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第4 商業法人登記法部会での検討について

1 検討に当たって

 商業法人登記の分野においては,平成12年10月から,インターネット社会における法人代表者の認証基盤となる「商業登記に基づく電子認証制度」の運用が開始されており,登記申請のオンライン化の前提となる申請人に関する認証が可能となっている。
 さらに,平成13年の臨時国会における商法改正及びこれに伴う商業登記法の改正により,会社関係書類を電磁的記録で作成することが可能となり,登記申請書の添付書面に代えて,電磁的記録を作成し,これを登記の申請書に添付することが可能となった。この改正法は,本年4月から施行される。
 したがって,商業法人登記の申請のオンライン化については,これを実現するための基礎的な条件は既に整っているということができる。
 さらに,本報告の取りまとめと時期を同じくして,政府においては,国に対する原則としてすべての行政手続に係る申請・届出等のオンライン化を実現するための通則法の制定が検討されている。商業法人登記の申請についてもこれが適用されるならば,登記申請のオンライン化の法制面について基本的な整備がされることになる。
 本部会における調査研究においては,このような状況の下で,登記申請のオンライン化に伴い制度上及び実務上生じ得る問題点について,制度を利用する申請人や登記事件を取り扱う登記所の実情を踏まえ,検討を加えたものである。

2 オンライン登記申請の対象範囲

(1 )オンライン化する登記申請の範囲
 オンライン申請を可能とする登記申請の範囲については,原則として,登記事務をコンピュータにより取り扱っている庁におけるすべての商業登記とする。
 なお,申請書を窓口に提出する方法による現行の登記申請の制度も存続させるものとする。
(補足説明)
      1  オンライン申請を可能とする登記申請の範囲に関しては,例えば,会社の設立登記や代表者の就任による変更登記など,登記所に対する印鑑の提出を伴う登記申請について,検討がされた。
 現在の商業登記制度においては,登記申請書に押印すべき者は,あらかじめ,その印鑑を登記所に提出しなければならないとされており(商業登記法第20条),当該提出に係る印鑑を申請書又は委任状に押印すべきものとすることによって,登記申請の真正を担保する仕組みとなっている。
 提出された印鑑は,申請書に押された印鑑との照合のために必要となるだけでなく,商業登記に基づく電子認証制度における本人性の確認の基礎資料となり,また,印鑑証明書発行事務の前提となるものであるから,登記所においては,提出者の印章によって現に押捺された印鑑そのものの提出を受ける必要がある。したがって,この印鑑については,電磁的記録(例えば,提出者において印鑑をスキャナーで読み取り,ファイル化したもの)の送信の形で提出を受けることは困難であると考えられる。
 また,後記4のとおり,申請書に提出済み印鑑を押印する必要があるのと同様に,申請情報については,申請人代表者が電子認証登記所が発行した電子証明書を利用して電子署名を行うべきものとするのが原則であると考えられるが,印鑑の提出又は会社の設立登記前の段階で,電子認証登記所が電子証明書を発行することは,制度上も技術上も困難である。
