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イレッサ訴訟

訴訟の概要

(1) 本件は,肺がん治療薬イレッサを服用した患者本人又はイレッサを服用してその後死亡した患者の遺族の方々が,患者らはイレッサの副作用により間質性肺炎を発症し若しくは増悪させ,又はそれにより死亡したものであり,厚生労働大臣には,(1)イレッサに有効性,有用性がないにもかかわらず,不十分な審査しか行わないままこれを承認した違法がある,(2)イレッサの副作用である間質性肺炎について適切な安全対策を執らなかった違法があるなどと主張して,国に対しては国家賠償法1条1項に基づき,イレッサを輸入販売した会社に対しては製造物責任法3条又は不法行為に基づき,損害賠償を求めている事案です。

平成16年以降,東京地方裁判所,大阪地方裁判所の2地裁に提訴されました。

 

(2) 東京地方裁判所は,平成23年3月23日,イレッサの有効性,有用性を認めて,イレッサの設計上の欠陥及び厚生労働大臣がイレッサの輸入を承認したことの違法性をいずれも否定する一方,イレッサ承認時の添付文書の「警告」欄に間質性肺炎を記載するなどしなかったことが,副作用の指示・警告として不十分であったとして,輸入販売会社及び国の責任を一部の原告について認める判決を言い渡しました。この判決に対しては,原告・被告双方が控訴し,控訴審の東京高等裁判所は,同年11月15日,イレッサには,設計上の欠陥,指示・警告上の欠陥,販売指示上の欠陥及び広告宣伝上の欠陥のいずれも認められないから,原告が輸入販売会社に対してした製造物責任法3条又は不法行為に基づく損害賠償請求には理由がなく,そうである以上,イレッサの輸入承認をするなどした国に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求にも理由がないとして,東京地方裁判所の判決を取り消し,輸入販売会社及び国の責任をいずれも否定する判決を言い渡しました。この判決に対しては,原告が上告及び上告受理の申立てを行っており,現在最高裁判所に係属中です。

 (3) 他方,大阪地方裁判所は,平成23年2月25日,前記(2)の東京地方裁判所の判決と同様に,イレッサの有効性,有用性を認めて,イレッサの設計上の欠陥及び厚生労働大臣がイレッサの輸入を承認したことの違法性をいずれも否定する一方,イレッサ承認時の添付文書の指示・警告上の欠陥を肯定して,輸入販売会社の責任を一部の原告について認めましたが,添付文書の記載内容に係る厚生労働大臣の規制権限不行使の違法性についてはこれを認めず,国の責任を否定する判決を言い渡しました。この判決に対しては,原告及び輸入販売会社が控訴し,控訴審の大阪高等裁判所は,平成24年5月25日,イレッサには,設計上の欠陥,指示・警告上の欠陥,広告・宣伝上の欠陥及び販売上の指示に関する欠陥のいずれも認められず,輸入販売会社は,製造物責任法上も民法上も損害賠償義務を負わないのであるから,厚生労働大臣がイレッサの輸入を承認したこと及び同大臣の薬事法上の権限行使・不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法となる余地はないとして,大阪地方裁判所の判決のうち輸入販売会社の敗訴部分を取り消して,輸入販売会社及び国の責任をいずれも否定する判決を言い渡しました。

  この判決に対しては,原告が上告及び上告受理の申立てを行っており,現在最高裁判所に係属中です。

国側の主張

国の主張の概要は,以下のとおりです。

 

(1) 承認の違法性について

国は,平成14年7月当時の医学的,薬学的知見の下で,イレッサの有効性,有用性は認められたのであり,このような知見に従って厚生労働大臣がイレッサの輸入を承認した行為に国家賠償法上の違法は認められないと主張しています。

 

(2) 安全対策の違法性について

最高裁の判例(クロロキン訴訟最高裁判決等)上,規制権限の不行使が国家賠償法上違法となるのは,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,当時の具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限られます。

国は,イレッサを承認するに当たり,輸入販売会社に対し,添付文書の「重大な副作用」欄に間質性肺炎を記載するよう指導したほか,イレッサを劇薬及び要指示医薬品に指定するとともに,医療用医薬品に認定することによって,イレッサの濫用を防止し,さらには,イレッサの適正使用を確保するため,市販直後調査(イレッサの販売開始後6か月間,イレッサを納入した医療機関に対して,会社の医薬情報担当者(MR)を介するなどして定期的にイレッサの慎重な使用を促すとともに,副作用情報の収集・報告を迅速に行い,必要な安全対策を実施し,副作用の被害を最小限にするための活動)の実施を承認条件として義務付けるなどしていたものであり,このような国の対応が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められず,国家賠償法上の違法は認められないと主張しています。

係属裁判所

最高裁判所