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平成12年改正少年法に関する意見交換会(第2回)議事録

第1  日時

平成18年10月30日(月)午後1時27分から午後4時13分

第2  場所

法務省小会議室

第3  出席者(敬称略,五十音順)

甲斐 行夫(法務省刑事局刑事課長)
川出 敏裕(東京大学教授)
河原 俊也(最高裁判所家庭局第二課長)
久木元 伸(法務省刑事局参事官)
佐伯 仁志(東京大学教授)
武 るり子(少年犯罪被害当事者の会・代表)
武内 大徳(弁護士)
松尾 浩也(法務省特別顧問)
松村  徹(最高裁判所家庭局第一課長)
三浦  守(法務省大臣官房審議官)
望月 廣子((社)被害者支援都民センター・相談支援室長)
安永 健次(法務省刑事局付)
山崎 健一(弁護士)

第4  配付資料

第5  議題

日本弁護士連合会からの意見表明

第6 議事

● 甲斐 それでは,予定の時刻になりましたので,2回目の意見交換会を開催いたしたいと思います。
 最初に,前回の意見交換会で御質問が幾つかございまして,最高裁で検討しますということになっていた事項が何点かございました。本日は,まず,それらの点について,最高裁の方から御説明をいただきたいと思います。
 よろしくお願いします。
● 河原 それでは,前回,御質問のありました点について,私から御説明したいと思います。
 まず,川出先生から2点御質問がありました。1点目は,原則逆送対象事件に該当する危険運転致死罪は29件ございますけれども,このうち2件が保護処分となっているが,これはどういう事案であったかという御質問でございました。この2件につきまして御説明いたします。
 まず1件は,普通乗用自動車を運転しているときに,弓形に曲がった道路で指定制限速度を約60キロオーバーする時速約110キロで走行して,走行制御を失って歩道上の歩行者1名と衝突して死亡させたという事案でございます。もう1件は,普通乗用自動車を運転中,赤信号を無視して,時速約55キロで交差点に進入し,青信号に従って交差点に進入してきた車両に自車を衝突させ,同乗者1名を死亡させたほか,他の同乗者2名及び相手方車両の運転者1名に傷害を負わせるなどしたといったものでございます。いずれも平成14年の事案でございます。
 次に,もう1点,川出先生から御質問のあった点でございます。原則逆送対象事件で,検察官送致されました事件で,少年法55条によりまして地裁から家裁に移送されたものについて,移送された理由はどのようなものであるかという御質問でございます。これにつきましては,大きくは検察官送致決定の後に事情がいろいろと変化した事案が多いということが言えようかと思います。
 具体的に申しますと,被害者との間で示談が成立して被害感情が和らいだといったものなどがございます。あるいは,刑事手続を少年が経験したことなどによりまして,非行の重大性を認識して内省を深めたといったものなどもございます。こういった検察官送致決定後に事情がいろいろと変化した事案が多いようでございます。また,共犯事件につきましては,少年の関与の程度が他の共犯者と比べて主導的あるいは中心的なものでないといったことなどを移送の理由とするものも見受けられます。
 さらに,検察官関与制度に関連いたしまして,松尾先生から御質問がございました。審判手続において証人尋問を行う例がどの程度あるかといった御質問でございました。これにつきまして数を調べましたので,御説明申し上げます。
 交通関係事件などを除きました一般事件で終局処分のあった人員のうち,証人尋問があった数でございますが,平成15年で156件,平成16年で199件,平成17年で223件ということになっておりまして,全事件の0.2%から0.3%程度となっております。
 ちなみに,家庭裁判所における審判手続の中で,証人尋問や鑑定,あるいは,検証が行われた数につきまして,平成12年改正の前後で比較してみました。法改正前の5年間,平成8年から平成12年ということになりますが,この5年間では687件ございました。これに対しまして,法改正がありました平成13年から平成17年の5年間で見てみますと987件となっております。687件が987件になったということでございます。また,改正法施行後5年間で検察官関与決定がされたものが97件あるということでございますが,この97件中60件で証人尋問が行われております。また,9件では鑑定または検証が行われております。
 数字は以上のようなことになっております。
 なお,これは必ずしも質問ということではなかったのかもしれませんけれども,前回の意見交換会で武さんが御紹介されました事案につきまして,当方でも調査してみたところ,該当すると思われるものがございました。個別の事案になりますので,詳細について説明することは差し控えさせていただきたいと思いますが,簡単に御紹介させていただきますと,児童自立支援施設に入所中の少年4名が施設から逃走するなどの目的で,当直勤務中の職員,34歳だったそうですが,この方を殺害した上,現金及び鍵束を奪ったという事案でございます。
 少年4名のうち,行為当時14歳又は15歳の少年3名につきましては,収容期間5年を超える長期の処遇勧告が付された少年院送致とされており,また,行為当時12歳の少年につきましては,強制的措置の許可が付された児童自立支援施設送致となっております。これらの少年が逆送されなかったのは少年の年齢などが考慮されたようでございます。
 以上でございます。
● 甲斐 今の御説明に関しまして,追加で何か御質問あるいは御意見等ございましたら,どうぞお願いします。
● 川出 最初の危険運転致死事件で保護処分とされた事件について,事案がどういうものであったかというのは分かりましたが,その上で家庭裁判所が保護処分にした具体的な理由はお分かりになりますでしょうか。
● 河原 詳細については申し上げることはできないのですけれども,少年の年齢が16歳に近いこと等々が考慮されたのではないかと推察しております。
● 佐伯 今の件ですけれども,2件とも平成14年ということでしたが,その後はないということでしょうか。
● 河原 はい。
● 佐伯 最近,危険運転致死罪の量刑は上昇傾向にあるように思うのですけれども,そういう影響も,つまり14年だったから逆送とならなかったというようなことも,個別の事例について伺うのは難しいと思いますが,考えられるのでしょうか。
● 河原 事案として,平成14年に2件あったきりでございます。
● 甲斐 確かに危険運転致死罪は最近量刑が重くなっているかもしれません。危険運転致死罪ができたのが平成13年ですから,できた当初と今とでは現実的に全く同じかと言われると,ちょっと違うかもしれません。それから,先ほどお聞きしたとおり,2件中1件は同乗者が亡くなったという事件で,いわゆるどこかに突っ込んだというのとはちょっと違う類型のようです。
 ほかに何か御質問等ございますでしょうか。
 よろしゅうございますか。それでは,本日予定しております,弁護士の先生方からの御意見をお聞かせいただきたいと思います。お二人いらっしゃって,それぞれの立場からの御意見があるとお聞きしておりますので,順次お願いします。
● 山崎 初めに山崎から意見を述べさせていただきます。今日お配りした資料といたしましては,「見直しにあたっての意見」というレジュメがございますけれども,これが本日私が述べる項目であります。
 残りの3点につきましては,既に日弁連が発表しています「改正少年法・5年後見直しに関する意見書」の要旨と本文,それから別冊というつくりになっております。主に国会の附帯決議で示された検討事項を中心にした意見を本体にまとめてありまして,その他意見書の背景とした考え方,その他の部分については別冊に詳しく述べたという形になっております。別冊の最後の方,44ページ以下に,日弁連が改正後の運用実態を調査いたしまして,その結果を掲載しておりますので,適宜御参照ください。
 まず,5年後見直しに当たっては3つの視点から考えるべきだろうと思っております。
 第1点は法改正の立法事実の検証であります。2000年の法改正は,少年審判の事実認定手続に関する議論が続く中,神戸での連続児童殺傷事件や佐賀でのバスジャック事件などの発生を受けて,議員提案によって検察官送致年齢の引下げや,いわゆる原則逆送規定などの内容が加えられて,立法化に至ったという経緯があります。このような「処分等の在り方の見直し」に関する規定については,法制審議会における議論の機会が確保されておらず,国会での議論も十分に尽くされたとは言えません。少年非行の実情や少年に対する矯正処遇の現状などに関する実証的な検討はほとんどなされておらず,改正法がもたらす効果・影響や,少年法の保護主義の理念との整合性などに関する議論も,極めて不十分であったと言わざるを得ないと考えております。
 改正法の見直しに当たっては,法改正の立法事実を再検証する観点から,我が国の少年非行の動向や,少年らが非行に及ぶ原因などを正確に把握・分析するとともに,法改正がもたらした影響・効果についても実証的な検証を行い,あるべき少年法制について十分な検討を尽くす必要があると考えています。
 まず,第1に,今回の法改正で問題となりました少年非行の動向に関する認識であります。今回の法改正では,我が国の少年非行が増加・凶悪化しており,これに対する対応が早急に必要であるとされました。この法改正を支えた少年非行動向に関する認識が果たして正しかったのか検証する必要があろうと思われます。
 この点,少年刑法犯の検挙人員について,ここ約10年間の推移を見ますと,平成8年からの増加は平成11年以降減少に転じ,13年から15年までは若干増加したものの,平成16年には再び減少に転じています。これを中長期的に見れば,少年非行は,昭和58年にいわゆる第三の波のピークを迎えた後,その後一貫して減少を続け,平成7年からはほぼ横ばいの水準といっていい状況にあると思います。少年人口比の上昇は成人を含めた刑法犯全体の増加といわば連動したものであって,少年に特有の問題ではありませんし,少年非行の低年齢化にも歯止めがかかった状況にあると言ってよいと思われます。
 また,殺人,強盗,放火など凶悪犯の検挙件数も,平成9年以降増減を繰り返したものの,平成16年には前年比で28.2%もの大幅な減少となっています。さらに,家庭裁判所における少年保護事件の新受人員を見ても,平成10年以降ほぼ横ばいで推移しており,平成16年は前年比で6.5%の減少となっています。このように,法改正の前提とされた我が国の少年非行の増加・凶悪化という状況は,事実としては認められないというべきであろうと考えます。
 第2に,少年非行の実情を把握するには,少年非行の原因,すなわち少年らがなぜ非行に及ぶのかといった点についての検証も極めて重要と考えます。特に,今回の「処分等の在り方の見直し」に関する法改正の背景には,「少年らは少年法が甘いから非行に及んでいる」,「非行の原因は少年らの規範意識の欠如にある」といった認識が存在しました。このような認識が果たして正しかったのかどうか検証する必要があります。
 この点,日弁連では,重大少年事件の個別事例を分析するとともに,非行少年や高校生に対するアンケート調査を実施して,実証的な検討を行いました。その結果,重要事件を犯した少年の問題性は深刻で,非行の背景事情は複雑であり,特に被虐待経験を持つ少年が多いこと,犯罪を犯した少年の多くが幼児期から成長過程において人格を尊重されず,自分は認められているという実感を持つことができなかったことなどが明らかになっています。
 また,最高裁判所の家庭裁判所調査官研修所も,少年による重大事件について,調査官,裁判官などによる実証的な研究を行っています。そこでも,少年の重大事件については,家族関係,友人関係,学校との関係などの様々な要因を考えていくべきであり,そのような少年を施設に収容した場合,根気強くきめの細かい情緒の交流を図ることで,少年の未発達な情緒を育てながら内省を深めさせることが重要であるとされています。
 さらに,法務総合研究所も,全国の少年院に在籍する少年を対象にしたアンケート調査を行い,非行との関連性について考察しています。そこでは,少年院在院者には,家族及びそれ以外の者から身体的暴力などの被害を受けた傾向が認められ,家族からの被害を受けた少年は神経質で被害感が強く,自信がなくて,抑うつ的である一方,怒りっぽかったり,支配欲求が強く,自己顕示的な性格特性を示す傾向があるとされています。
 加えて,近時,長崎市の少年による児童殺傷事件,大阪府寝屋川市の17歳少年による教師殺傷事件,奈良県の男子高校生による自宅放火殺人事件など,非行の結果が極めて重大であるにもかかわらず,非行に至った動機などが一見不可解な事件が発生しており,それら事件を起した少年にアスペルガー症候群などの発達障害の存在が指摘されています。これら発達上の障害が必ずしも非行と直接的に結びつくわけではありませんが,重大な非行に及んだ少年に見られる一つの特徴として,今後も軽視できない問題があると考えます。
 以上に述べたとおり,我が国の今日における少年非行の動向は,およそ増加・凶悪化しているという状況にはなく,少年非行の原因も家庭環境や対人関係などの様々な要因に求められる場合がほとんどであって,非行を犯す少年たちは決して少年法が甘いから非行に及ぶのではありません。少年らは被害や虐待の体験や発達上の障害などから自尊感情が持てず,他人への共感ができないといった原因などにより,規範を内在化することができなかったり,自身の行動を抑制できなかったりしているのであり,克服すべき内面的な問題を抱えているのです。
 このような少年非行の動向や原因,非行に及ぶ少年らの実像に照らしたとき,今日,対応策として必要なのは,刑罰によって少年を威嚇したり,非行を犯した少年に対して長期にわたる懲役刑,刑務作業を科すなどの,いわゆる厳罰化の施策でないことは明らかだろうと思います。求められるのは,非行に至った少年の内面に働きかけ,その問題性を克服させるとともに,家族関係など少年を取り巻く環境を調整し,非行を犯した少年に円滑に社会へ適応させるための施策にほかなりません。
 平成17年度の『犯罪白書』では,重大事犯少年を集団型,家族型などに分類し,タイプによって少年の特色に差異があるとの分析がなされています。そのような少年個別の問題性に応じたきめ細かい対応,施策こそが必要とされていると考えます。とりわけ,精神的な問題を抱え,あるいは,発達上の障害を持つ少年に対しては,処遇における個別的な対応により,その更生と再犯の防止を図る必要性が高いと思われます。
 しかるに,2000年の法改正は,重大事件の発生に対して,少年らが少年法が甘いから非行に及んでいるという認識の下,処罰を明示することで,自覚と自制を求めるという方向での誤った対処をしてしまったものというほかありません。その結果,後に詳しく述べるとおり,少年審判においては,少年の問題性よりも,非行の結果を重視する傾向を生み出し,重大事件において長期間の刑罰を受ける少年の増加をもたらしています。改正法の見直しに当たっては,法改正の前提認識と対処方法に誤りがあったという認識に立ち,その問題点を是正していく必要があるものと考えます。
 次に,先に述べたような我が国の少年非行の実情を前提としたとき,その対応策を検討する上で,保護主義に基づく少年司法手続と少年院における処遇についてどのように評価すべきか問題となります。少年法は,その目的に少年の健全な育成を掲げ,保護主義をその基本理念としています。そこでは,非行を少年の成長過程で生ずる歪みととらえ,少年が自らの抱える問題を克服し,成長し得る力と可塑性に依拠しつつ,権利の剥奪ないし制限そのものを本質とする刑罰をできるだけ回避し,教育的な措置を講じてその問題性の解決を援助し,調和のとれた成長を確保するという方策をとっています。これによって少年の更生と再犯の防止が図られ,その結果として新たな犯罪被害が防止され,社会の安全をも確保されることになるのだと考えます。