 以上のような理由から,印鑑の提出を伴う登記申請については,当面,オンライン化することは困難ではないかという意見も述べられたが,これに対しては,次のような有力な指摘がされた。
        a  印鑑の提出を伴う登記申請としては,会社の新設だけでなく,合併,会社分割,組織変更等に伴う会社の設立や,代表者の交替,他管轄への本店移転等,極めて多数の種類の登記が該当し,印鑑の提出を伴う登記申請を除外するとオンライン申請が可能な範囲が狭くなってしまう。
        b  印鑑の提出自体は,出頭又は郵送の方法により,あらかじめその現物を提出させることとすることが可能である。
        c  申請人代表者が電子認証登記所発行の電子証明書を取得する以前の段階では,これに代えて,公的個人認証サービスによる電子証明書を利用して申請情報に電子署名をすることとし,その申請人代表者と印鑑提出者との同一性については,公的個人認証サービスによる電子証明書の記載事項(住所,氏名及び生年月日)とbの印鑑届書に添付される市区町村長発行の印鑑証明書の記載事項とを照合することによって確認することができる。
        d  cの方法により,設立,代表者変更等の登記がされた後は,商業登記に基づく電子認証制度の利用が可能となるから,以後の変更登記の申請については,本人の同一性と会社の代表権限とを同時に証明することができる電子認証登記所の発行に係る電子証明書を添付させることとするのが相当である。 以上のような検討の結果,原則として,登記事務をコンピュータにより取り扱っている庁におけるすべての商業登記の申請をオンライン化の対象とすべきものとされた。
      2  出頭による申請の制度については,社会のIT化の急速な進展を考慮しても,近い将来において,すべての申請をオンライン申請に限ることとしてもよいような状況にはないこと,添付書面のすべてを直ちに電子化しなければならないとすることは事実上困難と思われること等の事情から,出頭による申請の制度も,現行どおり,存続させる必要があるとされた。
      3  オンライン申請の対象となる登記所については,登記所を個別に指定して,順次対象の範囲を拡大する方法と,登記事務をコンピュータにより取り扱う庁であれば,個別に指定することなく,オンライン申請を可能とする方法とが考えられる。
(2 )印鑑の提出の制度の取扱い
 登記の申請書に押印すべき者による印鑑の提出の制度は,引き続き存続させるものとする。
(補足説明)
 印鑑の提出制度の意義・機能については,前記(1)の補足説明1のとおり,提出された印鑑は,申請書に押された印鑑との照合のために必要であり,商業登記に基づく電子認証制度における本人性の確認の基礎資料となり,また,印鑑証明書発行事務の前提となるものである。特に,現行の印鑑証明書は,他の管轄登記所への登記申請や登記所以外の官公署への申請,一般の商取引等においても,会社代表者の同一性,権限等の確認のために広く利用されており,オンライン申請によって設立された会社であっても,書面による印鑑証明の制度の利用は必須であると考えられる。
 したがって,登記所においては,提出者の印章によって現に押印された印鑑そのものの提出を受けることが不可欠であり,現行の印鑑の提出制度は存続させる必要がある。
(3 )法人登記の取扱い
 法人登記についても,オンライン申請の対象とするものとする。

