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第203回国会(臨時会)衆議院法務委員会における上川陽子法務大臣挨拶

令和2年11月10日(火)

 はじめに

 菅内閣において,法務大臣に就任しました上川陽子です。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 私は,これまでの二度の法務大臣在任時から,法の支配の貫徹された社会,そして,国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)に掲げられた「誰一人取り残さない」社会の実現を目指し,法務行政に取り組んでまいりました。この度も,これを大きな目標に掲げ,より一層の覚悟と熱意をもって,法務行政を前に進めてまいります。
 来年3月には,京都で第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)が開催されます。私は,本年を「司法外交元年」と位置付け,国際社会においても,法の支配の確立や,SDGsの達成に向けた取組がより一層進むよう,「司法外交」を展開してまいります。

 新型コロナウイルス感染症は,国民生活や社会経済活動に大きな影響を与え,なお予断を許さない状況です。季節性インフルエンザとの同時流行をも想定し,法務省関連施設における感染予防・感染拡大対策を,危機管理の観点から,更にレベルアップするとともに,コロナ禍において困難を抱えている,国民や在留外国人の方々,地方公共団体等に対し,法務省として行い得る支援について,積極的に検討し,速やかに実施してまいります。
 そして,ウィズコロナ,ポストコロナの新しい社会を見据え,法務行政のデジタル化・IT化を力強く推進するなど,法務行政のイノベーションを推進してまいります。

 国民生活の安全・安心の実現をその使命とする法務行政は,国民の皆様からの信頼なくしては成り立ち得ません。全国の法務省職員と対話を重ねながら,気持ちを一つにして,一つ一つの職務に真摯に取り組むことにより,国民の皆様からの信頼を得てまいりたいと考えております。

 法務行政の具体的課題への取組

1 「誰一人取り残さない」社会の実現に向けて,様々な困難を抱える方々への取組を推進します。

 (性犯罪・性暴力対策の推進)
 性犯罪・性暴力は,被害者の尊厳を著しく侵害し,その心身に長年にわたり重大な苦痛を与え続けるものであり,決して許されるものではありません。
 性犯罪・性暴力の被害当事者や支援者の方々の活動により,これまで必ずしも広く知られていなかった被害の実態が,次第に明らかになっています。
 本年6月に関係府省会議で決定された「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」においては,そうした実態をも踏まえ,令和4年度までの3年間を,性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」と位置付け,関係府省が連携して各施策を推進していくこととされています。法務省は,この強化方針に沿って,刑事法に関する検討や,再犯防止施策の更なる充実といった各種施策について,スピード感を持って推進してまいります。

 (児童虐待防止対策)
 子どもが最も安全に安心して生活できるはずの家庭内での児童虐待には,終止符を打たなければなりません。そのためには,子どもの命を守ることを最優先として,その予防,早期発見,児童の保護,再犯防止に総合的に取り組むことが重要です。
 政府で取りまとめた「児童虐待防止対策の抜本的強化について」や「法務省児童虐待防止対策強化プラン」に基づき,児童相談所等の関係機関と緊密に連携しつつ,法務少年支援センターの心理の専門的知見を活かした支援などの取組を着実に推進してまいります。

 (犯罪被害者等の方々への支援)
 犯罪被害者等の権利・利益の保護を図るための各種制度の運用に当たっては,犯罪被害者等の方々から寄せられる様々な御負担などに関する御指摘・御意見等を踏まえつつ,犯罪被害者等基本法の理念にのっとり,きめ細やかな対応に努めてまいります。

 (様々な人権問題等への対応)
 近時問題となっている新型コロナウイルス感染症に関連した差別や偏見,インターネット上の誹謗中傷は,その被害に遭われた方々に対する,深刻な人権侵害となりかねません。
 また,女性や子ども,高齢者に対する差別や虐待,障害を理由とする差別や偏見,部落差別などの同和問題,ヘイトスピーチを含む外国人に対する人権侵害,ハンセン病患者・元患者やその家族に対する差別や偏見,性的指向・性自認を理由とする差別や偏見,被災地や被災者の方々に対する差別や中傷等についても,救いを求める声が後を絶ちません。
 これらの様々な人権問題を解消し,差別のない社会の実現を目指すため,調査救済活動に粘り強く取り組むとともに,効果的な人権啓発活動にしっかりと取り組んでまいります。

