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行刑改革会議 第3分科会 第2回会議

日時: 平成15年9月22日(月)
14時05分~16時50分
場所: 矯正局会議室


午後2時05分 開会

〇高久会長 行刑改革会議第3分科会の第2回会議を開催いたします。
 前回の会議のときに,委員の方々から人的・物的体制の整備と職員の人権意識,この二つのテーマについてもう少し議論をする必要があるのではないかということでありましたので,前回も申し上げましたけれども,医療の問題につきましては本日と来週の月曜日,すなわち29日の2日間で大体まとめたいと考えております。10月6日の分科会からは,「人的・物的体制の整備」「職員の人権意識」というテーマについて御議論を願いたいと思いますので,そのように御予定いただければと思います。
 また,前回,海渡弁護士から,受刑者が死亡した際の死因の確定手続についてもいろいろ御発言がありましたので,この分科会の中で被収容者の死因確定手続につきましても議論をしていただければと思います。これは医療に関する議論の中でまとめていただければと考えておりますので,よろしくお願いいたします。
 本日は,お話をお伺いする方として最初に医務官の方,すなわち,横浜刑務所の医務部保健課長の村瀬尚哉医師にお話をお伺いしまして,引き続きまして,現在,国際医療福祉大学学長をしておられます,厚生省保健医療局長などを務められた,この方もドクターですが,谷修一さんから,厚生省OBとしての立場からいろいろ御意見をお伺いしたいと考えております。
 このお二人からお話をお伺いした後に少し休憩時間をとりまして,いろいろ御議論願いたいと思いますが,ヒアリングに入ります前に,本日,お配りしています資料について事務局に説明をさせます。
○杉山次長 本日お配りしております資料について御説明させていただきます。
 これからヒアリングが行われることになっておりますけれども,その前に御説明しておいた方が,ヒアリングに対して質問などもしやすいかと思いますので,この段階で御説明をいたします。
 配布資料の3枚目をまずごらんいただきたいのですが,「医療体制の在り方についての論点細目」というものがございます。第4回の全体会議のときに矯正局から矯正医療の現状の問題点についてプレゼンテーションをいたしました。また,前回の分科会で監獄人権センターの海渡弁護士から,矯正医療の変革についての御提言をいただいたところですので,これらのものを踏まえまして,本日以後の分科会で医療の関係でどのようなことを検討すべきかということを少し細かく整理してみましたので,参考としていただければと思います。
 若干詳細に御説明いたしますと,まず第1の検討課題として「矯正医療の基本的理念」があると思います。国が刑罰の執行という形で受刑者の自由を束縛しているわけでございますから,その拘束下にある受刑者の健康を守る責務を国が有しているということは異論がないところだと思います。そこで,一つの立場として,受刑者に対して外部と同様に医療を与えるべきだという考え方があろうかと思います。これは外部においては,通常保険制度にみんな入っておりまして,保険料と自己負担分を払えば,いつでも,どこの医者にでも行けるという体制になっておるわけですけれども,他方,保健医療の水準が定められておりまして,いわゆる差額ベッド,高度先進医療など,保険の対象とならずに実費を払わなければいけない医療があるというのが外部医療でして,これと矯正医療を同じにすべきなのかどうかということについての基本的な考え方についての議論が必要だろうということでございます。
 具体的には,まず国費負担とするのか,それとも一部,自費を支払わせるのか,健康保険を適用すべきかどうか。それから自費治療,つまり金のある受刑者については例えば保険適用外の高度な医療も受けさせてよいのかどうかというような費用負担の問題。それから,保険医療の水準と比べて矯正医療の水準をどうすべきなのかといった医療水準の問題を考えなければならないと考えております。
 また,ここで書いております「矯正医療の特質」というのは,例えば詐病の問題であるとか,受診を拒否する人がいるというようなこと。あるいは逃走防止のようなことも考えなければいけない。そういった,外部医療ではほとんど問題とならないことをどのように考慮すべきかという問題意識でございます。
 第2の大きな検討課題としては「矯正医療の医療水準」ということを掲げさせていただきました。
 まず,「事後医療」か「予防重視」かということ。これは当局のプレゼンテーションにおいても,今後は予防重視の考え方から例えば健康診断を充実させていこうというような考え方を示したところでございますけれども,そうした方向性が適切かどうかということを御議論いただければと思っております。
 次の,各施設に必要な医師の数,専門分野というのは,現状では医師の数が十分でない,あるいは精神科の医師が不足しているというような指摘が多々なされているところでございますので,現状で十分だろうか,あるいはどの程度の増員が必要なのだろうかということを御検討いただければと思っております。
 次の,人的・物的体制についてもほぼ同趣旨でございます。また,物的体制との関係で,例えば薬物の専門施設の設置の必要性とか矯正医療センターのような高度な矯正医療施設が必要かどうかということについても御議論いただければと思っております。
 次に,救急体制,移送体制ということが掲げられておりますが,これは夜間休日の診療体制が不十分だということ,あるいは,施設内での医療で十分でない患者について外部の専門病院などに移送しているわけですけれども,警備の手間などの関係で,移送が必要な患者について行われていないのではないかというような指摘もあるところでございますので,こうしたことについての議論が必要だと考えております。
 病院への移送について,矯正医療を厚生労働省に移管させ,刑務所の医療施設を国立病院の支所にする。そうすることによって,移送が十分に行えるのだというような御提言も前回ございましたので,本当にこれが有効なのかどうかという点についても御検討いただければと思っております。
 大きな第3番目の論点としては「矯正医療の保安からの独立性の確保,医療の透明性の確保」が挙げられると思います。
 保安からの独立性ということについては,保安上の要請が医療的判断に優先しているのではないかという意見があるところですので,本当にそうなのだろうか,そうだとすれば,保安部門からの介入を抑制する方策はあるのかといった点の議論が必要だろうということでございます。この点については若干細かい議論でございますけれども,医師の患者に対する説明責任が果たされているのかとか,患者の秘密について保安部門との関係で守秘義務が守られていないのではないかというような指摘もあるところでございますので,これらについても関連して御議論いただければと思っております。
 ここでも,こうした保安からの独立を確保するために厚生労働省へ移管すべきだという議論があるところですので,これが有効なのか,現実的なのか,他に方策がないのかといったことについて考えていただければということでございます。
 それから,透明性の確保については,医療の内容が表に見えるようにすべきだということでございまして,例えば健康保険を適用することによって,そのレセプトにより医療内容をチェックできるのではないかというような主張もされておりますので,こういったことについての御検討をいただければと思っております。
 第4番目の論点として「医師の確保」ということがあると思います。医師の確保が困難な理由として,矯正医療に医師としての魅力がないとか,常勤の医師が2日程度の研修日をもらっていて,実際の施設勤務は3日程度という現状があって,これが国会で批判されたりしておりますけれども,他方,5日間勤務ということでは,医師がほとんどやめてしまうのではないかという議論もあるところでございます。そこで,なぜ矯正医師の確保が困難なのか,その理由について御検討いただくとともに,これを克服するための方策として勤務条件,採用形態,職務形態などについて考えていただきたいということでございます。ここでも,厚生労働省への移管により医師の確保が容易になるという議論が前回なされておりますので,これもどうなのかというところを御検討いただければと思います。
 最後に第5番目の論点として「被収容者の死因確定手続」ということを挙げさせていただきました。これについては,前回,すべての死亡事案を変死扱いとして,刑務所外の法医学者などによる検死制度を確立すべきという議論がありますので,これについて議論する必要があろうかということでございます。
 次に,御用意した資料について順次,簡単に説明いたします。
 次のページ,「矯正医療の現状」ですが,これは前に矯正局からもプレゼンテーションをしましたけれども,現状の医療体制について概略を示しております。行刑施設におきましては,専門的に医療を行う施設として八王子,大阪,岡崎,北九州と,全国に4つの医療刑務所があり,それぞれ医療法上の病院の指定を受けているということでございます。それから,大規模施設である札幌,宮城,府中,名古屋,広島,福岡,これらの刑務所を医療重点施設として指定しておりまして,一般施設で対応できない被収容者の移送を受けつけております。
 組織的には,医療関係の定員は567名ございまして,そのうち医師が226名でございます。2枚目にいきまして,医療刑務所では5人ないし17人の医師が勤務しております。医療重点施設では,4人ないし10人の医師がおりますけれども,一般施設のほとんどは医師1名の定員しかないという状況でございます。それから医療スタッフもほとんどいないという状況になっております。
 専門科目としては内科医が多くて,以下,外科,精神科と続いています。
 次は,「行刑医療制度の各国比較」です。外国の行刑医療制度がどうなっているかというところは,必ずしも十分に分かっていないところもあるのですが,分かる範囲でまとめたものの各国比較の表でございます。
 ここに書いてあるとおりですが,アメリカでは連邦矯正局というところが医療を含めて所管しておりまして,国の機関により医療が行われております。ただ,一部,契約により民間委託している施設もあるようでございます。連邦には七つの医療センターがございまして,医療費の負担は,連邦刑務所では国が負担している。州によっては自己負担分があるところもあるようでございます。
 イギリスでは,内務省の中にあります刑務所庁というところと,健康省,日本では厚生労働省に当たりますところのNHSという国民健康サービスという機関が,共同して医療を行うべきものとされております。医療予算は,以前,刑務所庁の予算を使っておったようですが,これをNHSの方に移しつつあるという情報でございます。
 医療体制は施設によってさまざまなようでございますけれども,医療専門の施設というのは精神科を除いてはないということでございます。
 フランスは,先日のヒアリングにもありましたけれども,保健省,日本の厚生労働省に当たるところに医療の所管を移しまして,医療刑務所が1つあるほかは,刑務所内の診療所が,それぞれ国公立の基幹病院の支所という位置づけになっておりまして,必要な場合には刑務所内から,それぞれの地方の基幹病院に移送されるという体制になっているそうです。受刑者は社会保障制度に登録されておりますけれども,医療費は全額国が負担しているようでございます。
 日本については省略いたします。
 次に,「フランスにおける矯正医療システム」というものがございます。これは,前回も,フランスが刑務所医療を厚生省に移管したという説明があったわけですが,その実情については必ずしもよく分かっていないということで,一つの資料として,最近,フランスに留学した千葉刑務所勤務の医師がおりますので,精神科の方なのですが,その方にフランスの矯正医療のシステムについて簡単にまとめていただいたものでございます。
 これによりますと,フランスでは厚生省が所管する各地域の基幹病院から矯正施設に医師が派遣され,必要に応じて基幹病院に移送される体制になっているということでございます。移送の際には,警察や軍隊が身柄の確保を行っているという情報でございます。ただ,中には,移送がどうしてもだめだと,移送を拒否されるケースもあるようでございまして,こうしたケースについては最終的に1ヵ所だけある医療刑務所に送られるということでございます。
 矯正施設内の医療ですが,まず身体疾患につきましては,各刑務所には学校の保健室程度のものがあるだけで,ここに医師が派遣されてくる。精神科についてはSMPRと呼ばれる「矯正施設精神医療サービス」というものが置かれておりまして,そこに,この紙に書かれてあるような医療スタッフがそろえられているということでございます。
 このように,厚生省に移管して国公立病院が矯正医療をカバーしている背景として,国公立病院が全体の85%を占めていること,また兼業が許可されていることなど,勤務体制が比較的柔軟であるというようなことが,千葉刑務所の先生の見解として述べられております。
 あとは,国保の関係,国民健康保険のパンフレットを用意しております。

1.村瀬尚哉氏(横浜刑務所医務部保健課長)ヒアリング

○高久会長 村瀬課長は,昭和60年に東京医科歯科大学医学部を卒業されまして,東京医科歯科大学附属病院,共済組合連合会九段坂病院,都立広尾病院等で勤務された後に,平成8年に八王子医療刑務所の医師として採用され,昨年4月から横浜刑務所医務部保健課長として勤務されています。医療刑務所と一般の施設,両方での御経験をお持ちであるということです。御専門は外科ということです。それではよろしくお願いします。
