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第2節 薬物依存を有する者への支援等

第2節 薬物依存を有する者への支援等
1 刑事司法関係機関等における効果的な指導の実施等

(1)再犯リスクを踏まえた効果的な指導の実施【施策番号44】

ア 矯正施設内における指導等について

(ア)刑事施設

 法務省は、刑事施設において、改善指導(【施策番号83】参照)のうち、特別改善指導の一類型として、薬物依存離脱指導の標準プログラム(指導の標準的な実施時間数や指導担当者、カリキュラムの概要等を定めたもの。)を定め、同指導を実施している(資3-44-1参照)。

 同指導は、認知行動療法※6に基づいて、必修プログラム(麻薬、覚醒剤その他の薬物に依存があると認められる者全員に対して実施するもの)、専門プログラム(より専門的・体系的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの)、選択プログラム(必修プログラム又は専門プログラムに加えて補完的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの)の三種類を整備し、対象者の再犯リスク、すなわち、犯罪をした者が再び犯罪を行う危険性や危険因子等に応じて、各種プログラムを柔軟に組み合わせて実施している。2021年度(令和3年度)の受講開始人員(三種類のプログラムの総数)は7,493人(前年:7,707人)であった。

資3-44-1 薬物依存離脱指導の概要(1)
資3-44-1 薬物依存離脱指導の概要(1)
資3-44-1 薬物依存離脱指導の概要(2)
資3-44-1 薬物依存離脱指導の概要(2)

(イ)少年院

 少年院において、麻薬、覚醒剤その他の薬物に対する依存等がある在院者に対して、特定生活指導として薬物非行防止指導を実施し、2021年(令和3年)は303人(前年:293人)が修了している。また、男子少年院2庁(水府学院及び四国少年院)及び全女子少年院9庁では、薬物依存からの回復をサポートする民間の自助グループ、医療関係者、薬物問題に関する専門家等を指導者として招へいし、グループワークを中心とした指導を実施しているほか、保護者向けプログラムを実施しているなど、特に重点的かつ集中的な指導を実施しており、2021年度(令和3年度)は、75人(前年:53人)が修了している。なお、男子少年院2庁においては、この指導を、他の少年院から在院者を一定期間受け入れて実施している。

イ 社会内における指導等について

 保護観察所において、依存性薬物(規制薬物等、指定薬物及び危険ドラッグ)の使用を反復する傾向を有する保護観察対象者に対し、薬物再乱用防止プログラム(資3-44-2参照)を実施している。同プログラムは、ワークブックを用いるなどして依存性薬物の悪影響を認識させ、コアプログラム(薬物再乱用防止のための具体的方法を習得させる)及びステップアッププログラム(コアプログラムの内容を定着・応用・実践させる)からなる教育課程と簡易薬物検出検査を併せて行うものとなっている。

 また、医療機関やダルク(【施策番号85】参照)等と連携し、薬物再乱用防止プログラムを実施する際の実施補助者として保護観察対象者への助言等の協力を得ているほか、保護観察終了後を見据え、それらの機関や団体等が実施するプログラムやグループミーティングに保護観察対象者がつながっていけるよう取り組むなどしている。なお、2021年度(令和3年度)は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、実施補助者として関係機関からの協力を得ることが難しくなるなど、関係機関との連携に支障が生じた一方、保護観察対象者との個別面接時に、関係機関に同席してもらうなど代替措置を講じ、関係機関との連携を図った。

資3-44-2 薬物再乱用防止プログラムの概要
資3-44-2 薬物再乱用防止プログラムの概要

ウ 処遇情報の共有について

 刑事施設及び保護観察所は、施設内処遇と社会内処遇の一貫性を保つため、刑事施設における薬物依存離脱指導の受講の有無のほか、指導結果や理解度、グループ処遇への適応状況、出所後の医療機関や自助グループを含めた民間団体への通所意欲、心身の状況や服薬状況等、より多くの情報を引き継いでいる。また、少年院においても、継続的な指導の実施に向け、薬物非行防止指導の実施状況を保護観察所に引き継いでいる。さらに、保護観察所においては、保護観察対象者が地域における治療・支援につながるよう働き掛けるとともに、保健医療機関、上記民間団体等に対し、保護観察対象者の同意を得た上で、必要に応じて、保護観察対象者の心身の状況等について情報の共有を図っている。

