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実際に制度を利用した方々の体験談

体験談1

○詐欺事件の被害者
 (いわゆる特殊詐欺の被害者。加害者が警察官等になりすまし,被害者の親族が交通事故を起こしたとして,被害者から示談金名目で金員を詐取した。)
 
○利用した制度
 被害者等通知制度,意見等聴取制度,心情等伝達制度,相談・支援制度
 
○制度を利用した理由や感想など
・被害者等通知制度について
 十数年前,私は詐欺被害に遭いました。
警察から加害者が逮捕されたことは聞きましたが,その当時の私は,「被害に遭ったことを忘れたい,なかったことにしたい」という気持ちが強く,加害者の裁判結果等も自分から知ろうとはしませんでした。
 しかし,新聞やテレビ等で,自分が被害に遭った詐欺事件と同じ様なニュースを度々目にしているうちに,裁判結果がどうなったか知りたいと思い始めました。
 そこで,検察庁に問い合わせたところ,「被害者等通知制度」の存在を知り,利用することにしました。
 通知制度の利用によって,約2年前に判決が出ていたことが分かりました。その内容は,私の納得のいくものではありませんでした。
 その後も,半年に1回通知があり,加害者が収容されている刑務所名や従事している刑務作業名等を知ることができました。
 私としては,毎回の通知を,加害者の状況を知る手段であると同時に,「騙されやすい自分への戒め」としても捉えていました。
 
・意見等聴取制度について
 被害者等通知制度の利用を開始して数年後,「仮釈放審理を開始した」という通知が届きました。「刑期終了までまだ日があるのに,もう仮釈放を検討する時期なのか」と腹立たしく思いました。
 意見等聴取制度については,「どうせ私が何か意見を言ったところで,仮釈放になるのでは?」という気持ちがありました。それでも,自分の意見をしっかり伝えたいという思いが強く,利用を決意しました。
 意見等聴取制度を利用するに当たっては,仮釈放審理を行う地方更生保護委員会が遠方であり,また当時は今と違い交通費も自己負担とのことでしたので,意見を書面で提出することにしました。
 書面の作成は,改めて事件と向き合わないといけないことであり,私にとってとてもつらい作業でした。
 「本当は仮釈放には反対だが,仮釈放を許すなら,せめて,仮釈放後に謝罪や被害弁償などを実行して欲しい」という意見を伝えました。
 後で知ったのですが,書面の作成に当たり,地方更生保護委員会や保護観察所で相談に乗ってもらえるなどのサポートが受けられるとのことでした。その様なサポートを受けていたら,より負担は少なかったと思います。
 その後,「仮釈放を許す決定があった」との通知が届きました。「やっぱり仮釈放になったのだな。被害に遭ったことと向き合い,つらい思いもしながら述べた意見なのに,意味があったのかな」と思いました。
 ただ,今振り返ると,意見をまとめる過程で,長い間,蓋をしてきた自分の気持ちに気付くことができましたし,伝えた意見は,仮釈放審理で考慮されるだけでなく,仮釈放後の保護観察でも参考にされるとのことですので,制度を利用した意味はあったと思っています。
 
・心情等伝達制度について
 被害者等通知制度を通して,「加害者が仮釈放となり,保護観察が開始された」という通知が届きました。
 私は早速,心情等伝達制度を利用しようと思いました。意見等聴取制度を利用した時から,「心情等伝達制度を利用して,加害者に自分の気持ちを伝えたい」と強く思っていたからです。
 保護観察所に電話で問い合わせ,日程調整をした後,保護観察所で面談を行うことになりました。当日は,夫にも同席してもらい,被害者担当の保護観察官の方に,加害者へ伝えて欲しいことなどを話しました。
 最初のうちは,事件に遭った怒りや悲しみがこみ上げてきて,大泣きしたり,すごく怒ったりしてしまい,職員の方とうまく話をすることができませんでした。
 職員の方との会話の中で「騙された私も悪いのですけどね」と言った時,すかさず「あなたは悪くない」ときっぱりと言ってもらえ,とても嬉しかったことを覚えています。長年,夫以外には,被害に遭った話をすることもできず,この一言でさえ誰からも言ってもらえなかったので,本当に救われた気持ちになりました。
 私は,計3回,心情等伝達制度を利用し,謝罪や被害弁償を求めていること,しっかり更生して欲しいことなどを加害者に伝えました。
 この制度を利用すると,こちらの心情を伝えた際に加害者が述べたことなどについて報告を受けられます。加害者からどんな反応があるのか不安でしたが,最終的には謝罪の言葉や,被害弁償したい気持ちがあるといった返答がありました。
 実際に,わずかではありますが,被害弁償を受けることもできたので,この制度を利用して良かったと思いました。
 
○制度利用を検討されている方へのメッセージ
 意見等聴取制度や心情等伝達制度では,被害者がどんなに訴えたとしても,その訴えがそのまま実現するということは少ないのが現実だと思います。
 心情等伝達制度では,加害者から納得のいく返答がない可能性もありますし,仮に,被害弁償するという返答があったとしても,それがきちんと実行されるかどうかは結局,加害者次第になります。
 それでも私は,犯罪被害に遭われた多くの方にこれらの制度を利用して欲しいと思います。
 私は,長い間,被害に遭った話を誰かに聴いてもらうことができませんでした。そんな中,制度利用を通して,職員の方に私の話をしっかりと聴いてもらえたことはとても有難かったです。
 また,加害者に対して,しっかり自分の気持ちや訴えを伝えること,それ自体にも意味があったと思います。
 そして,職員の方と話す中で,また,加害者に何を伝えるか考える中で,事件に向き合い,自分の気持ちを整理することができました。
 大げさに聞こえるかもしれませんが,心情等伝達制度を始めとした各制度を利用したことが,再び前向きに生きていくきっかけになったと思います。
 私の経験を一つの参考にして,各制度の利用について検討いただければと思います。
 

