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第2節 満期釈放者対策の充実強化

2 保護観察所における満期釈放者対策

(1)更生緊急保護による支援

 保護観察所においては、満期釈放者、保護観察に付されない全部又は一部猶予者、起訴猶予者等に対し、その者の申出に基づき、刑事上の手続等による身体の拘束を解かれた後6月を超えない範囲内(特に必要がある場合には、更に6月を超えない範囲内)において、更生緊急保護の措置を実施している。満期釈放者等の中には、必要な援助又は保護を受けられないため社会に適応できず、再犯に至る者も少なくなく、更生緊急保護は、こうした者の再犯を防ぎ、改善更生することを助けるため、必要な限度で行うこととされている。

 本項においては、満期釈放者対策として保護観察所が行う更生緊急保護の実情について、取組事例等を交え、具体的に紹介する。

CASE1

~岡山保護観察所における更生緊急保護の実情~
(執筆者:岡山保護観察所)

 岡山保護観察所においては、2021年度(令和3年度)、満期釈放者対策を主たる業務の1つとして所掌する社会復帰対策班(【施策番号42】参照)が設置され、同班に所属する保護観察官が、更生緊急保護を申し出た人に対する支援等を行っています。

 更生緊急保護を申し出た人が希望する支援のほとんどは、住居確保に係るものであり、併せて就労支援を希望する場合もあります。他方、申出の時点で、支援の必要がありながらも、福祉サービス等の受給や薬物依存等からの回復訓練について支援してほしいと申し出る人は多くないというのが実情です。

 そのような更生緊急保護の実情について知っていただくため、ある事例を紹介します。ある日、Aさんから更生緊急保護の申出がありました。話を聞くと、約5か月前に遠方の刑事施設を満期釈放となった後、様々な場所を転々とし、直近ではホームレス支援団体から支援を受け、生活保護を受給して生活していたものの、人間関係が嫌になり、そこを飛び出してしまい、過去に行ったことがあるという理由で、今回、岡山県に来たとのことでした。急いで取り寄せた関係資料によると、Aさんは、手指の不自由のほかに、軽度知的障害の疑いがあるということが分かりました。Aさんの希望は、当面は岡山県で生活したいが住むところがないので住居支援をしてほしいほか、自分にできる仕事があれば働きたいというものでした。そこで、自立準備ホーム※12への入所を調整しつつ、Aさんの特性に鑑み、Aさんから同意を得た上で、岡山県地域生活定着支援センター(以下「岡山定着」という。)に協力を依頼し、福祉サービス等につなげつつ、Aさんに合う就労先を探すこととしました。約10日後、保護観察官が岡山定着の職員とともにAさんと面接をし、今後は、福祉事務所に行ったり、就労支援B型事業所に体験しに行ったりして生活を整えることとしました。他方、Aさんは少し前まで他県で生活保護を受給していたため、そこでの受給を止める手続が必要であり、岡山県で生活保護を受給するには、ある程度の時間が掛かることが見込まれていました。面接の3日後、Aさんが岡山定着の職員とともに福祉事務所に行った際、岡山県ですぐに生活保護を受給できないことにいら立ち、「もう岡山県には住めない。」と思い込み、その日のうちに、自立準備ホームを無断で退所してしまいました。保護観察官に対しては、生まれ故郷の九州地方に行きたいため、その旅費を支援してほしいという希望を述べました。もちろん、保護観察官は状況を説明し、当初の希望どおり、岡山県で生活を安定させてはどうかと説得しましたが、残念ながらAさんはその話を聞き入れてくれず、最終的には旅費を支援することとし、Aさんに対する支援を終えることとなりました。

 このように、更生緊急保護による支援は、申出をした人の意思に基づき、保護観察所が必要性や相当性を考慮した上で行うものですが、強制力がないため、申出をした人が拒否するなどしたときは、支援をしたくてもできない状況となります。また、住居や就労などの分かりやすい「困り感」を解消しようとするだけでも、ある程度の時間を要し、Aさんのように「生きづらさ」を抱えた人には、さらに内面的な「困り感」を和らげていくことが重要となるため、本来であれば中・長期的な関わりが必要です。

 そのような課題を踏まえて、保護観察所においては、Aさんのように自立準備ホームに入所するなどしていなくても、一定期間支援していく必要があると認められる人に対しては、社会復帰対策班を中心として、保護観察所が継続的に関与し、その特性に応じた支援が受けられるよう関係機関と連携して継続的支援(【施策番号43】参照)を行っていく体制を整えたところです。また、更生緊急保護の申出をした人が、目の前の「困り感」の解消のみならず、自身の「生きづらさ」を和らげることに粘り強く取り組み続けることは容易ではないですが、保護観察所は、少しでも生きやすくなるよう継続的支援を行うなどし、再犯・再非行の防止や改善更生に取り組んでまいります。

