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第1節 地方公共団体との連携強化等

3 地方公共団体との連携の強化

(1)犯罪をした者等の支援等に必要な情報の提供【施策番号109】

 法務省は、加速化プラン等も踏まえ、地方公共団体が犯罪をした者等の支援を円滑に実施できるよう、矯正施設及び保護観察所において、地方公共団体の求めに応じ、当該団体が犯罪をした者等の支援等を行うために必要な情報について、個人情報等の適切な取扱いに十分配慮しつつ、提供している。

 例えば、大阪府や福岡県においては、条例により一定の性犯罪者に住所の届出義務を課し、それを通じて性犯罪者の存在を把握した上で、性犯罪者に対する社会復帰支援等を行うという再犯防止の取組が進められており、法務省としても、それらの府県が、条例で定める対象者であることを確認できるようにするため、情報提供を始めとする必要な協力を行っている。

 2020年(令和2年)6月には、性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議において、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」が決定され、同方針においては、性犯罪者に対する再犯防止施策の充実強化方策の一つとして、こうした地方公共団体における取組の促進を図る観点から、国から地方公共団体に対して出所者に係る情報を提供できる場合等を明示することとされた。これを受けて、法務省は、2021年(令和3年)3月、地方公共団体に対して出所者情報を提供する場合の留意点等を整理した執務資料を作成・配布した。

(2)犯罪をした者等の支援に関する知見等の提供・共有【施策番号110】

 法務省は、2018年度(平成30年度)以降、毎年、再犯防止の取組における国及び市町村間のネットワークの構築等を目的として、市町村再犯防止等推進会議を開催するとともに、都道府県の施策担当者を対象に、再犯防止の取組等の情報共有を目的とした都道府県再犯防止等推進会議(写真7-110-1参照)を開催している。なお、2020年度(令和2年度)については、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、市町村再犯防止等推進会議は中止、都道府県再犯防止等推進会議はオンラインによる開催とした。

 また、職員を地方公共団体、司法関係団体等が開催する研修やシンポジウム等に講師として派遣し、地方公共団体の職員や犯罪をした者等の支援関係者等に対して、法務省における取組や支援に関する知見等を提供している。

 加えて、法務総合研究所において、毎年、犯罪白書や研究部報告として、犯罪をした者等に関する調査研究等の成果を取りまとめ、公表している(【施策番号4787100】参照)。

写真7-110-1 都道府県再犯防止等推進会議の様子(2019年度(令和元年度))
写真7-110-1 都道府県再犯防止等推進会議の様子(2019年度(令和元年度))

(3)国・地方協働による施策の推進【施策番号111】

 法務省は、国と地方公共団体が連携して施策の推進を図るため、2018年度(平成30年度)から、2020年度(令和2年度)までを事業期間として、地域再犯防止推進モデル事業を実施してきた(【施策番号105】参照)。また、国と地方公共団体において、総合的かつ効果的な再犯防止施策の実施を推進するため、再犯防止啓発月間である7月に合わせて再犯防止広報・啓発ポスター等を作成し、2017年(平成29年)以降、全国の都道府県警察本部、都道府県及び市町村等に送付の上、ポスター掲示等による広報・啓発活動への協力を依頼している。

 また、市町村における再犯の防止等に関する取組として、2018年6月、矯正施設所在自治体会議の趣旨に賛同し、設立発起人となった29の市町の首長を構成員とする矯正施設所在自治体会議設立発起人会議が開催され、2019年(令和元年)6月には、90の市町村の首長を会員として、矯正施設所在自治体会議の設立総会が開催された(2021年(令和3年)4月末時点で98の市町村が参加)。なお、2020年度は新型コロナウイルス感染症対策のため、総会や地域部会の多くが中止又は書面開催とされた。

(4)国の施策に対する理解・協力の促進【施策番号112】

 法務省は、2018年度(平成30年度)以降、毎年、市町村再犯防止等推進会議(2020年度(令和2年度)については、新型コロナウイルス感染症の影響等により中止)や都道府県再犯防止等推進会議(【施策番号110】参照)、再犯防止シンポジウムを含む広報・啓発イベント(【施策番号101】参照)等を開催し、国の施策について地方公共団体に周知を図り、必要な協力が得られるよう働き掛けを行っている。

