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法務大臣閣議後記者会見の概要

令和3年10月8日(金)

 今朝の閣議において,法務省案件はございませんでした。
 続いて,私から2件報告がございます。
 1件目は,千葉県北西部を震源とする地震の被害状況についてです。
 昨日(木曜日)午後10時41分に千葉県北西部を震源とする最大震度5強の地震が発生しました。
 首都圏においてもかなり大きい揺れを感じ,漏水や鉄道路線の脱輪などの被害が生じたと承知しています。
 法務省関係官署においては,現時点で人的・物的被害は認められていません。
 気象庁からは今後の余震に注意するようにとの発表がなされていますので,十分に警戒して業務を継続するとともに,関係省庁,地方自治体等とも連携して情報収集や災害応急対策に全力で取り組んでまいりたいと考えています。
 2件目は,法務省関連の新型コロナウイルス感染症の感染状況についてです。
 10月1日(金曜日)から昨日までの間,職員については,3つの施設で計3名の感染が判明しました。詳細は既に公表されたとおりです。
 なお,被収容者の感染判明はございませんでした。

侮辱罪の法定刑引上げに関する質疑について

【記者】
 侮辱罪の法定刑引上げについてお尋ねいたします。法制審議会の部会が,今週6日(水曜日),刑法の侮辱罪に懲役刑を導入する要綱案をまとめました。
 インターネット上の誹謗中傷が深刻化し,対策強化を求める声が上がる一方,部会では表現の自由や言論の萎縮を懸念する意見もありました。
 要綱案は今後法制審の総会で報告されることになりますが,厳罰化の道筋がついたことに対する大臣の受け止めや,そうした懸念に対応するためにどのような運用をすべきか,お考えをお聞かせください。

【大臣】
 誹謗中傷による人権侵害は決してあってはならず,近時の侮辱の罪の実情等に鑑みれば,公然と人を侮辱する侮辱罪の法定刑について,早急に改正する必要があると考えています。
 本月6日の法制審議会刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会において,侮辱罪の法定刑を「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」とすることを内容とする要綱が,部会として採択されたものと承知しています。
 部会においては,御指摘のような表現の自由に対する萎縮効果の点に関しても議論がなされたとの報告を受けています。

東京高等裁判所における国家賠償請求訴訟判決に関する質疑について

【記者】
 9月22日に東京高裁で,2014年12月にチャーター便で強制送還されたスリランカ人男性の国賠訴訟の判決が出たのですが,国が上告を断念し,先日10月6日に判決が確定しました。
 これは,難民不認定とされた人の裁判を受ける権利を奪ったことであるとか,行政手続上も適正手続がされていなかったということで違法であるということ,なおかつ,違憲であるということで憲法違反にも踏み込んだ判決でした。同類の裁判というのは今年1月にも名古屋高裁で,同じ飛行機で強制送還されたスリランカ人男性の請求を認める判決が出て,今回はそれに加えて憲法違反であると,そこまで踏み込んだ判決でした。
 東京高裁判決では,難民申請が濫用であったかどうかも含め司法審査の対象とされるべきであるということで,現在は難民認定制度の審査の在り方についても司法審査を入れるべきであると,そういう踏み込んだ判断をされました。
 この件について入管庁は,今年6月に通達を出しているのですが,これは難民不認定の告知ですとか,強制送還の時期の告知などについて見直すという内容の通達となっています。この中では,このような形で強制送還された人が,どういう被害を受けたかや,今の難民認定手続そのものが適正なのかどうかといったことについての内容は全く含まれていません。そういった運用の見直しということにはなっていないのです。
 ということでありまして,今回の違憲判決を受けて,強制送還されたことで,このような強制送還と今までチャーター便の強制送還も2013年以降8回行われています。こういったチャーター便の強制送還だけではなく,難民申請中に送還されたり裁判を受けずに送還された人がたくさんいるわけですが,その実態調査を法務省としてきちんとやるお考えがあるのかどうか。
 今回判決が出たお二人に対して,あるいは,名古屋高裁の人も含めてですが,裁判を受ける権利を保障するということで,裁判を受ける場合に日本に入国することを認めるということを考えていらっしゃるのかどうか。今の難民認定制度の在り方全体を含めて,もしお考えがあれば,今言った具体的な点も含めてお答えいただけると助かります。

【大臣】
 御指摘の事案については,従来,出入国在留管理庁において送還を拒む者の集団送還を円滑に実施する中で行われていたものであると認識しています。
 今年1月の同種の訴訟についての名古屋高等裁判所判決を踏まえ,御存じのとおり,今年6月に通達を発出し,難民審査請求に理由がない旨の裁決を通知した被退去強制者に対しては,送還計画を立てた上で送還予定時期を告知すること,送還予定時期は裁決告知から2か月以上後にすることを原則とすることなど,既に運用を変更しています。
 また,裁判のための入国についてのお尋ねがありましたが,一般論として,本邦に上陸しようとする外国人から申請があったときは,入管法に規定する上陸のための条件に適合しているかどうかを審査し,審査の結果,当該外国人が上陸のための条件に適合している場合は,上陸が許可されることになります。

