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内外情勢の回顧と展望(平成20年1月)

第3 平成19年の国内情勢

1 オウム真理教

(1) 教団運営をめぐる対立からオウム真理教が分裂

―主流派は師クラスの中堅幹部グループと正悟師との確執が顕在化―
―上祐派は“脱麻原”を宣言し“新団体”「ひかりの輪」を設立するも,依然として麻原の影響下にあると認められる―
―公安調査庁は,両派に対して観察処分を厳正に実施―


〈“麻原隠し”の上祐派と“麻原回帰”の主流派が教団運営をめぐり対立〉

 オウム真理教(教団)は,観察処分を逃れるため,平成15年2月以降,正大師・上祐史浩が“麻原隠し”路線を推進したが,古参信徒の反発などを招き,正悟師5人(野田成人,村岡達子,杉浦茂,杉浦実,二ノ宮耕一)による集団指導体制へと移行し,麻原への絶対的帰依を強調する“麻原回帰”路線に転換した。その後,指導部復帰を表明した上祐を支持する上祐派とこれに反対する主流派(反上祐派)の対立が顕在化し,両派の対立は,集中セミナーの分裂開催(平成17年末以降),施設や財政の分離(平成18年7月)を経て決定的となった。


教団分裂に至る経緯
教団分裂に至る経緯


〈主流派では,中堅幹部グループが台頭,主導権をめぐり正悟師と確執〉

 前記分離後,主流派においては,師クラスの幹部信徒約10人で構成される中堅幹部グループが,上祐の“麻原隠し”路線に理解を示す方向に変わった4人の正悟師(二ノ宮耕一を除く)を強く批判し,同グループ主導の下,平成18年7月,組織運営をめぐる諸問題を協議・検討する意思決定機関として出家信徒の会合「合同ミーティング」(第6回以降「成就者合同会議」に名称変更)を設置した。同グループは,同会議内に,諸問題ごとにグループのメンバーを配置したプロジェクトチームを編成し,麻原への絶対的帰依の徹底を喫緊の課題として取り上げ,信徒教化の方策を打ち出すなど,組織の実権を掌握する動きを強めた。
 その後,3月に上祐派が「宗教団体アーレフ」を脱会したのに伴い,正悟師・野田成人が「アーレフ」役員の互選により新代表に就任したと表明したが,中堅幹部グループは,反発してこれを認めず,4月に「運営準備委員会」を設置して,同グループの中核メンバーを同委員会の共同幹事に選出し,規約改正や新代表選出の準備を開始するなど,同グループによる支配を一層強固なものとした。これに対し,野田は,インターネットなどを通じ同グループ批判を展開したが,多くの支持者を獲得するには至っていない。


〈上祐派は“新団体”「ひかりの輪」を設立〉

 「アーレフ」を脱会した上祐派は,5月連休集中セミナー期間中,信徒に“新団体”の名称「ひかりの輪」を発表するとともに,「旧教団の宗教色すべてを放棄することに成功した」として“脱麻原の完了”を宣言し,“新団体”の設立式典を開催した。その上で,上祐派は,5月9日,東京・南烏山施設で記者会見を開き,組織概要として,5月6日時点の構成員(出家信徒57人,在家信徒106人の合計163人),役職員(代表・上祐史浩,副代表3人,その他役員9人)のほか,特定の人物を唯一絶対化する盲目的信仰をせず,社会に奉仕するなどの基本理念を公表した。
 しかし,“新団体”の信徒の大多数は「アーレフ」から移行したもので,出家信徒のほぼ全員,在家信徒の7割以上が「地下鉄サリン事件」以前に入信した信徒で占められている。また,従来の出家制度を維持したまま,集団居住を継続し,従前同様,麻原の説く衆生救済を目的に,教学,瞑想,ヨーガ行法を中心とした修行を実践するなど,依然として麻原の影響下にあると認められる。


〈公安調査庁は,両派に対して観察処分を厳正に実施〉

一斉立入検査(5月10日・大阪施設)
一斉立入検査(5月10日・大阪施設)

 公安調査庁は,1月以降11月末までの間,16都道府県,延べ40か所の教団施設に対して立入検査を実施した。とりわけ上祐派が“新団体”「ひかりの輪」の設立を記者発表した翌日の5月10日には,上祐派6施設を含む12都府県に所在する主要15か所の教団施設に対して一斉に立入検査を実施した。その結果,主流派の施設はもとより,2月末までにすべての麻原関連物件を破棄したと主張していた上祐派の施設5か所においても,麻原の肖像写真やその説法映像を収録したビデオテープなどが保管されている事実が確認された。
 また,公安調査庁は,平成19年中,3か月ごと4回にわたり,教団から,組織や活動の現状に関する報告を徴取した。
 これら教団からの報告内容を始め立入検査や調査の結果などについては,団体規制法第32条に基づき,1月から11月末までの間,請求のあった4都県13市区に対し,延べ39回にわたり,必要な情報を提供した。
 11月末現在,教団の拠点施設は,15都道府県内に29か所あるが,その周辺に居住する住民らは,今なお不安感を抱き,住民組織を結成して,教団施設を監視したり,教団の早期解散や施設退去を求めて抗議集会を開催するなど活発な運動を展開しており,公安調査庁も,前記のように地方公共団体に情報提供し,住民組織に教団の現状を説明するなど,地域住民の不安解消に努めた。
 なお,日本国内における教団の信徒は,組織運営をめぐる路線対立に失望したり,嫌気を覚えた出家信徒の脱会が相次いだことなどから,約1,650人(出家信徒約650人,在家信徒約1,000人)から平成19年11月末時点で約1,500人(出家信徒約500人,在家信徒約1,000人)に減少したが,大半が地下鉄サリン事件以前に入信した麻原への絶対的帰依心の強固な者である上,後述のとおり,両派共に新規信徒獲得に力を注いでいる状況が認められる。