 このような保護主義の理念に基づく少年司法手続には,刑事裁判手続とは異なる特徴が存在します。刑事裁判においては,事案の真相究明と刑罰法令の適用が目的とされて,対審構造の公開審理が原則とされています。そこでは,公益の代表者としての検察官と被告人の利益を守る弁護人とが明確に形式化された立場で対峙し,犯罪事実等に関する攻撃防御を尽くすことになります。
 これに対し,少年の健全な育成を目的とする少年審判手続では,非行事実自体はもちろんのこと,非行に至った動機,背景,少年の家庭内の事情,本人の生育歴,性格的な問題点などを正確に把握し,これに対処することが必要となるため,秘密主義,手続の非公開,個別審理といった原則が採用されています。さらに,少年鑑別所における心身鑑別,心理学や教育学の専門家である調査官制度など,専門的な資質を有する関係者による科学的な調査が活用されるとともに,教育的配慮に基づくことが求められており,審判の方式も要式性や対立構造を廃し,柔軟な対応を可能とする職権主義的な審問構造が採用されています。
 また,可塑性に富む少年に対し有効・適切な処遇を施すには,時宜を得た迅速な処遇が必要であるとの立場から,観護措置による身体拘束期間も原則として4週間が上限とされるなど,迅速な審理が予定されています。非行を犯した少年は短期間の間に,鑑別所の技官や観護職員,家庭裁判所の調査官,さらには付添人といった審判関係者との面接を重ね,様々な課題を与えられながら,その内面をゆさぶられたり内省を促されるなど集中的な働きかけをされます。そして,その経過を踏まえた上で最終的な審判期日において,裁判所から資質鑑別や社会調査の結果に基づく決定を受けることになります。
 また,保護主義の理念のもとでは,少年に対する処遇も,刑務作業の強制などの刑罰ではなく,少年院における矯正教育などの保護処分が原則とされています。刑罰の執行機関である刑務所は,少年刑務所であっても,収容者のほとんどが成人の受刑者であり,収容者の生活時間の大部分は刑務作業に当てられています。収容人員に対する職員数は少なく,その職務は受刑者の管理に主眼が置かれています。
 これに対し,少年らが収容されている少年院は,収容人員が100人前後と小規模であり,収容者数に対する職員数の割合も高くなっています。このため,職員が少年の個性や心情を把握することが容易であり,収容者一人ひとりに気を配った,個別的で密度の高い教育を行うことが可能な体制がとられています。少年院においては,少年が非行に至った原因を除去するために徹底した教育が行われ,さらに,社会復帰の段階では,犯罪を犯さず更生の道を歩めるよう,一定の援助が行われています。
 近時,非行の結果が極めて重大な事件において,少年の精神面に重篤な問題がある場合が見られ,そのような少年に対する処遇の在り方が重大な関心事になっています。神戸の児童連続殺傷事件では,精神鑑定で少年の性的サディズムが指摘されましたが,少年が収容された関東医療少年院では特別のチームを組んだ処遇が効果を上げ,少年が無事に社会復帰を果たしたとされています。少年が内面に抱える重大な問題点に対処し,円滑な社会復帰と再犯の防止を図る上で,必要な処遇を行うためには,医療・心理・教育などの専門的なスタッフを十分に配置した特別な体制を組む必要があります。
 そのような対応は,精神科医が複数常駐し,精神に問題を抱えた少年の処遇にも十分対応できるスタッフを抱える医療少年院だからこそ可能なのであり,収容者に刑務作業を課すことを目的とし,職員数も極めて限られている少年刑務所では到底不可能だと考えます。法改正を受け,一部の少年刑務所では少年院の処遇をモデルにしつつ,個別担任制の導入や,個別処遇計画の作成などの「処遇の個別化」あるいは「処遇内容の多様化」が図られていますが,そもそもの施設の目的や人的・物的資源からくる限界は極めて大きく,少年院における処遇とはなお隔たりがあるものと言わざるを得ません。
 以上のような少年審判手続と少年院における処遇は,少年が内面に抱える問題性を除去し,その更生と再犯の防止を図る上で有効に機能していると考えます。平成17年版犯罪白書によれば,刑務所を出所した成人受刑者が出所後5年間に再入所した割合は全体で50%であるのに対し,少年院出院者が出院後5年間に再入院した割合はおおむね15~16%程度とされています。単純な比較は無理だとしても,少年院の処遇が少年の更生にとって相当程度有効であり,刑務所に比しても処遇効果が大きいということが言えると思います。
 少年の処遇に対しては甘いとの批判がなされることもありますが,その処遇は少年の性格を矯正するため,内面に対して徹底的に働きかけるものであり,少年からすれば,朝起きてから床につくまでひたすら自分の問題点と向き合わされ,自己の内面に深く踏み込まれながら,性格の矯正を図るための様々な働きかけを受けなければならないのであって,決して甘い処分ではないと考えます。人格が未成熟で可塑性に富む少年に対して,徹底的な矯正教育を施して,円滑に社会復帰させることこそが,少年の更生と再犯の防止につながり,ひいては安全な社会と新たな犯罪被害の防止を実現することにもつながるものと考えます。
 さらに,第3の視点としては,国際準則への適合性という視点が重要と考えます。改正法の見直しにおいては,その内容が憲法や子どもの権利条約の内容等に適合したものであるか否かについても,十分な検討がなされなければなりません。この点,日本の少年司法に対しては,1998年に国連子どもの権利委員会が実施した子どもの権利条約の実施状況に関する審査において,北京ルールズやリヤド・ガイドライン等々の国連準則に基づいた見直しを行うよう,勧告がなされておりました。
 その後,2000年の少年法改正が行われたわけですが,2004年に出された同委員会の最終見解では,少年法改正の多く,特に刑事処分可能年齢の引き下げ,観護措置期間の延長が,国際準則の原則等に基づくものではないことに懸念が表明され,あわせて成人として刑事裁判を受け,拘禁刑を言い渡される少年が増加しており,少年が無期懲役刑を言い渡される可能性があることについても懸念が表明されています。
 そして,我が国に対して,北京ルールズ,リヤド・ガイドラインの全面的実施,少年に対する無期懲役の廃止,審判前の身体拘束に替わる措置の利用強化・増加,16歳以上の少年が成人の刑事裁判所へ移送できる可能性が存在することについて,実務廃止の観点からの見直し,すべての法的手段を通じての法的援助の提供といった点が勧告されています。改正法の見直しに当たっては,これら国連子どもの権利委員会が懸念するところに留意しながら,見直しを求められた勧告に対しては早急に対応を図る必要があるものと考えます。
 以上の基本的な視点に基づきまして,日弁連が実施した改正法の運用実態についての調査結果等を踏まえながら,国会での附帯決議で示された主な検討項目を中心に見直しの意見を以下述べたいと思います。
 まず,いわゆる処分等の在り方の見直しに関する項目であります。
 まず,検察官送致可能年齢の引下げについて,改正法施行後の5年間で5名の15歳少年が検察官送致決定を受けたとされていますが,16歳未満の少年は,中学校に在籍中もしくは卒業間もない少年であり,精神的・社会的にも極めて未熟であることは言うまでもありません。そのような少年に成人と同様の刑事裁判を受けさせ,数年以上という長期間の懲役刑に服させるべき事案が本当に存在するのか,極めて疑問であります。
 検察官送致決定を受けた事例のうち,強盗強姦等保護事件では,検察官と少年鑑別所がいずれも少年院送致相当の意見を述べていましたが,担当調査官は少年の生育過程での問題点などにつき十分な調査を尽くすことなく,「被害者を思えばひとえに少年が更生すればそれでよしというものではない」などとして,刑事処分相当の意見を述べ,これを受けた裁判官も検察官送致決定を下しています。また,傷害致死保護事件では,裁判官が「君たちはリサイクルできない産業廃棄物以下だ」などと発言したことが社会的にも問題となり,その後,同事件で検察官に送致された少年全員について,家庭裁判所に移送される結果となっております。
 これら2つの事案は,いずれも重大な結果をもたらした事件ではあるものの,それでもなお法改正の立法事実とされた神戸の連続児童殺傷事件や大分での隣人殺傷事件などとは,その重大性において明らかに異なります。これらの事件で15歳の少年を検察官送致とした決定には重大な問題があると言わざるを得ません。
 実際に検察官送致された15歳の少年は,起訴後の刑事裁判において,傍聴者が多数詰めかけた公開法廷に終始怯えた様子であり,極度の恐怖・緊張の余り,顔を上げることすら容易にはできず,被害の重大さも重くのしかかり,質問に対する答えも傍聴席からは聞き取れないほど小さくか細い声であったと報告されています。被告人質問では,弁護人や検察官から何を聞かれても「はい」と答えてしまうという場面もあったということであり,年少少年には刑事裁判手続に対応する能力が十分ではないことを示していると思われます。
 そもそも低年齢で重大な事件を犯す少年は,それだけ内面に深刻な問題を抱えている場合がほとんどであります。そのような少年には処遇面でもその内面の問題性に対応した十分な手当が必要なはずであって,少年に刑罰を科すことによって問題性は解決されません。
 以上からすれば,16歳未満の少年を検察官に送致することは認めるべきでなく,旧法20条のただし書を復活させるべきものと考えます。
 先に指摘した国連子どもの権利委員会も,刑事訴追の最低年齢が16歳から14歳に引き下げられたことが,子どもの権利条約並びに少年司法に関する国際準則の原則及び条項の精神に基づくものではないとして,懸念を表明しています。さらに,16歳以上の少年を成人の刑事裁判所へ移送することについて,実務の廃止の観点から見直すことを求める旨を勧告しています。この勧告の趣旨は,16歳未満の少年に対する検察官送致についても,当然に妥当するものと解され,検察官送致年齢の引き下げについては早急な見直しが迫られています。
 次に,法20条2項による検察官送致,いわゆる「原則逆送」についてであります。
 少年法の基本的立場は,非行を犯した少年の問題性,保護の必要性に着目し,その更生を図る見地から,可能な限り刑罰ではなく教育を施すところにあります。しかるに,法20条2項は,非行の結果という客観面の重大さに着目して,検察官送致決定をいわば原則化するものであり,そもそも少年法の理念との整合性に重大な問題があります。そして,改正法施行後に検察官送致率は急激に上昇しており,特に傷害致死事件において検察官送致率の上昇が顕著であることは,傷害致死罪が殺害の故意が認められない結果的加重犯であることからすると,極めて問題であると考えます。実際にも,法20条2項が設けられたことによって,資質鑑別や社会調査に大きな影響があらわれています。
 まず,少年鑑別所による鑑別結果通知書において,非行歴が全くない少年についても,「ただし書の例外に当たるほどの資質の偏りは見られない」という理由で,刑事処分を相当とする処遇意見が述べられた。また,被害者に軟禁されていた少女に,行為時の乖離状態を認め,精神的な問題があったことを指摘しながら,「少年に大きな非行歴はなく,社会生活上大きな問題もなかったから,特に教育の必要はなく,刑事責任を果たすために逆送すべきである」の意見が出されるなどしています。
 また,家庭裁判所における社会調査においても,結果の重大性が重視され,結局は検察官送致になるのだからという,調査官がいわば思考停止をしてしまい,少年の問題性や保護の必要性を掘り下げて検討しないまま,安易に刑事処分相当の意見を書くという危険な兆候が見受けられます。そして,審判の結果としても,少年の問題性よりも,非行の外形的事実のみを重視した検察官送致決定が増加しているという印象があります。
 2項のただし書が適用とされるのは,精神疾患が疑われるなどの要保護性の高い少年に限られ,逆に非行歴もなく,従来であれば保護の必要性もさほど高くないとして,短期間の保護処分が相当とされていたような少年ほど,「資質に特段の問題はない」という理由で検察官に送致され,長期にわたる刑罰を科されることになるという,極めて不合理な現象が生じてしまっております。
 なお,2項のただし書が適用されて,少年院送致決定が下されるときには,ほとんどの場合,相当長期の処遇勧告が付されており,中には,先ほどもありましたが,5年以上との処遇勧告が付された例もあります。これは,被害結果の重大性や社会的影響性などを考慮し,検察官送致となった場合とのバランスをも考慮しての判断と思われますけれども,結果として少年院での過剰収容や処遇期間の長期化による少年の意欲低下といった問題をも引き起しかねない状況にあります。
 本来,結果が重大な事件であればあるほど,少年の問題性に対する十分な検討が必要なはずですが,法20条2項はそのような事件において少年の要保護性を軽視する傾向をもたらしています。このことが,ひいては社会調査全体を形骸化させてしまい,科学主義に基づく家庭裁判所の機能低下を招く危険性が大きいのではないかと危惧します。また,検察官送致後の刑事手続及び刑事処分は,後に詳しく述べるとおり,少年にとって極めて苛酷なものとなっていますが,少年の問題性を克服する手当としてはおよそ不十分なものであると言わざるを得ません。
 これらをいわば原則化する法20条2項は,少年の更生と再犯の防止にとっても有効とは言い難く,新たな犯罪被害防止と社会安全の維持という観点からも,問題を生じかねません。よって,法20条の第2項は削除すべきであると考えます。
 国連子どもの権利委員会も,成人として刑事裁判を受け拘禁刑を言い渡される少年の数が増加していることに懸念を表明するとともに,16歳以上の子どもに対する事件を家庭裁判所が成人の刑事裁判所へ移送できる可能性が存在する点について,その実務廃止の観点から見直すことを勧告しており,早急な見直しが迫られています。
 少なくとも法20条2項は,保護主義をうたった法1条と整合的に理解するためには,刑事処分が不相当な場合に限って保護処分を認める趣旨の規定であると解すべきではなく,保護処分を選択する場合に家裁へ説明責任を課したものなどと理解すべきであり,法20条2項のただし書はより広く適用されてしかるべきものであると考えます。
 次に,いわゆる事実認定手続の一層の適正化に関する項目であります。
 まず,検察官の審判関与及び検察官による抗告受理の申立てについて,少年審判には伝聞証拠排除法則が採用されておらず,捜査機関が送致する資料はすべて証拠とされる一方で,少年側には証人尋問請求権が認められていません。かかる少年審判に検察官が関与すれば,少年は成人以上に不利な立場に置かれ,えん罪の危険性が高まることは明らかであります。このように職権主義審判構造で伝聞法則等が採用されていない少年審判に検察官が関与することは,極めて問題があります。
 改正法の運用状況を見ると,検察官は,非行事実の認定に必要とは思われない事案であっても,事件の重大性や少年が審判で否認する可能性などを理由として,裁判所に対して審判への関与を申し出ており,ここに法の趣旨を逸脱した運用が見られます。他方,裁判所も,非行事実に争いがない場合や殺意の存否など,主観面にのみ争いがある場合にも検察官を関与させるなど,本当に検察官が審理に関与するまでの必要性があったかどうか,疑問の残る事例が少なくありません。そして,審判に関与した検察官の中には,審判廷で少年を厳しく糾弾して,十分な弁解をさせないという者もおり,検察官の関与が懇切かつ和やかな審判を求める法22条1項に反する状況を招くおそれがやはり否定できません。
 以上により,検察官の審判関与及びこれに関連する条項は,いずれも削除すべきであると考え,一事不再理効については検察官の審判関与とは無関係に,これを認める規定を設けるべきであると考えます。
