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第208回国会(常会)衆議院法務委員会における古川禎久法務大臣所信表明

令和4年2月25日(金)  

 はじめに
 
 法務大臣の古川禎久です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
  
 昨年10月に法務大臣に就任し、約5か月間、私は、今、この時代における「法」の意義、そして法務行政が果たすべき役割について、日々、自らに問いながら、職務に取り組んでまいりました。
 人類社会は、「人の尊厳」が重視され、尊重される社会へと、一歩ずつではありますが、着実に歩んできました。「自由」、「基本的人権の尊重」、「法の支配」、そして「民主主義」は、そうした社会を実現するために、人類があまたの困苦を乗り越えながら獲得してきた原理と言ってもよいでしょう。
 我々の社会は、それぞれが自らの考えをしっかりと持ちながらも、他者を尊重し、共に生きていくこと、言い換えれば「人とのきずな」、「社会とのきずな」を結ぶ力なしには成り立ち得ません。我々は、これらの原理を共有し、「きずな」を結び、誰もが幸せを享受できる社会を目指して、不断の努力を積み重ねていかなければなりません。
 法秩序の維持、国民の権利擁護等を任務とし、我が国の法制度の基盤を担う法務省においては、このような大局観を常に念頭に置きつつ、諸課題に取り組むことが大切だと考えています。法務大臣として、法務行政に寄せられる内外からの様々な声にしっかりと耳を傾け、法務行政をよりよいものとすべく、持てる力を尽くして、取り組んでまいります。
 以下の四つの大きな視点の下、法務行政を推進してまいります。
 
 法務行政の具体的課題への取組

1 一つ目の視点は、共生社会の実現です。
  全ての人々が、互いの違いを認め、尊重し、助け合うことのできる共生社会の実現を目指します。
   
(様々な人権問題等への対応)
 まず、何よりも、不当な差別・偏見は、断じてあってはなりません。お互いを尊重し合える社会を目指し、人権相談や調査救済活動を充実強化するとともに、効果的な人権啓発活動等の取組を推進してまいります。
   
(外国人との共生社会実現のための取組)
 外国人との共生社会を実現するためには、外国人の人権に配慮しつつ、ルールにのっとって外国人を受け入れ、適切な支援を行うとともに、ルールに違反する者に対しては厳正に対応することが重要です。
 より一層適切な在留管理・支援を行うため、関係府省庁とも連携し、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」や外国人在留支援センター(フレスク)における支援等を推進してまいります。また、特定技能制度や技能実習制度は、それぞれ見直しの時期を迎えており、現行制度の適切な運用に努めるのはもちろん、広く様々な関係者の御意見を伺いながら、よりよい制度に変革していくための検討をしっかりと進めてまいります。
 昨年3月の名古屋出入国在留管理局における被収容者の死亡事案は、決してあってはならない悲しい出来事でした。同様の事案を二度と起こさないという固い決意の下、まずは、出入国在留管理庁の意識改革・組織改革を含め、調査報告書で示された改善項目すべてを着実かつ迅速に遂行してまいります。
 あわせて、現行制度において生じている送還忌避及び収容の長期化の問題は、早急に対応すべき喫緊の課題であるとの認識の下、これらを解消し、退去強制手続を一層適切かつ実効的なものとするための検討を鋭意進めてまいります。
 また、難民認定制度については、その運用の一層の適正化を図るため、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との連携も含め、幅広い知見を集積すべく検討を進めてまいります。
   
(再犯防止に向けた取組)
 犯した罪を償い、立ち直ろうとする人たちを受け入れられる懐の深い、しなやかな社会づくりを推進します。国・地方公共団体・民間協力者が一体となった「息の長い支援」が可能となるよう、保護司、更生保護施設、協力雇用主等の民間の方々の活動に対する支援や、地域における支援ネットワークの一層の充実強化に取り組んでまいります。
 また、罪を犯した者に対する処遇を一層充実させるため、新たな自由刑や被害者の心情を処遇に反映するための制度の創設、更生緊急保護制度の拡充等の満期釈放者対策等を内容とする「刑法等の一部を改正する法律案」等を今国会に提出する予定ですので、十分に御審議の上、速やかに御可決いただけるようお願いいたします。
 「再犯の防止等の推進に関する法律」の施行から5年を迎え、この間の取組の効果や更なる課題を検証し、次期再犯防止推進計画の策定に向けた検討を進めます。
   
