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第2節 薬物依存を有する者への支援等

1 刑事司法関係機関等における効果的な指導の実施等

(1)再犯リスクを踏まえた効果的な指導の実施【施策番号44】

ア 矯正施設内における指導等について

(ア)刑事施設

 法務省は、刑事施設において、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)の施行に伴い開始された改善指導(【施策番号12】参照)のうち、特別改善指導の一類型として、2006年度(平成18年度)から薬物依存離脱指導の標準プログラム(指導の標準的な実施時間数や指導担当者、カリキュラムの概要等を定めたもの。)を定め、同指導を実施している。

 2016年度(平成28年度)には、2016年6月に施行された刑の一部の執行猶予制度(資3-44-1参照)の趣旨を踏まえ、同指導の標準プログラムを改正し、2017年度(平成29年度)から本格的に実施している(資3-44-2参照)。これにより、刑期の短い者やグループワークになじまない者への指導が可能となった。改正の内容としては、認知行動療法※6に基づく標準プログラムとして、必修プログラム(麻薬、覚醒剤その他の薬物に依存があると認められる者全員に対して実施するもの)、専門プログラム(より専門的・体系的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの)、選択プログラム(必修プログラム又は専門プログラムに加えて補完的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの)の三種類を整備し、対象者の再犯リスク、すなわち、犯罪をした者が再び犯罪を行う危険性や危険因子等に応じて、各種プログラムを柔軟に組み合わせて実施できるようにした。2020年度(令和2年度)の受講開始人員(三種類のプログラムの総数)は7,707人であった。

資3-44-1 刑の一部の執行猶予制度
資3-44-1 刑の一部の執行猶予制度
資3-44-2 薬物依存離脱指導の概要(1)
資3-44-2 薬物依存離脱指導の概要(1)
資3-44-2 薬物依存離脱指導の概要(2)
資3-44-2 薬物依存離脱指導の概要(2)

(イ)少年院

 少年院において、麻薬、覚醒剤その他の薬物に対する依存等がある在院者に対して、特定生活指導として薬物非行防止指導を実施し、2020年は293人が修了している。また、男子少年院2庁及び全女子少年院9庁では、特に重点的かつ集中的な指導を実施しており、2020年度は、53人が修了している。

イ 社会内における指導等について

 保護観察所において、覚醒剤の使用等の犯罪的傾向を有する保護観察対象者に対して、その傾向を改善するため、2008年(平成20年)6月から認知行動療法に基づく覚せい剤事犯者処遇プログラムを実施してきた。2016年6月からは、刑の一部の執行猶予制度(資3-44-1参照)の施行に伴い、改善の対象となる犯罪的傾向を規制薬物等及び指定薬物の使用・所持に拡大し、それらの再乱用を防止するため、薬物再乱用防止プログラム(資3-44-3参照)を実施している。薬物再乱用防止プログラムは、ワークブックを用いるなどして依存性薬物(規制薬物等、指定薬物及び危険ドラッグ)の悪影響を認識させ、コアプログラム(薬物再乱用防止のための具体的方法を習得させる)及びステップアッププログラム(コアプログラムの内容を定着・応用・実践させる)からなる教育課程と簡易薬物検出検査を併せて行うものとなっている。

 また、医療機関やダルク(【施策番号85】参照)等と連携し、薬物再乱用防止プログラムを実施する際の実施補助者として保護観察対象者への助言等の協力を得ているほか、保護観察終了後を見据え、それらの機関や団体等が実施するプログラムやグループミーティングに保護観察対象者がつながっていけるよう取り組むなどしている。なお、2020年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、実施補助者として関係機関からの協力を得ることが難しくなるなど、関係機関との連携に支障が生じた一方、保護観察対象者との個別面接時に、関係機関に同席してもらうなど代替措置を講じ、関係機関との連携を図った。