Column05 少年用大麻再乱用防止プログラム

福岡県保健医療介護部薬務課

 近年、若年層を中心として、大麻事犯の検挙者が増加しています(【特集第1節-①-(2)】参照)。若年期の大麻使用は依存症になるリスクを高めるため、再乱用防止の支援が重要ですが、少年の大麻使用者を想定した再乱用防止プログラムがないこと、成人参加者が中心である既存のプログラムに少年が加わることが難しいことが課題となっていました。

 このような状況を踏まえ、福岡県では保健医療介護部薬務課と警察本部生活安全部少年課が連携し、2021年度(令和3年度)から「少年用大麻再乱用防止プログラム」を開始しました。主な取組内容は①少年の大麻使用者を想定したワークブックの作成、②同ワークブックを活用した再乱用防止プログラムの実施です。

 まず、①ワークブックの作成についてです。福岡県では薬物依存関連分野の専門家や関係機関の協力の下、全国初の少年用大麻再乱用防止ワークブック「F―CAN(エフキャン)※7」を作成しました。F―CANは全15セッションで構成されており、大麻を使用していたときの状況等から、大麻がどのような役割を果たしていたのかを探り、その役割を別の行動で代替できるようになることや、大麻使用の引き金を避けたり、再発のサインに気付いて対処したりすることができるようになることを目指しています。

 また、F―CANは少年が取り組みやすいように、イラストを多く取り入れていることが特徴です。少年に大麻を使っていた時の気持ちを尋ねても、言葉で表現することは容易ではありません。そこで、様々な状況の選択肢をイラストで示し、少年が自分に近いものを選んで、それをきっかけに本当の気持ちを語ることができるように工夫しています。

 次に、②F―CANを用いた再乱用防止プログラムの実施についてです。警察本部少年課の少年サポートセンターが実施機関となり、同センターに配属されている少年補導職員が、大麻乱用少年(福岡県内居住の19歳以下の少年)を対象として、プログラムを実施しています。マンツーマンで行うため、少年の個々の特性に応じた丁寧な支援が可能です。

 少年補導職員は、少年相談や非行少年に対する立ち直り支援等を業務とする専門の職員で、中には公認心理師や社会福祉士等の資格を有した者もおり、これまで培った支援のノウハウがプログラムに活かされています。少年が、「なんとなく」、「興味本位で」という理由だけで大麻を使ってしまうことなく、自分自身ときちんと向き合えるよう、少年が抱える様々な問題を一緒に見つめ、薬物に頼らない生活を送ることができるように、寄り添った支援をしています。

 本プログラムは、検挙補導された少年の場合、警察署からの紹介や、その者が保護観察中であれば保護観察所からの協力依頼等により受講することができます。また、大麻をやめたいと希望する少年については、本人や家族等からの相談によりプログラムを受講することも可能で、薬務課が電話や専用サイトの相談フォームで受講の相談を受け付けています。

 今後とも関係機関と連携、協力しながら、少年の大麻再乱用防止を推進してまいります。

「F―CAN」表紙
「F―CAN」 内容の一部

(2)矯正施設・保護観察所における薬物指導等体制の整備【施策番号45】

 法務省は、刑事施設の教育担当職員に対し、薬物依存に関する最新の知見を付与するとともに、認知行動療法等の各種処遇技法を習得させることを目的とした研修を実施している。少年院の職員に対しては、医療関係者等の協力を得て、薬物依存のある少年への効果的な指導方法等についての研修を実施している。2017年度(平成29年度)からは、薬物使用経験のある女子在院者については、低年齢からの長期間にわたる薬物使用や女子特有の様々な課題を抱えていることが多く、それらの課題に適切に対応し得る専門的な指導能力が求められることから、専門的知識及び指導技術の一層の向上を図るため、女子少年を収容する施設間において、職員を相互に派遣して行う研修を実施している。

