の取組

 推進法第5条では、国及び地方公共団体は、再犯の防止等に関する施策が円滑に実施されるよう、相互に連携を図らなければならないことが明記されている。これを踏まえ、法務省は、地方公共団体での再犯防止の取組をより効果的に展開していくため、2018年度(平成30年度)からモデル事業【施策番号105】を行っている。

 モデル事業は、①地域の実態調査と支援策(事業計画)の策定、②当該計画に基づくモデル事業の実施及び③モデル事業の効果検証を一連の取組として実施することにより、国と地方公共団体の協働下、それぞれの地域が効果的な再犯防止施策を検討することを目指したものであり、2020年(令和2年)4月の段階で36の地方公共団体が、再犯防止を推進する上で抱える課題と向き合い、国との連携のみならず、地域におけるそれぞれのネットワークを生かした独自の事業を実施している(特集資料参照)。

 具体的な事業内容としては、起訴猶予者や満期釈放者等の刑事司法手続を離れた者等を対象に、就労、住居、保健医療、福祉等の支援が進められており、2019年度(令和元年度)中に実施した中間評価等によっても、国と地方公共団体が連携した取組の好事例が蓄積されつつあることが確認されている。3年目となる2020年度は、モデル事業の最終年度であり、これまでの事業の成果やそれを踏まえた効果検証の取りまとめが進められているところである。

 本節では、同事業を実施している地方公共団体のうち、長崎県、山形県、愛媛県、鹿児島県奄美市において実施されている効果的な再犯防止施策について紹介したい。

長崎県における地域再犯防止推進モデル事業の取組について

 長崎県では、2006年度(平成18年度)から、厚生労働省による採択を受け、厚生労働科学研究「罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究(3か年事業)」として、社会福祉法人南高愛隣会がモデル的に矯正施設と連携し、矯正施設出所前の障害がある受刑者への帰住調整や福祉的手立てなどを行ってきました。現在は、同法人に長崎県地域生活定着支援センターの運営を委託し、司法・福祉・医療等様々な関係機関と連携して福祉的支援を必要とする罪を犯した高齢者・障害者等への支援を積極的に行っています。2018年度(平成30年度)には法務省が実施する地域再犯防止推進モデル事業に応募し、採択を受け、2020年度(令和2年度)までの3か年事業として、①高齢・障害のある犯罪をした者等の再犯防止に関する取組、②薬物依存のある犯罪をした者等の再犯防止に関する取組、③犯罪をした者等の居場所の確保に関する取組を行っています。

 特に、薬物依存に係る再犯防止施策では、保健・医療的な支援を行うため、長崎保護観察所や更生保護施設、長崎ダルクなど多機関との連携強化及び面会による支援を重点的に行いました。具体的には、長崎県長崎こども・女性・障害者支援センター(精神保健福祉センター機能を有する機関)の保健師が長崎県地域生活定着支援センター職員に同行し、薬物使用による再犯で逮捕勾留された対象者と、勾留直後から判決後まで3回にわたり留置場や拘置所などで面会を行いました。対象者は「支援機関の情報をもらうだけではそこに出向く勇気が出てこない。」、「会いに来てくれるのはとても嬉しいし心強い。1人じゃないという気持ちが回復への後押しになる。」と話し、支援に携わる機関の職員が逮捕勾留後の早い段階から面会を行うことで対象者の孤独感を減らし、薬物依存からの回復への動機付けにつながる可能性が認められました。

 長崎県では、2021年(令和3年)3月に「長崎県再犯防止推進計画」を策定し、各関係機関などと連携して包括的な再犯防止推進のためのネットワークの構築を進めることとしています。犯罪をした人などが社会において孤立することなく円滑な社会復帰ができるよう支援し、誰もが安全で安心に暮らせる社会の実現を目指します。

長崎ダルクへの訪問の様子【提供:長崎県】

山形県における満期釈放者等の社会復帰支援

 山形県では、2019年度(令和元年度)地域再犯防止推進モデル事業(以下「モデル事業」という。)に取り組み、この中で、満期釈放者等に対する社会復帰を支援しています。

 具体的には、東北地方の矯正施設の協力を得て、満期釈放となり山形県に帰住する予定の在所者に対して、出所後に求める支援等についてアンケート形式で調査を行うとともに、この調査を基に、矯正施設在所中から面接を行いながら満期釈放者等の個別状況に応じた支援活動を行いました。

 このうち、アンケート調査においては、出所後の生活の中で就労や住居の確保に不安があり、これらの不安に対して、身近で相談できる方を求めていることが改めて確認できたところです。

 また、個別の状況に応じた支援活動においては、福祉的支援が必要な満期釈放者等への支援実績のある山形県地域生活定着支援センターが、住居確保や就労に向けた支援を行いました。住居確保支援においては、住居を賃借する際に求められる身元保証人を見つけられず、そのことがネックとなるケースが多く見られました。また、就労支援では、入所中は就労に対する高い意欲を見せ就職活動を行うものの、出所後になると、就労に対する意欲が下がってしまい、就労支援の継続が難しくなったケースがありました。こうしたことから、対象者の意向やニーズ等を踏まえ、入所中から出所後まで切れ目のない支援が必要であり、特に出所後は、地域の理解を得ることが重要と感じたところです。

 そのため、出所後において、地域での見守りやきめ細やかな相談対応の体制を確保するため、帰住先の市町村において、行政、警察、社会福祉協議会・民生委員などの福祉関係者、ハローワークなどで構成する「再犯防止のための連絡会議」の組織化も始めています。この連絡会議では、満期釈放者等の状況や構成員の支援策等の情報共有を図るとともに、関係者が連携した支援策等を検討し、社会復帰に向けた具体的な支援につなげていくこととしています。連絡会議は、現在5か所で設置しており、今後も順次拡大していきたいと考えています。

