フロントページ > 国際テロリズム要覧 (Web版) > 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の退潮と今後の展望

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)の退潮と今後の展望

4 ISILの退潮

ISILは,2015年に支配地などの面で最盛期を迎えたが,米国主導の有志連合やロシアなどがISILに対する軍事作戦を本格化させたことで,2015年後半以降は支配地のみならず,勢力,資金及びプロパガンダの各面で縮小傾向に転じ,2016年には,シリア北部の要衝を失ったほか,空爆などを受けて多くの幹部が死亡するなど,支配地を維持することが困難化したとみられる。

2017年に入り,シリアでは,ロシアやイランなどの支援を受けたアサド政権や,米国などの支援を受けた「シリア民主軍」(SDF)が,また,イラクでは,同国治安部隊やシーア派主体の民兵組織,KRGの治安部隊「ペシュメルガ」などが,それぞれISILへの攻勢を強めたことから,ISILの縮小傾向は更に加速した。同年12月には,ロシア軍が,シリアでの対ISIL掃討作戦での勝利を宣言し,イラクのアバディ首相も,イラクでの対ISIL掃討作戦での勝利宣言を行った。

ISILの支配地,勢力,資金及びプロパガンダについて,2015年と比較した退潮ぶりは以下のとおりである。

(1) 支配地

ISILは,2017年に入り,シリア,イラク両国で支配都市・町を全て喪失した(下左表参照)。ISILの支配地は,2017年末時点で,最盛期とされる2015年初頭と比較し,95%以上減少したとみられる(右グラフ参照)(注10)(注11)

ISILが支配を失った都市・町(2017年)
シリア イラク
中部・パルミラ
(3月)
北部・モスル
(7月)
東部・マヤディーン
(10月)
北部・タル・アファル(8月)
北部・ラッカ
(10月)
北部・ハウィジャ
(10月)
東部・デリゾール
(11月)
西部・アル・カイム
(11月)
東部・アル・ブカマル(11月) 西部・ラワ
(11月)
支配地の推移

(2) 勢力

戦闘員数の推移

ISILの戦闘員数は,2016年12月時点で,シリア,イラク両国で1万2,000~1万5,000人程度とされていたが,その後の各地での掃討作戦や有志連合の空爆などによって,幹部を含め多数の戦闘員が死亡したとされる。また,人員の供給源となってきたFTFのシリア,イラクへの流入についても,2015年初頭には毎月2,000人程度であったが,2016年4月までには毎月200人程度にまで減少し(注12),2017年11月にはほぼ停止したとされる(注13)。これらを背景に,ISILの戦闘員数は,2017年12月時点で1,000人未満に減少したとされ(注14),2015年の最盛期に比して95%以上減少したとみられる(上記グラフ参照)。

(3) 資金

月間平均収入の推移

ISILの資金について,2017年4~6月の月間平均収入は,1,600万米ドルであり,2015年の同時期に比して80%以上減少したとされる(右グラフ参照)(注15)

ISILの資金源は,住民からの徴税や石油の密輸など,支配地に関連したものが中心になっており,支配地の縮小に伴い,資金も大幅に減少したとみられる。

税収の減少は,1か月当たり推定400万米ドルの税収があったとされるイラク北部・モスルの支配権を失ったことが大きく影響したとみられる。

石油収益については,2015年10月に有志連合がISILの資金源を断つ目的で石油関連施設への空爆を強化したことなどが奏功したとみられ,減少の一途をたどり,2017年7月以降の掃討作戦の進展に伴い,最大規模のオマル油田を始めとする多くの油田が存在するシリア東部地域を失ったことから,更に減少しているとみられる。

(4) プロパガンダ

プロパガンダの1日平均の発出件数は,2015年中旬の約30件をピークに減少し続け,2017年10月のラッカ陥落の翌日には一時的に2~3件にまで減少した。

プロパガンダの内容別割合

2017年11月22日から23日までの間,プロパガンダが完全に停止したとされ,ISILの動向に詳しい専門家も,「プロパガンダが24時間も見られなかったのは前例がない」と指摘している。こうした中で,2017年12月時点では約3件となり,2015年の最盛期に比して90%減少した(右グラフ参照)。また,ISILが2016年9月から毎月定期的に配信してきた機関誌「ルーミヤ」も,2017年9月の第13号以降は配信されていない(注16)

アドナニを追悼する記事(2016年9月機関誌「ルーミヤ」第1号)

