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第2節 新たなステークホルダーの取組

第2節 新たなステークホルダーの取組
事例1 丸善雄松堂株式会社

 丸善雄松堂株式会社は、出版業のほか、学校教育事業に関する経営コンサルティング業務、図書館業務の請負等の多岐にわたる事業を展開している。同社は、法務省が主唱する“社会を明るくする運動”(【施策番号95】参照)の趣旨に共鳴し、同運動の強調月間である7月に、同社が指定管理者として運営する全国の図書館や、グループ企業である株式会社丸善ジュンク堂書店の店舗において同運動のポスターを掲示するなどの協力をしていただいていることに加え、再犯防止に関するシンポジウムを法務省と共催で開催するなどしていただいている。

語り:丸善雄松堂株式会社地域共育事業本部 後藤 英紀さん

石川 章子さん

1.再犯防止分野への参画のきっかけについて教えてください。

 (後藤さん)

 最初は、令和4年12月に、PFI※1の刑務所(【施策番号60】参照)である美祢社会復帰促進センターにサウンディング調査※2に来ないかと他社に誘われたことがきっかけです。刑務所のことは全く知らなかったのですが、心惹かれるものがありました。同センターを見学し、ワークショップに参加して、ニュースの世界では知っていると思っていたことを初めて目の当たりにしたことで、自分にとってはショックというか、とても良い気付きをいただいたという実感がありました。また、その際に、初めて、立ち直りを支援している刑務官の方や、協力雇用主、更生保護に携わる方々の存在を知りました。

 当社の理念として、学びの力で世の中を良くしていくということを掲げていることもあり、会社に戻ってから、罪を犯した人たちの立ち直りに何か貢献できることはないかと考え、役員に相談しましたが、「気持ちはわかるけれど、どうすればいいか分からないね」と指摘を受けました。その段階では確かにそのとおりで、当時は“社会を明るくする運動”という言葉すら知らず、具体的に自分たちに何ができるのか全く分からない状態だったのです。

 それから1年くらい経過した後、今度は、同じくPFIの刑務所である島根あさひ社会復帰促進センターを見学する機会がありました。そのときは、キャリア採用で入社してきた石川さんに行ってもらったのですが、石川さんも、私と同様に大きな感銘を受けたようでした。私自分一人では悶々としたままだったかもしれませんが、自分と同じ思いを持つに至った人が出現したことで、改めて、再犯防止のために何か自分たちにできることはないかと考えるようになりました。

 ある日、石川さんが更生保護に関する記事を見つけ、私に見せてくれました。やや古い記事でしたが、法務省保護局の問合せ先が書いてあったため、電話してみることにしました。 電話する前は、法務省は役所の中でもとても固いというか、怖いというようなイメージがありました。しかし、実際に電話してみると、とても真摯に我々の話を聞いてくれました。その後、保護局の幹部の方とお会いしてみて、我々に何ができるか尋ねてみたところ、まずは、“社会を明るくする運動”の広報で協力してもらえないかという依頼を受けたので、7月の“社会を明るくする運動”の強化月間に、当社の関連書店や、運営管理を受託している公共施設等のスタッフに、“社会を明るくする運動”のシンボルマークである黄色い羽根を着用してもらったり、関連書店等でポスターを掲示したりしました。また、保護局からは、もう一つの取組として、再犯防止に関するシンポジウムを一緒に開催できないかとお声掛けいただき、これまで、全国各地でシンポジウムを開催してきました(【コラム9】参照)。

 具体的な取組がイメージできるようになり、役員にも説明しやすくなったことに加え、私だけでなく、石川さんもこの分野に大きな関心を持ってくれ、社内の理解者が増えたことも大きな後押しになりました。

2.再犯防止分野に携わることになった際の社内の反応について教えてください。

 (後藤さん)

 最初に再犯防止分野に関与すると決めた際、社内から「ほかのCSR(企業の社会的責任)の活動と何が違うのか(新たに取り組む必要があるのか。)。」といった声が上がることもあり、社内で広く理解を得ることが最初のハードルでした。そのような中で、最初に理解を示してくれたのが、株式会社丸善ジュンク堂書店の社長でした。理解を示してくれた背景には、書店業界にまつわる「万引き」の問題がありました。書店の中には、万引きが原因で潰れてしまうお店もあり、万引きは書店業界にとって決して看過できない問題です。しかし、高校生くらいの若者の場合、自身の行動が書店に与える影響を考えることなく、軽い気持ちで万引きに及んでしまうこともあるのではないかと考え、彼らにはしっかりと反省し、更生してもらいたいという思いがもともと社長の中にあったそうです。そこで、関連書店での協力活動が始まることになりました。

 (石川さん)

 営業に行ってプレゼンをした際、我々の取組の一つとして、“社会を明るくする運動”に貢献していることを話したところ、大きな拍手をいただいたということがありました。また、新入社員向けに研修を行った際、半分眠たそうにしていた新入社員が“社会を明るくする運動”に関する話の最中は背筋を伸ばして聞いてくれ、「この会社に入ってよかった」という感想を書いてくれた人もいました。少しずつではありますが、理解を示してくれる人が増えてきているという実感があります。

3.取組を行う上で、課題と感じている点について教えてください。

 (後藤さん)

 更生保護についての知名度が低いと感じています。私を含め、社内においても更生保護を知らない人もいますが、県庁や市役所等の行政の方ですら黄色い羽根を知らないという人もいます。取組を進めていく上で課題なのは、やはり知名度の低さだと思います。

4.今後の展望について教えてください。

 (石川さん)

 非行少年や、不登校の青少年等、複雑な家庭環境の中で、学びたくても学ぶ機会に巡り合えない方々が多くいます。当社は、全国の図書館等の公共施設の指定管理者として、様々な施設の運営管理を請け負っていますので、例えば、地元の保護司会と連携するなどして、非行に限らず、孤独・孤立等の様々な問題の解消に貢献できるようにしていきたいという思いがあります。若者からお年寄りまで、地域の方々と共に育て、共に育ちながら、ただの公共施設ではなく、様々な課題を抱えた人たちの居場所になるような施設にしていけたらと思っています。

5.再犯防止分野への参画を考えている企業・団体へメッセージをお願いします。

 (石川さん)

 再犯防止は、「社会全体で取り組むべき課題」です。企業は再犯防止や更生保護の専門的な部分を担うわけではありませんが、広報、教育、イベント等において、自らが持つ強みを生かして関与することができます。再犯防止や更生保護の分野は、CSRの一つとしても、企業が取り得る選択肢になると考えています。他の企業や団体が、再犯防止分野に参画をするためには、まずこの分野について知ってもらうことが大切だと思います。当社としては、今後も、我々の強みである「学びの力」を通じて再犯防止や更生保護に協力していきたいと考えています。

「国際更生保護ボランティアの日」(【施策番号68】参照)の広報
  1. ※1 PFI(Private-Finance-Initiative)
    民間の資金と経営能力・技術力(ノウハウ)を活用し、公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理・運営を行う公共事業の手法。
  2. ※2 サウンディング調査 
    国や地方公共団体が所有する土地や施設の活用方法について、民間事業者との意見交換等を通じ、事業に対して様々なアイデアや意見を把握する調査。マーケットサウンディングともいう。