 また、施設内処遇と社会内処遇との連携強化のため、2017年(平成29年)から、矯正施設職員及び保護観察官を対象とした薬物依存対策研修を実施している。同研修においては、SMARPP※8の開発者及び実務者のほか、精神保健福祉センター※9、病院及び自助グループにおいて薬物依存症者に対する指導及び支援を行っている実務家を講師として招き、薬物処遇の専門性を有する職員の育成を行っている。

 さらに、保護観察所において、2017年(平成29年)4月から、処遇効果の充実強化を図ることを目的として、薬物依存に関する専門的な処遇を集中して行う薬物処遇ユニット(資3-45-1参照)を保護観察所に設置し(2022年(令和4年)4月現在で28庁)、薬物事犯者に係る指導及び支援を実施している。

資3-45-1 薬物処遇ユニットの概要
資3-45-1 薬物処遇ユニットの概要

(3)更生保護施設による薬物依存回復処遇の充実【施策番号46】

 法務省は、一部の更生保護施設を薬物処遇重点実施更生保護施設に指定し、精神保健福祉士や公認心理師等の専門的資格を持った専門スタッフを中心に薬物依存からの回復に重点を置いた専門的な処遇を実施している。

 薬物処遇重点実施更生保護施設の数は、2022年(令和4年)4月現在で、25施設であり、2021年度(令和3年度)における薬物依存がある保護観察対象者等の受入人員は666人(前年度:751人)であった。

(4)薬物事犯者の再犯防止対策の在り方の検討【施策番号47】

 法務省及び検察庁は、薬物事犯者の再犯を防止するため、刑事施設内における処遇に引き続き、社会内における処遇を実施する刑の一部の執行猶予制度(資3-47-1参照)の適切な運用を図っている。

 法務省は、刑事施設において、受刑者に対し、薬物依存離脱指導(【施策番号44ア】参照)の効果を一層高めるための方策について検討を進めている。また、薬物事犯者の再犯防止のための新たな取組として、2019年度(令和元年度)から、薬物依存からの「回復」に焦点を当て、出所後の生活により近い環境下で、社会内においても継続が可能となるプログラムを受講させるとともに、出所後に依存症回復支援施設に帰住等するための支援を行う女子依存症回復支援モデル事業を実施している(資3-47-2参照)。

 更生保護官署においては、官民一体となった「息の長い支援」を実現するための新たな取組として、2019年度(令和元年度)から、薬物依存のある受刑者について、一定の期間、更生保護施設等に居住させた上で、薬物依存症者が地域における支援を自発的に受け続けるための習慣を身に付けられるよう地域の社会資源と連携した濃密な保護観察処遇を実施する、薬物中間処遇を試行的に開始し、2022年(令和4年)4月現在で、9施設において実施している。

 また、法務総合研究所において、2016年度(平成28年度)から、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターと共同で薬物事犯者に関する研究を実施し、覚醒剤事犯で刑事施設に入所した者に対する質問紙調査等から得られた薬物事犯者の特性等に関する基礎的データの分析等を行っている。2021年度(令和3年度)には、冊子「覚せい剤事犯者の理解とサポート2018」の内容に、受刑回数と薬物関連問題の重症度との関連や、薬物依存と他の依存の重なりがある覚醒剤事犯者の特徴など新たな研究成果を加えた「覚醒剤事犯者の理解とサポート2021」※10を作成し、関係機関に配布した。

