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第2節 主な属性別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望

第2節 主な属性別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望
1 高齢・障害

(1)序論

 新受刑者のうち、高齢者や障害を有する者の割合は増加傾向にある(特2-1-1及び特2-1-2参照)。また、高齢者の2年以内再入率は直近の5年間では20.0%前後で推移しており(特2-1-3参照)、出所者全体(2016年(平成28年)出所者:17.3%、2020年(令和2年)出所者:15.1%)と比べると一貫して高く、知的障害を有する受刑者は、再入者全体と比べると、再犯に至るまでの期間が比較的短く、刑事施設への入所度数は高い傾向にある※15。高齢者や障害がある者の再犯を防止するためには、社会内での福祉的支援につなげることが有益と考えられることから、政府においては、矯正施設在所中の指導及び出口支援(矯正施設出所者等を福祉サービス等に橋渡しする取組)に加え、入口支援(特2-1-3【施策番号3442及び43】参照。起訴猶予者、刑の執行猶予者など刑事司法の入口段階にある者に対して、福祉サービス等に橋渡しする取組)を進めている。

(2)指標

特2-1-1 新受刑者(65歳以上の者)の人員及び割合
特2-1-1 新受刑者(65歳以上の者)の人員及び割合
特2-1-2 新受刑者(精神障害を有する者)の人員及び割合
特2-1-2 新受刑者(精神障害を有する者)の人員及び割合
特2-1-3 高齢出所者の2年以内再入率
特2-1-3 高齢出所者の2年以内再入率
特2-1-4 刑事施設で認知症と診断を受けた者の数の推移
特2-1-4 刑事施設で認知症と診断を受けた者の数の推移

(3)主な取組と課題

ア 高齢者や障害を有する者への処遇の現状

(ア)処遇上の配慮等

 刑事施設においては、高齢者及び障害を有する又はその疑いのある者(以下「高齢障害等受刑者」という。)に配慮して、手すりの設置や段差の解消等のバリアフリー化を進めたり、収容居室や就業工場を1階に指定し、移動の負担を軽減したりするなどの措置を講じているほか、介護専門スタッフや障害者生活支援スタッフを配置している。また、個々の受刑者の特性を踏まえ、例えば、他の受刑者との集団行動が難しい場合は、工場からの移動時や入浴時等に他の受刑者とは別に行動させたり、高齢障害等受刑者のみの工場を設け、作業内容を紙細工等の軽作業とするなど、その身体機能に合わせた処遇を行っている。

(イ)改善指導等について

 高齢障害等受刑者の円滑な社会復帰を図るため、地方公共団体や福祉関係機関等の協力を得ながら、基本的動作能力や体力を維持・向上させ、基本的生活能力(金銭管理、対人関係スキル等)や各種福祉制度に関する基礎的知識等を習得させることを目的とした「社会復帰支援指導プログラム」(【施策番号35】参照)を実施している。また、入所時の年齢が60歳以上又はその言動や生活状況等から認知症が疑われる者に対し、一部の刑事施設において、認知症スクリーニング検査を実施し、その結果、認知症が疑われる場合(特2-1-4参照)には、医師による診察を実施するとともに、認知症の進行を抑えるという観点から、健康運動士を招へいして高齢障害等受刑者の生活習慣病を予防し、健康水準を保持・増進するための指導等を行っている。さらに、認知症受刑者への適切な対応のため、認知症に対する正しい知識や適切な処遇方法の習得を目的とした刑務官向けの認知症サポーター養成研修を実施している。

(ウ)福祉的支援

 高齢障害等受刑者のうち、出所後の自立が困難な者に対しては、刑事施設に配置されている福祉専門官や非常勤職員である社会福祉士、精神保健福祉士等(【施策番号34】参照)が、福祉サービスのニーズ・利用歴、障害者手帳や住民票の有無、希望する帰住先等を多岐にわたって調査・確認するとともに、出所後、円滑に福祉サービス等を受けることができるように、本人の意向を踏まえ、地域生活定着支援センター※16(以下本項において「定着センター」という。)等の関係機関と連携して調整・支援を行っている。

 また、こうした調整・支援の過程において、医師を招へいして必要な診察を実施して障害者手帳取得に向けた支援を行ったり、在所中に福祉施設等に出向いて福祉サービスを体験させる取組を実施したりしている。

