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危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法)の法改正 Q&A

○ 令和8年6月25日、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律及び道路交通法の一部を改正する法律」(令和8年法律第52号)が成立し、同年7月21日から施行されます。

○ 改正法の内容等については、以下を御覧ください。

法律【PDF】
新旧対照条文【PDF】

○ Q&Aはこちら

改正法等の概要




■改正法の概要のPDFはこちら

危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法)の法改正 Q&A

【目次】

危険運転致死傷罪の概要
Q1:危険運
転致死傷罪とは、どのような罪ですか。
    
〔改正の概要・趣旨〕
Q2:今回、危険運転致死傷罪に関して、どのような改正が行われたのですか。
Q3:なぜ、危険運転致死傷罪の改正が行われたのですか。
Q4:数値基準に満たない濃度のアルコールを身体に保有する状態で自動車を運転する行為や数値基準に満たない速度で自動車を運転する行為であれば、処罰されないということですか。
Q5:二輪車も危険運転致死傷罪の適用対象である「自動車」に含まれますか。
Q6:改正法は、いつから適用されますか。

〔飲酒類型について〕
Q7:飲酒類型について、どのような数値基準が定められたのですか。また、どの程度の量の酒を飲めば、体内アルコール濃度が数値基準を満たすことになるのですか。
Q8:酒には強い・弱いがあると思いますが、数値基準を満たす高濃度のアルコールを身体に保有する状態で自動車を走行させる行為は、酒に強い人によるものであっても、危険運転致死傷罪の対象となるのですか。
Q9:数値基準に満たない濃度のアルコールを身体に保有する状態で自動車を運転した場合には、危険運転致死傷罪に問われることはないのですか。  
Q10:「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは、どのような状態のことですか。

〔高速度類型について〕
Q11:高速度類型について、どのような数値基準が定められたのですか。
Q12:数値基準を満たす高速度で自動車を運転する行為は、追い越しや高速道路での合流などのために加速したことによるものであっても、危険運転致死傷罪の対象となるのですか。
Q13:数値基準に満たない速度で自動車を運転した場合には、危険運転致死傷罪に問われることはないのですか。
Q14:数値基準に「準ずる」速度とは、どのような速度ですか。また、「道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」とは、どのような速度ですか。

〔殊更滑走等類型について〕
Q15:改正後の法第2条第6号は、具体的にどのような行為を危険運転致死傷罪の対象とするものですか。

〔危険運転致死傷罪の概要〕
Q1  危険運転致死傷罪とは、どのような罪ですか。

A1 危険運転致死傷罪は、故意に危険・悪質な自動車の運転行為を行い、その結果人を死傷させた者を、傷害罪・傷害致死罪に準じた重い法定刑によって処罰する犯罪類型であり、法定刑は、
〇 人を死亡させた場合は1年以上の有期拘禁刑
〇 人を負傷させた場合は15年以下の拘禁刑
とされています。
 その対象となる行為は、重大な死傷事犯となる危険性が類型的に極めて高い運転行為であって、こうした重い法定刑によって処罰すべきものと認められる類型に限定して列挙されています。
 今回の改正前においては、例えば、次の行為が危険運転致死傷罪の対象として規定されていました。
〇 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
〇 進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
〇 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
〇 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為


〔改正の概要・趣旨〕 
Q2  今回、危険運転致死傷罪に関して、どのような改正が行われたのですか。

A2 今回の改正では、危険運転致死傷罪に関して、大きく分けて以下の3つの改正が行われました。
〇 飲酒類型について、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」との要件を明確化するための数値基準を設け、それを満たす高濃度のアルコールを身体に保有する状態で自動車を走行させる行為を一律に危険運転致死傷罪の対象とする【改正後の自動車運転死傷処罰法(以下「法」という。)第2条第1号】。
〇 高速度類型について、道路・交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度で自動車を運転する行為を対象とする新たな類型を創設した上で、これに数値基準を設け、それを満たす高速度で自動車を運転する行為を一律に危険運転致死傷罪の対象とする【改正後の法第2条第4号】。
〇 殊更にタイヤを滑らせ又は浮かせることにより、その進行を制御することが困難な状態にさせて、自動車を走行させる行為を危険運転致死傷罪の対象とする【改正後の法第2条第6号(殊更滑走等類型)】。

 
Q3  なぜ、危険運転致死傷罪の改正が行われたのですか。

A3 危険運転致死傷罪に関しては、近時、
〇 飲酒類型について、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」との要件の認定が困難で、判断にばらつきが生じている
〇 高速度類型について、常識的に見て極めて危険性の高い高速度運転であっても、実際に進路を逸脱していない事案においては、危険運転致死傷罪の適用が否定される場合がある
〇 車体を横滑りさせながらカーブを曲がったり、二輪車の前輪を浮かせて後輪だけで走行するなどの危険・悪質な運転行為を直接捉える類型がなく、処罰できない場合がある
といった指摘がなされていました。
 こうした状況を踏まえ、危険・悪質な自動車運転による死傷事犯について、事案の実態に即したより厳正な対処を可能とするため、今回の改正が行われました。

