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第3 不動産登記法部会での検討について

1 オンライン登記申請の対象範囲

(1 )権利に関する登記におけるオンライン登記申請の対象範囲
 権利に関する登記については,aオンライン申請の対象範囲を一定の種類の登記に制度上制限するか,又は,b制度上制限しないこととするか。
(補足説明)
 オンライン登記申請における添付書面の見直しにも関係するが,なお,必要とされる添付書面(証明書等)については,電子化が比較的容易に行われるものと電子化が当面困難と予想されるものがある。そこで,オンライン登記申請の対象範囲を,登記名義人の表示変更登記や抵当権設定登記の抹消に限定するなど,添付書面の電子化が比較的容易な登記を,登記の種類によって限定することが考えられる。しかし,添付書面の中に電子化されていないものが含まれる可能性を理由に一定の種類の登記の申請すべてをオンライン登記申請の対象から除外するのは相当ではない。そうすると,一部の添付書面が電子化されていないものについては,オンライン申請によって添付書面を送信することができないため,結果として,オンライン申請ができないこととなるが,オンライン登記申請の対象範囲を制度上制限する必要はないとの意見が多数を占めた。
(2 )表示に関する登記におけるオンライン登記申請の対象範囲
 表示に関する登記については,aオンライン登記申請の対象外とするか,また,オンライン登記申請の対象とした場合,b一定の種類の登記に制度上制限するか,c制度上制限せず,すべての表示に関する登記についてオンライン申請の対象とするか。
(補足説明)
 表示に関する登記は,地積測量図,建物図面や建築確認図面等の添付書面が多いこと,順位確保の問題がなく,復元性のある書面によって申請されるものであるため郵送による登記申請が認められていること,実地調査が行われることなど,権利に関する登記と異なる性質を有するため,表示に関する登記をオンライン登記申請の対象とするか否かについては,図面等の扱いも含め,今後さらに検討することとされた。
(3 )電子化できない添付書面を含む登記申請の取扱い
 電子化できない添付書面を含む登記申請について,aオンラインによる申請を認めないこととするか,又は,b電子化できない添付書面について,郵送や持参を認める方法などによってオンライン申請を認めることとするか。
(補足説明)
 電子化できない添付書面を含む登記申請について,オンラインで申請した後に添付書面の郵送や持参を認める方法や,相続証明書等の添付書面について最寄りの登記所で審査を受けその結果をオンラインで送信する方法及び一定の有資格者が確認した書面については添付を省略する方法などの代替手段が考えられる。これに対して,申請時点では添付書面が整っておらず申請ができる状況にないのに,順位を確保するためだけに申請情報等を送信されるおそれがあることや,申請情報等と別途送付・持参された添付書面との関連付けが困難であることから,添付書面について,郵送や持参を認めることは相当ではないとの意見が多数を占めた。
 なお,相続証明書については最寄りの登記所において審査するなど,審査を分業することにより添付すべき書面が電子化されていない場合に,オンライン申請を可能とすることについては,申請の審査が複数の登記所で行われると,処分の責任が不明確となるので,消極に解するとの意見が多数を占めた。
(4 )オンライン登記申請の対象となる登記所
 オンライン登記申請の対象となる登記所については,a登記所を個別に指定して順次対象の範囲を拡大することとするか,b登記事務をコンピュータにより取り扱う登記所であれば,個別に指定することなく,オンライン申請を可能とするか。
(補足説明)
 オンライン登記申請の対象となる登記所については,a登記所を個別に指定して順次対象の範囲を拡大する方法と,b登記事務をコンピュータにより取り扱う登記所であれば,個別に指定することなく,オンライン登記申請を可能とする方法が考えられるが,オンライン登記情報提供制度や登記情報交換制度と同様,登記所を個別に指定して,順次対象範囲を拡大する方法が相当であるとの意見が多数を占めた。

