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第1節 学校等と連携した修学支援の実施等

2 非行等による学校教育の中断の防止等

(1)学校等と保護観察所が連携した支援等【施策番号61】

 法務省は、保護観察所において、学校に在籍している保護観察対象者等について、類型別処遇(【施策番号83】参照)における「就学」類型として把握した上で、必要に応じて、学校と連携の上、修学に関する助言等を行っている。また、保護司会が、犯罪予防活動の一環として行っている非行防止教室や薬物乱用防止教室、生徒指導担当教員との座談会等の開催を促進するなどして、保護司と学校との連携強化に努めている。

 文部科学省は、児童生徒が非行問題を身近に考えることができるよう、各学校において実施する非行防止教室において、外部講師として保護観察官や保護司、BBS会員を招いて講話を実施するなど、非行防止教育のため、非行防止教室を積極的に実施するよう学校関係者に対し依頼している。

 法務省及び文部科学省は、2019年(令和元年)6月に、矯正施設における復学手続等の円滑化や高等学校等の入学者選抜及び編入学における配慮を促進するため、相互の連携事例を取りまとめ、矯正施設、保護観察所及び学校関係者に対して周知した(資4-61-1参照)。

資4-61-1 就学支援の充実に向けた文部科学省との連携状況について
資4-61-1 就学支援の充実に向けた文部科学省との連携状況について

(2)矯正施設と学校との連携による円滑な学びの継続に向けた取組の充実【施策番号62】

 法務省は、刑事施設において、社会生活の基礎となる学力を欠くことにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる受刑者に対し、教科指導を実施している。松本少年刑務所には、我が国において唯一、公立中学校の分校が刑事施設内に設置されており、全国の刑事施設に収容されている義務教育未修了者等のうち希望者を中学3年生に編入させ、地元中学校教諭及び職員等が、文部科学省が定める学習指導要領を踏まえた指導を行っている。また、松本少年刑務所及び盛岡少年刑務所では近隣の高等学校の協力の下、当該高等学校の通信制課程で受刑者に指導を行う取組を実施し、そのうち松本少年刑務所は全国の刑事施設から希望者を募集の上、高等学校教育を実施しており、所定の課程を修了したと認められた者には、高等学校の卒業証書が授与されている。

 少年院において、義務教育未修了者に対する学校教育の内容に準ずる内容の指導のほか、学力の向上を図ることが円滑な社会復帰に特に資すると認められる在院者に対する教科指導を実施しており、出院後の学びの継続に向けた取組として、在院者が出院後に円滑に復学・進学等ができるよう、矯正施設や学校関係者の研修等の際には講師を相互に派遣するなどし、相互理解に努め、通学していた学校との連携や、進学予定である学校の受験機会の付与等を行っている。また、広域通信制高校と連携し、当該高校に入学した在院者に対する院内での学習支援や職員同行の上での定期的なスクーリング参加等を試行している。なお、2020年(令和2年)は、113人が復学又は進学が決定した上で出院した。

 少年鑑別所において、在所者に対する健全な育成のための支援として、学習用教材を整備しており、在所者への貸与を積極的に行うとともに、学習図書の差入れ等についても配慮している。また、小・中学校等に在学中の在所者が、在籍校の教員等と面会する際には、希望に応じて、教員等による在所者の学習進度の確認、学習上の個別指導の実施が可能となるよう、面会の時間等に配慮している。

(3)矯正施設における高等学校卒業程度認定試験の指導体制の充実【施策番号63】

 法務省及び文部科学省は、2007年度(平成19年度)から受刑者及び少年院在院者の改善更生と円滑な社会復帰を促す手段の一つとして、刑事施設及び少年院内で高等学校卒業程度認定試験を実施している。

 法務省は、刑事施設において、4庁を特別指導施設に指定し、同試験の受験に向けた指導を積極的かつ計画的に実施している。全国の刑事施設における2020年度(令和2年度)の高等学校卒業程度認定試験受験者数は309人であり、高等学校卒業程度認定試験合格者(高等学校卒業程度認定試験の合格に必要な全ての科目に合格し、大学入学資格を取得した者)が136人、一部科目合格者(高等学校卒業程度認定試験の合格に必要な科目のうち一部の科目に合格した者)が160人であった。

