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行刑改革会議 第4回会議

日時: 平成15年7月14日(月)
14時03分~17時05分
場所: 法務省第1会議室



午後2時07分 開会


○成田座長代理 まだ野崎委員,江川委員がいらしておりませんけれども,定刻でございますので,会議を始めさせていただきます。
 本日は宮澤座長が御都合により御欠席と聞いておりますので,私が議事進行役を務めさせていただきたいと思います。
 なお本日,法務大臣は国会対応のためやむなく一時席を外される予定であり,副大臣及び政務官は後ほど御出席の予定です。また,曾野委員,広瀬委員は御欠席,後藤田相談役は途中御退席の予定と伺っております。
 本日の予定ですが,まず,医療問題を取り上げたいと思います。行刑施設における医療については,これまで矯正局内に設置された矯正医療問題対策プロジェクトチームが検討を続けてきたとのことですので,まず,矯正局から行刑施設における医療の現状や今後検討すべき問題点についての説明をしてもらい,質疑応答を行いたいと思います。
 次に,名古屋刑務所の受刑者死亡事案において用いられた革手錠については,既に廃止の方針が打ち出されているところですが,その代替品についての検討がまとまりましたので,矯正局からその報告等をしてもらう予定でございます。
 その後,かねてから皆様の御意見をいただきたいとお願いしていた行刑の基本的理念・ビジョンと取り上げるべき論点について時間をとりましたので,御議論いただきたいと思っております。
 本日も内容盛りだくさんでございますので,委員の皆様には何とぞ円滑な議事進行に御協力いただきたく思います。
 それでは,報道の方が退室されるまでの間,しばらくお持ちください。

1.行刑施設における医療について(法務省矯正局の説明)