○村瀬氏 本日はこのような会にお招きいただきまして恐縮しております。私に分かることは限られておりますが,矯正医療の現場に勤務している者として現状の説明ができればと考えております。
 私は昭和31年生まれで47歳です。大学を卒業後,再度東京医科歯科大学へ入学し,昭和60年に卒業しました。外科に入局し,以後,大学及び関連病院で勤務を続けまして,大腸外科を専門としてきました。平成8年に医局のローテーションで,八王子医療刑務所勤務となり,その後,平成14年4月からは大学のローテーションを外れまして,横浜刑務所医務部保健課長として勤務しております。
 最初に行きましたところが八王子医療刑務所なのですが,そこはあくまで病院であって,医師は普通の病院とほぼ同様の仕事内容でした。私も普通の外科医として勤務しておりました。その後,横浜刑務所の方へ移りました。
 まず,横浜刑務所の概略についてお話しします。
 横浜刑務所は横浜市港南区上大岡駅近くに位置します。定員が1,239名に対して収容が,9月の最初の段階で1,484名,収容率でいうと120%,職員負担率5.7と,過剰収容を反映する状況となっております。
 刑務所の隣には横浜拘置支所,これは定員579名,ほかに小田原拘置支所,定員160名,相模原拘置支所,定員100名を含めた4施設が横浜刑務所医務部の管轄となります。小田原,相模原拘置支所には非常勤医師が週2回程度数時間勤務していますが,やはり体制としては不十分であり,しばしば,当所医務部から電話コンサルト,あるいは連行して医療上の指示を受けています。
 次に横浜刑務所の特徴ですが,横浜刑務所はB級施設であり,いわゆる犯罪傾向の強い者を収容しています。実際,平均入所度数は5回,暴力団加入者が30%,これは第104回矯正統計年報の12%と比較すると,かなり大きい数字になっています。再犯率は具体的な数字は出ていませんが,恐らく全国平均の50%を超えるものと思われます。
 このようなことから,本日お話しします内容は,すべての矯正施設に当てはまるものではないことを御考慮の上,御検討ください。
 横浜刑務所の医務のスタッフ構成は,医師は部長を含め6名から成ります。外科3名,内科1名,精神科2名で,精神科の1人を除いていずれも40歳代,私ぐらいの年齢です。部長を除く5名の医師は,週3日の勤務と週1日の夜間オンコール,月2~3回の免業日の日勤及びオンコールをデューティとし,24時間対応できる体制をとっています。
 医師以外は薬剤師1名,レントゲン技師1名,検査技師,これは刑務官兼任ですが,1名,女性看護師1名,准看護師資格を有する刑務官5名が医務のスタッフとして働いています。
 横浜拘置支所には,女性看護師1名,准看護師資格を有する刑務官2名が,拘置支所医務のスタッフとして働いています。
 実際勤務している上での印象では,医師以外の医療スタッフ不足を強く感じます。
 医療機材ですが,当所で可能な検査はレントゲン撮影,心電図,上部内視鏡,超音波検査,簡単な採血検査までです。これ以上の検査,例えばCT,下部内視鏡,特殊な血液検査などについては八王子医療刑務所や外部施設へ依頼する形となります。医療機材には老朽化しているものもあり,レントゲン透視は現在作動不完全で,内視鏡は旧式ののぞき式,エコーもコンパクトな簡易型です。診断機器の性能ということを考えますと,市中病院よりはちょっと落ちるのではないかと考えています。
 実際,どういう形で業務に就いているかについて申し上げます。朝8時30分に出勤しますと,2~3日に1人は既に医務のベッドに体調不良のため寝ている患者がいます。この診察が済むと病舎,つまり普通の病院のような病棟が43床あるのですが,そこに入病中の患者の診察が毎日大体15名ほどあります。それから懲罰対象者,解罰対象者の診察も毎日10名近く行われます。その後,各工場の回診の結果,診察が必要と認められた者や突然の体調不良の診察,これを「特診」という言葉を使うのですが,そのような体調の悪い人たちの診察が午前,午後を通して40名ほどあります。昼前には横浜拘置支所被収容者の診察が20名ほどあります。午後3時ごろには新たに入所となった被収容者の診察が,横浜刑務所,拘置支所併せて15名ほどあります。このほか,外医や八王子医療刑務所への移送の同行,被収容者,職員の健康診断などが業務となっております。
 次に,横浜の被収容者の特徴ですが,平均年齢は46.8歳と高く,最高齢は82歳と近年の被収容者高齢化を反映しています。F級,外国人は244名,16.5%。M級,精神疾患を有する者が208名,14%を占めております。実際に投薬者数で見ますと約1,400名中の900名,60%以上が投薬を受けており,精神科薬の処方は250名,17%に上ります。以上のデータは,当所被収容者の高齢化,有病率の高さ,薬剤依存性の高さを示唆するものと考えられ,先の犯罪傾向の高さとあわせて,横浜刑務所は医師にとって,医療を行う上で非常に困難を伴う場であるということが言えると思います。
 歯科,眼科診察ですが,これは外医を招聘して行っております。歯科診察は週2回,午後に行われ,週25名ほど診察治療を行っております。歯科治療希望者は多く,受診待ち時間はほぼ8ヶ月となっているため,その間は投薬による保存的治療を行っています。眼科診察は3ヶ月に一度ですが,一日25名ほど診察治療が可能であるため,受診待ち時間は2~3ヵ月となっています。眼科の急患は適宜,外医へ診察を依頼しています。
 外医治療,つまり外の一般病院に入院となった者が,平成14年度は12名ありました。いずれも脳血管障害ですとか急性心筋梗塞などの心疾患で,急を要するものでありました。外医の外来通院は,眼科,整形外科などで,1年間で延べ104件ありました。八王子医療刑務所にも36名を移送しております。
 死亡例ですが,平成14年度,6名が亡くなり,死因は急性心筋梗塞,脳血管障害などの急性の疾患でした。
 以上お話ししたことが,横浜刑務所の現状です。
 あと,2点ほど問題になるのではないかという点について,私の考えでありますけれども,まとめてきました。
 矯正医療を考える上で,現時点での至上命題は医師の確保にあります。この問題を考えるには,医師が矯正施設で働くことのメリット,デメリットを考える必要があります。メリットとして考えられるのは,拘束時間が短いことで,これによって大学で研究中の医師や,家庭や健康に問題を抱えた医師などが恩恵を受けています。一方,デメリットは,一般矯正施設における医療が医師にとって魅力がない点です。医療設備は不十分で,患者も相互理解,信頼関係などを確立しにくい人が多く,社会での医療経験が長い医師ほどストレスを強く感じるものと思います。犯罪精神医学に興味を持つ精神科医を除いては,矯正施設の勤務は臨床医としての知識,技術の維持さえ不可能とするものと思われます。こういった問題は,人とお金の多大な投入により多少は改善されると思いますが,日本の経済状態を考えるとなかなか難しいと考えられます。矯正施設勤務継続を医師に強制する力はどこにもありませんし,また医師の側には,さきに述べたメリットがなくなれば,矯正施設に勤務する必然性はなくなってしまいます。
 これ以上の矯正医官に対する締め付けは,突然の医官大量辞任を招くおそれがあり,当所医師人事にかかわる者としては,そのような事態を危惧しております。
 あと,医務と保安の関係ということで,矯正医療の改革を討議する際に,分離,独立の問題がしばしば提案されます。しかし,実際に現場に身を置く立場から言えば,結論としては非常に難しいと思います。医師とすれば,分離,独立となれば,一般の市中病院と同様に患者の申立てを100%満足させる治療で済み,仕事はやりやすくなります。しかし,横浜刑務所での経験からすると,詐病患者,薬剤に対する強い依存性,外部医師診察に対する欲求などの点から,患者の欲求を完全に満たした場合には,予算ですとか人員の配置など到底対応できない状態になることが予見されます。
 医師の判断にすべての責任がかかってくるという意味ではストレスがありますが,現状のように,医務と保安が協力し,バランスのとれた線引きをするしかないというふうに私は考えております。
○高久会長 どうもありがとうございました。私の方からお伺いしたかったのは,例えば病床で15人御覧になるとか,懲罰対象者,それから外来診察,横浜拘置支所,新しい入所者の検診という仕事は平均して何人のドクターで,今ドクターは6人いらっしゃいますが,その中で精神科の人などもみんな平等に分担してやっているわけですか。
○村瀬氏 一応,精神科医は精神科患者を診るという形をとっています。週5日間,連日精神科医はいます。勤務自体は平均3人,つまり部長を除いた5人で週3日の勤務ですから,平均すれば1日3人です。
○高久会長 3人で外来とか全部をこなしているわけですね。
○村瀬氏 そうです。
○高久会長 それから,精神科薬17%とおっしゃいましたが,この中に睡眠薬は入っていないのですね。
○村瀬氏 睡眠薬も入っています。ただし,刑務所の生活というのは非常に睡眠時間が長い。それで運動もあまりしないという状態で,医者の立場からすれば,そんなにフルに寝られるはずはないというふうに考えております。それに対して被収容者たちは,やはり周りが寝ていれば自分も寝たいという欲求があります。それで,基本的にはなるべく出さない方針で行っており,精神科医が診て,必要であると判断された場合には,眠剤を出すという形をとっております。
○高久会長 それから,6例亡くなっていますが,司法解剖した例はあるのですか。
○村瀬氏 司法解剖はあります。
○高久会長 何例ですか。
○村瀬氏 3例です。
○高久会長 それは死因がはっきりしないということですか。
○村瀬氏 そうです。
○高久会長 他にどなたか御質問がおありでしょうか。
○江川委員 医師の立場から,例えば外部の病院に連れていく必要があるというふうに思ったけれども,保安の方の都合で,それはちょっと待ってくれとか,あるいはやめることになったとか,そういうことはありますか。
○村瀬氏 結論からすれば,それはないと思います。それは,責任の所在がどこにあるかという問題に帰結されると思うのですけれども,すべての責任は医師にあると考えています。ですから,幾ら保安の方でそういう話があっても,そこで,では今日はやめようといった時点で,それはもう医師の判断になりますから,責任を感じて仕事をやっています。
○江川委員 そうすると,今日は人が足りないのでと言われても,それは必ずやってくれという感じで,それでそれが通っているわけですね。
○村瀬氏 通ります。それに救急車も要請することができます。
○高久会長 先生は,八王子を含めるとかなり長い間,刑務所の医療にかかわっておられますが,身の危険を感じられることはありましたか。
○村瀬氏 もちろんあります。実際,例えば精神科の先生は本当に危ない場面というのが時としてあります。診察に際しては,必ず刑務官が立ち会うという形をとっていますし,また診察室にはすぐ押せるボタンがあります。つまり非常事態だということで押せば,みんな集まってきてくれるようなボタンです。
○江川委員 村瀬先生個人は,普通の病院のローテーションを外れて,わざわざ刑務所の方の専門になられたわけですよね。それは拘束時間が短いという以外に何か魅力を感じられたのですか。
○村瀬氏 そうですね。非常にお答えしにくい問題だと思います。八王子医療刑務所について最初お話ししたように,八王子というのは普通の病院でした。それで,それ以外の一般刑務所というのは正直言って,どんなところか余り知らなかった部分があります。実際,移ってみて,ある程度のカルチャーショックというのは受けました。
○高久会長 八王子医療刑務所にはお伺いしたのですけれども,あそこは東京医科歯科大学から近い。東京医科歯科大学そのものが駅のすぐそばで,八王子医療刑務所にも中央線一本で来れる。ですから,通いやすいですね。要するに大学で2日間お仕事をされるとか,あるいは刑務所の勤務が終わってからでも大学で仕事ができる。ですから最初は医局の勧めで,医局長か教授か分かりませんが,その方の勧めで先生も八王子に行かれたと思うのですが,横浜の方に移られたのは自由意思で。
○村瀬氏 私の意思です。
○江川委員 横浜の場合ですと,A市大の医学部がありますよね。そういうところとの連携というのはされているのですか。
○村瀬氏 A市大とは,正直言って余り交流はありません。それは,過去に被収容者をA市大に入れてトラブルになったということがあったりして,横浜刑務所の印象というのも悪いのだと思います。
○江川委員 向こうが嫌がるのですか。
○村瀬氏 そういうふうに私は聞いています。
○高久会長 外部の病院としては主にどこに診てもらっているのですか。
○村瀬氏 具体的名前を挙げてよろしいわけですか。
○高久会長 結構です。
○村瀬氏 B病院ですとかC病院。それからかなり大きいところも,要するにこちらが礼をもって接し,トラブルを起こさないような形でやっていけば,非常に協力的にやってくださるので,そういう意味では横浜は地理的に非常にメリットがある場所に刑務所があるのだということを強く感じます。
○高久会長 それはプライベートの病院ですか,医療法人ですか,国公立ですか。
○村瀬氏 医療法人の病院です。
○江川委員 D病院は。
○村瀬氏 D病院は余り受けてくださらないところがあります。
○江川委員 それから,先ほど,ドクター以外のスタッフが少ないというふうに感じられているとおっしゃいましたけれども,どれくらい少ないというか,あとどれぐらいこういう人がいたらというのを挙げていただけますか。
○村瀬氏 一日の業務を考えてみますと,多くを占めるのは調剤です。これは患者一人ずつ分包していまして,各食後用のパックに入れていくのですが,それに対して薬剤師一人。そして処方している数がものすごい数ですから。
○江川委員 200人ですね。