 そもそも検察官関与の立法事実とされたのは,山形明倫中事件や草加事件などの重大否認事件でしたが,これらの事件については,法改正後に言い渡された民事事件の判決において,少年審判手続ではなくむしろ捜査の在り方にこそ問題があったことが明らかにされたものと言えます。非行事実を適正に認定するためには,検察官を審判に関与させるのではなくて,後に述べるとおり捜査の改革と,少年審判における適正手続の保障こそが重要であると考えます。
 次に,観護措置期間の特別更新についてです。
 少年審判で非行事実に争いがある事案であっても,そのほとんどは4週間で審理することが可能であり,そうでなくとも必要に応じて観護措置の取消によって対応できます。長期間の身体拘束は少年の精神面に悪影響を与えるとともに,少年の社会復帰を困難にするおそれが大きく,これらの点を軽視することはできません。国連子どもの権利委員会は,審判決定前の身体拘束が4週間から8週間に延長されたことは,子どもの権利条約及び少年司法に関する国際準則の原則・条項の精神に基づくものではないことに懸念を表明しています。そして,自由の剥奪が最後の手段としてのみ用いられることを確保するため,審判前の身体拘束を含めて,身体拘束に替わる措置の利用を強化し,増加させることを勧告しています。
 以上からすれば,法第17条4項のただし書は削除し,観護措置期間を最大8週間から4週間とすべきと考えます。
 次に,裁定合議制についてであります。
 少年審判での裁定合議制が採用されたことによって,立法趣旨である証拠の吟味における多角的視点が確保され,慎重な審理がなされたとの評価もなされています。検察官から審判関与の申出がなされた事案でも,その関与を認めず,合議体によって適正な審理がなされたという事例もあり,裁定合議制は,審判に検察官を関与させなくとも,より適正な事実認定を可能にするものとして,基本的には積極的に評価できます。
 よって,裁判所法31条の4第2項は維持すべきと考えますが,合議体を構成することにより,審判に関する日程調査が困難になるとともに,調査官や付添人との意見交換がされにくくなり,審判前のカンファレンスが形骸化しているとの批判もあります。また,狭い審判廷に関係者多数が在廷することとなり,少年に威圧感を与えかねないという問題点も指摘されています。裁定合議制の運用においては,裁判官を交えたカンファレンスでの意見交換を十分に行い,少年に対して威圧感を与えない審判運営を工夫するなど,適切な配慮が不可欠であると考えます。
 3番目に,いわゆる被害者への配慮の充実に関する項目であります。
 まず,事件記録の閲覧・謄写及び被害者等からの意見聴取などについてであります。事件記録の謄写・閲覧,被害者等からの意見聴取及び被害者に対する審判結果の通知に関しては,5年間の運用を見る限り,相当数の申出があり,例外的な場合を除いてすべて認められているようであります。
 少年の付添人という立場からは,被害者等からの意見聴取が審判結果に影響を与えており,特に被害者が重大な被害を受けた事案では,意見の聴取がなされたことによって被害結果の重大性や被害者感情が相当重視された決定が下されているという受け止めが広く見られます。また,被害者等からの意見陳述が行われたことにより,少年の内省がより深まったとする意見もありました。また,意見の聴取とは別に,調査官の社会調査の一環として被害者に対する調査が実施される事例が相当増加しているという印象があります。
 これらの制度が適切に運用されることによって,被害者からの要請に応えるとともに,少年の更生にも資することが期待できるものと考えます。ただ,制度の存在を知らない被害者等もなお少なくないと思われ,制度の周知がより一層図られる必要があります。そして,被害者が制度を利用する機会を逸しないためには,手続の進行状況を知る必要があり,そのためには被疑少年の送致先家庭裁判所及び送致年月日などを被害者に通知する制度について法律で明定されてしかるべきと考えます。
 他方,家庭裁判所の現在の限られた人員と設備では,被害者等からの記録閲覧,謄写申請や意見聴取の申出などに対し,迅速かつ適切に対処することは極めて困難であります。被害者からの要請に応えつつ,十分な社会調査を実施して,適切な少年審判を実現するためには,少年審判に関わる書記官,調査官の増員が必要不可欠であり,またスペースの確保や謄写機材の充実などの物的設備の整備も必要と考えます。
 次に,その他被害者の保護についてであります。従来の我が国における犯罪被害者への援助等が極めて不十分であり,今後一層の取組が求められるべきであることは当然であります。少年犯罪被害者に関する重要な課題は,被害者の損害を回復して,経済的な支援をするとともに,被害者の精神的あるいは身体的被害を回復し,さらなる被害を防止するための取組であろうと思われます。
 具体的には,従来の恩恵的な犯罪被害給付制度ではなく,犯罪被害者等に補償を受ける権利があることを明確にした犯罪被害補償制度を新たに制定し,補償請求手続の簡易迅速化や支給額の改善を図ること,精神的・肉体的被害に応じた適切な保健医療サービス及び福祉サービスの提供,被害者の安全を保護するための施策を講じることなどが必要であると考えます。
 さらに,被害者が上記のような施策による適切な保護を受けるとともに,加害少年の少年保護手続や刑事裁判手続に適切に関与するためには,法律専門家による弁護士の存在が不可欠です。したがって,公費による被害者支援弁護士制度について,積極的に導入する方向で検討すべきであると考えます。
 次に,被害者等の審判傍聴についてであります。被害者に少年審判の傍聴を認めるべきかについて議論があり,犯罪被害者等基本計画においても,法務省においてその可否を含めて検討を行うものとされています。この問題を検討するに当たっては,少年事件の被害者が,加害者が成人である場合以上に,情報入手や手続への関与という点で困難な状況に置かれていることを踏まえ,それらを改善していく方向での議論が必要でありますが,他方において,少年の健全育成という保護主義の理念に基づく手続との兼ね合いで,なお慎重な検討が必要であろうと思われます。
 この点,少年審判における非公開原則は保護主義の本質的な要請であり,少年司法制度において中核をなす極めて重要な原則であると考えます。すなわち,審判手続は,少年が安心して自分のことについて話すことができるよう,和やかな雰囲気のもとで行われ,裁判官を始めとする関係者は,少年に非行に至った心情などを語らせ,被害者のことを考えさせるなどしながら,少年に自分の犯した罪を理解させ,その償いと更生のために何をすればよいのかを考えさせていきます。
 このような過程の中で少年が真に内省を深めていくためには,事件を振り返りながら,自分の問題点を見つめ直す作業が必要であり,そのためには少年の防衛機制を解いて,心を開かせ,内心を明らかにさせながら,じっくりと考えることができる手続でなければならないのであり,それを実現するには手続が非公開であることが極めて重要だと考えます。
 既に述べたとおり,非行に及ぶ少年は加害者であると同時に生育環境などによる被害者としての側面も有しています。少年はそのような被害者性をも含めその人格を受容されることにより,はじめて他者の人格を尊重する態度が生まれ,被害者に対する深い罪障感に達することができるものだと考えます。そのためにも審判は非公開,かつ,受容的な雰囲気のもとで行われる必要があります。
 また,審判手続は公開されないということにより,少年の生育歴や家族関係などのプライバシーに深くかかわる事実についても審判廷で明らかにすることが可能となり,裁判所はすべての事情を考慮して適切な処分を決することができることになります。もし被害者一般に審判の傍聴を認めた場合には,プライバシーにかかわる事柄が審判廷で明らかにされにくくなり,少年に対する適正な処分が行えなくなるおそれがあるとともに,少年も防衛機制を解くことができず,自らの非行について心を開いて供述することが困難になるおそれがあります。そうなれば少年の更生と健全育成という目的の達成は難しくなり,ひいては少年による再犯の可能性を高め,新たな犯罪被害を生み出しかねないおそれがあります。
 以上からすれば,被害者一般に少年審判の傍聴を認めることは反対であり,被害者等からの要求については記録の閲覧・謄写や意見の聴取など,改正法の規定を活用することによって実現を図るべきものと考えます。ただし,少年審判規則29条は「裁判長は,審判の席に,少年の親族,教員その他相当と認める者の在席を許すことができる」と定めています。裁判官が相当と考えたときには,この規定を適用することにより被害者等の在廷を認める場合があるものと解されます。
 その他の項目についてであります。
 公的付添人制度の在り方について,法改正により,検察官関与決定があったとき,付添人が付されていない少年には国選付添人が選任されることとなりましたが,検察官の関与を前提とする点で問題があり,少年の付添人選任権の保障としても極めて不十分であると言わざるを得ません。現在,一定範囲の事件で少年が観護措置決定により身体を拘束された場合に,家庭裁判所が職権で弁護士である付添人を選任できる旨を規定する案が検討されていますが,検察官の審判関与と関連させずに国選付添人を求める点で積極的に評価できますが,なお対象範囲が限定されているのが問題です。
 また,少年が釈放されても審判終局まで付添人選任の効力が失われないようにすべきであると考えます。本年10月2日から被疑者国選制度が開始され,平成21年にはその対象が必要的弁護事件で身体拘束された被疑者にまで拡大されることになります。このことからすれば,これに対応する範囲の事件については,早急に国選付添人を制度化する必要があるものと考えます。
 次に,矯正処遇の充実・改善等について,社会の耳目を集めるような重大事件について,事件を犯した少年の問題性を除去し,その更生と再犯防止を図るためには,例えば神戸児童連続殺傷事件の少年に対して行われたように,専門的スタッフが充実した少年院において特別の体制による処遇を行うことが必要となると思われます。そのためにも,少年院においては少年の問題性除去に有効な多様な処遇プログラムを構築する必要があります。
 他方,少年刑務所では懲役刑の本質が自由の剥奪と刑務作業の強制にあることから,これによって少年が抱える内面的な問題性を除去することは極めて困難と言わざるを得ません。実際に収容者の大部分は成人であり,少年受刑者への対応には人的・物的な面からの限界に極めて大きなものがあります。
 したがって,少年に対しては,少年刑務所における刑罰ではなく,少年院での処遇が追求されるべきであり,少なくとも16歳未満の年少少年や内面に大きな問題を抱える少年に対しては,そもそも刑罰を科すべきではありません。そして,16歳以上の少年に対しても刑罰を科すというのであれば,成人と完全に分離した上で,教育的観点を十分に配慮した少年独自のプログラムを準備し,それに基づき少年に応じた個別的な処遇を施す必要があります。その実現のためには職員の大幅な増員を含めた体制の充実・改善が不可欠です。
 さらに,矯正施設からの社会復帰に際しては,帰住先のない少年は出所時期が遅くなるとともに,出所後は成人と同じ更生保護施設を利用するほかなく,成人からの悪風感染により再非行に及ぶ少年も存在するなど,円滑な社会復帰と更生が困難となっている現状があります。少年専用の更生保護施設を数多く設置するなど,少年独自の更生保護の在り方が議論されるべきであると考えます。
 次に,新たに検討すべき項目であります。2000年の法改正では手が加えられなかった点でありますが,新たに検討を加えるべき項目を指摘したいと思います。
 まず,捜査の改革と少年審判における適正手続の保障について,少年審判では,捜査機関が送致した資料がそのまま証拠とされてしまう一方で,少年側には反対尋問権も保障されていません。したがって,審判で非行事実の認定が適正に行われるためには,まず何よりも捜査が適正になされる必要があり,また,審判においては適正手続の保障がなされなければならないと考えます。
 まず,捜査に関して言えば,ここ数年の間でも沖縄における放火・触法事件や,大阪での地裁所長襲撃事件など,犯罪を犯したとして家庭裁判所に送致された事件について,少年に非行なし不処分の決定が相次いでいます。特に大阪地裁の所長襲撃事件では,児童相談所での別件の一時保護所における無制約な取調べがなされ,暴行によるなどの手段で虚偽自白が獲得されるなど,少年に対する犯罪捜査の問題性が数多く指摘されています。
 一般に少年は精神的に未熟で,自己防御力に乏しく,容易に取調官に迎合するなどして,誤った自白をしやすいと言われており,成人の場合以上に捜査の改革を図る必要性が大きいと考えます。具体的には,まず少年被疑者に対する弁護人請求権を十分に保障する必要があります。少年被疑者をも対象とする被疑者国選弁護人制度が開始されましたが,将来の必要的選任事件の法定化なども視野に入れつつ,少年被疑者の国選弁護人請求権を実効化するための方策を検討すべきであります。
 また,取調べ過程の録音・録画などの捜査の可視化を図る必要性も成人以上に大きいと言わなければなりません。国会でも録画ないし録音による取調べ状況の可視化などの検討を求めており,捜査の可視化は捜査段階における喫緊の課題と考えます。さらに,少年に対する捜査については,取調べに際しての告知事項を法定し,保護者・弁護人の取調べへの立会や逮捕・勾留の制限を認めるなど,少年の特性に配慮した各種の規定を設ける必要があると考えます。
 次に,審判における適正手続の保障であります。審判段階においては,捜査機関から送致された証拠の内容を吟味することを保障するために,少年側の証人尋問請求について手続遅延目的などの一定の場合を除き権利性を認めることが必要と考えます。また,一般的に少年が誤った自白をしやすいことから,違法な勾留や保護者・弁護人の立会要求を拒絶した状況のもとで作成された自白調書については,証拠から排除しなければならないといった原則も必要と思われます。
 次に,刑事裁判手続の改革についてであります。検察官送致可能年齢の引下げ,いわゆる原則逆送制度の導入などによって少年が刑事裁判を受ける機会が増加しており,これによって心身未成熟である少年が成人と全く同様の刑事裁判を受けることの弊害が顕在化しています。
 まず,時に1年を超えるような長期間にわたる審理期間中,何ら教育的働きかけのない代用監獄や拘置所において独居での身体拘束を受け続けることにより,情緒が不安定になったり,拘禁反応を起したり,あるいは,審判手続で深まった内省が減退してしまうなど,未成熟な少年の心理面への深刻な影響が生じています。
 また,審理が公開されることにより,事案解明のために重要な生育歴や家族環境などに関する事実の開示が困難となったり,少年が極めて大きな心理的圧迫を受け,訴訟手続に十分に参加できないといった状況も生じています。精神的に未熟で社会経験に乏しい少年にとって,公開の対審構造下で検察官と対峙して攻撃防御を尽くしながら,その一方で事件に対する内省を深めていくということは極めて困難となっています。
 審理の公開の関係では様々な法廷での措置がとられておりますけれども,現場の裁判官からも立法による手当を必要とする声が上がっております。さらに,少年法による刑の緩和規定が刑の宣告時を基準として適用されることから,審理の途中で少年の年齢が成人に近づいてきた場合,早期に判決を得るために,本来必要な弁護活動を制限せざるを得ないといった問題も生じています。
 これらの刑事裁判における問題を解決し,少年に十分な訴訟参加を保障して適正手続を実現するためには,まず少年を被告人とする刑事訴訟手続について,少年の情操に配慮し,少年の特性と能力に適応した手続をとることなどを内容とする,総則的な理念規定を設ける必要があるのではないかと考えています。
