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第210回国会(臨時会)衆議院法務委員会における葉梨康弘法務大臣所信表明

 
 はじめに

 
 法務大臣の葉梨康弘です。
 伊藤忠彦委員長始め理事、委員の皆様には、法務行政の運営について格別の御理解と御尽力を賜り、心より厚く御礼申し上げます。
 申すまでもなく、法務省は、基本法制の維持及び整備、法秩序の維持、国民の権利擁護等を任務としています。
 国民生活の安定や我が国の平和と繁栄を図るため、我が国の法秩序の維持と国民の権利の尊重という二つの要請を、同時、かつ、バランスのとれた形で実現することが不可欠です。法務行政には、まさにこのことが求められています。
 このように、法務行政は、憲法が定める、「民主主義」、「法治主義」、「基本的人権」等の普遍的原理を具現化する行政作用であり、まさに我が国の屋台骨を支える行政と言うことができます。
 だからこそ、その運営に当たっては、私のみならず5万人を超える第一線の職員それぞれが、常に使命感とバランス感覚を持って事に当たることが求められます。
 私はこれまで、法務副大臣、衆議院法務委員長及び同委員会筆頭理事をそれぞれ2期ずつ務めてまいりました。これまでの経験をいかし、法務省に課せられた崇高な任務を果たすため、政策課題への取組はもちろんのこと、職員の使命感の涵養と風通しの良い職場環境の整備に、全身全霊で取り組む所存です。どうぞよろしくお願いいたします。
 以下、法務行政における具体的課題への取組について申し述べます。
 
 法務行政の具体的課題への取組
 
1 共生社会の実現
  第1は、「共生社会の実現」です。近年、世界各国で「社会の分断」が問題となっていますが、今なお続くロシアの暴挙は、力により他の主権国家の領土と国民を分断しようとする許しがたいものです。私は、だからこそ、我が国が率先して「共生社会」の実現への営みを強化しなければならないという決意を新たにしています。そして、法務省の役割は極めて重要です。
 
(外国人との共生社会の実現)
 ポストコロナ時代を見据え、今後、在留外国人が更に増加する可能性が指摘される中、日本人と外国人がお互いを尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会を実現することが重要です。
 そのためには、ルールにのっとって外国人を受け入れ、適切な支援を行うとともに、ルールに違反する者に対しては、法を確実、かつ、適正に適用して対処することが必要です。
 支援の具体策としては、これまで、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」に基づき、外国人在留支援センター(FRESC())における支援などの取組を推進してきましたが、本年6月、「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」を策定し、今後は、このロードマップ及び総合的対応策に基づき、関係省庁や地方公共団体等と連携しつつ、より一層、外国人との共生社会の実現に向けた取組を推進してまいります。
 その一方、ルールに違反する外国人の存在も大きな課題です。本来本国に強制送還されなければならない外国人の送還忌避や、入管施設における収容の長期化の問題が顕在化しており、これらの課題に的確に対処することが求められています。
 また、昨年3月に名古屋出入国在留管理局において発生した被収容者の死亡事案を重く受け止めなければなりません。私は、この場をお借りして、改めて、亡くなられた方の御冥福をお祈りするとともに、御遺族にお悔やみを申し上げます。法務省は、同様の事案を二度と繰り返さないため、調査報告書に示された改善策を中心に改革を進め、私自身も先般名古屋に赴き、その徹底を図ってまいりました。その上で、被収容者の人権に配慮した適正な処遇を徹底するための制度的な対応についての検討も必要です。
 さらに、我が国は、本年2月のロシアによる侵略の後、国際協調や人道上の観点から、ウクライナから避難された方々を幅広く、かつ、柔軟に受け入れてきました。人道上の危機に直面する真に庇護すべき方々をより確実に保護するための制度的な対応についても、早急に検討していかなければなりません。
 出入国在留管理の公正を確保し、外国人との共生社会を実現するためには、これらの課題を一体的に解決する法整備が必要であり、現在、所要の準備を進めています。
 
