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第2節 住居の確保等

2 更生保護施設等の一時的な居場所の充実

(1)更生保護施設における受入れ・処遇機能の充実【施策番号26】

 更生保護施設は、主に保護観察所からの委託を受けて、住居がなかったり、頼るべき人がいないなどの理由で直ちに自立することが難しい保護観察対象者や更生緊急保護※18の対象者を受け入れて、宿泊場所や食事の提供をするほか、社会復帰のための就職援助や生活相談等を行う施設である。

 2020年(令和2年)4月現在、全国に103の施設があり、更生保護法人※19により100施設が運営されているほか、社会福祉法人、特定非営利活動法人及び一般社団法人により、それぞれ1施設が運営されている。その内訳は、男性のみ受け入れている施設が88、女性のみ受け入れている施設が7、男女とも受け入れている施設が8となっている。収容定員の総計は2,392 人であり、男性が成人1,886人と少年321人、女性が成人134人と少年51人である。

 2019年度(令和元年度)の委託実人員は7,682人(そのうち、新たに委託を開始した人員は6,001人)、延べ人員は61万153人であった。法務省は、刑務所出所者等がそれぞれの問題性に応じた支援を受けられるよう、更生保護施設のうち一部を、高齢・障害者等を積極的に受け入れる指定更生保護施設や、薬物依存からの回復を支援する薬物処遇重点実施更生保護施設に指定し、これらの指定する施設を拡大すること等により更生保護施設の受入れ及び処遇機能の充実を図っている(指定更生保護施設については【施策番号37】を、薬物処遇重点実施更生保護施設については【施策番号46】を参照)。

 また、2019年12月に、犯罪対策閣僚会議において決定した「再犯防止推進計画加速化プラン」においては、2022年(令和4年)までに満期釈放者の2年以内再入者数を2割以上減少させることを成果目標としており、それを踏まえ、更生保護施設における、満期釈放者に対する受入れや相談支援等の充実について検討を進めている(【第1章第1節】参照)。

(2)更生保護施設における処遇の基準等の見直し【施策番号27】

 法務省は、保護観察対象者等が抱える問題の複雑化など、近年の更生保護事業※20を取り巻く状況の変化を踏まえた今後の更生保護事業に関する検討を行うため、2018年度(平成30年度)に引き続き、2019年度(令和元年度)も更生保護事業の実務者等による意見交換会を開催した。また、2018年度に開催した学識経験者等を構成員とする有識者検討会及び意見交換会による検討を踏まえ、2019年度には、全国の更生保護事業者と協議・検討を行う「更生保護事業に関する地方別検討会」を開催した。

 2019年3月、有識者検討会から、更生保護施設における処遇や支援の充実強化等を内容とする「これからの更生保護事業に関する提言」※21を得たことを踏まえ、所要の検討を行った(【施策番号95】参照)。

(3)自立準備ホームの確保と活用【施策番号28】

 法務省は、社会の中に多様な居場所を確保する方策として、2011年度(平成23年度)から、「緊急的住居確保・自立支援対策」(資2-28-1参照)を実施している。これは、更生保護施設以外のあらかじめ保護観察所に登録された民間法人・団体等に、保護観察所が、保護観察対象者等に対する宿泊場所や食事の提供、生活指導(自立準備支援)を委託するものであり、この宿泊場所は自立準備ホームと呼ばれている。2020年(令和2年)4月現在の登録事業者数は432事業者であり、その内訳は、特定非営利活動法人が156、会社法人が95、宗教法人が43、その他が138となっており、多様な法人・団体が登録されている。2019年度(令和元年度)の委託実人員は1,709人(そのうち、新たに委託を開始した人員は1,379人)、1日当たり1人を単位とした年間収容延べ人員は13万4,154人であった。

資2-28-1 緊急的住居確保・自立支援対策の概要
資2-28-1 緊急的住居確保・自立支援対策の概要

Column2 更生保護施設における処遇やフォローアップ事業の充実について

備作恵済会古松園施設長 岩戸 顯

 「先生、帰ったよ!~」事務所に爽やかな声が響く。彼は、6年前に当園で保護していた者である。彼が起こした事件は、飲酒やパチンコ遊びによる浪費から、家族にお金を管理され、思うようにお金を使えずに不満を募らせていた時期に、飲酒の上、将来に希望を持てずに希死念慮を抱き、自宅に放火して全焼させ、寝ていた母親を焼死させたというものである。懲役刑の判決を受け、長期の服役を経て、家族が引受けを拒否したため、当園に入ることとなった。彼には軽度の知的障害があった。