○成田座長代理 それでは,早速議事を始めていきます。まず最初に,矯正局の大橋医療分類課長から行刑施設における医療について,プロジェクトチームの検討結果を踏まえて,その現状と問題点について説明をしていただきます。
○大橋医療分類課長 ただいま御紹介にあずかりました大橋でございます。
 これから説明しますのは,行刑施設における医療についてでございますが,時間の関係上,お手元にあるA4横のレジュメに沿って概略を述べまして,必要があれば質疑の際に詳細なことについては補いたいと思います。
 まず,表紙の1ページ目は,これから説明しようとする行刑施設における医療の三つの主題,つまり,医療の現状,医療をめぐる論点,医療の展望を示したものです。
 2ページ目をお開きください。2ページ目は,第1の主題,この行刑施設における医療の現状とその細目でありまして,御覧のとおり4点ございます。
 早速細目に入りたいと思いますので,3ページをお開きください。まず,その1の「被収容者に対する医療の責務」でございますが,矯正施設に収容されている者は国によって拘禁されているわけですから,彼らの健康の保持と疾病の治療は国が当然に行うべき責務とされ,医療費は国費となっております。また,この黄色の部分に書いてありますように,監獄法第40条,43条には,「被収容者に対する医療は原則として矯正施設の医師が実施するが,できないときは外部医療機関で行う」と,こういう趣旨が書かれております。これは,要するに被収容者に対する治療場所の原則と例外の記述,こう見ることができます。
 4ページを御覧ください。これは,監獄法に記された治療場所の原則と例外をもとにいたしまして,現在行われている被収容者に対する医療の全体像を示したものです。右側に外部医療機関と書きましたけれども,外部医療機関は被収容者に対して受入義務を持つわけではありませんから,必要の都度,施設の医師によって探すことになります。実際これには大変な苦労が伴いまして,また,いつも必ずしも見つかるとは限りませんから,そのリスクを減らすためにもできるだけ矯正施設内部の医療機能を向上させておく必要があります。
 そこで,全施設に病院の機能を持たせるというわけにいきませんし,不合理でありますから,私どもは各施設を医療機能上3段階に区分して,医療スタッフや医療機器等期待される医療機能に応じて配分するという方策をとっております。この3段階をピラミッド状に描いて,外部医療機関との関係をも含めて描いたのがこのシステムとしての矯正医療の図であります。医療機能のトップが医療専門施設ですが,医療刑務所と名前がついているところです。これには内科,外科,精神科等各科をそろえた八王子医療刑務所と大阪医療刑務所,いわば総合科があるところですが,それ以外に精神科専門の岡崎医療刑務所と北九州医療刑務所があります。ボトムにあるのが一般刑務所で,その中間に医療重点施設があります。医療重点施設の名前はここに書いてあるとおりです。ちなみに医療法上は,岡崎医療刑務所を除く医療専門施設を病院として届けております。また,一般施設と札幌刑務所を除く医療重点施設は,診療所としての届出です。このように施設間で医療機能を区分した上で,相互に連携し患者を移送するということをして医療を行っていますけれども,先ほど述べましたように,内部の連携によっても行えない医療は,施設に近い外部の医療機関をその都度探して交渉し,そこに移送して診療を依頼する体制がとられております。このように被収容者に対する適切な医療措置というものは,矯正施設間のネットワークと外部医療機関との協力によって実施されておりまして,したがって矯正医療はクローズドというよりも,セミオープンな医療システムということが言えると思います。
 次の5ページを御覧ください。これは,その3として,矯正医療と一般社会医療との相違を示したものです。黄色の丸は患者,青は刑務官,これは必ずしも冷たいという意味ではないですが,青は刑務官です。それから,赤は医療スタッフで,若干ピンクがありますが,これは赤を薄めたものです。この赤の濃度差は医療関係職員の濃度差を示しております。黒い枠の線はバリア,破線はバリアがないことを示しています。
 まず,右上の図を見てください。これは外の病院のことですが,一般社会では,必要性を感じれば自己の意思で医療機関を選択して,費用も自己負担で受診できますし,また,治療継続や治療中断,あるいは入院患者の病院からの逃走すら自己の責任で自由であります。治療環境は医療関係職員のみから構成されておりまして,家族の付き添いも可能で保護的な環境と言えるかと思います。
 一方,左側ですが,矯正施設の被収容者は,入所時に健康診断を受けまして,その後,主な生活の場は舎房や工場等になりますが,ここでの行動は刑務官の監視下にあり,制限されております。したがって,受診の必要性を感じても,一人で自由に勝手に医務室に歩いて行くことはできません。刑務官に申し出て,刑務官に付き添われて医務室で受診するということになります。医師の診察の結果,休養,加療を要すると判断されれば,施設内の病舎や,そこでできない場合は医療重点施設ないしは医療専門施設に移送されて,無料で治療を受けます。病舎での治療環境は,一般施設や医療重点施設,医療専門施設などによってそれぞれ温度差はありますけれども,病舎には医療関係職員が存在していて,主たる生活の場である工場等から比べると保護的な環境になります。ただ,それでも一般社会の治療環境と違うのは,この治療環境の場にも刑務官が必ず存在するということです。この点は,外部医療機関に移送して治療を行う場合でも変わりません。右下の図のとおりであります。
 要するに矯正医療と一般医療の違いは,費用の自己負担の有無だけではなくて,受診行動と治療環境の中に刑務官が介在するという点が本質的に相違する点であります。刑務官が介在する理由は,被収容者の身柄の確保や不測の事態防止のためであると考えられます。ちなみに一人の被収容者が外部病院に入院しますと,部屋は個室でありまして,24時間3人の刑務官が付き添いますから,交代要員,つまり非番者を含めれば,一人の被収容者が1日入院すると必要とされる刑務官は6人ということになります。
 6ページを御覧ください。その4の医療の概要といたしまして,医療関係職員,患者数,医療関係予算について御説明します。
 まず,医療関係職員の定数ですが,平成15年4月1日現在では,行刑施設全体で医師は226名,看護師252名,そのほか薬剤師,診療放射線技師,栄養士,臨床検査技師など89人,合計567人となっております。医師について見ますと,これを1日平均収容人員で割りますと,大体被収容者300人当たりに医師1人ということになります。
 次に患者数です。平成14年10月1日現在の行刑施設における患者数ですけれども,休養患者数が1,247名,非休養患者は3万4,106名です。これは被収容者の約52%に相当します。ですから大体半分くらいが患者として治療を受けているということです。ちなみに休養患者とは,一般社会で言えば入院又は自宅療養患者に相当し,非休養患者というのは仕事をしながら通院しているような患者に相当します。参考までに行刑施設における疾病の上位3位は,1位が循環器系の疾患,2位が消化器系の疾患,3位が精神及び行動の障害であります。
 次に医療関係予算ですけれども,平成15年度において総額23億4,500万円が計上されておりまして,これは被収容者一人当たり約3万5,000円に相当します。
 7ページを御覧ください。これは「行刑施設における医療を巡る論点」という第2の主題の細目でありまして,御覧のように四つあります。順次国会で指摘された点を踏まえまして説明いたします。
 8ページを御覧ください。その1は,行刑医療の独立性・透明性の担保という論点であります。これは,行刑施設の医療が保安,処遇部門に従属しているのではないか。また,外から見えにくいため,どんな医療が行われるのか分からない。そういった疑義が出されまして,行刑医療の外部委託ないしは分離,医療部門を国立病院の管轄下に置いたらどうか,更には各管区に厚生労働省所管の医療機関を設置するなどの提案がなされました。これらの方策の適否や実施の可否につきましては,被収容者の特殊性に対する評価に加えて,厚生労働省との協議や法律の改正が当然必要となってきますけれども,死亡事案の公表については既に基準を策定して実施しておりますし,死亡帳の記載の適正化についても既に指導済みであります。
 また,健康保険の適用につきましては,9ページをお開きください。健康保険の適用がないために,予算的な理由で高額な治療ができないのではないか。あるいはしていないのではないか。金がかかるから病院移送しないのではないか。このような指摘や疑念が出されました。現状では,法律上矯正施設に収容中の被収容者には保険給付や療養の給付が停止されております。確かに健康保険が適用されればレセプトを通して,これは請求書ですね。レセプトにより医療内容はチェックできるでしょうけれども,一方,健康保険を適用するためには,健康保険制度がよって立つ条件,例えば保険料の支払いや医療費の自己負担,また,医療機関の自由選択という問題を解決しなければなりません。いずれにしましても厚生労働省との協議や法律の改正が必要になります。
 10ページをお開きください。その2は,被収容者に提供すべき医療の内容という論点であります。言うまでもなく,被収容者に対して必要な治療は現在でも行っておりますけれども,ここでの論点は,被収容者にどこまで医療を提供すべきかという,いわば限界の問題です。例えば,分かりやすく言いますと,覚せい剤乱用者にはウイルス性肝炎の感染者が多いのは御存じだと思いますし,また,歯がボロボロな人が多いのも事実であります。こういった人たちに,希望する者には全員に社会では一人数百万円もするインターフェロン治療を行うべきなのか否か。あるいは生命には直接関係のない義歯,入れ歯のことですが,義歯作製までも行うべきなのかどうか,こういう問題です。彼らの多くは入所前には自己の責任では治療していませんが,出所してからでも間に合う高額な治療などを果たして入所中に,しかも無料で行うべきなのかどうか。さらには臓器移植などの実施はどうなのか。こういう問題です。果たしてこういった議論に,まじめに働き税金を納めている国民や被害者の感情を反映すべきなのかどうか。反映させるにしても,どのようにして反映させるのかという点の検討も必要になろうかと思います。
 11ページをお開きください。その3は,医師の確保という論点です。行刑施設の医師は勤務日数が少ないのに常勤医師としての給料をもらっているのはけしからん,毎日出勤すべきであるとの批判がなされたことは既に御承知のことと存じますが,これを今すぐ強制したとすれば,恐らくほとんどの医師が辞めるでありましょう。こうした状況が生じる背景には,行刑施設における医療の特殊性,困難性という問題があります。この点を医師確保の困難な理由として五つほど挙げておきました。このほかに通常病院では書かない煩雑な書類が多いことや社会的評価の低いことも挙げられるかと思います。矯正医官への心ない批判はさらに社会的評価を低め,医師の確保が一層困難になるのではないかと心配しております。
 なお,この困難さの1に挙げた,医療の対象者が被収容者であり,種々のトラブルが懸念されるという点を若干説明いたします。トラブルの懸念は医師が就職する前に抱く恐れですけれども,実際に常勤医となって責任を持ちますと,右の楕円内にある診察状況の特殊性に記載した事態が頻繁に起こり,それに遭遇し,懸念したことが現実であることを医師は思い知らされます。多様な症状を訴え,診察の結果,特段の治療の必要がないことを説明しても,医師に執拗に薬を要求して,思うようにならないと医師本人のみならず家族に危害を加えるなどと脅迫し,あろうことか実際に医師の氏名や居住地等の個人情報を知っていることさえあります。それでも医師が言いなりにならなかった場合は,虚実をまぜて訴訟等に訴えることもあります。一般社会なら患者は医師が気に食わなければ他の医療機関に行くなり,医師は困ったら他を紹介すればよいのですけれども,行刑施設では患者も医師も相互に相手を選択することができません。要するに医師は執拗に食ってかかる患者から逃げることもできず,一人で対峙せざるを得ない状況になります。しかも誠実に診療しても感謝されないのが矯正施設で勤務している医師の大方の状況です。医学は日進月歩であり,もし矯正施設だけに医師を拘束しておくならば,勤務する医師の技術水準の低下を来たすだけでなく,医師はこのような困難な状況にあえて身を置く必要はありませんから,矯正施設に有能な医師はほとんどいなくなりましょう。そのようなことになれば,結局被収容者に対して責任を持った医療を提供することが不可能になります。今でさえ医師の確保が困難なのですから,今後大学の独立法人化や研修制度の変化などもあり,更に一層困難になることも予想されます。したがって今まで以上に効果的な対応策が講じられなければなりません。外部医療機関での研修の制度化,給与・手当等待遇の見直し,兼業許可,医師が研修で不在の日の非常勤医師によるその日の充当,医師の募集採用方法の見直し,夜間・休日に呼び出されることなどの負担減などをここでは挙げておりますけれども,中でも研修や研究日の保障と兼業許可が最も有効で,現実的な方策ではないかと私は個人的に思います。
 次の12ページから14ページまでは,その4の診療体制の充実・強化という論点で細目が四つありますが,最初の二つは夜間・休日の医療体制の向上と外部医療機関との連携の強化です。12ページを御覧ください。御説明いたします。
 まず,夜間・休日の医療体制の向上ですけれども,行刑施設は病院ではありませんから,医療刑務所等の施設や一部の医療重点施設を除き医師は当直しておりません。そこで,夜間・休日等医師不在時の診療体制が貧弱であるとの指摘があるわけですが,しかし,現状では医師の自宅待機や看護師等の夜間配置で対応しておりまして,対応できないときは救急車で外部病院に移送しておりますけれども,御指摘もあることを踏まえ,実際万全であるとは言えませんので,今後もより一層外部医療機関との連携が必要になろうかと思います。
 また,外部医療機関との連携は,夜間・休日に限らず日中でも医療刑務所等に移送するいとまのない急患発生時や,あるいは医療刑務所でも対応できない疾病,これは脳外科,脳疾患とか心臓外科ですね。そういったものに対して必要になることは,システムとしての矯正医療で述べたところであります。したがって,夜間・休日の医療体制の向上と外部医療機関との連携の強化というこの二つの課題は密接な関係にあります。ともに地元医師会の協力が必要不可欠ですので,今後,矯正施設を地域医療の対象として位置付け,当番医制を利用させてもらうことや協力病院の確保を含めまして,医師会等と協議する必要があると考え,既にその方向で動き始めております。
 診療体制の充実強化という論点の残りの二つは,精神科と歯科という具体的な診療科目の充実についてです。
 13ページを御覧ください。まず,精神科医療の充実ですが,御承知のように行刑施設には覚せい剤等薬物関連の精神障害を始めとしてさまざまな精神障害者が入所しております。平成14年の資料では,精神障害を有する受刑者は6,212名で,これは全受刑者のおよそ11%になります。このうち専門的施設で治療すべきとされた者,これは通常M級と言っておりますが,422名です。一方,行刑施設の精神科医は,常勤医師が30名,非常勤医師が22名で,すべての施設に精神科医が必ずしも配置されてはいない点も含めまして,精神科の治療体制は不十分であるという批判があります。また,薬物中毒患者の治療のための施設の新設が必要であるとの指摘もありました。いずれにしましても,精神障害者の治療は精神科の医師だけで行うわけではありませんから,非常勤の精神科医の増配置はもとより,作業療法士等の採用あるいは心理技官の参加等の対応策が考えられます。
 次に歯科治療の充実ですが,14ページをお開きください。行刑施設における歯科診療の運用は,日常生活に支障のない程度までの応急処置的な治療を国費で行っておりますけれども,施設間で診療頻度に差があったり,診療待ち時間に長短があったり,あるいは国費と本人負担の治療内容に微妙に差があったりする問題があり,また一方では,義歯(入れ歯)も国費で作製すべきではないかという御指摘もあります。こうした歯科診療の問題の解決には,まず,協力してくれる歯科医の確保が必要ですし,それから予算措置を得て診療回数を増加することが不可欠ですけれども,国費による治療範囲と本人負担による治療範囲との区分を一層明確にすることも必要かと思います。ただし,先にも触れましたように,入所前には歯科医院を受診せず入れ歯なしに生活していた者に対して,本人が希望するからといって入れ歯の作製まで入所中に国費で行うことが果たして妥当なのかどうか。こういう問題は予算や歯科医の確保とは別の次元で検討されるべき点かと思われます。
 最後に,以上の論点を踏まえまして,行刑医療を一層充実させていくための展望に触れてみたいと思います。15ページをお開きください。これは,「行刑施設における医療の展望」という主題の細目ですけれども,具体的な内容でもあります。
 16ページをお開きください。これは行刑施設における医療の展望を図にしたものです。被収容者に対して適切な医療を行うためには,被収容者の特質を熟知した医師が必要です。加えて必要な身柄の確保やプライバシーの保護等を考えますと,監獄法に記載してあるとおり,原則的には医療は矯正施設の医師が行い,外部医療機関との連携を強化しながら医療水準を適正に維持していくという現在の方策,つまりセミオープンな医療システムは今後も維持されるべきであると考えます。その上で,医療専門施設,医療重点施設,一般施設の医療機能をそれぞれ向上させるというのがこの展望の基本的にある考えであります。
 まず第1に,老朽化した医療専門施設と医療少年院を同一敷地内に合築して病床数を拡大して,高額医療機器等をここに整備し,各専門分野の医師を始めとする医療関係職員もそこに集中配備して,病室で精度の高い診断と治療を可能にする。さらには研究機能もここに付加しまして,高度な医療機器があれば研究機能も当然そこに自然と備わりますから,それを付加しまして,医師にとって魅力ある環境を作るというのが矯正医療センター構想でありまして,東西に一つずつ合計2箇所作りたいと考えております。
 第2に,現在の医療重点施設は診療所の機能しかありませんので,医療スタッフ等を充実して病院としての機能を名実ともに持たせて,医療機能を向上させ,そして,一般施設で対応できない患者や医療センター退院後一般施設に移送される前の患者のケア等が十分できるようにしたい。
 第3に,一般施設においては,検診項目の増加など健康診断を充実させまして,疾病の早期発見に努めるとともに,地元医師会との協力関係を構築し,疾病の早期対応や救急患者発生時により一層適切な医療が実施できるようにしたい。このように考えております。
 以上で私の説明を終わります。言葉足らずの点やお聞き苦しい点があったかもわかりませんが,御容赦ください。御清聴感謝します。
○成田座長代理 どうもありがとうございました。
 刑務所の医療につきましては報道等でも取り上げられておりますが,なかなか分かりにくいところもありますので,御質問がありましたら是非この機会に大橋さんに伺っていただきたいと思います。
○菊田委員 委員の方皆さんそれぞれの御意見をお持ちだと思いますので,私だけが網羅的に申し上げるわけにいきませんけれども,一つだけお伺いしたいのは,10ページの説明ですが,インターフェロンとかえらく金がかかるということは承知しておりますけれども,問題は,御説明では国民感情から医療そのものが一般国民と比較して受刑者については限界があるという意味のことをおっしゃるわけですけれども,私は,もちろんフリーハンドですべて我々の治療と同じにしろということを言うつもりはありませんけれども,医者の立場としては,やはり一人の人間として,受刑者ではあるけれども,その受刑者の治療を可能な限り今の枠の中で努力するというお言葉をむしろいただきたい。それは,後ろの方でおっしゃっていますから御趣旨はよく分かりますけれども,やはり困難であればあるほど医者の立場から可能な限りそういう重症者を保安中心ではなくて治療中心にやっているんだという御説明をいただきたいという気がいたしますが,いかがでしょうか。
○大橋医療分類課長 それは御安心ください。私がここで述べたのは,国民感情を考慮に入れるべきかどうか,それから,入れるとしたらどういう形でそれを参考にすべきかということ,これも議論の対象であろうといったことであって,国民感情がこうであろうからこれは抑制すべきだということは全く言っておりません。ただ問題は,肝炎のキャリアだということが検査をして分かって,本人が将来肝硬変とか肝癌になる可能性があるという知識を持っていて,今やってくれと。せっかく今刑務所にいて暇だから,いる間にやっておこうと,こういうことで全員希望した場合に,即座に皆やるのかどうか。これは,今すぐやる必要があるものと,例えば1年後に出るのだったら,出た後にやったっていいじゃないかと,こういうタイミングの問題があるわけです。ですから,そのタイミング等を測りながら,しかし,今やらなければこの人の生命に危険を及ぼす,こういうことがあるものに関しては当然医師としてはやるだろうと思います。今でも必要な医療はやっております。入れ歯も同じでございまして,現在歯科医の方にやっている余裕が……,ほとんど虫歯とか何かの治療で一生懸命やっていて,なかなか入れ歯の治療までできないことが多いのですが,入れ歯をやる余裕があって,本人が希望した場合は,これは官費でなくて自費でやっております。なぜかというと,外に出てからやってもらっても十分間に合うわけですから。だけど,希望して余裕があった場合はやる。こういうことで,それと同じかどうかは別としまして,インターフェロンも,どういうところが必要なのか,どこまで必要なのかという,この基準がある程度医師の裁量に今でも任されていますが,しかし,もう少し明確に,どのくらいのケースについては今やらなければいけない,どのくらいのケースについては出てからでも間に合うのではないかと,こういう判断基準が医学的に明確になるようになればもう少しその点はやりやすいだろうと思います。明らかに必要な医療は,保安がどうのこうのと関係なく,我が方はやるつもりでおります。現実にもやっております。
○菊田委員 そういうつもりはあるけれども,実質的にこういう一般の刑務所の中でも相当重病の人がいるわけだけれども,例えば医療刑務所への移送ということは,非常に限られていますよね。受入側自体が物理的に制限がありますから。だから今おっしゃったように,ほっておけば死ぬという,これは正に手遅れなので,やはりそういう持病を持っている者については,ある状況の中で我々と同じような治療ということを積極的にやるような方向というのは,これはどうしても必要だけれども,その点については,やはり現状は体制が不備だと。というよりも,そういうことよりもやはり刑罰が優先しているということが意識的に現場ではあるのではないかと私どもは思っていますけれどもね。
○大橋医療分類課長 ここでこの話をずっとやっていてもなんでしょうけれども,肝炎のキャリアが,将来肝硬変になる,肝硬変から肝臓癌になるまでにはかなりの時間がかかるわけですね。その人に対してインターフェロンをすぐやるべきだというのと,もうちょっと後からやってもいいんじゃないというのはありまして,それについて,即医療刑務所に行ってインターフェロンをやるというところまでは,普通の医者は考えないだろうと思うのですね。
○菊田委員 ただ,糖尿病の場合,娑婆でインシュリンを打っていたけれども,刑務所へ入ったら,「おまえは刑務所の飯を食っていれば,それは自然に治癒するんだ」と言われて,糖尿病の薬自体を使わせてもらえなかったというようなことが現実に出てきますよね。だから,娑婆でやっていた薬はそのまま基本的には使えるような体制ということは考えておられますか。
○大橋医療分類課長 もちろん考えておりますし,現実にやっておりますが,ただ,糖尿病に関しましては,社会では彼らは非常に不規則な生活をしておりますから,インシュリンをやらなければならないという人も,多くは刑務所に入って規則正しい生活をし,たばこ,酒も飲まずに,食事も適切な量を食べるということによって,本当に薬なしでも良くなる人がかなり多いのです。御存じのように糖尿病の治療の原則は運動と食事療法でありまして,それがきちっとできない人がインシュリン療法をやる。インシュリンがなくてはだめな人もいますけれども,多くは食事療法と適切な運動療法で,だからこそ生活習慣病と言われているわけですけれども,そういうことを比較的きちっと刑務所ではできますので,やらなければならないのはもちろんやりますよ,だけど,それでコントロールできるものはかなりありますので,現実には薬なしでもやっていける人がいる。こういうことでございます。インシュリンをやっている人もたくさんおります。
○江川委員 13ページの精神科の問題について細かく何点か伺いたいのですが,まず,治療すべき受刑者422人となっておりますけれども,これは治療すべき……
○大橋医療分類課長 専門施設でですね。
○江川委員 専門施設に収容して治療すべき受刑者が422人となっていますが,この人たちは全員そういう施設に収容されているのでしょうか。
○大橋医療分類課長 医療刑務所とか医療重点施設でということです。待っている人も当然いましょうから,そういった者も含めてです。
○江川委員 待ちもいるのですか。
○大橋医療分類課長 待ちもいると思います。
○江川委員 どれぐらいいますか。
○大橋医療分類課長 待ちは,その日によって違いましょう,これはちょっと分かりません。
○江川委員 分かりました。
 それから,6,212人もの方が患者さんとしていらっしゃるわけですけれども,その割にドクターの人数が少ないなと思うのですが,もちろん地域がばらばらになっていると思うので,数字からだけでは必ずしも言えないと思うのですけれども,大体これぐらいの患者さんを診るのでしたら,どれくらいの医師が欲しいなと思っていらっしゃるのかというのが1点。
 もう一つは,覚せい剤などの薬物関係で,例えばダルクだとか外部のカウンセリングの機関との提携というのですか,そういうものをもう少し進めていくということは,医療の立場としてはどう考えていらっしゃるか,御意見をお聞かせください。
○大橋医療分類課長 精神科医の数がこの患者数に対して足りるかどうかというのは,少し難しい問題がございまして,つまり,大体重症度によって違うのですね。それで,例えば422名という数字は医療専門施設に収容してというのですから,比較的疾病の名前も症状も重いものだと想像できます。それを例えば常勤医30名で割ったとしたら,これはそんなに医者が少ないなんてちょっと言えないのですね。非常勤で割ってもそれほどでもない。一般の精神病院ではもっと診ていますから。普通は入院患者を民間病院では50~60人診て,外来では1日に30人,40人を診ているわけですから,だから,この数で単純に割ったら我が方が一方的に少ないとは言えませんし,多いとも言えません。ですから,この6,212名は,結構,時々状態が悪くなる人とか,それから不安発作が起こったり,眠れないと言って訴えたりとか,そういった人たちも恐らく含まれている数でございまして,ですから,ここには医者の数がまとめて書いてありますが,問題は,一般施設には一人いるかいないかということの方がむしろ問題でございます。精神科医を全部の施設に1名ずつ常勤で配置するというのは,なかなか難しい問題ですので,つまり身体の,生命の方の医者を一応中心に考えたいと思う施設は当然こざいましょうから,1名しか定員がないところは,やはり内科か外科の先生が欲しいと思います。ですからあとは非常勤の先生に来ていただくように-来ていただいてはいますけれども,その回数を増やすとか,また,来てもらっていないところは非常勤医をそこにつけてということで対応していきたいと考えております。
 それから,ダルク等については,私,知識が余りないのですけれども,少年院なんかではダルクの人に来てもらってやってもらっているところもありますし,恐らく行刑でも,私はその点の知識が余りないのでうかつなことは言えませんが,やれなくはないわけですから,やっているところもなくはないと思いますね。講師として呼んだりすることはあるようです。覚せい剤教育もやっていますから,そういうことはあり得ると思います。
○宮澤(浩)委員 この医療の問題,殊に医師の確保の問題は非常に難しいということは,新聞で現状が非常に問題だということを指摘した記事を読んだときの印象と,それから,施設などに行って事情を伺って,難しいのだなということを認識したのと,その間にかなりぶれがありました。御質問したい一つは,一般病院に3人の刑務官が付き添って行かれて,交代要員も入れると6人というお話でした。この一般病院で逃亡事故というのは余り新聞で読んだことがないのですけれども,そういう問題はかなりあるのですか。
○大橋医療分類課長 かなりあっては困りますが,ただ,過去には数件あったと思います。逃げないように3人いるわけですけれども,それでもあったと思います。
○宮澤(浩)委員 それで考えましたのは,3人あるいは6人の職員がそれにかかり切りになるということは,大きな施設だとまだいいのですが,比較的小さい施設の場合には,殊に今,過剰収容の施設がいろいろなところにあると聞きますので,大変難しい問題があるのかなというふうに思いましたけれども,そんなことから逆に外部の病院に行くのを抑えようというような発想はないのですか。
○大橋医療分類課長 抑えるというよりも,どうなんでしょうか,実際,事態が発生しますと,どっちみち緊急の場合は連れていかざるを得ないのですね。ですから,それよりも緊急事態が起こる前になるべく内部で診ようとするということはあり得ると思います。それで,医師が,これは自分の専門でないから外部病院の専門医に診てもらえ,外部病院を紹介するからと言って,相手の病院と話をつけたとして,それを連れて行く時に,今日言って,すぐ「はい,分かりました」と保安の職員が連れて行けるか,人員配置がつくかどうか分からないという点で,1日や2日,あるいはちょっとずれるということはあると思います。
○宮澤(浩)委員 それと,思いましたことは,統計的に数字で出すよりも,むしろ,例えば非常に過疎地みたいな,昔,霧島農場といった,今は鹿児島刑務所がそっちに移っているようですが,そういうところでの医師の確保とか,月形に少年院と刑務所がありますけれども,あの月形村にきちんと対応できるだけの医師の数がおられるのかというふうに,地方によってはすごく大変なところもあるだろうし,その辺の手当て,特にそういうところに医師が来やすいような,少しプラスアルファの謝金を出すとか,そんな配慮みたいなことはやっておられるのでしょうか。
○大橋医療分類課長 プラスアルファのお金を増額するとか,そういうことは現在の制度では全くできませんので,お金は同じです。ただ,実際,それは外部の病院では給料を上げたりして,医者にともかく来てもらおうとする優遇策をどんどんとれますけれども,我が方は国ですので,金をどんどん上げるわけにいきませんので,勢い勤務時間,正規はこれだけれども,これだけ来ていただければ有り難いという,こういう形になるのではないかと思います。来てくれたとしてもですね。遠い大学から来てもらうにしても,恐らくそういう現実だろうと思います。
○宮澤(浩)委員 抽象的に考えたときには,今の話にちょっと,「えっ,そんなことでいいの」というようなことを思ったのですが,具体的に,非常に医師の確保が難しいという状況の話を聞きますと,難しいんだなということも感じますし,それから精神科が非常に少ない,精神科の医者を確保するのは難しいということも聞きましたものですから,知り合いのかつてそういう施設に勤務していた先生に御自分の経験を聞いたら,やはり刑務所の場合では,大体症例が似たようなものであって,研究したいという若い時代には,やはり研修の方に余裕があるというのが矯正施設でのメリットだったという告白を受けまして,そういうことなんだなということを感じました。以上です。
○成田座長代理 では,最後にしてください。
○久保井委員 今回の改革において,医療の改革というのは大きな柱になるだろうと思います。先ほどのお話をずっとお聞きしていると,なかなか現場は精いっぱいの努力をされているようで,どういうふうに改革したらいいか頭を悩ますところですけれども,まず,医師の確保の方法として,例えばフランスでは司法省から厚生省に刑務所の医療の管轄を移して,それが非常に成功した。それが医師の確保にもつながっていった。ということは,刑務所の中の医務室が病院の分室のような扱いになるので,その病院全体のお医者さんのローテーションと人事の中で医師が派遣されてくるようになった。だから個人の医師との契約ではなくて,そういう形にすれば日本でも医師の確保がしやすくなるのではないかという感じがするのです。だから,これも新しい世紀の,30年,50年先を見通した改革ということになれば,ちまちました目先のことではとても大変だと思うので,そういう抜本的な改革ですね。医師は異常に過剰な時代に入っていると。つまり,医師が年々増え過ぎて,弁護士の場合も増員に対しては弁護士会の中で非常に抵抗があるのですけれども,医師の場合もそういう問題が起きていると聞いていますから,そういうことと併せて考えるならば,所轄を移せば非常に大きく改善されるのではないかという気がするのですけれども,どうでしょうかね。
○大橋医療分類課長 その点も検討課題にすべきであると思いまして,私ども考えたいと思っています。ただ,被収容者を診療するということの困難性とか特殊性というのは,所管がどこであろうと変わらないわけですね。医療関係職員はどこから給料が出るかというだけの違いになりましょうし,人員とか予算の獲得が厚生労働省の方に移れば,もっとどんどんしてくれるのか,法務省でもそれは同じなのかという,この問題というのは私は分かりません。同じ国の財布ですからね。私はフランスでは所管がそうであることは知っています。ただ,デメリットがどういう点で発生しているのか,あいにく知りません。国によっていろいろなやり方があって,しかも今それが並存している状態ですから,何が一番ベストなのか分かりませんが,しかし,保安関係の問題というのは常に被収容者にはつきまといます。ですから,メリットとデメリットをよく考慮して,果たして可能なのかどうか,すべきなのかどうかということを,相手もあることですから,厚生労働省とも協議して検討の課題にしたいと思っています。
○久保井委員 もう一点,保安から独立しました場合に,体の異常に対して医学的見地からだけ検討できるという面が非常に改善されるといいますか,同じ刑務所の中の診療所ということになりますと,その引力というか,圧力の下でやりますから,異常を見逃しやすいというような欠点があるように聞いているのですけれども,そういうことは独立させなければ改善されないのではないかと思うのですけれども。
○大橋医療分類課長 それはどうでしょうか。例えば医務室が刑務所の中にありますね。それは外の病院に連れて行くというのは別ですよ。だけど,いずれにせよ,最初のケースファィンディングというのは刑務所の中でケースを見つけなければならないわけですね。ケースを見つけて初めて,医務室に連れて行くなり外部の病院に連れて行くなりと,こういうことがあって初めて医学的な判断ができるわけです。ですから所管がどこであろうと,最初のケースを見つけるのは保安であります。ですから,これは今おっしゃったこととは直接は関連はないのではないですか。刑務官が介在するという点については,マイナスの面では確かに自分が自由に診療所に行けないとか,外部の病院に歩いていけないということはありますが,しかし一方,本人が黙っていても,刑務官が見つけることもできるわけですね。そういうプラスマイナスがあります。ですから,これは独立とか独立でないということと関係のない点であります。現に,社会でも最初の発見というのは,病院の医者が外で患者を見つけてくるわけではなくて,病院に来た人を医者が診るわけですから,最初の発見者は家族とか周囲の人とか,こういうことで素人であります。私どもは刑務官に対して,今でも,十分かどうか分かりませんが,医療に関する教育を今後もしようと思っています。看護師などには十分,看護師が一番よく中を巡回して見てくれていますが,准看護士に教育を施していますから,更に一層医学教育を一般職員にまで広めて,ケースファィンディングをより容易にして,そして所管がどこであろうと,もし刑務所の中にある医療設備が充実できれば,いずれにせよ受刑者にとっては適切な医療ができるのではないかと考えております。
○成田座長代理 最後と申し上げたけれども,高久委員からひとつ。
○高久委員 最後のページで提案されている矯正医療センターというのは,今ある八王子,大阪の医療刑務所を拡大したものをお考えなのですか。それとも,別に造るということをお考えですか。
○大橋医療分類課長 敷地がどこにあるかは別としまして,考えとしては,八王子医療刑務所とか大阪医療刑務所を中心に,それから医療少年院を,どこの敷地かは別としてそこに持ってきて,組織はもちろん少年と成人は別ですけれども,建物を合築して,高額医療機器などを共有し,職員も共有するということで,同じ敷地の中に建てようと思っています。西,東,それぞれ中心は医療刑務所でございます。
○高久委員 先ほど医師過剰というお話がありましたが,これは都会だけでして,一たん地方に出ますと,私がいます栃木県でも医師が非常に少ないという状況があります。それだけを申し上げます。