○村瀬氏 そうですね。単純に計算しても一日に200人近くの薬を作らなくてはいけない。だから,薬剤師一人なんてとても無理な話で,そこに検査技師だとか他の人も手伝いに行っています。
 それから,もう一つ大きいのは,准看護師の資格を持った刑務官3人が工場担当という形で回るのですが,各々が400名ずつぐらいの工場を担当して回っているわけですから,これはもう一人欠けたらどうしようもないという,そういうぎりぎりの状態で日々やっています。
○宮澤(弘)委員 私は全く,この道は素人でして,あるいは失礼というか,的を外れた御質問をするかもしれません。お許しを願いたいのですが,何ヶ所かいろいろなところを回ってきたことになりますね。それで,一言で言えば,毎日やっていらっしゃることに社会的に非常に有意義なことをやっているというふうにお感じになりますか。それとも,極端ですけれども,もうこれはかなわんわいというふうにお感じになる日の方が多うございますか。また,職場の医療関係者の空気はどういうものでございましょうか。
○村瀬氏 まず,医者とそれ以外の医療スタッフを分けて考えますと,医者の方に関しては,ほかに選択肢があるのだということが一番言えると思います。つまり,ここをやめても行くところはあるわけなんです。それ以外の人たちというのは本当に一生懸命,医者が一生懸命やっていないという意味ではなくて,ここと決めて,一生働くつもりでやっていますから,すごく一生懸命やってくれています。
 医者はみんなどうかということになると,一般的に多いのは,大学で研究中の若い医者などがローテーションというか,いわゆる生活する上での必要なお金を稼ぐ場として大学から派遣されるケースです。そういう人たちというのは,やはりどうしてもバイト感覚が抜けないと思います。それは,幾ら国の施設であるといっても,大学というのが常に肩の上に乗っていますから。実際,横浜などでも,大学から,もっと勤務日を少なくしてくださいみたいな話が前は随分ありました。それで,なるべく大学から距離をとった人たちを集めることによって現在の体制が整ってきたわけなのです。私自身に関しては,仕事をやっているときには熱中しますから,そのときには面白いと思うし一生懸命やります。でも,ふっと考えると,「こんなことをしていていいのか」と思うときもないことはないです。
○宮澤(弘)委員 これはもちろん限度があるし,仮定の質問ですけれども,生きがいをお感じになるときもあれば,これはかなわんなと,人間ですからいろいろあると思いますが,給与というものをかなり上げてはどうか。給与というものに対する魅力はかなりありますか。
○村瀬氏 給与よりも,医者ということを考えた場合には,私がときどきふっと思うのは,こうやっていると医者ではなくなってしまうのではないかということです。つまり,この仕事をしていることによって医師としての技術,知識が維持できない。お金という問題,例えば週3日しか働いていないのに,こんなにお金をもらってといふうに多くのマスコミ,国民の方は絶対考えると思うのが,お金の問題よりも医師として自分がどんどん落ちてしまうということを一番ストレスに感じます。
○高久会長 40人ぐらい外来で診ておられますね。診察の希望者はもっと多いのでしょうね。1,400人もいますから。それは刑務官の准看護師の人がセレクトしているわけですね。もしセレクトしなかったら何人ぐらいになりますか。
○村瀬氏 具体的な数字は分からないですけれども,投薬者数が60%という母集団は普通あり得ないわけです。薬などにしても,診察に来まして,これこれ,こういう薬を出しましょうといっても納得しない人が結構います。全部ということではないですけれども,僕にもあいつと同じ薬をくれみたいな。そういう人たちにとっては,医務に来て手ぶらで帰るというのは恥だと言ったらおかしいですけれども,そういうような考えを持っている人もいますので。
○江川委員 もともと具合が悪い人が刑務所に集まりがちなのですか。それとも,刑務所にいると例えば睡眠薬の問題ですよね。時間が長いから,普通生活していたら必要ない人が,飲まないと不安でたまらないから薬をくれみたいな感じで,むしろ刑務所で病人が増えるというと変ですけれども,そういう需要が高まるのですか。
○村瀬氏 それはもう入ってきた段階でフィジカルにはかなり落ちている人が多いです。
○高久会長 むしろ,刑務所の中に入る規則正しい生活になるから,酒も飲めないし。ですから,肉体的には良くなるはずなんです。
○村瀬氏 よく言うのですけれども,暴力団関係者などは入所することによって体重が10キロ落ちて,ホームレスは10キロ太ると。つまり正常な状態に戻っていく。
○高久会長 お忙しいところ,どうもありがとうございました。非常に参考になりました。またよろしくお願いします。

2.谷修一氏(国際医療福祉大学学長)ヒアリング

○高久会長 谷先生は,千葉大学医学部を卒業されまして,その後厚生省に入られ,保健医療局長,健康政策局長などを歴任されて,現在国際医療福祉大学の学長をしておられます。非常に御多忙のところを敢えてお願いいたしましたのは,刑務所医療の中で健康保険を導入せよとか,厚生労働省の方に移管をしてはどうかというような意見が一部の方から出ていましたので,そういうことにつきましても,後でいろいろ御意見をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
○谷氏 谷でございます。よろしくお願いします。1ヵ月ぐらい前ですが,高久先生から電話をいただいて,医療制度のことで質問に答えてくれればいいのだという話だったものですから,昔から高久先生には大変お世話になっておりますし,今,同じ県内の大学にいるものですから,いいよと言って気楽に引き受けたのですが,その後,いろいろお話を聞くと,えらい,難しいお話のようで,私は役所をやめて既に5年になりますので,どこまでお話しできるか,よく分かりませんが,先週,担当の方とお話をさせていただいたときに,取りあえず国立病院のことと医療保険の仕組みを最初2~3分,簡単に話してくれと言われたものですから,一応,出来合いの資料で恐縮ですが,2枚だけ配らせていただきます。
 一つは「国立病院・療養所について」と書いてある紙でございます。これは御覧いただくとおりでございますが,国立病院・療養所というのは旧陸軍病院,旧海軍病院を継承して,戦後は主として癌,結核,重心を中心にやってきて,その後,時代の変遷に応じて政策医療の分野をやっていくという形で現在に至っております。
 (2)にありますように,国立病院等の役割というのは,国の医療政策として担うべき医療を行うということで,現在,aからdに例示してありますが,19の政策医療分野を中心に行うということでございます。
 aが,がん,循環器病疾患,免疫疾患,腎疾患などの病気。bはエイズ,あるいは原因の究明,治療法の確立が急がれているような疾患,cが,結核,重心,筋ジス,それからハンセンもこの中に入るのだろうと思いますが,そういったような,歴史的に見て国がやらざるを得ないようなもの。dというのは,新たにこの10年ぐらいの間に出てきたものとして国際協力,災害医療というものを担当するという役割になっております。
 ただ,2にございますように,国立病院そのものは20年前のたしか中曽根内閣の時代に再編成するという行革の一環として,その当時たしか250ぐらい,国立病院・療養所はあったのだと思いますが,それを順次統合する,地方自治体に委譲する,廃止するというような形で,その左下にありますように,現在は176施設になっておりますが,来年4月から独立行政法人になることに伴いまして,更に13が,その右下にあります民営化あるいは地方移管・廃止をされると。従来どおり国の機関として残りますのが19施設。そのうちの13がハンセン病の療養所であります。その上の(6)というのが,いわゆるナショナルセンターと言われています,例えば築地にありますがんセンター,大阪にあります循環器病センター,東京の国際医療センターなど6つの施設が残る。独立行政法人に移行するのが144施設ということでございます。
 以上が国立病院・療養所の関係です。
 もう一つは,医療保険のこと。これはもう先生方御承知のとおりでありますが,要するに医療保険の世界というのは,保険者がいて,その加入者がいて,その加入者である患者がかかる医療機関があって,それから審査支払いを担当する支払機関というものがある。それから国なり都道府県があるというのが主な仕組みだと思います。その中で,加入者と言うのは保険料を支払う。それから加入者が医療機関にかかった場合には一部負担金を支払う。もう一つ,医療機関というのは保険を担当するいわゆる保険医療機関として国の指定を受ける。そこで働くお医者さんは保険医として,たしか登録だったと思いますが,登録を受ける。そういう仕組みで医療保険というのは成り立っている。従って,日本の場合には国民皆保険と言われておりますので,一般的に言えば職業は選べるけれども,保険は選べない。職業が決まった途端にその人の加入すべき保険というのは決まる,そういう仕組みになっております。
 この程度で,よろしゅうございますか。
○高久会長 ありがとうございました。資料を御用意いただきましてどうもありがとうございました。それではいろいろと質問させていただきたいと思います。どなたか御質問はありませんか。
○江川委員 ちょっと前に,公立病院は冷たいという話がありましたが,厚生労働省がこうしろと言ったときに,公立病院というのはすぐ反応するということはないものなのですか。
○谷氏 公立病院とおっしゃっている意味が……,国立。国立病院はもちろん国の機関であり,厚生労働省の所管ですから,形式的に言えば厚生労働大臣の指揮,命令下にあると。ただ,具体的に医療の中身についてこうしろという権限は,まあ,権限があるかないか分かりませんが,それは院長に任されているということだと思います。
○江川委員 例えば何人かは刑務所に手伝いに行けというようなことはできないものなのですか。
○谷氏 それは命令はできないでしょうね。というのは,国家公務員というのは職務専念義務というものがありますからね。当然国立病院で働くということを前提に雇用契約は成り立っているわけで,命令の及ばない範囲ではないでしょうか。
○江川委員 普通の公立病院でしたら,そういう指示等は難しいわけですか。
○谷氏 そう思いますね。
○高久会長 現実に可能かどうかは別にして,例えばある国立病院,今度独立行政法人になりますが,例えば医者の定員が20人,3人増やしてやると。3人分は刑務所に交替でも行けよということを言ったときに,それを引き受けるかどうかは院長の権限になるのですか。
○谷氏 刑務所における医療を引き受けるかどうかというのは,今度の新しい独立行政法人でいえば理事長の権限か,あるいはもともとそういうものは入っていないのだから,私は大臣の権限ではないかと思いますけれどもね。
○高久会長 要するに厚生労働省として決めなければならない。
○谷氏 つまり,先ほど御覧いただいた国立病院の業務,役割という分野に関して言えば,19の分野をやるということを原則にしているわけです。それで独立行政法人になっているわけですから,それ以外のものについてやるとなれば,それは独立行政法人の外側の話ではないかと思いますけれども。
○江川委員 それを決めるのはだれが決めるのですか。
○谷氏 法律ではないでしょうか。
○宮澤(弘)委員 法律でちゃんと枠があるのを,今のお話は,ちょっとそれを借りてと。これはなかなか難しい話ではないですか。
○高久会長 だから法律でeに「刑務所医療」と入れれば可能になる。
○宮澤(弘)委員 刑務所に行くことができるよというのを正面から書いてもらわなくては,ちょっと無理です。
○谷氏 形式的には,法律というのは書こうと思えば何でも書けるのでしょうから。
○高久会長 ただ,現実の問題として,あそこの病院に行くと,交代で刑務所に行かせられるというと,その病院で働くことを志望する人が出てくるかどうかという問題がありますね。現実にはなかなか難しい点がありますね。
○野﨑委員 eにそういうものを入れますと,厚生労働省の所管になってしまうのではないですか。
○高久会長 そうです。ですから,それをやるなら,まず法務省から厚生労働省に移さなければできないですね。
○江川委員 双方協力し合ってというわけにはいかないのですか。
○谷氏 ただ,現実の話として,そういう医療に協力するという範囲の中で医師を派遣すると。いわゆる協力関係ということではできないことはないのではないかと私は思いますけれどもね。例えば,地域でのいろいろな学校保健,予防接種,健診ですとか,そういうところには地域の医療機関としての協力はしていると思いますから。
○高久会長 そうですね。ですから,先ほどのお話のように,東京医科歯科大学から行っているということは,文部科学省が協力していることですね。だから国立病院でも,法律を変えなくても協力はできると思います。現実の問題は別にしてですね。
○野﨑委員 私立病院に人を派遣するのと同じような形なんですよね。刑務所の,つまり法務省に行くことを世話するということでしょう。
○高久会長 あれは文部科学省の技官が行っているのではなくて,医局という私的な集団の中で斡旋をしているだけなのですね。
○野﨑委員 そうですね。だから,伺っていると,大学もそうでしょうし,いろいろそういうところへ人を派遣するときに,あそこは,いい,魅力のある職場だというのと,魅力ない職場というのがあるのだろうと思うのですが,刑務所というのは先ほどから伺っていると,あそこに行くと腕が落ちると言われるわけですから,魅力があるわけではないのですよね。だから人を持っていきにくい。どうして腕が上がらないのですか。結構,いろいろな病人がいるように思うのですけれども。限られるわけですか。
○江川委員 少しでもいいお医者さんをたくさん確保しなければいけないというのは結構大変な課題だと思うのですけれども,先生としては,こうしたらいいのではないかという何かアドバイスみたいなものはございませんか。
