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文書提出命令制度研究会(第2回)議事要旨

平成9年1月14日
担当:法務省民事局

1 日  時  平成9年1月14日(火) 14:00~17:15
2 場  所  法務省第2会議室
3 出席者  座  長  竹下
        研究員  秋山,阿部,伊藤,宇賀,菅野,熊谷,長野,萩本,長谷部,花村,平山,深山,山下
        講  師  藤井昭夫・行政改革委員会事務局主任調査員
        その他  柳田審議官(民事局担当)
4 議  題  情報公開制度に関するヒアリング(1)
5 会議経過
 (1)  今回から研究会のメンバーとなった平山研究員から自己紹介が行われた(新しい研究員名簿は別紙のとおり)。
 (2)  行政改革委員会事務局の藤井昭夫主任調査員から,同委員会の平成8年12月16日付け「情報公開法制の確立に関する意見」(以下「行革委の意見」といい,該当頁は「意見書・・頁」として引用する。)に基づき,その検討経緯及び構成について紹介がされた。その概要は,次のとおりである。
   ○背景事情
      諸外国においては,13か国で情報公開法が制定されている(行政改革委員会事務局監修『情報公開法制-行政改革委員会の意見-』第一法規(以下「資料集」という。)351頁に記載の12か国に加えて,昨年,韓国でも法律が制定された。)。スウェーデンを除くと,いずれも戦後に制定された法律である。EC諸国の中には,情報公開に関する一般法はないものの,環境情報についての開示制度を設けているところがある(例えばドイツ環境情報法。資料集567頁参照)。
 我が国の地方公共団体においては,自治省の調査によると315団体(都道府県では山形,山口,愛媛を除く44都道府県)が情報公開条例を制定している(資料集571頁参照)。
 政府としての行政情報公開への主な取組としては,昭和55年の閣議了解「情報提供に関する改善措置について」,この閣議了解に基づく行政運営上の措置としての文書閲覧窓口の整備,昭和58年3月の第2次臨調の最終答申,この答申の措置事項としての情報公開問題研究会の開催,平成3年の行政情報公開基準の策定等を挙げることができる。法律制定に向けての本格的な検討は,平成6年度行革大綱において,正式の第三者機関で本格的検討を行うこととされたことに始まる。平成6年には行政改革委員会設置法が成立した(意見書63頁参照)が,国会の審議における修正の結果,同法第2条第2項において行政改革委員会の調査審議事項として「法律の制定」が明記されるとともに,同条第4項において内閣総理大臣への意見具申の期限が同法の施行の日から2年以内とされた。
   ○検討経緯等
      情報公開法についての検討方針の公表(平成8年1月),小委員会における要綱案(中間報告)の起草,中間報告の取りまとめ,中間報告の公表(同年4月),部会報告の取りまとめ,部会報告の公表(同年11月),行政改革委員会における審議,内閣総理大臣への意見具申(同年12月)という順序で審議が進められた(意見書58頁以下参照)。
 法律案の国会提出時期については,行政改革プログラム(平成8年12月25日閣議決定)の中で「平成9年度(1997年度)内に所要の法律案の国会提出を図る」とされている。この「平成9年度内」には平成10年の1月から3月も含まれ,同プログラムは同年の通常国会の冒頭を期限とする趣旨であると解されるが,法律案の立案作業は緒についたばかりであり,現時点では,まだ具体的な提出時期に言及することは困難である。
   ○行革委の意見の全体的構成
      「はじめに」,「要綱案」及び「考え方」の3部構成であり,「はじめに」は,行政改革委員会の審議で追加されたものである。「要綱案」及び「考え方」は,部会報告が同委員会においてそのまま承認されたものである。「要綱案」は,4章構成(総則,行政文書の開示,不服申立て,補則)になっている。「考え方」は,「要綱案」の解釈を示したものではなく,「要綱案」に示された立場を採用するに至った趣旨・理由を説明したものである。
   ○目的規定及び定義規定
      目的規定(第1)に関連して,「知る権利」という言葉を用いるかどうかについても議論がされた。この概念には多くの理解の仕方があることから,規定の中では用いないこととされたが,憲法の理念を踏まえて充実した情報公開制度の確立を目指すことが確認されている(意見書17~18頁参照)。
 開示請求の対象となる機関(第2第1号)は行政機関であり,国会及び裁判所は,三権分立の下における独立の機関であることから,対象外とされている。
 開示請求の対象となる文書(第2第2号)は行政文書であり,定義規定の「行政機関の職員が職務上作成し又は取得した」とは,行政機関が保有する文書をすべて含む表現である。記録に用いられる媒体や記号・符号の種類は問わないが,いわゆる電子情報については,今後の技術的な発展等に対応する必要があることから,政令に委任することとしている。「組織的に用いるもの」とは,開示請求がされた時点で,職員個人段階のものにとどまる文書を除き,行政機関において業務上必要なものとして利用・保存されている文書を広く対象とする趣旨である。決裁等の一定の手続を経たもの,文書管理規程に基づき管理しているもの等に限定すべきであるとの意見もあったが,このような限定はしないこととされた(意見書19~20頁参照)。第2号ただし書により対象から除外されている文書のうち,イは,市販の図書類や公共の図書館で容易に入手することができる文書を除外する趣旨であり,ロは,行政機関において一般の行政情報とは異なる目的で保有されている情報で,行政情報公開とは別の基準による開示制度に委ねるべきものを除外する趣旨である。
   ○開示請求権制度の基本的枠組み
