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ルールづくり

Q1 「ルールづくり」の位置付け

Q  法教育において、「ルールづくり」はどのように位置付けられるのですか。

 ⇒ 『報告書』12ページ(第3、1、(1)自由で公正な社会を支える「法」的な考え方を育てること)

A  法教育は、自由で公正な社会の担い手として必要なものの考え方をはぐくむことを目指しています。自由で公正な社会とは、様々な考え方を持ち、多様な生き方を求める人々が、お互いの存在を認め合い、多様な考え方や生き方を尊重しながら、ともに協力して生きていくことのできる社会です。                     
 法は、本来、人々が共生するための相互尊重のルールであり、生活をより豊かにするためのものです。また、民主主義社会においては、みんなのことはみんなで主体性をもって決めていかなければならず、他人任せにしてはなりません。「ルールづくり」の単元は、法が共生のための相互尊重のルールであり、生活をより豊かにするために存在するものであるということを子どもたちが実感として認識すること、ルールは状況の変化に応じてつくり変えることができるといった、主体的にルールを作成し利用するという意識をはぐくむこと、公共的な事柄に主体的に参加する民主主義の精神を養うこと、法を守らなければならないという規範意識をはぐくむことなどを目的としています。

Q2 「ルールづくり」を学ぶ必要性

Q  法やルールに対してはあまりいいイメージがないように感じますが、なぜ「ルールづくり」を学ぶ必要があるのですか。

 ⇒ 『報告書』43ページ(第1、1法教育における「ルールづくり」の学習の必要性)

A  法の役割については、一般に、社会の秩序を守るために国民を規制するものであるという固定観念があります。これまでの法に関する学習も、裁判の仕組みやどのような法律があるのかについての知識を学ぶことが主であり、法の意義について根本から考えるという取組みは、あまりされてきませんでした。しかし、法は、本来、国民の生活をより豊かにするためのものです。また、民主主義社会においては、国民が自発的に社会に参加し、法律などのルールを作っていくことが求められています。
 本教材は、ルールづくりを体験し、ルールを身近なものと感じることを通じて、法の本来の意義を理解し、主体的にルールを作成し利用する意識を育てること(「ルールはつくることができる」)、自分たちが主体的に参加し作成したルールについて積極的に守ろうという意識を高めること(「ルールは守らなければならない」)などを目指しています。また、ルールづくりの体験により、ルールの目的や役割について実感として理解し、状況が変化した場合に、状況に応じてルールを作りかえるという批判的かつ柔軟な思考を身につけること(「ルールは変えることができる」)が期待されます。

Q3 社会科以外の教科で授業を行う方法

Q  社会科以外の教科等では「ルールづくり」の授業はどのように行うことができますか。

 ⇒ 『報告書』43ページ(第1、2「ルールづくり」に関する学習指導要領や教科書の記述)

A  「ルールづくり」は、例えば、道徳において、「約束やきまり」、「法の意義」などを理解させ、それを守ることの大切さを指導する教材として取り上げることができます。
 また、特別活動として行われる学級活動や生徒会活動の中で、学級や学校における生活上の諸問題の解決や学校生活の向上のために、ルールについて考えたり、話し合うなどの活動を展開し、協力してよりよい生活を築こうとする態度を育てることなどの教材として取り上げることができます。
 さらに、「総合的な学習の時間」のねらいに即して、例えば、法に関する課題などについての学習活動を設定することができます。

Q4 単元の目標(1)の趣旨

Q  「ルールづくり」の単元の目標(1)は、どのような趣旨ですか。

 ⇒ 『報告書』45ページ(第2、2単元の目標)

A  本教材は、「ルールづくり」の単元の目標(1)として、「ルールについての関心を高め、社会生活におけるルールの意義について考える態度を養う。」としています。
 法は、本来、共生のための相互尊重のルールであり、人の生活をより豊かにするために存在するのに、人の行動を縛るためだけのものだと誤解されがちです。このような誤解を解くためには、まず、法やルールは実生活において身近で必要不可欠なものであることを理解し、これに親しむという態度を養うことが重要ですので、このような目標が設定されました。

Q5 単元の目標(2)の趣旨

Q  「ルールづくり」の単元の目標(2)は、どのような趣旨ですか。

 ⇒ 本書4ページ
 ⇒ 『報告書』42ページ(第2、2単元の目標)