(エ)処遇の課題について

 高齢障害等受刑者が再犯に陥る要因としては、出所後の帰住先がないことや、単独で社会生活を送る能力が低いことなどにより、出所後に自立した生活を送ることが困難であるといった事情があるものと考えられる。高齢障害等受刑者の社会復帰のためには、福祉的支援が必要であることが多いことを踏まえ、適切なアセスメントの実施により、支援が必要な対象者を把握し、収容中から出所後まで、切れ目のない継続的な支援を実施していく必要があるため、刑事施設においては、今後一層関係機関との連携を深め、高齢障害等受刑者の特性に応じた処遇を実施し、その円滑な社会復帰に努めていく必要がある。

イ 被疑者・被告人に対する支援の現状と課題

 検察庁では、社会復帰支援を担当する職員や社会福祉士等を配置し、矯正施設に入所することなく刑事司法手続を離れる被疑者・被告人が、高齢又は障害等により福祉的支援を必要とする場合に、関係機関等と連携し、身柄釈放時等に福祉サービス等に橋渡しするなどの「入口支援」に取り組んでおり、その実施に当たっては、一部の定着センターとの事実上の連携も行ってきた。

 2021年度(令和3年度)から、定着センターの事業内容に「被疑者等支援業務」(【施策番号43】参照)が新たに追加され、検察庁と保護観察所が連携して行う重点実施対象者(保護観察所が、被疑者又は被告人のうち釈放後に更生緊急保護の措置として、一定の期間重点的な生活指導等を行い、福祉サービス等に係る調整、就労支援等の社会復帰支援をすることが適当であると認め、かつ、実際に更生緊急保護の申出をしたもの)に対する支援を行うことが制度として可能となった。

 この新たな枠組みの中で、定着センターでは、検察庁からの依頼を受けた保護観察所からの依頼に基づき、主に、支援対象者との面談、福祉サービス等調整計画の作成や釈放前段階からの福祉サービス等に向けた調整を行うほか、福祉サービス受給後の継続的な支援などを行っている。

 被疑者に対する支援は、支援対象者が釈放されるまでの限られた時間内で、支援対象者にとって必要かつ有効な支援策を検討しなければならないことから、個別具体的な入口支援の実施に当たって、関係機関における情報共有を密にすることはもとより、日頃から、関係機関の相互の理解を深めておくことが重要である。

 そこで、検察庁、保護観察所、定着センター等の関係機関においては、時間的な制約がある中で、より効果的な支援を行えるようにするため、積極的に協議を行うなどして、相互理解の促進や関係の円滑化に努めるとともに、支援の対象、手続及び内容等を地域の実情に合ったものとするよう努めているところである。また、弁護士は弁護活動の中で気付いたことを支援に生かすことはもとより、被疑者が逮捕・勾留されてから釈放されるまでのみならず、釈放後の支援まで関わることが可能であることから、切れ目のない効果的な福祉的支援を実施する上で極めて大きな役割を担い得る存在であるため、2022年度(令和4年度)からはこの新たな枠組みの中で弁護士・弁護士会との連携強化を促進することとされた。

 これを受け、検察庁においては、入口支援を実施するに当たり、弁護士・弁護士会と協議・確認・調整を行うなどして、相互の連携を強化し、より効果的な支援が実現されるよう配慮していきたいと考えているところである。

 被疑者等支援業務は、2021年度(令和3年度)に開始されたばかりであり、実績については未知数なところもあるが、検察庁においては、今後とも、保護観察所、定着センター、弁護士・弁護士会その他の関係機関との相互理解を深めるとともに、一層の連携強化を図り、様々な角度からの入口支援を実施し、再犯防止に向けた有効な支援を行っていきたいと考えている。

 

【当事者の声】~7・15 特別な日に ―あれから10年 私を支えたもの― ~ 松野和仁(36歳) 窃盗

 2022年(令和4年)7月15日、私は特別な日から10年を迎えました。思えばこの10年の月日は長かったようであっという間だった気がします。そして、私はこの期間一度も再犯をすることなく、無事にこうして普通の生活を送ることができています。

 私がなぜここまで来れたのか、その支えとなったのは何か、私なりにですが記したいと思います。

 まず、私はこれまでも数多くの犯罪や非行を積み重ねていました。その度に私は分かっていても自ら抑えることが出来ず、そのため何回も矯正施設への入所を繰り返していました。分かっていても自身の行動が常態化していたのです。

 そんな私に転機をもたらしたのが、南高愛隣会、地域生活定着支援センター、三浦栄一郎弁護士や辻川圭乃弁護士※17の存在でした。その出会い、ここから私の再犯に満ちた人生が大きく変化するのです。

 私は弁護士や地域生活定着支援センターと手紙でやりとりをする中で「今度こそ地域社会で更生するチャンスを与えてほしい」と感じるようになりました。これが私の中に生まれた大きな気持ちの変化なのです。裁判の結果は実刑ではありましたが、それでも私自身、それまでの悪い気持ちを大きく変えることとなった地域生活定着支援センターや弁護士の方々には感謝しています。