2 受付

(1 )オンライン申請を導入した場合に,他の方法による申請はどうするか。
ア  出頭による申請
 出頭による申請については,a廃止するか,b当面これを存置するか,c将来的にも存置することとするか。
(補足説明)
 オンライン申請を導入した場合に,他の方法による申請を廃止してオンライン申請に一本化した方が受付順位の管理も一元化することができ,また,本人申請の割合が少ないとすれば,オンライン申請に一本化することも可能であるので,出頭による申請を廃止することも検討すべきであるとのaの意見と,出頭による申請を直ちに廃止することは国民の理解を得にくく,また,電子化が困難な添付書面もあるため,当面は出頭による申請を併存せざるを得ないとのbの意見があり,bの見解が多数を占めた。
イ  郵送による申請等
 郵送による申請等については,a現状どおり,権利に関する登記の申請については郵送によることを認めないが,嘱託については郵送によることを認めることとするか,b権利に関する登記の申請についても,郵送によることを認めることとするか,c権利に関する登記については,申請,嘱託いずれの場合にも郵送によることを認めないこととするか。
(補足説明)
 現在,権利に関する登記の申請については,当事者が出頭して行うことを要するが,官公署からの嘱託については,嘱託書を郵送することによっても行うことも認められる。オンライン申請では,当事者が出頭せずに申請を行うこととなるので,官公署からの嘱託以外にも郵送による申請を認めるか否かが問題となるが,a郵送による申請には,登記済証等の重要な添付書面について受領の確実性やその立証の点で問題があること,b受付順位の確保の仕組みを複雑にし,統一的な管理が困難となること,c郵送という古い手段を用いる意義は乏しいことなどから,郵送による申請を認める必要はないとの意見が多数を占めた。
 また,官公署からの嘱託についても,オンライン登記申請に移行させることによって郵送によることを廃止すべきであるとの意見が多数を占めた。
 一方,当事者が,書面受領の不確実性等の不利益を甘受する以上,選択の幅を広げるために,郵送による申請を認めるべきであるとの意見があった。
(2 )受付時点及び受付順位
ア  受付時点
 受付時点は,申請情報等が管轄の登記所に到達した時点とすることとするか。
(補足説明)
 法務省におけるオンライン申請については,法務省総合受付通知システムで一括して申請を受信することとしているが,登記申請の受付の順位番号をどの時点で付するかについては,出頭による申請を存置する場合には,これとの均衡上,法務省総合受付通知システムへの到達時点ではなく,これを各登記所に送信し,登記所(登記所システム)に到達した時点とするのが相当である。この場合に,法務省総合受付通知システムで登記申請を受信しても,これが不動産登記法上の受付ではないことを利用者に明確に示す工夫を講じる必要があるとの意見があった。
イ  受付順位
 オンライン申請と出頭による申請とは同一のシステムで受付順位を確保するシステムとすることとするか。
(補足説明)
 オンライン申請及び出頭による申請について,それぞれの方法でなされた申請を受け付けた時間等で別々に管理し,受付時間によって並び替えを行うのは相当ではない。そのため,オンライン申請と出頭による申請とは同一のシステムで受付順位を確保する必要がある。なお,いわゆる連件処理が必要となるパッケージ的な申請については,システムの構築に当たり,その法的構成及び受付の方法等について十分考慮する必要がある。
(3 )受付時間
ア  オンライン登記申請の受付時間
 オンライン登記申請の受付については,a24時間受け付けることとするか,又は,b書面による申請の受付時間よりも受付時間を延長することとするか,c書面申請の受付時間と同様の受付時間とすることとして,執務時間を過ぎて登記所に到達した申請は,翌執務日の最初に受付を行うこととするか。
(補足説明)
 オンライン登記申請を導入する場合には,受付窓口で職員が申請書を受け取る必要がないことから,受付時間の延長や,また,24時間受付を認めるようにとの要望が強まることが予想される。法務省総合受付通知システムについては,24時間稼働することを検討しており,そうすると,法務省総合受付通知システムによる申請情報等の受信は24時間行われることとなるが,登記申請の受付は,現在の登記情報システムを24時間受付できるシステムにすることは,莫大な費用を要するほか,法務省総合受付通知システムが執行時間外に受信した登記申請も順序を確保したまま,登記所システムに送信することも可能であることから,登記所閉庁後の登記申請の受付は,翌執務日の最初に行うこととするのが現実的である。
イ  書面による申請の受付時間
 書面による申請(出頭による申請又は郵送による申請)の受付時間は,登記所の開庁時間内とすることとするか。
(補足説明)
 法務省へのオンライン申請については,法務省総合受付通知システムが24時間稼働することを検討しており,そうすると,同システムによる申請データの受信は24時間行われることとなる。一方,書面による申請についても,オンライン申請との公平性から,時間延長や24時間受付を認める必要があるかが問題となる。しかし,書面による申請については,受付窓口で職員が申請書を受け取ることによって順位を確保する必要があるため,登記所の開庁時間内の受付に限定してもやむを得ないのではないかとの意見でほぼ一致をみた。
(4 )登記申請書等の受領証の発行
 a電子的な受領証の発行を行うこととするか,又は,b登記申請の処理状況をシステム上に掲示し,これを申請人等が確認できることとするか。
(補足説明)
 現在の受領証の利用実態を踏まえれば,登記所が電子証明書付きの受領証を発行するなど,登記所が受付を証明する制度を設けなくても,法務省総合受付通知システムなどのシステム上に登記申請の処理状況を掲示し,これを申請人(又は抵当権者など申請人が指定する者)が確認すれば足りると考えられるとの意見があったが,受付証明制度についても,国民のニーズを踏まえて,さらに検討することとされた。