A  本教材は、「ルールづくり」の単元の目標(2)として、「ルール作成による紛争解決を通じて、社会生活における取決めの重要性、集団内の個人の自由を保障するためのルールの必要性、それを守る意義について考えさせる。」としています。
 複数の人間が生活する社会においては、立場や考え方の違い等から、摩擦や紛争が生じることが避けられないため、社会生活を円滑にするための手段としてルールが不可欠です。こうしたルールの必要性を実感として理解することを通じて、ルールを守る意義についても理解することにつながっていくと思われます。

Q6 単元の目標(3)の趣旨

Q  「ルールづくり」の単元の目標(3)は、どのような趣旨ですか。

 ⇒ 『報告書』45ページ(第2、2単元の目標)

A  本教材は、「ルールづくり」の単元の目標(3)として、「事例の望ましい解決策(ルール)を作成し表現させる。」としています。
 本教材は、生徒にとって身近な紛争状況を設定して、実際にルールづくりを行ってみることで、ルールは身近なものであり、必要に応じて、個人間の利害調整を経た合意に基づいて、自分たちの力でつくるものであることを実感できるよう工夫されています。また、合理的なルールを設定するために必要となる、理性的で建設的な議論をする能力を伸ばすことも期待できます。

Q7 単元の目標(4)の趣旨

Q  「ルールづくり」の単元の目標(4)は、どのような趣旨ですか。

 ⇒ 『報告書』45ページ(第2、2単元の目標)

A  本教材は、「ルールづくり」の単元の目標(4)として、「作成したルールについて、合理的に考察し評価する能力を身に付けることができる。」としています。
 ルールは合理的なものでなければならないことはいうまでもありませんが、実際にルールを批判的に評価してみることを通じて、どのような視点からルールの合理性を判断すべきなのかを実感として理解することをねらっています。

Q8 「ルールづくり」と生徒の規範意識

Q  「ルールづくり」の授業は、どのようにして生徒の規範意識を養うことをねらっているのですか。

  ⇒ 『報告書』43ページ(第1、2「ルールづくり」に関する学習指導要領や教科書の記述)

A  規範意識を養おうとしても、「正しいルールなのだから守りなさい」という教え方では、特定の価値の押し付けに陥る危険性があり、十分に納得が得られませんし、場合によってはルールに反発する気持ちを生みかねません。ルールを守らなければならないという規範意識を育成するためには、生徒の発達段階に応じた教え方が必要です。民主主義社会の担い手としてふさわしい規範意識を育成するためには、なぜそのようなルールが必要なのかという点にまでさかのぼって体験的に学習させる必要があります。
 本単元では、生徒にルールづくりを体験させることによって、法やルールは、議論を重ねて民主的に定められるものであり、そのようにしてできたものであるからこそ守らなければならないと納得できる学習指導が展開されることを期待しています。

Q9 役割演技を中心とした学習についての工夫

Q  「ルールづくり」の授業で役割演技を中心とした学習を行う際に、どのような工夫をするとよいでしょうか。

A  「ルールづくり」の単元は、役割演技(ロールプレイング)を大きく取り入れて、生徒が利害の対立する立場に分かれ、それぞれの立場になりきって、問題の解決を図るためのルールをつくっていくものです。
 役割演技を行う場合、生徒が戸惑って、意見を出しにくいという状況も考えられます。生徒が活発に意見を交わすことができるかどうかは、普段の指導やお互いの信頼関係にも左右されますが、例えば、「ごみ収集に関するルールをつくろう」の小単元では、ごみ収集に関する実際の工夫例をもとに考え方を例示してみるなどして、話し合いがスムーズに始まるように手助けをしたり、生徒や地域の実情に合わせて、問題をより身近に感じられるように加工するなどの工夫をするとよいでしょう。

Q10 法教育と正解志向

Q  「ルールづくり」の単元は、正解を求めて学習を行うものではないのですか。

A  法教育を行うに当たって留意すべきことは、「この授業では正解はない」ということです。実社会においては正解が存在しない状況も決してまれではありません。「ルールづくり」の単元は、正解のない問題について、他人の立場を理解しつつ自分の意見をきちんと主張するという理性的な議論を通じて、生徒に実社会を生きる力を身に付けさせるものです。教師の側としても、正解はないことを前提に、生徒と一緒に問題を解決してみるという意識で取り組むとよいでしょう。