 加えて、特定技能制度及び技能実習制度は、法律の規定による検討の時期に差し掛かっており、これに資する論点の把握等のため、本年2月から7月まで、古川前法務大臣主催の勉強会が開催されました。
 今後は、その問題意識を踏まえつつ、両制度の在り方について、政府全体としてしっかりとした検討を行ってまいります。
 
(再犯防止・立ち直り支援による共生社会の実現)
 犯した罪を償い、その上で立ち直ろうとする人たちを受け入れることのできる「懐の深い」、「しなやかな」社会づくりを推進します。
 国・地方公共団体・民間協力者が一体となった「息の長い支援」が可能となるよう、保護司、更生保護施設、協力雇用主等の民間の方々や、地方公共団体への支援を推進するなど、地域における支援ネットワークの更なる充実に取り組みます。
 また、これまでの取組の成果や課題を踏まえ、次期再犯防止推進計画の策定に向けた検討を進めます。
 
(様々な人権問題等への対応)
 不当な偏見や差別は、断じてあってはなりません。人権相談や調査救済活動を充実強化させるとともに、人権啓発活動をより効果的なものとする取組を推進します。
 また、インターネット上の書き込み等が他人を傷つける道具となることがないよう、関係府省庁や民間事業者と連携し、利用のルールやマナーの啓発と不適切な書き込みの解消に取り組みます。
 
(法教育の推進)
 自らの考えをしっかり持ちつつ、お互いを尊重し合うことのできる社会の実現に向け、その基礎となる法の役割を理解し、法的なものの考え方を身につけるための法教育を一層推進します。

2 困難を抱える方々への取組の推進 
  第2は、困難を抱える方々への取組の推進です。困難を抱える方々の深刻な状況に目を背けることなく、誰ひとり取り残されない社会を実現するため、法務省は、その任務を最大限果たしてまいります。
 
(児童虐待防止対策・困難を抱える子どもたちへの取組)
 子どもたちの心身を深く傷つける児童虐待の根絶に取り組みます。本年9月の「児童虐待防止対策の更なる推進について」も踏まえ、児童相談所等の関係機関と連携した取組を推進します。
 いわゆる無戸籍の子どもたちの解消に取り組み、引き続ききめ細やかな支援を行います。
 こうした子どもたちの利益に関わる喫緊の課題に対応する観点から、嫡出推定制度の見直しや懲戒権に関する規定の削除等を内容とする「民法等の一部を改正する法律案」を今国会に提出いたしましたので、十分に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
 また、父母の離婚等に伴う子の養育等の在り方については法制審議会での調査・審議が進められておりますが、制度面のみならず、運用面での対応にも取り組んでまいります。
 
(犯罪被害者等の方々への支援)
 犯罪被害者やその御家族に対し、第四次犯罪被害者等基本計画に沿って、法務省としてきめ細やかな支援を実施してまいります。
 また、刑事手続を通じて犯罪被害者の氏名等の情報を保護するための法整備についても、法制審議会の答申を踏まえた検討を進めます。
 さらに、性犯罪・性暴力の根絶のため、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」に基づく再犯防止施策の充実強化を図るとともに、関連する刑事法の整備について、しっかりと検討を進めてまいります。
 
(総合法律支援の充実・強化)
 困難を抱える方々が、法的な問題について司法にアクセスできるようにするための支援を強化します。
 具体的には、法テラスが、総合法律支援の中核を担い、社会のセーフティーネットとしての役割を十分に果たすことができるよう、その充実を図るとともに、関係機関等との連携を強化してまいります。
 
(「旧統一教会」問題への対応)
 いわゆる「旧統一教会」の問題については、関係省庁連絡会議を設置し、合同電話相談窓口を設けるなど、関係省庁と連携を図り、様々な相談に対応しています。複雑な問題の総合的解決を図るため、法テラスにおいて、「旧統一教会」の問題等を取り扱う相談窓口を新設するとともに、各相談機関等と連携してネットワークを作り、総合的な相談体制を構築することを通じて、実効的な被害者の救済につなげてまいります。

