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第2節 主な属性別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望

2 女性

(1)序論

 刑事施設における各種指導は、収容の大半を占める男性を念頭にその枠組みが構築されてきた。しかし、女性受刑者は、男性受刑者と比較すると、罪名が覚醒剤取締法違反である者、高齢者(65歳以上)、精神障害の問題を抱えている者の割合が高く(特2-2-1及び特2-2-2参照)、また、女子少年院在院者は、男子のそれと比較して、被虐待経験を有する者の割合が高いなど(特2-2-3参照)、女性受刑者等は、特有の課題を有していることがうかがえる。そのため、近年は、女性受刑者等の特有の課題に着目した指導・支援の充実を図っている。

(2)指標

特2-2-1 新受刑者の特徴
特2-2-1 新受刑者の特徴
特2-2-2 精神障害を有する新受刑者(男女別)の人員の推移
特2-2-2 精神障害を有する新受刑者(男女別)の人員の推移
特2-2-3 被虐待経験を有する少年院入院者(男女別)の人員の推移
特2-2-3 被虐待経験を有する少年院入院者(男女別)の人員の推移

(3)主な取組と課題

ア 女性受刑者への処遇の現状と課題

 女性受刑者特有の問題として、高齢である者が多いこと、精神障害を有する者が多いこと(特2-2-1及び特2-2-2参照)などがあげられるところ、これらの問題に対応するため、計10庁の女性刑事施設では「女子施設地域連携事業」(【施策番号81】参照)を実施している。まず、高齢受刑者は、例えば、生活習慣病へのり患や基礎体力の低下等により、集団での行動が難しい場合も多く、特別な配慮が必要になることから、同事業では、看護師や保健師による健康管理指導や個別面接、介護福祉士による入浴、トイレ、食事、更衣等の介助、理学療法士によるリハビリテーション、作業療法士による認知症を有する受刑者への作業療法の実施など、多様な専門職に協力を依頼し、高齢受刑者の特性や個別のニーズに応じた処遇を実現している。さらに、同事業においては、例えば、子の養育に係る課題のある女性受刑者等に対して、助産師による講座等を実施したり、摂食障害を有する女性受刑者に対して、看護師や社会福祉士による個別面接を実施したりしているほか、刑事施設職員に対しても、依存症や障害等に関する研修を実施するなどしており、処遇の充実化を図っている。

 さらに、女性受刑者の罪名については、覚醒剤取締法違反の占める割合が非常に高く(特2-2-1)、こうした犯罪に至る背景として依存症や家庭内不和等の問題を抱えていることも少なくない。こうした中、女性の薬物事犯者の再犯防止のための新たな取組として、札幌刑務支所において「女子依存症回復支援モデル」(【施策番号47】参照)を実施している。この事業においては、出所後の生活(回復支援施設)に近い環境の中で、女性特有の問題に着目した多様なプログラムを実施しており、薬物依存からの「回復」に焦点を当てた指導・支援を実施している。

 以上のように、女性刑事施設においては、外部の専門職などの「外の力」を積極的に「塀の中」に取り入れ、罪を犯した女性の特性に応じた処遇を展開してきている。近時は、助産師や健康運動指導士など、刑務所の処遇に協力いただく専門職の幅も広がっており、更に多様な専門職の協力を得て、よりきめ細かい処遇を実現するなど、矯正施設における地域連携や多職種連携のロールモデルともなっている。

【当事者の声】~理学療法士によるリハビリテーションを受けて~ 女性(48歳) 罪名:窃盗

 普段、車椅子を使用していますが、リハビリをしている中で、足に力が入るようになり、歩行器等を押しながら歩いていても、スムーズに足を運ぶことができるようになりました。気持ちも明るくなって、刑務所内の生活や社会に戻ってからの生活で真面目に頑張ろうと思えるようになりました。焦る時もあるけれど、理学療法士の先生方と、ゆっくり正しく歩くことを頑張っています。

 社会復帰したら、迷惑を掛けない生活を送り、緩やかな山でも良いので、登山に再チャレンジしたいです。そして、生きがいを見つけながら落ち着いた余生を穏やかに過ごしたいと考えています。また、お医者さんとも相談しながら、体の状態も良くなればいいなと思っています。