資3-47-1 刑の一部執行猶予制度の概要
資3-47-1 刑の一部執行猶予制度の概要
資3-47-2 札幌刑務支所「女子依存症回復支援センター」
資3-47-2 札幌刑務支所「女子依存症回復支援センター」

 厚生労働省は、2019年度(令和元年度)から、地方厚生(支)局麻薬取締部・支所(以下「麻薬取締部」という。)に公認心理師等の専門支援員を配置し、麻薬取締部において薬物事犯により検挙された者のうち、保護観察の付かない全部執行猶予判決を受けた薬物初犯者を主な対象として、希望者に対し、「直接的支援(断薬プログラムの提供)」、「間接的支援(地域資源へのパイプ役)」、「家族支援(家族等へのアドバイス)」の3つの支援を柱とする再乱用防止対策事業を実施している。2021年度(令和3年度)からは、法務省と連携し、本事業の対象者を麻薬取締部以外の捜査機関において薬物事犯により検挙され同様の判決を受けた者等にも拡大している。

 また、厚生労働省では、2021年(令和3年)1月から医学・薬学・法学の有識者を構成員とする「大麻等の薬物対策のあり方検討会」を計8回開催し、2021年(令和3年)6月にとりまとめ※11を公表した。同とりまとめにおいて、刑事司法関係機関等における社会復帰につなげる指導・支援、医療提供体制に係る取組の継続及び地域社会における本人・家族等への支援体制の充実により、再乱用防止と社会復帰支援を進めていく必要があるとの基本的な方向性が示された。

 法務省及び厚生労働省は、2018年度(平成30年度)から今後の「薬物事犯者の再犯防止対策の在り方に関する検討会」を開催しており、2021年(令和3年)5月に中間取りまとめ※12を公表した。

  1. ※6 認知行動療法
    行動や情動の問題、認知的な問題を治療の標的とし、これまで実証的にその効果が確認されている行動的技法と認知的技法を効果的に組み合わせて用いることによって問題の改善を図ろうとする治療アプローチを総称したもの。問題点を整理することによって本人の自己理解を促進するとともに、問題解決能力を向上させ、自己の問題を自分でコントロールしながら合理的に解決することのできる力を増大させることをねらいとして行われる。(「臨床心理学キーワード〔補訂版〕」坂野雄二編参照)
  2. ※7 F―CAN
    Fukuoka(福岡という地において)、Connection(人と人のあたたかな結びつきを取り戻し)、And(そして)、Navigation(自分自身を明るい未来に向かってナビできるようになろう)という思いを込めてつけました。また、CANには、君ならできる!という意味も込められています。
  3. ※8 SMARPP
    Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program(せりがや覚せい剤依存再発防止プログラム)の略称であり、薬物依存症の治療を目的とした認知行動療法に基づくプログラムである。
  4. ※9 精神保健福祉センター
    都道府県や指定都市に設置されており、精神保健及び精神障害者の福祉に関する知識の普及・調査研究、相談及び指導のうち複雑又は困難なものを行うとともに、精神医療審査会の事務、精神障害者保健福祉手帳の申請に対する決定、自立支援医療費の支給認定等を行い、地域精神保健福祉活動推進の中核を担っている。
  5. ※10 覚醒剤事犯者の理解とサポート2021
    本冊子は、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターのウェブサイト
    https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/reference/index.html)で公表されている。国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターのqr
    本冊子は、(https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/reference/pdf/2022_0418KJ.pdf)を参照されたい。
    覚醒剤事犯者の理解とサポート2021のqr
  6. ※11 大麻等の薬物対策のあり方検討会 とりまとめURL
    https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000796820.pdf大麻等の薬物対策のあり方検討会 とりまとめのqr
  7. ※12 薬物事犯者の再犯防止対策の在り方に関する検討会 中間取りまとめURL
    https://www.moj.go.jp/content/001348527.pdf薬物事犯者の再犯防止対策の在り方に関する検討会 中間取りまとめのqr