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第1節 高齢者又は障害のある者等への支援等

3 高齢者又は障害のある者等への効果的な入口支援の実施

(1)刑事司法関係機関の体制整備【施策番号42】

 法務省は、保護観察所において、起訴猶予等となった高齢者又は障害のある者等の福祉的支援が必要な者に対して専門的な支援を集中して行うことを目的として、2018年度(平成30年度)から、入口支援(【施策番号34】参照)に適切に取り組むための特別支援ユニットを設置し、更生緊急保護対象者に継続的な生活指導や助言を行っていた。2021年度(令和3年度)からは、特別支援ユニットを発展させ、社会復帰対策班を設置し、入口支援にとどまらず、更生緊急保護の対象者に継続的に関与し、その特性に応じた支援が受けられるよう関係機関等と調整を行うなどの社会復帰支援の充実を図っている。

 また、検察庁は、社会復帰支援を担当する検察事務官の配置や社会福祉士から助言を得られる体制の整備などにより、社会復帰支援の実施体制の充実を図っている。

(2)刑事司法関係機関と保健医療・福祉関係機関等との連携の在り方の検討【施策番号43】

 法務省及び厚生労働省は、2021年度(令和3年度)から、刑事司法手続の入口段階にある被疑者・被告人等で、高齢又は障害により自立した生活を営むことが困難な者に対する支援に関する取組を開始した(資3-43-1参照)。具体的には、地域生活定着支援センターが実施している地域生活定着促進事業の業務として、新たに被疑者等支援業務を加え、刑事司法手続の入口段階にある被疑者・被告人等で高齢又は障害により自立した生活を営むことが困難な者に対して、地域生活定着支援センターと検察庁、弁護士会、保護観察所等が連携し、釈放後直ちに福祉サービス等を利用できるように支援を行うとともに、釈放後も地域生活への定着等のために支援等を行う取組を実施している。

 保護観察所においては、高齢又は障害により自立した生活を営むことが困難な者に対する上記の取組を含め、検察庁等と連携した起訴猶予者等に対する更生緊急保護の措置として、一定の期間重点的な生活指導等を行うとともに、福祉サービス等に係る調整のほか、就労支援等の社会復帰支援を行う「更生緊急保護の重点実施等」を行っており、2021年度(令和3年度)において、検察庁から事前協議を受け、更生緊急保護の重点実施等を行った対象者は、340人であった。

 さらに、2022年度(令和4年度)からは、被疑者等支援業務において、被疑者・被告人等で、高齢又は障害により自立した生活を営むことが困難な者について、同業務による支援に更につなげられるようにするため、弁護士との連携強化を促進することとしている。

資3-43-1 被疑者等支援業務の概要
資3-43-1 被疑者等支援業務の概要

Column04 検察庁等と協働した社会的に孤立した地域住民への支援

特定非営利活動法人くらし応援ネットワーク

 特定非営利活動法人くらし応援ネットワーク(以下「当法人」という。)は、愛知県名古屋市にある障害福祉団体です。開設当初から県地域生活定着支援センターの事業を受託し、検察庁・弁護士会・矯正施設・保護観察所等と協力しながら、福祉の支援が必要な被疑者や被告人、矯正施設退所者等に広域での支援(多機関協働による全国調整等)を実施してきました。本コラムでは、名古屋市から地域再犯防止推進モデル事業の再委託を受けて実施した「伴走型入口支援事業」の実際を紹介します。

 同事業は、刑事司法の側から見れば「福祉の支援が必要な者」を対象としていましたが、福祉の側から見れば「社会的に孤立した地域住民」であり、まさに基礎自治体(市町村)を土台として、事件をきっかけに発見された社会的に孤立していた地域住民に対して、刑事司法と連携して何ができるかを試行する事業に他なりませんでした。同事業では、当法人が市の「コーディネーター」となり、地域の側の立場から福祉の支援が必要な者(社会的に孤立した地域住民)に寄り添い、地域の支え合いや福祉サービスにつなぐ支援を実施しました。同事業がスタートすると、月5~6件のペースで検察官からコーディネーターに相談が入りました。「酒に酔って住居侵入を繰り返している事案」では、釈放された30代男性に警察署面談室で話を聞き支援プランを作成するうち、本人は過酷な環境で育ち、うつ状態になりながら生活保護を受給して単身生活を送っていましたが、ケアする人がおらず自棄になって飲酒をしていたとわかりました。週1回程度の訪問を重ね、買物や通院の同行、精神保健福祉手帳の取得、障害年金の申請等、本人につながり続ける支援を行いました。途中、再犯もありましたが、最後の再逮捕から現在まで1年以上再犯はありません。その理由は「今のこの貴重な時間を無駄にしたくないから」と本人は語っています。また、「空腹のため神社でさい銭泥棒をした事案」の30代女性宅を訪問すると、母親は本人を威圧し、小遣いも渡さず台所で生活させていました。家族ごと地域から孤立していたため、コーディネーターは法務少年支援センターの「地域援助」(【施策番号100】参照)を活用しつつ、障害福祉サービスを活用して本人の生活基盤を整え直しました。

 上記のような事案に多数取り組む過程で、関係機関と協力し、連携に改良を加えていきました。例えば身柄事件では、依頼から釈放まで切迫しており、釈放時の出迎えは警察との連携も必要だったため、検察と警察が連携し、①釈放時間は柔軟に設定する、②釈放時はコーディネーターが出迎える旨を検察官から警察に伝える、③出迎え時にコーディネーターが警察署面談室で本人と面談できるようにするなどの工夫をしました。これにより、検察官からコーディネーターへの円滑なつなぎが可能となりました。他方、在宅事件では、コーディネーターが訪問しても支援に同意したことを本人が覚えていないことがあったため、必要に応じて、検察庁の事務担当者を介して、支援に関する「お知らせ」を本人に配付してもらう運用を開始しました。

 以上のように、刑事司法と福祉の連携は地域住民に対する支援として、基礎自治体(市町村)を巻き込む形でも展開できました。名古屋市は地域再犯防止推進モデル事業の経験を踏まえ、名古屋市再犯防止推進計画を策定しました。県内の他の市町村でも重層的支援体制整備事業等を土台として、地域の特色を活かして本格的な計画の策定に乗り出そうとしています。当法人も現場の福祉団体として、引き続き地域共生社会の実現に向けてまい進する所存です。本コラムが刑事司法と福祉の連携に関して、国・都道府県・市町村・民間団体の協働の一つの参考例ともなれば幸いです。

自ら一歩を踏み出した若者
気にかけてくれる人と出会えた喜び