
第3節 犯罪や非行からの離脱の要因
事例1では、「他人はできても、自分には無理だろう。」と諦めてしまう癖があったものの、定時制高校において手厚い指導を受けて進級したことや、資格試験に最後まで向き合ったことで、小さな成功体験を積み重ね、「やればできる。」という考え方を持つようになっている。事例2では、自分が社会に通用するのか確かめたいと考えたことなどをきっかけに勉強を始め、少年院在院中に高等学校卒業程度認定試験に合格し、出院後にも勉強を続けて大学に進学するなど成功体験を重ね、自己有用感の向上につながっている。事例3では、審判で関わった家庭裁判所の裁判官や調査官が更生の可能性を信じてくれたことで、「自分を信じてくれる人を裏切ることはもうしたくない。」と考えるようになっており、その経験を立ち直りの過程におけるポイントとして挙げている。事例4では、社会で待ってくれている人がいること、刑務作業に真面目に取り組み信頼を得て、重要な立場を任されるようになったことが立ち直りを支える要因となったことが語られている。
各事例から、良好な人間関係を基盤とした成功体験の積み重ねや他者に肯定的に評価され、受け入れられているという実感は、立ち直りに向けた過程に数多く存在するであろう困難を乗り越えるための原動力となっていることが共通して見いだせる。以上から、自己有用感や自己肯定感が犯罪や非行から離脱することができた要因の1つであると考えられる。
なお、「青少年の立ち直り(デシスタンス)に関する研究」(法務総合研究所、2018)は、少年院出院者を対象として実施した調査の結果を基に、少年院出院後に立ち直った者(以下「デシスタンス群」という。)の特徴を、少年院に再入院した者及び一般青少年との比較から考察しており、「デシスタンス群は、再入院群と比べて、自己肯定感が強く、自己の行動によって物事の結果を変えることができると信じており、自分の行動を制御する力が高い」ことを明らかにしている※5。
- ※5 法務省法務総合研究所(2018)。研究部報告58 青少年の立ち直り(デシスタンス)に関する研究、80-81。
https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00096.html