3 登記の真正担保方策

(1 )オンライン登記申請における登記真正担保方策の基本的考え方
 オンライン登記申請は,国民一般が利用できるようあまり複雑な制度にしないことが望まれるが,一方で,現行制度よりも登記の真正担保の程度が低下することがないようにすることが必要である。
(補足説明)
 オンライン登記申請を導入する目的は,登記所に出頭しなくとも登記の申請が行えることとすることにより,国民の利便性を向上させることにあるが,オンライン登記申請の導入によって,登記の真正担保の程度が低下し,登記の正確性,信頼性が揺らぐようなことがあれば,登記制度それ自体の存在意義をも失いかねない。したがって,オンライン登記申請を導入するに当たっては,国民一般が利用できるようあまり複雑な制度にしないよう留意しつつ,現行制度よりも登記の真正担保の程度が低下しないようにすることが必要である。
(2 )申請行為による真正担保方策
ア  当事者出頭主義
 オンライン登記申請においては,a当事者出頭主義(対面による本人確認)を廃止し,同制度の代替手段を講じないこととするか(利便性・簡便性を重視して徹頭徹尾オンライン化するか),b何らかの対面審査の機会を設けることとするか(真正担保を重視して手続の一部をオンライン化しないこととするか)。
(補足説明)
 登記所では,現在,対面による本人確認は行われていないため,オンライン登記申請において当事者出頭主義の代替手段を講じなくても混乱はないと思われる。しかし,以下のような点を考慮して,何らかの対面による本人確認の機会を設けることについて今後さらに検討する必要があるとの意見があった。
・  不動産登記法が当初予定していた当事者出頭主義は,対面確認の意味を含んでいたものと思われること。
・  書面による申請の場合には,出頭時に,登記官が申請者と対面する機会が設けられているため,犯罪を起こそうとする者など悪意がある者にとってはこれが1つのハードルとなっていること。
イ  共同申請主義
 共同申請主義については,aこれを維持することとするか,b登記義務者の承諾データを添付することとして登記権利者の単独申請とするか,cその他の方式とするか。
(補足説明)
 bの見解は,現行制度において登記義務者を登記申請人としている理由が,登記義務者が登記申請に承諾していることを明らかにすることにあるので,登記義務者を申請人とまでする必要はないと考えられることや,補正を行う者を明確にできることなどのメリットがあることを根拠とするものである。しかし,登記義務者が,現在の「申請人」から「承諾者」となることにより,登記の真正担保の面で後退したとの印象を与えることから,慎重に検討する必要があるとの意見が多数を占めた。そのため,共同申請と単独申請のメリット・デメリットを含めて,今後さらに検討することとされた(【資料1「=共同申請と単独申請のそれぞれのメリット・デメリットについて=」】参照。)。また,共同申請主義を維持する場合についても,当事者が同時に申請する場合のほか,異時に申請する場合についても認めるべきであるとの意見もあった。
ウ  不受理の申出,登記名義人への通知
 不受理の申出については,aこれを制度化することとするか,b現行どおり制度化しないこととするか,c不受理の申出の有無にかかわらず,一定の種類の登記が申請された場合には,登記名義人に通知をすることとするか。
(補足説明)
 現在,登記所に対し不受理の申出が行われた場合であっても,それを理由に申請を不受理とすることはなく,無効な印鑑証明書が添付されている場合であれば,印鑑証明書の発行主体によって無効の告示が出されていることを確認できたときは,印鑑証明書の添付がないことを理由に申請を却下することとしている。不受理申出等については,このような現行の制度で十分であるとする意見と,本人の意思に反する登記申請がされる蓋然性が高い事情がある場合に限定して不受理申出を制度化したり,また,登記名義人に変動がある場合はあらかじめ登録された通知場所に通知をするなどの方法(イギリスの通知要請登録制度(【資料2「我が国と諸外国の不動産登記制度における登記の真正担保のための方策について」】参照。)を検討すべきとする意見があり,今後さらに検討することとされた。
