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第2節 満期釈放者対策の充実強化

1 刑事施設における満期釈放者対策

(1)釈放時保護

 満期釈放者の中には、親族等からの援助や公的機関等による保護を受けることができず、再犯防止のために釈放時に何らかの支援や保護が必要となる者がいる。刑事施設では、こうした者に対し、本人の釈放時の状況を踏まえ、必要に応じて、例えば、帰住地までの旅費の支給や公共交通機関に乗車するための援助等を行っている。更には、満期釈放後に保護観察所による更生緊急保護を適切に受けられるように、必要に応じて、釈放時に保護カード※9を交付している。

(2)社会福祉士等による支援

 原則、全ての刑事施設では、受刑者の福祉サービスのニーズを早期に把握し、釈放後、円滑に福祉サービスを利用できるよう、常勤職員である福祉専門官や、非常勤職員である社会福祉士又は精神保健福祉士(以下、まとめて「社会福祉士等」という。)を配置している。

 福祉的支援が必要な受刑者の中には、帰住先がなく、適当な引受人もおらず、刑事施設釈放後に十分な福祉サービスを受けることが困難な者がおり、その多くは満期釈放となるところ、社会福祉士等はこれらの者の社会復帰を支援する上で重要な役割を担っている。具体的には、受刑者の中から釈放後に福祉サービスが必要となる対象者を掘り起こし、福祉的支援における対象者のニーズを引き出すとともに、個々の対象者ごとに、住民票の有無や福祉サービスの利用歴、障害者手帳の有無や希望する帰住先等について、多岐にわたる調査を行い、保護観察所等の関係機関・団体と連携して、出所後に必要な福祉サービスを受けることができるように調整を行っている。

(3)社会復帰支援指導プログラム

 刑事施設においては、高齢又は障害のある受刑者に対して、「社会復帰支援指導プログラム」(以下、本節において「プログラム」という。)※10を実施している。プログラムでは、刑事施設の職員による指導のほか、民間の専門家等を指導者として招へいするなど、関係機関等の協力を得ながら、基本的動作能力や体力の維持・向上、基本的健康管理能力・基本的生活能力(金銭管理、対人関係スキル等)の習得等、多岐にわたる内容を指導している。

 プログラムの対象者には、福祉的支援が必要な者や満期釈放となる見込みの者も含まれており、こうした者に対しては、各種福祉制度に関する基礎的知識の習得を始め、満期釈放になることも見据えて、更生緊急保護の意味、その条件及び措置の内容や保護観察所での更生緊急保護の申出の場面を想定して、ロールプレイング等が行われている。

CASE1

高齢で認知症の疑いがある特別調整対象者への支援ケース
(執筆者:刑事施設 福祉専門官)
※ 実際のケースを元に一部内容を改変しています。

 70歳代、男性、複数回の受刑歴ありというケース。本人は、離婚後、家族と疎遠になったため、出所後に頼れる親族も住居もなく、刑務所の調査(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)において、認知症の疑いが認められました。そのため、帰住先の確保や釈放後の福祉サービスの受給に向けた手続等、福祉的支援の必要性が高いと判断し、福祉専門官による支援を実施することとしました。

 支援開始後、福祉専門官による面接を実施し、本人に対して出所後に福祉サービスを受けることを提案したところ、本人は、共同で生活するところは好きではない、自分で生活保護等の手続もできるといった理由で支援を拒否しました。本人は所内の日常生活も無難にこなしていたため、支援の必要性を見極めにくい状況にあったことから、一般改善指導として実施している「社会復帰支援指導プログラム」を受講させ、指導に関与している地域生活定着支援センター及び地域包括支援センター職員や刑務所の教育専門官と福祉専門官が連携して、本人の認知症の状況を観察しながら、福祉的支援への動機付けを図ることとしました。本人はプログラムを通して、各種福祉制度の手続を自力ではできないことを自覚するようになり、不安な様子を見せるようになったことから、プログラムの受講直後、再度、福祉専門官から福祉的支援の希望の有無を確認したところ、特別調整を受けることを希望しました。

 本人が特別調整を受けることを希望したのが刑期終了の3か月前であったものの、福祉専門官から保護観察所に情報提供し、速やかに特別調整の選定手続が行われたことから、刑期終了の2か月前に特別調整対象者として認定されました。その後、刑務所、保護観察所及び地域生活定着支援センターが連携し、帰住先(受入施設)の確保や釈放後の福祉サービスの受給に向けた調整などの支援を実施しました。刑務所においては、釈放までの間に、戸籍の取寄せや年金の受給状況の確認、住民票の転入手続や介護保険認定に必要な書類の準備等を行いました。