3 時代に即した法務・司法制度の実現 
  第3は、時代に即応した法務・司法制度の実現です。我が国行政全般についてデジタル化の遅れ等が指摘される一方、法務行政が直面する課題も、ますます複雑困難化しており、法務省には、これらに的確に対応する体制整備と機能強化が求められます。
 
(デジタル化・IT化の推進)
 法務省におけるオンライン手続の拡充やデジタル技術を活用した業務改革を加速させます。
 民事・刑事関係の手続について、国民の負担軽減や手続の円滑化、迅速化を図るため、セキュリティの確保に十分配意しつつ、IT基盤の整備に取り組みます。また、デジタル化・IT化を推進するために必要な法整備についても、法制審議会の調査・審議の結果を踏まえ、速やかに対処します。
 また、国民の司法アクセス向上のため、裁判外紛争解決手続をオンラインで行うODRの推進や法テラスにおけるデジタル技術の活用を図るとともに、保護司活動等の更生保護行政や人権相談・人権啓発などの業務のデジタル化を推進し、これらの活動を国民により身近なものとしてまいります。
 
(時代に即応した法務行政の足腰の強化)
 複雑困難化する課題に対応するためには、法務行政の足腰の強化が必要です。
 政府全体の課題である所有者不明土地問題に対処するため、昨年、相続登記の申請義務化を始めとする民事法制の大改正が行われました。その円滑な施行に向け、関係機関と連携した様々な取組を推進するとともに、土地の情報基盤として不可欠な登記所備付地図の整備のため、法務局の地図作成事業を着実に推進します。また、所有者不明土地問題と共通の課題のある老朽化マンション等に係る区分所有法制の見直しについて、先般法制審議会への諮問を行ったところであり、しっかりと検討を進めてまいります。
 次に、改正刑事訴訟法や改正少年法の趣旨の徹底に努めるとともに、保釈中の被告人等の逃亡を防止することなどを目的とした刑事法の整備について、法制審議会の答申を踏まえた検討を進めます。
 さらに、罪を犯した者に対する処遇の一層の充実のため、先の国会で成立した「刑法等の一部を改正する法律」の施行を見据え、施設内におけるプログラムの改善に向けた検討や職員の教育訓練を進めるとともに、更生緊急保護制度の拡充など満期釈放者対策の実施等に向けた体制整備に取り組みます。あわせて、矯正施設を始めとした法務省施設の耐震化・老朽化対策の着実な推進と、災害発生時の避難所としての機能強化にも努めてまいります。
 加えて、国の利害に関係のある争訟の複雑困難化に対処するため、訟務機能の充実強化を図ります。
 
(経済安全保障の確保等に向けた公安調査庁の機能強化)
 近年、経済安全保障の重要性が一層高まっており、先の国会での経済安全保障推進法等の成立を受け、この分野における自律性の向上や優位性の確保等に向けた政府の施策が積極的に進められています。
 公安調査庁は、経済安全保障の確保に資する情報収集・分析力を更に強化しつつ、官民連携の取組を推進し、サイバー空間上の脅威についても、関連情報の収集・分析等を進めます。そして、これらの成果を適時適切に関係機関へ提供することなどにより、政府の施策展開に更に積極的に貢献してまいります。
 また、国内外におけるテロ関連動向や我が国の領土・領海・領空の警戒警備に関しても、関係機関と連携し、情報収集・分析等を強化するとともに、北朝鮮について人的往来規制強化措置等を適切に実施し、核・ミサイル関連動向、拉致問題等の対外動向や国内状況等に係る関連情報の収集・分析等を進めます。
 いわゆるオウム真理教については、団体規制法に基づく観察処分の適正かつ厳格な実施等に努めます。
 
(法務・司法制度を支える人材育成)
 グローバル化やデジタル化の進展に伴う法的需要の高度化・複雑化に対応した法曹人材の確保が重要です。より多くの有為な人材が法曹を志望し、社会の様々な分野で活躍できるよう、文部科学省始め関係機関等と連携し、法曹養成制度改革法の着実な実施などの取組を進めます。
 
