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第1節 地方公共団体との連携強化等

第7章 地方公共団体との連携強化等のための取組
第1節 地方公共団体との連携強化等
1 地方公共団体による再犯の防止等の推進に向けた取組の支援

(1)再犯防止担当部署の明確化【施策番号104】

 法務省は、地方公共団体に対して、再犯の防止等を担当する部署を明確にするよう働き掛けを行っており、2018年(平成30年)5月以降、全ての都道府県及び指定都市における再犯の防止等を担当する部署を把握し、再犯の防止等の推進に向けて必要な情報提供を行っている。

 また、都道府県を通じて、全国の市町村(特別区を含む。以下この章において同じ。)を対象に市町村再犯防止等推進会議(【施策番号110】参照)の構成員の募集を行っているところ、その構成員となった市町村(2021年(令和3年)4月1日現在で273市町村)の連絡窓口を把握するとともに、再犯の防止等に関する必要な情報提供を行っている。

(2)地域社会における再犯の防止等に関する実態把握のための支援【施策番号105】

 法務省は、国と地方公共団体が連携して再犯防止施策の推進を図るため、2018年度(平成30年度)から2020年度(令和2年度)までを事業期間として、合計36の地方公共団体に委託し、①地域の実態調査と事業実施計画の策定、②事業の実施、③事業の効果検証といった一連の取組を行う地域再犯防止推進モデル事業(資7-105-1参照)を実施してきた。同事業においては、それぞれの地域の実情に応じた様々な取組が展開され、高齢者又は障害のある者に対する入口支援のほか、薬物依存のある者やその家族に対する支援などが行われた(資7-105-2参照)。2021年度(令和3年度)からは、その成果を踏まえ、国と地方公共団体の協働による地域における効果的な再犯防止の取組の好事例を全国の地方公共団体に広く普及するとともに、都道府県と市町村が連携した取組を促進するための協議会等を開催することとしている。

資7-105-1 地域再犯防止推進モデル事業の概要
資7-105-1 地域再犯防止推進モデル事業の概要

地域再犯防止推進モデル事業における取組と今後の展望について

1 はじめに

 2016年(平成28年)12月、再犯の防止等の推進に関する法律(平成28年法律第104号。以下「推進法」という。)が成立・施行され、地方公共団体において、その地域の状況に応じた再犯防止施策を策定・実施する責務を有することが法律に明記されました。これは、罪を犯した者が刑事司法手続を離れた後も、地域社会において、必要に応じて適切な支援を受けることが、その者の再犯防止を実現するために重要かつ不可欠なものであることを踏まえて規定されたものです。しかしながら、その当時の多くの地方公共団体にとって、再犯防止施策は取り組んだことのない事業であり、具体的な取組を進めるためのノウハウも蓄積されていないのが実情でした。そのような状況から、国と地方公共団体との協働により、地域社会における効果的な再犯防止に関する取組の在り方について調査・検討を進めるため、2018年度(平成30年度)から地域再犯防止推進モデル事業(以下「モデル事業」という。)(【施策番号105】参照)が始まりました。

2 事業の概要

 モデル事業は2018年度から3年間を実施期間とし、①地域の実態調査と実施計画の策定(半年程度)、②関係機関による会議体の設置及び本事業の実施(2年程度)、③効果検証の実施(半年程度)について、法務省からの委託を受けた36の地方公共団体において実施されました。各地方公共団体においては、地域の実態を踏まえ、刑事司法関係機関のほか、福祉関係、医療関係、就労関係など様々な関係機関と連携した取組が進められました。

 これら36の地方公共団体における取組内容の一端を整理した形でお示しすると、

 ○ 薬物事犯者を対象とした取組を実施した団体  栃木県、旭川市など  5団体
 ○ 性犯罪事犯者を対象とした取組を実施した団体 大阪府、福岡県など  3団体
 ○ 非行少年を対象とした取組を実施した団体   京都府、牛久市など  4団体
 ○ いわゆる「入口支援」を実施した団体     滋賀県、名古屋市など 15団体

 などとなっています。

 令和元年版及び同2年版の再犯防止推進白書でも一部の地方公共団体の取組を紹介してきたところであり、それらとの重複を避けつつ、ここでは、秋田県、島根県、北九州市の取組のうち他の地方公共団体においても参考となり得る特徴的なものについて紹介します。

3 地方公共団体における取組の紹介

(1)秋田県

 秋田県においては、モデル事業としての取組の一つとして、孤立防止事業が実施されました。

 本事業においては、矯正施設を出所したものの、身寄りがいない高齢者又は障害のある者に対して、月1回程度の頻度で、戸別訪問をして対象者の話を聴き、人とのふれあいの機会を確保するとともに必要な相談を受けるという見守り支援が実施され、新型コロナウイルス感染症等の影響がありながらも、2019年度(令和元年度)に22回、2020年度(令和2年度)に25回の見守りが実施されました。