(3 )添付書面による真正担保方策
ア  登記済証
(ア )登記済証の提出の必要性
 登記済証については,a登記済証に相当する真正担保方策は,オンライン申請でも存置することとするか,b本人確認については,公的個人認証サービス(地方公共団体の行う電子署名の認証業務)等の電子署名及び電子証明書等で行うこととし,登記済証の制度は廃止することとするか。
(補足説明)
 他の傍証で登記義務者本人の確認が確実にできるのであれば,登記済証の制度は存置する必要はないが,公的個人認証サービス等の電子署名及び電子証明書による本人確認だけでは,十分であるとはいえないこと,また,登記済証は,登記義務者本人の確認という機能に加えて「1つしかないもの」を提出させることによって登記義務者の意思の確認という機能が強いこと,さらに,登記済証には印鑑証明書とは異なり不動産の登記名義人であることを証明する機能があるため,電子署名では代替できないことから,登記済証に相当する真正担保の方策は維持すべきであるとの意見が多数を占めた。なお,登記済証に相当する真正担保の方策は,今後さらに検討することとするが,オンラインによる場合であっても,登記済証に相当する制度を維持するほかないのではないかとの意見が多数を占めた。
(イ )オンラインによる登記済証の方式
 仮に,登記済証に相当する制度を存置するとした場合,オンラインによる登記済証の方式については,aID及びパスワードによる方式とするか,b共通鍵暗号方式による方式とするか,cその他の方式とするか。
(補足説明)
 公的個人認証サービス等の電子署名については,非対称鍵暗号方式(=公開鍵暗号方式)が一般的であるが,登記済証は,使用用途が極めて限定されていること,長期間利用されないことが多いことなどの特徴があることから,ID及びパスワードによる方式や共通鍵暗号方式によることも可能と思われ,これらの方式を含め,今後さらに検討することとされた。
(ウ )オンラインによる登記済証のデータ格納方式
 仮に,登記済証に関する情報をデータ化することとした場合,登記済証のデータについては,a保存方式を限定しないか,又は,bICカードにデータを格納する方式や登記済証(書面)に埋め込んだマイクロチップ等にデータを格納する方式など,保存方式を限定することとするか。
(補足説明)
 登記済証に関する情報をデータ化することとした場合,登記済証のデータの保存方式としては,公的分野における連携ICカードなどのICカードを用いることが最も安全性が高いが,ICカードのリーダー・ライターの普及状況やコストの問題もあることから,登記済証(書面)に埋め込んだマイクロチップ等にデータを格納する方式や,その他の方式についても,検討する必要があるとされた。また,データの格納方式を限定せず,申請人に格納方式を選択させた方がいいとの意見もあった。
(エ )現行の登記済証からオンラインによる登記済証への移行方法
 現行の登記済証をオンラインによる登記済証に変換する方式は,申請人から申出があった都度,順次変換していくこととするか。
(補足説明)
 現行の登記済証をオンラインによる登記済証に変換する方式としては,一定期間にすべての登記済証を変換することも考えられるが,申請人からの申出があった都度変換していくのが現実的である。一定期間にすべての登記済証を変換することは,登記所に申請人が一時期に集中して混乱するおそれがあり,また,登記申請の機会以外で,登記所が定めた日時に申請人を登記所に出頭してもらうことは事実上困難であることから,申請人からの申出があった都度,順次変換していくのが相当であるとの意見が多数であった。
イ  保証書制度
 保証書制度については,aこれを維持することとするか,b保証書制度そのものを含めて見直しをすることとするか,さらに,c保証書制度を見直す際に,登記済証の再発行の制度を設けることとするか。
(補足説明)
 登記済証を保管していても,登記義務者の知らないうちに保証書によって登記が行われることがあるため,登記済証の制度に対する信頼性が低下している面があり,こうしたことに対応するためには,保証書制度を厳格なものにするとの意見もあったが,一方,厳格な本人確認(対面確認)のもとで登記済証を再発行する制度について検討すべきである必要があるとの意見もあった。