      何人にも開示請求権を認め,行政機関の長は,開示請求権が行使された場合には,原則開示すべきものとしている。すなわち,行政機関の長には,不開示情報については不開示義務が生ずるが,その他の情報については開示義務が生ずるものとしている。開示される情報には,義務的公益開示の規定(第6第1号ただし書ニ,第2号ただし書)によるものが含まれている。また,不開示情報に該当する場合であっても,行政機関の責任と判断に基づく裁量的公益開示(第7)によって開示されることもある。このほか,いわゆる存否情報として,行政文書の存否を明らかにしないで開示請求を拒否することができる場合が認められている(第8)。
 開示不開示の基準は,行政機関の保有する情報を広く公開することの公益性と開示されないことにより保護される利益との適切な調整という観点から定められている(意見書22頁参照)。外国法制や地方公共団体の条例には,様々な規定の仕方があるが,行革委の意見(第6)は,不開示による保護法益に着目して6つの類型に分類した上で,原則的に各法益に応じた定性的な基準(例えば,・・・・が害されるおそれ)を定めている(意見書23~24頁参照)。
   ○開示不開示の基準(第6)の特色
      個人に関する情報(第1号)については,識別可能情報を原則不開示とし,不開示とする必要のない特定の情報を例外開示としている。公務員の職に関する情報は,職務遂行情報と密接不可分であり,例外開示とされているが,他方,公務員の氏名は,私的な生活領域においてプライバシーとして保護されるべきものであることから,同号のイにより開示不開示の判断をするものとしている。
 法人等に関する情報(第2号イ)については,個別の情報ごとに実質的に保護を要するか否かをメルクマールとして開示不開示を判断するものとしている。非公開約束の任意提供情報(同号ロ)に関しては,中間報告に対し,これを不開示情報として認めると官民癒着を温存することになるとか,濫用が懸念されるといった意見があり,部会報告の段階で「約束の締結が・・・・合理的であると認められるもの」という要件が追加されたという経緯がある。
 国の安全等に関する情報及び公共の安全等に関する情報(第3号及び第4号)については,高度な政策的判断を伴うこと,専門的・技術的判断を伴うこと等から,「・・・・おそれがあると認めるに足りる相当の理由がある情報」が不開示とされている。これは,行政機関の長の第一次的な判断権を尊重し,その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるかどうかを裁判所が審理・判断するものとする趣旨である(意見書30頁参照)。
 審議・検討等に関する情報(第5号)は,意思形成過程情報と称されていたものであるが,事項的に意思形成過程の情報をすべて不開示とすべきではなく,開示することにより実質的な支障が生ずるかどうかをメルクマールとして開示不開示を判断することとされたものである。「不当に」という要件は,開示による利益と不開示による利益との比較衡量による判断を予定した表現である。
 行政機関の事務・事業に関する情報(第6号)については,事務・事業の例示として監査,検査等が掲げられているが,その他のすべての個別の事務・事業を対象とする趣旨であり,具体的には,「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」の有無をメルクマールとして,種々の利益を衡量した上で,開示不開示を判断すべきものとしている。
   ○国会,裁判所,地方公共団体に関する情報の取扱い
      行政機関が有する国会等に関する情報についても,当該行政機関の長が開示不開示の判断をすることになる。この場合の取扱いについて,行革委の意見は,第6第1号から第4号までの不開示情報については,国会等に関する情報であるからといって区別して取り扱う理由はないが,第5号及び第6号の不開示情報については,行政機関を前提とした表現を用いていることから,法律案の立案に当たっては工夫が必要になるという考え方を示している。
 個人や法人については第三者保護の手続(第13)が用意されており,国会等についても同様の手続の要否が議論されたが,行政機関による意見照会等の方法で対処することが可能であることから,特別の手続を設けることとはされなかった(意見書33頁参照)。
   ○開示請求及び処理の手続(第9~第16)
      開示請求に対しては,開示処分又は請求拒否処分をすることになる(第9)。請求拒否処分には,行政文書の不存在を理由とする場合や文書の存否を明らかにすることができないこと(第8)を理由とする場合も含まれ,これに対する不服申立ても認められる。
 第10は開示請求に対する措置の期限について,第11は第10の期限内に処理することが困難である場合の特例についてそれぞれ定めたものである。
 行政文書には,例えば大蔵省が保有している他省庁作成に係る予算関連文書のように,他の行政機関に密接に関連するものがあり,開示請求に対する判断を当該他の行政機関の判断に委ねた方が迅速かつ適正な処理に資する場合があると考えられる。この点を考慮して,事案の移送を認めるものとされている(第12)。
 開示請求に係る文書に第三者に関する情報が記録されている場合には,行政機関の長が,その裁量により,当該第三者から意見を聴く手続を設けるものとされている(第13第1項)。これに対し,義務的公益開示(第6第1号ただし書ニ,第2号ただし書)及び裁量的公益開示(第7)は,第三者にある程度の不利益が生ずることを前提としながら利益衡量に基づいて開示する場合であることから,第三者からの意見聴取が義務的とされている(第13第2項)。