 
Q4  数値基準に満たない濃度のアルコールを身体に保有する状態で自動車を運転する行為や数値基準に満たない速度で自動車を運転する行為であれば、処罰されないということですか。

A4 今回の改正は、数値基準を満たす高濃度のアルコールを身体に保有する状態で自動車を走行させる行為や数値基準を満たす高速度で自動車を運転する行為を、一律に、重い法定刑が定められている危険運転致死傷罪の対象とするものであり、数値基準に満たない濃度のアルコールを身体に保有する状態で自動車を運転する行為や数値基準に満たない速度で自動車を運転する行為であれば、処罰されないというものではありませんQ9Q13参照)。
  
Q5  二輪車も危険運転致死傷罪の適用対象である「自動車」に含まれますか。
    
A5 自動二輪車原動機付自転車も、危険運転致死傷罪の適用対象である「自動車」に含まれます。
 一定の基準を満たし、特定小型原動機付自転車に区分されるいわゆる電動キックボードも、原動機付自転車に含まれることから、危険運転致死傷罪の適用対象となります。

 
Q6  改正法は、いつから適用されますか。
    
A6 改正法は、公布の日から起算して20日を経過した日(令和8年7月21日)から施行され、施行日以降の行為について適用されます。

〔飲酒類型について〕 
Q7  飲酒類型について、どのような数値基準が定められたのですか。また、どの程度の量の酒を飲めば、体内アルコール濃度が数値基準を満たすことになるのですか。
    
A7 改正法では、飲酒類型について、体内アルコール濃度による数値基準が定められました。具体的には、呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上(血液1ミリリットルにつき1.0ミリグラム以上)のアルコールを身体に保有する状態で自動車を走行させる行為が一律に危険運転致死傷罪の対象となります。
 アルコールの分解能力には個人差があるとされており、飽くまで参考値ではあるものの、体重60キログラムの者の飲酒後30分経過した時点での呼気中アルコール濃度について、

 ビール大瓶2本(1266ミリリットル)を飲んだ場合で呼気1リットルにつき0.39~0.68ミリグラム程度
 日本酒2合(アルコール濃度15%、360ミリリットル)を飲んだ場合で呼気1リットルにつき0.33~0.57ミリグラム程度
とする文献があります。
 なお、体内アルコール濃度が数値基準に満たないとしても、酒気を帯びて自動車を運転する行為は違法であり、酒酔い運転又は酒気帯び運転に該当する場合には、これらの罪が成立し得ます(
Q9参照)。
  
Q8  酒には強い・弱いがあると思いますが、数値基準を満たす高濃度のアルコールを身体に保有する状態で自動車を走行させる行為は、酒に強い人によるものであっても、危険運転致死傷罪の対象となるのですか。
    
A8 数値基準を満たす高濃度のアルコールを身体に保有する状態で自動車を走行させる行為は、一律に危険運転致死傷罪の対象となり、酒に強いかどうかは関係がありません
 アルコール医学の専門家によれば、

 一般に言われる「酒に強い・弱い」とは、アルコールの分解能力に関するものであり、この分解能力には個人差があるものの、
 アルコールが運転能力に与える影響の程度は、体内アルコール濃度に依存し、体内アルコール濃度が同じであれば、基本的に運転能力への影響は同じであり、
 呼気中アルコール濃度が1リットルにつき0.5ミリグラムに達していれば、どんな人であっても、注意力や警戒心の低下、反応の遅延、合理的な決断や分別ある判断能力の低下といった症状が現れ、道路交通の状況に応じた運転操作を行うことが困難になる
とされており、数値基準は、このような知見に基づいて規定されました。

 
Q9  数値基準に満たない濃度のアルコールを身体に保有する状態で自動車を運転した場合には、危険運転致死傷罪に問われることはないのですか。
    
A9 改正法では、飲酒類型について、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」との要件を明確化するための数値基準が設けられました。
 もっとも、数値基準は、飽くまでも、個別具体的な事情を問わずに一律に「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」であると認められる症状が生じる数値として定められているものであり、体内アルコール濃度が数値基準に満たない場合であっても個別具体的な事情に照らし例えば、運転時の体調なども相まって、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」であると認められる場合があり得ます。
 また、危険運転致死傷罪が成立しない場合であっても、アルコールを身体に保有する状態で自動車を運転し、人を死傷させた場合には、過失運転致死傷罪(法定刑:7年以下の拘禁刑又は100万以下の罰金)が成立し得るほか、次のような道路交通法違反の罪が成立し得ます。