Q11 つくったルールを評価することの重要性

Q  「ルールづくり」の授業は、生徒たちが何らかのルールをつくった時点で終了する、という形で時間を短縮できないのですか。

A  ルールをつくっただけでは、本単元のねらいを十分に達成したとはいえず、そこで終了するのは望ましくありません。
 ルールは、ただつくればよいというものではありません。つくられたルールは紛争状況の解決のための必要に応じた合理的なものでなければなりません。生徒たちも、民主主義社会の担い手として、法やルールが合理的であるかどうかを見極める力をつける必要があります。
 そこで、本教材では、生徒たちが議論を重ねてつくったルールについて、生徒たち自身がその合理性を吟味し、評価することを重視しています。自分たちのつくったルールを受け入れることができるかを問い直し、その妥当性を評価してみることによってはじめて、ルールに求められる要件は何かを、実感として理解することができると考えられるからです(⇒Q17~20参照)。

Q12 他の題材で授業を行う場合の留意点

Q  この教材で紹介されている題材以外のもので「ルールづくり」の授業を行いたいのですが、題材を選ぶ際に、どのような点に留意すればよいでしょうか。

 ⇒ 『報告書』43ページ(第1、2「ルールづくり」に関する学習指導要領や教科書の記述)

A  「ルールづくり」の授業は、法やルールは身近なものであるということに生徒が気付くことを出発点としています(⇒Q4参照)。したがって、ルールづくりの題材としては、生徒が日常生活の中で出会うルールを取り上げることが望まれます。例えば、生徒会の規則、ゲームやスポーツのルールなどが考えられます。これらのルールがなぜ生まれたのか、なぜみんなが受け入れるのかを考えたり、自分たちであればどのようなルールをつくるかを考えさせ、実際につくったルールを評価させるなどの授業が考えられます。

ごみ収集に関するルールをつくろう(第1プラン)
1 第一時

Q13 事前学習(ごみ出し報告)の意義

Q  事前学習(ごみ出し報告)の意義は何ですか。

 ⇒ 『報告書』48ページ(第3、1、(1)第一時「ごみ収集に関するルールをつくろう」)

A  法教育は、自由で公正な社会を支える担い手として必要なものの考え方を、体験を通じて身に付けることを目指しています。ごみ収集のルールづくりを行うに際しても、身近な問題を切実なものとして認識し、その解決に真剣に取り組むことができれば、法やルールの大切さをより実感をもって理解することができるでしょう。ごみ出しの事前学習は、身近な問題について生徒が真剣に考えるきっかけになるものと考えられます。

Q14 役割演技で、他人の立場になりきらせるための工夫

Q  第一時の「まとめ」部分の役割演技において、生徒をその立場になりきらせるための工夫にはどのようなものがありますか。

 ⇒ 『報告書』48ページ(第3、1、(1)第一時「ごみ収集に関するルールをつくろう」)

A  ルールづくりに実際に取り組んだクラスでは、生徒は、役割演技で他人になりきり、その立場から様々な議論を行うことで、対話によって問題の解決を図る大切さや、他人の立場や考え方に理解を示しながらも、必要な主張を理性的に行うことの重要性を実感として理解できるようになることが報告されています。
 したがって、生徒が割り当てられた役割になりきることができるような工夫が求められます。例えば、三角柱などにそれぞれの立場(町内会役員等)を書いて、班ごとの机の上に置かせたり、板目紙などにその立場を書いて胸に付けさせたりすることも一案です。また、それぞれの利害が対立していますので、その点を強調することも必要かもしれません。
 なお、役割演技の得意な生徒と苦手な生徒がいると思われますが、役割演技が苦手な生徒にも、思い切って他人の立場になりきってみるよう助けていきたいものです。第二時の「導入・展開」部分の全体討論を活発に行うためにも、班ごとの話し合いの段階で、「あとで全員で討論するから、他の生徒に任せきりにしないように」と留意点を示しておくことも有効でしょう。

Q15 罰金や罰則を設けることのみに着目させない理由

Q  第一時の「まとめ」部分で、罰金や罰則を設けることのみに着目させないのはどうしてですか。

 ⇒ 『報告書』48ページ(第3、1、(1)第一時「こみ収集に関するルールをつくろう」)

A  生徒たちは、法やルールが人の行動を制約するという側面だけに注目しがちですが、こうした側面だけで考えると、ルールの典型は罰則であると考えられることになります。
 しかし、罰則は、それを受ける人にとってみれば害悪であり、個人の権利を侵害するものですから、紛争状況を解決するための最後の手段とすべきものです。また、仮に罰則を設けるとしても、必要最小限のものでなければなりません。したがって、罰則以外の手段にまず目を向けさせ、どのような手段がありうるかを考えることが先決です。それでも罰則を設けたいという場合には、他の方法と比較して合理性や実効性があるか、罰則を設けることによって弊害は生じないかについても考慮するように指導する必要があるでしょう。

