再犯防止推進白書ロゴ

第1節 民間協力者の活動の促進等

3 更生保護施設による再犯防止活動の促進等

(1)更生保護施設の地域拠点機能の強化【施策番号94】

 法務省は、更生保護施設退所者等が地域生活に定着するまでの間の継続的な支援として、生活相談支援や薬物依存回復訓練の実施を更生保護施設(【施策番号26】参照)に委託する取組を行っている。2017年度(平成29年度)からは、更生保護施設退所者等が更生保護施設に通所して支援を受ける「フォローアップ事業」(資6-94-1参照)を実施しており、2021年度(令和3年度)の委託実人員は400人(前年度:208人)、延べ人員は2,701人(前年度:1,239人)であった。さらに、自発的に更生保護施設に通所できないなど、従来の通所型のフォローアップ事業では支援の手が届かない者に対しても必要な支援を行うため、2021年(令和3年)10月から全国8施設において訪問支援事業(資6-94-2参照)を開始し、更生保護施設職員が更生保護施設退所者等の自宅等を訪問するなどして継続的な支援を行う取組を実施している(2021年(令和3年)10月から2022年(令和4年)3月までの半年間の委託実人員は104人、延べ人員は627人である。)。

資6-94-1 更生保護施設におけるフォローアップ事業の概要
資6-94-1 更生保護施設におけるフォローアップ事業の概要
資6-94-2 更生保護施設における訪問支援事業の概要
資6-94-2 更生保護施設における訪問支援事業の概要

(2)更生保護事業の在り方の見直し【施策番号95】

 更生保護施設は、一時的な居場所の提供を行うだけでなく、犯罪をした者等の処遇の専門施設として一層多様かつ高度な機能が求められるようになっている。そのため、法務省は、2018年度(平成30年度)以降、有識者検討会及び実務者等による意見交換会を開催し、2019年(平成31年)3月、有識者検討会から「これからの更生保護事業に関する提言」を得た。同提言においては、更生保護施設退所者へのフォローアップの重要性についてなど、更生保護事業の在り方に関する幅広い指摘がなされた。これを踏まえ、2021年(令和3年)10月から、全国8施設において訪問支援事業を開始するなど事業の見直しに取り組んでいる(【施策番号2794】参照)。

Column08 更生保護施設による訪問支援事業

更生保護施設熊本自営会 訪問支援職員 前畑哲朗

 当会では、2017年度(平成29年度)に施行されたフォローアップ事業(【施策番号94】参照。更生保護施設の退所者に対しての継続的な支援制度)を通じ、社会で孤立しがちな更生保護施設退所者への寄り添いを行ってきました。しかし、従来の支援は退所者からの相談に基づく、いわば「受け身」の制度であり、そもそも人に頼ること、相談することが苦手な対象者が多いことから、退所後の暮らしぶりを把握することは非常に難しい状況でした。

 そうした中、退所者の更生と自立のためのより積極的な支援を行うため、2021年(令和3年)10月に訪問支援事業(【施策番号94】参照)がスタートしました。当会は先行実施施設に指定され、これまで約8か月活動してきましたので、具体的な事例や、その中で感じたことをご紹介したいと思います。

【事例1】50代男性。無銭飲食、建造物侵入等。

 知的障害があり適切な金銭管理ができないケース。ギャンブル嗜好から、貯蓄を含めた現金を全て使い切ってしまうこともあった様子。所持金がなくなると、先のことも考えず安易に金を借りたり、犯罪に走ってしまう傾向あり。累犯。

 当会退所後は生活保護を受給し一人暮らしを始めたが、保護費が支給されると数日で使い切ってしまい、飲まず食わずに近い状態となってしまう。小遣い帳程度の家計簿を付けることから始め、月々の支出を自身で管理できることを目標に、訪問して生活指導を続けている。訪問支援事業としての委託期間終了後も、再犯防止のためには引き続き見守りが必要と考えている。

【事例2】60代男性。覚醒剤取締法違反。

 刑務所入所5回。仮釈放となって当会に入所。仮釈放期間満了とともに当会を退所し、現在は自営業で生計を立てている。

 訪問支援の開始当初は月に数回の往信と訪問のみであったが、次第に来信と通所も始まり、一方通行的だったコンタクトが双方向になっていった。4か月が経過したある日の未明、携帯電話に着信があったが気付かず応答できなかった。その後再度着信があり応答すると、「覚醒剤を打った夢を見てしまった。朝からぞわぞわして気持ちが抑えきれない。話がしたくて電話をした。」という。最初の電話に出られなかったことを詫び、しばらく話を聞いていると次第に落ち着いてきたようで、「これまで出所した時も、もう薬は止めようと思っていたができなかった。しばらく止められていても突然薬のことが頭から離れなくなり、また打ってしまうことの繰り返しだった。正直な気持ちを聞いてほしくて電話した。話したら落ち着いてきた。もう大丈夫だと思う。」と話してくれた。現在、薬の引き金となるからと酒も断ち、断薬の努力を続けている。

 薬物依存についての知識は書籍やセミナーで得ていたつもりでいましたが、退所者への支援等を通じて、断薬の苦しみは想像以上であることを改めて知らされました。数度の刑務所生活を経た後建設会社をおこし、今では協力雇用主として立派な経営者となった薬物関係の元受刑者が、「70歳を過ぎた今でも、覚醒剤の誘惑と一生戦い続けないといけない。」と話してくれた事も忘れられません。

 薬物に限らず、様々な問題を抱え、誘惑と闘いながら日々生活している退所者が大勢います。社会で生きてゆくスキルを身に付けていない人も少なくありません。施設を退所し、一月がたった今でも、週に何回も早朝から施設に来所し、施設の清掃を手伝ってくれる退所者もいます。

 そうした事例を見ていると、更生のために最低限不可欠な住居や収入といった要素に加え、大きな支えとなるのは身近で寄り添う人の存在であり、一緒に考え、悩み、歩んでくれる誰かなのだと感じます。彼らの家族の代わりはできないかもしれませんが、訪問支援職員として、目の前の一人一人と向き合ってゆきたいと思います。

 (本稿は2022年(令和4年)6月時点の状況に基づきます。)

退所者の家を訪ねる訪問支援職員
早朝から施設の清掃を手伝ってくれる退所者