さらに,過去の映像を再利用したもの(簡略化,短編化したものを含む。)が増えるなど,質も低下し,内容も,豊かさを吹聴する「ユートピア」に関する宣伝はほとんどなくなり,ほぼ全てが戦闘に関するものになったとされる(右グラフ参照)。

有志連合は,2017年に入り,ISILの「首都」とされるラッカを始め,ISILのシリア,イラクにおけるプロパガンダの拠点を500か所以上破壊したとされる(注17)。また,2016年8月の報道担当アブ・ムハンマド・アル・アドナニ(当時)の死亡がその後のISILの活動に大きな影響を与えたとされる中,2017年以降も,有志連合による空爆で,プロパガンダに従事するISILの主要幹部のほか,記者やカメラマンなど前線で活動する者の死亡が相次いだとされる(注18)。さらに,ISILは,ツイッターなどSNSの「シェア」機能を利用して各国の若者らに自組織のメッセージを「アウトリーチ」させてきたが,ツイッター社などから,「テロを助長するものである」としてアカウントの削除を受けた(注19)

他方で,ISILによって流布された各種の「テロ戦術」は,既にオンライン上にあふれているとの指摘もなされている(注20)。また,各国のISIL支持者が,ISILとは異なる独自のプロパガンダを自発的に展開し,インターネット上で親ISIL系グループを形成するなどして活発に活動している。支持者らは,2017年10月以降,インターネット上のグループの統合を加速するなど,プロパガンダの質及び量を向上させているとされ(注21),クリスマスや2018年のサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会といったイベントを標的にテロの実行を呼び掛けるメッセージを累次配信している。

このように,ISILのプロパガンダは縮小しているものの,「アルカイダ」など他のテロ組織と比べると,今もなお「魅力的」なものとして捉えられているとの指摘があるほか(注22),依然として支持者らによるテロの扇動が継続するなど,プロパガンダが支持者らによって一定程度代替されている状況もうかがえ,テロへと向かわせる動機付け自体が減退したわけではないと言える。

5 ISILの退潮を受けた動向及び対応

ISILは,2015年後半から支配地や勢力,資金,プロパガンダが先細りし始め,2017年には退潮が顕著となったが,そうした中にあっても,組織の生き残りを模索してきた。

(1) 高齢者や女性の戦闘参加を呼び掛け

「自爆作戦で殉教した医者」と紹介(2017年8月機関誌「ルーミヤ第12号)

ISILの戦闘員は20代の男性が多いとされる中,ISILは,2016年8月のアラビア語週刊誌「アル・ナバア」で60歳以上の戦闘員に関する記事を取り上げて以降,こうした高齢者に対する戦闘参加の呼び掛けを強めたとみられる。特に,2017年のイラク北部・モスルの防衛作戦をめぐっては,自爆攻撃実行者の中で,高齢戦闘員の占める割合が1月(89件中3件:3%)から3月(68件中11件:16%)までの間で5倍強になったとされる(注23)

また,ISILは,女性の戦闘参加も積極的に呼び掛けるようになった。ISILは,従来,「敵が女性の住居に侵入した場合には,女性も男性同様に武器を手に取る必要がある」と主張するなど(注24),女性の戦闘参加については「消極的ながらも容認」との立場であったが,軍事的劣勢が続き,男性戦闘員の死亡が相次ぐ中,2017年7月以降は,機関誌「ルーミヤ」などで,預言者ムハンマドと共に武器を持って戦った女性の故事を多数引用し,「勇気を持って蜂起せよ」,「殉教者となる準備をせよ」と主張しており,女性の戦闘参加を積極的に呼び掛ける立場へと変化したとみられる。さらに,ISILは,機関誌などで,障害を抱えながらも健常者と同様に戦闘に従事する者や,戦闘経験がないにもかかわらず戦闘に参加する医療関係者を「英雄」として取り上げるなど,非戦闘員に対しても戦列に加わるよう求めた。

こうした動きは,ISILがこれまで戦闘に参加させなかった人々を動員せざるを得ないほど,苦境に立たされたことをうかがわせる。

(2) 資金の吸い上げなどを加速

ISILが鋳造した「ディナール」(2017年7月,ISIL発出宣伝動画

ISILは,2016年7月,自己鋳造した通貨「ディナール」の導入を宣言したが(注25),支配地内の商取引では,依然としてシリア・ポンドやイラク・ディナールなどが使用されており,「ディナール」は十分流通しなかったとみられていた。