 そして,起訴後の少年被告人の勾留場所を,原則として少年鑑別所とすること,少年被告人の情操等を配慮して裁判所が審理の公開を制限し得ること及び少年法52条などの刑の緩和規定について,その適用基準時を少年法51条と同様犯行時とすることなどを検討する必要があると考えます。
 なお,逆送後の少年の事件を裁判員制度の対象とすべきかどうかについても検討が必要と思われます。少年が公開の法廷で多数の裁判官,裁判員と相対し,果たして十分に自分の考えを述べ,訴訟に十全な参加ができるかどうか,慎重な検討を要するものと考えます。
 次に,少年事件に関する情報の公開についてであります。少年の更生を可能とするには社会の協力が必要であり,少年審判に対する社会からの信頼を確保することは,少年法の目的を達成するためにも重要な要請と考えます。したがって,社会が大きな関心を寄せる重大事件などについては,裁判所が決定書の要旨を公開するなどして,事案の内容や少年が非行に至った過程,動機等を明らかにすることが望ましい場合もあると考えます。しかし,場合によってはそれが少年や家族のプライバシーを侵害し,少年の社会復帰の妨げになるおそれもあります。したがって,公開の是非や内容等については,事案に応じて慎重に判断する必要があると考えます。
 また,非行少年の少年院からの仮退院時期等を公表することの是非についても同様に問題となります。この場合,少年の円滑な社会復帰を図ることが重要であり,仮退院情報等を社会一般に対して公表する必要性は原則として認められないものと考えられ,公表の是非等の判断基準については,厳格に検討する必要があります。
 他方,事件の被害者等に対する開示については別途の考慮が必要であるものと考えますが,原則は加害少年と家族の承諾を要件とすべきであり,再被害の防止措置を講ずる目的や,加害者との接触回避などの措置をとることが特に必要な場合には,加害少年等の承諾がなくとも必要な限度での情報開示が認められているのではないかと考えます。
 最後になりますが,改正法の見直しに当たっては,法律家などによる議論だけではなく,少年非行の実情に応じた適切な施策を講じる見地から,犯罪社会学や発達心理学,児童精神医学などの隣接科学の研究成果も活用する必要があるものと考えます。その際には,少年院や少年刑務所,さらには児童自立支援施設などの処遇現場の実情を明らかにしつつ,それぞれの処遇内容とその効果,特に再犯の率や内容について可能な限り検証することが極めて重要になると思われます。
 そのためにも,関連する諸機関の現場の職員や隣接科学の研究者などから幅広く参加を募り,基本的なデータは共有しながら,十分な時間をかけて議論を尽くすことができるような検討の場が設定される必要があるものと考えます。
 以上です。
● 甲斐 それでは,続けて武内先生,お願いします。
● 武内 お手元にお配りした資料のうち,「弁護士 武内大徳」の名前で作ったものが今回私の発表する意見の要旨です。私の立場はやや微妙なんですけれども,日弁連の公式見解としては,今,山崎先生からあったお話が日弁連の意見書に従った意見ということになりますが,日弁連の中でも犯罪被害者支援委員会等々で別のスタンスの意見もあるということで,御参考までに私個人の意見として発表させていただきます。
 今回,見直しに関する事項は多岐にわたりますが,私は要点を絞って,主に平成12年改正によって導入された被害者への配慮規定と審判の傍聴について意見を述べさせていただきます。
 まず,全体としての意見の趣旨ですけれども,被害者の意見聴取については制度を存続させ,より積極的な活用を図るべきです。それから,被害者の通知制度あるいは記録の閲覧・謄写,それぞれの制度について存続させ,積極的な活用を図るべきと考えております。ただ,被害者通知制度については,審判結果等のみならず,一定の場合には審判の期日あるいは進行状況についても通知を可能とする制度を創設すべきと考えます。
 また,記録の閲覧・謄写については,要件を緩和し,損害賠償請求権行使の目的以外の申立てについても認めるべきと思料します。
 また,少年審判の傍聴については,広く全般的に公開というのは難しいと思いますが,一定の場合には被害者が少年審判を傍聴することを認め,これを法文上明記すべきと考えます。
 なお,運用改善の必要性等については,各種制度について被害者等に対する周知に努めるべきと思料します。
 意見の理由についてですが,現在,少年保護事件の被害者は,加害者がたまたま少年であるという一事をもって,成人刑事事件の被害者以上に,加害者に関する情報を遮断されています。
 確かに非行少年の可塑性に働きかけ,可能な限り教育を施すという少年法の保護主義・教育主義の理念は重要でありまして,これを全面的に排斥するのは相当ではありません。
 しかし,殺人や傷害致死等いわゆる重大事件の被害者にとって,なぜそのような事件が起こったのか,当該事件はどのように審理されているのか,どのような要因が考慮されて審判結果に至ったのかといった事実は極めて重要な関心事であります。
 成人の刑事事件であれば,公開の法廷における審理を傍聴し,公判記録を閲覧・謄写し,場合によっては被害者として法廷で意見陳述を行うことも可能でありまして,いまだ不十分とはいえ裁判に関する情報を取得し,審理の過程に関与する方途が開かれております。
 他方,少年保護事件にあっては,少年法改正によって一定の範囲で記録の閲覧・謄写や意見聴取が認められるに至ったものの,いまだ成人事件の被害者に比べ情報取得等に関する格差が大きいと言わざるを得ません。
 平成17年4月には犯罪被害者等基本法が制定され,基本理念として「すべて犯罪被害者等は,個人の尊厳が重んぜられ,その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」と定められました。
 その他,詳細は割愛しますけれども,成人事件の被害者と少年保護事件の被害者との間で,個人の尊厳が重んぜられ,あるいは,情報の提供や参加の機会が拡充されるべき必要性に違いはありません。
 とすれば,今次の見直しに関する議論においても,基本法の理念及び精神を少年事件被害者に対しても敷えんすべく,被害者への配慮の充実を拡大する方向で見直しが検討されるべきです。
 なお,平成17年12月に犯罪被害者等基本計画が閣議決定されておりますが,少年保護事件に関する施策としては,資料に引用した2点が定められております。
 今次の見直しに関する議論において,基本計画の閣議決定を踏まえ,その精神を活かす方向で検討されるべきことは論を待たないところです。ことに,少年審判の傍聴については,基本計画の骨子案の時点では言及がなかったところ,基本計画の検討会における議論を踏まえ,「少年審判の傍聴の可否を含め」という文言があえて挿入された経緯にかんがみ,今次の見直しにおいても積極的に実現を図る方向で検討されるべきであります。
 やや私見に入りますけれども,現行制度の問題点,少年事件の被害者にとって大きな問題点の一つは,家庭裁判所における審判手続がいわばブラックボックスと化していることです。捜査段階において,被害者は,警察の被害者連絡制度あるいは検察庁の被害者等通知制度に基づいて,被疑者の検挙状況,送致先検察庁,処分の結果等の情報を知ることができます。また,成人刑事事件であれば,同じく検察庁の被害者等通知制度によって,公判期日や公訴事実の要旨について通知を受けられますし,公開の法廷に足を運んで審理を傍聴することも可能です。
 ところが,事件が家庭裁判所へ送致されると,審判の傍聴ができないことはもちろん,審判期日の通知も受けることができません。家庭裁判所による被害者通知制度は,少年審判の結果等を通知するものとされておりますから,被害者にとっては検察庁から家裁送致の通知を受けた後は,審判の進捗状況について何ら情報を提供されることなく,審判が終了した後に初めて結果だけを知らされることになります。
 確かに少年法の保護主義の理念は極めて重要ではありますが,成人刑事事件と少年保護事件との間における情報提供,あるいは,被害者関与の程度の格差は著しく大きく,不合理であると考えます。
 少年事件被害者の中には,加害少年の逆送を強く希望される方も少なくありませんが,その根底には,少年を成人同様の刑罰に処してほしいという希望のほか,いつ,何をやっているか分からない審判手続でなく,期日が明らかで傍聴も可能な刑事裁判で審理してもらいたいとの要望も存在します。
 今次の見直しに当たりましては,少年の健全育成を阻害しない範囲において,被害者に対する情報提供や審判への関与の機会を拡充する方策が検討されるべきと思料します。
 続けて,各論です。被害者等の意見聴取については,前述のとおり制度を存続し,その積極的活用を図るべきと思料します。少年の保護事件といえども,被害者の状況についての調査や意見聴取は,事件の本質にかかわる重要なものでありまして,おろそかにされるべきではありません。
 この点,現行の意見聴取制度は,少年審判の過程において被害者が自らの意見を裁判所へ伝えるほぼ唯一の機会となっておりまして,積極的な活用が図られるべきと考えます。
 なお,改正法の施行状況に関する資料によると,平成13年4月1日から18年3月31日までの間に意見陳述の申出をした者は825人,そのうち意見を聴取された者は791人ということでありまして,積極的に制度が活用されていると評価できると思います。
 また,意見聴取の態様についても,裁判所と調査官のいずれが聴取するのか,あるいは,審判期日内で行うのか期日外で行うのかについて,基本的には被害者の意向に応じて実施しているという御報告も受けておりまして,被害者の意見をより適切に審判へ反映させるための適切な運用がなされていると考えます。
 もっとも,意見聴取の申出数が記録の閲覧・謄写や審判結果の通知の申出者数に比して少ないことは若干配慮を要するかと考えます。もちろん意見陳述を行わないということも被害者自身の判断としてあり得ますから,一概に少ないことが問題とは言えませんが,この制度の存在が被害者に知れわたっていないということも考えられることから,裁判所あるいは法務省において制度の周知に努められることを期待いたします。
 なお,被害者の意見聴取については,裁判所が審判期日外に意見を聴取する場合,弁護士付添人の立会を認めるべきとの意見もあります。しかし,被害者が期日外での聴取を選択するのは,審判外の和やかな雰囲気で自由に意見を述べたいという要望によるものと思われます。かかる場面に弁護士付添人の立会を認めると,被害者が心理的に萎縮して自由な意見表明を妨げられるおそれもありますし,記録の入手に制限がある被害者にとって,付添人から事実関係に異議を唱えられても,反論する方法がありません。
 付添人の立会を認めるとしても,それに権利性を認めるべきではないですし,裁判所の裁量による場合であっても,被害者の意向に反することのないよう,十分な配慮が必要と考えます。
 次に,被害者通知制度についてです。現行の通知制度は少年事件被害者にとって,審判結果を知るための唯一の方策となっております。また,現行制度のとおり事件の終局決定後に審判結果等を通知したとしても,健全育成を阻害する事態が生じるとは考えられません。
 したがって,この制度は今後も存続させ,より積極的な活用を図るべきと考えます。
 なお,範囲の拡大についてですが,現行制度では,事件が家庭裁判所に送致された後は,事件の終局決定まで,被害者に関し何らの通知も行われません。
 被害者にとって審判の進捗状況は重大な関心事であるのに,終局決定まで全く情報を取得できないというのは酷であります。また,意見陳述を希望する被害者にとって,審判の経過を知らされないままでは,状況に応じて的確な意見を述べることが困難となってしまいます。
 他方,審判期日等の進捗状況を被害者に伝達したとしても,そのことによって直ちに少年の健全育成が阻害されるとは考え難いと思います。
 とすれば,今次の見直しにおいて,審判の進捗状況に関する情報も通知の対象とすることを検討されるべきと思料します。
 次に,審判記録の閲覧・謄写についてです。被害者にとって記録の閲覧・謄写は,損害賠償請求権行使に必要な証拠を集める手段として,極めて重要です。被害者が民事訴訟を提起する場合,請求原因として加害者による不法行為の存在を立証しなければなりませんが,当該保護事件の非行事実に関する記録は,他の資料によっては代替不可能なほど証拠価値が高いものです。
 本制度は,少年事件にかかる財産的被害の回復を容易にするものとして必要性が極めて高く,今次の見直しにかかわらず存続されるべきと思料します。
 なお,現行法は,記録の閲覧・謄写が認められる要件として,当該被害者等の損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合,その他正当な理由がある場合,の二類型を定めております。
 このうち,「その他正当な理由」とは,損害賠償請求権の行使と同等の理由が必要であると解されておりまして,単に被害者が事件の内容を知りたいという場合には,正当な理由ありと認められないとされているようです。現に,現場の実感としても,裁判所において損害賠償請求権行使以外の場合に閲覧・謄写が認められることは極めて稀であるという印象を受けております。
 しかしながら,危険運転致死罪や業務上過失致死罪のような交通事犯の場合,加害少年あるいは自動車の所有者である親族が自動車損害賠償保険に加入しており,財産的被害の早期回復が可能なケースも少なくありません。
 このような場合,被害者が保険会社を通じて損害賠償の支払を受けると,少年に対する損害賠償請求権が消滅することから,損害賠償請求権を行使するために記録の閲覧・謄写を申し出ることが不可能となってしまいます。現にそのようなことに配慮して,保険金の受取を保留しているという事案が,私の担当している案件でも複数ございます。
 被害者にとって,記録の閲覧・謄写というのは,単に損害賠償請求の手段として必要なだけではなくて,どのようにして事件が起こったのか,なぜ自分が被害を受けたのかといった事実を知るためにも極めて重要です。特に被害者が死亡しているような重大事件において,事件の経緯等を正確に知ることは,残された遺族の精神的被害の回復にとって不可欠と言えます。すなわち,損害賠償請求権行使以外の場面でも,記録の閲覧・謄写を認めるべき必要性は高いのです。
 他方,損害賠償請求権行使以外の申出を認めたとしても,裁判所は,少年の健全育成等を考慮して不相当と認めるときは現行法上も閲覧・謄写を不許可とすることができますし,閲覧・謄写を許可された者に対しては記録の利用に関して配慮義務が課せられていることから,少年の健全育成が直ちに阻害されることにはならないと考えます。
 とすれば,今次の見直しに当たって記録の閲覧・謄写に関する要件を緩和し,例えば閲覧・謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び少年の健全育成に対する影響等を考慮して不相当と認める場合を除き,原則として閲覧・謄写を認める方向で改正を検討すべきと考えます。
 続けて,審判の傍聴についてです。先に述べたとおり,殺人や傷害致死等いわゆる重大事件の被害者にとって,なぜそのような事件が起こったのか,当該事件はどのように審理されているのかといった事実は,極めて重要な関心事であります。
 成人の刑事事件であれば,公開の法廷で審理を傍聴し,被告人の面前で意見陳述を行うことが可能であるのに,少年保護事件においては被害者が審判の過程に関与する方途が閉ざされております。
 この点,少年審判規則29条は,「裁判長は,審判の席に,少年の親族,教員その他相当と認める者の在席を許すことができる」と定めておりまして,当該事件の被害者もここで言う「相当と認める者」として在席を許可される可能性はあります。
 もっとも,同規則については,被害者は「相当と認める者」に含まれないというという解釈論もありまして,現に,同規則に基づいて被害者の在席が許可されることは極めて稀だと承知しております。