 少しずつ、目に見えてリハビリの効果が出ています。刑務所に来た頃は、足の感覚も忘れていて、「ただ足がぶら下がっている」感じでしたが、今は歩いていても土の「じゃりじゃり」する感覚が伝わってきます。いろんなことを諦めていたけど、もう一度頑張らないといけないと思うようになりました。

 本当にリハビリを受けさせて下さった理学療法士の先生方にも、感謝しかありません。時に焦って無理しそうになりますが、先生方と進めてきた「一歩一歩」のリハビリを、外の世界でも続けていきます。そして、社会に戻ったら、被害者への謝罪の気持ちを忘れず、犯罪とは無縁の生活を送っていきます。

特2-2-4 理学療法士によるリハビリテーションの様子(栃木刑務所)
特2-2-4 理学療法士によるリハビリテーションの様子(栃木刑務所)

イ 女子少年院における矯正教育の現状と課題

 女子少年院においては、在院者の多くが、虐待等の被害体験や性被害による心的外傷等の精神的な問題を抱えていることが明らかとなっており、このような傷つき体験があることを踏まえた処遇の実施が課題となっている。そこで、2016年度(平成28年度)から、女子少年院在院者の特性に配慮した処遇プログラムを策定し、女子少年院全庁で試行している(【施策番号81】参照)。このプログラムは、女子の全在院者を対象とした基本プログラムと、特に自己を害する程度の深刻な問題行動(摂食障害、自傷行為等)のある在院者を対象とした特別プログラムから構成される。基本プログラムは、自他を尊重する心を育み、より良い人間関係を築くことを目指す「アサーション」と、呼吸の観察等を通じて、衝動性の低減、自己統制力の向上等を目指す「マインドフルネス」から成り、対象者のニーズに応じ、基本プログラムと特別プログラム※18を効果的に組み合わせて実施している。

 また、2019年度(令和元年度)からは、女子少年院を中心に、DVや虐待を経験した者に対する支援を行う民間団体から外部講師を招へいし、在院者に対する講話及び職員研修を実施しているほか、2020年度(令和2年度)には、被虐待経験を有する在院者の処遇に当たる職員に向けて、被虐待経験による身体、精神又は行動面への影響やトラウマインフォームドケアの視点を取り入れた処遇等に関する執務参考資料を策定しており、在院者の被虐待経験に由来するトラウマへの対応等について、正しい理解に基づいた処遇の充実を図っている。

(4)今後の展望

 被害体験や精神的な問題など、女性受刑者等が抱える課題を的確に把握した上で、これらの困難に応じた指導・支援を効果的に実施することが重要である。一方で、女性のライフスタイルが多様化していることなどを踏まえ、罪を犯した女性が再犯することなく、自立した社会生活を送れるようするため、個々の特性や支援ニーズ、強み等にも着目した指導・支援を充実させることが必要と考えられる。

【再犯防止推進計画等検討会 有識者委員からの講評】 堂本暁子委員(元千葉県知事)

 女子刑務所には、高齢者が少なくない。その一人が言った。「経済的に苦しくなって、住んでいるところから出なければならなくなって、かっとなって暴力を振るってしまった」と。彼女はそれまでは普通に、真面目に生きてきた専業主婦だったが、その時は極限的な精神状態になって感情が爆発しての暴力だった。今では後悔し、自分を責め続けている。

 人が事件に巻き込まれるのは、時として、ものの弾みであり、時として、人生の歯車が突然、悪い方に回り出した時が多い。この時点で、家庭であれ、職場であれ、地域であれ、近くにいる人の気づきが大事である。どんなにお節介でもかまわない、勇気をもって声を出し、手をさしのべることで犯罪を抑止することができる。迅速な入り口支援である。必要なのは、事前の防止、「火の用心」ならぬ「犯罪用心」である。

 2016年(平成28年)の再犯防止推進法の成立により、刑務所を出た人への「就労」や「住居」の確保といった社会復帰支援のみならず、地方公共団体や民間協力者の連携によって地域社会で孤立しないようにする取組が求められている。人事ではなく、自分事として、罪を犯した人を地域住民が包摂することで再犯の防止が可能になると確信している。

  1. ※18 特別プログラムは、性に関するプログラム、摂食障害に関するプログラム及び自傷行為に関するプログラムから構成され、自己を害する行動が深刻である在院者を対象に実施している。