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薬物依存者・高齢犯罪者等の再犯防止緊急対策 ~立ち直りに向けた“息の長い”支援につなげるネットワーク構築~

平成28年7月12日

犯罪対策閣僚会議決定

1 はじめに ~直面する2つの課題~

 平成26年12月、犯罪対策閣僚会議において、宣言「犯罪に戻らない・戻さない」を決定した。

 犯罪が繰り返されない、何よりも新たな被害者を生まない、国民が安全で安心して暮らせる「世界一安全な国、日本」を実現するため、ひとたび犯罪や非行をした者を社会から排除し、孤立させるのではなく、責任ある社会の一員として再び受け入れることが自然にできる社会の構築に向けて、様々な取組を進めてきた。

 宣言決定から1年半が経過した現在、犯罪や非行をした者を実際に雇用いただいている協力雇用主の数は大幅に増加し、また、長い間減少傾向にあった保護司の数が増加に転じるなど、犯罪や非行からの立ち直りを支える民間の方々の支援の輪は着実に広がりつつある。

 しかしその一方で、立ち直りに様々な課題を抱える薬物依存者や犯罪をした高齢者・障害者等の多くは、刑事司法と地域社会の狭間に陥り、必要な支援を受けられないまま再犯に及んでいる。

○安全・安心な暮らしを脅かす薬物犯罪

 覚せい剤取締法違反による検挙者は毎年1万人を超え、近年、検挙者数が増加している。薬物使用者による重大な死傷事故等も発生しており、薬物犯罪は安全・安心な暮らしを脅かすものである。

 薬物事犯者の多くは、犯罪者であると同時に薬物依存の問題を抱える者でもあり、薬物事犯で受刑した者については、毎年6,000人以上の者が刑務所で薬物依存離脱指導を受けている。他方、社会の中では、4,000人以上の薬物事犯者が保護観察を受けているものの、指導に当たる保護観察官が不足しているため、薬物再乱用防止プログラムを受けた者は、およそ1,400人と、その4割にも満たない。また、薬物依存に関する治療や専門的支援を行う医療・保健・福祉機関の数が大幅に不足していることなどから、薬物事犯で保護観察を受けている者のうち、医療機関等による治療や支援を受けた者は、わずか207人にとどまっている。

 薬物事犯者の再犯率は高く、薬物事犯により受刑した者の約半数は出所後5年以内に再び刑務所へ戻ってきている。

○高齢者犯罪の増加と受刑者の高齢化等

 高齢社会の進展とともに65歳以上の高齢者による犯罪も最近20年間で増加しており、平成26年には、4万7千人以上の高齢者が検挙されている。刑務所に収容される受刑者の数が近年減少傾向にある中で、高齢受刑者の数は増加を続け、平成26年には、受刑者の高齢者率が初めて10%を超えるなど、受刑者の高齢化も急速に進んでいる。また、高齢受刑者の約55%は万引き等の窃盗によるものであるが、その多くは再犯者でもある。

 全国の刑務所では、高齢受刑者を始め、身体能力・知的能力・理解力の低下や障害により、刑務作業や日常生活上の指導に多くの時間と労力を要する者や歩行・食事等の日常的な動作全般にわたって介助、リハビリ等を必要とする者等(注)が増える一方、バリアフリー化等の最低限の環境も十分に整っていない中、刑務官が、こうした医療・福祉的な処遇を担っている。また、高齢受刑者や障害のある受刑者の中には、親族等との関係が疎遠であるなどのため、帰るべき場所のない者が少なくない。

 こうした者の再犯を防止し、社会復帰を支援するには、刑務所に限らず、刑事手続の各段階において、支援を必要とする者を病院や福祉機関等につなげることが重要であるが、刑事司法関係機関と福祉機関等との連携は十分とは言いがたく、適切な支援を受けられないまま、万引きなどの罪を犯して再び刑務所へ戻る者が跡を絶たない。

 (注)高齢受刑者のうち、認知症傾向のある者はおよそ17%で、1,100人程度収容されていると推計される(平成27年・法務省調査)