2 第二時

Q16 役割演技後に、生徒個人で考えさせるための留意点

Q  第二時の「導入・展開」部分で、役割演技を終えた後、生徒各自で望ましい町内会規約を考えることとなっていますが、それまでの立場を離れて、生徒個人の考えに切り替えて考えさせるには、どのような点に留意して指導すればよいでしょうか。

 ⇒ 『報告書』49ページ(第3、1、(2)第二時「ごみ収集に関する町内会規約を制定しよう」)

A  第二時の「導入・展開」の部分では、生徒たちが、割り当てられた立場に立って町内会規約に関する話し合いを行った後、役割演技を終了して各自の考えをまとめていくこととされています。しかし、実際には、生徒が与えられた役になりきりすぎて、その立場を離れて客観的に考えをまとめることができなくなることもしばしばあるようです。
 実際にルールづくりに取り組んだクラスでは、その場合の有効な対策として、机の向きを変えることで考え方の切り替えを行わせているところもあるようです。役割演技時は、全員が内側を向いて話し合いを行いますが、生徒個人の考えを述べさせるときは、全員机の向きを前に向けさせることで、生徒は、頭の切り替えがしやすいようです。

3 第三時

Q17 「手段の相当性」の評価

Q  ルールを評価する項目に、「手段の相当性」というものがありますが、これは具体的にどのような視点から評価することを意味しているのですか。

 ⇒ 『報告書』49ページ(第3、1、(3)第三時「ごみ収集に関する町内会規約を評価しよう」)

A  問題状況を解決するという目的を実現するために、つくられたルールが適切な方法であるかどうかを考えてください。つまり、そのルールは、目的達成のために役立つかどうか、また、そのルールが問題を解決するために役立つものであるとしても、特定の人の権利や自由などを必要以上に制約しているかどうかという観点から、ルールを評価することが必要です。

Q18 「明確性」の評価

Q  ルールを評価する項目に、「明確性」というものがありますが、具体的にどのような視点から評価することを意味しているのですか。

A  そのルールは、客観的に眺めてみて、意味がはっきりと分かるか、いろいろな解釈ができないかという視点から考えてください。ルールが明確でないと、そのルールが何を意味しているのかをめぐって混乱が生じますし、争いごとの解決にも困難を生みます。そのようなことがないように、誰が見ても、はっきりと意味が分かるように表現することが必要です(⇒Q25、26参照)。

Q19 「平等性(公平さ)」の評価

Q  ルールを評価する項目に、「平等性(公正さ)」というものがありますが、具体的にどのような視点から評価することを意味しているのですか。

A  ここでいう平等性とは、みんながまったく同じ取り扱いを受けるべきだということではなく、立場が変わってもそのルールを受け入れられるということを意味しています。ルールは、公正でなければならず、一部の人に対してのみ不利益を与えるものであってはならないのですが、不利益を受けない立場にある人は、このことを忘れて、一部の人のみに不利なルールを設定しがちです。真に公正なルールをつくるためには、自分が他人の立場にあったとしても、そのルールを受け入れられるかどうかを考えてみることが必要です。

Q20 「手続の公平性」の評価

Q  ルールを評価する項目に、「手続の公平性」というものがありますが、具体的にどのような視点から評価することを意味しているのですか。

A  ルールづくりの過程にみんなが参加したかどうかという視点から考えてください。つまり、ルールをつくる過程に問題はないかを考えてみるということです。ルールは、その内容が合理的でなければならないことはもちろんですが、ルールをつくる過程も大切です。民主主義の社会では、ルールはみんなで話し合って決めることが大切です。特に、そのルールによって不利益を受ける立場にある人にとっては、反論をする機会を与えられていないのに、突然他の人たちから不利益を受け入れなさいといわれても、納得できないと思われますので、このような点にも気を付けてルールを評価することが必要です。

Q21 町内会規約の決定プロセスを発表させる理由

Q  第三時の「導入」部分において、町内会役員班からの発表の際、町内会規約の内容とその理由だけでなく、決定のプロセスまで発表させるのはなぜですか。

 ⇒ 『報告書』49ページ(第3、1、(3)第三時「ごみ収集に関する町内会規約を評価しよう」)

