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第2節 京都コングレスにおける再犯防止

2 サイドイベント「世界保護司会議(World Congress for Community Volunteers Supporting Offender Reintegration)」
特2-8 世界保護司会議(パネルディスカッション)
特2-8 世界保護司会議(パネルディスカッション)

(1)世界保護司会議の開催意義及び内容

 2021年(令和3年)3月7日、京都コングレスのサイドイベントとして、保護司を始めとする地域ボランティアが再犯防止の取組に参画することの有用性や、これらの制度を世界に広めていくための方策等について議論することを目的に、世界保護司会議が開催されました。

 会議の冒頭、上川陽子法務大臣(当時)から、保護司を始めとする地域ボランティアの活動は、SDGsに掲げられたマルチステークホルダー・パートナーシップを体現するものであり、世界保護司会議の成果が地域ボランティアの輪を世界に広げていくための礎となることを期待しているとの挨拶がありました。続いて、UNODCのガーダ・ワーリー事務局長は、本会議が犯罪者の社会への再統合における地域ボランティアの国際ネットワークの構築につながることへの期待を述べました。さらに、谷垣禎一全国保護司連盟理事長は、誰もが再チャレンジできる社会を築くために地道な活動を続ける保護司の方々は、社会にとって「エッセンシャル」な存在であると述べました。

 続いて、タイ法務研究所(TIJ)のナティー・チッサワン次長は、スピーチの中で、日本の保護司制度が再犯防止に効果があると評価するとともに、これを支えるインフラ整備の必要性を指摘しました。また、国際矯正司法心理学協会前会長フランク・ポポリーノ博士から、犯罪者処遇においては信頼関係を構築し、それにより相手の変化に影響を及ぼすことが重要であり、これを実践する日本の保護司制度は革新的であり、維持されるべきであるという基調講演がありました。

 会議後半のパネルディスカッションでは、「罪を犯した人の立ち直りを支える地域ボランティアの有用性」をテーマに各国のパネリストが発表と意見交換を行いました。日本からのパネリストとして登壇した栃木県保護司会連合会会長の安藤良子保護司からは、保護司活動の基礎となる地域の理解・協力の重要性などについて発表がありました。また、日本の保護司制度を基に制度を発展させてきたフィリピンやタイ、ケニアからは、地域で犯罪者の立ち直りを支えることを基本としつつも、修復的司法の支援業務(フィリピン)や電子監視機器を装着した仮釈放者等の監視業務の補助(タイ)、保護観察官がいない地域での代理業務(ケニア)を保護司が行うなど、独自に発展してきたとの発表がありました。そして、欧米からは、性犯罪者の地域社会への復帰を促進するための「支援と責任の輪」(Circles of Support and Accountability、CoSA※9)や、犯罪者の家族や女性など特定のグループを対象とした地域ボランティア制度の紹介がありました。

 続いて行われたディスカッションでは、これらの地域ボランティアの活動について、地域の理解を得ることが重要であり、地域の理解の基となる住民からの信頼なくして活動は成り立たないという点で、各パネリストの意見の一致が見られたほか、制度を更に発展させていくためには、活動環境を整備することや処遇効果に対する一般市民の信頼を確立するためのオープンで透明性のある仕組みを構築することなどが必要であると指摘されました。

(2)世界保護司会議の成果及び今後の展望

 世界保護司会議では、上記の発表や議論などを踏まえ、「京都保護司宣言」※10が採択されました。同宣言には、保護司などの地域ボランティアの国際的認知度を向上することや、保護司制度を世界各国へ普及させること、そして国連の国際デーとしての「世界保護司デー」の創設に取り組むこと等が盛り込まれています。

 罪を犯した人を隣人として受け入れ、同じ目線に立って親身に接することで、その立ち直りを支える保護司のアプローチは、SDGsの理念に通じるものであり、新たな被害者を生まない、安全・安心な社会を作るために重要なものとして、世界に広げていくのにふさわしいものです。