○谷氏 私も正直言って,何週間か前に,この会議のいろいろな関係の資料を担当の方から送っていただいて見て,ああこんなものだったのかなと,誠に申し訳ないのですが,初めて知ったようなことなので,よく分かりませんけれども,ただ,見た限りでは確かに江川委員おっしゃるように,刑務所の中の医療体制というのは非常に不十分なところはあるのではないかと思いますし,その一つはお医者さんが足りない。それから資料を見た範囲では,あるいはそこで働いているお医者さんのアンケートなどを見ますと,医療機械が十分でないとか,薬がどうだとかいうような意見がありますから,やはりそういう体制をできるだけ整えていくことが必要なのではないかと思いますし,医師の問題について言えば,例えば国立病院だって,一部の病院では定員が足りないのですよね。特にへき地にあるような療養所が足りないんです。それを地域の医療機関の協力を仰いで派遣してもらっている,あるいは大学から派遣してもらっているというようなことですから,刑務所においても,今でもやっておられるのでしょうけれども,もっと組織的な協力関係をつくるとか,地域の病院団体,あるいは都道府県ですよね。私の理解するところでは,法務省本省なり,あるいは刑務所についても,都道府県との関係というのはほとんどないのではないかと思いますけれども,都道府県の関係者との協議などによって,先ほどのお話のような協力関係をできるだけ作っていくというのが,まず必要なのではないかという気はしますけどね。
○高久会長 もう一つの意見として,健康保険と同じ取扱いにせよという意見がありましたですね。刑務所の中にいる人に健康保険を適用できるのですか。
○谷氏 今でも健康保険法なり何なりは刑務所に入っておられる方については,法律的には適用しないというふうになっているわけですね。健康保険法でたしか書いてあるのです。医療の給付はしないと書いてあるはずです。それは,監獄法というのか知りませんけれども,中に入られた人については国の責任においてやると。したがって保険とは切り離す。健康保険というのはそもそも何のためにあるのかといえば,いろいろな見方があるでしょうけれども,病気になったときの経済的なリスクをいかにカバーするかということで,単にお金の支払いをやってるのですよね。だから全部国がやってくれるというリスクのないところに医療保険をなぜ適用するのかと。医療保険を適用したから何かいいことがあるのかということになれば,別に経済的な不安がなければ何も必要ないのではないか。いや,必要ないと言い切るのはあれですけれどもね。
 それともう一つは,保険医療機関になるための条件というのは,俗に言う一般開放されていると。つまり,限定された人だけのための医療機関ではなくて,極端に言えば全国民がかかれる。あるいは医療保険に加入している人は全部がかかれるという形で初めて保険医療機関になるわけです。ここにいる人だけがかかれる医療機関であれば,それは考え方として保険の適用にならないのではないか。
○高久会長 一つは,詐病とか被収容者が非常に薬を欲しがる。それで,保険ですと,3割払えということができるのですが,今は全部国費ですから医者も困るわけですね。被収容者の人達は薬をよこせ,何をせよという要求を限りなく言っているので,お金を取るようなシステムにした方が良いのではないか。それで一つは保険という考えも出てきているのですが,それについてはどうお考えですか。
○谷氏 こは私が言うことではないことだけど,金を増やせばいいのではないですか。国のお金を増やせば。
○野﨑委員 医療水準を一般の水準と同じにするか,違えるかということも絡んでくるんですよね。
○高久会長 健康保険の医療の水準というと,決まっていることになりますね。保険の審査をしていますね。ガイドラインがある。
○谷氏 保険の審査というのは,要するに保険のルールにのっとって医療が行われているかどうかということであって,極端に言えば高いものを査定しているわけですよね。安い医療費を査定しているわけではないのです。例えば風邪引きで100万円だったら,これは高過ぎるではないかといって,中を見るけれども,1万円なら問題意識を持っては見ないのではないかと思います。
○高久会長 そういうことですね。それから,これはお答えにならなくても結構ですけれども,もしこれを法務省の方から厚生労働省の方に,法律を変えてでも,刑務所医療をやってくれといわれたら,厚生労働省はうんと言いますかね。
○谷氏 うんと言うか,どうと言うかということを言う立場にはないけれども。
○高久会長 全く御自由な立場で。
○谷氏 恐らく刑務所の中における医療というのは,医療だけが切り離されてあるわけではなくて,ほかのいろいろな要素,矯正などの一環としてやられているのでしょうから,あるものだけを切り取ってそれを丸投げしてしまうということが本当に適切なことなのかどうか,よく分かりませんし,そうしたからといって,今のままで丸投げしても恐らく何も変わらないのではないかという気がしますけれどもね。
○野﨑委員 医者の供給が非常に楽になると言う人がいるんですけれども。
○谷氏 だけどそれは,厚生労働省がやったから,医者がどんどん来るというような,そんなものではない。医者はそんなに役所のことなど知りませんからね。現場がどういうものであるかということによって来るわけで。
○高久会長 いろいろ教えて教えていただいた上に貴重な御意見をありがとうございました。先生に本当は委員になっていただいた方が私よりも良いのではないかと思います。どうもありがとうございました。
○宮澤(弘)委員 法務省にお願いというか,お尋ねするけれども,ここで法律があるとかないとか,適用になるのが何条だと言ったところで,専門家ではないのだから,今度までに受刑者というのは保険制度の適用にならないと,どこに,どう書いてあるのか。ならないと書けるのなら,それを取れば,なるんですね。まあそれは,あれですけれども,ですから,ここで法律がどこでどうというような話ではなくて,ちゃんとしたことを皆さんにお知らせする義務があると思います。
○杉山次長 法律の適用関係について次回資料を御用意させていただきます。
○宮澤(弘)委員 恐らく何か書いてあるのでしょう。
○杉山次長 健康保険法に,被保険者になっているのですけれども給付はされないというふうに書いてございます。
○宮澤(弘)委員 給付はされない。被保険者にはならないと書いてあるのでしょう。
○杉山次長 いや,被保険者にはなっております。だけれども,給付はしないというふうな形に。それは次回整理いたします。

3.議論(医療体制の在り方)

○高久会長 今日,事務局から医療体制の在り方についての論点細目ということで項目を挙げていますので,これに従っていろいろ御意見をお伺いしたいと思います。
 まず,国費負担とするのか,健康保険の適用の是非ということですが。海渡さんは,もう少し被収容者の手当てを上げて,その中から払わせろという御意見だったと思うのですね。
○野﨑委員 健康保険にしたときには,恐らく保険料など払える人はいないわけでしょう。
○高久会長 ですから,作業の労賃をもう少し上げて,それから払わせろというような意見もあるわけです。
○野﨑委員 でもそれは最低額しか払わないわけですよね。
○高久会長 それを上げろと言っています。
○野﨑委員 だから健康保険会計というのは非常に影響を受けることになるだろうと思います。法務省の場合には国家予算でつけてくれるから,その範囲でやれる。だから,今度は国保がどう言うか。もう結構だと言うのではないでしょうかね。なかなか簡単にはいかないと思いますね。
○江川委員 この間の海渡先生のお話だと,医療水準も健康保険を適用すれば,もうそれで一律になるということを言っておられましたよね。健康保険を適用しなければ一律にならないのでしようか。
○高久会長 それはならないことはないと思うのですが。
○江川委員 それは公表されているものなのですか。
○高久会長 されています。
○江川委員 そうすると例えば刑務所の医療関係のところに,水準はこのとおりにやるようにという通達なり何なりをして,それで医療水準を平均化することはできるわけですね。
○高久会長 できます。健康保険並みにと言えばできるのですが,今までは保険で高いものを切ってきたのですね。余計な抗生物質を使うなどの高過ぎる治療をするのをチェックしてきたわけです。実際に,審査支払機関のところでチェックをして,高い薬などを調べて,こういう病気にこれを使ってはいけないということがあるわけです。それを切ってしまうと,その分だけ医療機関の負担になる。そういう機能を果たしてきたのですね。
○江川委員 負担の水準を決めているわけではないのですか。
○高久会長 ないのです。上の水準を,これ以上はだめよというのを決めている。ですから,例えばリハビリテーションで,このマッサージは,この病気のときには週3回以内と。それ以上,4回,5回やったらその分は基金を払いませんよというのを決めているのです。
○江川委員 水準の底上げをしようということではないわけですね。
○高久会長 底上げではないわけです。これ以上だめよというのが基本的考え方ですね。一部の医療法人などで儲け過ぎるというか,過剰診療を防ぎたいというのが目的です。むしろ,医者の間には非常に不満があります。教科書に載っている,外国でやっているのになぜ日本でできないかといったら,それは保険では認めていませんということで抑えている面があって,底上げにはならないのです。だから書くことは簡単ですね。健康保険でやっているレベルでやれといったら,それは普通にやりなさいということなのです。
○江川委員 そうすると,健康保険を適用したときのメリットというのはどういうものが考えられるのでしようか。
○高久会長 ですから,本当に適用するならば……。
○野﨑委員 高額治療についてはできますよね。
○高久会長 それは今でも刑務所でもやれないことはないと思います。しかし実際に必要な高額治療になると,医療刑務所や普通の病院に送るのだと思いますが。肝臓移植は分かりませんが,普通の医療をやるのに,今の村瀬先生のお話でもノーとは言っていないはずです。
○野﨑委員 実際の矯正医療のレベルが健康保険よりも低いというわけでしょう。それはどういうところをとらえて言うんですか。
○大橋課長 私は,そこは言っている意味がよく分からないのですが,実際は必要な医療をやっているわけですね。受刑者が,外の病院と同じようにやってくれないと文句を言うこともありますが,外の病院が過剰診療をやっている可能性もあるわけですから。刑務所の場合は必要な医療しかやらないということであって,幾ら金がかかろうと,必要な医療に関してはかなりの額を使ってやる例もあります。1,000万円近く,一人のために使ったりすることもあるわけです。ですから,これをしちゃいけないということは基本的にないんです。
○野﨑委員 僕が聞いている趣旨は,低いと言われていることに対して,低くありませんということを言えるならば言えばいいのですね。
○大橋課長 何を基準にするか,言っている人の基準がよく分からないのです。
○野﨑委員 だけど,必要なことはやっていますよと。
○高久会長 やらざるを得ないと。
○野﨑委員 だから決して,一般の医療水準と比べて低い治療をやっているわけではありませんよということが言えるなら,その問題というのは,本当にそうならそこで終わる問題なんですね。もう一つ言えるのは,もし健康保険を持っていると,娑婆の人なら医者に行きたいときには行けるのだけれども,刑務所にいると,まず事前チェックがあって,行かんでもいいというような場合があり得るという批判もあるのではないかと思うのです。その点はどうですか。
○大橋課長 チェックがかかるという意味ですね。
○野﨑委員 お前の程度なら,もう行かなくてもいいというようなことを言う場合もあると思うのですね。
○大橋課長 職員が言う可能性はもちろんあります。
○野﨑委員 そこが言いたいところなのではないかと思うのですね。
○江川委員 今,野﨑委員がおっしゃったみたいに,この間の海渡先生の話でも,とにかく,具合が悪いと言っているのにちゃんと診てもらえない。だから医者の入口のところまでが。先ほどの先生の話でも,実際には40人しか来ていないけれども,その前の段階で振り分けがされている可能性があるということですよね。だから,それは健康保険の問題ではないですよね。
○高久会長 それはキャパシティーの問題ですね。実際に黒羽の刑務所に行ったときも,数百人,受診希望者がいる。しかし多くて40~50人しか診れないから,准看護師の人,あるいは刑務官がセレクトしているわけです。保安に対して医療は独立というけれども,独立したら,先ほどの村瀬先生のお話ではないけれども,みんな来たら外来は満員でパンクしてしまう。
○野﨑委員 1,240で900という話があった。それはもう相当の数で,本当は要らないものも随分やっているのがあるように見える。刑務所のようなところだと,みんな行きたい行きたいという希望が出てくるところでしょうから,今度は,それを無制限に診ていいのかというのも一つの大きな問題だと思うのです。
○高久会長 それで結局,少し払わせたらどうかという議論も出てくるし,一般ですと,2割,3割という負担がある程度診察を抑えるファクターになっているわけです。それがないと,幾らでも診療してもらいたいと手を挙げる可能性がある。抑制力がないわけです。
○江川委員 健康保険をもし導入したときのメリットとしては,お金を払わせることによって,いわゆる詐病とかそういうものを少し減らすことができるかもしれないということはある。
 それから,先ほど,実際に横浜でやっていらっしゃる方がおっしゃっていた,医療機器が不十分だとかというのも,これは保険の問題とは関係ないですね。