2.革手錠の代替品等について(法務省矯正局の説明)

○成田座長代理 次に,名古屋刑務所で発生しました受刑者死亡事案において用いられた革手錠について,その廃止が打ち出され,その代替品の開発が行われてきたところと聞いております。この革手錠の代替品とあわせて保護房の実情について,矯正局保安課の小林信紀警備企画官から説明をしてもらいます。なお,小林企画官の説明に際しましては,保護房の実情について実際の状況をビデオで皆様にお見せする予定になっていますが,このビデオの画像には受刑者の顔が映されておりますので,この画像についてはモニターによる公開は差し控えたいと思います。
○小林警備企画官 よろしくお願いいたします。それでは,我が国の行刑施設で長い間使用してきた革手錠と,矯正局で製作した革手錠の代替品について説明いたします。お手元に「革手錠の代替品について」という資料がございます。
 まず初めに,資料1ページ目に記載のとおり,1「革手錠とその問題点」について簡単に説明させていただき,続きまして,革手錠を廃止した後に,その代替品を導入する必要性とその条件,また「諸外国の拘束具」について若干触れさせていただき,更に,先般6月17日,行刑運営に関する調査検討委員会第6回会合におきまして決定されました「代替品の概要」と「その代替品をどのように使用するか」ということを説明させていただきます。
 では2ページ目を御覧ください。現行の革手錠は昭和4年の導入以来,今日まで70年以上の間,行刑施設において使用されてきた,非常に歴史の長い戒具ですが,御案内のとおり,様々な問題が指摘されております。まず,名古屋刑務所で起きました事件のように,ベルトを必要以上に締めて装着した場合には,身体に深刻な危害を与えかねないという問題がございます。また,同事件により,革手錠に対する社会的批判が高まったことに加え,国連規約人権委員会からも,「残虐かつ非人道的扱いとなり得る保護措置」との見解が出されております。このようなことから,本年3月,革手錠を半年以内に廃止すること,また廃止までの間に代替品を製作いたしまして,革手錠の廃止と同時に行刑施設に代替品を整備することが決定されております。
 次のページをごらんください。「代替品の必要性・条件」ということですが,まず,代替品の必要性につきましては,端的に言いますと,保護房収容のみでは自殺や暴行を十分に防ぐことができない事例が実際に発生しているということでございます。ここでそのような事例をビデオでごらんいただきたいと思います。



〔ビデオ上映しながら説明〕


 ・保護房に収容した後,この被収容者は扉に頭を打ち続ける,激突する状況でございます。職員が指導,説諭して出て行った後,また再び同様行為を繰り返す。同様行為を繰り返しますので,ここで革手錠を着けます。腕輪を両手に着けます。そのあと,ベルトを腹の方から着けております。後ろの方に回す必要から,一回起こしております。
 今は,革手錠の後,頭に怪我をしないようにヘッドギアを着けています。施用した後,職員がいなくなったら,またドアに頭を打ちつけにいっている状況でございます。これに対して職員は,何回も何回も保護房へ赴いて静止をしなければならない。特に夜間とか休日等,職員がいないときには非常に職員の負担も大きくなっております。
 ・これは金属手錠を後ろにして,ヘッドギアをかけている被収容者が,ヘッドギアをとった後,壁に頭を打ちつけております。もう出血して,血が下の方に流れておりますが,画面では見づらくなっております。革手錠をしまして,右手,左手。ヘッドギアをしましたが,ヘッドギアをとりまして,便器に頭をぶつけている状況でございます。
 続いてまた革手錠をしてヘッドギアをしても,ヘッドギアをとって,更に頭を壁に打ち続ける。何回も何回も行う。そのたびに,職員が行きまして静止するという状況が続きます。
 ・保護房内で布団,毛布をたたんで,監視カメラの風防,透明な強化プラスチックですが,それをたたき落とそうとしているところです。外国人は1メートル94センチほどありまして,飛び上がって風防を落としている状況です。
 次の一撃で風防が落ちてきます。強化プラスチックなので割れませんが,職員が静止に入っていくのを待ち受けて,攻撃するという姿勢をとります。