資3-44-3 薬物再乱用防止プログラムの概要
資3-44-3 薬物再乱用防止プログラムの概要

ウ 処遇情報の共有について

 刑事施設及び保護観察所は、施設内処遇と社会内処遇の一貫性を保つとともに処遇情報の確実な引継ぎを図るため、従来から引継ぎを行っていた刑事施設における薬物依存離脱指導の受講の有無に加え、指導結果や理解度、グループ処遇への適応状況、出所後の医療機関や自助グループを含めた民間団体への通所意欲、心身の状況や服薬状況等、より多くの情報を引き継ぐ体制を整備している。また、少年院においても、継続的な指導の実施に向け、薬物非行防止指導の実施状況を保護観察所に引き継いでいる。

COLUMN4 藤岡ダルクでの新しい取組

NPO法人アパリ 藤岡ダルク 代表 山本 大

 藤岡ダルクでは、利用者に対して、様々なプログラムを通して、依存症からの回復支援に向けたアプローチをしているが、今回は、2020年(令和2年)から始めた新しい取組について紹介したい。

 基本的に当施設では各利用者に対し、3か月に1度の頻度でアセスメントを行っている。ダルクスタッフから見て、利用者の生活状況、プログラムの進渉具合などを本人からの聞き取りを交えて評価し、支援計画に繋げていくのだが、時折、どうもしっくりいかない感を覚えることがあった。我々スタッフが感じることと、利用者本人が感じることに「差」が出てくるのだ。例えば本人は日々の生活の中で、「(自分は)ちゃんとやってる」と感じているが、スタッフは本人のことを「できていないことが多い」と感じることがある。これは本人が「自分なりにやっている」から「差」が出てくるのだが、では実際「自分なり」とはどの程度のものなのだろうか?一般的(社会的)に見たらどれくらいのものか?本人の自覚が足りないのか?果たしてスタッフの主観が強いのか?

 いずれにせよ、「自分なり、自分らしさ」と「他者から見る自分」の「差」、ここには何らかの問題があり、その問題に自身で気付くことができないまま、生きづらさを感じている利用者も少なくないようにも思える。この「差」を明らかにして本人が抱える問題を特定し、その「差」を縮めることによって、より良い回復支援に繋がるのではないかと考え、始めたのが「セルフ(自己)アセスメントブック(以下「ブック」という。)」だ。ブックでは、アセスメントの領域を大きく7項目(生活面、医療、コミュニケーション、回復プログラム、行動、感情、自助グループの取り組み、自分の問題:全36項目)に分け、利用者本人が各設問について書き込みをし、ABCD(A=良くできている、B=できている、C=まぁまぁできていない、D=できていない(あえて普通は除外した))の段階別に自らを評価してもらう。スタッフも同じように、利用者について全項目を評価する。当然本人による評価もA、スタッフによる評価もAであれば特に問題はないのだが、先ほどの例のように本人が自分をAやBと評価し、スタッフが本人をDやCと評価した場合、なぜにそのような「差」が生じるのか、その後の面談を通して話し合う。その逆もあり、本人が自分をDやCと評価し、スタッフが本人をAやBと評価している場合は、本人の自己肯定感の低さ(謙虚さ?)が見受けられるため、本人が自分を正しく評価し、自信を持てるように促す。このブックへの取組と面談の中で、自分自身を見直し、他者から見る自分とはどのようなものなのかを感じ、自身の問題や長所を特定し、この「差」を縮めるためにどのような改善が必要かを話し合い、本人自身が次のステージに繋がることができるように支援している。実際全員のブックに目を通し評価をしていく作業はスタッフとしても大変だが、スタッフも主観的に観るだけではなく、様々な角度から本人を見る必要があることから、利用者のためだけではなく、スタッフ自身のスキル向上にも繋がっているようにも感じる。

 現在は入寮生活を半年過ぎた利用者に対して実施しており、毎回終了時にスタッフ間でフィードバックを行い、項目、設問内容等について変更を加えながらアップデートしている最中である。

 依存症からの回復はただ単に薬を止めるだけではなく、依存症者本人がどう生き方を変えていくかが鍵であり、我々ダルクは当事者の視点としてどのような回復支援ができるか日々試行錯誤をしている。