A  ルールづくりは、「みんなのことはみんなで決める」という民主主義の精神にのっとり、みんなにかかわる問題をみんなで解決しようとするものです。そのため、決定された内容や理由だけではなく、どのような過程を経てそのような結論に至ったのか、合意にいたるまでの方法が民主主義の観点から見てふさわしいものであったのかを、批判的に検討する機会を確保する必要があります。ルールを決定するに当たっては、必ずしも全員一致が得られるわけではなく、意見が分かれたままならば最終的に多数決を用いることになりますが、あくまでもみんなが意見を出し合い、それぞれが十分に主張をしたことが前提となります。ここで決定プロセスを発表させるのは、生徒がそれぞれ合理的な意見を持ち、生徒間の討論を経たうえで合意形成がなされたのかをみんなで確認できるようにするためです(⇒Q17~20参照)。

Q22 クラス討論後に、町内会規約案を考えさせるねらい

Q  第三時の「展開」部分において、クラス討論後、さらに、生徒一人ひとりに望ましい町内会規約案を考えさせるねらいは何ですか。

 ⇒ 『報告書』50ページ(第3、1、(3)第三時「ごみ収集に関する町内会規約を評価しよう」)

A  ルールづくりの授業のポイントは、みんなにかかわる問題をみんなで解決していくことを体験させることと、「みんなで解決する」ことの意味をきちんと確認させるところにあります。民主主義社会においては、意見がまとまらないときには最終的に多数決で決めることになりますが、多数決を重視しすぎると、多数者の中にいることが正しいことと錯覚し、自分の意見を捨てて多数についてしまうという弊害を生みかねません。少数者の意見も大事にし、それが正しいことだと後でわかったら、法やルールをつくり変えるのが、民主主義社会の本来の在り方です。
 本時では、クラス討論において、クラス内での多数意見が明らかになっていきますが、そこで授業を終了すると、生徒の中に「多数意見が正しいのだから、自分自身はそれ以上考える必要がない」という意識が芽生える可能性があります。そこで、さらに生徒一人ひとりに改めて規約案をつくらせることにより、クラス内での多数意見を踏まえながら、それに迎合することなく、自分自身はどのように考えるのかということを問い直させることをねらっています。
 また、生徒一人ひとりが、自分のつくったルールを評価してみることにより、多数意見であると少数意見であるとを問わず、自分自身の考えには問題がないか、ということをとらえ直すことが期待されます。

マンションのルールをつくろう(第2プラン)
Q23 「ごみ収集に関するルールをつくろう」との違い

Q  第2プラン「マンションのルールをつくろう」は、第1プラン「ごみ収集に関するルールをつくろう」とどのような違いがあるのですか。

 ⇒ 『報告書』45ページ(第2、4単元の指導計画)

A  「ごみ収集に関するルールをつくろう」では、事前学習でごみ出しの体験をしたのち、問題状況を提示し、その解決策を考えるという模擬体験を通して「ルールづくり」のねらい(⇒Q4~7参照)を達成していくという、体験に重点を置いた構成になっています。
 一方、この「マンションのルールをつくろう」では、体験型の授業を中心としながらも、まず初めに、ルールとは何か、ルールの機能や役割とは何かについて総論的な学習を行うなど、ごみ収集の場合に比べると、講義形式の授業にも比重を置いています。

Q24 「ごみ収集に関するルールをつくろう」と「マンションのルールをつくろう」の選択

Q  第1プラン「ごみ収集に関するルールをつくろう」と、第2プラン「マンションのルールをつくろう」では、どちらを選択するのがより望ましいでしょうか。

A  これらのうちどちらがいいということはありません。基本的には、いずれも体験型・思考型の授業を目指し、同様の視点からルールづくりに当たることとしています(したがって、2つの授業プランに共通する部分は多く、このQ&Aにおいても、基本的に「ごみ収集に関するルールをつくろう」の部分を見れば「マンションのルールをつくろう」の方に応用できます)。
 要は、最初に総論的な学習をするか否かが最も大きな相違点であり、教師としてどちらが教えやすいと考えるか、生徒たちにとってどちらがルールの意義を理解しやすいか、授業時間に余裕があるかなど、そのときどきの状況に合わせて使い分けるとよいでしょう。

1 第一時

Q25 ルールの秩序維持機能を説明する工夫

Q  ルールの秩序維持機能を分かりやすく説明する工夫には、どのようなものがありますか。

 ⇒ 『報告書』61ページ(第3、2、(1)第一時「ルールの機能と望ましいルールの要件は何か」)