〔ビデオ上映終了〕


 ビデオはここで切れておりますが,この後,職員の静止に従って風防は本人が差し出して,この場合は事なきを得ております。
 御覧いただきましたとおり,保護房の中でも自殺等の行為に出る者が実際におります。また,金属手錠で対応すればよいのではないかという御意見もあろうと思いますが,保護房に収容されるほど興奮状態にある者に,金属手錠を使用いたしますと,手首の皮膚が激しく損傷しかねないということもございます。したがいまして,このような行為を防ぎ,被収容者の身体を保護するためにも,革手錠に代わる戒具は必要だと考えております。
 次に,資料にございますように,代替品の導入に際して考慮した四つの条件を説明いたします。
 まず第1点は,安全性でございます。つまり,過剰な有形力を行使できないようにし,身体への影響をできる限り低減することです。
 第2点は,機能性。つまり戒具としての機能を適切に発揮し,自殺や暴行を効果的に防ぐことができることです。
 第3点は,人道性。つまり使用中のケアを含め,人間の尊厳に十分配慮したものとすることです。
 第4点は,利便性。つまり,装着・解除が簡単で,職員,被収容者双方にとって負担が少ないことでございます。
 これらの点を満たすことで,革手錠の欠点が解消されるのではないかと考えたところでございます。
 次のページを御覧ください。3「諸外国の拘束具」ということですが,諸外国では御覧のとおり,金属手錠,金属足錠,革手錠によく似たボディーベルト,更に包身具,拘束ベッドなどの拘束具が使用されているようでございます。
 次のページを御覧ください。冒頭にも少し触れましたが,先般,行刑運営に関する調査検討委員会第6回会合において決定されました代替品の新型手錠について説明させていただきます。現物は後ほど御覧いただきたいと思います。
 この手錠は写真のとおり,腕輪2個を連結板で結合したものです。革手錠のようにベルトがありませんので,締め過ぎによる身体の損傷のおそれはないと思います。また,腕輪の内側はグリーンになっていますが,これは手首を保護するためにフェルトを巻いているためです。この手錠を使用する場合としては,原則として保護房内に限定し,使用要件は暴行又は自殺のおそれを抑止することができない場合に限定することを検討しております。体格を考慮して,サイズを4種類用意することを検討しております。
 次のページをお願いいたします。最後に,この新型手錠をどのように使用することを予定しているのかという点について簡単に説明させていただきます。
 まず,逃走,暴行,自殺のおそれという,戒具の使用要件が発生いたします。必要がある場合には,緊急に金属手錠,ここでは第一種手錠と書いておりますが,緊急に金属手錠を使用してこれを防ぎます。また,必要があれば保護房に収容いたします。逃走のおそれにつきましては,保護房に収容すれば通常は逃走を十分に防ぐことができますので戒具を使用することはありません。しかし,暴行や自殺につきましては,先ほどビデオで御覧いただいたとおり,保護房に収容しても防ぐことができない場合がありますので,そのような場合に限り,新型の手錠,ここでは第二種手錠と書いてありますが,これを使用することを予定しております。
 なお,先ほど見ていただいたビデオにも,頭を激しく打ちつけるシーンがございましたが,保護房に収容して,この新型手錠を使用しても,自殺行為を防ぐことができない場合が考えられます。そのような事態をどのように防止するのか。これは革手錠の代替品ということではないかもしれませんが,被収容者の身柄を預かる矯正局といたしましては,必要があれば,先ほど御覧いただきました外国で使っている包身具や拘束ベッドなどについても,将来的に検討していかなければならない課題と考えております。
 私からの説明は以上でございます。
○成田座長代理 革手錠の見本は,後で休憩のときに見てもらったらいかがかと思います。
 先ほどのビデオを御覧になって,あるいはこの革手錠,その他に関して,御質問があれば。
○宮澤(浩)委員 2ページの日本の革手錠,恐らくこれは,4ページのボディーベルトをヒントにして作ったのかなというようなことを思ったのですが,胴回りで締めるという点では似ているわけですよね。このボディーベルトはどうなっているか。材料は何かというのはこれだけでは分からないのですけれども,このボディーベルトも,先ほどの国際的非難でもって諸外国でやめる方向にあるのですか。それとも,2ページの,今日本で使っている,これはけしからんが,外国のボディーベルトならば別に大したことはないという判断なのでしょうか。
○小林警備企画官 外国のこのボディーベルトにつきましては,外国自体に対する批判ということについての情報が余りございませんので,よく分かりませんが,通常,真ん中にある金属足錠に鎖を使った戒具というものがよく使われるようです。両手の手錠と足錠と,すべてを鎖でつなぐことに,諸外国ではさほど抵抗感がないみたいで,よくそれらが使われるようでございます。
○宮澤(浩)委員 タイの少年刑務所で見たことがあるのですけれども,ヨーロッパでは見たことがないのですが,どうしてなんでしょうね。日本は濫用があったから,それについて問題が出たのですかね。
○小林警備企画官 革手錠自体が,きちんとウエストに合わせて使用されれば,負傷などもなく,適正な手錠だと思うのですが,やはり締めるということができるものですから,今般,名古屋の事件がありまして,更にそういう批判が高まりました。
○宮澤(浩)委員 締めるのだったらボディーベルトと似ている。
○小林警備企画官 そうですね。ボディーベルトはタッチ式。
○宮澤(浩)委員 カチャッとやるもの。
○小林警備企画官 入る方式になっております。
○江川委員 先ほどビデオを拝見しまして,本当に相当強く打ちつけているのですけれども,素人目にはこういう人たちは本来,何らかの治療が必要な人のような気もするのですが,先ほどの医療の関係のお話では,精神科内で,まだ入院できなくて待っている人もいるということもあり得るというふうにおっしゃっていたのですけれども,そういう医療施設が足りないために自殺を繰り返す人も,一般の刑務所に入れておかなければならない。そのため保護房を使うことになると,こういうことなのでしょうか。
○小林警備企画官 医療との関係になりますので,矯正局の医療分類課長から。
○大橋医療分類課長 異常行動は,精神障害者が起こすこともあるし,健康な人が起こすこともあるわけですね。このケースが,治療を要する精神障害者なのか,それとも健康な人が意図的にやっているのかについては,精神科医が実際に面接してみないと判断できないと思います。このケースは面接していないので分からないのですが,医療刑務所に送るか否かは,治療が必要かどうかの判断と関係します。治療が必要だとしても,もし拘置所だとしたら,拘置所の場合は医療刑務所には送れないのです。受刑者が入るところですから。ですから,拘置所の場合は,拘置所で精神科医が診て,治療が必要だとしても拘置所の中で精神科医が治療をするということになります。このケースは,発生してからどのくらい時間がたっているのか分かりませんが,いずれにせよ,最初の興奮状態が起こって,異常行動が起こって,保護房に入ったわけです。そして精神科医を呼んで,精神科医が面接して,どうするかを決める。ここが精神病院の中だったら,精神科医が当直をしていますから,すぐ来て,診て,恐らく注射をするでしょう。ほどなく静かになると思いますが,拘置所であれば,通常,夜間は,例えば東京拘置所は夜間,医者は当直していますけれども,しかしその当直の医師が精神科医かどうか,その日によって違いますから分からないので,即,精神科医が対応できるという状況ではございませんから,何とも言えませんが,まず保護房に入れて様子を見て,更にその次に精神科医が見て,次の手段を決めると,こういう形になろうかと思います。
○江川委員 かなり時間をかけてやっていますよね。その間,お医者さんが来ていないということは,ここの刑務所には,そういった精神科のお医者さんがいないということですか。
○大橋医療分類課長 拘置所ですね。恐らくそのときには精神科医がいなかったのだと思います。これは何日間かに分けての連続したビデオではなくて,その日ですね。ですから,当日すぐ精神科医が対応できるという状況にはなかったのかと思います。
○成田座長代理 そのほかございませんか。
○大平委員 先ほどの医療のことにも関連するのですけれども,普通の受刑者は,刑務官が話しをして,言って聞かせれば,ある程度の会話ができて意思疎通ができますが,ところが,こういう会話が通じない相手,いわゆる処遇困難者の人が一般の刑務所に現在一緒に収容されているわけなのですけれども,将来的には全く別に処遇をする必要があるのではないかと思うのです。でなければ,普通の刑務官にとってかなりの負担だと思うのです。一人の受刑者に対してこれだけの人数で,その間,他はほったらかしになるわけですよね。だから,将来的にはそれが必要ではないかと思うのですけれども,その点はいかがでしょうか。
○大橋医療分類課長 精神科専門の医療刑務所というものがございます。北九州医療刑務所,岡崎医療刑務所がそれに該当します。それから八王子と大阪医療刑務所にも精神科はありますが,他の科目もありますから精神科だけというわけにはいきません。北九州にしても岡崎にしてもベッド数が限られていますから,ベッド数に余裕があれば,はっきりとした精神病でない人たち,人格障害,昔で言えば精神病質,サイコパスですね,そういった人たちも何人かはもちろん収容しておりますけれども,そういう人たちも集めることは可能かと思いますが,それにしても,処遇や治療は大変厳しいものになるかと思います。医療刑務所ではなくて,一般刑務所だけで,その人たちだけを集めると,これはもう大変な重警備の,医療とはちょっと違う形になってしまうのではないかと思いますので,医療刑務所の中でそういう人たちを集める,その場合,どんな医療ができるのか。一般の,通常の医療の対象である精神病者と人格障害者,治療困難者を拘禁してやるというのも,これまた難しい問題がありますので,極めて悩ましい問題かと思います。
 あのケースに出てくるようなものというのはそうたくさんあるわけではなくて,むしろ,あれほどの異常行動は少ないだろうと思います。そうではなくて,執拗にいろいろなことを言って言うことを聞かなくて,通常の人からいえば,極めておかしな人であっても比較的健康だという人が大部分を占めていますから,どのレベルの人を集禁するかということでも線引きがまた難しくなると思います。今みたいなケースは,いかにも異常と分かりますけれども,これもずっと続くわけではありませんし,だから,なかなか集禁という問題は意外と難しいのではないかと思うのですけれども。
○菊田委員 ちょっとお伺いしようと思ったのですけれども,要するに精神障害者というのは,常識から言えば責任能力のない人と,私どもは考えているわけですけれども。つまり,医療の対象であって行刑の対象でない者が送られてくるということに対する,特に医療機関の方の不満というものはあると思うのです。それは要するに裁判官の問題ですよね。裁判に対する批判というものはございませんか。
○大橋医療分類課長 私どもは義務として入ってきた人たちを治療しているものですから。
○菊田委員 こういう者を送られても困ると,精神病院の問題だという御感想はお持ちではないですか。
○大橋医療分類課長 精神科の障害者はたくさんいますから,それを,精神障害だからといって,全部外の病院で治療すべきだとなると,例の限定責任能力とか何かと判断すること自体が意味がなくなってきてしまうということになるので,その点は難しいと思いますね。ただ,一般の刑務所の中にいる精神科医は限界の中で治療を一生懸命やっているというところであって,裁判官に対する批判があるかどうかは,私自身は直接耳にしておりません。
○成田座長代理 ちょうど3時20分になりましたけれども,ここで10分間,休憩していただきまして,次に行刑の基本的理念,論点整理について御議論をいただきたいと思います。その間,お時間がありますから,代替手錠を御覧になっていただきたいと思います。それでは,3時半から再開したいと思います。



(休憩)


