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京都コングレスサイドイベント「比較法的視点から見た日本の刑事司法」概要

1 日時等

令和3年3月7日(日) ※事前に収録したビデオを配信したもの

2 登壇者

川出敏裕 東京大学大学院法学政治学研究科教授
ダニエル・フット 東京大学大学院法学政治学研究科名誉教授
ブルース・アロンソン ニューヨーク大学ロースクール特任教授
笹倉宏紀 慶應義塾大学大学院法務研究科教授

3 概要

(1) 冒頭、主として以下の事項について、登壇者から発表がなされた。

○ 外国法制との比較の在り方
○ 刑事司法の日本的特色及び米国との比較
○ 日本の刑事司法制度改革の概観
○ 日本の勾留制度や保釈制度の概要及び欧米との比較
 発表では、特定のある国の法制や理論を物差しとして他国の刑事司法実務を評価することの問題性について指摘があったほか、日本の刑事司法の「問題点」として取り挙げられる99パーセントを超える有罪率について、米国(連邦)も、(自白事件を含む)訴追件数全体に対する有罪率という日本と同様の基準で計算すると近似した数値となること、日本の刑事司法の特徴として、犯罪者の更生と社会復帰、被害者への謝罪・弁償が重視されていること、検察官の訴追裁量により約4割の事件が不起訴となっていること、量刑が比較的軽い傾向にあることなどが挙げられることなどが指摘された。

(2) 続いて、概要、以下の議論が行われた。

ア 日本における勾留及び保釈の運用はこれらを被疑者・被告人の自白を得るための手段として利用する「人質司法」であるとの見方に
 ついて、刑事手続が被疑者・被告人に有罪自認を求める方向に働くことは、多くの国の制度で見られる事態であり、日本に固有の問題
 ではない、「人質司法」という表現は、懸念を描写するものであるが、言葉の強い印象が先行して、冷静・厳密な分析を妨げる面があ
 り、適切ではないとの指摘があった。その一方で、実際の運用において、被疑者・被告人が否認していることが、勾留の要件の存否や
 保釈の許否の判断においてどのように考慮されているかについては、様々な見方が示された。
イ 日本において弁護人が被疑者の取調べに立ち会う権利が保障されていないことについて、弁護人が取調べに立ち会う意義が違法不当
 な取調べの抑止にあるとすれば、取調べの録音録画制度で代替可能であることに異論は見られなかったが、これに加えて、被疑者が取
 調官に供述すべき事項やその表現ぶり等の選択について弁護人が積極的に関与し、最終的に検察官と交渉して勾留や有罪を避け、寛大
 な処分を獲得することにもあるとすれば、その役割は取調べの録音録画では代替しきれないのではないかとの指摘があった。米国のよ
 うに後に司法取引がなされることが想定される場合には、捜査機関の取調べにおいて被疑者が黙秘することも含めて防御の戦略を立て
 るために弁護人の立会いを認め、前記のような積極的な関与を可能にする必要があるとしても、同じ論拠が(自己負罪型の)司法取引
 がない日本にそのまま妥当し得るものかは慎重に検討する必要がある(弁護人が立会い時に行うことが想定される活動の内容と併せて
 議論する必要がある)との指摘もなされた。
ウ また、(被疑者が無実であっても有罪であっても、当人から詳細に事情を聞くことによって)事案の真相を明らかにするとともに、
 (真犯人である場合には)取調べの過程で被疑者が事実を見直し、反省することで、被疑者の改善更生にも資するという、日本の刑事
 司法に特有とされる取調べの機能については、取調べはそれらの機能を相応に果たしているとの評価があったのと同時に、それらの機
 能は、捜査機関に真実を供述してストーリーを共有する意思が被疑者にあることを前提として働くものであり、そうした意思のない被
 疑者との関係ではそのような機能はもともと期待し得ないのではないかとの指摘があった。

※ 司会者・発表者の肩書は本サイドイベント当時のものです。本サイドイベントにおける発言内容は、各発表者個人の見解に基づくも
 のであり、法務省の見解を代表するものではありません。