そのため,ISILは,2017年5月,「ディナール」以外の通貨の使用禁止を宣言するとともに,翌6月には,「ディナール」以外での商取引に対して罰則を科す旨の通達を発出し,支配地の住民らに対し,「ディナール」への交換を強要したとされる。

こうした動きは,ISILの報道担当アドナニ(当時)が,2016年5月,「モスル,ラッカ,シルト(リビア中部)を失っても敗北ではなく,これらの地で最後まで戦った後,砂漠地帯に『一時撤収』する」と言及していたとおり,砂漠地帯などで拠点を転々とする状況に陥った場合に備え,直ちに利用可能な現金を手元に備蓄するため,資金の吸い上げを急いだものとみられる(注26)

また,ISILは,2017年に入り,支配地を急速に失ったことによる資金減少を受け,ISIの時代から行ってきた身代金目的の誘拐による資金調達への依存度を高め,イラク東部・ディヤーラ県における誘拐のみで50万米ドル前後の収益を得たとも伝えられている(注27)

(3) 自らの存在感を過剰にアピール

フィリピン・カジノ襲撃事件の成果を宣伝するISIL機関誌「ルーミヤ」第10号表紙

ISILは,シリア,イラクにおける劣勢をカムフラージュするべく,「イスラム国」の「国内」のみならず,周辺国など「国外」においても,耳目を引くテロを実行することに努め,自らの存在感を誇示することに躍起になっていたとみられる。

ISILは,「国内」では,シリアでアサド政権軍やクルド人勢力など,イラクで同国軍やシーア派主体の民兵組織などを標的に,自爆ベルトや自動車爆弾を使用した大規模テロを相次いで実行し(注28),依然として高いテロ実行能力を有していることを示した。また,ISILは,「国外」では,シリア北部・ラッカのISIL幹部(注29)が実行犯らに指示を送ったとされる2017年1月のトルコ西部・イスタンブールで発生したナイトクラブ襲撃事件や,同年4月にエジプト北部で発生したコプト教会連続爆弾事件,同年6月にイラン首都テヘランで発生した国会事務所建物内及びイマーム・ホメイニ廟(びよう)周辺での銃撃・自爆事件,さらに,同年8月にスペイン北東部・バルセロナなどで発生した車両突入事件で,それぞれISIL名の犯行声明を発出した。

他方,ISILは,同年6月にイスラエル中部・エルサレムで発生した警察官襲撃事件で,「ISIL(パレスチナ)」名の犯行声明を発出したが,実行犯にISILの影響を示すものは見当たらず,「ハマス」がISILによる犯行を否定したことから,同事件は,ISILが自らの存在感を誇示するために「便乗」した可能性があるとされている。ISILは,同年5月にフィリピンのマニラ首都圏で発生したカジノ襲撃事件や同年9月に米国西部・ラスベガスで発生した銃乱射事件,さらには,同年12月にロシア西部・サンクトペテルブルクで発生した爆発事案においても,それぞれ「ISIL(東アジア)」,「ISIL(米国)」,「ISIL(ロシア)」名での犯行声明を発出したが,エルサレムでの事案と同様に,これら事件に「便乗」した可能性がある。

(4) 「カリフ」の健在をアピール

ISIL最高指導者バグダディは,2017年6月にロシアの空爆による死亡が報じられるなど(注30),その生死が注目されていたところ,同年9月,バグダディの「肉声」とされる録音声明が約10か月ぶりに発出された。声明では,収録時期を明確に特定するに足る具体的言及は見られなかったが,2017年6月以降も生存していることを示唆するかのように,イラク北部・モスルの陥落(2017年7月)や北朝鮮による核などに言及したほか,シリア,イラクの支配地域の戦闘員や各地のISIL関連組織などに対し,「ジハード」の継続を強く呼び掛けた。

ISILとしては,死亡説が取り沙汰されている中で,バグダディ本人の肉声を公開することで,「カリフ」の健在ぶりをアピールし,戦闘員や支持者らの士気を鼓舞する狙いがあったとみられる。なお,バグダディの動静について,米国当局者の見解として,同人がイラク北部・サラーハッディーン県シルカット,同国北部・ニナワ県バアジ,シリア東部・デリゾール県アル・ブカマルの三つの地点を結んだ「三角地帯」(注31)の中に潜伏していると報じられた(注32)