アセスメント面談の様子
セルフアセスメントブック
セルフアセスメントブックの表紙

(2)矯正施設・保護観察所における薬物指導等体制の整備【施策番号45】

 法務省は、刑事施設の教育担当職員に対し、薬物依存に関する最新の知見を付与するとともに、認知行動療法等の各種処遇技法を習得させることを目的とした研修を実施している。少年院の職員に対しては、医療関係者等の協力を得て、薬物依存のある少年への効果的な指導方法等についての研修を実施している。2017年度(平成29年度)からは、薬物使用経験のある女子在院者については、低年齢からの長期間にわたる薬物使用や女子特有の様々な課題を抱えていることが多く、それらの課題に適切に対応し得る専門的な指導能力が求められることから、専門的知識及び指導技術の一層の向上を図るため、女子少年を収容する施設間において、職員を相互に派遣して行う研修を実施している。

 また、施設内処遇と社会内処遇の連携強化のため、2017年から、矯正施設職員及び保護観察官を対象とした薬物依存対策研修を実施している。同研修においては、SMARPP※7の開発者及び実務者のほか、精神保健福祉センター※8、病院及び自助グループにおいて薬物依存症者に対する指導及び支援を行っている実務家を講師として招き、薬物処遇の専門性を有する職員の育成を行っている。なお、2020年度(令和2年度)の研修実施に当たっては、新型コロナウイルス感染症対策として、テレビ遠隔通信システムを用いた講義等の配信を行った。

 さらに、保護観察所において、2017年4月から、薬物依存に関する専門的な処遇を集中して行い、処遇効果の充実強化を図ることを目的として、順次、薬物処遇ユニット(資3-45-1参照)を保護観察所に設置し(2021年(令和3年)4月現在で28庁)、薬物事犯者に係る指導及び支援を実施している。

資3-45-1 薬物処遇ユニットの概要
資3-45-1 薬物処遇ユニットの概要

(3)更生保護施設による薬物依存回復処遇の充実【施策番号46】

 法務省は、2013年度(平成25年度)から、一部の更生保護施設を薬物処遇重点実施更生保護施設に指定し、精神保健福祉士や公認心理師等の専門的資格を持った専門スタッフを中心に薬物依存からの回復に重点を置いた専門的な処遇を実施している。

 薬物処遇重点実施更生保護施設の数は、2021年(令和3年)4月現在で、25施設であり、2020年度(令和2年度)における薬物依存がある保護観察対象者等の受入人員は751人であった。

(4)薬物事犯者の再犯防止対策の在り方の検討【施策番号47】

 法務省及び検察庁は、薬物事犯者に対し、刑事施設内における処遇に引き続き、社会内における処遇を実施することにより再犯を防止するため、刑の一部の執行猶予制度(【施策番号44ア】参照)の適切な運用を図っている。

 法務省は、刑事施設において、受刑者に対し、薬物依存離脱指導(【施策番号44ア】参照)の効果を一層高めるための方策について検討を進めている。また、薬物事犯者の再犯防止のための新たな取組として、2019年度(令和元年度)から、薬物依存からの「回復」に焦点を当て、出所後の生活により近い環境下で、社会内においても継続が可能となるプログラムを受講させるとともに、出所後に依存症回復支援施設に帰住等するための支援を行う女子依存症回復支援モデル事業を実施している(資3-47-1参照)。

 更生保護官署においては、官民一体となった「息の長い支援」を実現するための新たな取組として、2019年度から、薬物依存のある受刑者について、一定の期間、更生保護施設等に居住させた上で、薬物依存症者が地域における支援を自発的に受け続けるための習慣を身に付けられるよう地域の社会資源と連携した濃密な保護観察処遇を実施する、薬物中間処遇を試行的に開始した。