 開示請求を処理する行政機関の単位は,第2第1号に規定する各行政機関である(同号ロにより,例えば法務省と検察庁,国家公安委員会と警察庁とはそれぞれ開示請求については別個の処理単位となる。第2第1号ハの政令で定めるものは,今後の検討に委ねられているが,候補としては検察庁,警察庁のほか,国立大学等が挙げられている。)。しかし,行政機関における事務の効率的な配分という観点から,地方支分部局において判断が可能なものについては権限の委任を認めることとされており(第16),これによって地方在住者の便宜が図られることが期待されている。
   ○不服申立て(第17~第22)
      行政不服申立てについては,諮問型の第三者機関として不服審査会を設けることとしている(第17)。不服審査会は,全国に一つ置かれる権威の高い機関とし,委員の任命についても,国会同意人事とし,内閣総理大臣が任命するものとしている(第18,第19)。もっとも,会計検査院は憲法上独立の機関とされていることから,政府の機関とは別に不服審査会を設置することも考慮している(意見書47頁参照)。
 不服審査会の審理は,職権に基づき,非公開で行うものとされているが,適切な判断を可能とするために,充実した審査権限を与えるものとされている(第20)。第20第1項においていわゆるインカメラ審理のために開示請求に係る文書の提出を求める権限を与えることとされているほか,第2項においてボーン・インデックス(請求拒否処分をした文書について,その記載内容を分類・整理し,各項目ごとに請求拒否の理由を説明する方式)も採用することとされている。インカメラ審理について,行政情報公開部会の審議においては,不服審査会に対しても開示することができない文書が存在するので,行政機関の判断で提出を拒否することができるものとすべきであるとの意見もあったが,最終的には,不服審査会が文書の提出を求める必要性について判断するものとされた(意見書45頁参照)。
   ○補則
      行政文書の定義規定(第2第2号)においては,行政機関の文書管理規程との関連付けはされなかったが,実際には,行政文書の適正な管理がされなければ情報公開法は機能しないと考えられる。このため,行政情報公開部会の審議においては,別に文書管理に関する法律を制定すべきであるとの意見もあったが,最終的には,情報公開法に適正な文書管理を義務付ける規定(第23)を設けることとされた(意見書21頁参照)。
 地方公共団体の保有する情報については,現在,機関委任事務に関する情報も含めて情報公開条例による開示の対象とされている。行革委の意見(第26)は,地方公共団体の自律性を尊重しつつ,情報公開法の趣旨に沿った施策を講ずべき旨の努力規定を設けることとしている。
 特殊法人についても,行革委の意見(第27)は,情報公開に関する制度又は施策を整備すべきであるとの認識に立っているが,情報公開法をそのまま一律に適用することは適当でないため,政府の検討に委ねることとしている(意見書48頁参照)。
 経過措置としては,施行後に行政機関が作成し又は取得した文書だけでなく,施行前に作成し又は取得した文書であっても開示請求の時点で保有しているものには情報公開法を適用するものとしている(第29)。
   ○その他
      不開示情報と守秘義務との関係については,実質秘と不開示情報の位置付けと,職務義務規定の適用の2点が問題とされたが,前者については両者を関連付けることは必須要件ではないとされ,後者については情報公開法による適法な開示である限り守秘義務違反による責任を問われないとすることが可能であるとされた(意見書35頁参照)。後者については,現行法の解釈上このように解することができるとの意見が強かったように認識しているが,立法措置が必要かもしれないとの意見もあり,今後の検討に委ねられている問題である。
 関係法律としては,国民への情報提供義務を定めたもの,開示請求等に基づく開示義務を定めたもの,公にすることの禁止を定めたもの等がある。行革委の意見は,情報公開法とこれらの個別法とは目的,手続が異なるから,基本的には情報公開法の規定と個別法の規定とがそれぞれ適用されることにしてよいという立場に立っている(意見書49頁参照)。個別法との具体的な調整の在り方については,個別法が情報公開法のない時期に制定されたものであること等にも留意しつつ,法律案の立案作業の中で検討することになると思われる。
 個人情報(特に医療,教育関係情報)の本人開示については,本人が見ることによる不利益は少ないと考えられるので不開示とするのは不合理であり,情報公開法の中で手当てをすべきであるとの意見もあった。しかし,行革委の意見は,この問題は基本的には個人情報の保護に関する制度の中で解決すべき問題であるとの立場から,関係省庁において専門的な検討を進める必要があるとの見解を表明するにとどまっている(意見書51頁参照)。
 また,訴訟におけるインカメラ審理については,憲法第82条との関係をめぐって様々な考え方があることから,今後専門的な観点から検討がされることを望んでいる(意見書53頁参照)。
 (3)  秋山研究員から,行政改革委員会の情報公開法要綱案(以下「要綱案」という。)と文書提出命令制度についてと題するテーマで報告がされた。その概要は,次のとおりである。
   ○情報公開法と民訴法の文書提出命令制度との関係
      情報公開法と民訴法の文書提出義務との関係については,まず両制度の趣旨・目的の相違に着目する必要がある。情報公開法は,国民主権の理念に基づき,政府の説明責任を全うし,国民による行政の監視・参加の充実に資することを目的としているのに対し,文書提出命令制度は,公正な裁判の実現,真実の発見を目的としている。
 一般的な開示制度である情報公開法により開示される情報については,当然に文書提出義務がある(何人でも開示請求をすることができる情報については,提出拒絶事由は考えられない。)とされてよいはずであり,文書提出命令制度による開示の範囲については,公正な裁判の実現という目的から,どこまで開示の範囲を広げることができるかが問題になると考えられる。情報公開法に基づく開示についても,開示による不利益と開示による利益との比較衡量が問題になるが,文書提出命令制度では,開示による不利益と公正な裁判の実現という明確な公益とが比較衡量の対象になると考えられるから,この点で両制度は大きく異なるように思われる。