○成田座長代理 それでは,議事を再開いたします。

3.行刑の基本的な理念・ビジョン及び論点整理について

○成田座長代理 次の議題は,行刑の基本的理念及び今後会議において取り上げるべき論点について,皆様方から貴重な意見をちょうだいいたしました。その寄せられた御意見についてはお手元にお配りしていると思います。これらの御意見につきまして事務局が整理いたしましたので,まずこれについて御説明したいと思います。お手元に配付いたしました「論点整理について」と題する資料を御覧いただきたいと思います。杉山事務局次長から御説明をお願いいたします。
○杉山次長 お手元の「論点整理について」という,先ほどの革手錠の資料の下につけておりましたけれども,これを御覧いただきたいと思います。これから御議論をいただくわけですが,それに先立ちまして,皆様方から行刑の基本理念と論点整理について御意見をいただいておるわけですけれども,この意見そのものにつきましては,「論点整理について」という紙の下につけてございますが,本日つけております皆様方の御意見のほかにも,メールなどでメモをいただいた方も何人かいらっしゃいます。これらの委員の皆様方からいただいた御意見をもとにいたしまして,事務局におきまして論点を取りまとめたものが,本日お配りいたしましたペーパーでございます。
 まず1ページ目ですけれども,ここは論点として「行刑の基本的理念」ということで,御意見をいただいた内容を,右の「意見」という欄に,順不同でございますけれども,列挙してございます。御意見をいただいた委員の方々のお名前は掲載しておりませんけれども,行刑の目的といったことに関して,今回いただいた皆様の御意見を網羅的に掲載してございます。
 その他,皆様からの御意見を整理しますと,2ページ目から4ページ目のように大体なるのかなということでございまして,それぞれのページの左側の欄が論点になっておりまして,皆様からの御意見を大括りにいたしますと,刑罰・処遇の在り方,被収容者の法的地位,透明性の確保,外部交通の在り方,医療体制の在り方,職員の人権意識の改革,人的物的体制の整備,職員の執務環境の改善というような,七つぐらいの論点に分けられることが可能だと,大括りにして分けることは可能だと思われましたので,そのように分類したものでございます。そしてそれぞれの点につきまして,皆様からいただいた,それぞれの論点についての御意見,改革の方向性とか提案といったようなものを,ある程度類似のものを点線で分けて,網羅的に記載したのが右側の意見の欄でございます。
 2ページを御覧いただきますと,例えば「刑罰・処遇の在り方」という論点については,いろいろな御意見があったわけですけれども,上の方から順に刑罰一元化といった御意見,処遇全般についての御意見,処遇困難者などについてどうするのかといったような点についての御意見,刑務作業に関する御意見,担当制に関する御意見,仮釈放制度についての御意見というように分類いたしまして並べてございます。恐らくここに書かれましたいろいろな御意見の方向性に関しては,それぞれまた反対論もあろうかと思いますけれども,こうした方向性がどうなのかというところから出発して議論することが有用ではないかという観点から,このように点線で区切って並べております。
 その次の,「被収容者の法的地位」でございますけれども,順次,その職員の職務権限を法的に整備することとか,懲罰手続の在り方,保護房の問題点,死亡事案の処理,被収容者の衣食住の在り方,所内規則の在り方などといった項目に分けてございます。
 3ページ目の「透明性の確保」という論点につきましては,上から順に,不服申立制度の在り方,刑務所の監視のための第三者機関の設置や巡閲・巡視の関係,その他の情報公開というように細分化してございます。
 「外部交通の在り方」についても,外部交通の制限の緩和,電話による外部交通,検閲の廃止などという御意見に細分化いたしまして整備しております。
 4ページ目の「医療体制の在り方」につきましても,同様に,厚生労働省への移管,保険制度の適用,医師の増員,その他医療の充実ということで分類しております。
 更に「職員の人権意識の改革」の論点のほか「人的物的体制の整備・職員の執務環境の改善」等の論点について,順次,職員の増員,施設の新設,人事や組織の在り方,PFIなど民間活用の在り方というように細分化いたしまして,御意見を掲載いたしました。
 いずれも,このような御意見があったということで,右側の意見の欄をまとめさせていただきましたので,御議論の出発点にしていただければと思います。
 今後も,委員の皆様方の御発言を追加して掲載いたしまして,参考の用に供したいと思っております。
○成田座長代理 どうもありがとうございました。
 それでは,皆様から御意見を承りたいと思います。行刑の基本的な理念,ビジョンと,今後この会議で取り上げるべき論点,視点といったものについて相互に密接なつながりがあると思いますので,これらをあわせまして,まず皆様全員から御意見をいただきたいと思います。時間の制約がありますので,御意見は一人5分以内,11人いらっしゃいますので大体1時間かかりますので,お願いしたいと思います。
 それから,順番は私の右側に江川委員がいらっしゃいますが,江川委員から井嶋委員という,時計の反対回りでお願いしたいと思います。それでは,江川委員,お願いします。
○江川委員 私が今考えていることは,簡単ではありますけれども,紙に書きましたので,それを御参照ください。特に2番の(2),(4)というところに私の関心は今あります。2番の(2)については,私の方でできる限り犯罪被害者の方たちの意見を聞いてみました。本当はもっとあったのですけれども,重複したり,あるいは今回の目的には余り参考にならないかなというのもあったので,それは省きましたけれども,いろいろ考えさせられるものもありましたので,これを打ち直してお配りしました。ただ事件についての詳細とか,手紙などのこともありますので,これは取扱注意ということでよろしくお願いします。
 被害者の人たちの思いは,大きく分けると二つあって,犯罪被害者に対しては,より厳しく罰してほしいし,苦しんでほしいという,そういう恨みや処罰感情というものは当然ありますし,もう一つは更生の問題です。ただ,更生に関して懸念や不信感があるようです。この不信感はどこに向けられているかというと,一つは加害者自身,もう一つは当局に対してだと思います。判決確定までは自分の目で確かめることができるし,ある程度最近はいろいろな形で被害者の声が吸い上げられたり,ある程度関与することもできるようになりましたけれども,いざ,裁判が終わってしまったら,どういうことが行われているのかがよく分からない。分からないがゆえの不信感ということもあると思います。
 被害者にとって,あるいは私が意見の中で述べた「更生」というのは,被害者のいる犯罪に関しては,犯人の人たちが本当に後悔,謝罪するところから出発するものであって欲しいのです。そうすることで,社会の中で二度とこういう悲劇を起こしてほしくないという思いが被害者の人たちには強いし,私もそれにすごく共感するところがあります。
 そういう観点に立って,では「更生」のためのプログラムが刑務所の中で今どの程度比重を占めているのか。もちろん,私はちょっと見学させていただいたり,話を伺ったりしただけなので,余りよく分からないところがあるのですけれども,それでも,まだまだ不十分な気がしました。更生のために何をするべきか,何が必要かという観点から刑務所の問題を議論していくべきだと思います。
 今の担当制というのはある程度機能していると思うのです。もちろん,今のような過剰収容の下で一人の職員がこんなにもたくさんの人を担当すると状態は良くありませんが,今の制度のいいところは維持しつつ,もっと幅広く,いろいろな被収容者の,受刑者の個別の事情に応じたこまめな対応が必要だと思います。そういう点では,外部のいろいろな力を借りるということも必要ではないか。とりわけ,薬物の依存者というのは非常に多いのだということを伺いました。そういう面では,現在もプログラムがあるということは聞いていますし,概要を見せていただきました。けれども,実際に薬物中毒になっていて,そこから立ち直った人たちの話を聞くと,あのように何を1時間,何を一コマというふうにこなしていくだけでは決して十分ではないと思います。むしろ,薬物中毒の人たちの矯正のためプログラムを行う専門の施設ができないものでしょうか。これがうまく機能すれば再犯をする人が減るわけですから,過剰収容対策ということにもなります。そういったプログラムにこうした問題についてノウハウを持った外部の人たちの力を借りるということになれば,刑務所の透明性を確保することになると思います。いろいろ問題は閉鎖社会だから起きると言われていましたけれども,そういう問題にも貢献するのではないかというふうに思っています。この点を改善するには,監視や不服申立ての制度だけでなく,日常的に外の人の目がある,風通しが良くなることが大事だと思うので。
○成田座長代理 どうもありがとうございました。
○井嶋委員 私は意見書に出しましたとおりでございますけれども,本日は時間制限がございますので,主として第一について要旨を申し上げたいと思います。若干,時間が超えるかもしれませんが,お許しいただきたいと思います。
 行刑というものは,前にも申し上げましたけれども,我が国の刑事司法の最終段階を担当するセクションでありますから,行刑の目的,基本理念というものは,我が国の刑事司法の作用と密接不可分の関係にあるということは言うまでもないことでございます。我が国の検察の作用が,司法警察から送られてきました犯罪人につきまして起訴便宜主義にのっとって,諸般の事情を考慮して,起訴をするかどうかという選択をし,起訴をするということをいたしますと,刑事裁判がこれに,単に応報に見合う刑期を決めるというのではなくて,被告人の個別事情とか被害者側の事情,いわゆる一般予防・特別予防といったような見地とか,従来の処罰先例といったような,諸般の事情をもとにして,結局,被告人の改善と更生,その円満な社会復帰を図るために,実刑にするか執行猶予にするかということを選択をいたしまして,法定の期間内で適正な刑期とあるいは執行猶予期間を定めて判決を言い渡すというシステムになっているわけであります。
 このように,行刑は各司法機関の作用による選択を経まして,最終的に実刑に処せられた受刑者を受け入れて,刑事司法の究極の目的を達成するための作用でございますから,行刑の目的,基本理念というものは,受刑者の改善,更生と社会復帰の促進という刑事政策的な配慮を抜きにしてはあり得ないものと言うべきであります。この点は,先に配付されました資料の中に,昭和21年の「監獄法運用ノ基本方針ニ関スル件」とか諸外国の行刑法,あるいは国際準則等にも明記されているところでございまして,行刑の目的,基本理念を受刑者の改善,更生と社会復帰の促進ということから,この段階で変更する必要性はないものと考えております。
 ところで,先進国の中でも最高の治安の良さを誇っておりました我が国の刑事司法も,最近の犯罪の激増と,その凶悪,重大化,国際化,複雑化,巧妙化などの影響を大きく受けておりまして,刑事司法を担当する各機関は早急に解決しなければならない重大な問題点を多く抱えております。例えて言いますと,警察は犯罪の検挙率の低下が問題視されておりますし,検察や刑事裁判では,裁判の長期化の改善が指摘されておりますし,また,現在,政府の司法制度改革の激動の渦中にあります。私は,各地の刑務所で抱えております深刻な問題というのは,これらの各司法機関が抱えている諸問題と同質の問題に起因しているのではないかと思っております。最近の刑務所の現状を私なりに分析してみますと,悪質な累犯者が多くを占めるようになりました覚せい剤受刑者,更に犯罪性の進んだ外国人受刑者の激増,これらの受刑者の増加に触発されて悪質化してきた暴力団受刑者など,いわゆる一口で言えば処遇困難受刑者でありますけれども,この激増が,著しい過剰収容によって悪化した受刑者の心情の悪化と,処遇担当職員の過剰負担に相乗的に作用して,受刑者処遇の困難性を増幅させているという一つの悪循環に陥ったのではないかということでございます。
 そのために,従来の処遇方法では対処することのできない異常事態の発生に対して,平常時と変わらない配置人員でもって対応を余儀なくされている刑務官の心情というものが,いわば暴発をいたしまして,想像を絶するような今回の暴行事件を引き起こしたのではないかと考えておるのであります。したがって問題の根源というのは,刑事司法を取り巻く諸問題と軌を一にしているということであろうかと思います。
 府中刑務所を視察いたしました際に,処遇困難受刑者は工場出役をさせずに,昼夜,独居房に収容されておりましたが,これらの者が,いわば適切な矯正処遇を受けることなく,満期に釈放されているということであるとすれば,これは社会防衛上,ゆゆしき事態ではないかというふうに思います。
 このように,現在,当改革会議に問われていることは,行刑目的あるいは基本理念そのものを見直すということではなくて,むしろこういう行刑の目的をいかに現在の収容施設での激変に適用させていくかということを検討することが問われているのではないかと思うわけであります。
 このような現状認識に立って,現在の行刑の抱えている問題を改めて考えてみますと,行刑には他の刑事司法機関にはない根本的な後進性が認められるのでありまして,この後進性から来る問題点が,最近の激動期に一気に噴出したのではないかと考えます。その一は,言うまでもなく明治41年制定の監獄法を職務規定の根本に据えていることであります。それを補うために多数の訓令,通達が発せられておりますけれども,煩瑣であるのみならず不十分であるために,通達行政の弊に陥っているということであります。そのため,刑務官の職務権限が不明確であったり,権限発動の要件があいまいになったり,あるいはその反面として,受刑者の権利保護に欠ける権限行使の実態が長年にわたり徐々にでき上がってきて,受刑者の権利意識の高まりとの間でますますそのギャップが拡大されてきたということではないのかというふうに思います。
 また,刑務所内の規律維持を図る保安業務と,受刑者の処遇を行う処遇業務が同じ処遇部に属する。また,通常一人の刑務官,いわゆる担当がそれを行うという,欧米には見られない組織上の独特の方式が果たして現在のような過剰収容時に有効に機能するのかという点も検討を要することであろうと思います。
 その二は,現在行っている古典的処遇を改めて,近代的処遇の方式を大胆に取り入れて,国際準則との整合性を見据えた,新しい処遇を導入する必要があるということであります。そのためには現在の分類処遇制度の運用と,その制度そのものの抜本的見直しを行って,現在の過剰収容状況に適合する新しい収容分類と処遇分類を策定して,それに適した施設あるいはその必要な人員の算出とその確保を考える必要があると思います。
 その三は,今までにもかなり改善はされておりますけれども,まだ施設の面や処遇の面を通じて受刑者の人権保障に不十分さが見られるということであります。そのために,この際,すべての処遇面や施設面で人権の制限を行っている部分を改めて見直して,必要最小限度のものにとどめるような検討をする必要があるということでございます。
 その四は,国の財政事情がございますために,今まで収容施設の増設や刑務官の増員というのは大きく遅れております。その上,今後新しい処遇方策を策定して実施するということになりますと,また施設の増設とか刑務官の大幅な増員が必要になります。しかしながら,国の財政情勢から見まして,特に増員の困難性は否定しようがございませんので,この際,民間活力の活用や外部の専門家等を法的に可能な限度で活用する方策を検討することが重要であろうと思います。
 第2の問題点につきましては,意見書に書いてございますので,それに譲りまして,若干時間が超過いたしましたが,終わります。
○成田座長代理 では菊田委員。
○菊田委員 私は,「行刑の基本的理念・ビジョン」というペーパーを出させていただきました。事前に事務当局の方とすり合わせさせていただきまして,私が取り上げた諸項目についてはほとんど入れていただいたということで,改めて申し上げることはございませんけれども,大きな課題としましては,懲役と禁錮という自由刑の単一化,これはもう多くの法学者も理解しているところでございますので,これは実現可能なことだというふうに考えております。同時に,刑事施設法案においては既になくなっておりますけれども,累進処遇というものが現在の実務においては非常に大きな柱になっております。そのために,いわゆる分類,つまり処遇の個別化ということが非常に困難になっております。これは何としても基本的なところで累進制を廃止する,そして分類を徹底するという方向づけを可能にしていただきたいというのが大きな柱でございます。
 あと,そういうことを考えてまいりますと,現在行われておりますところの8時間の強制労働というものは,おのずからその時間を短くすることも可能になってまいりますし,残った時間を職業訓練,その他の社会復帰に役立つ仕事に向けるということが可能になるだろうと思います。
 あと,現在,出所後の資格制限,5年,10年という満期で刑務所を終わっても,娑婆で,そういった意味の制限を受けるということは,積極的に社会復帰を阻害しているということでございまして,その辺のところが大きな課題だろうと思います。
 もう一つは,刑務所職員の増加ということは大事でありますけれども,保安職員をただ単に増加するということについては,私はいろいろ言いたいことがございます。やはり心理技官とかソーシャルワーカー,そういう人たちを採用すること。更には,女性の刑務官が,通常の男性刑務所で勤務するということ。この前も八王子の医療刑務所に参りましたけれども,女性がいるということで随分空気が和やかになっているということを現場で申しておられましたけれども,私はすべての刑務所にそういう人がいることが大事だと思います。
 大きなところは以上でございます。細かいことはここに書いておりますのでよろしくお願いします。
○成田座長代理 どうもありがとうございました。久保井委員,お願いします。
○久保井委員 私もペーパーを出させていただいておりますので,その要旨を御説明申し上げます。
 私は,この委員をお受けしまして,府中,八王子,川越の三つの刑務所を拝見しました。そこで感じたことは,職員の皆さんが大変よくやっておられる。その実情を知れば知るほど,これ以上,御負担をかけるような改革を提案するということは非常に心苦しいという感じが,率直に言っていたしました。しかしながら,そうはいっても,名古屋の事件がこの改革会議の発端になっているわけですけれども,二度とこういう事件を発生させてはならない。これはもちろん,国内の問題はもとより,国際社会においても恥であるというふうに思います。そういうことから,何としても,そういう事件を二度と発生させないためにはどうしたらいいのか,そこに的を絞って,この会議は運営していただきたいと思います。
 行刑の基本理念とかビジョンにつきましては,皆さんの御意見と私は特別に変わった意見があるわけではございませんので省略いたします。
 そこで,改革の具体的な在り方として,私が皆さんにどうしてもお願いしたいと思うのは,日本の刑務所の最大の後進性といいますか,遅れている点,欠陥は,日本の刑務所は外からの目が入らない閉鎖性,密室性にあると思います。したがいまして,今度の改革でどうしても外から見える,市民も十分に日常的に中が見えるような刑務所,そして刑務所の運営に市民も地域社会も参加していくような刑務所に変えていただくべきではないかと思います。少し極端な言い方をしますと,ガラス張りの運営を目指すべきである。それは決して唐突なことではなくて,外国ではイギリス,ドイツ,オランダ等で,既に古くから実行されていることでありますので,日本でもそういうものを見倣って,各刑務所ごとに市民も参加する,そういう刑事施設の視察委員会というものを作って,日常的に中の状態が把握できるようにする。そしてまた今回の問題で死亡帳というものがあるということすら,国会の追及によって初めて明らかになったということですが,刑務所の運営に関する様々な通達,訓令あるいは制度は,全部情報公開すべきである。そして,更に言うならば,刑務所に誰でも,いろいろな意見なり苦情の申出なり,そういうものができるようなメールボックスというものを設けるべきである。これは既に一般企業の場合は,経団連が先頭に立って内部告発を積極的に受け入れるホットラインを設けるべきだということで,従業員を始めとしてそういう関係者が社長なり管理者に直接メールが送れるような,そういうシステムが採用されつつありますけれども,公的な機関である刑務所においても,そういう制度によって大きな不祥事を未然に防ぐという努力をすることは大変有効ではないかと思います。
 更に,他の委員もおっしゃっていますけれども,受刑者の救済申立が実効化されていない。実効性を確保するために,法務省から独立した,刑務所を監督している,あるいは刑務所を運営している法務省から独立した,そういう不服審査をする機関を設けるべきであるというふうに思います。