 前述のとおり,犯罪被害者等基本計画は,少年保護事件に関する施策として,「法務省において・・・少年審判の傍聴の可否を含め,犯罪被害者等の意見・要望を踏まえた検討を行い,その結論に従った施策を実施する」と定めております。
 少年審判の傍聴については,元来,基本計画の骨子案に言及がなかったところ,あえて基本計画の検討会における議論を踏まえて挿入されたという経緯がございまして,今次の見直しにおいても積極的に実現を図る方向で検討されるべきと考えます。
 確かに,少年の健全育成の観点からすれば,審判廷に被害者が在席し,少年に対して強い非難の視線を向けるような事態は望ましくないと言えます。また,被害者が積極的に非難していないような場合であっても,被害者が在席することによって少年が心理的に萎縮し,心情の率直な吐露が阻害されるおそれも否定できません。
 したがって,被害者の傍聴を成人刑事事件と同様に広く認めることは,保護主義の理念との抵触を招き,相当とは言えないと考えます。
 しかし,少年保護事件の中にも,少年が被害者と真摯に向き合い,自らの非行が招いた結果を正面から受けとめることによって更生に資するケースも考えられます。あるいは,近時,諸外国において実施されている修復的手法の観点からも,少年と被害者が対面することの重要性は指摘できます。
 そうであれば,少年保護事件においても被害者の傍聴を全面的に排斥すべきでなく,一定の場合には,裁判長の裁量によって在席を許可することを認めるべきと考えます。
 そして,少年審判規則29条の解釈が必ずしも一律でない現状にかんがみれば,被害者が審判を傍聴しうることを少年法の法文上明記してはどうかと考えます。
 最後に,各種制度の運用改善についてです。少年法に規定する意見聴取等の制度は,いずれも被害者からの申出があることを前提としています。したがって,制度が十分運用されるためには,まずもって被害者がその制度の存在を知っていることか不可欠です。
 しかし,改正法の施行状況に関する資料によると,各種制度の申出数は,少年事件全体の件数に比べれば,やや僅少にとどまっているという印象も受けます。
 犯罪被害者等基本計画も定めているとおり,少年保護事件に関する各種の制度について,被害者及び司法関係者に対する周知徹底が図られなければなりません。
 そこで提言ですが,検察庁が被害者等通知制度に基づいて家庭裁判所送致の事実を通知する際,通知書にこれらの制度について説明を記載してはどうかと考えます。
 現状どういう書類になっているか正確なところは私も把握しておりませんが,従前,私が拝見したものですと,「誰々に対する何々事件については,平成何年何月何日,どこどこ家庭裁判所に送致したので通知します」という一文だけが記載されているケースが多いように思います。この通知に際し,例えば,家庭裁判所ではこういうことができますといったように,制度に関する説明を記載することは極めて簡単ですし,新たな費用負担もほとんど生じません。
 現に,検察庁が行っている裁判結果の通知の場合,執行猶予の付されていない判決確定,すなわち実刑判決になった場合,単に裁判結果の通知だけではなくて,「受刑者の釈放に関する通知を受けることができます」というふうに,受刑者釈放通知制度に関する情報が記載されています。そうした家裁送致の通知についても,同様の記載をすることによって,被害者あるいは関係者への周知が図られるのではないかと考えますので,これを機会に運用の改善を検討していただければと思います。
 以上です。
● 甲斐 お二方から詳細な御意見を頂戴しました。これについて質疑をお願いしたいと思いますが,あまり区切ってもしようがないので,御自由に質問あるいは御意見を頂戴できればと思います。いかがでございましょうか。
● 松尾 お二人の方から大変明快な御説明をいただきました。それぞれのお立場がありますので,個々の具体的な点については御意見の違いも幾つかありましたが,全体としてこれから意見交換を進めていく上での基盤のようなものはきちんと存在するという印象を受けました。
 平成12年改正に関しまして,事実認定の適正化に関する部分は,法制審議会で議論をして,答申を出したわけでありますが,年齢の問題を含む様々な改正点は,法制審とは無関係に,別個付加されたものであります。しかし,全体を通観しますと,法制審で議論しておりましたときの基本的な考え方と,「処分の在り方」について付け加えられた部分というのは,大きくは違っていないという印象を持ち続けておりました。
 その理由ですが,法制審で議論していたときのスタンスとしては,少年法の基本的な理念は尊重する,ただ,その基本的な理念に立脚した上で,必要最小限度の手直しを加えるというものでありました。もしモデル論の言葉を使うことをお許しいただけるならば,現行の少年法はいわば100%,メディカル・モデルに立脚していたのに対して,ほんの少しだけではあるかもしれないが,ジャスティス・モデルを導入しようというものでありました。それは全体として平成12年改正のトーンになったと思います。
 今,お二人のお話を伺いましても,その点について決定的に大きな見解の相違はないように思いますので,これから皆さんの御議論を展開していただく上の基盤ができたのではないかと思った次第でございます。
● 甲斐 それでは,どうぞ御自由に御意見なり御質問なりお願いしたいと思います。山崎先生の方は非常に大部にわたるので,どこからお聞きしていいのかわからないかもしれませんが,どうぞ。
● 松尾 情報の提供という問題は一歩進める必要があるのではないかという感じを持ちますし,閲覧・謄写については,現在,刑事手続について議論が進行中でありますから,そちらともにらみ合わせて考える必要があるかなという気がいたします。
● 川出 個別のテーマについての質問に入ってもよろしいですか。
● 甲斐 はい,どうぞ。
● 川出 お二人の先生ともに言及された被害者の方による審判の傍聴の問題についてですが,山崎先生は,少年審判規則29条の規定を適用し,「相当と認める者」として被害者等の在廷を認める場合がありうるというお考えであったのに対して,武内先生は,一定の場合には,裁判長の裁量によって在席を許可するというかたちで,被害者が審判を傍聴しうることを少年法に明記してはどうかというお考えでした。現行規則の適用か新たな規定を置くかという点の違いはあるものの,実際に傍聴が認められる範囲というのは,結論的には変わらないのかなという印象を持ったのですが,それぞれがお考えになっている「相当な場合」とか,「一定の場合」というのは,具体的にはどういう場合なのかをお聞かせ願えますでしょうか。
● 佐伯 私も同じ点についての質問ですけれども,武内先生にお伺いしたいのは,一方で,「審判廷に被害者が在席し,少年に対して強い非難の視線を向けような事態は望ましくない」という御意見で,他方で,「自らの非行が招いた結果を正面から受けとめることが更生に資するケースが考えられる」という御意見でした。
 重大な事件で被害者の方が傍聴したいという場合には,多かれ少なかれ少年に対する非難の視線というのを持っていらっしゃると思いますし,そのことを受けとめることが,自らの非行が招いた結果を正面から受けとめるということにつながるのではないかとも思いますが,両方の視点がどのように調整されるのでしょうか。被害者の方の非難にさらすのは望ましくないということを強調しますと,あまり現状と変わらないことになるのかという気もしますので,その辺も含めて御意見を伺えればと思います。
● 山崎 具体的にどのようなケースがあり得るかというのは極めて難しい御質問で,一般論でこういう状況を考えてということでしかお答えできないと思うんですけれども,一つは,少年審判の場合は事件が起きてから間もない時期に,しかも短期間のうちに終結するということから,被害発生から間もないということで,その辺が一つポイントになってくるだろうと思われます。
 そして,少年側から見たときには,被害者の方から述べられる意見をどういう形で受け止められるのか,受け止めが可能な状況にあるのかどうか。これは少年の資質にもよるでしょうし,審判手続の過程等における周囲からの働きかけによって,どこまで被害者の意見を受け止められる状況になってきているかということも,考慮されるべき点だろうと思っています。一方で,被害者の方も,どういう状況に置かれていて,どういう御意見を述べたいのか,そのあたりも見ながらということになろうかと思われますので,非常に難しい判断だろうとしか,今のところは申し上げられないかなと思っています。
● 武内 では私から。ペーパーは確かに舌足らずなところがあったと思います。「一定の場合には在席を許可する」という書き方をしてしまいましたけれども,具体的にどういう場合ならいいんだということについて,申し訳ありませんが,現時点で私に具体的な案はありません。個人的には,規則の29条を改正して,「親族,教員」のあとに続けて「当該保護事件の被害者,その他相当と認める者」というような規定の仕方でもいいのかなと思っております。
 御指摘のありました「非難の視線」,あるいは,「それを正面から受けとめること」というのは,コインの表裏みたいな関係ではないかというのはおっしゃるとおりですけれども,私が少なくともここでイメージした「非難の視線」というのは,それこそ隙あらばつかみかかってやろう,怒鳴りつけてやろうというような,被害者の露骨に生々しい報復感情みたいなものにさらされるのは適当ではなかろうという趣旨で書きました。では,そういう感情を受けとめることが更生に資するケースもあるというのは,少年の年齢とか生育環境とか,それぞれの資質によって違ってくるでしょうし,これもやっぱり一概には言えないと思います。
 ただ,一点,現場でいろいろな被害者の方のお話を聞いていて,なるほどなと思われるのは,少年事件の被害者で,加害少年が被害者の属している地域共同体とか学校とか,要するに共通の人間関係がない事件の場合,つまらないようですけれども,被害者の方は,特に御遺族は加害少年の顔を見る機会がないんですよね。報道されないし,雑誌とかにも出ないし,傍聴もできない。我々司法関係者からすると,そのぐらい大したことないという感覚にもなるんですが,自分の子どもを殺した相手の顔が見られないのはなぜだと怒鳴りつけたいとか,報復感情を見せたいというわけではなくて,顔を見たい,声を聞きたい,話している内容を知りたいと。
 この欲求に対して,私も弁護士ですから,「今の少年法ではできないんですよ。」という説明をするときに,少年の健全育成という理念だけでは説得しきれないと。自分の目で見たい,あるいは,話を聞きたいという欲求,これは私もどう理論的に考えたらいいのかわからないけれども,それは人間の持つ素朴な要求として,特に身体生命に重大な被害を受けた人に関する素朴な感情として,これを放置していては,司法制度に対する信頼を維持しきれないだろうということを考えています。
 だから,積極的に被害者の傍聴を認めるべきだというほど,私は現時点では考えておりませんが,場合によってはできるんだよということを法文上明記して,もし傍聴を許可するとしたら,相当周到に事前の調査官調査をやって,諸外国で実施している修復的手法プログラムに近いような,事前の調整をしてからでないと難しいとは思いますけれども,何らかの形で傍聴することもできるんだよということを法文に書いてもらえるとありがたいなと考えています。
● 松尾 今,修復的手法というお話が出ましたけれども,修復的手法については様々な考え方があって単一ではないと思いますが,比較的有力な考え方は,深刻,重大な事件と言いますか,殺人とか傷害致死,その種の事案にはなじまないというものです。加害者と被害者とが面接するということは,修復的手法の重要な要素として,おそらくすべての人が認めていると思いますけれども,面接が本当に効果をあげるようなタイプの事案に限定したいという考え方が強いと思います。
 今おっしゃったような線からいくと,それは修復的手法とは若干別個の観点からということになるのではないかという気がいたします。被害者サイドの関心の強さを示す一つの指標として,意見陳述の話が先ほど出ましたけれども,七百何十人という数字の罪名別の統計があるようでしたら,見せていただきたいなという気もいたします。
● 甲斐 お手持ちありますか。
● 河原 調べますので,暫時お待ちください。
● 武内 では,修復的手法に関して若干言わせてください。おっしゃるとおり,ニュージーランドとかオーストラリアで出てきたときには,軽微な少年犯についてのダイバージョンの一方策的なイメージもあって出てきたように,私としては受け取っています。ただ,個人的にいろいろ聞きかじりですけれども勉強していて思ったのは,修復的手法プログラムの中核をなすのはメディエーターの存在であって,参加者の任意性を担保しながら事前の準備をどれだけできるかという部分はかなり重要だと思うのです。
 現状,少年保護事件にかかわる司法機関の中でその作業ができるのは,家庭裁判所の調査官が一番近いかなと考えております。そうだとすると,軽微事件について家庭裁判所の調査官がメディエーター的な,仲介者的な対応をとるというのは非現実的ですし,日本において修復的手法プログラム的なものを行えるとしたら,罪種によって一概に重大事件は合わないということもないと思います。
 特に,少年事件の場合,加害少年の資質なり,被害者あるいは遺族の受容の程度がどこまで進んでいるかということに関わってくると思いますから,私の個人的な考えですけれども,調査官の事前調査がきちんと機能すれば,そこにメディエーター的な機能を付託して,RJ的なプログラムを審判のところでやるというのも,あながち無理のない話ではないかなと思っています。
 逆に,どこかでRJ的プログラムをやるとしたら,経験を積んだ弁護士がメディエーターになって,ADR,いわゆる紛争解決センターとか斡旋仲裁センターといったADR機関で,民事の損害賠償という枠組みの中でRJ的な試みをやるというのがもう一つあり得るかなと思っているものですから,家裁のところでちょっと舌足らずというか,先走って修復的手法という言葉を使ってしまいました。
● 河原 それでは,先ほどの松尾先生からの御質問にお答えいたします。意見陳述がなされた人員につきまして,平成13年4月から平成18年3月までの5年間の統計で,罪名別で大きなものを挙げますと,以下のとおりでございます。
 1番が傷害罪でございまして,申出人員数が336名,うち319名について聴取がなされております。次が,業務上過失致死罪でございまして,78名の申出に対して77名の聴取がされております。次が傷害致死罪でございまして,51名の申出がございまして,これは51名全件聴取されております。次が,業務上過失傷害罪でございまして,50名の申出に対して44名の聴取がされております。次が,殺人罪でございまして,35名の申出で,35名全部が聴取されております。
 主なところは以上でございます。
● 武内 やっぱり身体犯がほとんどということなわけですね。
● 河原 はい。その中で多い少ないはもともとの個数の違いなどもあると思います。
● 武内 あと,殺人とか危険運転の中には逆送されて,家裁では意見陳述が行われないというのもあるわけですよね。
● 河原 家裁でも可能ですけれども,その後の刑事裁判でされるというパターンもあると思います。
● 甲斐 もともと審判傍聴から話が始まったのですが,ほかに何かございましたらどうぞ。
● 川出 一点だけ確認させていただきたいのですが,先ほどのお話の中に,少年審判規則29条に基づいて被害者の審判への在席が許可された例は極めて稀であるという話がありましたが,実際に許可された事例はどういうものなのでしょうか。
● 武内 具体的な事例というのは,これも又聞きですけれども,神戸の家庭裁判所で修復的手法的なプログラムの意味も含めて,被害者が在席されたケースがあると伺ってはおります。ただ,私は1,2件ぐらいしか聞き及んだことがありません。