2 立ち直りを支えるネットワーク構築の必要性

 立ち直りに多くの困難を抱える薬物依存者や犯罪をした高齢者・障害者等の再犯防止を一層進めるためには、従来の対策を加速するとともに、刑事司法と地域社会をシームレスにつなぎ、官民が一体となって“息の長い”支援を行うことが必要である。

 そこで、次の3つの柱からなる取組を進め、2020年を目途に、全国各地に薬物依存者や犯罪をした高齢者・障害者等の立ち直りを支えるネットワークが構築されていることを目指す

Ⅰ 薬物依存からの回復に向けた矯正施設・保護観察所による指導と医療機関による治療等を一貫して行う

【取組の概要と目指す姿】

 薬物依存の問題を抱える者の再犯防止と社会復帰に向けて、刑務所や少年院、保護観察所による指導と地域の依存症治療拠点機関等の医療機関による治療等を一貫して提供する地域支援体制を全国に構築する。
 
 このような取組により、薬物依存の問題を抱える全ての保護観察対象者等が、個々の状況に応じた必要な専門的指導や医療機関による治療等を受けられるようにする

【具体的な取組】

(1)矯正施設及び保護観察所による一貫性のあるプログラムの実施
 全国の矯正施設と保護観察所において、海外でも一定の効果が認められている認知行動療法に基づく薬物依存離脱指導・薬物再乱用防止プログラムを実施するとともに、矯正施設におけるプログラムの受講状況等に関する情報について適切に保護観察所と共有を図るなどして指導内容を一貫させ、その充実を図る。
 また、矯正施設や保護観察所における指導者の育成・確保、教材の開発等を外部専門家等の知見も活用しながら進める。【法務省】

(2)薬物依存症の治療拠点となる医療機関の全国的な整備
 ・モデル的に実施している依存症治療拠点機関における成果をもとに、薬物依存症の治療拠点となる医療機関の全国的な整備を図るとともに、全国拠点機関を中心とした調査研究を推進する。【厚生労働省】

 ・国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターや関連学会における研修を通じ、認知行動療法の手法を用いた回復プログラムを実施することのできる医療従事者を増やすとともに、各自治体の精神保健福祉センターにおいて当該プログラムを実施し、その普及を図る。【厚生労働省】

 ・精神保健福祉センターや保健所による相談支援、依存症回復施設職員に対する研修や、家族向けの心理教育プログラムを実施するとともに、依存症に関する普及啓発を始めとした依存症者の生活を支える支援を行う。【厚生労働省】

 ・保護観察所が薬物依存症の治療拠点となる医療機関と連携して医療と一体的な指導をすることができるよう、必要な体制の整備を推進する。【法務省】

Ⅱ 地域社会とつながった指導・支援を刑事司法の各段階において行う

【取組の概要と目指す姿】

 犯罪をした高齢者・障害者等の再犯防止と社会復帰に向けて、福祉サービスや医療等の支援を必要とする者については、警察、検察、矯正、保護といった刑事司法の各段階において、適切にこれらの支援を受けることができるよう福祉・医療機関等につなげる取組を推進する。

 さらに、より円滑な社会復帰のため、刑事司法関係機関が、地域の安全・安心を守る拠点であることへの地域社会の理解と協力を得ながら、地域社会とつながった指導・支援を充実させる。

 このような取組により、立ち直りに福祉サービスや医療等の支援を必要とする高齢者・障害者等が、刑事司法のあらゆる段階を通じ、適切な時期に必要な支援を受けられるようにする

【具体的な取組】

(1)刑事司法関係機関における福祉・医療機関等との調整機能の充実
 ・犯罪をした高齢者・障害者等のうち、福祉サービス等の支援が必要な者を適切な時期に福祉サービス等につなげられるよう、刑事司法関係機関における福祉・医療機関等との調整機能の充実を図る。【法務省】
 また、矯正施設に収容されている高齢者・障害者等のうち、特に自立が困難な者については、引き続き、特別調整(矯正施設や保護観察所、更生保護施設、地域生活定着支援センターその他の福祉関係機関が連携して、釈放後の福祉サービスの受給に向けた調整を行うこと)を着実に実施する。【法務省・厚生労働省】