○高久会長 関係ないです。これはむしろ,どれだけ投資するかの問題で,例えば超音波などは非常によく使いますけれども,かなり古い形の超音波しかないと。CTなどは無理なんですね。そういう機械をある程度整える。内視鏡なども少し新しいものを定期的に入れるということは,これは予算の問題で,それに対してドクターが要望したときに,それをまた無制限に入れるわけにもいきませんしですね。そこのところは難しいけれども,ある程度の基準をつくって定期的に新しいものを入れ替えるということはできると思います。
○江川委員 そうすると,健康保険を入れることのメリットで考えられるのは,詐病防止ということぐらいで,それ以外のことについては別の課題になるということなんですね。
○高久会長 むしろ,おっしゃるように,自費診療を認めるかどうかという問題にもなると思うのですが。
○野﨑委員 金を持っている者だけ,いい診療を受けて,持っていない人は受けられないような状況が出てくるのはいいことだとは思わないですよ。
○江川委員 娑婆もそうですよね。
○野﨑委員 だけど,それを刑務所でやったら,難しい問題に当たると思いますよ。一般的に言えば,例えば人工透析をやってもらっている人がいるでしょう。その中で刑務所を出たときに本当に人工透析をやってもらえる人が何人いるのかとか,暴力団は10キロ減るけれども,逆に10キロ増えるという人もいるのだから,何をもってレベルが低い低いと言うのかというところを考えると,本当はそうではないのではないかと私は思うのですが。
○高久会長 医者の数とか看護師,准看護師が少ないことは少ないですね。横浜でも,病舎が43床というと,一般の病院ですと看護師はもう少しいます。やはり少ないと思います。病室だけでも,外来を診なくても。これに外来も診ていますから,少ないことは少ないと思いますね。医者の数も少し少ないと思います。
○宮澤(弘)委員 今,人工透析の話をなさいましたけれども,人工透析をやってくれと言えば,必ずでやってくれるのですか。
○野﨑委員 必ずかどうか知りませんが,随分数はやっていますね。
○大橋課長 それは希望によってではなくて,必要があるのでやっています。八王子,名古屋,大阪の医療刑務所,あとは重点施設に最低二つずつあります。それでも足りないものですから,その人は内部から外部の医療機関に通院しています。
○宮澤(弘)委員 法務省かどこか知らないけれども,必要があればということで,これについてはここまでできるという何か指令がちゃんと出ているのですか。
○大橋課長 指令といいますと。
○宮澤(弘)委員 これはいいよと。
○大橋課長 こういう医療をやってはいけないよという指示はありません。つまり,やらなかったら死んでしまいますのでね。だからもうやらざるを得ないのです。
○江川委員 例えば,刑務所外の普通の社会の中で,お金がないのだけれども人工透析が必要だという人は,それもやられているわけですよね。
○高久会長 それはもちろん,生活保護ではなくて何といいますか……。
○江川委員 福祉の方でカバーして。刑務所の方がいい医療をしているというわけではないわけですね。
○高久会長 ではないと思います。一般でも,お金のない人でも,医療費への保護を受けて,必要に応じてやっていますから,それは同じだと思います。ただ,一般の人は風邪を引いたぐらいだと,我慢して病院になかなか行かないことが多いですね。少し遠いから行かないということもあると思いますが,刑務所内の人達の方が診察を受けやすいわけですね。
○野﨑委員 娑婆にいると行くのが大変な場合もある。規則正しく,「はい,おまえは3日目たぞ」と連れていってくれるところにいるわけだから。
○高久会長 高齢の方ですと,だれか一緒に行かないと一人では行けない。ですから,医療レベルが低いということで,医療機械などを定期的に更新するということは必要だと思います。
○野﨑委員 そんなことはないと,言えるなら言った方がいいと思うね。
○江川委員 自費診療を認めたときにどんなことができるのか,そのときのメリット,デメリットというのはどういうことが考えられますか。例えばどんなものですか。歯の治療だったら分かりやすいですけれども,それ以外の内科的な問題ですと,今の状況ではできないけれども,自費診療にすればできることというのはどんなことがありますか。
○高久会長 医学的には,それは基本的にはあってはならないはずなのです。
○江川委員 例えば歯を金歯にするとか,そういうのは分かりやすいのですけれども,それ以外の……。
○宮澤(弘)委員 必要なことは全部やらなければいけない。
○高久会長 保険診療という看板を掲げていますと,自費診療をしてはいけないのです。ただ,特定療養費という枠がありまして,例えば内耳の特定の聴力を増すためのインプラント手術とか,そういうのは特定療養費として患者さんからお金を取っても良い。それは高度先進医療になりますから。今は数は少ないけれども,30万円から100万円ぐらいは取る手術がありますけれども,そういうのは刑務所では対象にならないのですね。もともと特定の大学病院とか総合病院でやっている極めて先進的な医療だけですから。
○江川委員 人の命にかかわるような問題ですか。
○高久会長 それは,本当に命にかかわるようになると保険にせざるを得ないのです。例えば肝臓移植なども,一時期は特定医療でしたが保険になりましたからね。ですから,十分にカバーするかどうかは別にして,命にかかわる技術は保険にせざるを得ないですね。
○野﨑委員 そういう医療をするとなると,刑務所ではできないですね。
○高久会長 それはできないですね。
○江川委員 現行の普通の医療水準としては,命にかかわるものは全部それでカバーしているということなわけですね。
○高久会長 監獄人権センターからの報告だと,放り出されて死んだ人がいるといろいろな事例を挙げていますから。例えば夜はオンコールになっていますね。ある程度の医療施設ですと当直がいまして泊まっているわけですね。オンコールですと限度がありますね。八王子医療刑務所は医師が泊まっていますが,ああいうところ以外は,泊まるといっても,医者が2人でしかいないところでは不可能ですね。ですからどうしてもオンコールにならざるを得ない。オンコールでもかなりストレスがあります。ゆっくりお酒も飲めないとかストレスになります。なかなか難しいですね。医者を7人そろえても,毎日泊まれといったら最低7人要りますから,現状では難しいだろうと思います。
○江川委員 そうすると,外部の病院とどのように協力関係を保つかという,テーマとしてはそちらの方ですよね。
○高久会長 ですから,谷先生は非常に良いことをおっしゃった。そういうシステムができれば,電話で相談してすぐに外部の病院に運べるような体制をとっておれば良いのでしょうね。
○江川委員 問題は自費診療とか保険の問題とかというところではないところですよね。
○高久会長 そうなんですね。
○野﨑委員 医師が刑務所へ行くということは,自分の技術水準を下げる覚悟で行かないといけない。
○高久会長 私の個人的な意見で申し訳ないのですが,それ自体には問題があるのですが,だんだん専門化していっていますからね。
○野﨑委員 そうですね。ですから,刑務所における医療というものを考えたときに医者をどう確保するかというのは大切なんですけれども,そこへ行くとそうなるんだということであれば,ローテーションみたいなものを組んで,そういう時期を余り長くしないようにしてあげないといけないというところもある。それから,外部の病院に連れていくというのは保安要員をつけないといけないですから,非常に難しいところがあるんですね。だから,この問題は,外部に連れていけと言われても,なかなか陣容としてできないところもあるということで,そういう問題をトータルで議論していかないと,とても難しいと思うのです。刑務所の特殊性というものも十分考えていかないといけない。しかし医療水準というのはきっちり確保しないといけない。そういう問題だと思います。また,患者となる人は要求度が非常に強い人が多いわけですから,そういうものを考えた上で,果たして本当にどれだけのレベルの医療をやっていて,どれだけ問題が起きているのかということをよく確定しないといけない。ただ,厚生労働省に移管したからすべてが解決するというようなことではないと思いますね。
○高久会長 フランスがやっているように,どこかの病院に医師をプールして交替というのが,良いのですが,そういうことは日本で可能ですかね。例えば新聞で御覧のように,今,医師の名義貸しが問題になっていますが,名義貸しで非難されているのは自治体病院が結構多い。ということは,医者が足りないから名前だけでも借りないと,標欠といって,診療報酬が削られるものですから,せめて名前でもという状況の中でドクターのプールをつくるということは極めて難しいですね。
○江川委員 質問があるのですけれども,刑務所における一人当たりの医療費は年間約3万5,000円であるとありますね。これは例えば成人の普通の,一般の国民の医療費に比べて高いのですか,安いのですか。
○大橋課長 恐らくそれはすごく安いと思います。その計算の仕方がちょっと違うと思うのです。人件費とか水道光熱費とかは参入しないで計算していますから。薬剤費とかそういう医療経費等で計算しているのではないかと思います。
○江川委員 ではその数字で比較はできないわけですね。
○高久会長 病院の設備投資費も入っていないから。薬とか処置だけを考えた場合はどうですか。
○大橋課長 恐らく外の世界ですと利益があるように薬を出しましょうけれども,刑務所の方はそんなことは考えない。基本的に安く抑えながら出していますから,薬だけでも恐らく安いと思います。
○江川委員 先ほどドクターの方に聞くのを忘れたのですけれども,薬の種類とかそういうのは,例えば医者はこういう薬を使いたいのだけれども,刑務所にはそういうお薬がないから,あるいは仕入れてもらえないから,仕方がないから違う薬を使うとか,そういうことはあるのですか。
○大橋課長 それはあると思います。しかし,それはどこの病院でも,恐らく外でもそうだと思いますが,効能が同じような薬だとすれば,その先生が使いたい薬ではなくても,似たような薬なら使うということはあると思います。そうでないと薬の在庫が多くなって管理が大変でしょうから。刑務所でも恐らくそういうことは当然あると思いますが,一方,施設において薬の購入は,医師が薬剤師と相談しながら決めるわけですから,来たばかりの先生は「これしかない。」と言うかもしれませんが,自分が責任を持ってやれば,主導権を握れるわけです。
 もう一つ,私どもがやっているのは,各施設でそれぞれ薬を持っていますよね。それで在庫などは一応登録してありますので,自分たちのところにない薬でほかにあれば,管理換えという形で,ほかの施設から取り寄せることもできますし,あるいはまとまった薬,これからこの患者が結構長く使うとなれば,新しくそれを購入するということはあります。ただ,在庫だけが残ってしまう,ちょっとだけ使って,あとは残しておくということはなるべくしないように,そういう努力をしているということだと思います。
○高久会長 刑務所全体の薬を全部管理して……。
○大橋課長 全国でですか。
○高久会長 例えば徳州会病院などはそうやっているのですね。在庫管理ではなくて,特定のメーカーから買うわけです。まとめると随分安く買えるわけです。何万ベッドとなりますと,卸屋さんが随分まけるわけですね。基本的な問題ではないのですが,刑務所全体として買って在庫管理をすれば。
 それから,新しく入ってきている人には,先ほど村瀬先生からお話がありましたけれども,健康診断をやっているわけですね。
○大橋課長 病気でなくても,全部,入所時の健康診断をやります。その業務が結構あるんですね。
○高久会長 独房に入れるときにも健康診断をする。
○大橋課長 そうです。入れる前に,また入ってからも定期的に。出たときにも行います。
○江川委員 健康診断というのはどういうレベルの健康診断なんですか。
○大橋課長 通常,社会でやる健康診断ほどの項目をやるわけではございませんが,一応,問診をして,入所時の健康診断は,今までの既往歴を聞いて,現在症状があるかないか,そういったことを聞いた上で聴打診をして,もちろん血圧等は調べますが,必要があれば採血して検査に出すと,そういった程度のことです。その他の健康診断はもう少し簡便な健康診断です。
○高久会長 例えば肝炎のテストとか,そういうのはありますか。
○大橋課長 全員,肝機能検査をスクリーニング的な意味でやっているわけではございません。既往歴からして可能性があり,必要があると判断された者についてやっております。
○宮澤(弘)委員 項目をたくさん書いてありますね。恐らく今重点的に,先生,ビックアップして御自分の意見をおっしゃって,みんなの意見を聞いていらっしゃる。私は,実はこの中で興味があることがありまして,よく分かりませんけれども,最後の「被収容者の死因確定手続」が一般のマスコミなり何なりには関心があることと私は思うのです。これは,今までの行革会議の流れから言って,制度を直すものは直しますと。だけれども,今すぐできるものというのはすぐやりますということで何かありましたね。「被収容者の死因確定手続」というのは,現在の制度をもう少し世の中の人に分かるようにクリアにするというようなことで,法務省としては何かやるような姿勢になっていますか。
○西田企画官 6月に,すぐできる方策というものを幾つか出したと思うのですけれども,そこで,被収容者が死亡した場合の手続を明確化して適正化しようというものがあります。このうち,被収容者が死亡したときにはすぐ公表しましょうということはもう始めました。あと,死んだときに死因をどのように確定してくかということについては,今,矯正局内でもんでおります。
○宮澤(弘)委員 方法論を。