 山形県では、2020年度(令和2年度)中に再犯防止推進計画を策定することとしています。策定に当たっては、今回のモデル事業の成果等も踏まえるとともに、再犯防止に関係する国、県、民間団体から意見をいただき、これらの団体等の取組も盛り込んだ計画にしていくこととしています。また、計画策定後は、この計画に基づき、再犯防止の取組を総合的、計画的に進めていきたいと考えています。

再犯防止のための連絡会議の様子【提供:山形県】

再犯防止の推進に向けた愛媛県の取組について

 「再犯の防止等の推進に関する法律」において、地方公共団体にも、地域の状況に応じた施策を策定・実施することが責務とされたことから、愛媛県では、県内の現状や課題、県として実施すべきこと等を把握するため、県内刑事司法関係機関・更生保護関係団体等への聴き取りや施設訪問等を重ねました。そうした中で、再犯防止において重要とされている「居場所と出番」の確保、特に職場定着や地域の支援につなぐ困難性などをお聞きしたことから、2019年度(令和元年度)から2年間の法務省が実施する「地域再犯防止推進モデル事業」(以下「モデル事業」という。)に応募し、採択を受け、出所者、保護観察対象者等の特性に応じた就労の確保と地域定着を図る「息の長い就労支援」の仕組みづくりと、社会復帰支援ネットワークの構築に取り組んでいます。

 モデル事業では、まず、支援対象者及び事業者の意識や実態、ニーズを把握するため、就労に関して、県内の保護観察対象者、協力雇用主及び同雇用主を除く事業者を対象に、そして福祉サービスの提供に関して、福祉事業所を対象に、それぞれアンケート調査を実施しました。

 調査結果を踏まえ、同年10月下旬に開始した就労支援では、就労支援コーディネーターを1名配置し、松山保護観察所等からの連絡を受け、保護観察終了間近な者等を対象に、各々に応じ複数の協力雇用主を巡る職場体験(対象者へ体験奨励金支給)や住居調整など伴走的な支援を行い、就労に5名(初年度実績)が結びついたほか、協力雇用主の実雇用促進を図るための意見交換会等を実施しました。また、県下5か所で「地域別再犯防止推進会議」を開催し、市町や支援関係機関等の再犯防止の理解促進や国機関も含めた顔の見える関係づくりを進めているところです。

 これらモデル事業の取組も反映させながら、2020年(令和2年)2月には、国・市町・民間団体等との連携強化、就労・住居の確保など6つの重点課題に対応する再犯防止関連施策を取りまとめた「愛媛県再犯防止推進計画」を策定したところであり、今後、同計画に基づき、立ち直りに必要な生活環境の整備や支援の継続を図るネットワークの構築、地域の支援者の活動が促進される環境づくりを進めてまいります。

就労支援コーディネーター及び個別面談の様子【提供:愛媛県】

奄美市における少年等に対する学習支援及び就労支援

 奄美市には、離島という限られた条件の中で、1983年(昭和58年)から青少年の健全育成活動を続け、2001年(平成13年)にNPO法人の認証を受けた奄美青少年支援センター「ゆずり葉の郷」があります。

 発足以来これまで、行き場のない子どもへの居場所の提供、生活態度や規範・就労意識の改善、奄美合気拳法による心身の鍛錬など青少年の健全育成に積極的に取り組み、これまで官公庁の受託事業等を活用し、官民一体となった活動に取り組むことで地域からも大きな信頼を得て地域に溶け込んでいます。

 2018年(平成30年)から奄美市では、鹿児島保護観察所奄美駐在官事務所、北大島保護区保護司会の協力を得ながら、「ゆずり葉の郷」の長年の経験と実績を活用し、更に活動内容の充実や関係機関との連携強化を図り、再犯防止施策を一層推進していくために、「青少年を取り巻く幸福度の高い地域づくりのための再犯防止施策」をテーマとして、地域再犯防止推進モデル事業に取り組んでいます。

 事業内容は、非行少年が直面している課題に関するヒアリングを行い、奄美地区障がい者等基幹相談支援センター、奄美警察署等関係機関との連携により、社会へ復帰するための就労支援などを行い、対象者に障がいがある場合は障害者支援施策を活用することで、自立に向けた支援を行っています。

 事業開始当初は対象者の特定が困難でしたが、「ゆずり葉の郷」が以前関わっていた青少年や奄美市で相談を受けた方のうち7名を対象者として、支援を進めています。実際の支援では、就労につながってもすぐ離職するなど、目標である就労・就学数に達することができず難しさもありますが、本事業による民間と行政とが一体となった支援を行うことが、青少年問題解決への取組になると考えています。

 矯正保護の専門家である龍谷大学の浜井浩一教授から「再犯防止あるいは犯罪者の更生において、対象者は施設の中で更生するわけでなく、施設の処遇を受けながら、最終的には、それぞれの地域に戻って普通の市民として生活できるようになることが本当の意味での更生であると思う。そのためには、地域社会が対象者をどう受け止めていくかが、最も重要なこと」と助言をいただいています。

 外界離島という環境の中で、日常生活の中での環境づくり、問題への対応、問題解決後の自立に向けた支援など、犯罪の未然防止から再犯防止までのフォローアップをしっかりと行う体制を構築するために、地域と連携した取組を進めていきたいと考えています。

ゆずり葉の郷の活動の様子【提供:鹿児島県奄美市】
奄美市再犯防止推進会議の様子【提供:鹿児島県奄美市】
特集資料 地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等について
特集資料 地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等について-1
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