 (無戸籍状態の解消)
 親によって出生の届出がされておらず,無戸籍となっている方々について,徹底した実態把握に努めるとともに,全国各地の法務局において,常時相談を受け付け,戸籍を作るための丁寧な手続案内をするなど,引き続き,「寄り添い型」の取組を実施してまいります。また,充実したウェブコンテンツにより,裁判手続等の情報を分かりやすく提供するなど,無戸籍状態の解消に向けた更なる取組を進めます。

2 「司法外交」を積極的に展開するため,その柱となる,法制度整備等に関する国際協力,国際機関との連携強化,国際仲裁の活性化,法令の外国語訳などの取組を更に推進します。

 (法制度整備等に関する国際協力,国際機関との連携強化)
 開発途上国等に対する法制度整備支援については,基本法令の起草,司法制度の整備や運用,司法関係者の人材育成について,相手国の実情に応じた「寄り添い型」の手厚い支援を行うとともに,刑事司法分野での数々の国際研修等を実施するなど,長年にわたって力を注いでまいりました。こうした国際協力を,更に積極的に推進してまいります。
 また,国際社会で活躍できる司法に携わる人材を育成し,国連を始めとする国際機関に派遣するなど,国際機関との連携強化も,より一層進めてまいります。

 (国際仲裁の活性化)
 国際仲裁は,国際商取引等における法的紛争を解決するための重要なインフラであり,我が国において,これを活性化させることは喫緊の課題です。本年3月にオープンした虎ノ門の仲裁専用施設も十分に活用しつつ,仲裁人等の専門的な人材育成,国際仲裁の利用者である国内外の企業等に対する広報・意識啓発など,基盤の整備を進めてまいります。
 また,仲裁法制の見直しについては,法制審議会での調査審議が開始されたところであり,引き続き,法改正に向けた具体的な検討を進めてまいります。

   (法令外国語訳整備事業の推進)
 重要な日本法令を翻訳して国際発信することは,我が国の国際化や経済成長のための基盤整備として,より一層重要となっています。関係省庁と緊密に連携して,法令外国語訳整備事業を更にスピードアップさせてまいります。

 (京都コングレス)
 京都コングレスでは,「SDGs達成のための犯罪防止,刑事司法及び法の支配の推進」という全体テーマの下,法の支配等の普遍的・基本的価値の重要性を国際社会に強く打ち出すべく,指導力を発揮します。さらに,保護司の皆様により,130年以上の長きにわたり連綿と受け継がれてきた,更生保護制度などの再犯防止の取組や,我が国の刑事司法制度についての正確な情報を,積極的に世界に発信します。
 京都コングレスに先だって開催するユースフォーラムでは,未来を担う世界の若者の,安全・安心な社会の実現への関心を高め,グローバル人材の育成に貢献いたします。

3 高度な出入国管理と適正な在留管理を行うとともに,共生社会の実現に向けた取組を推進します。

 (出入国管理の高度化)
 新型コロナウイルス感染症の感染者の国内流入を防止するため,関係機関と連携し,引き続き,水際対策に万全を期すとともに,東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を見据え,国際的な人の往来の更なる再開に向けて,政府対策本部での検討結果を踏まえ,必要な措置を講じてまいります。

 (外国人材の受入れと適正な在留管理)
 特定技能制度については,外国人の皆様が我が国で十分に力を発揮していただけるよう,制度の適正な運用に努めるとともに,その利用拡大に向けて,マッチング支援などによる受入れの促進に取り組んでまいります。技能実習生や留学生についても,その運用状況を的確に把握しつつ,必要な改善に努めてまいります。
 新型コロナウイルス感染症の影響により,帰国が困難となり,かつ,就業先が見つからないなどの事情により,生活に困難を抱えている在留外国人の方々には,帰国できるまでの間,安心して生活できるよう支援に取り組みます。