3 受付

(1 )受付の方法及び時間
 オンライン申請の受付の方法は,申請情報等が管轄登記所の登記情報システムに到達した時に,機械処理によって自動的に受付番号を付す方法によるものとし,その受付時間は,当面,現行制度と同様,登記所の執務時間である午前8時30分から午後5時までとする。
 なお,法務省総合受付通知システムが24時間稼動とされる場合には,上記の受付時間外に申請情報等が申請人から発信されることがあり得ることとなるが,午後5時以降に発信された申請情報等については,翌執務日の執務開始時刻に登記所において受け付けられることになる。
(補足説明)
 登記申請の受付については,商業登記法上,登記官は,申請書を受け取ったときは,受付帳に登記の種類,申請人の氏名,受付の年月日,受付番号等を記載し,申請書に受付年月日及び受付番号を記載しなければならないこととされている(商業登記法第21条)。
 オンライン申請が行われた場合も,登記所において申請情報を受け取ったときは,受付番号等を付すなど,受付の行為をする必要があるが,コンピュータによる処理であれば,登記所の執務時間外に行うことも不可能ではないと解されるため,オンライン申請の受付時間をどのようにするかについて検討がされた。
 オンライン申請であれば24時間体制で受付を行うべきであるとする意見は,aオンラインによる申請であれば,24時間体制で受付が行われることが望ましいこと,bオンラインによる申請が法務省総合受付通知システムにおいて形式的なチェックにより受理されない場合でも,24時間体制とすれば,直ちに再度の申請をすることが可能となり,登記期間の定め(商法第67条等の定める本店所在地では2週間,支店所在地では3週間の登記期間の定め等)を遵守することが容易になること,等の理由によるものである。
 他方,これに対する消極意見は,a登記情報システムの保守や負荷を考慮すると,24時間体制とするのは負担が大きいこと,b法務省総合受付通知システムの仕様が24時間体制となった場合には,登記所における受付は翌朝となるにせよ,申請情報等の送信自体は24時間可能となり,申請人の利便性は高まること,cオンライン申請が執務時間外でも受け付けられるとすれば,出頭申請が執務時間内においてしか受付がされないこととの均衡を欠き,出頭して申請した当事者が不利益を被るおそれがあるのではないか,とするものであった。
 現在の登記情報システムを前提とすると,当面,現行制度と同様,受付時間は,登記所の執務時間(午前8時30分から午後5時まで)とするほかなく,その場合には,受付時間外に発信された申請情報等は,翌執務日の午前8時30分に,登記所で受け付けられることになる(その間において申請情報等を保存する方法については,システムの詳細は未定である。)。
 なお,受付時間外に法務省総合受付通知システムに送信された申請情報等について,翌執務日の受付となることについては,申請人に対して十分に周知を図る必要があるとされた。
(2 )オンライン申請とそれ以外の申請との間の受付の順序
 執務時間内に登記情報システムに到達したオンライン申請と申請書による申請との間の受付の順序は,受付の時点の順によって決定するものとし,執務時間外に法務省総合受付通知システムに送信され,翌執務日の執務開始時に登記情報システムに到達したオンライン申請については,その到達の時点で到達順に受付をするものとする。
(補足説明)
 商業法人登記では,登記の先後関係が問題となる場合は不動産登記ほど多くはないが,商号変更の登記,本店移転の登記等においては,登記の先後関係が問題となる場合があるので,オンラインによる申請と出頭による申請との受付順位の整合性をいかに図るかが問題である。
 したがって,例えば,オンライン申請については自動的に受付番号を付与するが,窓口において受け付けた書面による申請については,オンライン申請に付与される受付番号を踏まえて,受付番号を決める等,オンライン申請と出頭による申請とで整合性のとれたものとすることが必要である。
 なお,執務時間外に法務省総合受付通知システムに送信された申請情報等について上記の取扱いをする前提としては,当該申請情報等は,適当なシステムにおいて保管しておき,翌執務日の執務開始時に登記情報システムに到達するようなシステムとしておく必要がある。
(3 )郵送による申請の可否
 郵送による申請は,原則として認められておらず,嘱託及び支店の所在地においてする登記の申請のみ許容されているが,この取扱いは,今後も存続させるものとする。
(補足説明)
 郵送申請に対するニーズはあると思われるが,オンライン申請が可能になれば郵送申請よりも簡便迅速な手続を提供することが可能になる上,これを認めた場合には,a複数の郵送申請が同時にされた場合や休日に配達された場合の申請の先後関係の問題,b申請書類の全部又は一部が紛失する等の郵便事故が生じたときの問題(高額の印紙が貼付されることがある),c補正の告知方法の問題等があることから,今後とも郵送による申請は,原則として,認めないのが相当である。
 通信回線の障害等により,オンライン申請を行うことができない場合もあるので,郵送申請又はフロッピー申請を認めるべきであるとの意見も出された。
 なお,郵送申請を認めない理由として,aオンライン申請の導入に当たっては制度自体を余りに複雑にしないという要請があること,bオンライン申請に誘導していこうという政策的な判断もあること,も付記する必要があるのではないかとの意見も出された。