(2) 組織の結束強化を図り,麻原への絶対的帰依の徹底を進める主流派

―中堅幹部グループが,対立する正悟師を排除して組織運営の実権を掌握―


〈中堅幹部グループが4人の正悟師を排除,うち2人が「アーレフ」を脱会〉

 主流派では,麻原への絶対的帰依の徹底を進める中堅幹部グループが,二ノ宮を除く4人の正悟師を,上祐派との共存を図ろうとしているとして強く批判し,排除する動きを強めた。
 このうち,「アーレフ」新代表への就任を表明した野田成人に対しては,その権限を認めず,5月以降,公安調査庁長官あてに提出する教団報告についても,「運営準備委員会」の共同幹事名で提出したほか,全出家信徒間の連絡に使用される電子掲示板を,野田が同グループに対する批判のために利用していたとして閉鎖するなど,事実上,組織運営から野田を排除した。
 また,正悟師・村岡達子に対しては,同グループに属する経理担当者が,責任者である村岡の承認を得ずに資金を支出するなど,事実上,経理業務から村岡を排除した。その結果,7月下旬には,村岡が経理責任者を辞任するに至った。
 さらに,教団内における経典翻訳を担当していた正悟師・杉浦茂に対しては,「今後は尊師の説法だけを修習するので,経典の翻訳者は不要」との方針を打ち出した。その結果,杉浦茂は,7月初旬,「アーレフ」を脱会し,同人の実弟である正悟師・杉浦実も,同月中旬,同じく脱会した。


〈中堅幹部グループが麻原への絶対的帰依の徹底を進める指導を強化〉

 主流派は,中堅幹部グループ主導の下,「上祐派の新団体設立の影響により,信徒の麻原に対する帰依に揺らぎが生じた」として,麻原への絶対的帰依を徹底するための各種修行を信徒に課した。
 出家信徒に対しては,中堅幹部グループを始めとした古参信徒が麻原の偉大性に関する体験談を披露する「グル(尊師)を語る会」や会場の照明を落とし大音量で麻原の説法などの映像を長時間連続視聴させる「特別ビデオ教学セミナー」などを実施した。一方,在家信徒に対しては,5月連休及び夏季集中セミナーなどにおいて,出家信徒同様に,麻原の説法ビデオを長時間にわたり視聴させたり,幹部信徒が麻原に縁のある地を巡って麻原の偉大性を強調する内容を収録したビデオを放映するなどの指導を実施した。これらの指導によって,信徒の中には,麻原に対する絶対的帰依を強めたり,麻原の意思の実践を再認識する者が確認されている。
 また,中堅幹部グループは,夏季集中セミナーにおいて,麻原の三女を称賛する内容の麻原の説法映像を視聴させたほか,現在も,麻原の長男らその家族への期待を表明しており,施設の祭壇に掲げられている絵画の使用料の名目で,麻原の妻に対する経済的支援を依然として継続している。
 このほか,主流派は,平成19年を「ボーディサットヴァ(菩薩)の年」と位置付け,麻原の説く衆生救済の実現に向けて,信徒勧誘活動への取組を強化しており,在家信徒を使い,悩み事を抱えたり,精神世界に興味を持つ者をファミリーレストランなどに誘い出し,出家信徒が,身分を秘匿し,悩み相談などを行いつつ勧誘するなどの活動を展開した。
 主流派は,同グループの動きを牽制してきた正悟師らが「アーレフ」を脱会するなどしたことから,麻原への絶対的帰依の徹底を更に進め,その一環として,平成18年9月に死刑判決が確定した麻原の延命を祈願するよう日常的に指導していることから,依然,麻原を盲信する信徒による不法事案じゃっ起の可能性も否定できず,その動向には注意を要する。


特別ビデオ数学セミナーの状況(1月31日八潮大瀬施設立入検査) 麻原の妻が原画を描いたとされる絵画(左右の絵)を掲げた祭壇(1月31日八潮大瀬施設立入検査)

特別ビデオ数学セミナーの状況(1月31日八潮大瀬施設立入検査)

麻原の妻が原画を描いたとされる絵画(左右の絵)を掲げた祭壇
(1月31日八潮大瀬施設立入検査)


(3) “脱麻原”をアピールし,勢力拡大を企図する上祐派

―インターネットを活用するなど布教・宣伝活動を活発化―


〈巡礼ツアーを実施し,新教材を作成して“脱麻原”をアピール〉

 上祐は,5月に“新団体”を設立して以降,全国の各施設を巡回し,毎週末に説法会を開催したほか,全国各地の神社仏閣など,上祐自ら“聖地”と認定した地を在家信徒と共に訪問し,修行のほか,歌や踊りのパフォーマンスを行う「聖地巡礼ツアー」を実施した。また,新教材として上祐の説法などを収録した教本やDVDを次々に作成・配付した。このように,上祐派は,対外的に“脱麻原”をアピールしたが,前記ツアーは,麻原の従来の修行や勧誘の方法を模倣したにすぎない上,新教材にも麻原の説く教義を内包するなど,依然として麻原の影響下にあると認められる。


〈上祐自ら,インターネットを活用した布教・宣伝活動を展開〉

巡礼ツアーにおける信徒のパフォーマンス
巡礼ツアーにおける信徒のパフォーマンス

 上祐は,インターネットを利用した布教・宣伝活動の一環として,2月に「上祐史浩オフィシャルサイト」と題する一般向けブログを開設し,3月には,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に自身の日記公開を開始した。特に,SNSでは,上祐派の“新団体”の取組や意気込みなどについて,積極的に宣伝したことが功を奏し,同日記の閲覧を希望する者が殺到したため,これら閲覧希望者を地域別に割り振った上で,各支部の在家信徒に接触するよう督励し,上祐の説法会への参加を呼び掛けるなどした結果,入会する若者も現れた。
 また,主流派信徒の取込みを企図し,信徒勧誘に実績のある主流派出家信徒が「アーレフ」を脱会するや,上祐自ら面談して“新団体”への加入を働き掛けたり,主流派在家信徒に対して,「聖地巡礼ツアー」や説法会への参加を呼び掛ける電子メールを送信するなどした結果,主流派から上祐派に移行する者も現れた。
 今後,同派が,インターネットを活用した布教・宣伝活動を活発化させることで,教団の実態を知らない若者らが取り込まれていく可能性もあり,同派の勢力拡大に向けた取組状況には注意を要する。