 情報公開法により開示請求権が認められる文書について文書提出義務を認める方法としては,新民訴法第220条第2号による方法,同条第4号による方法等が考えられる。前者の方法については,まず,情報公開法による開示請求権が同条第2号の引渡・閲覧請求権に含まれるか否かが問題になる。情報公開条例による開示請求権については解釈が分かれており,公法上の請求権は現行民訴法第312条第2号の引渡・閲覧請求権には含まれないとする消極説に立つ裁判例もある(例えば,大阪高決昭和62・3・18判タ654・142。なお,情報公開条例をめぐる裁判例については,資料集600頁以下参照)。しかし,最近は積極の方向に進むべきであるとする学説が増えているとの指摘もあり,情報公開法による開示請求権は同号の引渡・閲覧請求権に含まれるという解釈を採用する方法が考えられるであろう。また,同号を参考にして,開示請求権を根拠とする提出義務の規定を新たに設ける方法も考えられるであろう。これに対し,情報公開法による開示請求の対象となる文書は,新民訴法第220条第4号による提出義務の対象文書になると解する方法も考えられる。前述のとおり,情報公開法による不開示情報を含まない文書について提出拒絶事由があると考えることは難しいと思われるが,不開示情報と提出拒絶事由との整合性については検討する必要があるように思われる。
 なお,関係法律との調整(意見書49頁参照)は,情報公開法と個別法とを重複適用するか情報公開法の適用を排除するかという問題であるが,文書提出命令制度は当事者への直接の開示を定めたものではないから,関係法律との調整の対象にはならないように思われる。
   ○開示義務/文書提出義務の基本構造
      要綱案は,不開示事由を列挙しているのに対し,新民訴法第220条第4号は,文書提出義務を一般義務化した上で,提出拒絶事由を列挙している。要綱案は,事項による基準と定性的な基準とを組み合わせて不開示情報を定めており,このような定め方は,公務員所持文書についての提出拒絶事由を考える際の一つの参考になろう。
 立証責任について,要綱案は,不開示情報に該当することを行政機関が立証しなければならないものとしているのに対し,新民訴法第220条第4号は,提出拒絶事由に該当しないことを文書提出命令の申立人が立証しなければならないものとしている。しかし,法制審議会民事訴訟法部会でも議論があったように,事実上の立証の負担は文書の所持者が負うことになると考えられるので,実際上の差異はあまり生じないかもしれない。
   ○公務員の守秘義務条項との関係
      行政情報公開部会の審議においては,公務員法上の職務上の秘密という概念は抽象的で不明確であり,具体的に列挙した不開示情報の範囲との一致・不一致を議論する実益に乏しいということになり,不開示情報に該当しないと判断して適法に開示した場合には守秘義務違反にはならないという整理がされた。その際,公益開示の規定によって開示した場合には,もともと違法性がないのか,守秘義務違反ではあるが正当業務行為として違法性が阻却されるのかについても議論がされた。このような議論がされたことに照らすと,今後,提出拒絶事由に関する規定を設けるに当たって,公務員法上の職務上の秘密という概念をメルクマールとすることができるかどうかが一応問題になるように思われる。
   ○開示義務/文書提出義務についての判断権,司法審査の在り方
      開示処分・請求拒否処分という行政処分に対しては,取消訴訟を提起することができるが,この訴訟においては,不開示情報の有無について裁判所が実質判断を行うことになる。このため,新民訴法の政府原案の規定が裁判所の判断権を認めないものであるとすると,要綱案の考え方と整合しないのではないかという批判がされたところである。
 政府原案については,「職務上の秘密」の該当性と「承認」の要件の有無の2点について判断権の所在が議論された(伊藤研究員の論文-ジュリスト1051号~1053号-参照)。現行民訴法第312条第1号~第3号については,裁判所が公務員の職務上の秘密の有無について実質判断をしたと思われる裁判例として,東京高決昭和62・6・30判時1243・37,同昭和62・7・17判タ641・80,大阪地決昭和61・5・28判時1209・16,東京高決昭和44・10・15判時573・20等がある(柴田純子「証拠収集手続における秘密保護の範囲」早稲田法学72巻1号参照)。
 要綱案の「・・・・のおそれ」という表現には批判もあるが,「おそれ」の有無については具体的な立証が要求されると解される。情報公開条例についての裁判例においても,不開示情報の該当性については具体的な立証が要求されており,最高裁の判例も同様の見解に立っていると思われる。例えば,大阪府水道部の懇談会等の経費支出関係書類公開請求事件の上告審判決(資料集270頁参照)で,第三小法廷は,条例の「公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」という不開示情報(資料集589頁参照)について,懇談会等には内密の協議を目的とするものとそれ以外のものとがあり,後者については公開しても不都合な事態が生ずることは考えにくいから,当該懇談会等が内密の協議を目的としたものであり,かつ,文書の開示によって懇談会等の相手方が了知される可能性があることを具体的に主張立証する必要があるとの判断を示している。