4 登記の真正担保方策

 オンライン申請の真正担保方策については,原則として,申請情報に商業登記に基づく電子認証制度に係る電子署名をする方式とするものとする。
 なお,商業登記に基づく電子認証制度を利用することができない場合(設立登記等の印鑑提出を伴うもの,商号の仮登記等)には,これに代えて,公的個人認証サービスに係る電子署名によることも可能とする。
(補足説明)
 現行の商業法人登記においては,申請の真正担保手段の一つに,印鑑の提出制度があり,あらかじめ登記所に提出されている印鑑と同一の印鑑を申請書又は委任状に押印させることによって,申請人の同一性や申請権限の有無を確認している。オンライン申請の場合に,これに代わる真正担保方策としては,提出された印鑑に基づいて本人性の確認を行っている商業登記に基づく電子認証制度に係る電子署名とするのが相当である。
 これに対し,オンライン申請では,電子認証制度における電子証明書発行時のなりすましが危惧され,また,署名鍵の不適切な管理により本人の署名鍵をコピーして偽造した申請情報等が送信されるおそれがあるので,利用者のID番号及びパスワード又は使用するサーバーのIPアドレス(識別番号)を法務省総合受付通知システム又は登記電子申請配信システムに事前登録させる措置を講じる等,現行の出頭主義による申請と同等又はそれ以上に厳格な真正担保方策を講じるのが相当であるとする意見もあった。
 なお,会社の設立の登記や商号の仮登記など,登記申請の時点で電子認証登記所発行の電子証明書を取得することができない場合には,その代替措置として,公的個人認証サービスによる電子署名を利用し,申請人代表者個人(又は申請人個人)が申請情報に電子署名をするものとせざるを得ない。

5 申請の補正,取下げ及び却下

(1 )補正の可否及びその方法
 申請に不備がある場合の取扱いは,原則として現行と同様とするが,電子署名がされた情報の内容を直接訂正することはできないため,具体的な補正の方法については,なお検討する必要がある。
(補足説明)
 オンライン申請によって送信される申請情報等には,それぞれ電子署名が付されているため,申請に不備がある場合でも,不備のある箇所を直接訂正することができない。
 したがって,従来の補正に関する実務において行われているように,既に提出された書類の一部を事後的に訂正することはできないから,補正なくしては登記できない場合には,いったん申請を取り下げ,不備を訂正した上で再度申請し直すこととすることも考えられる。そのようにしても,オンライン申請の場合には,申請人に特に重い負担を強いることにはならないので,オンライン申請については補正を認めないこととすることも一つの方法といえる。
 しかし,補正を一切認めないこととした場合には,常に,申請をいったん取り下げて再度申請し直すこととなるから,a順位の保全ができなくなってしまうこと,b法定の登記期間満了直前に申請した場合には,この期間を徒過してしまうおそれがあること,c商業法人登記においては,特定の日に事件が集中することが多く,これに応えられなくなるおそれがあること等の問題が生じてくる。これらの事情に加え,補正を認めている出頭による登記所窓口への申請の取扱いとの整合性から補正を認める必要もある。
 したがって,オンライン申請についても補正を認めることは必要であり,その範囲については,原則として現行と同様の取扱いをすべきであるが,書面の場合と異なり,記載内容を直接訂正することはできないことから,別のファイルに訂正内容を正誤表の体裁で記録して送信するか,又は,当該不備のあるファイルそのものの差し替え又は追加送付という方法によって補正することが考えられるが,具体的には,効率的な事務処理を行うという観点からも,なお検討を要するものとされた。
 なお,明らかな書き損じ,誤字の場合にまで補正を求める必要はないという指摘もされた。
 また,補正の方法については,オンラインで補正内容を送信する方法(この場合には,電子署名及び電子証明書の添付により本人確認は容易にできる。)のほか,出頭による補正についても,提出された印鑑によって本人確認をすることが可能であるから,これを認めてはどうかという意見もあった。
(2 )補正の有無及び登記完了の通知方法等
 登記の処理状況については,システムにより管理するものとし,申請人からの照会に迅速に応じることができるようなものとする必要がある。
(3 )取下げの方法
 取下げの方法については,オンラインにより可能とするが,出頭による書面での取下げも認めるものとする。
(補足説明)
 オンライン申請されたものの取下げの方法については,登記所に提出した印鑑を取下書に押印することにより,申請人本人であることを確認できることから,出頭による書面での取下げも認めるのが相当である。
(4 )却下の方法
 却下決定書の作成方法及び通知方法は,オンラインで行うことを含め,なお検討する。
(補足説明)
 なお,申請人が申請情報等を法務省総合受付通知システムに送信した段階で,同システムによる形式チェック等により,当該申請情報等の受領が拒否された場合には,当該申請情報等は登記情報システムに到達せず,したがって,登記所による受付もされないこととなるから,このような場合には,登記官による却下という観念を入れる余地はない。この場合の法務省総合受付通知システムによる措置の位置付けについては,なお検討する必要があると考えられる。