 更に,広い意味では,開かれた刑務所ということになると思いますが,受刑者の外部との交通を拡大する。先般の御説明でも,諸外国ではコレクトコールによる電話をかけさせているということがありました。その後聞きますと,隣の韓国でもそのことは既に実施中であるというふうに聞いておりますが,受刑者が社会に出て再び立派に活躍できるためには,家族とか友人,そういう者との接点を服役中から持たせるということがなければ,ある日突然に出所しても社会復帰は困難であるということもありますし,これは是非とも実現していただきたいと思います。
 更に最後に,医療体制を抜本的に改革すべきであると思います。今回の国会の法務委員会で過去10年間に死亡した受刑者が1,592人おると。そのうち68人が保護房における不審死で司法解剖の対象になっているというような結果が新聞で報道されておりましたけれども,やはり医療制度というものを刑務所医療というものを,この際,十分なものにしていく。その根本は医師の確保あるいは医療水準の,一般医療との同質化といいますか,そういうことだろうと思います。そのためには,矯正医療というのではなくて,厚生労働省の管轄する一般国民に対する医療と同じ扱いをして,そうすれば,様々な面で水準がアップしていく。医師の確保にしても非常にしやすくなっていくというふうに思います。時間がありませんので,詳しいことはまた後で,補足の機会がありましたら,補足させていただきますが,そういうように思います。
 最後に,先般,本年5月に沖縄の米軍基地でアメリカの軍人がレストランで,女性を誘惑して強姦した事件が発生して,那覇の裁判所は逮捕状を出しましたが,アメリカの軍人は基地の中に逃げ込んで,アメリカ政府はなかなか引き渡さない。日本政府は,渡せということで随分交渉して,最終的には渡しました。しかしその渋った最大の理由は何かというと,日本の刑事手続が大変遅れている。そういう遅れた国の刑事手続に自分の軍人をゆだねるわけにはいかない。刑事施設の問題だけではなくて,捜査の段階で通訳とか弁護人の立会いを保障するとか,そういう点が欠けている。刑事施設の中も非常に非人権的な内容になっているということで,その引き渡しを拒みました。私は,その言い分はけしからんと思います。いかに日本の刑事手続が遅れていても,日本の国で犯した犯罪は日本国民と同じ制裁なり手続に従うべきであります。しかしながら,そういう言いがかり的な不名誉な抗弁を許さないためにも,国際社会の水準に即した刑事手続,刑事施設に,この際思い切って改革する必要があろうかと思います。
 どうもありがとうございました。
○成田座長代理 南委員。
○南委員 検討すべき論点は多々ございますけれども,私が関心を持っている問題点について,お手元にお配りいたしましたペーパーに基づいて御説明をさせていただきたいと思います。
 まず,「行刑の目的と理念」でございますが,これは国,時代によってさまざまです。ただ,刑そのものが苦痛であるということ。それからまた行刑の究極的目的というのは,社会復帰を可能にするという点では,ほぼ異論を見ないところだろうと思いまして,このことは被拘禁者処遇最低基準規則にも定められているところでございます。
 次に,2の「受刑者の人権とその制限の限界」でありますが,刑が受刑者を外界から隔離しまして苦痛を与えるものであるとしましても,人間としての尊厳,人間として有するすべての人権というものを奪うものではありませんので,このような刑の苦痛というものが正当な理由なく増大させてはならないと考えられます。ですから,保障されるべき人権の種類,制限の限界が検討されなければいけないと思います。
 また,社会復帰を可能にするという行刑の目的からしましても,社会との関係がある程度継続的に維持されなければならないのでありまして,特に受刑者の外部交通,処遇,作業,教育,医療などの在り方についての検討が必要です。
 更に,受刑者の気分を和らげ,明るくするため,例えば,舎房衣といいますか,受刑者の衣服の色などについても,大勢集まっていると異様な感じがする,気分が暗くなるのでありまして,もっと工夫がなされてよいのではないかと思います。
 3として「受刑者の権利救済制度」でありますが,現行の監獄法には受刑者の不服申立制度として情願の制度がありますけれども,これは先ほども話されましたように,適正かつ効果的には運用されていないというのが実情でございます。ただ,受刑者による不服というのは通常の不服審査と違いまして,その対象が行政処分ではなくて,有形力を伴う実力行使など事実行為にも及びます。それから不服の対応も多種多様にわたるものでありますから,これにどのように対応していくか,対応可能な制度でなければなりません。いずれにいたしましても,公平な審査機関による公正,デュープロセスですね,そして簡易,迅速な救済手続でなければならないと思います。
 4の「刑務組織・職務上の問題」ですが,この前の鴨下先生のお話によりますと,通達,訓令等による規制の強化や階級性と専門官制の二重構造によって,指揮命令系統が混乱している,また組織的対応が円滑に行われなくなっていると指摘されていまして,このことがもし事実であれば大変問題だと思いますので,この点についても十分調査して検討する必要があるだろうと思います。
 更に,家父長的な規律維持というものは,これは家庭でも既に崩壊をしていると思われます。最近では,家父長制の復権を説く者もまた現れているのですけれども,旧来の,あるいは古典的な家父長制が刑務所の中といえども果たして維持できるかどうか問題だと思うのです。正木先生は,昭和13年に「いくら刑事制度が完備されていても,監獄の目的は監獄官吏の人格,思想,教養が十分でなれば望むことができない。この意味において監獄問題は人と人との関係である」と言われておりますし,また被拘禁者処遇最低基準規則においても同様に,「受刑者によい感化を与え,尊敬される存在でなければならない」と言っておりますので,刑務官と受刑者との新たな理念に基づく信頼関係の樹立に向けての一つの検討が必要だろうと思います。
 最後に,5の「開かれた刑務所へ」でありますが,従来,刑務所は,私も大学の教員をしておりますけれども,病院とともに閉鎖的営造物の代表的なものとされてきたわけであります。しかし今後は,開かれた刑務所を目指して改善を図らなければならないと思うのです。その方策としては,この前も申し上げました,巡閲,巡視の強化・活用,この第三者性を高めまして,そして回数も増やすということが必要です。
 それから,これは私は,大変重要だと思うのですが,刑務官の研修です。これは今まではどうも部内講師による処遇などの実務研修に重点が置かれていたようでありますけれども,外部のいろいろな有識者による教養や理論の研修とか人権研修などの機会を増やす必要があると思います。税務職員の研修につきましても,国税庁は非常に力を入れておりまして,タックスサービスが随分変わってきたことは皆様も御存じだと思いますけれども,外部の有識者による研修が非常に効果的だと思います。税務大学校においては客員教授の制度も設けております。内部の教官を更に教える先生が客員教授ですが,このような内部の教官を指導する研修も必要だと思います。
 最後に,刑務所という特殊な施設の性質上,地域社会の理解と協力がどうしても必要不可欠だと思いますので,広報活動を活発にする。あるいは地域との交流。先ほども出ました地元の医師会など外務病院との接触というものに力を注ぐ必要があると思います。
 以上でございます。
○成田座長代理 どうもありがとうございました。宮澤(浩)委員。
○宮澤(浩)委員 もうほとんど,皆さんがいいことをおっしゃいましたので,改めて詳しいお話をする必要はないと思います。ただ,私,大分いろいろ施設を見学して,個人的に思っていることは,今の日本の矯正施設が非常に不便な,そして北海道だとか,そういうような地域,例えば中野刑務所をやめて,そのお金でもって,人の比較的少ないようなところへ造る。最近では,幾つかの自治体が,自治体の町おこしのために誘致するというように,果たして外部交通を盛んにしようとして,例えば電話をかけさせることが可能であっても,家族からかなり離れた施設にいる受刑者,誰がどうやって通信料を払うのかということもいろいろ考えないと,まずい問題があります。
 医療の問題も,先ほどの私の質問にも出てきたように,お医者さんを得にくいところにどんどん施設が移っているわけですね。そういう現実を踏まえて,しかし,行刑,矯正というのは一体どうあるべきなのかということを考える場合に,基本は特殊なところを目当てに考えるのではなくて,やはり考えるべき方向としては,できるだけ応報とか,懲らしめるという要素を少なくする。そして受刑者の種類によって隔離を必要とする者は仕方がないのですが,できるだけ早期に改善し,社会復帰できる者についてはそういう方向へと,矯正の基本はそういうふうに置くべきだろう。できれば,自由を剥奪する。なぜ剥奪されるかといえば,それは犯した行為,責任,違法に対して償いをする。応報というよりは贖罪をするというような発想を入れるべきだろう。そして,自由を剥奪するということをもう少し純化して考えるべきで,その施設から外へ出られないという,その出られないという限度において自由を奪うべきだというふうに考えるわけであります。
 それから,贖罪と申しましても,刑務官がどういう役割を演ずるかというと,ただ,言葉は悪いですが,牢役人のような役割ではなくて,その刑務官の持つ人格的な触れ合いといいましょうか,人と人との関係を確立するための媒介の存在として,つまり,刑務官が使命感を発揮できるような,そういう処遇というものができるようなものであってほしいなというふうに思います。
 最後に,私の個人的立場から言いますと,社会復帰ということを考える場合に,復帰すべき社会というのは被害者,遺族,周囲の人たち,そういう人たちのいる社会へ復帰するわけですから,処遇の中に被害者への思いというようなものを入れてほしいな。そういう被害者に,そういう気持ちを持った人に,被害者との交流の媒介として保護との結びつきということも是非考えてほしい。
 地域社会に根をおろした処遇というのは,例えば地方でも,その地方の人との交流は割合にうまくいくのですが,地域社会と全く関係のない都会へと入ってしまいますと,せっかく立ち直ろうとした気持ちが萎えてしまうような状況があるわけですので,矯正と保護のうまい融和といいましょうか,バトンタッチといいましょうか,そういうものを忘れないような矯正というものを構築する必要があるのではないかというふうに思います。
 言いたいことはたくさんありますけれども,最も言いたいことだけ申し上げました。
○成田座長代理 どうもありがとうございました。野崎委員,お願いいたします。
○野崎委員 私も意見書を出してありますので,2,3の点について申し上げたいと思います。
 職員と被収容者との関係でありますけれども,日本には担当制度というものが長い歴史を有しております。この間,刑務所の入所経験のある方が話しておられたことなのですが,かなり年とった,相当の犯罪歴のある被収容者が,若い看守さんを「おやじさーん」と言って呼びかけるということを言っておりました。これは担当制度の在り方をよくあらわしていると思うのですけれども,そこに何か擬似親子関係みたいなものをつくって,そのウエットな関係を使って,うまく機能させてきたところがあると思います。しかし,この制度は,うまくいくときには非常にうまくいくのですが,いったん間違えると大変なことになるものを秘めておるわけであります。そこで,被収容者の状況,社会の状況というものを見てみますると,非常に個人主義的な傾向が強くなりまして,人生観,人の生き様などというものは非常に変わって複雑になってきました。同時に被収容者も非常に高学歴の者,いろいろな経歴の者を収容するようになり,そこに外国人というものがたくさん入ってきますと,なかなか,その処遇を一つの物差しで測るということは不可能でありますし,今までの物差しが通用しなくなってきているということを感じます。
 私は,まず,この問題をどういうふうに考えるべきかということを真剣に議論してみたいと考えます。職員と被収容者の関係につきましては,結局,もっと近代的で,ウエットにすぎないものでないといけないだろう。しかし職員の裁量権というものが余りあってはいけないと思います。特に懲罰権の行使につきましては,デュープロセスの観点から適正,公正な,明確な手続的保障というものが要求されてしかるべきであろうと考えております。
 それから,被収容者の法的地位と救済方法に関してでありますが,これも先だって,安部譲二さんが,「日本の看守は,いったん入所した被収容者の自由をすべて奪うところから始まっているのです。一遍,すべての自由を奪って,そうしておいて従順にする収容者に少しずつ自由を返してやる。それによって支配しコントロールしていくのです」ということを言っておりました。これはなかなかうまく表現しているなと思いました。
 ただ,被収容者が拘束されて自由を剥奪されるということは,避けられないものだとは思いますけれども,しかし矯正の目的から言っても,人権の観点から言っても,我が国における自由の剥奪度というのはかなり厳し過ぎないか。監獄法自体が非常に古いものでありますから,どちらかというと,被収容者に対する監視,監督というものをどうしたら効率的にできるかという観点が非常に強くあらわれてはしないか。しかし,矯正の目的,人権の観点に照らしますと,その自由を剥奪される限度というものは,その目的から見て必要にして十分な範囲に限られるべきだと思います。こういった観点から,この問題は是非活発に議論し検討していただきたいと思います。
 それから,救済制度でありますけれども,これについてはもちろん,デュープロセスの観点からしっかりとした手続がないといけないと考えますし,刑務所というものが閉鎖社会であるということを考えますと,少なくとも部外者が入った判断機関というものを設置すべきではないかと思います。それと同時に,行政当局の行動を監視し,行刑が適正に行われることをチェックするためのモニタリングシステムの導入というものも真剣に考えていいのではないか。これは最近,会社経営についてもモニタリングシステムというものをよく言うわけですけれども,こういったものを考えていっていいのではないかと思います。
 次に,人権意識の改革についてでありますが,私が子供だったころは,弱い者いじめをするのは卑怯だということをよく言われました。そのころ,卑怯者と呼ばれることは非常に屈辱的なことでありまして,私どもは,そう呼ばれないように,弱い者をかばってきたと思います。しかし,それにもかかわらず喧嘩というものが起きます。相手が泣き出すか,抵抗をやめると,そこでやめるというのが,我々の時代のルールだったと思うのです。抵抗をやめた相手を攻撃するというのは卑劣の限りだというふうに考えられていました。そこには非常に厳しいルールがあったと思います。日本の武道を見ましても,相撲でも,手をちょっとつく,土俵を少しでも割る,あるいは一本取られると,なお戦力を残していても負けてしまう。瞬間芸みたいなところがあるのですけれども,これは案外,日本人の体質といいますか,DNAに合ってきたと思うのです。ところが,「卑怯」という言葉が聞かれなくなって,そういうものが全くなくなってしまいました。最近の世相を見ますと,老人狩りとか,女性からひったくるとか,浮浪者への襲撃,小学校へ乱入して生徒を殺すとか,最近では沖縄で起きた事件などは,途中でジュースを買ってきて,休憩を挟んでまでいたぶって遂には殺しているというような状況が出てきています。一体,日本人の人に対するやさしさというのはどうなってしまったのかなということを痛感するわけであります。
 「人の命は地球より重い」ということを言われた時代から見ると,今は人の命は紙切れより軽くなっています。カラスを駆除するというと自然保護団体は押しかけてきて非常に怒るわけですけれども,浮浪者が襲われたり非情な事件が起きても,だれも騒がない。人権団体でも,こういうものを取り上げるところはない。そこに日本の現状があると思います。
 私はなぜこういうことを言うかといいますと,今度の事件も,こういった風潮の延長線上にあると考えるからであります。刑務所は仮釈放の制度がありまして,無期の場合は10年,有期の刑の場合は3分の1を過ぎると仮釈放ができるわけでありますし,いろいろ処遇を上げていくこともできるわけですから,ある意味で非常にコントロールしやすい立場にあるわけですね。にもかかわらず,こういう悲惨なものが出てきているということについては,人権問題に取り組んできた人間として,大いに反省し,また考えないといけない。人権意識の根本的な改革というものは刑務官にとって喫緊の課題だと思いますし,是非,何としてもこういう状況は改める努力をしないといけないと思います。
 後は時間の関係で述べません。
○成田座長代理 ありがとうございました。それでは大平委員,お願いいたします。
○大平委員 私は,普段,少年を担当しておりまして,長崎の事件でも思うことがたくさんあるのですけれども,子供の場合には現在,ああいう事件の場合には,改善・更生とか,教育の方に重点が置かれておりまして,そこに罪の償いという観点は全くございません。これは少年法の理論ですから,そのことについて今申し上げるつもりはございませんが,ただ,そういう理念に対して世間の一般の目から見ましたら,子供だったら何をしてもいいのか,おかしいじゃないかということは,やはり言われているわけです。私自身,子供でも,していいことと悪いことがありまして,人を殺害した場合にはきちんと罪を償わせるべきだと,常日頃から実は思っております。これは誤解を恐れずに言っているわけなのですけれども,ただ,それが,現状どうするかということになりますと,また別の問題になるのですけれども,子供でもそういう状況でございまして,ましてや,大人につきましては,罪の償いをするために刑務所にいるという大前提があるわけです。ですから,ある程度の自由が制限されるのはやむを得ないと思っています。ですから,罪の償いという観点を棚に上げた上での権利を認める,そちらの方に行き過ぎるのは大変,私自身,危惧感を覚えております。やはり一般社会でできないことが刑務所に入ればできるのか,そういうふうに一般の方から思われてしまいますと,別の意味での理解が得られないと思います。
 ただ,そうは申しましても,現在の刑務所の状況といいますのは,そちらの方に重きが置かれておりまして,改善とか社会復帰に対するそういう面での権利保護がまだまだなされていないように思います。そういう意味で,いずれは社会復帰されるわけですから,きちんと社会で適応できるための,そういう意味での権利はやはり将来を見据えて,できるようになればいいなと思っております。
 それともう一つ,透明性の確保,いわゆる刑務所の閉ざされた門を開くという意味が一番大事ではないかと思っております。ちょっと話は変わりますけれども,大分以前に,子供の学校内の情報が何も社会に分からずに,学校の門を広げるという議論が起きたときに,一部誤解された学校関係者が,学校の門を開けっ放しにしまして,不審者が入ってきてから,また慌てて閉めるという,そういう全く意味の違ったことをしているところもありました。門を広げるというのは,門を開けっ放しにして,誰でも入ってもいいという意味ではなく,情報を公開しろという意味なんですね。学校でいじめが起きていたり,いろいろな問題教師がいる,そういう情報を全部明らかにして,敷居を低くするという意味であって,ですから,今回,刑務所も,そういう意味では,中でどういうことをしているのかとか,そういう情報を一般の方々に分かりやすいように公開することが一番大切なのではないかと思っています。そしてそのためには,やはり処遇,先ほども申しましたが,外国人,そして薬物による精神障害のある受刑困難者と一般の受刑者の処遇は分けるべきと思うのですね。先ほどのビデオではありませんけれども,ああいう処遇困難者の状態を一般の方々が見れば,刑務所は怖いところだ,こういう人たちばかり入っているのだったら,こういう人がこのまま出てきたら困るとか,いらん誤解を与えることになると思いますから,そういう面の配慮も私は必要ではないかと思っております。
 あとは,皆さんと同じでございます。
○成田座長代理 ありがとうございました。瀬川委員。
○瀬川委員 まず,行刑の基本理念・ビジョンについてですけれども,これはやはり犯罪者の社会復帰である。それが中核になるべきであるというふうに考えております。ただし,昭和20年代,30年代に言われた改善・更生と同じかというと,そうではないというふうに考えております。というのは,英米を中心にといいますか,国際的な動向からしてもそうなのですけれども,犯罪者の社会復帰という名のもとに,逆に人権侵害が起こる可能性があるわけですから,これは非常に注意すべきだというふうに考えております。