 国の安全等に関する情報及び公共の安全等に関する情報(要綱案第6第3号及び第4号)については,行政庁から「行政機関の長が・・・・のおそれがあると認めた情報」とすべきであるとの意見が出されたが,このような主観的要件ではなく,客観的な要件にすべきであるという議論がされた経緯がある。そもそも司法審査の程度について要件を書き分けることに対しては,裁判所は不開示情報の性格に即した判断をするであろうから,不開示情報ごとに司法審査の程度を書き分ける必要はなく,むしろ書き分けると行政機関の裁量権を不当に尊重することになりかねないという反対の意見もあった(行政情報公開部会第54回議事概要参照)。また,要綱案の「・・・・おそれがあると認めるに足りる相当の理由」の解釈については,出入国管理令に基づく法務大臣の判断について,「その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り,裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法となるものというべきである」との判断を示したマクリーン事件最高裁判決(昭和53・10・4)の基準では緩やかすぎるという意見が強く,部会報告の「考え方」の表現に落ち着いたという経緯がある。部会報告は,裁判所は合理性の枠内にあるかどうかを審理判断するものとする考え方であり,他の不開示情報よりも行政機関の第一次的な判断権を尊重するものである(意見集30頁参照)。この点については,奥平康弘国際基督教大学教授と塩野部会長代理との対談「情報公開法制定に向けて」(法律時報69巻1号16頁参照)で興味深い議論がされている(なお,アメリカの情報自由法における de novoについては,資料集231頁及び364頁参照)。
   ○不開示情報と文書提出拒絶事由との対応関係
      個人に関する情報については,新民訴法第196条,第197条第1号との対比が問題になると考えられる。所持者以外の者のプライバシーや名誉の取扱いについては,いくつかの見解が考えられるが,公務員が所持している文書については,これに記録された第三者のプライバシーや名誉がそのまま公務員の職務上の秘密に該当すると考えることも一つの考え方であろうと思われる。
 法人等に関する情報については新民訴法第197条第2号及び第3号との対比が,このうち非公開約束任意提供情報については同法第197条第1号との対比がそれぞれ問題になると考えられる。前者については,同条第2号と第3号との関係(例えば,弁護士と依頼者との間の秘密情報を記録した文書は,弁護士が所持者のときは第2号の該当性が問題になり,依頼者が所持者のときは第3号の該当性が問題になるのか等)も問題になり得ると思われる。
 国の安全等に関する情報及び公共の安全等に関する情報については,まさに新民訴法第197条第1号との対比が問題になり,同号が引用する同法第191条第2項の承認の要件との関係も問題になろう。
 審議・検討等に関する情報及び行政機関の事務・事業に関する情報については,新民訴法第220条第4号ハのいわゆる自己使用文書との対比が問題になると考えられる。新民訴法上の自己使用文書は,文書の性格に着目して提出義務の対象から除外されているものであり,開示による支障の有無は問題とされていない。しかし,要綱案は,単に内部文書であるというだけでは無条件に不開示とはせず,支障の有無を問題としているので,いわゆる行政文書についての文書提出命令制度を検討するに当たっては,両制度の関係が問題になると思われる。
   ○関係法律との調整
      関係法律との調整に関連して,刑事訴訟法第47条に該当するものは不開示という整理になるのか,また,刑事確定記録法は完結した開示の制度であるとして情報公開法の適用を除外することになるのか,という問題がある。文書提出命令制度についても,これらの法律との関係で検討すべき問題(例えば,公正な裁判の実現のために文書提出命令を発令する必要がある場合は,刑事訴訟法第47条ただし書に該当することになり,両者は矛盾するものではないと考えることができるか等)があるかもしれない。
   ○公益裁量開示
      要綱案は,不開示情報に該当する情報であっても開示することによる利益が優越する場合には,行政機関の裁量で開示することができるという考え方を採用している。文書提出命令制度についても,これと同様に,提出拒絶事由に該当する場合であっても,提出による不利益と公正な裁判の実現という利益との比較考量の結果として裁判所が提出命令を発令することができるという考え方を採用することができるかどうかが議論の対象になると思われる。
   ○存否情報
      新民訴法で新設された文書の特定のための手続(第222条)において,要綱案(第8の行政文書の存否に関する情報)と同様に,文書の存否を明らかにしないという対応が可能かどうかが議論の対象になり得るように思われる。
   ○インカメラ審査
      要綱案の審議においては,行政庁の側から,行政機関の判断で提出を拒否することができるものとすべきであるとの意見が出された。特に公安関係の担当部門からは,日本の特定の機関の特定の者に限定してはじめて提供を受けることができる外国の諜報機関からの情報があり,このような情報については,第三者機関に提出しなければならない可能性があるというだけで提供を受けられなくなってしまい,第三者機関が信用できるかどうかという問題ではない旨の説明もされた。しかし,最終的には,不服審査会が必要性を判断し,必要と認めるときは提出を求めることができるものとされた(第20第1項。新民訴法第223条第3項参照)。このような審議経過から考えると,いわゆる行政文書についての文書提出命令制度の検討に当たっても,インカメラ審査の是非,一定の範囲で裁判所への提示の拒絶を認めるかどうか等が議論になると思われる。
   ○ボーン・インデックス
      行政機関に文書の内容をできる限り詳細に主張させ,それに対応する不開示の理由を明らかにさせることによって,裁判所の判断を容易にするとともに,当事者にとっても主張が容易になるようにするための制度である(資料集335頁参照)。情報公開条例の裁判においては,既にかなり行われているようである。これと同様の訴訟法上の手当てが必要か,釈明権の行使によって対応することが可能かが一応問題になると思われる。