6 代理申請の在り方

(1 )代理人によるオンライン申請の方法
 商業法人登記のオンライン申請においては,代理人による申請も可能とするものとする。この場合には,代理人が申請情報に電子署名をするものとし,添付書面情報として,委任状に相当する情報(申請人が作成して電子署名を行ったもの)を添付する必要がある。
(補足説明)
      1  現時点における法務省総合受付通知システムの仕様では,申請情報中の電子署名に係る電子証明書について,有効性確認を行うこととされているが,この法務省総合受付通知システムで有効性確認ができるのは,ブリッジ認証局と相互認証をしている認証局の作成に係る電子証明書のみとされる予定であるため,オンライン申請の申請情報に対する電子署名に利用することができる電子証明書は,これに適合するものに限定する必要がある。
      2  委任状に相当する添付書面情報の作成者の電子署名については,前記4と同様,原則として,商業登記に基づく電子認証制度に係るものである必要がある。
      3  なお,司法書士等登記申請の代理を業とすることができる者を代理人とする委任契約の実質的内容は,登記の真正を確保するための登記原因等の調査・確認を含むものであるところ,オンライン申請において,代理人がこのような役割を果たし得ないとすると,登記制度自体の信頼の低下を招くおそれがあることから,司法書士等の代理人が自ら添付書面情報の調査・確認を行うことを可能とするための方策について検討する必要があるとの指摘がされた。
(2 )電子的委任状の内容(委任事項の記録方法)
 電子的委任状の代理人の表示及び委任事項の記録内容については,現在の委任状の記載事項と同程度のもので足りることとする。
(補足説明)
 代理人の特定方法は,住所及び氏名の記録により行うこととするが,委任事項の特定方法は,現在と同様に登記すべき事項をすべて記録する必要はなく,例えば,「取締役の変更の登記の申請」,「監査役の変更の登記の申請」のように委任事項を特定することができるものであれば足りるものと考えられる。
 この点について,電子的委任状の場合は,紙の委任状と異なり,同じデータを繰り返し使うことも事実上可能であるので,その防止策として,委任事項をより具体的に(流用することが不可能な程度に)特定して記載するものとする必要があるのではないかとの指摘もされたが,申請する側にとっては負担になり,かえって不便になるおそれがあり,前記の程度の特定で足りるとすることとされた。
 なお,委任の事実が真実であるかどうかについては,登記申請の時点において,これを確認できるものとする必要がある。すなわち,書面による申請の場合においては,委任状には,申請の時点で登記所に提出済みの印鑑と同一の印鑑が押印されていることが必要であるのと同様に,オンライン申請においても,電子的委任状に添付する電子証明書は,申請時点において現に有効なものである必要があると考えられる。
(3 )委任者が委任を撤回した場合の取扱い
 委任者が委任を撤回した場合に無権代理人による申請がされないようにする配慮が必要である。
(補足説明)
 オンライン申請においては,委任者が委任を撤回した場合であっても,委任情報の完全な回収は困難であり,代理人の手元に電子的委任状のコピーが残っていると,これを利用して,無権代理人による申請がされる可能性がある。これを防止するため,委任の撤回をした場合は,電子的委任状のコピーを含めて,完全な回収を行う等の委任者・受任者間で適切な措置を採る必要がある。
 また,無権代理人による申請という事態が生じ得ることにも配慮し,登記の実行がされるまでの間は,直接本人からの登記の申請の取下げを認めることとする。また,この場合においても,オンラインに限らず出頭による書面での取下げも認めるものとする。
 なお,委任を撤回した場合には,電子的委任状の作成後であっても,申請がされる前であれば,申請人において電子証明書の失効(使用の廃止)の手続を採ることにより,無権代理人による登記申請を防ぐことが可能である。電子委任状に添付された電子証明書の失効後は,申請を受け付けた登記所が電子認証登記所に対して行う電子証明書の有効性確認の手続により,申請の時点で委任の効力がないものと判断することができるからである。
(4 )復代理・共同代理
 現在,復代理は,遠隔地の登記所に登記申請をする場合に利用されているが,オンライン申請になった場合には,復代理人を選任する必要性は少なく,また,商業法人登記の申請においては,共同代理を認める必要性も乏しいことから,復代理及び共同代理のための特段の手当てはしないものとする。