(5) 各地におけるテロ実行の呼び掛けを継続

自動車によるテロが呼び掛けられる場面(2017年8月,ISIL発出宣伝動画)

ISILは,これまで,機関誌などでテロの標的を示唆してきたが,2016年10月以降は,「ルーミヤ」の中で「正義のテロ戦術」と題し,ナイフや自動車など身近で手に入るものを用いたテロの手法や,日常生活の中の標的などに対する攻撃方法を具体的に提示するようになり,2017年には,放火(1月),人質略取・立て籠もり(5月)を具体的に提示し,テロの実行を「指南」した。これまでの「指南」は下表のとおりである。

こうした「指南」は,ISILの宣伝動画で適宜取り上げられるなど,多種多様な方法で拡散している。また,ISILの支持者らも,これら「指南」に沿ったテロの実行を呼び掛ける画像を独自に作成・配信している。

機関誌「ルーミヤ」において行われたテロ実行の「指南」

(6) 戦力温存のために即席爆発装置(IED)の利用を推奨

ISILは,「首都」ラッカの陥落が間近に迫った2017年10月上旬,アラビア語週刊誌「アル・ナバア」で,「IED,その重要性と利用方法」と題する記事を掲載し,一旦は苦境に追いやられたものの生き延びてきたISI時代の事例を引き合いに出しつつ,シリア,イラクの戦闘員に対し,IEDの利用を強く推奨した。

これは,ISILがこれまで軍事組織を模し,敵と「対称」的に交戦してきたが,劣勢が続く中で戦闘員の死亡が相次いだことから,組織として,小戦力で,かつ,戦力を温存しながら,敵に対しても被害を与えることができる非対称戦法を多用するよう指示したものとみられている。実際,2017年10月以降,特に,イラク各地でISILによるとみられるIEDを利用したテロが多発したほか,ISILが支配を失った都市や町においても,ISILが撤退前に設置していたとみられるIEDの爆発事案が相次いだ。

(7) 生き残りを模索するも敗戦続きで内紛が表面化

ISIL内部での対立状況(2017年)
6月
機関誌
強硬派の主張が「ISILの公式見解」として掲載
9月
内部通達
「『公式見解』は誤りで,これを撤回する」などの慎重派寄りの主張が記載
9月後半
ラジオ局
慎重派の主張を連続で包装
12月
アラビア語週刊誌
強硬派寄りの主張が掲載

ISILは,シーア派に対しては,「多神教を崇拝するなど,イスラムからの離反者」などとして,攻撃対象である「背教者」と宣告してきた。また,スンニ派であっても,例えば,サウジアラビア王室・政府は圧制者,同国軍・治安当局は圧制者に仕える背教者などとしており,既存の各国政府や治安当局が攻撃対象であるという点において,ISIL内部で見解の相違はないとされる。しかしながら,一般のスンニ派ムスリムをめぐっては,信仰や行動が「イスラムの理想に逸脱している」と目されるムスリムを背教者であると宣告しない者まで背教者に当たるか否かをめぐり,これを肯定する「強硬派」と,そうではない「慎重派」に分かれての思想的な対立があると言われてきた。すなわち,一般のスンニ派ムスリムの大半が背教者宣告を行わないとみられる中で,強硬派は,こうしたムスリムも背教者に当たるとして,その殺害を正当化する主張を展開している。

ISILは,背教者宣告を行わないスンニ派ムスリムに関し,公式の立場を内外に明らかにしてこなかったが,2016年8月,アラビア語週刊誌「アル・ナバア」で,西アフリカにおけるISIL関連組織関係者によるとみられる一般のスンニ派ムスリムへの無差別攻撃を非難する記事を配信しており,少なくともこの時点では,慎重派が優勢であったことがうかがえた。

しかしながら,その後の2017年5月,ISILの宗教権威で強硬派と慎重派の調停役とされるトルキー・アル・ビナリ(注33)が,シリアで空爆を受けて死亡し,調停役不在の中,論争が武力衝突にまで発展したとされた。その後も右表のとおり,強硬派と慎重派の見解が入り乱れており,ISIL内部での混乱状況がうかがえ,組織の末期症状とも言える一面が露呈した。