【記者】
 今回の東京高裁判決の一番のポイントは,裁判を受ける権利を与えないまま強制送還をやってしまったということなので,今お話しした送還を拒む者の送還を実施したいから集団送還したんだというような理由だけでは全く説得力がないです。それが違憲だという指摘を受けたのです。
 昨日,原告の1人が,オンラインで今のお気持ちを答えました。入管がやってきたやり方というのはやはりとても汚い,今回30万円の賠償というのが出るということですが,謝罪は一切なく,やはり真摯に謝罪してほしいと。彼を含めて,分かっているだけでも48人の方が,2014年と2016年に裁判を受ける手続を得ないまま,集団送還されました。これについて,違憲をしてしまったことを入管庁が認めるのであれば,自分たちも含めて,もう一度難民申請をさせてほしいと言っています。
 大臣として,これに真摯に応えるつもりがあるのかという点と,やはり謝罪が何よりも必要だと思います。担当者は,お金を払うから口座番号だけ教えてくれという電話だけを昨日弁護士に連絡してきたと言っていました。謝罪をする,お言葉を出すつもりはあるのか,お願いいたします。

【大臣】
 出入国在留管理庁においては,本年1月の同種の訴訟についての名古屋高等裁判所判決を踏まえて,本年6月に通達を発出して,既に運用を変更しています。
 先ほど申し上げましたが,難民審査請求に理由がない旨の裁決を通知した被退去強制者に対しては,送還計画を立てた上で送還予定時期を告知すること,送還予定時期は裁決告知から2か月以上後にすることを原則とすることという内容の通達を発出して,既に運用を改めています。
 原告に対する対応の在り方については,まずは,入管庁において適切に検討するものと考えています。

【記者】
 適切に検討したいということは,今後,自分たちのやった違法性を認識するのであれば,謝罪及びもう一度連絡のつく方たちの難民申請を認める,つまり,その場合,日本に上陸してもらって,難民申請手続を得ることを認めるということになるのですが,これが検討の中に入っているかという点。
 それと,前の大臣が明らかにしていないのが,2020年の3月にも,同様の裁判を受ける権利を与えないまま集団送還した事案があるらしいのですが,一体何人の方が今回の彼らと同様に裁判を受ける権利を得られないまま,強制送還されたかの人数を明らかにしていません。こういったことも,さっき言った被害実態を明らかにする上でも,つまびらかにしていただきたいのですが,この状況,先ほどの質問にもあった,過去にどのくらいの人たちがこのような状況にあって,今どのような状況に置かれているのかを含めて調査,そして改善計画を含めて公表するつもりはありますか。

【大臣】
 今後の対応については,入管庁において検討していきたいと思っています。

【記者】
 今回の東京高裁判決,チャーター便送還のスリランカ人の集団送還の件ですが,この件についての被害実態,この件だけではなく過去の2013年以降のチャーター便送還による難民申請者の被害の実態や,今後どのような救済措置を執るかということについて,先ほど「検討します」というお話でしたが,これはきちんと公表されるのか,今回の裁判の原告に対して,きちんとどのような対策を取りますという結果を報告するということは考えていらっしゃるのかということが1点。
 それと,難民申請者を巡っては,先ほどから言っていますように非常にたくさん問題があります。2014年にも難民問題に関する専門部会が開かれましたが,その検討課題はほとんどまだ解決されていません。
 その一方で,送還忌避者という言葉だけが独り歩きして,難民申請の濫用であるということで,今回のチャーター便送還も行われてきたわけですけれども,こういった基本的な難民認定,それから今仮放免で苦しんでいる難民申請者もたくさんいますが,そうした人に対する実態調査ですとか,いろいろな自治体から申出があったりしているわけですけれども,どういう救済措置を講じるのかということを,本当にそういう当該の人たちは,きちんと法務省が在留特別許可の件も含めてやってくれるのかということを非常に懸念して,ずっと生活を耐えている状態です。
 本当に難民申請者が今日本で苦しんでいるわけですが,そういった実態に対してきちんと向き合うつもりがあるのかどうか,そういったことをしっかりと検証して公表するということが今必要だと思うのですが,それについて大臣がどう考えていらっしゃるのか。
 今回の裁判の件と,それから難民申請者が今置かれている全体の状況について,どのように対処していきたいか,基本的な考えを聞かせてください。