 また、関係府省庁や地方公共団体等と連携を図りつつ再犯防止施策を推進するため、法務省は、省内及び地方機関に当該業務を担当する組織等の設置を進めている。具体的には、2018年度に、大臣官房秘書課に企画再犯防止推進室を、保護局に地域連携・社会復帰支援室を設置した。また、地域の関係機関や地方公共団体との窓口として、東京矯正管区及び大阪矯正管区に更生支援企画課を設置し地域連携スタッフを配置したほか、全国8庁の保護観察所に保護観察所次長を配置した。さらに、2019年度(令和元年度)には、東京及び大阪以外の各矯正管区(6庁)にも更生支援企画課を設置し、近畿地方更生保護委員会に事務局次長を配置するとともに、2020年度には、矯正局に更生支援管理官を設置した。

 警察庁は都道府県警察に対し、文部科学省は各都道府県・指定都市教育委員会等に対し、厚生労働省は各都道府県等の民生主管部局や各都道府県労働局に対し、それぞれ文書や会議等を通じて、推進計画について周知するとともに、計画に基づく施策の実施について協力等を依頼している。

COLUMN12 横浜刑務所と連携した病院へのアイソレーションガウン寄附の取組

神奈川県

 2020年(令和2年)2月のダイヤモンドプリンセス号における新型コロナウイルス感染症の発生を皮切りに、神奈川県としてのコロナ対応が始まった。対応していく中で深刻な問題となってきたのが、アイソレーションガウンを始めとした医療資材の不足である。

 アイソレーションガウンとは、医師や看護師等が新型コロナウイルス陽性患者と接したり、処置をしたりする際に着用するものであり、医師や看護師等を感染から守るため、コロナ対応には必要不可欠な医療資材である。新型コロナウイルス陽性患者が増えていく中で、アイソレーションガウンの需要が高まる一方、海外から輸入しても供給が追い付かず、国内の市場から枯渇していった。県内の病院でも手に入らない状況が続き、代替品としてレインコートを使用することも多くあった。レインコートでも感染防護としては使えるが、着ていると蒸し暑く、作業性が悪いという声が多く寄せられていた。

 そういった状況下の2020年5月、横浜刑務所から「厚生労働省からの依頼で社会貢献作業としてアイソレーションガウンを全国複数の刑事施設で縫製している。」と連絡をいただいた。刑務所という、ふだんの業務でつながりがない機関からの思いもかけない申出に、最初に聞いた時は大変驚いたが、切迫した状況の中、まさに渡りに船だったこの申出をありがたく受け、神奈川県庁でアイソレーションガウンを受け取った。

 受け取ったアイソレーションガウンは、一つ一つ丁寧に作られていることが良く分かる物だった。早速、県内のいくつかの病院に送ったところ、「撥水性の物で頑丈に出来ている。」、「不織布で作られており、涼しく快適に過ごせた。」、「当時輸入されていた粗悪な海外製の物と比べ、作りが良かった。」、「特に、襟首の所が丁寧に作られており、使い勝手が良い。」といった多くの喜びの声が病院職員から聞かれた。県としても、当時アイソレーションガウンが不足していた病院に対して、品質の良い物を速やかに提供することができ、とてもありがたかった。

 最終的に、横浜刑務所からは約4万着のアイソレーションガウンを提供いただき、複数の病院に送付することができた。また、刑務官の方を通じて、受刑者の方々の「社会貢献することができて良かった。」、「アイソレーションガウンの縫製作業に携わることができ、ありがたかった。」といった声を聞かせていただいた。病院職員からの喜びの声だけでなく、受刑者の方々からのこうした声を聞くことができ、とても良い経験をさせていただいた。

 この度、受刑者の方々に、コロナ対応で疲弊していた病院が助けられた。特に、物不足であった2020年5月から7月頃に提供してもらい、神奈川県の医療提供体制の維持に貢献していただき、とても感謝している。本県としても受刑者と病院の間を取り持つことができ、とても有意義な取組だったと思う。受刑者の方々にこのような取組に参加してもらい、社会の役に立てたという実感を持ってもらうことで、少しでも再犯防止につながればと思う。

アイソレーションガウンの縫製作業を行う受刑者たち
完成したアイソレーションガウン