   ○第三者保護に関する手続
      要綱案は,義務的公益開示及び裁量的公益開示のときは第三者への事前通知を義務付け,当該第三者に開示の差止めの機会を与えるという仕組みを採用している。文書提出命令制度においては,第三者が所持する文書については当該第三者の審尋が必要的とされているが,所持者ではない第三者の保護(例えば,行政機関が所持する文書に私企業の秘密が記載されている場合に,当該私企業の保護をどのようにして図るか等)についても検討すべきように思われる。
   ○要綱案と訴訟手続に関するその他の問題
      文書提出命令制度との直接の関係はないが,訴訟におけるインカメラ審理(所持者ではない当事者には見せないで裁判所が文書を証拠として調べる方法,あるいは,ボーン・インデックスを作成するために裁判所だけが文書を直接見る方法)の当否という問題があり,将来的には,民事訴訟法の問題として議論されることになるのではないかと考えている。
 取消訴訟の管轄の問題も,行政情報公開部会では相当に議論された問題である。行政事件訴訟法第12条第1項の原則に従うと,処分庁である行政機関の長の所在地の裁判所が管轄裁判所となり,ほとんどの場合には東京で訴訟を提起しなければならなくなってしまうが,このことの当否が議論された(意見書52頁参照)。要綱案の審議においては,同条第2項や第3項のような管轄の例外規定が認められていることから,開示請求の対象となる文書の所在地や文書に関連する土地にも管轄を認めることとするといった具体案も出されたが,行政事件訴訟全体の問題であることから,今後,管轄に関する特例を設けるべきであるという要望が強いことを踏まえて検討されることを望むこととされた。
 このほか,同一文書について複数の訴訟が係属した場合の取扱い等についても問題提起がされた。
 (4)  上記(2)の紹介及び(3)の報告に基づいて質疑応答が行われた。その概要は,次のとおりである。
   (いわゆる任意提供情報について)
    ・  法人等に関する情報のうち,第三者保護の手続が義務的とされているのは要綱案第6第2号ただし書の場合だけであり,いわゆる任意提供情報(同号ロ)に該当するかどうかの判断に当たっては,行政機関の裁量で意見を聴取することができるとされているにすぎない(第13第1項)。このように,行政庁限りという約束の下で提供した情報を,提供者の意見も聴かないまま開示する取扱いが認められることになるとすると,民間企業としては,行政庁からの要請があっても情報の提供を拒むことになるのではないか。
    ・  行政情報公開部会では,行政機関と民間企業との関係について,現在のように行政指導で情報を入手していることの当否を含め,様々な議論があったが,要綱案第6第2号ただし書(公益開示)に該当する場合以外は,行政機関の判断に委ねることとされたものである。
    ・  行政機関が第三者の意見を聴かなかったとしても,当該第三者は,開示処分に対して不服申立てをすることができるのではないか。
    ・  不服申立てをすることはできるが,当該第三者は開示処分の相手方ではなく,当該第三者からの意見聴取がされなかった場合には,当該第三者に対する開示処分の通知はされない。したがって,当該第三者にとっては,不服申立ての機会を与えられない可能性があることになる。
    ・  情報公開条例においても,第三者からの意見聴取は義務的ではなく,裁量的とされている。これは,規定上,義務的とすると手続が重くなるからであるが,実際には,意見聴取が必要であると考えられる場合には第三者の意見を聴いており,要綱案第6第2号ロの場合についても,運用の問題として対処することができるのではないか。
    ・  行政情報公開部会では,非公開約束に反して開示がされた場合について,適法な開示であれば損害賠償請求の問題ではなく,損失補償の問題ではないか等の議論もされた。
    ・  非公開約束についての合理性の要件は,中間報告にはなかったものであり,中間報告に対する様々な意見,すなわち,非公開約束の存在という形式的な要件だけで実質要件なしに非開示情報とすることの当否についての様々な意見を踏まえて,部会報告の段階で盛り込まれたものである。文書提出命令の場面においても,当事者間で秘密約束をしていることは一つの考慮要素にはなると考えられるが,秘密約束があることの一事をもって提出拒絶事由と解することはできず,実質秘であることが要求されると解されるし,証拠としての必要性との利益衡量も問題になるのではないか。
    ・  民事訴訟においても,非公開約束があるときとそうでないときとでは,実質秘の判断に違いが生ずるかもしれない。
    ・  行政情報公開部会の審議においては,法人等に関する情報のうち実質的に保護すべきものは第6第2号イでカバーされるので同号ロは不要ではないかとの意見もあった。しかし,情報提供者にとってはイのような実質的要件だけでは不安が残るから,法人等からの情報の任意提供に支障を生ずるおそれがあるとの意見が出され,ロが盛り込まれたという経緯がある。このような審議の経過に照らして考えると,ロの合理性の要件は,実質秘よりも緩やかなものであると解さざるを得ないように思われる。
   (第三者保護に関する手続について)
    ・  要綱案(第13第3項)の考え方は,開示処分が当該第三者に対する関係でも行政処分に該当し,当該第三者はこれに対する行政不服申立て又は抗告訴訟の提起をすることができるという見解を前提にしたものである。この点については,開示処分に関する行政訴訟が主観訴訟か客観訴訟かという議論に始まり,訴訟を提起することができる旨の規定を設けるべきではないかという点も議論がされたが,情報公開条例をめぐる裁判例において,訴訟を提起することができるという解釈や執行停止を認めることができるという解釈が定着していることから,要綱案は,このような解釈を前提としてまとめられたものである。