 60年代,70年代にかけてですけれども,アンソニー・バージェンスの小説で,キューブリックが映画化したのですが,「時計じかけのオレンジ」というものがございます。これは刑務所の中で改善・更生の名のもとに人格を破壊する可能性があるということを警告したものなのですけれども,国際的な動向としても,社会復帰という名の下といいますか,そういう美名の下に人権侵害が行われる可能性があるということに非常に注意しないといけないというふうに考えます。
 そういう意味では,私が犯罪者の社会復帰が中核となるべきだと申し上げたのは,三つ意味があります。一つは,受刑者の人権を明確にして実質化するという方向で社会復帰というのは考えるべきだ。もう一つは,人的,物的条件。刑務所のそういう人的な条件あるいは物的な条件を改善するという方向で,犯罪者の社会復帰という理念といいますか,ビジョンは考えるべきだというふうに考えております。
 もう一つは,刑務所の職員の人々は一生懸命やっておられる方々はたくさんおるわけですから,そういう人々が生きがいというか,働く,自分たちの理念を持てるように,そういう意味での社会復帰という理念が必要だというふうに考えます。
 そういう意味では,論点としては,恐らく大事なことは,刑務所の物的,人的な条件を改善していく中で,その法的地位といいますか,受刑者の法的地位を明確化していく,そういう努力が必要だろうと思います。
 それから,具体的な論点については,今先生方がおっしゃったとおりで,付け加えるべきことはございませんけれども,視点としては三つほどあるというふうに考えます。
 一つは,刑務所の問題なのですけれども,社会とのつながり,あるいはもっと言えばといいますか,もっと具体的に言えば,社会内処遇というものがあるわけで,これは仮釈放,保護観察なのですけれども,その社会内処遇との連携といいますか,有効な連携を図りながらやっていく必要がある。つまり,犯罪者処遇というのは刑務所だけに限定されないで,矯正局,保護局と言いますけれども,保護局との連携というものを考えるべきだというふうに思います。
 もう一点は,先ほども痛感したのですけれども,精神医療とのつながりといいますか,精神医療の視点というのは今まさに必要ではないかと思います。心神喪失法案ができましたけれども,刑務所内部における精神医療の問題というのは,これからの問題ではないかというふうに考えます。そういう点では,先ほど論点がありましたけれども,例えば薬物中毒者に対しては,薬物刑務所というような形で作り上げるとか,交通刑務所というものがありまして,そういう特化したものがありますけれども,いわゆる薬物を中心とした刑務所を持っていいのではないか。あるいは,これはもう遠い先の話かもしれませんけれども,精神医療刑務所というか,そういうものに特化したものも構想していいのではないかというふうに考えます。
 それから,もう一点,第3番目ですけれども,被害者の視点というものが必要だというふうに思います。死刑というものを科されたら社会に戻ってきませんけれども,圧倒的多くの犯罪者というのは社会に戻ってくるわけで,そういう意味ではいずれ戻ってくるわけですから,そこで被害者がいる,あるいは社会で被害者を知っている人がいるという現実があるわけですから,その視点を抜きにした犯罪者処遇というのはもうあり得ないのではないか。特に刑事手続につきましては,犯罪被害者の保護というのは,2,3年前に法律が成立しましたけれども,それは刑事裁判を中心としたものでありましたので,今後は有罪が確定した以後の被害者の視点といいますか,それが本格的に議論されるべきだというふうに考えております。
○成田座長代理 ありがとうございました。滝鼻委員,お願いします。
○滝鼻委員 お配りしてある基本的な考え方というペーパーに尽きます。これ以上でもなければ,これ以下でもございません。特に行刑の目的につきましては,今,委員の方々がお話しになったことと,ほぼダブるので省略いたします。
 2点だけ強調したい点がございます。私のペーパーの4のbというところに書いてあることなのですけれども,日本の刑罰権というのは国家に独占されて,私的な刑罰,リンチとか,あるいは決闘,果し合いなどは法律で禁じて許されないわけですから,それだけに国家権力の直接行使の最たるものが刑務所で行われている刑罰の執行だと思います。したがって,それが適正に執行されているかどうかということはどこかでチェックしなければならないだろうというふうに思います。そのためには,1案として,法務省から距離のある第三者によるチェック機関を設けた方がいいのだろうと思います。その距離と第三者というところが重要なのですが,距離は,余り距離を置き過ぎると,行政コストもかかるということで,今はやりの全く関係のないところにポツンとこういうチェック機関を置くのがいいかどうかは分かりません。重点なのはやはり第三者ということだと思います。司法手続,特に刑事手続に携わった司法警察官,検察官,裁判官,弁護士,これらの人たちは第三者機関に入らない方がいいのだろうというふうに私は思います。
 もう一点,これは今申し上げたように,国家刑罰権は直接国民になされるわけですから,この過程,この手続につきましては,余り矯正職員とか法務省の職員とか,あるいは現場の刑務所の職員に裁量権を委ねるのはいいことではないと思います。したがいまして,法律が主体になって,細かいところまで法律に明示して,詳細な手続を作成すべきではないかというふうに思います。したがいまして,現行の法律では全く不十分であるということは,この行刑改革で確認していただきたい。具体的な法律の中身までここで決めるというのは,行刑改革会議に与えられた仕事ではないと思いますけれども,現行の法律は全く不十分であるということだけは,この行刑改革会議で是非確認していただきたいということを考えております。
○成田座長代理 ありがとうございます。高久委員。
○高久委員 行刑の基本的理念ということですが,私のように行刑のことを知らない者の立場から言いますと,更生と社会復帰というのが基本にあってしかるべきだと思います。ただ,そう言いましても,納得がいかないのが,2ページ目にあります外国人受刑者の問題でして,本来ならば,この中に書かれているように,本国に送還して刑の執行を外国でしてもらった方が良いのではないかと考えます。
 もう一つ問題は,人格障害者の取扱いでして,こういう人たちが本当に更生,社会復帰ができるのかどうかということは重要な問題であると考えます。
 それから,私の専門としています4ページ目の医療体制の在り方に関していろいろ提案がされています。この問題につきましては,今後,第3分科会でいろいろ議論することになると思いますが,個人的な考えを少し言わせていただきますと,厚生労働省への移管という問題,これは法務省と厚生労働省との間の問題でして,可能かどうかということも検討する必要があると思いますが,刑務所の医療の中で一番難しい問題は,中で働く医療関係者の確保ということだと思います。しかし,先ほども申し上げましたように,大都会を除きまして今非常な医師不足の状態にありまして,かなりの病院が標欠といいまして,医師が足りないために保険医療収入が大幅に削られるという状態にありまして,私共の大学にも非常勤でもいいから,是非医師を派遣してくれという要望が県立病院からさえもあります。そういう状態を考えますと,厚生労働省に移管したから医師が供給されるようになるということには必ずしもならないのではないか。特に来年4月から国立病院は独立行政法人になりますので,その点はますます難しいことになると考えます。
 保険制度の適用ということにつきましても,今後議論すべきであると考えています。ただ,保険制度に移りましても,結局は国費しか出すところがない。
 それから,医師を増員すべきという御提案がありす。これも費用と獲得の手段があれば,もちろん異存はありません。
 次に,投薬内容の説明を義務づけとありますが,投薬内容の説明をするのが本来,医療者としてあるべき姿ですから,中で勤務している医官が投薬内容をよく説明していなければ,教育する必要があると思います。
 医療職員の守秘義務とありますが,医師は患者さんのことに関して守秘義務を有することが医師法で決められていますので,当然だと思います。
 医師の保安からの独立性ということですが,医療に関しては当然独立すべきであると思います。ただ,外部の病院で診療を受ける時は,刑務官の同行を必要としますので,どこまで独立性を保てるかということは今後の検討課題であると思いますし,精神科を充実させるべきということは御意見のとおりです。先ほど瀬川委員から御提案のありました精神科を中心とする刑務所につきましては,北九州と岡崎はそうなっていると思います。また,おっしゃる様に新たに薬物中毒の人を取り扱う施設が必要になる可能性があると思います。4ページの御提案以外に,私は,カウンセラーをもっと増やす必要があるのではないか,それから最近は医療機関でボランティアの方がたくさんおられますが,もしもボランティアで,特に精神的な問題があるいは薬物の問題のある被収容者に対してカウンセリングをして下さるボランティアの方がおられれば,そういう方に御協力いただければ良いのではないかと考えています。
○成田座長代理 どうもありがとうございました。これで皆さん方の御意見を伺ったわけですけれども,私も最後に若干申し上げたいと思います。
 先ほど来御出席いただいておられた後藤田相談役からのアドバイスを申し上げますと,国情のいかんにもよるが,国際比較を行って国際的な批判を受けることのない処遇の改善というものを考えたらどうなのだということであります。
 それから,女子刑務所の改善事項はないのかということを言っておられました。
 私,全く同感でありまして,私自身が考えていることを申し上げますと,行刑に関しても割り切り方が必要なのではないだろうか。一つの大きな時代,21世紀に入っておりますが,明治40年代に作った監獄法で制度を作っているけれども,この際,もうはっきり割り切るべきではないか。例えばこの間の中学一年生の犯罪を見ましても,こういうことは全く考えられないようなことが起こってくる。そうするとやはり,刑務所というのはそういう安全に対するコストなんだと。そういうような一つの考え方も社会人として考えていく。それと私も刑務所をこの間,2箇所回りまして,ちょっと違っていると。非常にいい人もいらっしゃるけれども,どこか欠落している。これは遠回りだけれども教育の問題,躾の問題だってあるのではないかというようなことを考えました。
 それとまた実際,行刑に対していろいろ言われますけれども,考えてみると,このコストというのは全部税金なんですね。そうしますと,社会としてはどのようにコストを払っていくのか。最も時代に合ったものを考えていかなくてはいけないのではないか。先ほど滝鼻委員も言っておられたけれども,刑務官に対する教育の問題もあるでしょう。しかし,割り切って考えていくことが必要なのではないだろうかという気持ちを持っております。
 それで,ただいまの問題点はそういうことにしまして,後で事務局に整理してもらいまして,これを実行していく,実現していくための委員会というものを考えなくてはいけないでしょう。それで,事務局から,分科会のあり様,実際にどういう分科会かというようなことについて概要を説明していだたきたいと思います。
○杉山次長 座長と座長代理の方から指示を受けまして,分科会の設置について事務局の方で一案をお作りいたしましたので,簡単に御説明をしたいと思います。
 先ほど論点整理についてという紙をお配りいたしまして,これらの論点,委員の皆様からいただいた御意見に基づいて論点をつくったわけですが,こういう論点でよかろうということになったという理解をしておりますけれども,それを踏まえまして,お手元に「分科会構想案」というペーパーがありますので,これを先ほどの論点整理の表と一緒に御覧いただきたいと思います。
 先ほどの論点整理で挙げられました,行刑の基本的理念を含めまして八つの論点のうち,基本的な理念については全体会で議論して,その結果をそれぞれの各論の議論に役立てるのがよいのではないかと考えましたので,論点整理の1ページ目にあります「基本的理念」については全体会でこれからも御議論を続けるのがよいのかと考えまして,分科会のテーマの中に入れてございません。
 そして,分科会につきましては,委員の方々の数などを考慮しまして三つに分けるのがよいというふうに考えまして,先ほどの論点表の2ページから4ページまでの,それぞれのページの論点に対応して三つの分科会に分けるのがよいというふうに考えました。
 まず,第1分科会は,被収容者の「処遇の在り方」を中心とした論点を議論する場として位置付けました。更にこれらに関連して,被収容者の法的地位とか被収容者と刑務官の関係,規律の問題などを,この場で御議論いただければというふうに考えております。
 第2分科会は,「透明性の確保」ということを中心にするのがよいというふうに考えました。透明性の確保の問題としては,不服申立てのことや第三者機関の設置,それから情報公開などの論点があると思われますが,その不服申立てとの関係で外部交通における検閲の問題なども関連しますし,外部交通というのは透明性の確保とも絡む問題ですので,全体の分量なども考慮し,この第2分科会で議論するのがよいというふうに考えました。
 第3分科会は,「医療・組織体制」ということで,医療の問題を中心といたしまして,そこでの一つの中核が医師の確保,医療施設の充実といった組織体制の問題と密接に結びつくので,組織体制や施設の充実,職員の問題などをあわせて議論するのが適当ではないかということで考えた次第でございます。
 これらの論点に振り分けは,お手元の「分科会構想案」のペーパーに記載したとおりでございます。
 次に,このペーパーの(注)のところに書いてありますけれども,分科会の運営のルールについて,ここに記載されたような提案をさせていただきたいと思います。委員の数につきましては,相談役を除きまして,座長や座長代理も含めて15名いらっしゃいますので,5名ずつに分けるのが自然ですし,5名というのが深い議論をするのも適した人数だと思われますので,委員の皆様方の希望も考慮した上で,座長と座長代理も含めた委員の方に一つの分科会に5人ずつ,一人一つの分科会に所属していただくということを考えております。
 そして,小人数で突っ込んだ議論をするというような趣旨から,各委員の方は御自分の所属する分科会のみに出席するということにしたい。もちろん,他の分科会で議論する内容について御意見をお持ちの方は,それを御発言いただく機会があるべきだと思いますので,各分科会での議論の結果を次の全体会の際に報告していただき,これについて全体会で意見を言う機会を作るということで,所属しない分科会にも意見が反映できるような形にできるのではないかと考えております。
 また,公開につきましては,そもそも全体会議でも公開の是非について意見が半ばしまして,会議室の中に報道の方や一般の方が入るのはどうもよくないという声も考慮しまして,モニター公開ということにされたわけですけれども,そのために,この部屋には設備を設けてございますけれども,分科会については5人程度でこじんまりと議論するため,また別の小さい部屋を使うことを考えておりまして,設備のないことでございますし,また少人数で突っ込んだ議論をするということでもありますので,リアルタイムには公開をしないこととしていただきまして,公開については発言者の名前を記載した議事録,それから速報的なものとして議事概要を公開するということで行うのがよいのではないかと考えております。
 また,随行者ですけれども,現在,一部の委員の方におかれましては,全体会議に随行の方を同席させておられますけれども,やはり分科会という少人数による議論を行う場であり,リアルタイムの公開もしないということでございますので,分科会については委員のみ出席で,随行の方は同席しないという形で進めさせていただきたい。
 以上のように事務局で検討いたしまして御提案させていただきますので,よろしく御審議をお願いいたします。
○成田座長代理 ただいまの分科会構想案,いかがですか。
○菊田委員 私はお手元に「部会編成と運営に関する意見」というものを配付させていただきました。もともと私は,個人が一つの分科会に入るということは当然としましても,他の部会にも可能な限り出席したい。それが開かれた形だろうと基本的に思っておりました。ところが月曜日しか,お互いの委員の方の都合がつかないということで,物理的にそれが無理だということもよく分かりましたので,提案といたしましては,その分科会にそれぞれの,その点に関する専門の方を,仮に特別委嘱委員というような形で参加願うというようなことは御検討願えないものかということを提案したいと思っております。今日結論を出していただかなくても結構ですけれども,少し考えていただきたい。
 特に,第3分科会の医療の点などは,もちろん専門家はいらっしゃいますけれども,多くの市民の代表としては法務省の説明についても,専門的なことでございますので,それに対する意見というのはなかなか出にくい現状が出てくるだろうと思います。したがって,具体的には,その面の専門の方に特別委員として参加していただくという窓を開くような形をお願いしたいというふうに思っております。
○成田座長代理 分かりました。そこの委員になる人の委員とも相談して決めていこう,考えていこうということなのですが。今,即座にお答えしなくてもいいでしょう。
○菊田委員 結構です。提案でございます。
○野崎委員 今の問題に関してですが,例えば第3分科会の,医療体制の在り方,人権意識の問題,人的物的体制の整備ということになると,専門家というのはみんな違ってくるわけでして,そう簡単にはいかないと思うのですね。だから,分科会そのものは委員で出発して,もし必要な知識を補うことが出てきたときにどうするかということで考えていくべき問題ではないかというふうに考えますが。
○成田座長代理 各分科会が自主的に。
○野崎委員 恐らく,そういうものを入れるかどうかについても決めておかないといけないのだろうと思いますけれども,スタートは委員だけでスタートしていいのではないかというふうに思います。
○成田座長代理 スタートは委員だけでやっていくと。
○菊田委員 結局は,議論しても,専門的なことになると委員一人一人がもっと知りたいということになるだろうと思うのですね。そういう点で,分科会の方で,こういう方に,もう少し御意見を聞きたいというような方向でも,とにかく開かれた方向で少し御検討を前向きにしていただきたいということを,今日の段階では申し上げたいと思います。
○成田座長代理 開かれておるということに関しては,何もクローズにするというわけではありませんから,いいのではないですかね。
○菊田委員 先ほど申し上げたように,特に医療という特殊な問題になりますと,これは法務省の専門家の説明を聞いても,更にそれを一方的に聞くだけになってしまうという懸念がありますので,それなりの,今までの面において究明されている方,具体的に書いておりますのは,監獄人権センターの事務局長である,今日も御出席されていますけれども,海渡弁護士は,特にこの問題について従来から調査チームに対する詳細な報告書を出して,皆さんのお手元にも出しておりますが,お読みいただきたいと思いますけれども,専門的にこの件についてずっと追求されてきた人がいるものですから,そういう方の意見を逐次聞くという形でやっていただいた方が,委員の人にとっても私は役立つだろうというふうに思っております。
○高久委員 私もいろいろな方の御意見を聞くのが重要だと思っていますけれども,この委員でスタートして,ヒアリングという形で毎回,お伺いするのがいいのではないかと思っています。それ以外に,医療刑務所ではなくて普通の刑務所で働いているドクターの意見なども是非聞きたいと思っていますので,外部の方を固定するのではなくて,必要に応じて御意見をいただくという形にしていただいた方が,私がもし第3分科会に入るのなら,有り難いというふうに思っています。
○滝鼻委員 今の高久委員の意見に賛成します。必要だったらヒアリングでも何でも,専門家の方を呼んで。それから,医療の専門家も,高久委員自体が医療の専門家なのですから。
○高久委員 刑務所の中身は余りよく知らないです。
○成田座長代理 プロフェッショナルの意見も必要ですけれども,実際,我々,離れた,社会的な常識から見てどうなんだというようなことも,私は大臣のこういうメンバーを集められた趣旨だとも思うのですね。ですから,今,菊田委員が言われたようなことも十分加味しまして,各分科会で決めていくということでいいのではないですかね。そういうことでよろしゅうございますか。
○南委員 ですから,必要があればヒアリングというような形でよろしいと思いますが。
○瀬川委員 その場合に,菊田委員の問題提起はもう一つあって,委員相互の情報交換というか,密室でやっているわけではなくて,これも開かれていていいと思うのですね。だから,お互いにキャッチボールするというか,そういう感じがあっていいのではないかと思います。
○成田座長代理 まとまった答申ですからね。ではそういうことで決めさせていただきましょう。よろしゅうございますか。

