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侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A

令和4年6月

○ 令和4年6月13日、「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号)が成立し、そのうち、侮辱罪の法定刑の引上げに係る規定は、同年7月7日から施行されます。

○ 今回の改正により、侮辱罪の法定刑が「拘留又は科料」から「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられます。
 
○ 改正法の内容等については、以下を御覧ください。

法律【PDF】
新旧対照条文【PDF】

改正の概要



■PDFはこちら

侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A

【目次】
〔改正の概要・趣旨〕
Q1:今回の侮辱罪の法定刑の引上げはどのようなものですか。
Q2:侮辱罪とは、どのような罪ですか。
Q3:「拘留又は科料」とは、具体的にどのような刑罰ですか。
Q4:なぜ、侮辱罪の法定刑が引き上げられたのですか。
Q5:今回の改正によって、侮辱罪の法定刑の上限が懲役1年とされたのはなぜですか。罰金を追加すれば十分ではないのですか。
Q6:侮辱罪の法定刑の引上げ後も「拘留又は科料」を残すこととされたのはなぜですか。

〔侮辱罪の処罰範囲について〕
Q7:今回の改正によって、侮辱罪の処罰範囲は変わるのですか。
Q8:どのような場合に侮辱罪が成立するのかがあいまいではないですか。

〔表現の自由との関係について〕
Q9:政治家を公然と批判した場合なども、侮辱罪による処罰の対象となる可能性があるのですか。
Q10:侮辱罪の法定刑の引上げにより、憲法が保障する表現の自由を侵害することになりませんか。

〔法定刑の引上げに伴う法律上の取扱いの変更について〕
Q11:侮辱罪の法定刑の引上げに伴い、法律上の取扱いにどのような変更が生じるのですか。

〔侮辱罪による逮捕について〕
Q12:侮辱罪の法定刑の引上げにより、逮捕について不適切な運用がなされる可能性があるのではないですか。
Q13:侮辱罪の法定刑の引上げにより、一般の私人による現行犯逮捕が増えて混乱が生じることになりませんか。


〔改正の概要・趣旨〕
Q1  今回の侮辱罪の法定刑の引上げはどのようなものですか。
  
A1 これまで、侮辱罪(刑法231条)の法定刑は、「拘留又は科料」とされてきました。今回の改正で、「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられました。
 改正法は、令和4年7月7日から施行され、その後に行われた行為に適用されることになります(施行の前に行われた行為は、改正される前の法定刑が適用されます。)。
 
Q2  侮辱罪とは、どのような罪ですか。
  
A2 侮辱罪は、事実を摘示せずに、「公然と人を侮辱した」ことが要件になっています。具体的には、事実を摘示せずに、不特定又は多数の人が認識できる状態で、他人に対する軽蔑の表示を行うと、侮辱罪の要件に当たることになります。
 
Q3  「拘留又は科料」とは、具体的にどのような刑罰ですか。
   
A3 「拘留」は、1日以上30日未満、刑事施設に拘置する刑です(刑法16条)。
 「科料」は、1,000円以上1万円未満の金銭を支払う刑です(刑法17条)。
 これまでの侮辱罪の法定刑は、刑法の罪の中で最も軽いものでした。
 
Q4  なぜ、侮辱罪の法定刑が引き上げられたのですか。
   
A4 近時、インターネット上で人の名誉を傷つける行為が特に社会問題化していることをきっかけに、非難が高まり、抑止すべきとの国民の意識が高まっています。
 人の名誉を傷つける行為を処罰する罪としては、侮辱罪(処罰の対象となる行為について、Q2参照)のほかに、名誉毀損罪(刑法230条)があり、この罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」ことが要件となっています。
 いずれも、人の社会的名誉を保護するものとされていますが、両罪の間には、事実の摘示を伴うか否かという点で差異があり、人の名誉を傷つける程度が異なると考えられることから、法定刑に差が設けられています。名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」とされる一方、侮辱罪の法定刑は「拘留又は科料」とされてきたのです。
 しかし、近年における侮辱罪の実情などに鑑みると、事実の摘示を伴うか否かによって、これほど大きな法定刑の差を設けておくことはもはや相当ではありません。
 そこで、侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、これを抑止するとともに、悪質な侮辱行為に厳正に対処するため、名誉毀損罪に準じた法定刑に引き上げることとされたものです。
 
Q5  今回の改正によって、侮辱罪の法定刑の上限が懲役1年とされたのはなぜですか。罰金を追加すれば十分ではないのですか。
    
A5 今回の改正の趣旨は、Q4のとおり、「拘留又は科料」とされてきた侮辱罪の法定刑を名誉毀損罪に準じたものに引き上げることです。
 Q4のとおり、近年における侮辱罪の実情などに鑑みると、侮辱罪について、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し、これを抑止するとともに、悪質な侮辱行為に厳正に対処するためには、法定刑に罰金を追加するだけでは不十分であると考えられます。
 こうしたことから、今回の法改正では、侮辱罪の法定刑の上限が懲役1年とされたものです。
 
Q6  侮辱罪の法定刑の引上げ後も「拘留又は科料」を残すこととされたのはなぜですか。
    
A6 今回の改正の趣旨はQ4のとおりですが、  侮辱罪の法定刑が引き上げられた後も、悪質性の低い事案も想定されますので、個別具体的な事案に応じた適切な処罰ができるよう、軽い刑である拘留・科料も残すこととされたものです。

〔侮辱罪の処罰範囲について〕
Q7  今回の改正によって、侮辱罪の処罰範囲は変わるのですか。
    
A7 今回の改正は、侮辱罪の法定刑を引き上げるのみであり、侮辱罪が成立する範囲は全く変わりません。これまで侮辱罪で処罰できなかった行為を処罰できるようになるものではありません。
 
