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第1節 特性に応じた効果的な指導の実施等

8 その他の効果的な指導等の実施に向けた取組の充実

(1)各種指導プログラムの充実【施策番号83】

 法務省は、刑事施設において、性犯罪再犯防止指導(【施策番号68】参照)や薬物依存離脱指導(【施策番号44】参照)等の特別改善指導のほか、一般改善指導(資2-2-1参照)としてアルコール依存回復プログラム(資5-83-1参照)や暴力防止プログラム(資5-83-2参照)等を実施している。

 特に、児童等に対する虐待行為をした受刑者に対しては、暴力防止プログラムの中で、再加害防止に向けて、本人の責任を自覚させ、暴力を振るうことなく生活するための具体的なスキルを身に付け、実践できるようにするため、家族を始めとした親密な相手に対する暴力に関するカリキュラムを実施しているほか、必要に応じて、犯した罪の大きさや被害者の心情等を認識させ、再び罪を犯さない決意を固めさせるための被害者の視点を取り入れた教育(【施策番号86】参照)も実施している。

 2020年度(令和2年度)における特別改善指導の受講開始人員は、資5-83-3のとおりである。

 少年院において、2018年(平成30年)から、特殊詐欺の問題性を理解させ、再犯・再非行を防止するための指導を一層充実・強化するための教材整備に向けた検討を行っており、振り込め詐欺等の特殊詐欺に関与した少年院在院者を有する一部少年院では、当該教材を用いた指導を実施している。

 保護観察所において、保護観察対象者に対し、認知行動療法に基づく専門的処遇プログラムを実施している。専門的処遇プログラムには、2006年(平成18年)から実施している性犯罪者処遇プログラム(【施策番号68】参照)及び2016年(平成28年)から実施している薬物再乱用防止プログラム(【施策番号44】参照)のほか、2008年(平成20年)から実施している暴力防止プログラム(資5-83-4参照)及び2010年(平成22年)から実施している飲酒運転防止プログラム(資5-83-5参照)の4種類がある。保護観察対象者の問題性に応じて、各プログラムを受けることを特別遵守事項として義務付けるほか、必要に応じて生活行動指針※12として設定するなどして実施している。

 2019年(令和元年)から、児童に対する虐待行為をした保護観察対象者に対しては、暴力防止プログラム(児童虐待防止版)(資5-83-6参照)を試行的に実施し、身体的虐待につながりやすい考え方の変容、養育態度の振り返り、児童との適切な関わり方の習得、身体的虐待を防止するために必要な知識の習得を図っている。

 2020年における専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員は、資5-83-7のとおりである。

 また、2020年3月から、保護観察対象者のうち嗜癖的な窃盗事犯者に対しては、「窃盗事犯者指導ワークブック」や、自立更生促進センターが作成した処遇プログラムを活用し、窃盗の背景要因や問題を分析し、窃盗を止める意欲を高め、具体的な行動計画を考えさせることなどを通じて、その問題性に応じた保護観察処遇も実施している。

 さらに、1990年(平成2年)から保護観察対象者の問題性その他の特性を、その犯罪・非行の態様等によって類型化して把握し、各類型ごとに共通する問題性等に焦点を当てた処遇として「類型別処遇」を実施しているところ、保護観察の実効性を一層高めることを目的として、2021年(令和3年)1月から新たな「保護観察類型別処遇要領」を定め、同要領に基づき類型別処遇を実施している(資5-83-8参照)。昨今の犯罪・非行情勢等を踏まえ、「ストーカー」、「特殊詐欺」、「嗜癖的窃盗」、「就学」類型を新設したほか、「精神障害」類型の下位類型として「発達障害」、「知的障害」類型を定めるなど、類型の区分を見直すとともに、保護観察対象者に対する各類型ごとの処遇指針として、「類型別処遇ガイドライン」を新たに定め、同ガイドラインをアセスメント、保護観察の実施計画の作成及び処遇の実施等に活用した処遇を実施している。

資5-83-1 刑事施設におけるアルコール依存回復プログラムの概要
資5-83-1 刑事施設におけるアルコール依存回復プログラムの概要
資5-83-2 刑事施設における暴力防止プログラムの概要
資5-83-2 刑事施設における暴力防止プログラムの概要
資5-83-3 刑事施設における特別改善指導の受講開始人員
資5-83-3 刑事施設における特別改善指導の受講開始人員
資5-83-4 保護観察所における暴力防止プログラムの概要
資5-83-4 保護観察所における暴力防止プログラムの概要
資5-83-5 保護観察所における飲酒運転防止プログラムの概要
資5-83-5 保護観察所における飲酒運転防止プログラムの概要
資5-83-6 保護観察所における暴力防止プログラム(児童虐待防止版)の概要
資5-83-6 保護観察所における暴力防止プログラム(児童虐待防止版)の概要
資5-83-7 保護観察所における専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員
資5-83-7 保護観察所における専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員
資5-83-8 保護観察所における類型別処遇の概要
資5-83-8 保護観察所における類型別処遇の概要

