
第1節 再犯防止に向けた基盤の整備等
(1)矯正行政・更生保護行政のデジタル化とデータ活用による処遇等の充実のための基盤整備【施策番号91】
法務省は、受刑者等の情報をデジタル化し、一元的管理を推進することで、矯正行政の効率化を図るとともに、より精度の高いデータに基づく処遇の実態把握や再犯防止効果の可視化を通じて矯正処遇の一層の充実を図るため、これまでの業務システムを刷新し、2024年度(令和6年度)から、全国の矯正施設において、矯正処遇・再犯防止業務支援システムの運用を開始することとしている。
また、刑事手続のデジタル化に対応し、保護観察処遇等を充実させるとともに、保護司活動の負担低減を図るため、電子データによる書類の作成・管理、オンラインによる書類の発受等が可能となるよう、更生保護官署における業務全般のデジタル化に取り組んでいる。2023年度(令和5年度)は、デジタル化に向けた調査研究を行い、必要な技術的検討を行った。
(2)再犯状況の把握と効果的な処遇の実施に向けた一層の情報連携と高度利活用【施策番号92】
法務省は、検察庁、矯正施設及び更生保護官署がそれぞれのシステムで保有する情報のうち、犯罪をした者等の再犯等を防止する上で必要と認められる情報を一元的に管理・共有するデータ連携基盤である刑事情報連携データベースシステム(以下「SCRP※1」という。)を運用している。他の機関が個々の対象者に実施した処遇・支援等の内容の詳細を把握できる「データ参照機能」や、再犯の状況把握や施策の効果検証等を簡易・迅速化する「データ分析機能」を利活用することにより、①各機関における個々の対象者に対する処遇・支援等の充実、②再犯の状況や施策の実施状況の迅速かつ効率的な把握、③施策の効果検証や再犯要因等の調査研究等を行うとともに、必要に応じ、施策の見直しや新たな施策の企画を行うなどして再犯防止施策の推進を図っている。さらに、2023年(令和5年)から、SCRPの機能等を見直す観点から、一層の情報連携の促進と連携した情報のより効果的な利活用を実現するための方策等について検討を開始した。
また、法務総合研究所では、2023年6月に発刊した研究部報告65「非行少年と生育環境に関する研究」及び同年12月に公表した令和5年版犯罪白書の特集「非行少年と生育環境」において、非行少年及びその保護者に対して実施した質問紙調査の結果等を踏まえ、非行少年の生育環境等に焦点を当て、その実態を明らかにするとともに、日常の生活状況、修学・就労の状況、周囲との関わり・社会とのつながり等について分析して報告した。2024年(令和6年)3月に発刊した研究部報告66「女性犯罪者に関する総合的研究」においては、近年の女性犯罪者の動向のほか、女性受刑者等(比較対象としての男性受刑者及び参考対象としての女子少年院在院者を含む。)に対する質問紙調査の結果等を踏まえ、女性受刑者の基本的属性、逮捕前の生活状況、生活意識・価値観・心理的側面等について分析して報告した(【施策番号81】参照)。
(3)再犯防止施策の効果検証の充実と検証結果等を踏まえた施策の推進【施策番号93】
法務省においては、エビデンス(科学的根拠)に基づく再犯防止施策の推進に向けて、効果検証と、その結果を踏まえた施策の一層の充実に向けた検討を行っている。令和5年版再犯防止推進白書の特集においては、犯罪や非行から離脱した当事者の語りを取り上げ、社会復帰を果たした者等が犯罪や非行から離脱することができた要因の分析を試みた。
矯正局では、矯正研修所効果検証センター※2等と協力して、刑事施設における職業訓練の効果検証を実施したほか、刑務所出所者等の職場定着を促進するための取組について、刑務所出所者等を雇用する事業主に対する調査を行った。その他、刑事施設における矯正処遇、少年院における矯正教育及び社会復帰支援、少年鑑別所における鑑別・観護処遇等に係る効果検証に加え、アセスメントツール(例えば、受刑者用一般リスクアセスメントツール(Gツール)(【施策番号50】参照)、法務省式ケースアセスメントツール(MJCA)(【施策番号50】参照))や処遇プログラムの開発及び維持管理に資する研究等を体系的に実施している※3。加えて、効果検証センターは、有為な人材の育成や職員の職務能力向上に資するため、外部専門家を講師に招へいして、拡大研修会を計画的に企画・実施しており、2023年度(令和5年度)は、カウンセリングプロセスの在り方の理解、犯罪被害者の実情の理解と支援者のセルフケア、グループワークの基礎等をテーマとして取り上げたことに加え、同センター設置から5年経過したことを踏まえ、これまで得られた成果や知見を矯正実務に還元するためのシンポジウムを開催した。
保護局では、保護観察所における暴力防止プログラムに係る効果検証、依存性薬物(規制薬物等、指定薬物及び危険ドラッグ)の使用を反復する傾向を有する保護観察対象者等について、地域における民間団体等による援助や支援の利用状況と、薬物再乱用防止プログラムとの関連についての効果検証等を行っている。これらの検証を通じ、効果検証の結果等を踏まえた施策内容の見直しの検討を含め、再犯防止に関する施策の一層の推進を図っている。また、更生保護就労支援事業(【施策番号7ウ】参照)について、支援対象者の就職率及び職場定着率を把握し、施策の効果について、適宜検証等を行っている。
さらに、矯正局及び保護局では、薬物事犯者に対し、施設内及び社会内処遇を通じた一貫した薬物防止プログラムの効果について、特に、対象者が地域における治療・支援につながったか否かを変数の一つとして効果検証を行う計画を立て、2024年度(令和6年度)からデータ収集を開始することとしている。
- ※1 SCRP
System for Crime and Recidivism Preventionの略称。システムの機能と実績、活用例等については、令和3年度法務省行政事業レビュー公開プロセス資料参照
https://www.moj.go.jp/content/001350629.pdf - ※2 効果検証センター
矯正行政におけるEBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)の担い手として、刑事施設や少年院における処遇プログラムの開発やその再犯防止効果の検証、受刑者や非行少年の再犯・再非行の可能性や指導・教育上の必要性を把握するアセスメントツールの開発・維持管理等を行う矯正研修所の部署。 - ※3 効果検証センターにおける研究結果
刑事施設における職業訓練の効果検証結果について
https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei13_00004.html