Q8  どのような場合に侮辱罪が成立するのかがあいまいではないですか。
    
A8 個別具体的な事案における犯罪の成否については、法と証拠に基づき、最終的には裁判所において判断されることとなりますが、侮辱罪にいう「侮辱」にどのような行為が当たるかについては、裁判例の積み重ねにより明確になっていると考えています(例えば、令和2年中に侮辱罪のみにより第一審判決・略式命令のあった事例については、こちらから御参照いただけます。)。

〔表現の自由との関係について〕
Q9  政治家を公然と批判した場合なども、侮辱罪による処罰の対象となる可能性があるのですか。
    
A9 刑法35条には、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」と定められています。
 侮辱罪の要件に当たったとしても、公正な論評といった正当な表現行為については、刑法35条の正当行為として処罰されません。
 このことは、今回の改正後も変わりません。
 
Q10  侮辱罪の法定刑の引上げにより、憲法が保障する表現の自由を侵害することになりませんか。
    
A10 表現の自由は、憲法で保障された極めて重要な権利であり、これを不当に制限することがあってはならないのは当然のことです。
 今回の改正は、次のとおり、表現の自由を不当に侵害するものではありません。
 (1) 今回の改正は、侮辱罪の法定刑を引き上げるのみであり、侮辱罪が成立する範囲は全く変わりません(Q7参照)。
 (2) 法定刑として拘留・科料を残すこととしており、悪質性の低いものを含めて侮辱行為を一律に重く処罰する趣旨でもありません(Q6参照)。
 (3) 公正な論評といった正当な表現行為については、仮に相手の社会的評価を低下させる内容であっても、刑法35条の正当行為に該当するため、処罰はされず、このことは、今回の改正により何ら変わりません(Q9参照)。
 (4) 侮辱罪の法定刑の引上げについて議論が行われた法制審議会においても、警察・検察の委員から、
  ○ これまでも、捜査・訴追について、表現の自由に配慮しつつ対応してきたところであり、この点については、今般の法定刑の引上げにより変わることはない
との考え方が示されたところです(こちらから法制審議会の議事録を御参照いただけます。)。

〔法定刑の引上げに伴う法律上の取扱いの変更について〕
Q11  侮辱罪の法定刑の引上げに伴い、法律上の取扱いにどのような変更が生じるのですか。
    
A11 侮辱罪の法定刑の引上げに伴って、例えば、次のような違いが生じます。
  (1) 教唆犯及び幇助犯(※1)について、これまでは、処罰することができませんでしたが(刑法64条)、法定刑の引上げに伴い、その制限がなくなります。
  (2) 公訴時効期間(※2)について、これまでは1年でしたが、法定刑の引上げに伴い、3年となります(刑事訴訟法250条2項6号・7号)。
  (3) 逮捕状による逮捕について、これまでは、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由なく出頭の求めに応じない場合に限り逮捕することができましたが(刑事訴訟法199条1項ただし書)、法定刑の引上げに伴い、その制限がなくなります。
  (4) 現行犯逮捕について、これまでは、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り現行犯逮捕をすることができましたが(刑事訴訟法217条)、法定刑の引上げに伴い、その制限がなくなります。
 
(※1)教唆とは、他人をそそのかして犯罪実行の決意を生じさせ、その決意に基づいて犯罪を実行させることをいい、幇助とは、実行行為以外の行為で正犯の実行行為を容易にさせることをいいます。
(※2)公訴時効とは、犯罪行為が終わった時点から起算して一定の期間が経過すると、その後の起訴が許されなくなる制度のことです。


〔侮辱罪による逮捕について〕
Q12  侮辱罪の法定刑の引上げにより、逮捕について不適切な運用がなされる可能性があるのではないですか。
    
A12 侮辱罪による逮捕に関して、今回の改正により、被疑者が定まった住居を有しないことなどの制限がなくなることとなりますが(Q11参照)、それ以外の要件に変わりはありません。  
 まず、逮捕状による逮捕は、正当行為などの違法性を阻却する事由がないことを含めて被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合において、逮捕の必要性があるときに、あらかじめ裁判官が逮捕の理由及び必要性を判断した上で発する逮捕状によらなければなりません。
 そして、現行犯逮捕については、逮捕時に、正当行為などの違法性を阻却する事由がないことを含めて犯罪であることが明白で、かつ、犯人も明白である場合にしか行うことができません。仮に「侮辱」に該当するとしても、表現行為という性質上、違法性を阻却する事由の存否に関して、憲法で保障される表現の自由との関係が問題となるため、現行犯逮捕時に、逮捕時の状況だけで正当行為でないことが明白とまでいえる場合は、実際上は想定されません。
 したがって、侮辱罪の法定刑の引上げにより、正当な言論活動をした者が逮捕されるといった不適切な運用につながるものではありません。
 
Q13  侮辱罪の法定刑の引上げにより、一般の私人による現行犯逮捕が増えて混乱が生じることになりませんか。
    
A13 現行犯逮捕は、誰でも行うことができますが(刑事訴訟法213条)、侮辱罪の法定刑の引上げ後も、正当行為などの違法性を阻却する事由がないことを含めて犯罪であることが明白で、かつ、犯人も明白である場合にしか行うことができません(Q12参照)。
 そして、私人により現行犯逮捕が行われた場合には、その後、逮捕された者の引渡しを受けた警察官らが、逮捕の理由及び必要性について必ず判断することとなります。
 さらに、現行犯逮捕の要件を満たさないにもかかわらず、現行犯逮捕が行われた場合には、その現行犯逮捕を行った者は、民事上・刑事上の責任を問われる可能性もあります。
 したがって、今回の改正が、私人の現行犯逮捕に伴う混乱につながることはありません。