COLUMN6 「生きがいをもった生き直し」から再犯防止へ

ワンネス財団共同代表 三宅 隆之

 一般財団法人ワンネスグループ(ワンネス財団)は2005年(平成17年)に活動をスタートし、奈良県と沖縄県に主な拠点を置いている。当財団傘下の各法人が障害者総合支援法に基づく事業所など計24か所を運営し、これまで1,200名近くの方の生き直しをサポートした。自立準備ホーム※13については、開始初年度から登録させていただき、出所・出院者の受け入れは累計100名を超えている。また、無料相談窓口(電話、メール、SNS)を運営し、全国から年間約5,000件の相談が寄せられている。

 設立15年を迎えた昨年から、アルコールや薬物、ギャンブル等の依存状態の方だけではなく、様々な心の課題や知的・発達課題を抱えた方などへの支援を始め、出所・出院者についても同様に受入対象を拡大している。『孤独の解消と自己実現』は、当財団が掲げているミッションであり、支援範囲拡大の理由とも言える。依存に限らず様々な心理的課題を持つ方の多くが、生きづらさを感じ生きていて、それら痛みの感情の対処を続けた先に、今の孤独があると考えている。生きづらさに至る経緯は人それぞれだが、人生の主導権を他者へ引き渡し、他律の生き方の中で様々な困難が起こっていることがおおよそ共通している。それゆえ、単に再犯しない、依存行為を止めるというレベルを超えた、他律から自律への変容に向けた本質的なアプローチが必要なのである。

 ワンネスグループが運営している施設では、受刑や触法の経験を持つスタッフが多く在籍し、旧来型の民間施設の良い部分である経験者の寄り添いを大切にしながらも、カリキュラムについては自助グループのようなミーティングを一切行わず、身体・精神・社会的に良好な状態を目指した多面的支援を提供している。基盤に据えているのは「ウェルビーイング理論」注1であり、ポジティブ心理学創始者のマーティン・セリグマン博士はじめ、国内外の第一線研究者に協力いただき、幸福を構成する5つの要素である「PERMA」注2を意識したグループワークや野外アクティビティなどを行っている。出所・出院者の生き直しについては、日本初となる受刑者のためのライフキャリアスクール「Power to the Prisoners!(通称:P2P)」を立ち上げ、関連企業や学校法人等とのコラボレーションで、三重県では高品質イチゴの栽培を、沖縄県ではホースセラピーや海洋実習などをカリキュラムの一環として行うなど、多様性ある成長を支援している。

 ワンネスグループにおける再犯防止支援の中で、まず、施設利用者を再犯に至らせないことが大切なのは当然であるが、私たちはむしろ本質的な変容に注目している。ある利用者は、大半の時間を刑事施設で過ごし、人生を諦めかけていた。施設入所の理由も当初は、単に住む場所が無いという消極的なものではあったが、カリキュラムを通して「自分には、元々幸せな人生を歩む力が備わっている」ことを実感したという。かつては欠点だけを気にして、人生の主導権を他者へ渡し続けていた中で、自身の力の存在を信じられなくなっていたが、治療共同体注3施設での様々な場面で挑戦し葛藤する過程全てを自身が引き受ける中、力の存在に気付いた。他の利用者たちも以前就いていた仕事に再チャレンジし、学校へ入復学するなど、それぞれの生きがいにたどり着いている。

 現在、各地の刑事施設や保護観察所など関係機関にて支援方針をお伝えする機会を頂いており、奈良県内では他の事業所や奈良県地域生活定着支援センターと協働して「断らない支援」の枠組み構築を目指している。誰も爪弾きにされることがなく生き直しが可能な社会づくりのため、これからも財団自体が学び成長し続け、連携を拡げていきたい。

注1 ウェルビーイング理論
 ワンネス財団(ワンネスグループ)がプログラムのベースとしているWell-Being(ウェルビーイング)理論は、ポジティブ心理学の中で誕生したキーワードで、身体的、精神的、社会的に「良好な状態」を示し、「幸せ」を意味します。
注2 PERMA
 ウェルビーイングを高めるフレームワークとして、5つの要素からなるPERMA(パーマ)モデル(POSITIVE EMOTION…前向きな気持ち、ENGAGEMENT…没頭できること、RELATIONSHIP…良好な人間関係、MEANING…人生の意味・意義、ACCOMPLISHMENT…達成する感覚・熟練して行く感覚)が提唱されています。
注3 治療共同体
 共同生活の中で依存症脱却プログラムを受け、それぞれが役割を担うことをとおして、かつては依存対象を使用せざるを得なかった行動様式(生活様式)を変え、物事の見方や捉え方に変化が生じる結果、依存から脱却していくという考え方です。
ワンネスグループで行うホースセラピー
ワンネスグループで行うイチゴ栽培

(2)社会貢献活動等の充実【施策番号84】

 法務省は、刑事施設において、受刑者に社会に貢献していることを実感させることで、その改善更生、社会復帰を図ることを目的として、2011年度(平成23年度)から公園の清掃作業を行うなどの社会貢献作業を実施しており、2020年度(令和2年度)は、刑事施設25庁26か所において社会貢献作業を実施した。