 ・ストーカー加害者について、個々の問題性を踏まえ、警察官が地域精神科医療等から加害者への対応方法や治療・カウンセリングの必要性について助言を受け、加害者に受診を勧めるなど、地域精神科医等と連携しながら、更生に向けた働き掛けを行う取組を推進する。【警察庁】

(2)高齢化等の環境変化に対応した刑務所等の処遇の展開
 ・高齢化等の環境変化に対応した刑事司法関係施設の環境整備を推進する。【法務省】

 ・矯正施設において、出所後のスムーズな社会適応に向けた指導等を、地域の企業・関係団体と連携して実施する“地域支援のネットワーク”の構築を進める。【法務省】

 ・健康上の問題を抱える高齢受刑者等に適切に対応できるよう、地域の医療機関との連携強化や、矯正施設で勤務する医師の確保を含む医療体制の充実を図る。【法務省】

 ・矯正施設収容段階から地域社会での作業に従事させることなどを通じて、社会適応に必要な技能等を修得させる“地域に学び、地域を支える”場の創設を進める。【法務省】

 ・矯正施設が、地域社会から理解され、支えられる存在となるため、地域社会の安全・安心を守る施設として、地域の防災拠点及び地域住民の避難場所となり得る矯正施設の耐震化を実現するとともに、防災設備・資機材の整備を含む防災対策を推進する。【法務省】

Ⅲ 立ち直りに向けた“息の長い”支援に取り組む民間の活動を推進する

【取組の概要と目指す姿】

 薬物依存者や犯罪をした高齢者・障害者等の立ち直りのための継続した支援を官民一体で推進するため、帰るべき場所のない者の社会復帰の拠点となる更生保護施設の体制等の強化を図るとともに、地域において再犯防止や立ち直り支援のための活動に取り組む保護司、協力雇用主、少年警察ボランティア等の民間協力者に対する支援を強化する。
 
 このような取組により、刑事司法手続終了後を含めた“息の長い”支援を実現する

【具体的な取組】

(1)更生保護施設の人的体制の強化と通所による“息の長い”処遇の実施
 ・全国各地の更生保護施設において、薬物依存者や高齢者・障害者を始めとする帰るべき場所のない出所者等の受入れや処遇機能を強化するため、人的体制を強化する。【法務省】

 ・更生保護施設からの退所後も通所により必要な指導・支援を受けられる取組など“息の長い”処遇の全国展開を推進する。【法務省】

(2)再犯防止や立ち直りのための“息の長い”支援に取り組む民間協力者への支援の強化
 ・地域社会における保護司の活動拠点となる“更生保護サポートセンター”の円滑な設置運営のために必要な支援の充実を図る。【法務省】

 ・犯罪や非行をした人をその事情を理解した上で雇用している協力雇用主に対する刑務所出所者等就労奨励金支給制度や更生保護就労支援事業等の各種支援制度の充実を図る。【法務省・厚生労働省】

 ・居場所づくり等を通じた少年の立ち直り支援活動に取り組んでいる少年警察ボランティア等について、“立ち直り支援ボランティア・リーダーシップ研修会”の開催等その活動を支援する取組を推進する。【警察庁】

 ・再犯防止の重要性や民間協力者の方々の活動の意義に対する社会的な理解、評価を高めるため、“社会を明るくする運動”など再犯防止や立ち直り支援に関する広報・啓発活動及び表彰を積極的に推進する。【法務省】

3 対策の目標

 本対策に掲げる取組を総合的に推進することにより、「刑務所出所者等の2年以内再入率を平成33年までに20%以上減少させる」(注)という数値目標の達成を確実なものとし、犯罪が繰り返されない、国民が安全で安心して暮らせる「世界一安全な国、日本」の実現に寄与する。

 (注)「再犯防止に向けた総合対策」(平成24年7月・犯罪対策閣僚会議決定)による

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