● 武 まず質問する前に,前回,随行人が来ていまして,随行人の立場がわからなくて話をしてしまったこと,本当にすみませんでした。申し訳なかったです。黙って話を聞いてくださったことに心から感謝します。ありがとうございました。
 質問というか,審判廷に被害者の遺族が出るという話ですけれども,私は遺族ですが,こう思うんです。多くの遺族の人は,例えば,少年であっても刑事裁判をイメージされているんですね。とにかく死亡事件の家族は刑事裁判を希望していますので,審判も刑事裁判のようなものだとイメージをしているわけです。そのころには少年法なんてわかりませんので,仕組みもはっきりわかっていないと思います。
 私はこう思います。加害者の少年がいて,親がいて,付添人がいると思います。その場所で意見を言いたいと思います。なぜなら,私は加害者に知ってもらおうと思って言うのではないんです。加害者がそこで何を言っているのか,どんなことを言っているのかを知りたいです。勝手なことを言っていたら,それをちゃんと正したいし。私は意見を言うときには,裁判官に言いたいです,それもみんながいる前で言いたいんですね。刑事裁判という対審構造の中のそういうものをイメージしているので,そういうところで意見を言いたい人が多いと思います。
 山崎先生に一つ質問があるんですけれども,5年前に改正になったときも,私は子どもの権利委員会の先生方と意見交換をしたことがあるんですね。子どもの権利委員会の先生方は,このような意見書を出されたんです。山崎先生も子どもの権利委員会の先生でしょうか。
● 山崎 私は今はそうですけれども,改正された後から加わっております。
● 武 そうですか。一つお聞きしたいんです。本当にばかみたいな話なんですけれども,子どもの権利委員会というのはどういう委員会なんでしょうか。加害少年のための権利委員会なんでしょうか。それとも全体の子どもたちのための権利委員会なんでしょうか。そこをひとつお聞きしたいなと前から思っていました。
● 山崎 加害少年のためだけの委員会ではなくて,子ども全般についてやっていまして,子どもの犯罪被害の問題もありますし,児童虐待もその一種と言えばそうですし,教育の問題とか多方面にわたって活動しています。
● 武 私は弱者のための委員会だと思っていました。ところが,この意見書を見ますと,全部は理解はできないんですね。ですけれども,とても加害少年のことを手厚く保護されているんです。一つ忘れていることがあります。私たちの会は30家族,死亡事件の遺族がいるんですが,殺された子どもたちのことは考えていないんですね。弱者をもう少し考えてもいいなというか,忘れておられるなと思うんですね。そこに何が大切かというと,確かに捜査も大事です,事実認定が大事ですが,もう一つ欠けているなと思うのは責任なんです。こうやって保護処分にした加害少年たちはどうやって責任をとるんでしょうか。どうやってとることを考えておられるんでしょうか。
● 山崎 非行を犯した少年の責任というときに,その責任をどう考えるかというのは,僕もすごい難しい問題だと思っていまして,恐らく答えが出ないのかなと自分では思っています。少なくともその少年が事件を犯した後で再犯することのないようにということは言えるんだと思うんです。そのことが本人の更生につながるわけですし,新たな犯罪被害を生み出さない,被害者を生み出さない,全体としては社会の安全をもたらすと,そこは欠かせないテーマだと思っています。
● 武 それはよく分かるんですが,それは加害少年の問題なんですね。だったら,その加害少年が起した事件に対する責任はどこにいくんでしょうか。
● 松尾 私からお答えしていいのかどうか分かりませんが,法律の考え方としては,今おっしゃった責任というのは非常に本質的な問題だと考えております。しかし,刑法は14歳というところで一つ線を引いて,14歳未満の子どもには刑事責任はないという前提に立っているわけですね。逆に言えば14歳以上ですと刑事責任があるわけです。
 にもかかわらず少年法という特別な法律がつくられて施行されていて,原則としては保護処分,これは責任追及ではないんです。本人が立ち直って健全な社会人になるように努めさせるという目標を持った法律でして,大分昔,百年あまり前にアメリカで始まった考え方が日本にも持ち込まれてきました。今日もそれが使われているのは,結果において,それが,先ほど統計数字も挙げられましたが,刑務所に入れてより悪くなって出てくるよりは,社会のために役に立つという考え方なんですね。先ほど私は,「メディカル・モデル」,「医療モデル」という言葉を使いましたけれども,そういう考え方なのです。
 しかし,やはりそれだけでは困るわけです。最初から検察官に逆送という制度は置かれていましたけれども,それを前回の改正で拡充されました。刑事裁判で責任を追及するという姿勢をある程度はっきりさせたわけですね。現状はそういう段階であると思います。
● 甲斐 ほかにございますでしょうか。
 私からちょっと細かいところで。傍聴のところで,山崎先生に教えていただきたいのですが,意見書の12ページで,「被害者一般に少年審判の傍聴を認めることは・・・反対である」と。「ただし,少年審判規則29条で在廷を認めることができる」と,2つ書かれているのですが,この違いがよく分からないんです。
 被害者がいる場合があるという意味では,法律に正面から書こうが,規則の解釈で対応しようが,同じではないかという気がするのです。およそ被害者らが審判廷にいること自体が反対だというのであれば,それはそれで分かるのですが,そうではなくて,規則に基づいて在廷を認めること,これはいいとおっしゃっている。そうすると,前段の部分と後段の部分はどういうふうに違いがあるのかというのを教えていただければと思ったのです。
● 山崎 「被害者一般に傍聴を認めることは・・・反対である」という中身は,一つは,どのような場合でも一般的に被害者がという意味での部分と,認めるということが,被害者側の権利というかどうかは別にしまして,常に認められるか,裁判所の裁量によって認められるかということが,今言われた二つの点の違いだと思っています。
● 甲斐 そうすると,法律で,裁判所の裁量でもって,場合によっては駄目というかもしれないけれども,「どうぞ入ってください」ということもあると,そういう法律だったら構わないという御趣旨ですか。
● 山崎 いや,そこは今の審判規則の範囲で,改正法で意見陳述とか閲覧・謄写とか通知ができていますので,それを最大限活用してもなお傍聴というか在廷をするべき場合というのが,どういう場合があるのかということをもう少ししっかり検証していってからの方がよいのではないかという考えです。
 在廷して意見を述べるというのは,現在でも審判期日の陳述という形では可能なわけですので,それ以上に在廷をするということがどういう場合に求められるのか,この辺はもう少し慎重に考える必要があるのではないかと思っています。
● 甲斐 法律に置くこと自体が反対だと,こういう御趣旨なんですか。
● 山崎 はい。
● 甲斐 はい。分かりました。
● 松尾 家庭裁判所の実務を存じませんので,少し伺いたいのですが,今,「在廷」という言葉と「傍聴」という言葉,両方使われておりますけれども,これについてどう区別をされていますか。
 もう一つあわせてうかがってよければ,刑事裁判については開廷回数が統計上明らかになっておりますけれども,家庭裁判所の審判の回数は通常どれぐらいのものでしょうか。言い換えれば,ある期日には在廷してもらえるが,この期日は御遠慮願うとか,そういうようなことがあり得るものでしょうか。
● 河原 まず後者の方からお答えさせていただきますと,一般に少年審判は1回というのが圧倒的に多いかと思います。ただ,これは何の争いもない軽微な事件も含めてということでございますので,今,問題となっておりますような比較的重大な事件等々になりますと,必ずしも1回ではないと思います。回数がどの程度かということは資料を持ち合わせておりませんので,お答えできませんが,そういうことになっております。
 したがいまして,松尾先生がおっしゃいますとおり,数回開かれる場合ももちろんございます。私も,殺人事件で,否認事件ですけれども,2回だったか3回だったかちょっと忘れましたが,期日を重ねて審判をした経験がございます。ですので,そのうちのどこかの回で被害者の方に傍聴,あるいは,在廷というかは別にして,意見陳述ができる。別の回は意見陳述の機会がないということはあり得ると思っております。
 次に,傍聴と在廷の違いということでございますが,厳密な定義はできないかと思いますけれども,審判の傍聴といった場合は,刑事裁判の傍聴と同じように基本的にはその方が希望する限り,手続のすべてを御覧になるということを傍聴というのかなと考えております。また,意見聴取のための在廷といったときは,意見聴取の必要な限りで審判廷にいていただいて,それが終わったら御退席願うと,こういったものをイメージしております。法学的にそれが本当に正しいのかどうかという自信はございませんが,そのようなイメージを持っております。
● 佐伯 関連して質問よろしいでしょうか。審判期日に審判廷で被害者の方が意見を述べられる場合は,被害者の方だけが在席するという扱いなのでしょうか。先ほど少年の顔を見たいという御希望が出ていましたけれども,被害者の方が意見を述べられる際には,少年も在廷していて,少年の顔を見るとか,声を交わすということはないかもしれませんけれども,そういうことがあり得るのかどうかということを伺えますでしょうか。
● 河原 審判期日で意見聴取をした例について,少年の退廷を命じたかどうかというところまでは統計報告がございませんので,確たることは分かりませんけれども,一般には審判期日でやる場合ですと,少年が在席してやっていると思われます。そういう場合は少年を目の前にして被害者の方が意見を述べられるという場合だろうと考えております。
● 松村 審判期日で意見をお伺いするというのは,まさしく審判期日ですので,審判のために少年及び保護者が在廷する状態で,そこで意見を述べていただくと,そういうものを指していると御理解いただきたいと思います。
● 武内 前回も少し出たかと思いますが,意見聴取を被害者の方が審判期日にやられて,意見を述べ終わった後は退出してもらうというような運用が一般的なんでしょうか。それとも,意見陳述をした後に少年あるいは付添人から何か意見を述べたり,あるいは,裁判官から少年に何か質問をしたりというようなときに,そのまま被害者の方が残っておられるというケースはどうなんでしょう。統計はないかもしれないけれども,あることなんでしょうか。あまりないんでしょうか。
● 河原 統計等でとっているものではありませんので,確たることは言えませんけれども,それはケース・バイ・ケースでやっておられるんだろうと思います。詳しく,今,現状がどうなっているのか,どっちが多いか,そこまでは承知しておりません。
● 武内 はい,分かりました。
● 山崎 よろしいですか。私の経験,この前ちょっと申し上げた例なんですけれども,当初,審判期日は指定されているんですが,被害者の方の意見陳述を聞くためということで,前に別期日をあえて設けまして,そのための期日を開いて,そのときはそれで終わって,最後に処分を決めるための審判期日を設けたという例がありました。その事件は共犯事件だったんですけれども,意見陳述のときだけ併合の扱いをして,それでまた分離をして,個別に処分を決めたという扱いがありました。
● 甲斐 傍聴の関係で,これはむしろ最高裁に教えていただいた方がいいと思うのですが,被害者の方が傍聴なり在廷した場合に何が見られるのでしょうかという質問です。我々は刑事裁判みたいなモデルをイメージして,少年審判でも,例えば冒頭陳述をやって,証拠請求をやって,必要があれば証人尋問をやって,論告をやって,弁論をやってというようなイメージを持たれていることが多いのではないかと思われます。
 しかし,実際には,少年審判は必ずしもそうではないことが多いだろうと思うのですが,仮に被害者の方が傍聴としたとすると,どういう場面を目にすることになるのでしょうか。もうちょっと普通に言えば,どんなふうに現実の審判というのは進んでいるのでしょうか。裁判官によって違うのかもしれないですが。
● 河原 甲斐課長おっしゃいますとおり,少年審判は,刑事裁判みたいな形式性もございませんし,そもそも検察官が立ち会うかどうかというのも,法律で定まった要件,その他によって違いますので,一概には言えないと思いますけれども,最後の御質問にありましたように,一般的な少年審判の流れはと申しますと,少年に対して,「あなた,名前は何ですね,生年月日は何ですかね,住所は」とかいうことで,いわゆる人定質問をいたします。
 そして,間違いないということになりましたら,検察庁から送られてきた非行事実,「こういうふうな犯罪が検察庁から送れてきていますけれども,間違いありませんか」と。黙秘権とかを告げた上で。普通はほとんど「間違いありません」と答える。「そうですか」ということで,その後は,そのときの事件に応じて裁判官が必要とされる質問,動機について質問することもあります。被害者のことをどう思っているかということを質問することもあります。あるいは,迷惑をかけた親とか兄弟に対してどう思っているのかと,事案によっていろいろな質問をしていくと。そういう流れで進んでいくということがごくごく一般的な少年審判だろうと。そういうことになるのかなと思います。
● 甲斐 少年への質問がかなりメインの手続になると,そのようなイメージですか。
● 河原 今の少年審判は裁判官による少年に対する質問がメインになっていることは事実でございます。
● 甲斐 傍聴とか,あるいは,意見陳述とか,記録の閲覧・謄写とか,被害者関係のところで,ほかにございましたら,どうぞ。
● 武内 処分結果通知について,自分で書いておいて尋ねるのも何だなと思うんですが,私が前に見たのは,ちょっと古いんですが,通知には一文だけぺらっと書いてあって,「どこどこ家庭裁判所に送致したので,通知します」と1行だけ書いてありました。手元の資料を昨日まで見返したんですが,私のは平成16年ぐらいのものしかないんですけれども,現在どのようになっているのでしょうか。ある程度説明書きがついているのであれば,私はちょっと勇み足だったなと思うのですけれども。
● 久木元 今どのような記載になっているのかというのは正確に調べていませんが,被害者配慮制度の中には,審判開始が要件となっているものもあると思います。家裁に送られて審判不開始になる事件がかなり膨大にわたる関係上,それを全部,被害者配慮制度を書いてしまうと,実際はその対象でない多くの方にミスリーディングなメッセージをしてしまうことになります。今までも検討したことがないわけではないのですが,そういう問題もありまして,今現在そういうふうにはまだなっていません。もしやるとしたら,今のような問題も踏まえて,将来の検討課題かなと思っております。
● 甲斐 私の認識でも武内先生の書かれた程度だと思います。被害者通知自体はこういった記載内容で,それ以外のいろいろな手続あるいは制度はパンフレットに書いてあって,それ自体が非常に項目が多いものですから,これにいちいち書いていられないというところがあるんだろうと思うのです。ですから,別のパンフレットをお渡しして読んでもらうということの方が多いのではないかと思います。
● 武内 制度の周知というとパンフレットあるいはホームページということになりますけれども,パンフレットを取りに行くとかホームページを見に行くという被害者側の作業が必要なので,被害者の人に検察庁から通知を送るときに一緒に送ってあげればいいなと思います。あるいは,制度に関しても,詳細に要件だの何だか書く必要はなくて,いざとなったらお近くの弁護士会に御相談に行かれてくださいとか書いていただくだけでも,そういう可能性があるんだというのが伝わると,随分違ってくると思います。あるいは,そういう可能性があるんだと知れば,ホームページを見てみようとかパンフレットをもらいに行ってみようという気持ちになりやすいので,それは是非御検討ください。