(「異議なし」と呼ぶ者あり)
○成田座長代理 この分科会の構成メンバーにつきましては,事務局の方から皆様方の御希望,御都合を伺って調整したいと思いますが,それぞれのメンバーの人選及び会長の人選については,座長と私代理の成田にお任せ願いたいと思います。よろしゅうございますか。
(「異議なし」と呼ぶ者あり)
○成田座長代理 最終的には月末ごろまでに調整して確定し,皆様方に御連絡したいと思います。

4.その他

○成田座長代理 本日の予定ももうそろそろでございますが,御協力ありがとうございました。それから,前回の会議で決定されました受刑者及び刑務官に対するアンケートについては,既に実施し,集計作業に入っておりますので,この結果を取りまとめて,次回の全体会において御報告したいと思います。次回は全体会でアンケートの結果を発表し,関連する議論等を行った後に,できれば引き続き分科会に移りたいと考えております。
 また,何人かの委員から御提案がありました,海外の行刑施設の視察についてでございますが,予算上の制約もあるように聞いておりますので,御希望される方の中から数名に本年秋ごろ海外視察に行っていただくという方向で調整しております。この点につきましても,今後事務局から御連絡等をさせていただきますので,よろしくお願いいたします。
 本日はこれで散会といたします。


午後5時05分 閉会