(8) 各種勢力の対立に乗じて支配地の確保を企図

ISILがシリアで大半の支配地を失った後も,同国中部・ハマ県の北部一帯のほか,更に北方のイドリブ県南部などでは,ISILの勢力が活動していると言われてきた。このようなISILの勢力は,アサド政権軍が2017年11月頃から,「アルカイダ」の流れをくみ,同国北西部・イドリブ県で一大勢力を保つ「タハリール・アル・シャーム機構」(HTS)の支配地の奪還作戦を強化したことに乗じ,同年12月,ハマ県北部のイドリブ県との県境で,HTSに対して攻勢を強め,複数の村落を掌握の上,更にイドリブ県へと北侵を続け,HTS支配地の「切り崩し」を続けた。

こうした動きから,ISILは,退潮が顕著になる中にあっても,依然として一定程度の戦闘能力を保持し,各種勢力の対立で生じた隙を突いて再興を図ろうとしているとみられる(注34)

6 欧米におけるISILに関連したテロ事件の発生傾向

欧米諸国におけるISIL関連のテロ事件(注35)は,大きく分けると三つのカテゴリーに分類され,それぞれ,①ISILによる具体的な指示や支援は見られないものの,何らかの形でISILの影響を受けた単独又は少人数の者が計画・実行した「一匹狼」型テロ,②通信アプリなどを介してISILの戦闘員からの一定程度の指示に基づいて計画・実行されたとの指摘がなされている「遠隔操作」型テロ(注36),③ISILの中枢が関与する形で,送り込まれた戦闘員らが組織的に実行した「中枢指揮」型テロ(注37)-とされる。本項では,2015年以降に発生したISIL関連のテロ事件について,件数及び発生場所の観点から分析し,退潮が顕著になったISILの欧米における影響力の度合いを探る。

(1) 件数は増加傾向が継続

ISILの関連が疑われるテロ事件の発生件数

ISILの関連が疑われるテロ事件は,2016年には前年の10件から22件へと倍増し,ISILの退潮が加速した2017年についても,前年の22件から24件へと微増した(右グラフ参照)(注38)

このことから,ISILの退潮にもかかわらず,欧米におけるISILの影響力は依然として衰えていないことがうかがえる。

また,類型別の傾向として,2015年及び2016年に発生していた「中枢指揮」型や「遠隔操作」型のテロは,2017年に入ると確認されておらず,専ら「一匹狼」型となっていることが分かる。これは,ISILの退潮が顕著となる中で,中枢機能も相当程度弱体化していることや,戦闘員が激減する中で遠隔操作する側の欧米出身の戦闘員が死亡(注39)していることなどが影響しているとみられる。

他方で,「一匹狼」型テロが増加の一途をたどっていることは,ISILが退潮傾向にあったにもかかわらず,ISILの影響力の浸透は進んでいることを示しているとみられる。

さらに,欧米で発生したイスラム過激組織に関連するテロ事件全てを見ても,2017年は全てがISILに関連したものとなっており,ISILの退潮が顕著となる中でも,ISILの影響力は依然として他のイスラム過激組織よりも高いことを示している。

(2) 発生場所の拡大も継続

欧米諸国では,2015年以降,ISIL関連のテロ事件は10か国で合計56件発生している。 国別では,フランス(16件)が最多で,次いで,米国(13件),ドイツ(8件),ベルギー(6件),英国(5件),デンマーク(2件),カナダ(2件),スウェーデン(2件),スペイン(1件),フィンランド(1件)の順になっている。

年別では,2015年に,フランス,ドイツ,デンマーク,米国及びベルギーの5か国で発生していたが,2016年には,これら5か国にカナダ及びスウェーデンの2か国を加えた合計7か国で発生している。さらに,2017年には,これら7か国のうち,デンマークでは発生しなかったが,英国,スペイン及びフィンランドの3か国で新たに発生するなど,合計9か国で発生している。このように,欧米諸国でのISIL関連のテロ事件の発生場所は拡大している(下地図参照)。

ISILの関連が疑われるテロ事件の発生国

(3) テロが拡散する中でISILの影響力も相当程度浸透・定着

欧米諸国では,ISILそのものの退潮が顕著になり,その中枢機能も低下している状況に逆行するように,ISIL関連のテロ事件の発生数が増加し,かつ,その発生場所も広がった。

こうしたことから,ISILの影響力は,ISILの退潮が及ぼす負の影響をほとんど受けない程度にまで浸透し,かつ,定着しているとみられ,ISILの脅威は依然として深刻であると言える。

このページの先頭へ

ADOBE READER

PDF形式のファイルをご覧いただくには、アドビシステムズ社から無償配布されているAdobe Readerプラグインが必要です。