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犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案Q&A

Q1  なぜ犯罪捜査のための通信の傍受を行う必要があるのですか。
Q2  通信の傍受を認めることは,通信の秘密を保障する憲法に違反しないのですか。
Q3  通信傍受が認められると,警察が,犯罪に関係のない一般市民の通話を自由に聞くおそれはないのですか。
Q4  通信傍受は,どういう目的で行うのですか。
Q5  捜査機関は,どういう場合に通信傍受を行うのですか。
Q6  通信傍受法案では,どのような種類の通信が対象とされるのですか。
Q7  裁判官が捜査機関の言いなりに令状を出すおそれはないですか。
Q8  通信の傍受は,誰が,どこで行うのですか。
Q9  捜査官は,傍受の対象となる電話等を継続的に聞くのですか。
Q10  立会人は,何のために立ち会うのですか。
Q11  捜査官が捜査に関係のない通信を傍受し続けた場合,立会人がこれを切断することは可能ですか。
Q12  傍受された通信のすべての当事者に通知がされないのはどうしてですか。
Q13  通信傍受法案には,通信傍受に当たり,捜査機関の濫用を防止するための制度的な担保措置はありますか。
Q14  諸外国では,通信傍受の法制度が既に完備されていると聞いておりますが,我が国の通信傍受法案と比べてその要件,手続にどのような違いがありますか。


Q1  なぜ犯罪捜査のための通信の傍受を行う必要があるのですか。

 通信傍受の対象となる犯罪は,薬物関連犯罪銃器関連犯罪集団密航の罪組織的殺人ですが,これら組織的な犯罪では,その準備及び実行が密行的に行われ,犯行後にも証拠を隠滅したり,犯人を逃亡させるなどの工作が行われることも少なくなく,それらを実行するための手段として,しばしば電話等の通信手段が悪用されております。
 また,犯行に関与した末端の者を検挙しても,首謀者等の氏名や関与の状況について供述を得ることは容易ではありません
 そこで,通常の捜査方法では真相の解明が困難であるこれら犯罪のための特別な捜査手法として通信傍受を認めることが,今日の組織犯罪に対抗するためには,どうしても必要なのです。
 なお,主要先進諸国のほぼすべてにおいて通信傍受制度に関する法整備がなされており,我が国においてもこれを整備することが国際的要請になっています。

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Q2  通信の傍受を認めることは,通信の秘密を保障する憲法に違反しないのですか。

 憲法第21条第2項は,通信の秘密を保障しており,これについて最大限尊重すべきことは言うまでもありません。他方,憲法第12条及び第13条は,公共の福祉による制約を規定しており,通信の秘密の保障も,絶対無制限のものではなく,公共の福祉の要請に基づく場合には,必要最小限の範囲でその制約が許されるということは,憲法解釈の常識です。
 通信傍受法案は,犯罪捜査という公共の福祉の要請に基づき,通信傍受の要件を厳格に定めるなど,必要最小限の範囲に限定して傍受を行うものであり,決して憲法に違反するものではありません
    考)
   
      12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によって,これを保持しなければならない。又,国民は,これを濫用してはならないのであって,常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う。
      13条 すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。
      21条 集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。
       検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。

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Q3  通信傍受が認められると,警察が,犯罪に関係のない一般市民の通話を自由に聞くおそれはないのですか。

 本法案の通信傍受は,その対象となる犯罪が薬物関連犯罪銃器関連犯罪集団密航の罪組織的な殺人の罪に限定されており,そのように限定された具体的な犯罪があり,他の捜査手段がない場合に最後の捜査手段として行うものです。これは,いわゆる情報収集の手段ではありません。
 しかも,この通信傍受は,犯罪にかかわる電話番号等を令状で特定し,その電話等における犯罪の実行に関連する通話等のみが傍受の対象になります。一般の市民がこのような犯罪や電話に関係することはおよそ考えられません。
 また,通信傍受は,厳格な要件の下に,裁判官の令状に基づき,立会人の常時立会いの下で実施される上,傍受した通信の記録を立会人が封印して,裁判官に提出するなど,その手続は極めて厳格です。
 ですから,犯罪と関係のない一般市民の通話が広く傍受されることはあり得ません。

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Q4  通信傍受は,どういう目的で行うのですか。

 通信傍受は,捜索・差押えと同じように,具体的な犯罪行為が行われた場合に,これに関連する捜査として行うものです。何か犯罪が起きるかもしれないということで通信の傍受を行うことはできません。
 また,特定の個人や団体がどのような活動をしているかを探るなど,いわゆる情報の収集のために行うものではありません。

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Q5  捜査機関は,どういう場合に通信傍受を行うのですか。

 通信の傍受は
(1)  組織的殺人等の対象犯罪そのものが犯されたと疑うに足りる十分な理由があること
(2)  対象犯罪が犯された上,同様の犯罪が引き続き犯されると疑うに足りる十分な理由があること
(3)  無差別大量殺人を行う計画・謀議の下で大量の毒物を違法に製造している場合のように,対象犯罪の準備のためにこれと一体として他の重い犯罪が犯され,引き続き対象犯罪が犯されると疑うに足りる十分な理由があること
が前提となります。
 さらに,通信傍受は,通常の捜査方法では真相の解明が困難である場合の特別な捜査手法であり,通信傍受以外の他の方法によっては,犯人を特定し,犯行状況等を明らかにすることが著しく困難な場合に,最後の手段として,裁判官の令状を得てこれを行うことができます。

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Q6  通信傍受法案では,どのような種類の通信が対象とされるのですか。