○西田企画官 はい。例えば変死あるいは変死の疑いがあるときには,すべて警察と検察にも通報しましょうと。
○宮澤(弘)委員 それはもうそういうふうに決めてあるわけですか。
○西田企画官 今決めようとしています。ですから,そこのところを少し時間をいただければ,こういったところまでいきましたという報告の説明ができると思います。
○宮澤(弘)委員 それは,そのぐらい入れなくてはいけませんね。
○高久会長 法医学会は,刑務所で死んだ人は全員司法解剖をすると言っているのですが,そこまで踏み切ることはかなり難しいですね。
○西田企画官 こういった情勢ですから,変死またはその疑いがある場合はもう,警察,検察庁の方に通報して,疑いが少しでもあればやるということを今考えております。
○高久会長 それをすれば司法解剖になるわけですね。
○西田企画官 はい。検察庁の方で何か疑いがあれば司法検視をし,必要に応じて司法解剖するということになりますので。
○高久会長 疑いがあるかどうかというのは,だれが判断するのですか。
○西田企画官 検察官です。
○高久会長 医師ではなくて検察官ですね。
○宮澤(弘)委員 それだけでもできれば,この問題に関してはメリットがあると思います。
○西田企画官 すぐできる方策の中身としては,死亡した場合の公表をどうするかがまず一つ。もう一つは,死因の確定手続をどのようにやっていくかということだったので,これを今やっています。
○江川委員 それはいつごろ出るのですか。
○高久会長 本当は来週までに出た方が有り難いのですが。
○西田企画官 それぐらいまでに説明できると思います。
○高久会長 医療に関しては来週で議論が終わるということになっていますから。
○杉山次長 できるだけ来週までにそれをお出しして,そんなものでいいのか,それとも,もう少し何かした方がいいのかというところを。
○高久会長 医師の確保は,八王子医療刑務所みたいなところは別にして,ほかのところは刑務所長さんが個人的なルートでいろいろなところに頼んで出してもらっている。所長の仕事になっていて大変なんですね。先ほど谷先生がいいことをおっしゃって,地方自治体にも少し協力してもらおうということは可能ですかね。
○大橋課長 派遣をですか。
○高久会長 派遣だけではなくて,例えば病院の送り先などについても自治体ごとに。それは県単位ですかね。
○杉山次長 こちらの単位が県とは一致しないのですね。
○西田企画官 現在でもやっておりますのは,刑務所の所在する近隣の医師会とか病院でして,そんなところとはふだんから,何かあった場合には引き取ってもらうようなコンタクトはとっています。ただ,医師の派遣については,頭を下げて回っておりますけれども,それは難しいです。
○野﨑委員 きょう来られた村瀬先生は東京医科歯科と言われたでしょう。東京医科歯科は送ってくれている大学なんですか。
○大橋課長 比較的近くて便利なものですから。
○野﨑委員 今は,医学部というのは各都道府県にできているから,比較的よくお願いして,定期的に送ってもらえるところをつくれば,何とかならないかという感じが……。
○大橋課長 条件なんです。条件によって送ってくれるし,条件によってはそんなのだめだと,それでおしまいなんです。
○江川委員 それはどういう条件ですか。
○大橋課長 勤務日数です。
○高久会長 一番多いのは勤務日数,勤務条件ですね。先ほども言いましたように,東京医科歯科大学と八王子医療刑務所とは非常に近くて便利だ。それから,あそこは医療刑務所ですから,若いドクターにとって,特に外科系の人にとって修練になるのですね。手術ができるので,ある程度腕が磨ける。それから,勤務が終わってから大学に戻って自分の研究ができる。ですから,若い人の場合に,有給になれない予備軍みたいな医師がいて,その人たちは公務員になって,3日間行けば生活を安定させて,あと自分の,例えば博士論文を書くための研究をするとか専門医になるためのトレーニングができるというメリットがあるのですね。
○江川委員 質問なのですけれども,刑務所で働くお医者さんになるには国家公務員になるしかないのですか。
○高久会長 今のところはそうなのです。
○江川委員 それが兼業してはいけないということになっていますよね。逆に,病院でよくアルバイトとかありますよね。A病院に勤めている人がB病院でバイトをしている。A病院に勤めているのだけれども,刑務所でアルバイトするというわけにはいかないのですか。
○高久会長 国家公務員の場合は兼業は禁止されています。
○江川委員 だから逆に,民間病院とか国立病院にいる人でもいいのですけれども,刑務所に例えば週一日アルバイトで来るとか,そういうことはできないのですか。
○大橋課長 それは可能なんですが,刑務所は国ですから,アルバイト料たるや,ほとんど全くお話にならない。だからそういう形では来ないと思いますね。
○西田企画官 現実的にお支払いできるお金が,民間と比べたらもう一桁違うぐらいしかお支払いできないのですね。
○江川委員 それはもう予算は変えられないのですか。
○西田企画官 予算も,一生懸命要求はしているのですけれども,公務員のレベルというものがありますから,法務省だけではなくてよその省庁と同じような仕事だったらこれぐらいだろうというものがあって,それを超えられないですね。
○高久会長 ですから逆に公務員でない方が楽ですね。週3日働いて同じ給料をもらって,あと2日は研究したい人は大学に行くし,他の病院に行って腕を磨きたい人は,他の病院に行って腕を磨いて,同時にその病院から給料をもらえるという方が楽なのですが,そうすると刑務所の中で,刑務官はみんな国家公務員ですから,国家公務員と第三セクターの人が一緒に働く。派遣会社みたいになるわけです。刑務所に派遣会社の人はいるのですか。
○西田企画官 受付業務などは派遣業務で今一人か二人おります。
○高久会長 掃除などをする人は派遣業務ではないですか。
○西田企画官 違います。
○高久会長 だから,今度は医療職も派遣会社を認めるという話になるようですから,実際問題としては不可能だと思うのですが。
○江川委員 いずれにしても,とにかく払うものが少なければ来ないではないかということになりますね。払うものを多くするような方策は考えられないのですね。つまり給与体系をもう一個作るしかないわけですね。
○西田企画官 給与でない払い方とすれば,外の病院に連れていくのと同じような払い方は可能です。
○江川委員 そういう方法は何か考えられないものなのですかね。いろいろな法律などをうまく運用して。
○西田企画官 ですから,今施設内の受刑者を外の病院に連れていくのと同じような支払い方をすれば,往診みたいな格好で来てもらうことは可能なんですね。
○江川委員 そういうシステムというのは可能なんですね。
○西田企画官 可能です。可能ですけれども,なかなか来ていただけない。
○江川委員 それはなぜですか。
○西田企画官 やはり刑務所ですから。
○野﨑委員 宿直をするとかいうようなことを考えたときに,国家公務員だからやるのだというところがあるのではないですか。つまり国家公務員としてそこの勤務医だから宿直もローテーションもやりましょうというところがあるので,アルバイトで来てくれるときは,話し合いで昼間だけとかいうようなことになりかねないのではないですかね。だから,医療の水準を維持するのは難しくなるという気もするのですけれどもね。
○高久会長 国会で言われているように,国家公務員だから週5日間,40時間勤めるというと,恐らく医師はすぐやめてしまうでしょうね。
○野﨑委員 公務員で週5日,だけど実際は3日で,2日はということになっている。国会でも大分議論されていますよね。それについて開き直ることはできないわけだから,今いろいろなことを言っているわけだけれども,しかしこれからこういう行刑の会議があって,刑務所の医療をどうするかといっているときに,どなたに聞いても,皆さんは,5日制でフルタイムにしてしまったら,もう来ないでしょう,腕も落ちるでしょうと言われるわけでしょう。そうすると刑務所における医師の待遇などについてどうするのだということを考えないと,解決にならないのですよね。だから,それは,できれば2日なら2日,よそに行って働けるようにする。そういう形の公務員をつくるということ,これはなかなか難しい問題なのだけれども,考えていかないと解決にはならないわけですよね。絶えずアルバイトをさせているのは国家公務員法違反だろうと言われたら,もう,そうですと言わざるを得ないところがあるわけで。だから,この機会にそれをどうするかというのは真剣に考えていけないといけないと思います。
 アルバイトで来てもらう人とか,そういうものがあってもいいのだろうけれども,やはりそういうものを通じて,トータルの費用の問題もあるけれども,医療水準を昼夜にかけてちゃんと維持できるようにしないといけないわけだから,そのためにはどういう勤務体制それから制度というものをつくるのかということを考えて,やはりこの場で何か意見を言わないといけないような気がします。
○宮澤(弘)委員 そう思いますね。国家公務員の給料表で,一般職のほかに,例えば警察等の現業職があって,それに給与が上増しになっているのがあるでしょう。それに今のような話が近いようなものも給料表の中にあるでしょう。ないですか。
○杉山次長 医師の場合は医療職というものがありまして,通常の公務員よりかなり高い額は設定されております。
○宮澤(弘)委員 医療職の中でも,それに多少不快というと,どうも言い過ぎだから,不快はやめるにしても,例えば刑務所のように,その勤務自身が普通の医療職よりは敬遠をされがちであるというようなことは事実でしょうから,医療職の中でもまた少し刻みを加えていくというのは,先ほどお話があったけれども,気は心といってはおかしいけれども,やはりそれも一つの進歩ではないでしょうかね。今の医療職の給料表を少し分析してみないとわからないでしょうけれどもね。
○高久会長 給料を上げるよりは,自由な時間,国家公務員であって,2日間フリーにする,それを認められるかどうかということの方がクリティカルだと思うのですが。もし認められれば,もっと給料が欲しい人はよその病院で働いてもらえばいいわけですし,もうこれで良いという人は自分の好きなこと,研究でも,あるいは自分の専門の勉強をすれぱいいということになりますから,公務員でありながら2日間,来なくていいのかという問題と,その間で,よそでお金をもらっていいのかという問題をクリアしないと,医師の確保が現実にはかなり難しいですね。
○宮澤(弘)委員 私もそう思いますよ。生で月給を1割や2割上げたところで,それよりも,例えば有給休暇の研究日を余計につくってやるとか,何かそういうようなことの方が,受け取る方も受け取りやすいし,ある意味においては一つの進歩だと思いますね。
○高久会長 国立大学の場合には医療職ではなくて教育職で安いのですが,施設長が認めれば週に1回ぐらいは,どこかに行ってお金をもらってもオーケーを出しているのですよね。ですから,文部科学省でできるから,規模は違うかもしれないですが,法務省でできないことはないと思います。
○宮澤(弘)委員 それはそう思いますね。できないことはないと思います。
○高久会長 ですから,余りはっきり3日間と書くと,表に出ると,「何だ」と言われる可能性がありますから,ほかの省庁の例をとって,刑務医官の場合には,上司の許可を得られれば,ある程度の兼業を認めるという形にしないと確保できない。文部科学省では,兼業許可を出しているわけです。
○江川委員 文部科学省が兼業許可を出しいるのは,これはもう大っぴらにやっていることなんですね。
○高久会長 そうです。学部長ぐらいが出していると思います。あるいは学長までいっているのもしれませんが,上の人が認めているはずですね。
○野﨑委員 給与の問題が,組み方が違うかもしれないですね。刑務医官の場合はフルタイムで来て,これだけのものを出さないと来てもらえないからというのでかなり上げている。医療職の人は高くしているわけでしょう。
○大橋課長 刑務所の医師は医療職で,これは外の国立病院の医師と基本的には同じです。
○野﨑委員 同じならうまくいくのかもしれませんね。
○高久会長 それは一つの方法です。それから複数の医師の場合には精神科のドクターを入れた方が良い。それは書き込んだ方が良いでしょうね。
○野﨑委員 いいんじゃないですかね。今の問題なども書いておかないと,改善にはならないと思いますね。
○高久会長 それから,フランスのような形式は実際には非常に難しいと思うのですが,こういうことも望ましいとか,こういう形もあるとか,メンションを全くしなくていいかということですね。
○宮澤(弘)委員 殊に今リストラだの何だのと言われている世の中ですからね。そこに新しい一つのセンターみたいなものをつくるわけですね。だから難しいだろうと思いますが,まあ,検討に値するぐらいのことかもしれませんね。やはりそれは検討して,できることになるかもしれない。全く丸々捨てちゃうのが惜しいならば検討に値するぐらいの。
○高久会長 何も厚生労働省に移さなくても国立病院は今度独立行政法人の病院になりますからその中に3人分なら3人分の医師を,法務省の方からというのは難しいですか。
○宮澤(弘)委員 研究センターみたいなものをつくらせるためにですか。
○高久会長 いえ,ドクタープールを作らせるためです。以前お話ししたことがあるかもしれませんが,島根県には隠岐島がある。あそこに医者がなかなか行かなくて困っていたのです。島根県立中央病院は,病院長が決断して,その病院で働く医師は定期的に,例えば数年間に半年は島に行くということを条件にして採用するようにしたのですが,幸いその病院は島根県で一番立派な病院ですから希望者も多くて,そういう条件をつけることができたのです。ですから,例えば2年間に半年,刑務所に行くことを条件にして採用するという病院があればどうでしょう。その分の費用はどこが出すかといったら,もちろん,法務省が出すということになります。そういうことはできますか。