ウ  印鑑証明書
 印鑑証明書については,公的個人認証サービス等による電子署名及び電子証明書に代替することとするか。
(補足説明)
 印鑑証明書については,公的個人認証サービス,商業登記に基づく電子認証制度の電子署名及び電子証明書に代替するのが相当であるとの意見が多数を占めた。なお,「電子署名及び認証業務に関する法律」に基づく民間認証サービスの利用についても今後検討することとされた。ただし,現在,印鑑証明書については,偽造やなりすましにどのように対処すべきかという課題がある。すなわち,印鑑証明書の偽造やなりすましの例としては,正規の証明書を利用して印影と氏名等を精巧に改ざんしたものが提出された例や,本人の知らないうちに住所移転届と新たな印鑑登録がされ,これによって不正に取得した印鑑証明書が提出された例があり,  後者のなりすましの例については,公的個人認証サービス等においても,これを防止できない可能性があるため,これに対する他の制度による補完対策等を検討する必要があるとの意見が多数を占め,今後さらに検討することとされた。
エ  登記原因証書
 オンライン申請における登記原因証書の取扱いについては,a現行制度を維持すべき(電子化された登記原因証書の送信)か,b登記原因証書の提出を不要とし,申請情報の記載事項に一本化すべきか,c登記原因を実質的に確認する仕組みを構築すべきか。
(補足説明)
 上記各見解についての根拠は以下のとおりであり,今後さらに検討することとされた。
a  現行制度を維持すべきとする見解(電子化された登記原因証書の送信)
・  登記すべき権利変動の成立を直接的に証明する制度上唯一の書面であり,実体に合致しない登記申請を防止する機能を有するため,制度的に存置すべきである。
・  国民が感じている登記制度への信頼を維持するため,登記原因を確認する資料の添付を省略すべきではない。少なくとも虚偽の登記原因証書を作成しないという点で,登記原因証書の提出は偽造,不正行為の抑止になっている。
・  不動産取引の安全性を確保するためには,登記簿を見てそれまでの権利変動の過程を調査する必要があるので,登記原因証書に基づき正確な登記原因が記載されている必要がある。
・  現行制度をそのままオンライン化するものであるため,法改正の際に説明がしやすい。
b  申請情報に一本化するとする見解
・  民法(176条)が意思主義を採用している以上,登記原因証書の提出を強制することはできない。
・  当事者の申請した登記原因は,通常真正と信頼してもよく,登記原因について虚偽の申請をたくらむ者に対しては登記原因証書の真正担保としての機能は無力である。
・  政府の方針である申請の簡素化の要請に合致する。なお,登記原因証書を電子化する場合には,公的個人認証サービスが公的機関に対する申請等に限って利用できるものであるため,民間対民間で作成する登記原因証書については,民間認証サービスを利用することとなり,国民に過度な負担を強いることとなる。
・  現状でも登記原因証書は本来的な機能を果たしていないため,登記原因証書の提出を不要としても新たな弊害は生じない。
・  登記に対する国民の信頼は,登記名義人が誰であるかという点にあり,登記原因までには及ばない。
・  登記原因まで国が真正性を確保するという大きな政府ではなく,登記原因の調査は民間の自己責任に委ねるという小さな政府を考えるべきである。現在でも,外資系の企業などでは所有権者の履歴などを厳しく調査していく傾向にある。
c  登記原因を実質的に確認する仕組みを構築すべきとする見解
・  国民の登記に対する信頼を得るためには,登記に公信力がない以上,登記原因についても真正を担保する方策を強化すべきである。
・  登記原因証書に原因行為の確認という本来的な機能を果たさせるためには,公証人の面前で取引を行うなど証書に要式性を持たせることが必要である。
・  民法の意思主義(民法176条)のもとでも,対抗力を得たい者は「登記法ノ定ムル所ニ従ヒ」(民法177条)一定の要式に従った登記原因証書を提出させるようにすることは理論上は可能である。