立入検査実施

2 共産党・過激派等

(1) 在日米軍の再編計画や自衛隊の海外派遣に反対する取組を展開

―米軍普天間基地代替施設の建設海域における現況調査を契機に抗議活動を活発化―
―自衛隊のインド洋での給油活動や核兵器廃絶問題などをめぐって,日米両政府を批判する活動を展開―


 共産党や過激派は,平成18年に引き続き,在日米軍再編計画の撤回や自衛隊のイラク撤退などを掲げた取組に力を注ぎ,この間,在日米軍基地を標的とした過激派によるテロ・ゲリラ事件(2月)も発生した。


〈普天間基地代替施設建設のアセスメントに対する反対活動を活発化〉

那覇防衛施設局の調査船と反対派のカヌー(5月)
那覇防衛施設局の調査船と反対派のカヌー(5月)

 共産党や過激派は,在日米軍再編計画に基づく米軍の機能や訓練の移転が順次進められる中,年間を通じて,基地周辺の反対派住民らと共に,「在日米軍再編・基地機能強化反対」を掲げた集会・デモや関係自治体への要請行動などに取り組んだ。
 なかでも,沖縄県の米軍普天間基地代替施設建設をめぐっては,年初より,移転先の名護市辺野古において,代替施設建設に向けた調査や作業に即応するため,地元の反対派住民と共同で監視活動に取り組み,5月,那覇防衛施設局が建設予定海域の現況調査に着手するや,「新基地建設に向けた違法な調査」と反発し,海上で漁船やカヌーなどを使用した妨害活動を開始した。さらに,8月,同施設局が沖縄県知事に方法書を送付してアセスメントの手続を進めたことにも反発し,建設計画の撤回を求める意見書を施設局に提出するよう県内の反基地団体などに呼び掛けるとともに,10月,国際的な自然保護団体「グリーンピース」と共に,海上デモを実施するなど,反対活動を一段と活発化させた。こうした中,5月,共産党が沖縄県内の反基地団体と共に実施した「米軍嘉手納基地包囲行動」(約1万人)では,県内外労組や市民団体のほか,過激派も参加して「普天間基地の県内移設反対」を訴えた。


〈反対派住民を巻き込みながら「在日米軍強化反対」の取組を展開〉

 共産党は,米軍岩国基地(山口)への米空母艦載機部隊移駐計画をめぐり,同党が支援する市民団体を前面に押し立て,「岩国市長の受入れ反対姿勢を理由とする国庫補助金カットは不当」と政府を批判する活動を展開し,こうした取組を通じて反対派住民団体との連携を強めた。さらに,共産党は,10月以降,市長リコールの動きが表面化する中で,「市長の反対姿勢は岩国市民の意思を代表するもの」とする従来の主張を繰り返した。
 このほか,共産党や過激派は,米原子力空母の横須賀母港化計画を在日米軍再編の一つととらえて反対活動に取り組んだ。1月,共産党系団体が地元の反基地団体などと共に,母港化の賛否を問う住民投票条例の制定を横須賀市に請求したが,同市議会は,同条例案を否決した。さらに7月,「横須賀で原子炉事故が起これば,放射能被害が首都圏全体に及ぶ」と訴えて,原告として首都圏住民約650人を集めた上で,横須賀母港化に必要なしゅんせつ工事の差止めを求めて横浜地裁に提訴した。


〈海外の反グローバル化勢力と米軍基地撤去運動で連携する動きも〉

 共産党系団体は,先進国主導のグローバル化に反対する国内外の勢力などと共に,外国軍基地撤去運動の国際的組織「世界反基地ネットワーク」の発足に参画した。同ネットワークの発足集会(3月,エクアドル)では,共産党系団体を含め約30か国400人が参加し,「イラクとアフガニスタンからの外国軍即時撤退や侵略戦争に使われるすべての外国軍基地撤廃」を訴えた。


〈インド洋での給油活動を「戦争支援」と決め付けて反対行動を実施〉

「自衛隊即時撤退」を訴える集会(革マル派会)
「自衛隊即時撤退」を訴える集会(革マル派会)

 共産党や過激派は,航空自衛隊によるイラク復興支援活動や海上自衛隊によるインド洋での給油活動を焦点に,自衛隊の即時撤退を訴える取組を展開した。特に,共産党は,イラク復興支援特別措置法の2年間延長(6月)や補給支援特別措置法案の国会審議(10月~)に合わせ,国会内外での活動を活発化させた。このうち,補給支援特別措置法案の国会審議では,「米軍のアフガニスタン攻撃は9.11に対する報復戦争であり,これを支援する給油活動は違憲」などと政府・与党を追及し,さらに,各地で反対集会・デモを実施して,「国際貢献を名目とした米国への戦争支援継続は許されない」などと訴えた。また,過激派は,自衛隊員や輸送機・補給艦を国外に派遣している航空自衛隊小牧基地(愛知)や海上自衛隊呉基地(広島)周辺で,自衛隊員らに「戦争支援任務への拒否」を呼び掛ける宣伝活動を行った。


〈共産党系原水協は,核兵器廃絶を掲げて海外団体と活発に交流〉

原水爆禁止世界大会(広島)
原水爆禁止世界大会(広島)