 社会的な孤独・孤立の問題については、国においても、喫緊の課題であるとして、2021年(令和3年)3月には、関係府省庁の副大臣を構成員とする「孤独・孤立対策に関する連絡調整会議」が開催され、国が一体となった総合的かつ効果的な対策の検討が進められています。再犯防止分野においても、高齢や障害を始めとする様々な生きづらさにより、地域社会において孤立した状況となり、再び罪を犯すケースが少なくないことから、本事業はそのような課題に対応することを念頭に置いた内容となっていました。

 また、本事業の実施主体は、秋田県からの委託を受けた「更生保護支援ボランティアふれあいサークル」のボランティア会員の方々でした。福祉的な支援を業務として実施している専門の機関ではなく、地域住民が支援の主体となることにより、地域社会における再犯防止の取組への理解促進を図りました。

(2)島根県

 島根県においては、「更生支援コーディネーター」を養成するための研修を実施する取組が行われました。本研修は、罪を犯した者の更生支援に携わる人材を育成することを目的として、罪を犯した者等の支援に必要な基礎知識の習得、更生支援計画の立案や環境調整等の演習が行われました。

 研修は、「基礎研修Ⅰ」と「基礎研修Ⅱ」の2段階に分けて実施されました。「基礎研修Ⅰ」においては、司法・福祉・医療等の関係者や更生支援に関心のある者を対象に、更生支援の基本的な知識を習得を目的とした内容の研修が行われました。「基礎研修Ⅱ」においては、「基礎研修Ⅰ」を修了した者のほか、関係機関において対人援助職の経験のある者を対象に、刑事司法関係機関や福祉機関等と連携して、支援対象者の社会復帰を支援するための更生支援計画の立案や環境調整等に関する研修が行われました。

 「基礎研修Ⅱ」を修了した者のうち、登録希望のあった者については派遣コーディネーターとして登録し、支援の協力を依頼する関係機関からの依頼に基づいて、支援対象者等との面談や支援内容の検討、支援体制の構築のための調整等の支援を行いました。モデル事業の実施期間中、新型コロナウイルス感染症等の影響がありながらも、「更生支援コーディネーター」の派遣は6件、更生支援計画の作成は4件について実施されました。

(3)北九州市

 北九州市においては、2014年(平成26年)10月から2018年3月までの間、市独自の取組として、触法行為をした障害者に対する逮捕・勾留段階からの面接を通じた福祉的支援の調整などの試行事業を行っていたところ、同事業の対象となった罪を犯した障害のある者のうち、福祉的支援を希望しない者や福祉サービスに結び付かない者が半数以上を占めるということが明らかになりました。その結果を踏まえて、モデル事業においては、不起訴となり、あるいは執行猶予付判決を受けた障害のある者を対象に、「継続的な見守り」、「刑事司法と福祉による協働」、「効果的な就労支援」の3つの取組を合わせた入口支援が行われました。

 「継続的な見守り」の実施においては、「北九州市障害者基幹相談支援センター」の専属の社会福祉士2名による継続的な見守り等が実施され、対象者の動向や所在を把握することにより、支援可能な関係性を維持する取組が行われました。

 また、「刑事司法と福祉による協働」では、支援対象者の社会的な学び等を目的として、北九州医療刑務所や小倉少年鑑別支所など法務省関係機関との連携による取組が行われました。具体的には、矯正施設や保護観察所へのヒアリングや協議を通じて、連携する業務やその手順に関するマニュアルや様式を作成したほか、「法務少年支援センターこくら」の地域援助により、支援対象者に対し、法務技官(心理)による能力・性格検査、問題行動の分析等の各種検査が実施されました。

 さらに、「効果的な就労支援」として、支援対象者の就労支援及び雇用の定着を目的として、市、障害者基幹相談支援センター、保護観察所等の関係機関が協議の上、就労支援業務に関するマニュアルを作成し、同マニュアルに基づいて、基幹相談支援センターの支援員が就労支援を実施しました。

 北九州市では、モデル事業の開始前から試行的な取組を実施していたことに加え、市内に刑務所や少年鑑別支所、保護観察所支部などの法務省関係機関が所在するという環境を生かし、関係機関とのコミュニケーションを密に取りながら、市の枠を超えた取組が進められてきました。今後も、北九州市の地方再犯防止推進計画として位置付けられた「北九州市安全・安心条例第2次行動計画(アクションプラン)」(2021年4月1日付け一部改定)に基づき、再犯防止に関する取組が、より一層進められることが期待されます。

4 事業の成果

 以上のとおり、3つの地方公共団体における取組を紹介しました。各地方公共団体における取組の詳細は、法務省ウェブサイト等に掲載しているとおりですが、モデル事業全体の成果としては、以下の3点が挙げられます。