● 甲斐 分かりました。
● 松村 武内先生が先ほど述べられた意見書の6ページの一番下の2行ですけれども,「損害賠償請求権行使以外の場合に閲覧・謄写が認められることは極めて稀である」とお書きになっておられるんですが,閲覧・謄写のお申出があったものについては,ほぼ,九十何パーセント閲覧・謄写をしていただいている状況にあります。ごくわずか認められなかったものについても,親族,御遺族の範囲をはみ出すというような事情があったものがほとんどとこちらは理解しておりますので,この相当性のところは家庭裁判所はかなり柔軟に運用して,そういう点でこれを認めないというようなことはやっていないのではないかとこちらは考えているのですが。
● 武内 すみません,言われてみればもっともで,やや勇み足だったと思います。現場の弁護士の感覚としては,「損害賠償請求のため」と書かないと門前払いをされるおそれがあるので,何とか損害賠償のためという理屈を付けるのに,申立ての段階で我々が苦労しているというのが実情です。
 家庭裁判所の審判記録に関して,私はそんなにたくさん閲覧・謄写の申立てをしたわけではないんですが,困ったケースというのは,交通事案で,保険金を受け取ったら損害賠償請求がもうできないとなると,閲覧・謄写も駄目になっちゃうのかなと遺族の方が心配されているケースと,これは必ずしも少年の保護事件ではないんですけれども,成人刑事で損害賠償請求権行使の目的のためという要件の立て方はほぼ同じですよね。
 親族間の事件の場合,例えば親が実の子どもを殺したという場合,私,現時点で御兄弟の方から依頼を受けて,記録の閲覧・謄写をしたいんだけれども,兄弟姉妹ですから,親の方が先順位の相続人なので,そのままでは亡くなった方の損害賠償請求権を相続できないし,兄弟姉妹には固有の慰謝料請求権はないというのが民法の原則ですから,損害賠償請求権がそもそもない。
 だけど,どう考えたってこの人が事件の内容を知りたいというのは当たり前だよねというケースのときに困っちゃうと。だから,「損害賠償請求権以外の謄写が認められることは稀だ」と書いたのは,確かにちょっと勇み足ですけれども,現場では損害賠償請求権を行使するための閲覧なんですよというふうに申立書を書くのに知恵を絞っているというような現状はあります。
● 三浦 今,最高裁から言われたのは,損害賠償請求権行使以外の場合に,閲覧・謄写を認めているということがおっしゃりたかったのでしょうか。それとも,一般に申請があった場合に,多くの場合認められているということで,それが損害賠償請求権を理由とするのか,それ以外の場合もあって,それ以外の場合も認めているということをおっしゃりたかったのか,その辺はどうでしょうか。
● 松村 認められないものについて,認められなかった理由の方から見たときに,法律に書いてある御親族の範囲を超えているとか,あるいは,記録そのものがないとか,どちらかというと形式的な理由でお見せすることができなかったというものが,認められなかったもののほとんどで,逆にいうと実質的に相当でないからとか,理由が正当でないということで認めなかったものはほとんどないと,そういうことを申し上げたかったわけです。
● 武内 私としては,「稀である」というその実質,あるいは,裁判所の運用がおかしいというよりも,ここで一番言いたかったのは,「その他正当な理由」というのは,どういうときが「その他正当な理由」なのかというのが今ひとつわからないというか,損害賠償請求以外にどういう目的だったら閲覧・謄写が是とされるのかというのが今一つ分からないなというところが私の実感に近いですね。
 端的に言って,損害賠償はもう受け取っていると,示談が完了した,あるいは,保険会社から全額損害賠償を受けたと。だけど,これから自分は家庭裁判所で意見陳述をやりたいと。損害賠償請求は終わっているんだけれども,意見陳述を十全ならしめるために記録を見せてください,あるいは,意見陳述も予定していない,ただ単に自分の子どもがなぜ殺されたか知りたいと,ただ知りたいというために閲覧・謄写をした場合,正当な理由として認められるのかと。その辺がまだ運用上確定していない印象を受けております。
● 望月 今のこととは関係なくてもよろしいですか。
● 甲斐 はい。
● 望月 私,2回出させていただきまして,私の立場上,法律的な視点からの意見なり感想からは外れてしまうかもしれないんですけれども,例えば,1回目に,法改正があった少年法の運用についての御説明とか効果を説明していただき,それを見ればそういうことなのかというふうに納得はできます。今日も弁護士の先生からいろいろな意見が出されたんですが,その視点に立てばそういうこともあるだろうという納得もできるんですが,私は日常的に個々の被害者に接して,個々の被害者の支援をしているものですから,そういう視点に立って法律なり被害者支援なり制度なりを見ることになるんですね。その視点に立つと,加害者と被害者のバランスが悪くて,それを是正するために法改正がなされているのではないかなという気がするんですね。
 少年法に関しても,社会の秩序を改善するため,あるいは,少年の健全な育成をということは当然のことだろうと思うんですけれども,それに付け足すような形で被害者への配慮がなされるのは私はちょっと違和感があります。すべてに含まれたことだと思うんですね,社会の秩序なり健康な社会へ改善されていくというのは,被害者の支援とか被害者の視点に立つということも含まれた中で行われていくことだと思いますので,是非そのことを,原点に戻って,私からお伝えしたいと思ったんです。
 それから,今日の弁護士の意見の中に加害少年がとても焦点化されて,例えば加害少年の生育歴とか家庭環境,あるいは,病気があったとかいうことに着目されているんですが,結局,加害少年は審判が下った後,更生施設に入って,そこの環境に戻っていくわけですよね。そこら辺をどういうふうに考えていらっしゃるのか。
 ちょっと離れてしまうんですけれども,私,市原刑務所の被害者の更生プログラムのグループワークに参加させていただいているんですね。うちの方は自助グループがありまして,その被害者の方がそこに行って意見を述べるというところなんです。家族とか周りの人たちは簡単に済ませようと,何というのかな,甘やかすというか,大したことじゃなかったのに業務上過失だったという,被害者が逃げ道を作りやすい状況を作ると思うんです。そしたら,いくら法律を決めても,更生教育をしても,社会に戻ったときに何もなされていかないというのが,私,実感としてあるんです。そこら辺のことも含めて被害者が納得するような更生教育がされているということを,被害者が受け取っていかれるようなシステムも含めて,法律も見ていっていただきたいと思います。
 それから,被害者遺族の思いというんでしょうか,それを知ることがない矯正教育というのはないと思うんですね。「適切な時期」とおっしゃいましたよね。裁判の中で意見を聞くことがいいのかどうかということをおっしゃったんですけれども,審判ではなくてもいいから,少年が必要なときに被害者と向き合う,自分の犯した事件と向き合うことをしなければ,本当に矯正にも更生にもなっていかないのではないかと感じます。
 もう1つは,修復的司法に関してですが,「修復的司法」という言葉が一人歩きしていると思うんです。私が接した被害者の方は「被害者にとっての修復はない」とおっしゃいます。その言葉自体アレルギーで難しいのではないかなと。違った形をとっていくべきであるし,被害者も加害者も,あるいは,それを仲介するコーディネーターに当たる方の成熟さみたいなものがすごく問われることだと思っています。
 以上です。
● 松村 今の最後の点につけ加えさせていただきます。先ほど武内先生が修復的司法に絡めて,その役割を家庭裁判所調査官がやる余地もあるのではないかとおっしゃいましたけれども,そこは事実の調査を基本とする家庭裁判所調査官の本質からいって適当ではないのではないかと思っております。
● 武 今,調査官の修復的司法は適当ではないとおっしゃったんですが,私もそのとおりだと思います。と言いますのは,今までの家庭裁判所の調査官は,加害者の更生というか,加害者がこれから生きていくためのことを考えている人たちだったんですね。被害者のことを考えている人たちではありませんでした。中には「くよくよするなよ」と加害者に言う調査官もいれば,事実関係はどうのこうのするところじゃないという調査官もいました。今は少しずつ変わったとは思いますが,そういう人たちが修復的手法の中に入るというのはとても難しいと思いますし,何十年もかかると思います。
 修復的というのは弁償ができる程度のものまでだと思います。弁償ができないものは修復は無理です。例えば,少年事件であれば加害者が謝罪をし続けるとか,加害者が謝罪をすると被害者と加害者が修復するかのようなことを言われることがあります。でも,それは違います。加害者が謝罪をしたとしても,それは当然あるべき姿なんですね。だけれども,死亡事件に限って言えば,それで修復できるわけではないので,修復というのは本当に弁償できる犯罪のそこまでのものだと思っています。
 先ほどパンフレットの話をされていたんですが,被害者がパンフレットをもらうとか,どこかに書かれているのを見るとか,被害者が必死になって探したり見つけたりもらったりしなければ,情報が分からないというのが問題なんですね。いろいろな場所で広報するべきだと思います。なぜかというと,被害者というのは,私たちの会で言えば,みんな悪いことをしていないんですね。何も悪いことをしていないのに殺されるわけです。そうすると,国は何も私たちがしなくてもちゃんとしてくれると思うんです。まずそこがあるんです。
 だから,自分たちが慌てて何か期限があるのではないかとか,制度があるのではないかとか,法律を何とかしなきゃというふうにならないんですね。でも,流れていくのを見ていると,私たちは意見を言っていないなとか,調書をとってもらっていないとか,そういう疑問点が出てくるので,そこで慌てて調べるんですね。本当は調べなくてもやってくれると思っているんですね。
 それを原点に思ってもらって,度々こういう制度を自分からしないと駄目なんですよということを言っていただかないと,期限が過ぎていたり,このときにしたらできたことができていなかったりすることがあると思います。被害者は必ずしも探したり見たりしないということを知ってもらいたいと思います。本当は何もしなくても,してもらえたら一番いいんです。
● 松尾 平成12年の改正は,望月さん,武さんがおっしゃったような思いを形にあらわして,あれだけの改正をしたと思うのです。山崎さんの御意見の要旨には幾つか,この改正を元に戻せという御意見が絡まっておりますけれども,その点どうでしょうか。「原則逆送」の規定を見ましても,実施の結果は60%前後ということになっていますが,これは見方によっては,「原則逆送」だから,もっと逆送せよという御意見もあり得る。しかし,一方で少年法の基本的な構造を維持するという前提で改正したのであれば,60%でも十分ではないかという意見もあり得ると思いますけれども,その辺について,山崎さん,いかがでしょうか。
● 山崎 基本的な考え方は先ほど述べたとおりでして,非行を犯した少年に対する処遇としては,審判の手続と少年院での処遇というのが大原則であるべきだと。そこでは,先ほどから出ていますように,少年が再犯しないように更生していくというのが大目標なわけですので,そこからすると少年の問題性,何を改善していかなければいけないかというところがよく調査され,そこに対する手当がなされるべきだろうという発想からしたときに,事件の結果の面を基準とした「原則逆送」の規定というのが,果たして整合するのだろうかという根本的な疑問があります。
 特にそれを傷害致死事件について感じることがありまして,立法趣旨は,人を死亡させた場合に罰を与えられる,責任をしっかり自覚して自制すべしという点にあるわけですけれども,そこでは殺害の故意をもって殺人をした場合と傷害致死というのは,限界的な事例もあろうとは思いますが,やはり差があるのではないかと。結果的に人が死亡するというのは,当然重大な結果なわけですけれども,そちらに重きがいき過ぎると,少年の問題性,本来手当が必要なところの把握が手薄になってくるという関係はどうしてもあるのではないかと,そこのところを大変危惧しています。
 実際の家裁の雰囲気を見ていましても,先ほどからおっしゃられていますように,調査官に求められる負担が極めて大きくなっていまして,被害者の方への対応もありますし,少年の根深い問題を調査しなければならない。そもそも抱えている件数も多いようですので,そこで何を取捨選択していくかというときに,問題性に対する把握と手当という方向性が弱まってしまわないかということを大変懸念しています。
● 松尾 お考えは分かりますけれども,先ほどバランスという言葉も使われましたが,60%という数字はある意味でいいバランスだという印象も持つのです。その点,いかがでしょうか。廃止してしまえという御主張は,それをゼロに近づけようということになる話ですよね。
● 山崎 非常に難しい問題だということは認識していますけれども,例えば,先日の大阪府寝屋川の事件で裁判所があえて刑務所に対して処遇に関する意見を述べられているというのが非常に象徴的な気がしています。刑務所の現状を前提にした場合,刑務所に入れたときに少年の抱えた問題性が果たして解決され得るのかどうか。そこは刑務所の現状に照らしたときに極めて限界がある。
 逆送ということになりますと,55条で移送されるというのは極めて例外的な場合になりますので,刑事罰を科して刑務所に入れるということになろうかと思います。そこが先ほどから申し上げているように,もともと刑務所の持っている目的,あるいは,特に人的な限界ですね。そこからすると非常に問題を大きくしていかないかなというのを懸念しています。
● 武 その少年刑務所なんですけれども,工夫を考えていったらどうなんでしょうか。寝屋川の事件でも,裁判官が,刑罰の一つの大きな目的である,認識させるというか,自覚させるということには刑罰の一つの大きなものなんだということをおっしゃっていました。私はそれがあると思うんですね。その上に教育が必要であれば,そこで工夫をしながら教育というのはできると思っています。治療が必要であれば,専門家を入れるなりできると,私はそういうふうに思っているんですね。
 実際,少年刑務所側の話を聞いたことがありまして,教育もしているということを聞いたことがあったんです。そこにもう少し工夫を加えていったらどうなんでしょうか。逆送してもいいと思われるでしょうか。
● 山崎 そこは,現時点では少なくともそれが現実的ではないというのが私の実感です。私自身も改正後に川越の少年刑務所に行きましたけれども,収容者数は千数百人,その中で少年の数は50名以下。そこで少年だけを独立して処遇するために,園芸場を作っているわけですけれども,そのほかの工場とは全く異質な空間という感じなんです。当然,刑務作業に費やす時間が原則になるので,個別の少年に対する働きかけはそういった面からも制約がありますし,職員の数が少年院と比べて全く違いますので,現状で寝屋川の判決のようなことを求めても全く不可能なのではないかと思っています。
● 松尾 今の件は矯正局からも御意見がありそうに思いますので,また適切な機会にお願いできればと思います。
● 甲斐 はい,分かりました。
● 佐伯 山崎さんは少年刑務所に少年院と同じような処遇を求めても無理があるのではないか,現実的ではないのではないかという御意見でしたが,原則逆送規定を今の状況で削除するというのはもっと現実性がないように私には思えます。私自身は,正直申し上げて,原則逆送規定が望ましい規定だとは思っていないのですけれども,今の状況で,少年にとっても被害者の方にとってもバランスのとれた改善をしていくということを考えると,少年刑務所での処遇を少年院にできるだけ近づけていくというのが,一番現実的な方策ではないかと今のところは考えています。