(若年者への取組)
 本年4月1日には、成年年齢の引下げに係る「民法の一部を改正する法律」及び「少年法等の一部を改正する法律」が施行され、若者を取り巻く社会環境は大きく変化します。
 これからの時代を担う若者たちが、自らの考えをしっかりと持ちながらも、他者を尊重し、共に生きていく力を身に付けることは、共生社会実現の礎となります。法の役割やその基礎となる諸原理を理解し、法的なものの考え方を身に付けるための法教育の浸透に積極的に取り組んでまいります。
 また、罪を犯した若者の立ち直りを支えるため、少年院や少年鑑別所の施設・ノウハウを活用した処遇の拡充や多様な教育・職業指導等の導入など、その特性に応じた処遇の充実を図ってまいります。

2 二つ目の視点は、困難を抱える方々への取組の推進です。
  誰もが生き生きと暮らし、幸せを享受することのできる社会の実現を目指し、様々な困難を抱える方々への取組を推進してまいります。
   
(困難を抱える子どもたちへの取組)
 子どもたちの心身を深く傷つける児童虐待は、決してあってはなりません。法務省は、専門的な知見・情報を児童相談所等に提供するなど、関係機関と連携して児童虐待の根絶に取り組んでまいります。
 いわゆる無戸籍問題は、解消すべき喫緊の課題です。一人一人に寄り添った支援とともに、発生を予防するための民法の嫡出推定制度に関する検討等を進めてまいります。
 また、父母の離婚等に伴う子の養育の在り方について、法制審議会における調査審議が進められており、制度の見直しについての検討とともに、運用上の対応にも取り組んでまいります。
   
(犯罪被害等の方々への支援)
 犯罪被害者やその御家族が、被害から回復し、平穏な生活を取り戻せるよう、第四次犯罪被害者等基本計画に沿って、きめ細やかな支援を実施してまいります。
 性犯罪・性暴力は、被害者の尊厳を著しく傷つけ、その心身に長年にわたり重大な苦痛を与え続けます。その根絶のため、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」に基づく再犯防止施策の充実強化等に取り組むとともに、関連する刑事法の整備について、引き続き、しっかりと検討を進めてまいります。
   
(様々な困難に対応するきめ細かな支援)
 様々な困難を抱える方々にきめ細やかに対応するため、人権擁護活動にしっかりと取り組み、また、総合法律支援の中核を担う法テラスの機能・体制の充実強化を図ってまいります。コロナ禍の中で生活に困難を抱える在留外国人に対しては、引き続き、在留資格上の特例措置や外国人在留支援センター(フレスク)における相談対応等の支援を行ってまいります。
   
3 三つ目の視点は、時代に即した法務・司法制度の実現です。
  法務・司法制度は、安全・安心な国民生活の基盤です。デジタル化やグローバル化、感染症や相次ぐ自然災害等、社会情勢が大きく変化する中で、時代に即したよりよい法務・司法制度を実現するため、不断の努力を続けてまいります。
   
(デジタル化・IT化の推進)
 法務省におけるオンライン手続の拡充やデジタル技術を活用した業務改革を推進してまいります。
 民事訴訟制度の一層の迅速化・効率化を図り、国民にとってより使いやすい制度とするため、民事訴訟手続の全面的なIT化等を実現する「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」を今国会に提出する予定ですので、十分に御審議の上、速やかに御可決いただけるようお願いいたします。
 刑事手続における情報通信技術の活用についても、情報セキュリティに十分に配意しつつ、スピード感を持って検討を進めてまいります。
 また、人権相談・人権啓発活動においては、時代に即したインターネット・SNS等の積極的な活用を推進します。
   
(高度・複雑化する法務・司法制度を支える人材育成・体制整備)
 高度・複雑化する法的ニーズに対応できる人材の育成と体制整備が急務です。
 文部科学省を始めとする関係機関と連携し、法曹養成制度改革法の着実な実施を含め、必要な法曹人材の確保を進めてまいります。また、訟務機能の充実強化に取り組んでまいります。
   
(時代に即した刑事法制の整備)
 時代の変化に即した刑事法制の整備も重要です。
 インターネット上の誹謗中傷が社会問題化している現状を踏まえ、先ほど申し上げた「刑法等の一部を改正する法律案」には、侮辱罪の法定刑の引上げも盛り込んでいます。
 また、保釈中の被告人等の逃亡を防止し、公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備について、法制審議会の答申を踏まえ、法整備に向けた検討を進めてまいります。
   