4 申請の補正,取下げ及び却下

(1 )補正
ア  補正を認めるべきか否か
 補正制度については,aこれを存置するか,又は,b廃止するか,さらに,c補正制度を存置することとした場合,補正を認める範囲はどの程度とするか。
(補足説明)
 オンライン申請においては,申請情報等を送信しても,申請人の手元に申請情報等が残るため,取下げして再申請することも容易になると考えられる。しかし,取下げして再申請する間に他の申請がされることによって受付順位が下がり対抗関係で劣後することもあるので,補正を認めないとすることには申請人の理解が得られないものと考えられる。
 補正を認める範囲については,現在の実務と同様,申請書の訂正,添付書面の追完,登録免許税の追納については,補正が認められる場合が多いが,申請人が作成者でない添付書面の訂正については,原則として,補正を認めないことが相当である。なお,現在,慣行上なされている,いわゆる事後補正(登記完了後の補正)については,廃止するのが相当であるとの意見があった。
イ  補正を求める方法
 補正を求める方法については,a申請人に補正命令を送信するか,b補正がある旨の情報を掲示するか,cその他の方式によるか。
(補足説明)
 補正を求める方法としては,申請人に補正命令を送信する方法と,補正がある旨の情報を掲示するという方法などが考えられるが,現行の制度が,補正を促しているにとどまるのに対し,前者には,補正命令という行政処分を伴うことになることや,補正を命じる人的,費用的コストがかかるという問題がある。さらに,表示に関する登記のように登記自体に処分性がないものについても,補正を命じれば,補正命令のみ処分性があることにもなりかねない。なお,仮に,補正命令に処分性を認めないのであれば,法律でその旨明確化する必要があるとの指摘がされた。
ウ  補正の方法
 オンラインで申請したものについて,aオンラインによる補正のみ認めることとするか,b出頭による補正や郵送による書面の追完など他の方法を認めることとするか。
(補足説明)
 オンライン申請したものについて,郵送で添付書面の追完を認めることは,aオンライン申請と追完された添付書面を関連付ける作業が必要となるが,これは事務が繁雑となるだけでなく,関連づけの有効な方法が見出せないこと,b封筒の中に確実に添付書面が入っていたかを確認する方法がないこと,c申請日から著しく遅れて送付された添付書面への対応が困難なことから,消極に解するとの意見が多数を占めた。また,オンラインで申請したものは,電子署名で本人確認をした以上,補正者の確認も電子署名で行うのが適当であるので,補正も申請の場合と同一の電子署名を用いたオンラインによるものに限定すべきであるとの意見が多数を占めた。
(2 )取下げの方法
 オンラインで申請したものについて,aオンラインでのみ申請を取り下げることができることとするか,b出頭や郵送など他の方法による取下げを認めることとするか。
(補足説明)
 オンラインで申請したものは,補正と同様,電子署名で本人確認をした以上,取下げをする者の確認も電子署名で行うのが適当であるので,取下げも申請の場合と同一の電子署名を用いたオンラインによるものに限定すべきであるとの意見が多数を占めた。
(3 )却下の方法
 却下決定書については,aオンラインで交付することとするか,b出頭や郵送によることとするか,cその他の方法によることとするか。
(補足説明)
 オンラインで申請したものについては,原則として,オンラインで却下決定書を交付するのが相当であるとの意見が多数を占めた。なお,形式的に不備のある申請について,法務省総合受付通知システムで申請を返戻することが可能か,それとも,形式的に不備のある申請であっても,すべて登記所に送信し,登記官の権限で却下する必要があるかについて,今後さらに検討することとされた。