● 山崎 おっしゃるところは十分に理解するつもりですが,個別の事件を扱っていて,その少年に何が適切な処分かというのは基盤に考えざるを得ないというのが私の考え方なんです。そうは言っても,現実にこの規定ができ,それが今後削除される可能性がどの程度あるかということも考えます。現実に逆送後の刑事裁判手続には,先ほど言ったような大きな問題があると思っていますし,おっしゃるとおり,少年刑務所の処遇は基本的に発想を変えるぐらいのことをしていただかないと,大変なことになりはしないかと危惧しています。ですから,そこの面の改善というのは早急に手当をしていく必要があるのではないかと思っています。
● 武 それは少年院も同じだと私は思うんですね。少年院に入った方がすばらしいというお考えなんですけれども,私たちの会には30家族いまして,百五,六十人の加害少年がいるんですが,ほとんど少年院でした。出てきた少年たちが,最近では「被害者のところに行きなさい。」という指導があるのか,来る人がいるんですが,自分のやったことを全く分からずに,言われたから来るだけの少年がいるわけです。少年院の中でもちゃんとした教育,指導を受けていると私は思えていないんです。重大犯罪,軽犯罪,その間の犯罪,いろいろとあると思うんですが,それに合った処分,刑罰というのは大事だと思うんです。
 ここの「被害者への配慮」というところで,山崎先生は,被害者への損害回復といったらお金だったり,心のケアだったり,病気だったら手当をしたり,仕事に困っていたら仕事を助けてあげたりとか,そのことを想像されて書いているように思われるんですけれども,多くの遺族の人はそういうことを望んでいるのではないんです。まずは殺された子どもに対しての責任をとってほしいんです。それが刑罰です。それが一番大きいんです。幾らお金を払われても,幾ら病院に通っても,根本は何も解決していないんですね。
 確かに刑罰だけ与えたからといって解決する問題ではありませんけれども,一つの大きな問題なんです。損害回復とかそういうことばかりを言われるととても悲しいんですね。まず法律的にちゃんと,刑罰を与えてほしいです。それが事件に対して,命を奪ったことに対しての責任,刑罰であったり。その中に被害者がかかわっていたり,非があったりした場合には,ひょっとしたら保護処分が必要かもしれません。でも,まずちゃんとした責任を明らかにするのが大事なんですね。
 その後に,塗り薬というか,後で何かしてもらっても,根本的な解決ではないと思います。その後にすることは,自分たちで頑張ってします,その力が欲しいんです。根本が欲しいんです。書かれているのを読むと,イメージがそういうふうに被害者への回復を思われているように思いますが,どうでしょうか。イメージは間違っているんでしょうか。
● 山崎 損害回復だけを申し上げているつもりはなくて,手続の関与といった部分だけに被害者の問題は限られるものではないだろうということです。この意見書を書くに当たっては,率直に申し上げて私自身は,先ほど申し上げたように日弁連に関係してまだ時間もないんですけれども,従来から日弁連で犯罪被害者に対する問題に関して述べてきた意見がありますので,それに基づいてトータルに書いたという理解をしていただければと思います。
● 松村 山崎先生に,意見ではなくて,実情ということでおうかがいします。原則逆送事件で家裁調査官の調査が不十分になっているのではないかという御指摘がございましたが,我々は,原則逆送事件で処分が最終的に原則どおり検察官送致になろうとも,例外的に保護処分になる場合であっても,この種の事件では裁判所はきっちり調査をやっています。むしろ重大な事件ですので,きちんと調査をして,きちんと審判をすることが,法律の趣旨に従った処分や処遇を決めるために大前提となると思っておりますので,そこはやっています。
 それから,重大事件では,少年側だけではなくて被害者の側についても,大変お辛い時期だと思いますけれども,御協力をお願いして,被害の実情とか,少年が与えた結果の重大性について話を伺わせていただいたり,資料を見せていただいたりすることもあります。原則逆送事件だから初めに結論ありきで簡単にやっているということは決してないということだけ申し上げさせてください。
● 甲斐 処分のところまできましたけれども,あとは事実認定手続について。主に山崎先生からの御意見がありましたけれども,これについて質疑なり御意見なりあれば,どうぞ。
 恐縮ですが,私から。意見書の8ページで,「検察官の中には,少年を糾弾して十分な弁解をさせないという者もおり」というところがあって,そんな例があるのかどうか知らないのですが,そういう御認識なのですか。
● 山崎 もあったという認識です。運用実態の調査の中でそういう意見もありましたということです。
● 甲斐 これは必要的弁護事件というか,必要的付添事件なので,付添人の方が必ずいらっしゃると思いますが,それでもそうなってしまうということなのでしょうか。
● 山崎 というふうに報告がありましたので書いています。それが大多数であるという認識は持っていませんけれども,そういう報告がありました。
● 甲斐 そうですか。
 もう一つ。審判手続の関係では,抗告受理申立制度が導入されたことが改正内容には入っているのですが,意見については特に触れられておりませんで,これについては今のところ意見はないとお聞きしてよろしいでしょうか。
● 山崎 意見の方に書いてありますけれども。
● 甲斐 書いてありましたでしょうか。
● 山崎 ええ。基本的に検察官関与を認めるべきではないので,関連する規定として抗告受理の申立も,というところです。
● 甲斐 ここで削れということですか。
● 山崎 そうです。
● 甲斐 分かりました。ほかに何かございましたら,どうぞ。
● 佐伯 私,前回欠席いたしましたので,既に御説明があったのかもしれないですけれども,観護措置期間の延長があった事件について,どのような終局処分がなされているのかという点について,もし統計があればお教えいただきたいのですが。もちろん,事実の解明のための延長と最終的な処分とが必ず関連しているということではないとは思いますけれども,統計としてあればお教え願えますでしょうか。
● 河原 特別更新した事件の終局処分ということでございますか。
● 佐伯 はい。
● 河原 それでは,お答えいたします。特別更新決定がなされた人員は249名ございます。終局決定で申しますと,検察官送致が26名,少年院送致が159名,保護観察が46名,不処分が18名,うち非行なし不処分は12名。こういう内訳になっております。
● 佐伯 どうもありがとうございます。
● 松村 非行事実に問題があって,審理の必要があるので特別更新するということになりますが,今,非行なし不処分の認定がされた件数を申し上げましたけれども,それ以外の非行が認定された事件で処分をどうするかということは,特別更新をとったかどうかということはあまり関係しないのではないかと思います。今の数字が特別更新とどういう連関関係があるかというのは別にして,統計としては今申し上げたとおりということです。
● 佐伯 はい。ありがとうございました。
● 松尾 あまり本筋の問題ではありませんが,今,不処分という言葉を聞きましたのでひと言。これは世間に家庭裁判所のやり方に対するかなりの誤解を与えていると思うのです。不処分のパーセンテージが高いと何もしないのかと思われてしまいます。実際はそうではなくて,いろいろな工夫をして,いろんな保護的措置を施した上で処分しないという決定になっているはずなので,もう少し別の名称,例えば審判終結決定とか,お考えになった方がいいのではないかと思うのですが。
● 松村 処分の名称は法律で決まっておりますので,それを使っておりますけれども,裁判所としては,今,先生がおっしゃったように,不処分にするとしても,必ず少年の問題点をきちんと少年に指摘して,少年に十分反省させた上で,もう二度と非行をしない覚悟を持たせて決定を言い渡しているという実情にございます。
● 甲斐 手続面で何かございますでしょうか。もしなければ,全体を通して,ほかの事柄でも結構でございます。
● 川出 被害者の方への通知に関して,両先生ともで,審判の結果だけではなく,手続の進捗状況の通知も必要であるということをおっしゃっていたのですが,その場合,通知事項としてどういうものを想定されているのでしょうか。例えば,何月何日から何月何日まで観護措置がとられ,何月何日に審判が行われるとかいった外形的なことなのか。あるいは,もう少し内容に踏み込んだ形での進捗状況なのか,その点はどうでしょうか。
● 武内 では,私から。私も一応書いてはみたんですけれども,審判はほとんどが1回で終わることが多いということも伺っていますので,進捗状況を伝えてほしいという事件というのはそれほど多くないかなとは思っています。ただ,自分としても,審判期日等とは書いたんですけれども,少年事件の被害者のサポートに入ったときに,個人的にもショックだったのは,審判期日がいつか僕は分からないんだというのが非常に印象的な出来事でした。同じ弁護士なのにこちら側だと僕は全く分からないんだというのが非常に印象的だったので,審判期日ぐらいは通知してもらいたいなと。
 あとは,できればそのときにどんなことをやるのか,あるいは,どんなことをやったかと。具体的な,例えば「証人誰々がこういうことを言いました。」というのは無理でも,「証人の尋問を行いました。」とか「鑑定人の尋問を行いました。」という程度のことがあるだけで随分違うなと。特に私が担当して一番シビアだったのは,少年の責任能力が問題になりそうなケースで,家庭裁判所でそのあたりの鑑定をやっておられるのか,調査をやっておられるのか,かなり慎重に判断しているというようなことは,報道等を通して聞こえるんですけれども,実際,家庭裁判所で今何をやっているのか,いつごろ審判で終局的な決定が出るのかというのが全く分からなかった。特に御遺族も悶々とされていたという経過があったので,こんな書きぶりをしました。
 ちょっと感想めいたことを言いますと,家庭裁判所からどこまでの情報が出ればいいのかというのは,制度設計としてまで持っていないんですが,被害者の方が家庭裁判所に対して不信感を抱く一つの原因として,審判の進捗状況に関してマスコミ報道を通じて知るという機会が少なくないんですね。そうすると,なぜ私たちに通知がないのに報道機関は知っているんだ,なぜ私たちには期日がいつかは知らされてないのに報道には審判結果の要旨が即日流れるんだと,このことに対する不満は非常に強くいろいろな場面で耳にします。
 別件で担当したのは,審判結果の通知はもらえるけれども,被害者の御遺族にとって報道の結果の後に通知をもらってもあまり意味がないと。何とかその日に審判の結果を通知してくださいと。郵送のタイムラグは,こっちが取りに行くから,内輪でいいから,何日に取りに来いと言ってくださいと。事前に家庭裁判所と調整して,その日の午後を空けておくからといって,ずうっと裁判所に待機して,マスコミに出す前に結果通知をもらったと。こちらは携帯電話で即御遺族に報告したということで,家庭裁判所なりサポートに入っている弁護士に信頼関係がつながったということもあります。やっぱり情報を通知するのであれば,報道から伝わるという間接的なことよりも前に,あるいは,せめて報道に出すと同程度のものを同時期に被害者に通知していただきたいなとは考えております。
● 甲斐 情報提供の関連で,山崎先生の資料の17ページに,出院情報についての記載があります。少年が少年院から仮退院なりで出ましたよとか,どこに帰りましたよとか,そういう情報をどうするかという問題があろうと思います。この意見書では「事件の被害者に対する開示はともかく」と書いてあって,「その場合でも加害者側の承諾を要件とすべきだ」というところまで書かれているのですが,被害者に対する出院情報の提供についてはどのようにお考えですか。
● 山崎 別冊の方に詳しく書いてあったと思います。40ページですね。原則は加害少年と家族の承諾が要件ということだけれども,社会一般に対する公表とは別の配慮が必要なので,ここに書きましたように,再被害の防止措置を講ずる目的や加害者との接触回避などの措置をとることが特に必要な場合には,承諾がなくても必要な限度での開示は認めてよいのではないかと,そういう考え方です。
● 甲斐 ほかにはございませんでしょうか。
● 武 観護措置のことなんですけれども,8週間でも長いからまた戻せと書いてあるんですが,すべてを逆送してはいけないと言っているわけですね。凶悪犯罪も重大犯罪も全部家庭裁判所でやろうと思っているのであれば,4週間では無理ではないでしょうか。少年事件の場合,集団暴行,リンチなどが割と多いんですね。そうなると,そんな期間で事実認定ができるとは思わないんですけれども,どうでしょうか。やっぱり4週間で。8週間は長いんでしょうか。8週間でも足りないと思うんですが。
● 山崎 結果が重大な,そして共犯の事件であった場合でも,その場合は,勾留期間をフルに使って延長した上で,検察庁でかなり密な捜査をします。少年相互の供述が食い違っている場合などは,私のやった例でもほぼ毎日取調べをやって,捜査が終わってから家庭裁判所に送られてきますので,その間で争いがなおあるという事例はかなり少ないのではないとか思っています。
 要するに,事実認定でかかわった人間の供述が食い違っているから,どちらが正しいのかを尋問によって調べようという必要性がある場合に,観護措置を延長するかどうかという議論なので,事件が重大で,関係者が多くても,食い違いがない場合がほとんどなので,基本は4週間で足りるのではないかという考え方です。
● 武 そうしたら,大人の犯罪の場合,よくは分からないんですけれども,宅間の事件を見ていましても,この人は犯人に間違いないという場合でも,何年だったですかね,あれは早かったですけれども,2年ぐらいはありました。刑事裁判はそれだけかかるのに,少年審判はそんなに短くて。それも犯人が分かっていてもそれだけかかるんですね。そんなにできるものなのかなと思ってします。
● 山崎 その事件の内容の詳細は存じ上げていませんけれども,責任能力に関する審理がかなりの期間あったのではないかと思われますが,いかがなんでしょう。必ずしも事実認定を争って,その尋問のために長期間かかったというふうには,新聞報道等からですけれども,私は認識していないんですが。
● 甲斐 ほかに何かございますでしょうか。
● 松村 今のことついて念のために申し上げておくと,家庭裁判所にとっても,適正な処分とか処遇の選択をするためには,きちんと事実認定をするということが大前提になりますので,そのために必要な審理期間は確保していただきたいというのが実務的な意見です。
 前回の意見交換会で法務省から数字の紹介がありましたけれども,200を超える数の事件で特別更新の制度を活用して事実認定を適正に行うということが行われておりますので,実務的にはこれを短縮するというのはかなり困ると,適切ではないと思います。一方で,山崎先生の言われるような点は,特別更新の判断に当たっていろいろな事情を慎重に判断して,ルーズに運用しないという点で十分確保しているのかなと思っています。
● 甲斐 ほかにいかがでしょうか。
 それでは,本日はこの程度とさせていただきたいと思います。
 次回,第3回は,11月27日の午後1時30分から,20階の最高検の会議室で開催したいと思います。次回は,武さん,望月さんから御意見を頂戴した上で,質疑応答を行っていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 どうもありがとうございました。
-了-

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