○宮澤(弘)委員 それはそのままでいけば,法務省の矯正医療に関する予算措置として入れることはちっとも恥ずかしいことでも何でもないです。
○高久会長 手を挙げてくれる病院があれば良いのですが,多くの病院では,あそこに行くと刑務所に半年行かせられるというと,皆が敬遠して希望者がいなくなる可能性が高い。
○野﨑委員 この間聞いていても,厚生労働省に移せばすべてがうまくいくようなことを言うのだけれども,僕はそういうことはないと思うのです。だけど,そういう試みがなされて成功している国があるとしたら,それは今後,検討課題にして見ていったらいいと思うのですよ。だけど,我々が,それがいいとか悪いとかいうときには,それを変えたらすぐうまく働くという保障がないとだめですから,検討課題にしたらいいと思いますね。
○宮澤(弘)委員 課題と言えば,何だろう何だろうと思って,みんな興味を持ちますからね。
○高久会長 実際にはフランスは日本の2倍ぐらい医者がいるのですよね。
○野﨑委員 ロースクールができると弁護士というのはやたらに増えることになるという問題があって,そうすると,今の無弁市という,つまり弁護士がいない地なんていうのはたくさんあるわけですけれども,そういうものは解決する可能性はあるのですね。それを見ていて非常に面白いと思ったのは,裁判所では,裁判官,検事もそうですが,キャリアなんでしょうけれども,例えば沖縄なら沖縄の石垣島も,鹿児島の奄美大島も裁判官が常駐するわけですね。それは行政官庁とは全く違う組織なんですけれども,それはローテーションを組むからそういうことができるわけなんですね。私なども人口5万ぐらいの町に2年いたことがありますけれども,それなりの工夫をしないとうまくいかないところがある。
○高久会長 保障してくれるからですね。学校の先生でもそうですが。
○野﨑委員 フランスなどのやり方は多分そういう保障をするということも入っているのだろうと思うのですね。だから,かなりのものをかっちり固めないと機能しないのですね。だから,そう軽々に,これでいったらもう全部解決するというようなことは言えないと思うのですけれども,しかし,一顧だにしないというのもいけないと思いますね。いろいろなものを検討しないといけない。
○江川委員 質問なのですけれども,自治医科大などは,例えばへき地の方に行くということで授業料が免除になるわけですね。例えばそういうことの項目に,自治医科大とか防衛医大だとか,その任務につけばそうなるという,その任務の中に例えば刑務所医療を何年間と入れることは不可能なんでしょうか。
○高久会長 それは難しいでしょうね。あそこはへき地に行くということを条件にしていますから。
○江川委員 刑務所もへき地の一つだと考えることは不可能なんですか。
○大橋課長 実は矯正医官修学資金制度というものがございまして,普通の医学部に入っている方が,もし卒業後,矯正施設に勤務されれば,その間,貸与した資金は返さなくていいという制度があるのです。現在運用していますが,でも,学生の側は,お金をもらっても,いざ就職となると,結構ですと言って,お金を返して,入らない方が大部分なんですね。ごくまれに入ってくださる方もいますが。
○高久会長 自治医大ができる前にも,県によっては医者が足りないというので奨学金を出していましたがほとんどうまくいかなかった。私どもみたいに大学全体としてやっても,それでもときどきお金を返す卒業生が出てくる。何とか持っていますが。特に現在医療法人で医者が足りなくて困っているところは,自治医大の卒業生をスカウトするために,その病院が払うのです。出してやるからうちに来いというと,今の若い人は,刑務所の医務室に行くよりは,お金を返してということなのでしょうね。
○江川委員 例えば自治医科大だと,もちろんへき地医療を軽視するわけではないのですけれども,へき地に行くよりも都会の刑務所へ,例えば横浜刑務所に行った方がいいという人が出てくるということは期待できないですか。
○高久会長 それは分かりませんね。ただ,へき地勤務が嫌だというのは,医学知識に遅れるとかいう理由もありますが,一週間に一日ぐらいは勉強のために出ているわけです。また,人によっては島に行くと,医者は一人だから島の人達全員に頼られる。島の人はいい人が多いのですね。まあ,島にもよりますが。一般にはみんな親切で,魚も持ってきてくれる,野菜も持ってきてくれる,大事にしてくれるわけです。
○江川委員 刑務所では精神的満足度がないわけですね。
○高久会長 使命感が人によって違うと思います。刑務所の方がもっと難しいですね。確かに島ですと,自分の医療技術を磨けないとか,新しい知識に追いつけないというジレンマはあります。高齢者が多いですから。だけど,別な意味の満足感がある。刑務所は両方がないから難しいですね。
○江川委員 そうすると,もうここは基本的にはお金をいただいて生活を安定させる場で,それ以外に何かブラスアルファの時間というのが。
○高久会長 精神科の人の中には,探せば,薬物中毒とかそういう問題に興味を持つ人がいますね。
○大橋課長 刑務所でしか診れない患者さんというのは精神科の場合ありますので,学問的にも興味ある対象領域ですね。
○高久会長 精神科の先生には北杜夫さんみたいに書く人が好きな人がいますから,本でも書きたい人は,材料はたくさんあると思いますね。
○江川委員 人数が少ないというのは定員の問題ですか。
○高久会長 それは定員というよりも,希望者が少ないのでしょうね。
○江川委員 先ほど配られた資料の中でも,内科が107人,外科が72人,精神科29人と,随分,精神科が少ない。これは定員の問題ではないのですね。
○大橋課長 医療刑務所みたいに複数,定員があるところは別として,普通の刑務所は定員が一人とか二人の場合,精神科の医師を雇うよりは内科,外科,身体疾患の方が命にかかわりますからね。精神科の場合には命にかかわることは余りないから,優先度としては,どちらをとるかといえば,身体の方の医者をとると思います。だから定員が多ければもちろん精神科はあった方がいいに決まっていますから,そういうことにもなります。
○江川委員 例えば各施設で定員を増やして,うち一人は精神科医でなければならないとか,そういうことは可能なわけですか。
○高久会長 「ならない」というよりは「望ましい」ぐらいしか書けないでしょうね。複数体制でないと本当は大変ですね。
○野﨑委員 内科の医者が102人で,精神科が29人というのは,開業医などから見たら,精神科は圧倒的に多いですよ。だから,割合的に少ないわけではないんですよね。
○江川委員 その需要からすると。
○野﨑委員 だから,それは内科を食っていっていいわけではないんですよ。
○江川委員 そうではなくて,そのプラスアルファをして,だから精神科医がいないところに,例えば1人しかいないのだったら定員を2人にするとか,2人のところは3人にしてという,つまり,とにかく医者の数を増やすということになるわけですよね。
○高久会長 医者の数を増やすということが現実的に可能ですか。
○杉山次長 どこまで実施できるかはともかくとして,こうすべきだというのを打ち出していただければ。
○江川委員 例えばこういうのはいかがですか。幾つかの刑務所を掛け持ちするお医者さんみたいなのは不可能ですかね。
○杉山次長 いや,それは可能だと思います。
○西田企画官 ただ,お医者さんが少ないところは施設も遠いところにありますので難しいと思います。また東京みたいにお医者さんが比較的いるところは,各施設においてそれだけの医者が確保できている施設ばかりですから,その配置がうまくできておりまして。
○野﨑委員 いないところは外部の人に来てもらっているわけでしょう。だから,そういうことで賄うしかないですね。常駐させるというわけにはいかない。
○大橋課長 来てもらうときの謝礼の額が余りにも非現実的な額なので,なかなか来ていただくのが難しい。
○江川委員 その金額を増やすにはどういうことが必要なんですか。法律を変えなければいけないのですか。
○西田企画官 財政当局が認めてくれれば。
○高久会長 謝金にすればいいわけですから。謝金は必ずしも国家公務員のレベルに縛らなくてもいいわけですね。常識的な範囲ですが。
○西田企画官 一応計算上の基準がありますけれども,それ以上使ってはいけないというのではありませんので。
○野﨑委員 しかし大枠はもらわないといけない。謝金で,一番嫌なのは刑務所に来る人だけが高いというのはなかなか理由をつけにくいわけです。だから,余計出すためには何か工夫しないといけないですよね。工夫しなければいけないけれども,予算要求をする立場から言うと,なかなか難しい問題であると思うな。
○高久会長 医者の謝金だけ高くしてとすると,おこられるでしょうね。
○江川委員 現況を変えなければいけないのだったら,今あるお金の中で何とかしろというのはちょっと,できることとできないことがありますよね。だから本当に今回の問題を教訓にして抜本的に変えようとするのであれば,ここまでのことをやる必要があるというぐらいは踏み込めないものなんですかね。
○野﨑委員 書くのはいいと思いますけれどもね。ただ,財務省とかなり闘争しないといけないでしょうね。
○江川委員 ただ,私たちみたいに外部の人間が言っているということは,お役所の都合でやることを提言にしているのではなくて,今回の問題を国民がどう受けとめて,どういうふうにやってほしいかということを言うわけですから,お役所レベルではこんな無謀なということでも,言ってもいいのではないですか。
○高久会長 むしろ,お役所の問題ではなくて,マスコミを含めて一般の人がどうとるかということでして,謝金をどんと上げろというと,それに対する反発が出てくる可能性がありますね。なぜ医者だけだと。
○江川委員 だた,普通の,ほかの病院でやっている水準のことをやるべきだと。だから民間よりよくするのはおかしいと思うのですけれども,例えば謝金にしても民間並みに払えるようにしないと,水準は上がらないし,またいろいろな悲劇も繰り返されるから,するのが望ましいと。
○高久会長 民間並みにするということですね。それから,もう一つ,話は別ですが,保安の介入は,先ほど村瀬先生がおっしゃったとおりだと思うのです。独立は難しいと思います。
○江川委員 保安と医療を全く分離するのは私も無理だと思うのですけれども,実際問題いろいろ訴えがあるということは,その保安の職員に申し出ても,医者のところまでたどりつかない人がたくさんいるのだと思われるのですね。
○高久会長 それを直接,医師の方に来たら,医者の方はもうパンクしてしまうから,勘弁してくれと。
○野﨑委員 医者もガードしてもらわないといけないところもある。難しい問題ですね。
○高久会長 先ほどのお話でも40人というけれども,希望者を全部診たら恐らく100人,200人の単位でワッと押しかける。医務室がパンクしてしまう。どこかでチェックする。刑務官で准看護師の人がいる場合には,保安になるのですか,どちらになるのですか。
○大橋課長 医務になります。
○野﨑委員 保安との関係をどういう形にするかということです。全く切り離しては動かないと思います。例えば外部の病院に委託するとき,だれもついていかないというわけにはいかない。それから,今日,村瀬さんも,立ち会ってもらっていると言っておられたじゃないですか。だから,どうしてもそういうところがあるんですね。あるべき姿,在り方の問題としてどういう形にするかという議論はあっていいのだと思いますが,全く切り離すというのはできないと思いますね。
○高久会長 ただ,患者の処置とか薬の購入については医者の権限です。診療を受ける患者のセレクションを准看護師がやれば,それは保安がやったことにならないのですね。
○江川委員 これが詐病か詐病でないかというのは,ある種の診断ですよね。それを医者でない者が今やっているというのは,まずいんじゃないですかね。
○野﨑委員 医者がやろうとしたら,希望者は全部診ないといけない。
○高久会長 国によっては随分看護師がやっていますよ。日本とは大分違いますが,かなりのことはナースプラクティショナーがやっていますから,准看護師の資格を持った刑務官がセレクトするということしかやりようがないのではないかな。
○江川委員 そこでセレクトしている結果,いろいろな問題が起きているわけで,理想とすれば医者の定員をもう少し増やすべきだという提言みたいなものは書けると思いますし,もう一つは,例えば訴えがあったとき問診は,看護師なり准看護師なりがやるにしても,その記録は必ず医者に見せて,訴えが何らかの形で医者のところにまでちゃんと届くようにしないと。
○高久会長 そうですね。ただ,黒羽刑務所では10倍ぐらいと言っていました。あそこは多いんですね。
○江川委員 例えば100人の人が詐病だということで弾かれているときに,99人はそのとおりかもしれないけれども,残る1人が実は本当の病気で,その人が急変して亡くなってしまったときに,1人と99をどう見るかということでしょうね。だから,全員が医者から直接の診断を受けられる状況にないのであれば,でもその訴えというのは何らかの形で医者がチェックできるようなことというのはできないのですかね。
○高久会長 1~2行なら。
○大橋課長 准看護師の数や看護師の数がかなりいれば,メモしたりすることはできましょうけれども,かなりのエネルギーを要しますよね。そして,それをもし医師が全部見て,チェックするとしたら,そのチェックにかなり時間がかかりますから,そうすると,本当に必要な,つまり治療をすぐしなければならない人に対する時間がなくなったり,逆にそちらを見逃してしまう可能性がありますので,大変難しい。実際には刑務官で医療的な知識のある人間が経験的に観察しながら,もう少し様子を見てごらんとか,そういうことでやっています。初めから詐病,大体医師だって詐病を判断するのは難しいのですからね。むしろ刑務官の方が詐病を正しく判断している可能性があり得ますし,新しく来た医者自体はほとんど,初めはそういうものにだまされる人ばかりですから,刑務官からの情報でコミュニケートしながら学んでいくということですので,さっと切り分けるのはなかなか難しいことだろうと思います。