5 代理申請の在り方

(1 )オンライン登記申請の申請人の範囲
 オンライン登記申請については,a有資格者からの代理申請に限定すべきか,b有資格者からの代理申請に限定せず,本人申請についても存置すべきか。
(補足説明)
 オンライン登記申請については,一定の有資格者からの代理申請に限定するとの考え方もあるが,現行制度との均衡や行政サービスの面から,有資格者からの代理申請に限定することは困難であるとの意見が多数を占めた。
(2 )有資格者である代理人による審査
 オンライン申請における有資格者である代理人の審査の在り方について,a有資格者である代理人が本人確認すれば,登記所で一定の本人確認を省略できることとするなど,真正担保の方策として,有資格者である代理人の審査を法制度上取り入れることとするか,b有資格者の審査に特別の権限を認めないこととするか。
(補足説明)
 有資格者である代理人が本人確認をすれば,登記所で一定の本人確認を省略できることとするなど,真正担保の方策として,有資格者である代理人の審査を法制度上取り入れるか否かについて,今後さらに検討することとされた。
 なお,このように有資格者であることに特別な権限がある場合(例えば,民事執行法82条2項で「登記の申請の代理を業とすることができる者」と規定しているように,司法書士等のみができる行為を規定している場合)については,代理人の電子署名に有資格者であることの属性情報(司法書士であることの証明等)を盛り込む必要性がある。もっとも,有資格者である代理人にこのような特別の権限がない場合には,有資格者であることの属性情報は必要でないとの意見があった。

6 オンライン登記申請と登記管轄

 登記申請に対する事務について管轄制度を維持するか。また,登記事項証明書の交付等の認証事務についてどうするか。
(補足説明)
 登記申請に対する事務の管轄制度については,オンライン申請は,全国で1か所設置される予定の法務省総合受付通知システムで受信され,これを登記電子申請配信システムを介して全国どこの登記所に対しても容易に送信できることとなるため,登記管轄を不要とすることも考えられる。しかし,出頭による申請を存置する以上,オンライン申請と出頭による申請の受付順位を管轄登記所の受付で付与する必要があることや,表示に関する登記については実地調査を要することから,管轄制度を維持することが相当であるとの意見が多数を占めた。これに対し,登記事項証明書の交付等の認証事務の管轄制度については,現在でも,登記情報交換制度によって,他の登記所の管轄にある不動産の証明書の交付を受けることができるので,将来的には,管轄概念を不要とすることが望まれるとの意見が多数を占めた。

7 登記情報の内容の在り方

(1 )登記情報の追加事項の検討
 登記情報の追加事項について,a現行の登記情報で十分か,b各種の規制情報やサービス的情報等を登記事項として追加すべきか。
(補足説明)
 現行の登記事項としては,a表示に関する登記では,所有者のほか,土地については所在,地番,地積が,建物については,所在,家屋番号,種類,構造,床面積が記載され,b権利に関する登記では,登記名義人のほか,順位番号,受付年月日及び受付番号,登記の目的,登記原因などが記載されている。
 このような現行の登記事項に加えて,各種の規制情報やサービス的情報等を登記事項として追加すべきかについては,以下のような見解があり,今後さらに検討することとされた。
<積極的な見解>
a  現行の不動産登記法は第三者対抗要件を公示することに主たる目的があるが,不動産取引の円滑に資するという観点からは,広く不動産に関わる規制情報等についても,可能な限りこれを付加情報として公示することが望ましい。
b  ワンストップサービスを推進させるためにも,より多くの情報を公開し,これを簡便に入手できるようにすることが望ましい。
c  各種規制情報等を登記簿(磁気ディスクで調製されたものを含む。以下同じ。)に登載する方法としては,登記所側で各種の情報を収集するのではなく,情報を管理している関係府省が登記所に嘱託する方法が考えられる。
< 消極的な見解>
a  登記簿にあらゆる情報を登載することは,登記簿の一覧性の面で問題がある。
b  現在,登記所で保有していない情報を登記簿に追加することよりも,現在,登記所で保有している情報を一体化して利用する方法を検討することが重要である。
c  登記簿の情報と関係府省の情報をリンクさせて,情報の一体化を図るのが望ましく,登記簿にすべてを登載することには無理がある。
d  システム面から見ると,登記簿の登載内容を大きく膨らませるのには問題がある。情報というものは,素早く引き出せることが重要であり,大量の情報を盛り込むことによってシステムが重くなり,処理が遅くなったのでは本末転倒となる。
e  規制情報等を登記所で把握することは困難である。
f  サービス的情報については,正確性の問題や全国一律性の問題も検討する必要がある。
(2 )不要な登記情報の有無の検討
 登記情報として不要なものはどのようなものがあるか。
(補足説明)
 予告登記等廃止しても支障がない登記もあるかと思われるが,登記を廃止する上での理論的分析,弊害の有無等について十分検討すべきであるとの意見が多数を占めた。