 共産党や過激派は,平成19年を「アジアと世界の人々との連帯で核兵器廃絶運動を発展させる年」と位置付け,アジアを始めとする海外団体との連携・交流に重点を置いた取組を展開した。このうち,共産党系の「原水爆禁止日本協議会」(原水協)は,5月,韓国で開催された「反戦反核平和東アジア国際会議」に代表団約100人を派遣して,「米国の核兵器廃絶,軍事基地強化反対」を柱に,「朝鮮半島の非核化」に向け,韓国の反戦平和団体と連帯強化していくことを確認した。さらに,8月,非核保有国政府の代表ら約20か国100人の海外代表を招請して開催した原水爆禁止世界大会では,国連総会で核兵器全面禁止条約の協議を開始するよう求める決議を採択した。原水協は,こうした国際交流を通じて,北朝鮮の核開発問題について「平和的な解決が必要」などとする一方で,「米国は,核兵器使用を含む先制攻撃戦略を推進し,日本は,米国に追随して戦争する国づくりを進めている」などと日米両政府を非難する主張を展開した。また,原水協が賛同する英国での核兵器廃絶キャンペーンでは,7月,現地の座込み行動に参加した邦人が当局に身柄拘束される事案も発生した。
 このほか,中核派は,8月,広島,長崎で恒例の反戦・反核闘争を実施し,特に,市民団体などと共に取り組んだ「ヒロシマ大行動」では,中国,韓国の「戦争被災者支援」を掲げる団体の代表らを招請するなどして,「世界の反戦・反核運動との連帯」をアピールした。


〈在日米軍や自衛隊派遣問題を焦点に反戦・反基地運動を推進する構え〉

 共産党や過激派は,平成20年中も「在日米軍再編強化反対」や「イラク・インド洋からの自衛隊撤退」などを訴える反戦・反基地運動のほか,核兵器廃絶を掲げた国際交流に力を注ぐものとみられる。特に,普天間基地代替施設建設をめぐっては,政府と地元自治体との協議や,代替施設建設に向けた調査・作業の進ちょくに合わせ,反対活動がエスカレートするおそれもある。


(2) 憲法改正及び教育改革問題に加え,「年金」,「格差」問題で政府批判を展開

―憲法改正や教育改革の具体化を「戦争する国づくり」とみて反発―
―「年金」,「貧困・格差」などの諸問題を取り上げて政府を追及―


 共産党や過激派は,年初から,憲法改正や教育改革問題を取り上げて政府を批判・追及した。また,参院選を前に年金記録問題や雇用・賃金などの「格差」問題が国民の関心事となったことから,共産党は,これらの問題を取り上げて政府の責任を追及した。


〈国民投票法案に反発し,同法成立後も憲法改正反対運動を継続〉

国会前で国民投票法案の成立阻止を訴える抗議行動(共同)
国会前で国民投票法案の成立阻止を訴える抗議行動(共同)

 共産党は,1月の第3回中央委員会総会(3中総)で,憲法改正問題を重要課題の一つと位置付け,国民投票法案の廃案を目指す方針を確認した。また,5月に国民投票法が成立した際には,「対決はこれからが本番」と強調し,9月の第5回中央委員会総会でも,「憲法改悪反対の国民多数派を築く」として,運動の継続に強い意欲を示した。さらに,同党が支援する「九条の会」の活動を「しんぶん赤旗」で頻繁に取り上げるなど,憲法改正反対運動の継続と強化に努めた。
 過激派は,年初から,「国民投票法案粉砕」を訴え,国会周辺で抗議行動に取り組んだ。同法成立後も,「改憲案の発議粉砕」を訴えて運動の強化を図った。なかでも,中核派系の「とめよう戦争への道!百万人署名運動」は,全国集会を開催したり(5月),街頭や職場で署名活動に取り組んだ。


〈教育3法や全国学力・学習状況調査を「国家統制の具体化」と批判〉

 共産党は,3中総で,政府が進める教育改革の具体化阻止に全力を尽くすと表明した。通常国会では,教育3法案を「改悪教育基本法の具体化を図るもの」と批判し,同法成立後(6月)の参院選では,教育3法を「教員への統制を強化するもの」と主張して,「教育への国家介入」に反対する立場をアピールした。
 また,共産党は,43年振りに実施された4月の全国学力・学習状況調査に対しても,民間企業への業務委託などを問題視して,国会で政府の対応を批判した。調査結果の公表(10月)に際しても,調査の実施が「競争と序列化」を招いたと批判し,平成20年度以降の中止を主張した。
 過激派は,教育3法や全国学力・学習状況調査を「国家統制システム」と批判するとともに,機関紙を通じて法案の成立阻止や調査の中止を主張し,法案の国会審議に際しては,抗議の座込みや集会などを実施した。


〈急浮上した年金記録問題で政府の責任を追及〉

「しんぶん赤旗」6月号外
「しんぶん赤旗」6月号外

共産党は,約5,000万件に上る公的年金の記録漏れが2月に明らかとなり,5月に国会で取り上げられて国民の関心が急速に高まったことから,政府の責任を追及して反政府世論の醸成に努めた。国会では基礎年金番号制度導入後の歴代厚生・厚労大臣に共同の責任があると追及し,さらに,共産党系団体の国会前座込み行動に党国会議員を参加させ,政府の対応の遅れを批判した。参院選に向けては,年金記録問題の解決を重要な公約として掲げ,党演説会や「しんぶん赤旗」号外の配布を通じ,政府の責任で問題を解決するよう主張した。また,年金業務を民間などに移管する社会保険庁改革関連法が成立した(6月)際には,「公的年金の安定運営に対する国の責任を投げ捨て,問題の解決に逆行する」と批判した。
過激派は,社会保険庁改革について,「年金不明問題の責任を社会保険庁職員に転嫁し,解雇につなげようとするもの」と機関紙で批判した。