【大臣】
 まず,前段の御質問についてですが,これは入管庁において検討をさせます。
 そして,難民認定についての御質問ですが,我が国において難民認定申請がなされた場合は,申請者ごとにその申請内容を審査した上で,難民条約の定義に基づき,難民と認定すべきかどうかということを適切に認定しています。
 制度面においては,仮に難民とは認定されなかった場合であっても,その判断について,不服申立てを行うことができることになっており,不服申立手続では,元裁判官,大学教授,弁護士等の外部有識者からなる難民審査参与員が3名1組で審理を行い,法務大臣は,その意見を尊重して裁決を行っています。
 さらに,難民には当たらないとの判断に不服があれば,司法判断,裁判への道も開かれているわけです。
 また,より適正な運用をしていくため,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との協力関係を構築し,職員に対する研修も行っていただいているところです。
 さらに,出入国在留管理庁では,難民該当性に関する規範的要素の明確化,難民調査官の能力向上,出身国情報の充実を3つの柱として,難民認定制度運用の一層の適正化を図っていくこととしているものと承知しています。
 いずれにしても,法務省としては,難民認定制度の適正な運用に向けた取組をしっかり行うことにより,今後とも,真に庇護を必要とする者を確実に保護したいと考えています。

ヘイトスピーチに対する取組に関する質疑について

【記者】
 先ほどお話しになった侮辱罪の重罰化にもつながる話ですが,昨晩の地震の直後から,TwitterなどのSNS上では,特定の民族を指して「井戸に毒を入れた」というデマが,これは関東大震災時の民族虐殺を想起させる非常に危険で醜悪なものですが,これが拡散されています。
 まず,人権擁護やヘイトクライムを防ぐという観点から,法務大臣として,このデマを打ち消す必要があると思いますが,そうしたメッセージをお出しになるおつもりがあるのかお伺いしたいという点が一つ。
 大きな災害や大きな事件があるたびに,こうしたデマというものが繰り返し行われています。つまり,野放しになっているわけです。
 ヘイトスピーチ解消法が施行から5年を過ぎましたが,その理念法であるがゆえの抑止力の弱さというものが,ずっと指摘されています。
 その一方で,地方自治体では,川崎市で罰則付きのヘイトスピーチ規制条例が施行されて,そういった努力も続いています。国として,こうした地方の動きを支えたり,あるいは,主体的に取り組むということで,何か新しい法律,法改正や新しい法整備といったものを含めて,どのように取り組んでいくおつもりなのかお聞かせください。

【大臣】
 差別や,いわゆるヘイトスピーチというものは,断じてあってはならないと私は思っています。
 人権擁護,人権啓発という意味で,これは重要な課題ですから,引き続き,しっかりと取り組んでいきたいと思っています。
 特に,SNSが普及し,様々な意見の発表が,大量に増幅しながら行えるような時代になってきているわけですから,そういう状況もよく踏まえながら,今申し上げたような観点について,しっかりと取り組んでいかなければならないと思っています。

【記者】
 しっかり考えていかなければいけないというお話ですが,ヘイトスピーチを許さないということは,法律ができてから5年,ずっと繰り返し続けていて,しかし,それを言い続けているだけでは事態が一向に改善していない,むしろ悪化しているという状況にあると思います。
 ですので,許さないというのは当然で,どう許さないのかということ,実効性のある取組というものが求められていると思います。その辺りで,川崎市は新しい試みとして一歩踏み出したわけですが,先ほどおっしゃった意味は,そうした規制法を含めて,罰則を含めた新しい取組というものを考えるということでよろしいでしょうか。

【大臣】
 差別やヘイトスピーチというものに対しては,私も大変深く憂慮し,重い問題だと受け止めています。
 特にヘイトスピーチについては,議員立法で立法がなされています。今の世の中の状況を踏まえて,議員立法がなされたわけですが,今後も更に議論が深まっていくことを期待したいと思っています。

岸田内閣における経済政策に関する質疑について

【記者】
 大臣個人の考えをお伺いしたいと思っているのですが,岸田首相は「分配なくして成長なし」という発言を,経済政策のスローガンとして掲げております。この発言のイメージ,狙いを大臣としてどのように理解されているのか。
 それに併せて,経済にも関係する民事法務行政を所管する法務大臣の立場として,もし関係するとお考えになっていることがあればお伺いしたいと思います。

【大臣】
 岸田内閣が,成長と分配のバランスのとれた好循環に持ち込みたいということを掲げていることは,私は大事なポイントだと受け止めています。これまで新自由主義的な考え方を主流とする政策が行われてきた中にあって,一方で,この分配というものを一つの大きなテーマに掲げて,新自由主義的なものからの軌道修正を図ったという意味では,私は,岸田内閣の大きな政策の柱であると受け止めています。
 法務省として,法務行政においていかなる関わりがあるかという御質問ですが,御存じのとおり,法務省は,民法,刑法,基本法制の維持及び整備,法秩序の維持,国民の権利擁護など,国民の生活全般にわたる安全・安心を守るための法的基盤を預かっており,法治国家としての日本の背骨を成しているのが法務行政だと思います。それは,日本という社会の,いわば重要な公共インフラだと思っています。
 この成長と分配,そして国民が豊かさを実感できる社会を目指していくに当たって,その前提としての法的なインフラを担っているという意味では,法務省は,その全般的に関わる,基礎を成す部分をお預かりしていると認識しています。
(以上)