 また、法務総合研究所において、2020年(令和2年)度に、2019年度から引き続き、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターと共同で薬物事犯者に関する研究を実施し、覚醒剤事犯で刑事施設に入所した者への質問紙調査等を通じ、薬物事犯者の特性等に関する基礎的データの収集・分析を行った。これまでの研究結果については、冊子「覚せい剤事犯者の理解とサポート2018」(資3-47-2参照)に取りまとめ、2019年度に関係機関に配布し、2020年3月、研究部報告62「薬物事犯者に関する研究」として公表するとともに(【施策番号87】参照)、2020年11月に公表した2020年版犯罪白書の特集「薬物犯罪」の中で紹介した。同白書の特集では、これに加え、薬物犯罪の動向や刑事司法の各段階における薬物事犯者の処遇の現状、薬物事犯者の再犯の状況等を概観・分析するなどし、薬物犯罪対策や薬物事犯者の処遇・再犯防止対策の在り方についての検討に資する基礎資料を提供した。

資3-47-1 札幌刑務支所「女子依存症回復支援センター」
資3-47-1 札幌刑務支所「女子依存症回復支援センター」

 厚生労働省は、2019年度から、地方厚生(支)局麻薬取締部・支所において、公認心理師等の専門支援員を配置し、薬物事犯により検挙した者のうち、保護観察の付かない執行猶予判決を受けた者等に対し、「直接的支援(断薬プログラムの提供)」、「間接的支援(地域資源へのパイプ役)」、「家族支援(家族等へのアドバイス)」の3つの支援を柱とする再乱用防止支援を実施している。

 また、厚生労働省では、2021年(令和3年)1月から医学・薬学・法学の有識者を構成員とする「大麻等の薬物対策のあり方検討会」を計8回開催し、2021年6月にとりまとめ※9を公表した。同とりまとめにおいて、刑事司法関係機関等における社会復帰に繋げる指導・支援、医療提供体制に係る取組の継続及び地域社会における本人・家族等への支援体制の充実により、再乱用防止と社会復帰支援を進めていく必要があるとの基本的な方向性が示された。

 法務省及び厚生労働省は、薬物事犯者の再犯防止対策の取組状況等を踏まえ、2018年度(平成30年度)から今後の薬物事犯者の再犯防止対策の在り方についての検討会を開催しており、2021年5月に中間取りまとめ※10を公表した。

資3-47-2 冊子「覚せい剤事犯者の理解とサポート2018」
資3-47-2 冊子「覚せい剤事犯者の理解とサポート2018」
  1. ※6 認知行動療法
    行動や情動の問題、認知的な問題を治療の標的とし、これまで実証的にその効果が確認されている行動的技法と認知的技法を効果的に組み合わせて用いることによって問題の改善を図ろうとする治療アプローチを総称したもの。問題点を整理することによって本人の自己理解を促進するとともに、問題解決能力を向上させ、自己の問題を自分でコントロールしながら合理的に解決することのできる力を増大させることをねらいとして行われる。(「臨床心理学キーワード〔補訂版〕」坂野雄二 編 より引用・加工)
  2. ※7 SMARPP
    Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program(せりがや覚せい剤依存再発防止プログラム)の略称であり、薬物依存症の治療を目的とした認知行動療法に基づくプログラムである。
  3. ※8 精神保健福祉センター
    都道府県や指定都市に設置されており、精神保健及び精神障害者の福祉に関する知識の普及・調査研究、相談及び指導のうち複雑又は困難なものを行うとともに、精神医療審査会の事務、精神障害者保健福祉手帳の申請に対する決定、自立支援医療費の支給認定等を行い、地域精神保健福祉活動推進の中核を担っている。
  4. ※9 大麻等の薬物対策のあり方検討会 とりまとめURL
    https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000796820.pdf大麻等の薬物対策のあり方検討会 とりまとめURLのqr
  5. ※10 薬物事犯者の再犯防止対策の在り方についての検討会 中間取りまとめURL
    https://www.moj.go.jp/content/001348527.pdf薬物事犯者の再犯防止対策の在り方についての検討会 中間取りまとめURLのqr