8 登記情報の公開の在り方

(1 )登記簿の編成方法
 登記簿の編成については,a現行どおり,表題部,甲区,乙区とするか,b例えば,乙区をさらに担保物権と用益物権に分けるなど,現行の登記簿の編成を変更するか,さらに,c登記簿の編成とは別に,登記事項証明書等として提供する場合に編集をすることが必要か。
(補足説明)
 登記簿の編成については,現在の表題部,甲区,乙区といった編成のほかに,例えば,乙区をさらに担保物権と用益物権に分けたり,証明書等の発行に際して設定時の所有者ごとに抵当権設定登記等を編集することも考えられるが,これに対して,a公示方法としては,現行のものが定着しており,また,一覧性が満たされていること,b担保物権だけを抽出して表示させるなど登記情報を編集して提供すると,担保物権だけが表示されている証明書を見て,用益物権など他の制限がないと誤解する危険性もあるなどの意見があった。
(2 )登記申請処理中の登記簿の公開方法
 登記申請処理中の登記簿の公開方法については,今後さらに検討することとされた。
(補足説明)
 登記申請がされると,当該物件については,キーロックがかかり閲覧も登記事項証明書等の請求もできなくなる。そこで,以下の方法などによって,登記申請処理中の登記簿の閲覧等ができないか,今後さらに検討することとされた。ただし,登記が即日に処理できるようになれば,閲覧できない期間も短縮され,また,オンラインによる登記情報提供が普及すれば,遠来の利用者が閲覧できないという現在の不具合もなくなることから,登記申請処理中の登記情報の公開手段を設ける必要はないとの意見もあった。
 登記申請処理中の登記簿の公開方法としては,以下の方法などが提案された。
・  登記申請処理中の登記事件の「登記の目的」,「受付年月日」及び「受付番号」を付加した情報を公開する。
・  表題部,甲区又は乙区ごとにキーロックをかけて,例えば,所有権に関する登記の申請があった場合には,甲区にキーロックをかけて,表題部及び乙区の公開ができるようにすることとする。
・  登記申請日前日までの登記情報を公開する。
(3 )検索の方法
 検索の方法について,a地図情報からの検索は行うこととするか,b所有者名義からの検索は行うこととするか。
(補足説明)
・  地図情報からの検索については,予算上の問題に尽きるとの意見が多数であった。
・  所有者名義からの検索については,公的帳簿として固定資産税の課税台帳があるのに,登記所において二重に情報を公開する必要性がないとの意見があった。ただし,登記名義人やその相続人に限定して検索を認めることには,システム上の問題がなければ,個人情報保護法制の改正によって本人による自己情報の開示請求権が認められることになる趣旨を踏まえる必要があるとの指摘があった。一方,債権者が債務者の財産をリストアップするための検索を認めることや何人にも検索を認めることには,不動産登記制度の趣旨や所有者のプライバシーの保護の観点等から反対も強いと思われる。この点,担保執行法制の見直しの動き(債務者の財産開示の議論)も踏まえて検討する必要があるとの指摘もあった。
(4 )電子証明書(電子謄本)の発行
 電子証明書(電子謄本)について,aこれを発行することとするか,b不要か。
(補足説明)
 IT化が進んで,最新の登記情報を一般に公開することができるようになれば,将来的には,過去の情報である登記事項証明書(電子謄本)よりも,現在の登記情報を自分で確認する方が確実であるため,登記事項証明書(電子謄本)の必要性はなくなるとの意見があった。しかし,提供された登記情報の保存方法等国民のニーズを踏まえて,登記事項証明書(電子謄本)についても,今後さらに検討することとされた。
(5 )登記事項要約書の在り方
 登記事項要約書の制度について,aこれを維持することとするか,b将来的にはこれを廃止することとするか。
(補足説明)
 現在,オンライン登記情報提供制度によって,登記情報を閲覧できるようになっているが,本来,これがブック処理(非コンピュータ庁における登記事務処理)時における閲覧の代わりとなるべきものであり,同制度が国民に広く利用されるようになることにより登記事項要約書の役目は終わるものと考えられる。したがって,登記事項要約書の制度を将来にわたって維持することは消極に解するとの意見が多数を占めた。