体験談2

○殺人事件の御遺族(被害者の母)
 (加害者(被害者の元交際相手)が,被害者を殺害した。)

○利用した制度
 被害者等通知制度,意見等聴取制度,相談・支援制度
 
○制度を利用した理由や感想など
・被害者等通知制度について
 私が被害者等通知制度を利用したのは,「加害者はいつか出所してくるだろう。その際の出所状況を知りたい」という思いがあったためです。
 検察庁に申出をし,定期的に刑務所での処遇状況などについて通知を受け取っていましたが,通知される処遇状況はほぼ変わることがありませんでした。制度利用当初は通知書の内容をしっかり読んでいたものの,そのうち「また一緒か」と思うこともありました。
 
・意見等聴取制度について
 その後,地方更生保護委員会から仮釈放審理開始の通知が届きました。私には「とうとうそのときが来たのか」という思いがありました。これまで受けた通知書からは,加害者の反省や謝罪の意思があるのかも分からなかったため,被害者の意見を聞かずに仮釈放を決めてほしくない,仮釈放について意見を述べたい,と思い,意見等聴取制度を利用することにしました。
 申出書に,息子の名前はもちろん,加害者の名前,「殺人」という罪名を自ら書きましたが,その作業自体がつらいものではありました。
 意見等聴取制度を利用することを決めたとき,正直に言えば,私には,「仮釈放をしないでほしいと訴えても,どうせ仮釈放を許すのだろう」という,制度自体への諦めの気持ちもありました。地方更生保護委員会に夫と二人で赴いた際も,私も内心では,「担当者は,こちらが何を言ってもどうせ型どおりの対応しかしないのだろう」などと,あまり期待していなかったものの,反面,その当時私は加害者が刑務所から出てくると考えると心が重くなっていましたので,仮釈放を決める地方更生保護委員会には,「加害者には,刑務所に入っていたことだけで,罪を償ったと思ってほしくない」という私たちの気持ちを分かってほしいと強く思っていました。
 そして,私は,意見等聴取の場では,「加害者には“人の命を奪ったという事実を一生忘れてほしくない”という思いがある。加害者は,一生,息子に謝り続けてほしい。そして,加害者は,刑務所を出てからの生き方でそれを見せてほしい」という,それまで私たちが抱えていた思いを訴えました。それに対し,地方更生保護委員会の担当者は,私が事前に想像していた以上に,本当に親身になって私たちの話を聴いてくれたように感じました。私は,更生保護といえば,加害者の更生のことばかり考えていると思っていましたが,その担当者が,被害者である私たちの息子のことを含め,記録を詳細に読み込んでくれていたことを知り,救われた思いがしました。また,地方更生保護委員会に行って言いたいことを夫婦二人で言ってきたということで,やるべきことをやり切ったという思いもありました。
 その後,仮釈放審理の結果として,仮釈放を許す決定があったという内容の通知を受け取りました。仮釈放される具体的な日程は分かりませんでしたが,今後加害者が仮釈放されるということが事前に知らされることで,ある程度心の準備ができました。
 
・心情等伝達制度について
 その後加害者は仮釈放になりましたが,その保護観察期間中,心情等伝達制度は利用しませんでした。その理由は,仮釈放後に加害者やその弁護士と面会をし,面会の後にしばらくの間被害弁償の振込があったため,心情等伝達制度を利用するまでの必要はないかと思いましたし,私は加害者のことを事件前からよく知っていたため,だからこそ,もう加害者とは関わりたくないという気持ちもありました。
 しかし,被害弁償はじきに途絶えてしまいました。今から思うと,私たちが心情等伝達制度を利用しなかったことで,一番大事な,加害者の更生を促す機会をなくしてしまったのではないかと感じています。もちろん,仮にこの制度を利用しても,加害者が更生したかは分かりません。ただ,少しでもこちらの気持ちを加害者に伝えることで,もう少し違う形になったのではないか,仮にならなかったとしても,私の中で,「自分は言いたいことを言った」と思え,それだけでも多少精神的に楽になったのではないかと思います。
 なお,「心情等伝達」という制度名を聞くと,こちらが伝えるだけと思ってしまいますが,実際は,加害者が被害者等の心情等を聴いてどう思ったかなどが被害者等に返ってくる制度です。加害者の反応を聴くことによって,自分は言いたいことを言ったという思いを,より強めることができ,そういう意味で気持ちも楽になったのではないかと思います。
 加害者への刑の執行は終わりましたが,私たち被害者は,事件から10年以上たった今でも苦しんでいます。被害者にとって,裁判の後に何かできることはないかと考えたときに,更生保護の被害者等施策しかないと考えており,その意味で,この制度の重要性を本当に感じています。
 
○制度利用を検討されている方へのメッセージ
 制度を利用すると,事件を思い出すなど,つらいこともあるかもしれません。しかし,自分の気持ちを加害者に伝えられるときに伝えておかないと,後になって後悔するかもしれません。こちらから気持ちを伝えておかないと,加害者も,「保護観察が終わったらこれで終わりだ」と思ってしまうのではないかと思います。それは,被害者・加害者双方にとって一番良くないことだと思います。被害者が自分の気持ちを伝え,それを加害者に分からせることで,加害者が反省したり,更生したりする可能性もあると思います。私のような気持ちを持つ被害者もいるということも知っていただき,制度を利用するか検討してもらえればと思います。