〈「貧困・格差」問題への取組で共産党が独自性をアピール〉

 共産党は,3中総で,貧困と社会的格差の広がりが一大社会問題になったとし,「貧困打開と生活防衛の国民的大運動」に取り組む方針を決定した。以降,地方党組織や同党系団体を動員して,各地で生活・労働相談活動などに取り組むとともに,党本部に「なくそう貧困・格差-情報ファクス」を設置して,生活苦の実態などにかかわる情報収集を行った。参院選に向けては,「財界・大企業重視の政治から国民生活を応援する政治への転換が必要」として,社会保障制度の拡充などを訴える党の政策を宣伝した。さらに,政府に対し,「ワーキングプア」の実態調査や生活保護を始めとする社会保障関連予算の見直しを求めるなど,「貧困・格差」問題を重視した取組を進めた。


〈「慰安婦」問題や「集団自決」の教科書記述問題で謝罪や撤回を要求〉

沖縄県民大会(宜野湾海浜公園)
沖縄県民大会(宜野湾海浜公園)

 共産党は,「慰安婦」問題に関し,7月の米国下院議会における謝罪要求決議の採択後は,国際的に批判を浴びていると強調し,政府に公式謝罪を要求した。
 沖縄戦「集団自決」に関する教科書記述問題では,3月の検定結果の発表後,「侵略戦争を美化する検定」と批判し,検定意見の撤回を求めて9月に沖縄で開催された県民大会には,党幹部らが参加した。
過激派は,教科書記述問題について,機関紙などで「史実の歪曲」と批判して,検定意見の撤回を主張し,同県民大会に際しては,中核派や革マル派の活動家が参加して,「『軍命』記述の削除を許すな」と訴えた。


〈国民生活にかかわる課題を取り上げて反政府世論の醸成に力を注ぐ構え〉

 平成20年は,年金,医療,税金など国民生活にかかわる課題が国民の高い関心を集めるものと予想される。こうした状況下,共産党や過激派は,これら生活関連の課題を取り上げて政府の施策を批判するなど,反政府世論の盛り上げに力を注ぐものとみられる。さらに,憲法改正や教育改革など国の根幹にかかわる課題についても,引き続き政府を批判・追及していくものと予想される。

(3) 組織建設活動の活性化を図る過激派

―主要三派は,勢力拡大を目指し,労働者・市民層への浸透・介入を推進―
―MDSは,イラク国内団体との連帯を訴えて,市民層に接近―


〈中核派は,内部統制を進めつつ,労働者,学生の取込みに力を傾注〉

11.4全国労働者決起集会開催時のデモ行進
11.4全国労働者決起集会開催時のデモ行進

 中核派は,年頭論文で,労働運動を軸に組織建設を進めるとした「階級的労働運動路線」を再提起するとともに,夏の「第23回全国委員会総会」において,同路線に反発してきた幹部らを除名した旨を公表し,体制の引締めを図りながら,これまで以上に組織建設に力を注ぐとの方針を改めて示した。
 同方針の下,卒業・入学式に臨む教員に対し,国旗掲揚・国歌斉唱時の不起立を呼び掛けるなどして,「日の丸・君が代」反対を訴えたり,自治体・郵政労働者には,地域労働者集会の開催や職場訪問を行うなどして,規制緩和・民営化阻止闘争への賛同を呼び掛け,学生に対しては,拠点大学で新入生歓迎のオルグ活動や大学当局の管理強化に反対する取組を展開した。さらに,6月から10月にかけて,憲法改正や在日米軍再編問題,「貧困・格差」問題などをテーマに「WORKERS ACTION」と銘打った集会・デモを全国各地で実施し,青年労働者や学生,市民の結集に努めた。この結果,同派は,労働者獲得の総決算の場と位置付ける11月の「全国労働者総決起集会」(東京)に,過去最高に並ぶ約2,700人(平成18年は約2,500人)を動員した。
 なお,成田空港建設をめぐり,同派は,「暫定平行滑走路北延伸粉砕,労農連帯強化」を掲げ,反対同盟北原派の支援を継続した。こうした中,10月の成田現地集会の記者会見では,ゲリラ戦の実行を抑制するかのような発言が行われたが,機関紙などでは,引き続き「革命軍」を含む非公然・非合法体制の強化を主張した。
 同派は,今後も武装闘争路線を堅持しつつ,国民の関心を集める社会問題を闘争課題に取り入れ,労働者や市民層への浸透に努めるものとみられる。


〈革マル派は,組織の結束・強化を図り,労働戦線での勢力拡大に努める〉

 革マル派は,年初から,憲法改正阻止及び自衛隊の海外派兵阻止などをスローガンに掲げて,東京,大阪など全国主要都市で「労学統一行動」に取り組み,公務員制度改革反対や非正規雇用者の処遇改善を訴えるなど,基幹産業労組を中心とする労働者・市民層への影響力拡大に取り組んだ。
 また,同派は,7月,「同志黒田一周忌」と題する論文を機関紙に掲載し,平成18年6月に死去した同派創始者・黒田寛一前議長を繰り返し称揚して,改めて「黒田理論」の継承と組織の結束・強化を訴えた。
 なお,同派は,JR総連・東労組の元幹部組合員らが,記者会見で「革マル派支配から脱却した新労組・ジェイアール労組の結成」を発表した(6月)ことに対し,一切論評せず無視した。
 同派は,黒田前議長の提唱した革命理論を継承しつつ,大衆運動の活性化と労働戦線を中心に勢力拡大に向けた取組を強めていくものとみられる。


〈解放派は,組織の再建に全力,テロ・ゲリラ事件の発生が懸念〉

 革労協解放派の主流派と反主流派は,武装闘争路線を堅持し,「在日米軍基地解体」などを掲げた諸闘争に取り組みつつ,分裂に伴う内ゲバ抗争で弱体化した組織の立て直しに努めた。
 反主流派は,テロ・ゲリラ戦を主体とした対権力闘争の推進を標榜する中,2月に「在日米軍キャンプ座間金属弾発射事件」を引き起こし,「革命的武装闘争のさらなる爆発を闘いとる」と主張するなど,改めて危険な体質を鮮明にした。同派は,今後も不法事案を引き起こすおそれが強く,特に,北海道洞爺湖サミットに向けて,その動向には注意を要する。