(裁判官及び検察官の報酬等)
 一般の政府職員の給与改定に伴い、裁判官の報酬月額及び検察官の俸給月額を改定するため、「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」及び「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」を今国会に提出いたしましたので、十分に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
 
4 国際化・国際貢献の推進
  第4の課題は、国際化・国際貢献の推進です。国際社会がロシアの暴挙という法の支配への挑戦に直面している今、これまで「法の支配」や「基本的人権の尊重」などの普遍的価値の確立に努めてきた法務省は、その経験をいかし、積極的に「司法外交」を推進していくことが必要です。あわせて、経済活動のグローバル化に対応し、その役割を果たすことが求められています。
 
(法の支配の推進に向けた国際協力)
 法務省は、長年にわたり、開発途上国等に対し、相手国の実情に応じたきめ細やかな法制度整備支援を行うとともに、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI())を通じた国際研修等を実施することにより、国際社会における法の支配の確立に貢献してきました。
 今、国際社会は、改めて、守るべき価値を再確認し、平和と安定を取り戻していかなければなりません。このため、こうした国際協力を通じた「司法外交」を、一層強力に推進してまいります。
 
(「ルールに基づく国際秩序」の維持・強化のための我が国の役割)
 昨年3月の京都コングレスは、「京都宣言」において、「法の支配」が、「持続可能な開発目標」や「誰一人取り残されない社会」の礎であることを確認するなど、大きな成果をあげました。あわせて、そのサイドイベントである「世界保護司会議」で、保護司制度の世界への発信・普及を促す「京都保護司宣言」が採択されたことも、大きな意味があります。
 また、日ASEAN友好協力50周年に当たる令和5年には、ASEAN各国の法務・司法大臣を日本にお招きし、日ASEAN特別法務大臣会合を開催するため、現在その準備を進めています。
 我が国は、京都コングレスの成果の具体化や日ASEAN特別法務大臣会合の主催などを通じ、「ルールに基づく国際秩序」の維持・強化に引き続き主導的役割を果たしてまいります。特にASEANとの関係では、法務・司法分野における強固なパートナーシップの構築に努めます。このように、我が国は、戦略的、かつ、積極的な司法外交を推進してまいります。
 
(経済活動の国際化を支える環境整備)
 国際商取引の円滑化や対日投資の促進に資するための法務省の役割も重要です。
 まず、関係府省庁と緊密に連携し、体制の強化等を図り、我が国法令の外国語訳の国際発信に向けた取組を加速させます。
 また、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL())等と連携し、国際商取引及びその紛争解決に関する国際ルール形成に主体的、かつ、積極的に関与してまいります。
 さらに、対日投資促進の環境を整備するためには、我が国の国際仲裁を活性化し、国際紛争解決機能の強化を図ることが不可欠です。このため、日本国際紛争解決センター(JIDRC())のサービス向上のほか、人材育成や広報啓発の取組を更に進めるとともに、仲裁法等の改正に向けた関連法案を早期に国会に提出できるよう、所要の準備を進めます。 
 
(ポストコロナ時代を見据えた出入国管理体制の計画的整備)
 新型コロナウィルス感染症の水際対策については、政府一丸となって、感染状況などの状況に応じた機動的な対応を行い、国民の健康と安全を守ってまいります。
 また、今般の入国制限の撤廃により、今後多くの外国人観光客等が訪日することが見込まれます。このため、より一層、円滑かつ厳正な出入国審査を実施するため、デジタル技術等を活用した出入国審査業務の高度化など、出入国管理体制の計画的な整備に努めてまいります。
 
 結び
 
 以上、法務省に課せられた任務や法務行政が直面する具体的課題についての所信を述べさせていただきました。
 私は、門山宏哲副大臣、高見康裕大臣政務官、そして、冒頭述べたように、5万人を超える法務行政を担う職員などと一丸となって、全力で、国民の期待に応えてまいる所存です。
 委員長始め、理事、委員の皆様方には、より一層の御理解と御協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。