 本法案は,電話のみならず,ファクシミリ,コンピュータ通信等,電気通信であって,伝送路の全部又は一部が有線であるもの又は伝送路に交換設備があるものを対象としています。
 個々の捜査において傍受の対象となる電話,電子メール等は,電話番号やアドレス等により特定して令状に記載され,それについてだけ傍受が許されます。

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Q7  裁判官が捜査機関の言いなりに令状を出すおそれはないですか。

 令状請求を受けた裁判官は,独立した立場から,法律に定められた要件について慎重な令状審査を行いますので,捜査機関の言いなりになることはあり得ません。
 なお,逮捕状請求や勾留請求に対する却下率が低いことが指摘されますが,これは,捜査機関内部においても,逮捕状等の請求に当たって厳しいチェックを行っていることや,令状請求に際して,裁判官から疎明資料が十分でないと指摘された場合には,警察官がその請求を維持せず,令状請求を撤回して持ち帰る場合も少なくないことなどの結果です。

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Q8  通信の傍受は,誰が,どこで行うのですか。

 通信の傍受は,検察官又は司法警察員が,令状に記載された傍受の実施場所においてこれを行うものですが,通常は,NTT等の通信事業者の施設等において行うことになります。

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Q9  捜査官は,傍受の対象となる電話等を継続的に聞くのですか。

 捜査機関は,裁判官の発した令状に記載された傍受すべき通信を傍受することが許されるものであり,これに該当するかどうか明らかでない場合には,これを判断するため,必要最小限度の範囲に限り,断片的に通信の内容を聴くことが許されます(これをスポット・モニタリングといいます。)。したがって,傍受すべき通信に該当しない通話を継続的に聴くことはできません。

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Q10  立会人は,何のために立ち会うのですか。

 立会人は,傍受が令状に従って行われていることを確認したり,記録の封印を行うことなどによって,傍受が適正に行われていることをチェックする役割を果たします。
 そのため,立会人は,傍受の実施に関して,意見を述べることもできます。
 立会人に傍受をしている通信の内容を確認する役割まで負わせるのは適当ではありません。そこで,この点については,傍受した通信がすべて記録された上,立会人が封印して,裁判官が保管することにより,捜査機関がどのような内容を傍受したか,後から確実にチェックできる仕組みになっています。

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Q11  捜査官が捜査に関係のない通信を傍受し続けた場合,立会人がこれを切断することは可能ですか。

 立会人に切断権を与えるべきだとの意見も一部にはあります。しかし,そのためには,立会人に事件の証拠関係や通話をしてくるであろう関係者の人間関係などを知らせた上で,通信の内容を聴いてもらうことが必要になりますが,立会人にそこまでの関与を求めることは,立会人の負担関係者のプライバシーを保護するという観点から適当でありません。

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Q12  傍受された通信のすべての当事者に通知がされないのはどうしてですか。

 犯罪と何らかの関係があり傍受記録に記録された通信の当事者に対しては通知がされます。
 しかし,そのような通信に当たるかどうかを判断するために聴いたに過ぎない犯罪と関係のない通信の当事者には通知をしないこととしています。
 このような該当性判断のための傍受は,通信の一部を断片的に傍受するにとどまり,その部分の記録は,消去して捜査機関の手元には残りませんし,通知を行うためにだけ,犯罪と関係のない通信の当事者を特定するための捜査を行うことは適当ではないと考えられます。
 さらに,犯罪に関係のない通信の当事者,例えば,被疑者の友人や一般の取引先にまで広く通知をすることは,かえって,被疑者の不利益になると考えられます。

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Q13  通信傍受法案には,通信傍受に当たり,捜査機関の濫用を防止するための制度的な担保措置はありますか。

 通信傍受は,非常に厳格な要件の下で,裁判官の発する令状に基づいて行われる上,傍受を実施している間,第三者が常時立会うことになっており,その立会人は,傍受の実施に関し,意見を述べることができるとされていますし,傍受をした通信は全て記録し,立会人が封印をした上,その記録は,裁判官によって保管されることになっています。そして,不服がある関係者は,その記録をもとに,裁判官に不服を申し立てることができますし,違法な手続によって傍受された通信の内容は,裁判で証拠にできないこともあります。
 また,捜査・調査を行う公務員が通信の秘密を侵した場合には,3年以下の懲役又は100万円以下の罰金という重い刑罰が科せられることとされており,これらの罪については,検察官が起訴をしなかった場合でも,告訴・告発をした人から,裁判所に,審判を開始するように請求することができる制度も取り入れられています。
 このように,通信傍受制度が捜査機関により濫用されないように,十分な制度的手当てが尽くされています。

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Q14  諸外国では,通信傍受の法制度が既に完備されていると聞いておりますが,我が国の通信傍受法案と比べてその要件,手続にどのような違いがありますか。

 諸外国では,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス,カナダ,イタリアなど主要先進諸国のほぼすべてにおいて通信傍受制度に関する法律が整備されておりますが,我が国の通信傍受法案は,これら諸外国の法制度に比べてみても,傍受の対象犯罪を限定し,犯罪の嫌疑については,逮捕の要件である「相当な理由」よりも厳しい「十分な理由」まで必要とし,さらに,傍受ができる期間についても,例えば,アメリカの連邦法では,最初は30日以内で,延長すれば更に30日以内で実施することが可能であり,その延長の回数に制限がないとしているのに対し,我が国の法案では,最初の期間は10日以内で実施し,延長は10日以内まで可能ですが,最初の10日を含め,最大限で30日を超えることができないとするなど,厳格な要件を定めています。
 また,傍受の実施の手続についても,傍受の実施時における通信事業者等の常時立会い,傍受した通信すべてを録音等で記録し,これを封印して裁判官が保管するなど,諸外国よりも厳格な手続の適正を確保するためのシステムを設けています。

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