特1-1 保護観察官と岡山県地域生活定着支援センター職員との協議の様子
特1-1 保護観察官と岡山県地域生活定着支援センター職員との協議の様子

(2)住居確保のための支援

 刑務所出所者等の改善更生には適当な住居の確保が不可欠であるが、第1節2(3)のとおり、刑務所出所者等の中には、行き場がなく満期釈放となる者が多数存在している。このため、更生保護施設(【施策番号26】参照。)が中心となって行き場のない刑務所出所者等を受け入れ、その社会復帰を支援しているほか、民間法人等が有する空き家等を活用した自立準備ホームの活用や、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成19年法律第112号、通称「住宅セーフティネット法」)に基づき居住支援を行う居住支援法人などとの連携を通じて、住居確保に取り組んでいる。ここでは、特に自立準備ホームの取組について取り上げる。

 法務省では、行き場のない刑務所出所者等の生活基盤を確保し、円滑に社会復帰できるよう、地域社会に多様な居場所を確保する方策として、2011年(平成23年)4月から「緊急的住居確保・自立支援対策」を開始した。この「緊急的住居確保・自立支援対策」に基づき、宿泊場所を確保している民間法人等(例えば、薬物依存症リハビリテーション施設の運営や路上生活者等の支援を行うNPO法人や、障害者・高齢者等の支援を行う社会福祉法人等)が、行き場のない刑務所出所者等に対し、住居と生活支援を一体的に提供する宿泊場所のことを「自立準備ホーム」という。自立準備ホームでは、保護観察所の委託を受けて、宿泊場所の提供と自立のための生活支援のほか、必要に応じて食事を提供している。自立準備ホームには、前述のような多様な分野の民間法人等が参入しており、それらの法人等が持つ支援ノウハウを活用し、刑務所出所者等の特性に合わせた支援を行っている。

 この自立準備ホームの取組について、満期釈放者の住居確保という点にスポットを当てて、実際に自立準備ホームを運営している事業者の方に伺ったお話も交えながら、紹介する。

CASE2

~自立準備ホームの取組~
(執筆者:法務省保護局更生保護振興課)

 保護観察所は、刑務所等を満期で出所し、帰る場所のない人から相談を受けると、必要に応じて住む場所を調整しますが、このときに自立準備ホームに受入れをお願いすることがあります。こうした人は他に行き場所がなく、所持金がないことも多いため、受入れをお願いしたその日に自立準備ホームでの受入れが決まり、保護観察所まで迎えに来てもらうということもあります。

 自立準備ホームはあくまで緊急的・一時的な住まいなので、入所後、本人は、就労先を探し、お金を貯めるなど、自立を目指して生活することになります。事業者は、入所者たちがしっかりと自立できるように、自立準備ホームの決まり事を設けたり、日々入所者と接して自立を促すなどの支援を行いますが、時には対応に難しさを感じることもあるといいます。例えば、満期釈放者特有の対応の難しさとして、仮釈放となり保護観察を受けている人であれば、保護観察中に守らなければならないルール(遵守事項)がありますが、満期釈放者にはそれがなく、自分勝手に行動してしまう人もいる、ということがあります。そのような人に対しては懇切・丁寧に指導を重ねるしかありませんが、それでも改善されず、自立準備ホームから退所してもらわざるを得ないケースも残念ながら存在します。

 他方で、刑務所等から満期で釈放されて行き場がなかったところを、自立準備ホームで受け入れてもらったことに感謝し、期待を裏切らないために努力して、就労先を見付けて自立していく人たちも多く存在します。刑務所から満期で出てきた人が、自立準備ホームに入所して、そこで就労先を熱心に探し、それが就職に結び付き、地域社会の中に居場所を確保し、自立して自立準備ホームを去っていくという、立ち直りの過程を支えることができるのはとても嬉しく、やりがいを感じるといった、事業者の声も聞かれます。自立準備ホームは、こういった民間の事業者の熱意によって支えられている制度であるとも言えます。

 このように、行き場のない刑務所出所者等の生活基盤を確保し、本人の自立を促すという自立準備ホームの取組は、更生保護施設と並んで、再犯防止に貢献している重要な取組です。近年、自立準備ホームの登録事業者数や、保護観察所の委託件数が増加しています。また、平均委託日数も増加傾向にあり、自立準備ホームでも、立ち直りに困難を伴う者を受け入れているといえます。これらの傾向からも分かるとおり、行き場のない刑務所出所者等の社会復帰を支えていかなくてはならないという中で、自立準備ホームの役割は、今後ますます大きくなっていくと思われます。

 登録事業者の皆様にはこの場を借りて深くお礼を申し上げるとともに、一人でも多くの行き場のない刑務所出所者等の住居を確保できるよう取り組んでまいります。

  1. ※12 自立準備ホーム
    本特集第2節2(2)「住居確保のための支援」参照。