 今後、法務省は、世界保護司会議の成果を京都コングレス後の再犯防止に関する国連準則の策定にいかしていくとともに、日本の保護司を世界共通語の「HOGOSHI」として積極的に発信し、「HOGOSHI」の輪を世界に広げていくこととしています。

VOICE 保護司の立場から見た世界保護司会議について(栃木県保護司会連合会会長 安藤良子氏)

特2-9 安藤良子氏
特2-9 安藤良子氏

 会議当日、京都市営地下鉄烏山線・国際会館駅で下車し会場に向かいました。会場である国立京都国際会館に向かう通路の両側には桜色鮮やかな京都コングレスのポスターが、床面には直径3mはある円形デザインのフロアサインが貼られており、その先の会場入口まで数十本を超える桜が満開で出迎えてくれました。

 パネルディスカッションで私が行ったスピーチの概要は以下のとおりです。

 1994年(平成6年)、地元の保護司会長さんから「地域にもっと役に立つ保護司というボランティアがあるよ。」と声が掛かりました。それまでの私は、海外で出産、育児をしながら、南アフリカ共和国に1年間の留学、更に政府開発援助(ODA)としてアルゼンチン共和国で約3年間獣医師の仕事を続けた後、4人の子供を連れて帰国し、地域との絆を求めていました。「私でも役に立てるなら。」と、保護司会長さんからのお誘いを受けました。

 保護司の処遇活動における基本は保護観察対象者との面接です。彼らはそれぞれ成育歴や犯罪に至った背景が異なるので、こちらの発した言葉がどのように伝わるのか、保護司になったばかりの時はとても不安でした。最初、言葉は少なくても、彼らの小さなしぐさを観察することから始めました。どんな思いなのか、どんな言葉を待っているのか、伝わってくるのです。本人自身のこととして考えていけるよう工夫しながら話していくと、話題が少しずつ広がっていきました。

 保護観察対象者には「困ったとき、悲しいとき、嬉しいとき、どんなことでも話を聞くね。」と伝え、安心して何を話してもいい空間を作るよう心掛けています。面接を続けていくうちに、自分の靴をそろえたり、きちんと挨拶ができるようになったり、彼らが育っていく姿を見ることは、保護司でないと味わえない魅力、醍醐味なのです。

 時として、「なぜ保護司が必要なの?」「なぜ貴重な税金を加害者のために使うの?」という声を耳にします。犯罪や非行をした人もいずれ地域に戻ってきますが、困っても相談できる人がおらず孤立や孤独を抱えていることが犯罪や非行の背景になっていることも多いため、地域で彼らを排除すると更に問題が深刻になります。保護司は、同じ地域に住む保護観察対象者の立ち直りを身近で支援し、地域と彼らを結び付ける存在でもあります。

 私が保護司になったばかりの頃は、裏方としてひっそりと活動をすることが大切と教えられました。しかし、地域において保護司の存在や保護司のなり手が不足していることを知ってもらう機会等を通じて、徐々に保護司の存在がオープンになっていきました。

 このような国際的会議の場で、保護司をメインテーマとして取り上げていただき、とても有り難く、ワクワクしています。「HOGOSHI」が世界的な言葉となり、その価値が高まるのは私たち保護司にとって励みとなり、より一層良い活動を続けていく力になると思います。

 この度、世界保護司会議で私がスピーチできたのは、先輩諸氏始め関係各位の皆様と共に保護司として歩んでこられた証であり、感謝の気持ちで一杯です。

  1. ※9 CoSA
    性犯罪者がよりよい生活を送るための機会を提供し、社会的孤立や精神的孤独感などの再犯リスクを減らす仕組み。3人から5人のボランティアが協働して1人の対象者を担当し、対象者が日常で抱える様々な問題について支援や助言を行ったり、社会活動に一緒に参加したりする「内側の輪」と、医療や福祉の専門家が助言や指導を行う「外側の輪」から成る。カナダ、英国、オランダで導入されている。
  2. ※10 京都保護司宣言(英文・和文)のリンクを掲載したウェブサイトURL
    https://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo04_00003.html