 当園の処遇理念は、在園者らに感動・感銘を与え、自らの行動を振り返り、自らが立ち直るように気付かせることにあり、豊かな人間性を取り戻して、再犯をしない決意を固めさせるものである。これらの処遇は、職員と彼らに信頼関係がないと、成し得ないものである。

 当園では、独自に行っている特別指導の一つとして、自分の犯した罪について、何が原因なのか、①自己の問題なのか、②金銭の問題なのか、③対人関係の問題なのか、④家族の問題なのか、⑤性格の問題なのか、を振り返って考えさせ、それぞれの問題について、ドキュメンタリー番組を教材にして、例えば、身体が不自由でも強く生き抜く姿、災害に見舞われて苦しくても強く生きる姿等を見ることにより考えさせ、感動・感銘を与え、自ら頑張ろうとする心が醸成されるよう働き掛けている。感動・感銘を受けさせることなどにより心を大きく動かさなければならない、これが教育だと私は考えている。

 また、当園では、2019年度(令和元年度)から保護犬(セラピードッグ、名前は「ケンタ」)を飼育している。犬はしゃべらないが、代わりに、表情で応えてくれる。仕事から帰ってきた在園者に、耳をぺしゃんこにして、嬉しさを表現してくれる。少しでも在園者の癒しになれば幸いである。

 冒頭の彼は、私を信頼し、当園を出た後も毎日のように、就労継続支援B型事業所からの帰りに、当園に立ち寄っている。もう、かれこれ6年以上になる。今は、アパートで一人暮らしをし、自炊をしている(一週間に一度、ヘルパーが来ている)。フォローアップ事業とはいえ、誰がいつまで支援するべきなのだろうか。目先の短期間でよいのか、エンドレスで行うためにはどのようにすればよいのか、悩ましいところである。

 過日、フォローアップで来訪していた元・在園者が突然、亡くなった。生活保護の受給者で、その葬儀に参列したが、見送りの家族の少なさに愕然とし、悲しかった。お棺に入れる少量のお花だけで、飾り花は無かった。生まれたときは、周りから祝福されていただろうにと思うと、やり切れない気持ちである。これが、更生保護施設の職員としてのフォローアップの最後かと思うと、空しさを禁じ得ない。心のつながりを深く持ち過ぎることも、罪深いものと感じる瞬間がある。

 けれども、フォローアップとは、単に人と人のつながりに終わることなく、心を通わせて初めて生きるものと信じている。

特別指導の様子【写真提供:古松園】
セラピードッグのケンタ【写真提供:古松園】
  1. ※18 更生緊急保護
    更生保護法(平成19年法律第88号)第85条に基づき、保護観察所が、満期釈放者、保護観察に付されない全部執行猶予者及び一部執行猶予者、起訴猶予者等について、親族からの援助や、医療機関、福祉機関等の保護を受けることができない場合や、得られた援助や保護だけでは改善更生することができないと認められる場合、その者の申出に基づいて、食事・衣料・旅費等を給与し、宿泊場所等の供与を更生保護施設等に委託したり、生活指導・生活環境の調整などの措置を講ずるもの。刑事上の手続等による身体の拘束を解かれた後6月を超えない範囲内(特に必要があると認められるときは、更に6月を超えない範囲内)において行うことができる。
  2. ※19 更生保護法人
    更生保護事業法(平成7年法律第86号)第2条第6項に定める法人で、更生保護施設の運営など更生保護事業を営むことを目的とする団体が、更生保護事業法の規定に基づき、法務大臣の認可を受けて設立する法人。
  3. ※20 更生保護事業
    更生保護事業法第2条第1項に定める事業で、「継続保護事業」、「一時保護事業」及び「連絡助成事業」をいう。
    継続保護事業とは、保護観察対象者等を更生保護施設に収容して、宿泊場所を供与し、必要な生活指導等を行い、その改善更生に必要な保護を行う事業。
    一時保護事業とは、保護観察対象者等に対し、宿泊場所への帰住、医療又は就職を助け、金品を給与し、又は貸与し、生活の相談に応ずる等その改善更生に必要な保護(継続保護事業として行うものを除く。)を行う事業。
    連絡助成事業とは、継続保護事業、一時保護事業その他保護観察対象者等の改善更生を助けることを目的とする事業に関する啓発、連絡、調整又は助成を行う事業。
  4. ※21 「これからの更生保護事業に関する提言」関係資料URL
    http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo12_00002.html
    (法務省ホームページ「これからの更生保護事業に関する有識者検討会について」ページへリンク。)法務省ホームページのqr