〈MDSは,イラクの反米・非イスラム勢力との連帯を軸に組織拡大を図る〉

 社会主義社会の実現を目指す「民主主義的社会主義運動」(MDS)は,年間を通じてイラクの反米・非イスラム勢力への支援に取り組んだ。特に,同勢力が開設した衛星テレビ局に対し,多額の開設資金を援助したほか,インターネットで同テレビ番組を視聴する有料会員の組織化を図り(6月),同会員の拡大に努めた。また,「戦時体制づくりを阻む」として,引き続きジュネーヴ諸条約追加議定書を基に「無防備地区宣言」条例の制定運動にも力を注ぎ,宇治市(京都),札幌市(北海道)の2自治体で,地元住民らによる運動体を立ち上げ,直接請求のための署名運動などに取り組んだ。
 MDSは,今後も反米・非イスラム勢力への支援及び「無防備地区宣言」運動を活動の柱に,市民層への影響力の拡大を図るものとみられる。


(4) 党の存在感のアピールに努める共産党

―「たしかな野党」を訴えるも参院選で後退,総選挙の準備に着手―
―国会では,独自に政府を批判・追及しつつ,参議院における与野党逆転を踏まえて野党共闘に取り組む姿勢―


 共産党は,統一地方選や参院選の取組,国会における論戦を通じて,他政党との違いを強調するとともに,独自の調査に基づいて政府を批判・追及するなどして,党の存在感のアピールに努めた。


〈統一地方選,参院選に取り組むも,改選議席から後退〉

 共産党は,7月の参院選を「国政選挙で本格的前進に転じる選挙」と位置付け,まず4月の統一地方選に向けて,1月,第3回中央委員会総会を開催し,党の宣伝と支持者の拡大に総力を挙げて取り組むよう督励した。
 統一地方選では,現有議席確保を目指した道府県議選で議席を減らすなど全体として議席が後退したが,5月,第4回中央委員会総会において,市区町村議選で議席占有率が上昇した点をとらえ,「善戦・健闘」と評価するとともに,参院選に向けて全党の一層の奮起を促した。
 参院選では,憲法改正,「年金」,「貧困・格差」問題を争点に取り上げ,自民,民主両党について,改憲,増税,労働法制の規制緩和などを志向する点で変わりはないと主張し,「たしかな野党」をアピールすることに努めたものの,改選5議席から3議席に後退した。


〈選挙結果を踏まえ,次期総選挙で比例区に力を集中する方針を決定〉

 共産党は,9月,第5回中央委員会総会を開催し,参院選における後退の要因として,自民,民主両党による「二大政党づくり」を押し返すための力量が党に不足しているなどと総括した。その上で,次期総選挙では,全小選挙区で候補者擁立を目指すとした従来の方針を見直し,小選挙区候補者を絞り込み,今まで以上に比例区に力を集中するとの方針を決定し,以降,次期総選挙の候補者を順次発表した。


〈国会では,独自性を意識した論戦を展開しつつ,野党共闘も重視〉

「政治とカネ」の問題を取り上げた「しんぶん赤旗」
「政治とカネ」の問題を取り上げた「しんぶん赤旗」

 通常国会では,「政治とカネ」や「自衛隊内部文書」の問題を取り上げて政府批判を行った。
 「政治とカネ」の問題では,1月,他野党に先駆け,「しんぶん赤旗」で,閣僚や与党幹部について「家賃のかからない国会議員会館に政治団体の『主たる事務所』を置きながら,巨額の事務所費を計上している」として批判・追及し,以降,繰り返し国会で同問題を取り上げて政府の責任をただした。また,6月には,陸上自衛隊情報保全隊が作成したとされる「自衛隊内部文書」を記者会見で公表し,陸上自衛隊が,自衛隊イラク派遣に反対する団体や個人の監視を行っていたなどと指摘した後,国会で「集会,結社,表現の自由への侵害」として政府を追及した。
 秋の臨時国会では,参議院における与野党逆転を踏まえ,国会における野党共闘に積極的に取り組む姿勢を示し,「たしかな野党」のキャッチフレーズの見直しに言及した。


〈党の力量強化に向けて学習活動への取組を督励〉

 党勢拡大では,党員及び「しんぶん赤旗」読者の拡大が統一地方選及び参院選に勝利する最大の要因であるとして,年初から,全党を挙げて取組の強化に努めた。しかし,党員数は年初と同じ約40万人にとどまり,「しんぶん赤旗」部数は年初の約160万部から約150万部に減少した。また,参院選後は,党員の意識と活動力の向上を図るため,学習活動に力を注ぎ,全国各地で党中央幹部を講師とする綱領などの学習会に取り組んだ。
 なお,7月,宮本顕治元議長(98歳)が死去したことを受け,参院選後の8月,党葬を行い,「自主独立路線を確立するなど党の基盤を築いた」と同人の功績を称えた。


〈次の総選挙に向けて問われる組織・活動力〉

 共産党は,国会における野党共闘も視野に,各種の政策提言を行って存在感をアピールするとともに,党勢と支持者の拡大に力を注ぐものとみられる。また,新たな選挙方針は従来の戦術を大きく変えるものだけに,新方針に基づく取組の成否が注目される。