7 添付書類の電子化

 商法改正(平成13年法律第128号)に伴う商業登記法等の改正により,登記の申請書に添付すべき定款,議事録若しくは最終の貸借対照表が電磁的記録で作成されているとき,又は登記の申請書に添付すべき書面につき,その作成に代えて電磁的記録の作成がされているときは,当該電磁的記録に記録された情報の内容を記録した電磁的記録を登記申請書に添付しなければならないこととされた(商業登記法第19条の2)。したがって,改正法が施行されると,商業登記の申請において,電磁的記録を添付した登記申請を登記所の窓口で取り扱うことが可能となる。
 さらに,官公署が発行する許可書,証明書等についても,前記1の行政手続に係る申請・届出等のオンライン化を実現するための通則法の制定により,原則的にすべての書面の電子化が可能となる予定である。
(補足説明)
    1  定款の電子化
 原始定款については,公証人制度に基づく電子公証制度を利用することにより,電子化が可能となっている。
 また,定款変更後の定款(原始定款以外の定款)については,会社代表者が商業登記に基づく電子認証制度に係る電子署名をすることにより,定款の真正を担保するものとする。
    2  株主総会議事録・取締役会議事録の電子化
 株主総会議事録及び取締役会議事録については,当該議事録の作成者(署名・押印する者)の電子署名を付するものとされている(商法第244条第4項,第260条ノ4第4項,第33条ノ2第2項)。この場合,代表取締役の電子署名については,電子認証登記所発行の電子証明書を添付し,これを利用することができない取締役については,一定の民間認証機関(電子署名法の特定認証業務のうち法務大臣の指定するもの)の発行する電子証明書を添付することになる(商業登記規則第36条第4項参照)。
    3  上記以外の会社関係書類の電子化
      ア  払込金の保管証明書
 払込金の保管証明書の電子化については,銀行等の金融機関において電子的な証明書を発行することとなるので,その具体的な方法について,当局と金融機関との間での調整が必要となる。
      イ  合併契約書,分割契約書
 合併契約書及び分割契約書については,現行法上,署名・押印の規定はないが,これらの契約書を電子化する場合には,両会社の代表取締役の電子署名に係る電子証明書を添付するものとする。
      ウ  最終の貸借対照表
 最終の貸借対照表については,当該計算書類の署名者又は作成者が電子署名を付するものとされており(商法第33条ノ2第2項),登記申請に添付する場合には2に掲げる電子証明書を添付するものとする。
      エ  就任承諾書
 就任承諾書については,就任を承諾した者の電子署名を付し,2に掲げる電子証明書を添付するものとする。
      オ  公告したことを証する書面
 公告したことを証する書面は,本来,官報,日刊紙等であるが,その写しをPDFファイルに変換するなどの手段により,これを電子化する方法を検討する必要がある。
    4  会社の登記簿の取扱い
 登記の申請書に会社の登記簿謄本を添付しなければならない場合がある。例えば,管轄区域の異なる会社同士が合併する場合においては,合併による変更の登記の申請書には,消滅会社の存在を明らかにするため,消滅会社の登記簿謄本が添付書面とされている。この合併による変更の登記をオンラインにより申請する場合には,登記簿謄本の添付に代えて登記情報提供サービスを利用することが考えられる。この場合には,登記所担当者が登記情報提供サービスにより当該消滅会社の存在の確認を行うことができるよう,申請人においてオンライン申請用のID及びパスワードを取得し,これを申請情報等に付して送信し,申請を受け付けた登記所担当者が当該ID及びパスワードを用いて登記情報の確認を行うという方法が見込まれている。
 なお,今後,電子的な登記事項証明書の発行が可能になった際には,前述の方法に代わり,これを添付することが考えられる。
    5  官公署の発行する許可書等の電子化
 各省庁は,現在,申請届出のオンライン化に取り組んでいることから,各省庁が発行する証明書については,順次電子化が図られていく予定である。