   (不服審査会の設置について)
    ・  不服審査会制度は,簡易迅速な救済の確保を目指すものであり,これが不服審査会を裁決機関とはせずに諮問機関とした理由の一つでもある。地方公共団体における運用実績に照らしても,諮問機関としての不服審査会が第三者的立場から意見を述べることには積極的な意義が認められるというのが行革委の意見の立場である。
    ・  不服審査会の委員の人数,事務局の組織等については,政府の検討に委ねられている(第22)が,具体的な検討はこれからである。行革委の意見は,いわゆる小法廷方式を採用し,不服審査会の委員のうち一定数の者で合議体を構成し,その判断を不服審査会の判断とすることができるものとしている(第21第5項)。
    ・  不服審査会を全国に一つ置かれる機関とすることについては,諸外国の法制に同様の例があるものの,地方在住者にとって不便ではないかとか,全国の事件を迅速に処理することができるのかといった意見もあった。しかし,不服審査会を地方に複数置く場合,階層構造にするのであればまだしも,並列的な組織とすると,同一の文書についての不服申立てが開示請求者の居住地によって異なる不服審査会に係属することになり,統一性のとれた運用の確保が困難になるし,人材の確保も難しく,不服審査会の権威を高めようという方針にも反するといった問題があると考えられたものである。不服審査会の審理は,基本的には書面審理であり,しかも口頭による意見陳述の聴取は委員の一部の者に行わせることができるものとされている(第21第6項)から,この規定の運用によって適切な対応が可能であると考えられる。
   (不服審査会の調査権限について)
    ・  ボーン・インデックスに類することは,情報公開条例に関する訴訟において,訴訟指揮の形で既に行われている。すなわち,文書の記載内容についての抽象的な主張と非開示事由との結びつきについての抽象的な主張だけでは裁判所が心証を形成することはできないというような場合には,どちらについても具体的な主張を促すことが行われていると思われる。しかし,このような運用は,文書を直接に見ることができないことを前提としており,インカメラが認められる場合にはボーン・インデックスは必要ないようにも思われる。行革委の意見では,インカメラについてもボーン・インデックスについても必要性を要件とした上で認めることとしているが,それぞれどのような場合に必要性が認められることになるのか。
    ・  行政情報公開部会の審議においては,ボーン・インデックスとインカメラとを使い分けるという前提で議論がされたこともあったが,最終的には,通常の場合にはインカメラを利用した上で判断をし,ボーン・インデックスも必要と認めるときには併用するものとされたという経緯がある。インカメラは,行政機関の主張する不開示情報が記載されているかどうかを確認したり,部分開示の範囲をきめ細かく判断するために有効であり,他方,ボーン・インデックスは,記載されている不開示情報の性格や開示による支障の有無を判断する場面で有益であると考えられる。このように,両者は,機能的に異なる面があるように思われる。
    ・  請求者の側にも主張を尽くさせる必要があるし,不服審査会としても部分開示について適切な判断をするためには情報を適切に区分けしておく必要があると思われる。したがって,インカメラで文書を直接見る場合にも,ボーン・インデックスを利用する実益は認められるのではないか。文書提出命令についても部分開示が問題となる(新民訴法には部分開示についての明文の規定(第223条第1項後段)が置かれた。)から,裁判所が文書提出義務の存否の審理にインカメラを利用することができる場合についても,ボーン・インデックスのような工夫が必要になるのではないか。
    ・  アメリカでは,裁判所がインカメラの権限を有していながら,実際上はほとんどの場合にボーン・インデックスが利用されている。ボーン・インデックスが注目される一つのきっかけとなったのは,1974年改正により部分開示の規定が設けられたことであるといわれている。裁判所が部分開示について判断をする際に,開示請求に係る文書をいきなりインカメラで見ることとしては,裁判所の負担が大きくなりすぎることから,行政機関にできる限り詳細なインデックスを作成させている。また,インカメラ審理は対審構造を弱めることになることから,ボーン・インデックスによって請求者にできる限り多くの情報を与えることが適当であるとの指摘もされている。
    ・  行政情報公開部会の審議においては,情報公開訴訟におけるインカメラ審理の導入の是非という問題(意見書53頁参照)と,新民訴法第223条第3項が文書提出義務の存否の審理手続としてインカメラ審理を採用したこととの関係については,特に議論はされなかった。
    ・  存否情報については,このようなカテゴリーを認めてしまうと,これによって開示が阻害されるのではないかという意見があり,どのようにして濫用を防止するかを議論する中で,インカメラとの関係についても議論がされた。行政情報公開部会は,存否情報に該当する場合にはインカメラの対象にならないという結論は出していないが,存否情報に該当するかどうかは類型的に判断することできる場合が多いようにも思われるので,インカメラによるチェックが必要かどうかについては見解が分かれるかもしれない。
    ・  不服審査会の判断の公正さは,インカメラによって直接に文書を見ることができなければ担保されないのではないかという意見がある一方で,直接に文書を見なければ適正な判断をすることができないかどうかは,ケースバイケースであり,一概には決められないのではないかという意見もある。例えば,存否情報として通例認められるもの(特定の個人の病歴が記載された文書,犯罪の内偵捜査に関する情報が記載された文書等)の開示請求については,不服審査会が常に文書を直接に見なければ判断できないものではなく,類型的に判断することも可能ではないか。