 そして、10年前の7月15日、刑務所を出所した私はここから福祉の支援を受ける生活がスタートします。

 まずは、南高愛隣会の「あいりん」と「グループホームさつき」での地域社会内訓練から始まりました。主に牛舎での飼育作業や犯罪防止学習等を通して、私はいろいろなことを学びました。私があいりんの利用を始めてしばらく過ぎた頃、職員より私に「困ったことがあった時に相談できる手段として携帯電話を持ったらどうか」との提案があり、私は疑問を持ちました。なぜならあいりんでは原則的に携帯電話の所持は禁止されていたからです。しかし、これまでの私は困ったことがあった時に相談できず、何か事あるごとにその場から逃げることしか出来ずにいました。そこで私は携帯電話を持つことを決意し、以来私にとって携帯電話は生活に必要不可欠なものとなりました。

 また、グループホームでは休日に外出する計画を立てることで日々の生活を充実させたり気分転換にもなっており、安定した生活をおくるための大切な時間としての意義を持ちます。遠方で開催されるマラソン大会やウォーキング大会を通して心身の健康や鍛錬を図ったり、映画の鑑賞が新たな趣味となるなど、私にとっていろいろなところで心身の安定に影響しました。このような生活を約2年間続けた後、訓練から就労へと移行することになり、街中のグループホームに移行することになりました。地域生活の中で最も印象に残っているのは、働いて給料をもらうようになり、一国民としての義務を果たせるようになったことです。

 振り返ってみて、本当に壮絶なあの人生からここまで来ることができたというのが今でも奇跡というくらいに信じられない気持ちです。

 その支えとなったのは、私をここまで変えてくれた皆さんにあると思います。皆さんのおかげで私は今をこうして生きています。これからもいろいろことがあるかもしれませんが、それでも前向きに生きていこうと思います。

 結びに、私を支えてくださるすべての皆さんに感謝を表し、筆をおきます。

(4)今後の展望

 「入口支援」と「出口支援」のいずれにおいても、支援が必要な者を適切な福祉サービスにつなぐことが重要であり、そのためには、検察庁、矯正施設、保護観察所といった刑事司法関係機関が福祉サービスにつなぐことの意義を理解し、地域生活定着支援センター、地方公共団体等の関係機関との連携を強化することが必要である。また、切れ目のない効果的な支援を行うためには、逮捕後から刑事司法手続終了後まで一貫して支援を行うことができる弁護士・弁護士会の存在が重要であると考えられることから、その地域の実情に応じて弁護士・弁護士会との連携の強化を図ることも重要であると考えられる。

【再犯防止推進計画等検討会 有識者委員からの講評】 村木厚子委員(元厚生労働事務次官)

 新規受刑者のうち、高齢者や障害を有する者の割合が増加傾向にあること等の現状は、単に施策の効果が上がっていないというよりも、高齢者や障害のある者が社会内で福祉につながることの難しさを物語っていると見るべきとの印象を持っている。

 本特集に記された、刑事施設内の処遇上の配慮、改善指導における工夫、地域生活定着支援センターなどと連携した出所後の福祉的支援へのつなぎ等、刑事施設が取り組んでいる高齢者、障害者向けのさまざまな取り組みに改めて敬意を表したい。

 また、入口支援に関しては、まだスタートして日が浅く手法が確立したとは言い難いものの、さまざまな取り組みを進める中で、よい取り組みのモデルを抽出し、それを全国へと横展開していくことが求められる。

 「当事者の声」に載せられた事例では、福祉サービスを提供する社会福祉法人や地域生活定着支援センター、弁護士など多くのプレーヤーが登場し、関係者の連携で支援を行うことの重要性を示唆している。

 今後、「入口支援」「出口支援」のいずれにおいても、刑事司法関係機関、地方自治体、地域生活定着支援センター、弁護士・弁護士会等の連携が一層強化され、施策が一層推進されることが期待される。そのための、枠組作りが求められている。

  1. ※15 法務総合研究所研究部報告52「知的障害を有する犯罪者の実態と処遇」による。
  2. ※16 地域生活定着支援センター:【施策番号36】参照。
  3. ※17 執筆者によると、2名の弁護士は「刑務所に入所することとなった事件の国選弁護人であり、特に三浦弁護士とは刑務所に入所以降も、手紙を通して交流は続いており、受刑中、今後の将来に不安になった際は、福祉支援者と一緒に刑務所まで面会にきてくれた」とのこと。