8 オンライン登記申請と登記管轄

 オンライン登記申請の登記管轄は,現行と同様とするものとする。
(補足説明)
 商業法人登記に関する事務は,商業登記法第1条により当事者の営業所の所在地を管轄する法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所がつかさどることとされており,具体的には,法務局及び地方法務局の支局及び出張所設置規則第4条により同規則の別表に定められている。
 オンライン申請により送信された申請情報等は,まず,全国で1か所設置された法務省総合受付通知システムで受信され,登記電子申請配信システム及び登記電子申請受付管理システムを経由して申請先登記所の登記情報システムに送信される仕組みとなる予定である。このように,登記事件を実際に処理するのは申請先登記所であり,これは登記管轄によって定められることになる。さらに,各登記所では,出頭による申請をも並行して取り扱うのであるから,現行の登記管轄は,これを維持するのが相当である。

9 その他

(1 )他の登記所を経由してする登記の申請
 合併や分割の場合など,他の登記所を経由して申請すべきことが定められている登記の申請についても,同様の申請がオンラインによって可能となるようにする必要がある。
(補足説明)
 商業登記においては,次の場合などに,他の登記所を経由して登記の申請をすることが定められている。
    a  合併により消滅する会社(本店は甲登記所管内)の解散の登記の申請(ア)は,合併後存続する会社又は合併により設立した会社の本店所在地を管轄する乙登記所を経由して行う(商業登記法第69条,第77条,第92条,第101条)。この場合には,アの登記の申請と,合併後存続する会社がする変更の登記又は合併により設立した会社が行う設立の登記の申請(イ)とは,同時に乙登記所にしなければならない。
b  分割をする会社(本店は甲登記所管内)がする変更の登記の申請(ウ)は,新設分割により設立する会社又は吸収分割により営業を承継する会社の本店所在地を管轄する乙登記所を経由して行う(商業登記法第89条の7,第101条)。この場合には,ウの登記の申請と,新設分割により設立する会社がする設立の登記又は吸収分割により営業を承継する会社がする変更の登記の申請(エ)とは,同時に乙登記所にしなければならない。
     これらの登記の申請をオンラインによって行う場合には,aについてはア及びイの申請,bについてはウ及びエの申請を,同時に乙登記所に送信させることとし,乙登記所においてイ又はエの申請について処理を行った後に,乙登記所から甲登記所にア又はウの申請に係る情報を転送し,甲登記所においてこれを処理することになるものと考えられる。
 したがって,このようなオンライン申請を実現するためには,独立した2つの申請情報等をまとめて送信することが可能なシステムが必要となる(なお,aの場合には,アの登記の申請人とイの登記の申請人は同一人であるが,bの場合には,ウ及びエの登記の申請人はそれぞれの会社の代表者(又は代表すべき者)であり,申請情報の作成者が異なることになるので,注意を要する。)。
(2 )支店所在地における登記の申請
 本店及び支店の所在地において登記すべき事項については,本支店の登記を一括して申請することができるようにする必要がある。
(補足説明)
 現行法では,支店所在地における登記については,出頭主義の規定(商業登記法第16条)は適用されていない(本店所在地において登記すべき事項についてする登記に限る。)が,本店でした登記の登記簿謄本を添えて,法定の登記期間内に登記しなければならないこととされている。
 この点については,本店所在地の登記所で登記した後に,各支店所在地の登記所に登記申請をしなければならない点が企業の負担となっていることから,規制改革3か年計画(平成13年3月30日閣議決定)により,オンラインにより本支店の登記を一括して申請することができるようにすることとされている。