 少年院において、2015年度(平成27年度)から、在院者の出院後の修学又は就労に資するため、高等学校卒業程度認定試験の重点的な受験指導を行うコースを新潟少年学院に設置し、外部講師を招へいする等の体制を整備したほか、2018年度(平成30年度)からは、指導体制の更なる充実を図るため、重点指導コースを13庁に拡大している。全国の少年院における2020年度の高等学校卒業程度認定試験受験者数は484人であり、高等学校卒業程度認定試験合格者が220人、一部科目合格者が246人であった(【指標番号14】参照)。

COLUMN5 茨城農芸学院における発達に課題を抱える者への修学支援の取組

 茨城県牛久市には、茨城農芸学院という矯正施設が所在しています。茨城農芸学院は、関東甲信越地区の非行少年のうち、知的な制約や発達上の課題を有する在院者が主に保護処分として収容される少年院です。同少年院では、2018年(平成30年)4月から個々の学習レベルに沿った学習支援の専門性を持つ指導者を関係する特定非営利活動法人から招き、高校卒業程度認定試験受験希望者を対象にして、基礎学力を上げるための取組を実施しているものの、本試験の受験を希望する在院者については、個々の課題に合わせた細やかな指導が必要となり、マンパワーの不足が課題となっていました。

 また、牛久市では、市内13の小・中・義務教育学校に無料の「うしく放課後カッパ塾(以下「カッパ塾」といいます。)」を開設しており、学習習慣が定着しておらず家庭での学習が困難であったり、家庭ではなく学校で勉強したいといった児童・生徒を対象に、放課後の学習支援を実施しています。カッパ塾に通う児童・生徒のアンケートでは、「友達と一緒に勉強できる」、「先生に教えてもらえる」、「進んで勉強するようになった」といった前向きな感想が多く寄せられています。一方で、カッパ塾における学習支援は、地域と学校との連携・協働により学習指導員が実施していますが、塾生の中には、発達上の課題や特性を有する児童・生徒も在籍しており、学習指導員がこのような児童・生徒に支援を行うに当たっては、対応に苦慮している状況がありました。

 そのような状況を踏まえ、牛久市では、2019年度(令和元年度)から2020年度(令和2年度)まで実施した地域再犯防止推進モデル事業(以下「モデル事業」といいます。)※10において、発達上の課題を有する非行少年に対する地域での立ち直り支援事業として、茨城農芸学院における学習支援等の修学支援に取り組みました。具体的には、発達上の課題を有する少年に対する学習支援について専門性を有する指導者が、カッパ塾の学習指導員とともに、茨城農芸学院の在院者に直接指導を実施するほか、在院者に指導する当たって、専門性を有する指導者が、地域の社会資源であるカッパ塾の学習指導員に対しても、発達上の課題を抱えた児童・生徒への対応方法等を指導することで、このような児童・生徒を支援するためのスキルを身に付けてもらうというものです。本モデル事業においては、2年間で延べ26名、計36回の学習支援を実施しました。本取組を通じて、少年が地域住民の学習ボランティア指導員と触れ合うことで、学習面での自信を取り戻し、再非行防止につながるような社会適応力の伸長が図られました。また、カッパ塾の学習指導員にとっては、発達上の課題や特性を有する児童・生徒への対応要領を実践を通して学ぶ貴重な機会となったほか、茨城農芸学院においても、高校卒業程度認定試験合格者数が2020年度は前年度を上回るという双方にとって有意義な結果となりました。地域再犯防止推進モデル事業はその期間を終えましたが、本モデル事業の成果を踏まえ、地域、学校、矯正施設等において、今後更なる連携・協働を進めていきたいと考えています。

牛久市が行ったモデル事業(茨城農芸学院における学習支援の様子)
茨城農芸学院外観【写真提供:茨城農芸学院】
  1. ※10 地域再犯防止推進モデル事業
    施策番号105】参照。