 1つ目は、地方公共団体において再犯防止に関する取組のノウハウや経験が蓄積されたことです。モデル事業の委託を受けた36の地方公共団体はもちろんのこと、それ以外の地方公共団体についても、法務省が主催する都道府県再犯防止等推進会議などの機会を通して、モデル事業におけるノウハウや成果の共有が図られています。

 2つ目は、再犯防止に関する取組を進めるための地域におけるネットワークが構築されたことです。今回のモデル事業を契機として、再犯防止の取組を進めるに当たって、どのような関係機関と連携することで、どういった支援を行うことが可能になるのか、様々な試みが行われました。地域によって活用可能な機関や制度が様々であるとしても、今後、モデル事業で試みられた具体的な連携のネットワークを活用して、各地域での取組の更なる深化が期待されるところです。

 3つ目は、国だけではなく、地方においても再犯防止の取組を推進する必要があるという意識が醸成されつつあることです。推進法において地方公共団体の責務が明記されてから約5年が経過しましたが、モデル事業の実施結果などを通じて、地方公共団体においてどのように再犯防止の取組を進めるべきかのモデルが確立しつつあります。その結果、地方再犯防止推進計画の策定団体数も増加しており、地方における再犯防止の取組は着実に歩みを進めています。今後、これらの流れを確かなものとするためにも、引き続き、法務省を始めとした国からの支援を行う必要があると考えています。

5 おわりに

 モデル事業が終了した2021年度から、法務省においては、その成果を踏まえ、国と地方公共団体の協働による地域における効果的な再犯防止の取組の好事例を全国の地方公共団体に広く普及するとともに、都道府県と市町村が連携した取組を促進するための協議会等を開催することしています(【施策番号105】参照)。これらの機会等を通じて、国、都道府県、市町村の下で、モデル事業を土台とした新たな取組の在り方についての協議がなされ、再犯防止の担い手となる地方公共団体が増えていくことが期待されます。

資7-105-2 地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等
資7-105-2 地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等 1
資7-105-2 地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等 2
資7-105-2 地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等 3
資7-105-2 地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等 4
資7-105-2 地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等 5
資7-105-2 地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等 6
資7-105-2 地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等 7

(3)地域のネットワークにおける取組の支援【施策番号106】

 地域再犯防止推進モデル事業(【施策番号105】参照)における委託先の地方公共団体においては、刑事司法関係機関の職員、支援等を行う民間団体等の職員等を構成員とする会議体を設置し、これを定期的に開催することにより、事業の実施状況・課題の把握や対策の検討等を行うなどしてきた。

 法務省は、地域再犯防止推進モデル事業の終了後もこうした会議への職員の参画や必要な情報提供等を通じて、地方公共団体が、公的機関や保健医療・福祉関係機関、各種の民間団体等の地域の多様な機関・団体とネットワークを構築し、連携して支援等を実施するための取組を支援している。

(4)資金調達手段の検討の促進【施策番号107】

 法務省は、2019年度(令和元年度)、再犯防止活動における民間資金を活用した成果連動型民間委託契約方式の案件組成のための調査研究を実施した(【施策番号96】参照)。また、「成果連動型民間委託契約方式の推進に関するアクションプラン」(【施策番号97】参照)において、関係府省庁が連携し、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)を含む成果連動型民間委託契約方式(PFS)の普及促進を図ることが明示された。

 SIBは、事業者が金融機関等から資金の提供を受け、その償還等を成果に連動した報酬に応じて行うことにより、民間の団体等の創意と工夫を最大限に引き出すこと等が期待される仕組みであり、法務省においては、地方公共団体に対し、2021年度(令和3年度)から実施することとしているSIBを活用した再犯防止事業の実施状況も含め、再犯の防止等に関する施策や民間の団体等の活動を推進するための資金調達手段の検討を働き掛けることとしている。

 内閣府は、2021年2月に、SIBを含むPFS事業を実施しようとする国又は地方公共団体等が当該事業を円滑に実施できるよう、PFS事業の実施に関する一連の手続の概説等を示した「成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)共通的ガイドライン」※1を作成、公表した。また、2021年度からSIBを含むPFS事業を実施する地方公共団体を対象として、より高い成果創出時に必要となる委託費の成果連動部分等について複数年にわたる補助を行うとともに、評価の専門機関が当該PFS事業に必要な成果評価を支援する事業「成果連動型民間委託契約方式推進交付金」等(資7-107-1)の取組を開始している。

資7-107-1 成果連動型民間委託契約方式推進交付金等について
資7-107-1 成果連動型民間委託契約方式推進交付金等について
  1. ※1 成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)共通的ガイドライン
    https://www8.cao.go.jp/pfs/guidelines.pdf成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)共通的ガイドラインのqr