A  秩序維持機能とは、ルールがあることによって、人々がルールを守り、秩序が保たれて、安全に暮らしていけるようになるということです。例えば、車で道路を通行する場合に、右側と左側のいずれを通行するかのルールがなかったとしたら、右側を通る車と左側を通る車とがバラバラになるため、混乱を引き起こします。これに対して、車の左側通行のルールをあらかじめ決めておくと、人々は、車で道路の左側を通行するようになり、混乱も生じにくくなります。このように、ルールが決まっていることによって混乱を避け、秩序を守ることができるようになります。

Q26 ルールの紛争解決機能を説明する工夫

Q  ルールの紛争解決機能を分かりやすく説明する工夫には、どのようなものがありますか。

A  紛争解決機能とは、紛争が生じた場合に、その紛争にルールが適用されて解決を図ることができるということです。Q25の例でいえば、右側を通行するか左側を通行するかのルールがなかったとして、そのために道路で正面衝突の事故が起こった場合、どちらに責任があるのかをめぐって争いが起きます。このとき、ルールがなければ、どちらに非があるのかが不明確になり、なかなか解決することができません。これに対して、左側通行のルールがあればどちらに責任があるのかを容易に判断することができますから、争いの解決も図りやすくなります。

2 第二時

Q27 ワークシート2を用いて話し合いをさせるねらい

Q  第二時の「展開」部分で、ワークシート2を用いて話し合いをさせることとなっていますが、どのようなことをねらいとしているのですか。

A  役割演技を取り入れた法教育の授業では、生徒たちが、割り当てられた役割を正確に把握した上で、その立場になりきることが重要です。
 人の立場は、その人が置かれた状況や、その人の持つ感情や欲求など、様々な要因によって決定されますが、他人の立場になりきって理性的で意味のある議論を行うためには、(1)その人を取り巻く現在の客観的な状況と、その人の望む理想の状況との違いを理解した上で、(2)その人が自己の希望する状況を実現するために他者を説得する際には、どのような主張をしなければならないかを考える必要があります。ワークシート2は、このような点について意識的にトレーニングができるように工夫されたものです。
 役割演技においてこのようなトレーニングをするねらいは、実生活において他人との間でもめごとや紛争が生じた場合に、生徒が、自分と相手の立場を冷静に把握した上で、相手を説得するためにはどのようなことを主張すべきかを考える能力を自然に身に付け、合理的に立場の違いを調整することができるようにすることにあります。

Q28 解決策(ルール)がいく通りもあることの意識付け

Q  第二時の「まとめ」部分で、「解決策(ルール)はいく通りもあることを意識付けるようにする。」とありますが、どういう意味ですか。

A  実社会においては、正解が存在しない状況も決して少なくありません。「ルールづくり」の単元は、正解のない問題について、他人の立場を理解しつつ自分の意見をきちんと主張する、という理性的な議論を通じて、みんなで知恵を絞りながら、問題状況の解決に向けた様々な選択肢の中から最も妥当な選択を行う体験をすることによって、実社会を生きる力を育もうとするものです(⇒Q10参照)。
 本単元で扱うマンションでのペット飼育に関しても、正解はありません。しかし、マンションの住人それぞれの立場から見て主張すべき解決方法は存在し、そうした解決方法は、立場に応じて千差万別です。このように、各住人間で異なる意見を、それぞれが納得できるように調整していくのが、第三時以降の授業の流れです。

3 第三時

Q29 「受忍限度」の意味

Q  第三時の「導入・展開」部分にある「受忍限度」とはどういうことですか。

 ⇒ 『報告書』63ページ(第3、2、(3)第三時「ルールについて討論しよう」)

A  受忍限度とは、日常生活において、ここまでは通常我慢できるだろうという限度のことをいいます。
 日常生活において、ある程度の騒音や悪臭が生ずることはやむを得ません。騒音・悪臭の問題は、結局のところ、日常生活において通常生じるような音やにおいの範囲を超えて、他人が我慢できないような程度にまで達しているかどうかが重要です。
 たとえば、深夜の時間帯に、犬の吠える声があまりに大きいということであれば、我慢できない程度に達している、すなわち受忍限度を超えているということになりやすいでしょう。これに対して、昼の時間帯に、それほど吠える声が大きくないということならば、受忍限度を超えていないということになるでしょう。