○江川委員 99人の人はそれで機能していると思うのです。残る1人のいろいろな事件になってしまうような問題というのは,それは受けとめて,それに対する対応を何か考えないと。例えば先ほどの先生の話だと,医者以外のスタッフの充実がもっと必要だとおっしゃいましたよね。だから例えば看護師,准看護師の大幅増員というのを,この提言の中でうたうとか。
○野﨑委員 読売だったかと思いますが,刑務所で事が起きたら,今度は大増員を法務省が要求していると。何か起きるとやけ太りをしようとするというような論調を書いていたけれども,必要なものは要求したらいい。ただ,江川委員の言われる100の中の1つだけということもよく分かるのですが,実際は難しい問題で,その1つを見つけるために99をどうするのかというところですね。
○高久会長 それは一般社会でも99のうちの1つということは年中起きているわけですよ。だから刑務所だけ例外というのはかなり難しいですね。
○野﨑委員 アメリカでは,人はなかなか医者にかかりません。高いですからね。だから,薬局の処方箋の要らない薬で我慢している。日本なら,あの人たちの何割かは医者に行っているのですね。
○高久会長 薬局で買って,事故が起きて死んだりしているのですが,それと同じことになってしまうのですね。
○江川委員 刑務所にいると薬局の薬も買えないわけですから,それは,99分の1が99分の0.5になるだけかもしれないけれども,今よりは少しいい状況にする何かをしないと。
○野﨑委員 考えないといけないよ。しかし,では,どういうものを考えていくかですね。先ほど言われたように,医者に全部目を通させるというのはすごく難しい問題があるだろう。まず言えることは,スタッフを増やすことだと思いますよね。それはまず言わないといけないと思います。それで,どれだけうまくカバーできるか。日本の法律改正というのは,一度やると何十年もそれでいってしまう。だから,拘禁二法だって,あの時に要求を認めさせないと,また次の機会まで50年,100年がかかりかねないという立法に対する不信感があるのですね。いろいろな問題が出てくると,それは検討課題にして,何年以内にちゃんとやりますという形にしないといけない。将来の検討課題というのは,我々が今まで経験してきたことからいうと,それはそこで終わりということの場合が多いが,そうではない検討課題というものを作っていかないといけない。刑務所については,これからだんだん入ってくる人が今までと違ってくるのだから,日に日に新たにしていかないと対応できない時代というものが来ているんですね。だから,それをただ運用だけで正していくのではなく,必要に応じて法律も変えるんだという姿勢でいかないといけない。そういう前提に立っていろいろな提言をしていったらいいと思いますよ。
○高久会長 その100人に1人を救うということが,具体的な方策はあるのですかね。
○江川委員 国会で問題になったり,海渡先生たちの方から来るのは大体そういうケースだと思うので,少なくともその割合を少しでも減らす努力は。
○高久会長 救急体制ということで外部の医療機関との関係,地域と密接に連絡して速やかに送れる体制を作ることは要望できると思います。今でもやっておられるでしょうが,それをもう少し強化してとか。それから医者を派遣してもらっているところとは恐らく密接に連絡はしているわけですね。それは可能です。
○野﨑委員 99と1との割合かどうかは別にして,少なくとも少しでも減らすという方向のためにどうしたらいいかということだと思いますね。
○高久会長 それから透明性の確保ということも問題になっていまして,健康保険の適用が透明性の確保になるかというと,健康保険の場合には審査会で審査するから,そういう意味では透明性を高めるということでしょうが,医療費が高すぎるかどうかを審査しているわけだから,透明性にはならないと思う。しかし,だれかが見ているから透明性がある程度あるのだと考えられるですかね。
○江川委員 質問なのですけれども,例えば今刑務所にいる人が出所した後に自分のカルテをみたいからといって開示請求したらどうなりますか。
○西田企画官 個人情報ですから開示しません。
○江川委員 本人若しくは遺族が。一般の病院は開示をしますよね。
○西田企画官 本人にはします。
○高久会長 だけど家族にはしないです。
○江川委員 遺族の場合は。
○高久会長 遺族の場合でも,なかなか微妙な場合があるでしょうね。確認しておきますが。
○大橋課長 その場合,病院か何かで委員会みたいなものをつくって,そこで開示するかしないかということを決めるのではないでしょうか。
○高久会長 本人には基本的にはしているはずです。
○江川委員 だめだと,裁判所に訴えて証拠保全をしてもらって,それで,その後でという形になるわけですね。
○高久会長 それはできますが,遺族といっても,いろいろありますから,遺族の間で利害関係があるときなどには微妙なこともあるでしょうね。
○江川委員 刑務所などでも,少なくとも民間病院並みに,個人が出た後にカルテを開示するということは不可能ではないでしょうね。
○高久会長 医師に負担がかかって嫌がるでしょうが,希望があれば開示すべきではないですかね。そうするとまた,何かいちゃもんをつけて訴えられる可能性はありますが。特に暴力団などですと。嫌でしょうけれども権利はあるはずですね。
○江川委員 例えば今回みたいに亡くなった人のことが問題になってくると,遺族もということになると思うのですけれども,カルテを公開することのデメリットというのは何かありますか。
○高久会長 訴えられる問題が一番大きいでしょうね。こういう治療を受けたといって開示しますね。それが今度,別な医師のところに行って,まあ医師でなくていいのですが,カルテを見ると十分な医療を受けていないと。そうすると,それはけしからんといって訴えられる可能性はあります。
○江川委員 国の場合は,それで訴えられたときに対応するのは,その個人の医者ではなくて国がなるわけですよね。
○高久会長 それは普通の病院でも訴えられる可能性はあるわけです。遺族ではなくても本人でも訴える権利はありますから。その場合には,普通は医療訴訟になりますから,ドクターは保険に入っていて,アメリカではその金額が高過ぎて問題になっています。
○江川委員 訴えられても,普通にちゃんとやっていれば,負けることはないわけですよね。だから若干手間がかかるという問題はあると思いますけれども,死因確定手続とカルテの公開というところで出口のところをかなりオープンにしておけば透明性は確保されると思うんです。
○野﨑委員 透明性というのはカルテで透明性を言っているのですか。例えば健康保険の適用というのは,治療がちゃんとなされているかという意味のチェックもあるという前提でしょう。
○高久会長 そうです。審査支払機関でチェックするから透明性があるということです。
○野﨑委員 だから,カルテの問題は一つの透明性の問題だけれども,いわゆる透明性云々といったときに,カルテを出せばそれで終わるという問題ではないように思います。僕は刑務所には少しモニタリングする制度が要るんだという考えなんです。多少外部から入った人がね。
○高久会長 それは刑務所全体の問題で。
○野﨑委員 医療というのも,その中でどうするかという問題だと思うんです。
○高久会長 モニターをしたら当然医療も入ります。
○野﨑委員 だから,そういう中で適正な医療が行われているかとか,そういうチェックをするものがあっていいと思うのです。
 それから,それがあっても,カルテを出すか出さないかというのは,もう一つ別の問題なんです。
○高久会長 カルテの開示は透明性の一部ですが,透明性ということを要求されたときに,一番早いなのはカルテの開示ということですね。
○野﨑委員 今までカルテを云々する時には医療訴訟を起こすときとか,そういう場合なんですよね。
○高久会長 必ずしもそうではないのです。
○野﨑委員 それからもう一つは,医療の継続,つまり別のところに行って治療を受けるときに出すわけですね。だから透明性をチェックするためにカルテをというものではないのです。しかし,それが出されてくると,よその機関でチェックされることになるから透明性の確保に資することになる。だからそのすべてではないんですよね。
○高久会長 すべてではないです。一部です。
○野﨑委員 僕が言いたいのは一部の問題ですよということです。
○高久会長 もちろん一部です。
○野﨑委員 これはどうなんですかね。刑務所で透析を受けていたと。いろいろな数値が出てきた。刑務所を出て,実は私は刑務所で今までやってもらってきたんだと言うのですかね。いたら,その治療のカルテを出してもいいような気がします。
○大橋課長 治療を受けていて,出所して,次の医療機関に移るときは紹介状を書くことにしています。それはもうきちんと書くようにしておりますから。カルテそのものをぽんと写すではなくて,必要なデータを書いて。
○野﨑委員 その新しい医療機関がカルテを見せてくれませんか,詳細を見たいのだということを言ったときに,一般の病院では今はそういうものを出すところが増えてきているのですか。
○高久会長 カルテの開示は第三者にはしていけない。
○野﨑委員 本人が要求すれば。
○高久会長 本人はいいですけれども。ただ,それを持っていって,他人に見せるのは問題だと思います。本人が見るのは良いのですが。
○野﨑委員 だけど普通は取ったものを医者に見せると思いますよ。
○江川委員 それは本人の判断であって。
○高久会長 アメリカでできた新しい法律では,それはいけないことになっていますね。一つの医療機関のカルテを,患者の許可なしで他の医療機関は見てはいけない。
○野﨑委員 医療機関は共助みたいな関係があって,取り寄せるところがありますよね。
○高久会長 いろいろでしょうね。日本ではそこのところはどうなっているのか分かりませんが,カルテをそのままよその病院に持っていくということはしないと思います。むしろ,紹介状を書いてもらって持っていって,分からないことを向こうの医師が問い合わせたときに必要に応じて提示する。
○江川委員 なぜカルテの開示かというと,それは一部かもしれませんけれども,別に医療の現場を見張っているわけにはいかないわけだし,それにカルテを必ずしもみんな請求するとは限らないと思うんです。だけど,見れるという制度があるということ,そのものが,目に見える形で透明な制度であるという保障だと思うのですけれど。
○高久会長 今そういうふうに医療機関がなってきていますから,刑務所の医療だけそうではないということは難しいですね。
○野﨑委員 私はカルテを出すななんて一言も言っていないよ。私が言っているのは,それによって正されるのは,ごく一部でしかありませんよということです。もっとチェックするとしたら,刑務所のモニタリングが必要でしょう。私はそういう意見なんです。
○高久会長 モニタリングの中で,どういう医療が行われているかということはチェックする必要があるでしょうね。分かりました。カルテの開示の件は一般病院で実際にどうしているか,聞けば分かることですから。
○江川委員 救急体制の充実に関して,先ほど,どこの国の話でしたか,警察や軍隊が協力しているというところがありましたよね。だから,例えば日本の場合でも緊急の場合に警察の,まあ警察もそんなに人が余っているわけではないというのは分かるのですけれども,例えば協力を得るとか,そういうことは不可能なんでしょうか。
○西田企画官 警察に要請するのであれば,自前の職員が行きます。フランスで言っているのは,医療になったら,もう法務省の身柄ではないものですから,身柄を移すときに警察ないし軍隊を使うという話なんですね。
○高久会長 厚生労働省はそういうものを持っていないから,要請せざるを得ないのですね。
○江川委員 というのは,例えば一人の人が救急で行って,そこで入院したりすると,何人の刑務官が必要で,6人でしったけ,という話がありましたよね。そういうときに,本当に人手が足りない場合に警察の方にも協力を求めるとか,そういうことはできないものなのですか。警察が嫌がりますかね。
○高久会長 嫌がるでしょうね。
○野﨑委員 警察も手いっぱいだから。
 外へ連れていく病院というものを特定して,収容施設的な病棟を設けるといいんですね。一般の病院だって,実は隣に刑務所の人が入っていますよといったら,患者はびっくりするので,それは大変なことなんだと思うんです。3人ついていますから,それでいいんですというわけにはいかないと思うんですね。大きなところでしょっちゅうそういう問題が起きるところなどは,幾つかそういうものがあれば,例えば看守の数だって減るわけですからね。
○高久会長 それはケースが多ければ個室でなくても4人部屋ぐらいの,そして刑務官が6人いれば……,そんなに多くはないでしょうからね。
○大橋課長 いつも空けておかなくてはいけませんしね。病棟を買い取らなければだめですね。
○野﨑委員 だから,外部に入院させるということは大変なんですね。
○高久会長 病院が包括医療になりまして,在院日数がものすごく短なっているものですからベッドが空いてきたのです。ですから,ある程度のお金を出せば。救急ベッドを空けろということがあるのですね。救急の患者のためのベッドを常に確保しておく。
 来週29日にこの会議を行いますが,本日いろいろ御議論していただいたことを少し煮詰めたいと思いますので,よろしくお願いします。どうもありがとうございました。


午後4時50分 閉会