 したがって,登記申請のオンライン化を実現するに当たっては,本支店の登記を一括して申請することができるシステムが必要である。
 なお,現行の商業登記法には,法務大臣が指定する登記所の間においては,本店所在地の登記所を経由して支店の登記申請をすることができる旨の規定が設けられている(商業登記法第113条の7)。法制的には,この規定を活用することにより,(1)と同様の経由申請の方式により,一括申請を実現することが可能であると考えられる。
(3 )登記申請書等の受領証の発行
 オンライン申請を受け付けた場合の電子的な受領証の発行について検討する必要がある。
(補足説明)
 現行の制度では,登記官は,登記申請書その他の書面を受け取った場合において,申請人の請求があったときは,受領証を交付しなければならないとされている(商業登記法第22条)。具体的には,申請人から,登記申請書その他の書面の写しを提出させ,これに登記官が受付年月日及び受付番号を記載して押印し,これを受領証として交付している。
 オンライン申請を受け付けた場合には,申請書類に受付年月日等を記載して押印することは技術的に不可能であるが,登記官が登記申請の受付年月日・受付番号を記録した受領証に代わる記録を発行することは可能である。
 したがって,具体的なニーズの有無を踏まえて,このような電子的な受領証の発行について検討する必要がある。
(4 )電子的な登記事項証明書(電子謄本)の発行
 登記事項を内容とするファイルに登記官が電子署名をすることによってこれを認証する電子的な登記事項証明書(電子謄本)の発行を検討する必要がある。
(補足説明)
 現在,登記情報を電子的に確認する手段としては,前記7の補足説明4のとおり,登記情報提供サービスが運用されているが,登記官による認証を得ることはできず,同サービスを利用して確認した結果の保存についても,電磁的方法ではなく,画面を印刷して保存しておくほかない。登記所又はその他の行政機関に対する申請の添付情報に代えて登記情報提供サービスを活用することは可能であるが,今後,その種の申請に限らず,電子商取引等の様々な場面で登記情報を活用していくためには,登記官の電子署名によって認証される電子的な登記事項証明書(電子謄本)の発行の制度を検討する必要があると考えられる。
 その場合には,登記官が電子証明書及びこれに対応する秘密鍵(署名鍵)を保有することが必要であり,集中的にそのような認証業務を取り扱うこととするのか,登記管轄に従って個々の登記官が取り扱うこととするのか,また,電子的な登記事項証明書に記載された情報の二次的利用の可否・当否の問題等についても検討する必要がある。
(5 )オンラインによる登記事項証明書の交付又は送付の請求
 オンラインによる登記事項証明書の交付又は送付の請求の制度についても,可能とすべきである。
(補足説明)
 登記情報の確認手段としては,前記7の補足説明4のとおり,登記情報提供サービスが運用されており,また,前記(4)のとおり,電子的な登記事項証明書の発行の制度も考えられるところであるが,現行の登記事項証明書も,当面は,従来どおり広く利用されるものと考えられる。現在は,郵便により送付の請求を受け付けているが,インターネットによりオンラインでその請求をすることが可能になれば,利用者の利便性が高まることとなり,また,登記所側の事務処理の負担も軽減されることになる。
 また,政府全体の施策として,国に対する申請・届出等の手続については,原則としてすべてオンライン化を図ることが必要とされているところであり,登記事項証明書の交付又は送付請求についても,その例外とすることなく,オンライン化を図る必要がある。