 (外国人との共生社会の実現)
 本年7月に改訂した「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を踏まえ,出入国在留管理庁において,総合調整機能を果たしつつ,関係府省庁と十分に連携し,外国人在留支援センターにおける支援,やさしい日本語を活用した在留支援策についての情報提供,一元的相談窓口を開設している地方公共団体への支援などを推進してまいります。また,共生社会の実現に向けた,更なる施策についても,検討を続けてまいります。

 (送還忌避・長期収容問題への対応)
 退去強制令書が発付されたにもかかわらず,様々な理由で送還を忌避する者が後を絶たず,入管収容施設での収容の長期化が生じています。これを解消し退去強制手続を一層適切なものとするため,本年7月に「収容・送還に関する専門部会」から頂いた提言を踏まえ,様々な御意見にも耳を傾けながら,関係法案の国会提出に向けた準備を進めてまいります。併せて,被収容者の人権に配慮した,適正な処遇の実施も徹底してまいります。

 (適正かつ迅速な難民等の保護)
 難民認定制度についても,これをより適切なものとするため,関係法案の準備を進めるとともに,その運用の見直しを行い,真に庇護を必要とする者の迅速な保護を図ってまいります。

4 民事基本法について必要な見直しを進めるとともに,訟務機能を充実強化してまいります。

 (社会の変化に対応する民事法制)
 両親が離婚した後の親権制度や養育費,面会交流の問題など,父母の離婚に伴う子どもの養育の在り方については,子どもの最善の利益を図るという,チルドレン・ファーストの観点から検討することが重要と考えており,今後も,このような観点からしっかり検討を進めてまいります。
 また,その施行が近づきつつある成年年齢の引下げや会社法等の改正については,円滑な施行に向けた準備を着実に進めるとともに,国民への効果的な周知に全力を尽くしてまいります。

 (所有者不明土地問題への対応)
 近年,様々な場面で問題となっている所有者不明土地への対策は,政府全体として取り組むべき重要な課題であり,その推進に当たって法務省が果たすべき役割は極めて重要です。
 法務省では,これまでも,相続登記の促進のための取組や,表題部所有者不明土地の解消作業など,様々な対策を実施しており,現在は,抜本的な解決に向け,法制審議会において,民法及び不動産登記法の改正に関する調査審議を行っていただいています。引き続き,関係省庁と連携しつつ,解決に向けた対策を推進してまいります。

 (震災・災害からの復興支援)
 東日本大震災,相次ぐ大規模災害に対する復興支援については,被災地等の登記所備付地図の整備に積極的に取り組むとともに,登記嘱託事件等の適切かつ迅速な対応,長期相続登記等未了土地の解消,「法テラス」による無料法律相談など,被災地の御要望・需要に沿った支援策を実施してまいります。

 (訟務機能の充実強化)
 国としての多様な訟務機能の充実強化を図り,法の支配等の普遍的な価値・ルールに基づく適切な対応を実践し,国民の権利利益を保護してまいります。そのために,国の利害に関係する訴訟に対する指揮権限を適切かつ効果的に行使するとともに,国内外の法的紛争の発生そのものを未然に防止する予防司法機能の強化を図ります。また,我が国を取り巻く国際訴訟等に当たり,関係省庁と緊密に連携してその対応を強化いたします。

5 国民に身近で頼りがいのある司法を実現してまいります。

 (法曹養成の推進)
 法曹養成制度については,国民の期待に応えられる法曹を養成するための取組を進めつつ,先般の法改正に基づき,文部科学省等としっかり連携して,より多くの有為な人材が法曹を志望するよう,必要な取組を積極的に進めてまいります。

 (法教育の推進)
 法的なものの考え方を身に付けるための法教育は,自由で公正な社会の担い手を育成する上で非常に重要です。成年年齢の引下げをも見据え,対象世代や現場のニーズに応じ,多くの国民が法教育に触れる機会を持てるよう,積極的に取り組みます。

 (総合法律支援の充実)
 「法テラス」では,新型コロナウイルス感染症の影響により支援が必要な方々への電話・オンラインによる法律相談など,社会情勢に即応した支援の充実に努めています。「法テラス」の取組の周知・広報に努めるとともに,業務の円滑な実施と体制の充実を図り,国民生活の支援に努めます。