    ・  アメリカの情報自由法では,グロマー拒否の場合にも,訴訟の提起が認められており,裁判所はインカメラの権限を有している。この場合,行政機関が存在・不存在の回答を拒否する理由を記載した宣誓供述書を裁判所に提出し,裁判所は,その理由を相当と認めれば,この段階で判断を示すが,その理由を納得することができなければ,インカメラにより文書の提出を求めることになる。これに対し,行政機関は,文書が存在しない場合にはその旨を説明し,文書が存在する場合にはこれを提出した上で,存否を明らかにすることができない理由を説明することになる。裁判所は,このような審理によってグロマー拒否を相当と判断した場合には,文書の存否を明らかにすることはできないが,仮に行政機関がグロマー拒否をしたとしても,それは適切な拒否権の行使である旨の判断を示すことになっている。
    ・  不服審査会がインカメラで開示請求に係る文書を直接に見たとしても,当該文書は抗告訴訟には証拠として提出されないのであるから,裁判所としては,不服審査会がどのような根拠に基づいて答申をまとめたのかを知ることができず,答申を証拠として心証を形成することは難しいのではないか。
    ・  開示請求者としては,不服審査会の審理過程で明らかとされた資料を閲覧謄写し,訴訟において証拠として利用することは可能である。
    ・  見識のある不服審査会が正式の手続により開示請求に係る文書を直接に見て判断をしたということ自体が一つの有力な証拠となり,あとは裁判所の自由心証の問題であると考えることになろう。
    ・  そのように考えるとすると,訴訟においては,不服審査会が答申の中で示す理由が重要な意味を持つことになろう。
    ・  情報公開条例に関する地方自治体の答申例を見ると,開示請求に係る文書に記載されている情報についても支障のない範囲で明らかにした上で,各情報についての不開示の理由を示している。
   (情報公開法と新民訴法の文書提出命令制度との関係について)
    ・  新民訴法第220条第4号による文書提出義務については,「書証の申出を文書提出命令の申立てによってする必要」性が要求されている(同法第221条第2項)から,情報公開法に基づく開示請求権が認められる文書については,当事者が開示請求権を行使することによって文書を入手した上で書証として提出しなければならないということになるのではないか。
    ・  情報公開法による開示請求の対象となる文書について,新民訴法第220条第4号により提出義務が認められるものと考えるとすると,同法第223条第3項のインカメラを利用することができることになるが,同法第220条第2号により提出義務が認められるものと考えるとすると,インカメラを利用することはできないことになる。
    ・  情報公開法による開示請求権が新民訴法第220条第2号の引渡・閲覧請求権に含まれると解するとすると,情報公開法の手続によらないで文書提出命令の手続だけで裁判所が開示請求権の有無についての判断を下すことになってしまうが,情報公開法による開示請求権は,情報公開法が定める一定の手続に基づいて開示を請求することができる権利を意味するのではないか。
    ・  解釈論として,開示請求の対象となる文書について新民訴法第220条第2号による提出義務が認められるかどうかは議論が分かれるところであると思われるが,情報公開法による開示請求の対象となる文書について提出義務を認める旨の規定を新設するという考え方もあり得るのではないか。
    ・  情報公開法による開示請求権の主体となる「何人」には,国や地方公共団体も含まれるのか。仮に,国や地方公共団体は含まれないと考え,かつ,開示請求の対象文書について新民訴法第220条第2号により提出義務が認められるものと考えた場合には,同じ行政文書について,私人が提出命令の申立人である場合には提出義務が認められるが,国や地方公共団体が提出命令の申立人である場合には提出義務が認められないということになってしまう。
    ・  いずれにしても情報公開法と文書提出命令制度との関係については,今後検討すべき基本的な論点の一つということができるであろう。
 (5)  第4回及び第5回研究会における関係団体からのヒアリングについては,経済団体,労働団体,消費者団体及びマスコミ関係団体からのヒアリングを実施することとされ,ヒアリング先の選定,ヒアリングの順序等については,座長及び事務当局に一任することとされた。
6 次回研究会の開催予定  平成9年2月19日(水)午後1時30分から(場所:法務省第2会議室)


(別紙)

文書提出命令制度研究会研究員名簿

 (座長) 竹 下 守 夫  (駿河台大・民事訴訟法)
      秋 山 幹 男  (弁護士・第二東京弁護士会)
      阿 部 一 正  (新日本製鐵株式会社知的財産部専門部長・経団連推薦者)
      伊 藤   眞  (東大・民事訴訟法)
      宇 賀 克 也  (東大・行政法)
      菅 野 雅 之  (最高裁事務総局民事局参事官)
      熊 谷 謙 一  (日本労働組合総連合会労働対策局次長・連合推薦者)
      小早川 光 郎  (東大・行政法)
      長 野 勝 也  (最高裁事務総局民事局付)
      萩 本   修  (法務省民事局付) *
      長谷部 由紀子  (成蹊大・民事訴訟法)
      花 村 良 一  (法務省民事局付) *
      平 山 正 剛  (弁護士・東京弁護士会)
      深 山 卓 也  (法務省民事局参事官) *
      山 下 孝 之  (弁護士・大阪弁護士会)
      山 本 和 彦  (一橋大・民事訴訟法)

*印は幹事役を示す。