 なお、2020年度には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、医療機関において全国的に医療用ガウンが不足している現状を踏まえ、厚生労働省からの依頼を受け、2020年5月中旬から42庁の刑事施設において、約140万着の医療用ガウンを製作し、全国の医療従事者に届くよう、都道府県に納品した(【コラム12】参照)。

 少年院において、全庁で特別活動指導※14として社会貢献活動を実施しており、公園や道路の清掃等、在院者の特性や地域社会の実情等に応じた活動を行っている(写真5-84-1参照)。

写真5-84-1 少年院における社会貢献活動の様子
写真5-84-1 少年院における社会貢献活動の様子

 なお、2020年度には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、複数の施設の在院者がマスクを製作し、社会福祉法人や民間協力者に寄贈した。

 保護観察所において、2015年(平成27年)6月から、保護観察対象者に対し、自己有用感のかん養、規範意識や社会性の向上を図るため、公園や河川敷等公共の場所での清掃活動や、福祉施設での介護補助活動といった地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を継続的に行う社会貢献活動(資5-84-1参照)を、特別遵守事項として義務付けたり、必要に応じて生活行動指針として設定したりして実施している。

 また、2018年度(平成30年度)には、これまでの保護観察所における社会貢献活動の処遇効果について検証し、より効果的な運用を図ることを目的として、法律、教育、福祉、心理学等の有識者を構成員とする検討会を開催し、調査・検討を行った。同検討会では、現在の活動に一定の効果が認められることが検証された一方、柔軟な活動計画の作成を可能とする制度設計を行うことや幅広く実施対象者を選定すること等の必要性が指摘された。こうした検討結果を踏まえ、実施対象者を選定する際の条件を緩和し、一律5回とされていた活動の標準回数を3回(上限5回)に変更する等、新たな運用を2019年(令和元年)10月から開始している。

 2020年度末現在、社会貢献活動場所として2,059か所が登録されており、その内訳は、福祉施設が1,029か所、公共の場所が800か所、その他が230か所となっている。2020年度においては379回の社会貢献活動を実施し、延べ665人が参加した。

資5-84-1 保護観察所における社会貢献活動の概要
資5-84-1 保護観察所における社会貢献活動の概要

(3)関係機関や地域の社会資源の一層の活用【施策番号85】

 法務省は、刑事施設において、薬物依存離脱指導(【施策番号44】参照)の実施に当たり、ダルク※15等の民間の自助グループ※16の協力を得ているほか、他の改善指導(【施策番号83】参照)についても、被害者支援団体、福祉関係機関等職員、警察関係者、公共職業安定所職員、地方公共団体職員等の参画を得て、広く関係機関や地域社会と連携した指導を推進している。

 少年院において、矯正教育の実施に当たり、近隣の自助グループを始めとする民間団体からの協力を得て、効果的な指導の実施に努めているほか、院外委嘱指導※17の枠組みによって、社会資源を活用した指導を実施している。

 保護観察所において、保護観察対象者の特性に応じ、保護観察終了後の生活を視野に入れ、ダルク、NA※18、AA※19、GA※20といった地域の自助グループの支援につなげられるよう調整等を行っている。

 また、法務省及び厚生労働省は、2015年(平成27年)11月、「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」(【施策番号52】参照)を策定し、保護観察付一部執行猶予者等の薬物依存者を支援対象として、都道府県や医療機関等を含めた関係機関や民間支援団体が緊密に連携し、その機能や役割に応じた支援を効果的に実施できるよう基本的な方針を定め、2016年度(平成28年度)からその運用を開始している。

  1. ※12 生活行動指針
    保護観察における指導監督を適切に行うため必要があると認めるときに保護観察所の長が定める保護観察対象者の改善更生に資する生活又は行動の指針である。保護観察対象者は、生活行動指針に即して生活し、行動するよう努めることを求められるが、これに違反した場合に、直ちに不良措置をとられるものではない点で、特別遵守事項とは異なる。
  2. ※13 自立準備ホーム
    施策番号28】参照。
  3. ※14 特別活動指導
    特別活動指導とは、少年院法第29条に規定される、在院者に対し、その情緒を豊かにし、自主、自律及び協同の精神を養わせることを目的とした指導で、社会貢献活動、野外活動、運動競技、音楽、演劇等に関する指導を行っている。
  4. ※15 ダルク
    DARC:Drug Addiction Rehabilitation Center。薬物依存者の回復を支援する民間施設。
  5. ※16 自助グループ
    同じ問題を抱える仲間同士が集まり、互いに悩みを打ち明け、助け合って問題を乗り越えることを目的として、ミーティングが行われている。
  6. ※17 院外委嘱指導
    少年院法第40条に規定される、事業所の事業主、学校の長、学識経験がある者等に委嘱し、少年院の外の場所に、職員の同行なしに通わせて実施する指導。
  7. ※18 NA:Narcotics Anonymous。薬物依存者の自助グループ。
  8. ※19 AA:Alcoholics Anonymous。アルコール依存症者の自助グループ。
  9. ※20 GA:Gamblers Anonymous。ギャンブル等依存症者等の自助グループ。