 (デジタル化・IT化の推進)
 AIやIT等の急速な技術革新への対応は,業務の効率化や質の向上を図るとともに,ビジネス環境を整備して日本の国際競争力を高める上でも急務であり,ウィズコロナ,ポストコロナの観点からも,その重要性が高まっています。
 法務行政のデジタル化・IT化はもとより,民事裁判のIT化を始めとした司法分野における新たな技術の活用やそのための基盤整備についても,強力に推進してまいります。

6 「世界一安全な国,日本」の実現に向けて,着実に取組を進めてまいります。

 (再犯防止対策)
 犯罪や非行をした者の立ち直りを支えるため,「再犯防止推進計画」に基づいて,関係省庁や地方公共団体と連携し,就労・住居の確保を始めとする再犯防止施策を着実に推進します。特に,「再犯防止推進計画加速化プラン」で掲げられた,再入率が高い満期釈放者への対策や,再犯防止に取り組む地方公共団体への支援,保護司,更生保護施設,協力雇用主等の民間の皆様の活動への支援を,より一層充実強化してまいります。

 (18歳及び19歳の者に係る刑事司法制度の整備等)
 罪を犯した18歳及び19歳の者の刑事司法制度上の取扱いや,犯罪者処遇を一層充実させるための法整備等の在り方について,先般,法制審議会から答申を頂きました。令和4年4月の成年年齢の引下げも見据えつつ,18歳及び19歳の者にふさわしい刑事司法制度を実現するとともに,再犯防止の一層の推進を図るため,この答申に掲げられた制度・施策の具体化に向け,法整備を含め,必要な取組を進めてまいります。

 (治安の確保,国民生活の脅威への対策)
 国民の皆様が安全に安心して暮らせる社会を実現するため,関係機関とも連携し,組織犯罪等への対応を含め,治安確保のための万全の対策を講じてまいります。
 また,先端技術等の流出事案等の,いわゆる「経済安全保障」に関連する情報や,国内外におけるテロ関連動向の把握に努め,関係機関との連携を緊密にしつつ,情報収集・分析機能の強化を図ります。
 オウム真理教については,引き続き,団体規制法に基づく観察処分を適正かつ厳格に実施し,地域住民の不安感を解消・緩和するとともに,公共の安全の確保に努めてまいります。

 (国外の脅威への対応)
 北朝鮮に対しては,人的往来の規制強化措置等を適切に実施するとともに,核・ミサイル関連の動向,日本人拉致問題を含む対外動向や国内状況等について,関連情報の収集・分析等を進めます。我が国の領土・領海・領空の警戒警備に関しても,関係機関と連携し,遺漏のない対応をいたします。

7 職員が誇りをもって生き生きと仕事ができるよう取組を進め,職場環境も整備してまいります。

 (働き方改革の推進)
 法務省の「アット・ホウムプラン」に基づき,女性の職業生活における活躍や,男性職員の育児に伴う休暇・休業の取得を推進するとともに,多くの職員が柔軟にテレワーク等を行うための,十分な基盤整備を行ってまいります。さらに,様々な事情を抱える職員の声をしっかりと聞きながら,きめ細やかな対応を検討し,職員のワークライフバランスの実現に努めてまいります。障害者雇用についても着実に取組を進めます。

 (矯正施設等における感染症対策の強化,耐震化・老朽化対策の推進)
 医療機能を有する刑務所等を始めとして,矯正施設の整備を図るなど,施設内における新型コロナウイルス感染症対策を強化してまいります。また,昨今の自然災害の発生に鑑み,職員宿舎を含めた法務省施設の耐震化及び老朽化対策を着実に行うとともに,災害発生時における地域住民への避難所の提供などの積極的な地域貢献が可能となるよう,矯正施設の機能強化を推進してまいります。

 結び

 今後とも,法務行政が,国民の信頼・理解を得つつ,国民生活の安全・安心の実現という使命を果たせるよう,田所嘉德副大臣,小野田紀美大臣政務官,法務行政を担う全ての法務省職員と一つのチームとなって,全力で取り組んでまいります。義家弘介委員長を始め,理事,委員の皆様方には,より一層の御理解と御協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。