(5) 日本赤軍・「よど号」グループの動向

―危険な体質を維持しつつ,組織存続を企図する日本赤軍―
―「合意帰国」方針に固執する「よど号」グループ―


〈「リッダ闘争」をアピールし,若い世代の取込みを図る日本赤軍〉

 日本赤軍は,メンバー3人がじゃっ起したテルアビブ空港乱射事件(1972年〈昭和47年〉5月30日)を「リッダ闘争」と称してその意義を主張し,毎年5月30日前後に声明を発出してきた。また,メンバー及び支援者らは,これに合わせて,毎年,記念集会を開催してきた。
 日本赤軍支援者らは,6月3日,学生など約150人を集めて,「5.30リッダ闘争35周年記念全京都メモリアル集会」を開催し,最高幹部・重信房子(平成12年〈2000年〉逮捕,勾留中)や前記乱射事件の実行犯の1人・岡本公三(レバノン亡命中)からの声明を発表した。
 同集会では,「リッダ闘争」当時の時代背景や闘争の意義・概要を説明するとともに,映画「赤軍-PFLP・世界戦争宣言」や声明で「リッダ闘争」を美化・正当化し,若い世代の取込みに努めた。また,重信房子逮捕時に犯人蔵匿容疑で逮捕された支援者らは前面に出さず,過激派色を薄めながら組織存続を図る姿勢をうかがわせた。
 日本赤軍は,岡本公三を含む7人が国際手配中であり,危険な体質を維持しつつ組織存続を図っていることから,今後の動向に注意が必要である。


〈「よど号」グループは「合意帰国」方針に固執するが,出国の可能性も〉

 日航機「よど号」ハイジャック犯は,「日本政府と協議の上で,犯罪者としての『送還』ではなく,政治亡命者として『帰国』する」という「合意帰国」方針に固執している。
 北朝鮮側は,モンゴルで行われた日朝国交正常化のための第2回作業部会(9月)に際して,「『よど号』関係者の帰国は,日本政府と同関係者が協議して解決すべき問題。両者が面会する場所など便宜を図る用意がある」との従来の姿勢を示した。「よど号」グループの中には,欧州での日本人拉致事件に関与した容疑で国際手配されている者が含まれており,米国による北朝鮮のテロ支援国家指定解除問題の今後の成り行きによっては,北朝鮮から「よど号」ハイジャック犯を出国させる可能性も否定できず,今後の動向を注視する必要がある。


(6) 北海道洞爺湖サミットを見据え,各国団体と積極的に交流する反グローバル化勢力

―「第7回世界社会フォーラム」やハイリゲンダム・サミット反対行動などに参加―
―北海道洞爺湖サミット反対行動の実施に向け,国内外の広範な団体との連携強化を目指し,運動を展開―


〈「世界社会フォーラム」などで,各国団体と積極的に交流〉

 世界の反グローバル化勢力は,1月,ケニアの首都ナイロビに,各国から約6万5,000人(主催者発表)を集めて「第7回世界社会フォーラム」を開催し,「貧困」,「反戦」などをテーマとした各種会議・セミナーなどで,「先進諸国などが進める新自由主義政策に対抗する」として,6月のハイリゲンダム・サミット(ドイツ)に対する反対行動への取組を確認した。同フォーラムには,我が国から,JRCL(旧第四インター派)主導の「ATTAC-Japan」を始め,市民団体,労組の活動家ら約50人が参加し,討論会を主催するなどして,各国団体と活発に意見交換した。
 国内では,「ATTAC-Japan」などが,5月,アジア開発銀行年次総会(京都)の開催に際し,フィリピンなど海外からも活動家を招請した上で,アジア開発銀行の融資の在り方を批判するシンポジウム(主催者発表約300人)やデモ行進などを実施し,こうした取組の中で,ハイリゲンダム・サミット及び北海道洞爺湖サミットに対する反対行動への結集を訴えた。


〈各国団体が結集したハイリゲンダム・サミット反対行動に参加〉

 「ATTAC-Japan」を始めとする国内諸団体は,6月,欧州を中心とする各国の反グローバル化勢力によって実施されたハイリゲンダム・サミット反対行動に活動家を派遣し,連日行われた集会・デモに参加するなどして,各国の反グローバル化勢力との交流に努めた。我が国から同行動に参加した活動家の中には,暴動を引き起こした「ブラック・ブロック」の行動を肯定する者も認められた。


〈北海道洞爺湖サミット反対行動に向けた取組を開始〉

 ハイリゲンダム・サミット反対行動に参加した「ATTAC-Japan」やアナキスト系の反グローバル化運動団体は,北海道洞爺湖サミットに向けて,「新自由主義反対」や「反サミット」を掲げ,NGOや市民団体との連携を企図しながら,準備活動に取り組んだ。
 特に,「ATTAC-Japan」などは,7月,東京で「2007年ドイツ反G8報告集会」を開催し,幅広い層を結集して北海道洞爺湖サミット反対行動に取り組む方針を確認した。また,アナキスト系の反グローバル化運動団体などは,10月,「反サミット」を標榜する国際的なネットワーク組織「DISSENT!」の活動家を招き,東京を始め各地で講演会を開催し,ハイリゲンダム・サミット反対行動をテーマに経験交流を図った。この間,「DISSENT!」活動家は,北海道洞爺湖町などを訪れ,首脳会合の会場などを視察したほか,国内外の団体と共に,北海道洞爺湖サミット反対行動に取り組む決意を表明した。


〈一部過激な活動家の暴徒化が懸念〉

 北海道洞爺湖サミットに向け取組を強めている反グローバル化運動団体の中には,同サミットに際し,海外の過激な団体の受け皿として機能しようとする動きも見られ,これら国内外の活動家が連携して反対行動に取り組む中で,一部過激な活動家が暴徒化するおそれもあり,警戒を要する。



3 右翼団体

北朝鮮,中国との諸問題を重点に活動した右翼団体

―拉致問題への対応,朝鮮総聯の日本政府批判の動きなどに反発―
―反中国活動や近隣諸国との諸問題への取組を強化―


 右翼団体の組織勢力は,全体的に横ばいながら,暴力団系団体が増加傾向にある。こうした中,多くの団体は,拉致問題,歴史認識,領土・領海など北朝鮮,中国,韓国との諸問題を中心課題に据えて積極的に活動を展開した。