 本人は、自分が特別調整の対象となっていることや職員から説明された内容をすぐに忘れてしまうことから、福祉専門官は、安心感を持たせるよう心掛けながら面接を実施するとともに、支援内容を視覚的に理解しやすいようホワイトボードを用いて丁寧な説明を繰り返し行いました。支援を開始した当初は、緊張した様子で険しい表情を見せ、口数も少なかったのですが、支援が経過するにつれて表情も穏やかになり、口数も徐々に増えていきました。釈放が近づく頃には、笑顔も見せるようになり、最終的には、保護観察所等が受入先として調整した高齢者住宅を帰住地として満期釈放となりました。

(4)調査専門官と処遇部門の連携

 第1節2(4)のとおり、刑事施設の長が仮釈放の申出をする場合は、「刑事施設における矯正処遇への取組状況」や「反則行為又は規律に違反する行為の有無」を考慮する必要があるため、帰住先がある場合でも、受刑中の行状が不良である場合はその申出を行うことができず、また、一旦、仮釈放の申出をしたものの、行状不良等により刑事施設の長がその申出を取り下げることで、仮釈放されることのないまま満期釈放となる場合がある。

 このような受刑者に対しては、日々の生活場面における指導や助言を行うことによって、受刑生活や矯正処遇への前向きな取組を促していくことが重要となる。一部の刑事施設においては、特に行状不良が目立つ者や心情が不安定な者等、刑事施設における生活に適応できていない者に対して、調査専門官(心理学等の専門的知識及び技能を有する常勤職員)が処遇に関与し、カウンセリング等を実施することにより、その問題の改善に向けた働き掛けを行っている。

CASE2

調査専門官が作業拒否を繰り返す受刑者の処遇に関与したケース
(執筆者:刑事施設 調査専門官)
※ 実際のケースを元に一部内容を改変しています。

 30歳代、男性、複数回の受刑歴ありというケース。本人の知的能力は、受刑者の中で「中」の段階にあり、薬物依存による後遺症を有していました。恵まれない家庭環境やいじめ被害等のため小学校から学校生活にうまくなじめず、中学校卒業後も精神疾患を患うなどして就労経験もほとんどないまま今日に至っていました。受刑当初は一般工場で作業していたものの、被害妄想的な思考や幻聴等の影響もあって、次第に対人関係を忌避する傾向が強まり、作業を繰り返し拒否するようになったことなどから、まずは、対人関係に対する不安の低減や心情安定を目的に「観察居室での処遇」を行うこととしました。

 「観察居室での処遇」とは、反則行為の反復や精神疾患等により終日単独室で生活している者等に対して、集団生活に慣れさせ、工場での就業につなげることを目的に、大規模な一般工場ではなく、共同室(最大6名)において作業に取り組ませる処遇です。1クール3か月を基本とし、調査専門官が処遇の開始時、終了時及び随時にカウンセリングを行っているほか、毎日、作業開始前や運動場などで声掛けを行い、対象者との信頼関係を構築しつつ、処遇への適応状況や観察居室内での対人関係等を把握しています。

 「観察居室での処遇」開始後、本人は、対人関係上の大きな問題はなく推移したものの、1クール終了前に幻聴により自傷行為に及び、保護室※11に収容されました。その後、調査専門官において声掛けを継続するとともに、精神症状の軽減を待って面接を行ったところ、徐々に本人も意欲を示すようになったことから、改めて「観察居室での処遇」を開始しました。観察居室での作業や調査専門官による声掛け・カウンセリングを継続した結果、1クール目に比べて心情は格段に安定し、作業上も対人関係上もほとんど問題なく推移しました。「観察居室での処遇」終了後は、一般工場での就業に対する不安や集団生活に対する苦手意識を考慮し、小集団での清掃等の環境整備や居室内作業を行わせることとなりました。以降、本人は、いずれの作業にも熱心に取り組み、釈放後の生活に対する前向きな発言も増えていきました。

 本人は、釈放後の帰住先は確保されていたものの、作業拒否を繰り返していたことから、当初は仮釈放の申出がなされていませんでした。しかし、上記のような「観察居室での処遇」や調査専門官の積極的な関与が成果を上げ、一進一退する時期はありつつも、自分のできることに取り組むようになりました。そうした成功体験の積み重ねが後押しとなって改善更生への意欲も認められるようになったことから、仮釈放の申出につなげることができ、刑期終了約1か月前に仮釈放となりました。

  1. ※9 保護カード
    刑事施設から出所するときなどに釈放者が更生緊急保護の必要があると認められる場合や、釈放者が更生緊急保護を希望する場合に、刑事施設等で交付するカードのこと。同カードには、釈放者の表示、釈放の事由等のほか、更生緊急保護の要否に関する刑事施設の長等の意見が記載されている。
  2. ※10 社会復帰支援指導プログラム
    施策番号35】参照。
  3. ※11 保護室
    被収容者が自身を傷つけるおそれがあるときのほか、刑務官の制止に従わず、大声又は騒音を発するとき、他人に危害を加えるおそれがあるとき、刑事施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれがあるときにおいて、かつ刑事施設の規律及び秩序を維持するために特に必要があるときに収容する目的で設けられた、特別の設備及び構造を有する居室のこと