(安全・安心を支える法務・司法の基盤整備)
 安全・安心を支える法務・司法の基盤整備を怠ってはなりません。
 コロナ禍にあって、万が一にも業務に停滞を来すことがないよう、引き続き、緊張感をもって、全国の法務官署及び施設における感染予防・業務継続対策に万全を期してまいります。
 公安調査庁では、その情報収集・分析能力を一層強化して経済安全保障施策に積極的に貢献するとともに、サイバー空間上の脅威に関する情報提供にも努めてまいります。また、いわゆるオウム真理教について、団体規制法に基づく観察処分の適正かつ厳格な実施等を通じた公共の安全確保に努めてまいります。
 所有者不明土地問題への対策は、政府全体で取り組むべき重要課題であり、昨年4月に成立した「民法等の一部を改正する法律」等の円滑な施行に向けた準備を始め、関係機関と連携した様々な取組を推進します。
 矯正施設を始めとする法務省施設の耐震化・老朽化対策を着実に推進することに加え、災害発生時の避難所としての機能確保も進めてまいります。
   
(女性活躍とワークライフバランスの推進)
 性別を問わず、職業生活と、子育てを含む私生活を両立できる社会環境の整備が求められる中、法務省では、昨年3月に策定したアット・ホウムプラン・プラスワンに基づき、全ての職員が生き生きと活躍できる職場環境の整備とワークライフバランスの実現を推進してまいります。
 また、裁判所の組織体制・職場環境を整備するため、「裁判所職員定員法の一部を改正する法律案」及び「裁判官の育児休業に関する法律の一部を改正する法律案」を今国会に提出しましたので、十分に御審議の上、速やかに御可決いただけるようお願いいたします。

4 四つ目の視点は、国際化・国際貢献の推進です。
  インターネットが世界をつなぎ、社会経済のボーダーレス化が進むこの時代において、「自由」、「基本的人権の尊重」、「法の支配」等の原理を、国内はもとより、広く世界の国々とも分かち合い、「ルールに基づく国際秩序」を形成・拡大していく「司法外交」の取組を一層推進することが重要です。
   
(国際展開の取組)
 昨年3月の京都コングレスで採択された「京都宣言」では、「法の支配」が「持続可能な開発」や「誰一人取り残さない社会」の礎であることが確認されました。京都コングレスの成果の具体化を通じて、「ルールに基づく国際秩序」の形成・拡大に主導的役割を果たしてまいります。
 また、京都コングレスのサイドイベント「世界保護司会議」で採択された「京都保護司宣言」を踏まえ、我が国が誇る保護司制度を世界へ発信・普及させる取組を推進してまいります。
   
(国際貢献の取組)
 我が国は、長年にわたり、法制度整備支援や国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)を通じた研修等により、開発途上国における「法の支配」確立へ貢献してまいりました。
 日ASEAN友好協力50周年を迎える令和5年には、ASEAN各国の法務・司法大臣による会合を主催すべく準備を進めており、こうした機会も捉え、法制度整備支援・各種研修の実施等、国際貢献の取組を更に深化させ、「法の支配」等の諸原理、「ルールに基づく国際秩序」の浸透・確立に努めてまいります。
   
(経済活動の国際化を支える環境整備)
 グローバル化・ボーダーレス化時代において、日本企業の海外進出や我が国への投資・人材の呼び込みを支える環境整備は重要です。
 我が国法令の外国語訳整備は、その基礎となる重要なインフラであり、各府省庁と緊密に連携し、整備を加速化してまいります。
 我が国における国際仲裁の利用の活性化は、更なる経済発展に資するものであり、日本国際紛争解決センター(JIDRC)のサービス向上、仲裁人等の人材育成、国内外の企業等への周知・広報等のインフラ整備と、最新の国際基準に見合う法整備を、車の両輪として進めてまいります。
 また、国際商取引及びその紛争解決に関する国際ルールの形成にも、積極的に関与してまいります。
   
(国際的脅威への対応)
 国境を越える脅威に対しては機敏に対応し、我が国の安全・安心をしっかりと確保していく必要があります。
 新型コロナウイルス感染症の水際対策においては、政府一丸となり、状況に応じた機動的かつスピード感のある対応を行っていくことが重要です。出入国在留管理行政を担う立場から、国民の健康と安全を守り抜く強い使命感を持って対策に取り組むとともに、ポストコロナも見据え、一層円滑な出入国審査・管理を実現するため、デジタル技術等を活用した業務の高度化を進めてまいります。
 また、テロ関連動向の把握、北朝鮮に係る核・ミサイル関連や日本人拉致問題を含む対外動向等についての情報収集・分析機能の一層の充実強化を図ってまいります。
   
 結び

 私は、津島淳副大臣、加田裕之大臣政務官、そして全ての法務省職員と気持ちを一つにし、冒頭に述べた大局観を常に念頭に置きつつ、法務行政の諸課題に一つひとつ取り組んでまいります。
 鈴木馨祐委員長を始め、理事、委員の皆様方には、より一層の御理解と御協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。