〈北朝鮮をめぐる諸問題をとらえ抗議活動を展開〉

「在日朝鮮人中央大会」(10月10日)に抗議する右翼団体
「在日朝鮮人中央大会」(10月10日)に抗議する右翼団体

 右翼団体は,「北朝鮮が拉致問題は解決済みとの姿勢を崩さず,膠着状態に陥っている」として,北朝鮮をめぐる諸動向に合わせて朝鮮総聯などへの抗議活動を展開した。
 1月には,山崎拓自民党前副総裁が訪朝し,宋日昊日朝国交正常化交渉担当大使らと会談したことについて,一部団体が「経済制裁が実施されている中,訪朝した山崎議員の行動は許されない」などと批判する活動に取り組んだ。また,朝鮮総聯が政府の対北朝鮮措置延長などに抗議する目的で実施した「在日朝鮮人中央大会」(3月3日,10月10日,東京)に対しては,開催前に,会場を管理する東京都に対して会場貸与の撤回を求める抗議・要請活動を行ったほか,大会当日には,会場周辺で,「拉致被害者を返せ」などと抗議したり,「日本国政府の北朝鮮に対する経済制裁を支持する国民行進」と称する抗議活動を実施した。3月の大会では,右翼団体幹部が,朝鮮総聯のデモ行進の横断幕を奪おうとして隊列に突入し逮捕される事件も発生した。さらに,北朝鮮が日本海に向けて短距離ミサイルを発射した(5月25日)ことに対しては,各地の朝鮮総聯施設周辺で,「テロ国家・北朝鮮による挑発行為を断固糾弾する」などと抗議活動を実施した。
 こうした中,一部団体は,朝鮮中央会館売却報道(6月)を切っ掛けに,これにかかわった元公安調査庁長官らに対する抗議活動に取り組んだ。


〈6年半振りとなる中国首脳来日を機に,反中国活動を活発化〉

温家宝総理来日に抗議する右翼団体(4月12日)
温家宝総理来日に抗議する右翼団体(4月12日)

 右翼団体は,首脳クラスとしては6年半振りとなる温家宝総理の来日(4月11~13日)に際して,「春季例大祭を前に総理の靖国神社参拝を牽制,阻止するための来日だ」などと強く反発し,在日中国公館周辺などで,多くの団体が抗議活動を実施した。特に,温総理の訪問先や宿泊ホテル周辺では,接近を試みたり,街宣車に中国指導者の写真を遺影に見立てたポスターを掲げて,同総理の来日反対を訴えた。また,曹剛川国防部長の来日(8月29日~9月2日),賈慶林全国政治協商会議主席の来日(9月12~17日)に際しても,訪問地周辺などで「核兵器の照準を我が国に向けている敵国・中国と国交断絶せよ」などと来日反対を訴える抗議活動を実施した。
 さらに,北京オリンピックが1年後となった8月初旬,一部の右翼団体が「チベット弾圧などを行っている中国に,平和の祭典であるオリンピックを開催する資格はない」などと主張する地方議員や保守系団体の動きに連携し,人権問題や中国食品の安全性,大気汚染などを批判して,北京オリンピックボイコットを訴える集会・デモを実施した。これ以後,首都圏の団体が,「中共に物申す神奈川県大会」(9月9日,神奈川),「北京五輪反対!国民大会」(10月8日,東京)などの集会・デモを実施したほか,「9.29反中共デー」(9月29日,東京,大阪など4都市)と称する活動でも北京オリンピックボイコットを訴えた。


〈「慰安婦」謝罪要求決議,竹島などの外交・領土問題で抗議活動を展開〉

「東海」の文字が削り取られた(中央下の白枠部)鳥取県琴浦町の記念碑
「東海」の文字が削り取られた(中央下の白枠部)
鳥取県琴浦町の記念碑


 右翼団体は,米国下院議会が,「慰安婦」問題で日本政府に公式な謝罪を求める決議案を採択した(7月)ことに対して,「旧日本軍が関与した事実はない」などと反発し,東京や大阪の在日米国公館への抗議活動を行った。また,「米国下院議会決議は,旧日本軍の関与を認めた『河野談話』を根拠にしている」と批判し,河野洋平衆議院議長が官房長官時代に発表した「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」(平成5年)の撤回を政府に求める署名運動などに取り組んだ。
 領土問題では,日本の領土である竹島の領有権を主張し,島根県が制定した「竹島の日」(2月22日)などに,東京,大阪など各地で「竹島奪還」を訴える活動を展開した。また,国際水路機関総会(5月)や国連地名標準化会議(8月)で,韓国が「日本海の呼称は植民地時代の名残」として「東海」への変更を求めたことに反発し,在日韓国公館に抗議するなどの動きも見られた。さらに,鳥取県琴浦町が「日韓友好交流公園」内にある記念碑の説明文から「東海」の文字を削除したことが報道され(5月),復元を求める動きが出たことに対して,「韓国が主張する東海の表記は認められず,復元の必要はない」として同町役場に文書を提出したり,同町役場周辺で街宣活動などに取り組んだ。
 このほか,山形地方裁判所で開かれた加藤紘一自民党元幹事長宅放火事件(平成18年8月15日,山形)の公判(1月から5月までに計6回)に,毎回,東京や宮城などから右翼団体構成員が詰め掛け,公判傍聴や激励の街頭宣伝など,被告に対する支援活動を継続した。判決公判(懲役8年,5月31日)後には,報告集会を開催し(6月2日,東京),同事件を「義挙」と称賛した上で,「世の中の不正をただすためには鉄ついを下すことが必要」などと直接行動の必要性を訴えた。


〈引き続き近隣諸国との諸問題への取組を強化〉

 右翼団体は,引き続き拉致,領土・領海など近隣諸国との諸問題を中心課題に据えながら,靖国神社参拝や憲法改正の実現などを求める活動を展開していくものとみられる。今後,北朝鮮との国交正常化に向けた動きなど右翼団体が注視する外交問題の推移によっては,過激な行動に出る可能性もあり,その動向には一層の注意が必要である。

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