 酒酔い運転の罪(法定刑:5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
 酒気帯び運転の罪(法定刑:3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
  
Q10  「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは、どのような状態のことですか。
    
A10 最高裁判例によれば、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とは、アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいい、例えば、アルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態もこれに当たるとされており、これに当たるか否かの判断については、事故の態様のほか、事故前の飲酒量及び酩酊状況、事故前の運転状況、事故後の言動、飲酒検知結果等を総合的に考慮すべきとされています。


〔高速度類型について〕
Q11  高速度類型について、どのような数値基準が定められたのですか。
    
A11 
改正法では、高速度類型について、道路の最高速度に応じて数値基準が定められました。具体的には、
〇 最高速度が時速60キロメートル以下である場合は、最高速度を時速50キロメートル超える速度以上の速度
〇 最高速度が時速60キロメートルを超える場合は、最高速度を時速60キロメートル超える速度以上の速度
で自動車を運転する行為が一律に危険運転致死傷罪の対象となります。
 例えば、
〇 最高速度が時速50キロメートルの道路の場合、時速100キロメートル以上の速度
〇 最高速度が時速80キロメートルの道路の場合、時速140キロメートル以上の速度
で自動車を運転した場合には、数値基準を満たすこととなります。
 数値基準は、最高速度に応じて定められていますが、その最高速度は、

 一部の大型自動車や他の車両を牽引している自動車のように、車両の区分等によって異なる最高速度が定められている場合には、当該自動車に適用される最高速度
 天候や道路状況等によって一時的に平常時とは異なる最高速度が定められている場合には、当該状況において適用される最高速度
がそれぞれ用いられることとなり、

 原動機付自転車については、普通自動二輪車に適用される最高速度
が適用されることとなります。

  
Q12  数値基準を満たす高速度で自動車を運転する行為は、追越しや高速道路での合流などのために加速したことによるものであっても、危険運転致死傷罪の対象となるのですか。
    
A12 数値基準は、最高速度を相当程度超過した速度としており、道路・交通の状況には様々なものがあることなどを踏まえてもなお、その速度以上の速度で自動車を運転する行為には一律に危険運転致死傷罪として処罰すべき高い危険性や悪質性が認められる速度です。
 したがって、数値基準を満たす高速度で自動車を運転する行為は、追越しや高速道路での合流などのために加速したことによるものであっても、危険運転致死傷罪の対象となります。

 
Q13  数値基準に満たない速度で自動車を運転した場合には、危険運転致死傷罪に問われることはないのですか。
    
A13 改正法では、数値基準に満たない速度での自動車の運転行為であっても個別具体的な事情に照らし、数値基準を満たす高速度での運転行為と同様に、道路・交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難であると認められるものについては、危険運転致死傷罪により処罰し得るようにするための要件を設けており、具体的には、

 数値基準に準ずる速度であって、「道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」で自動車を運転する行為
は危険運転致死傷罪の対象となります。
 また、改正後も
〇 「進行を制御することが困難な高速度」で自動車を走行させる行為(※)
は、引き続き、危険運転致死傷罪の対象となります。
 さらに、危険運転致死傷罪が成立しない場合であっても、最高速度を超過する速度で自動車を運転し、人を死傷させた場合には、過失運転致死傷罪(法定刑:7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)が成立し得るほか、道路交通法上の最高速度違反の罪(法定刑:6月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金)が成立し得ます。
(※)「進行を制御することが困難な高速度」とは、一般に、「速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な速度」を意味し、具体的には、例えば、カーブを曲がりきれないような高速度で自車を走行させるなど、そのような速度での走行を続ければ、道路の状況や車両の構造・性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることとなると認められる速度をいいます。

 
Q14  数値基準に「準ずる」速度とは、どのような速度ですか。また、「道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」とは、どのような速度ですか。
    
A14 
「準ずる」とは、数値基準として定められた速度と同程度のものといえることを意味し、少なくとも、数値基準を10キロメートル毎時以上下回る速度は、これには当たりません。
  「道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」とは、道路の形状や路面の状況、歩行者や他の車両の交通量等に応じて、人の死傷結果が生じるような事故を生じさせないようにすることが著しく困難な高速度のことをいいます。
  「道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」に該当するか否かは、飽くまで個別具体的な道路や交通の状況に照らして判断されることとなりますが、例えば、

 最高速度が時速40キロメートルの道路を数値基準に準ずる速度で走行中、路面凍結の影響でブレーキ又はハンドルの操作を的確に行うことができず、右折しようとする対向車に衝突した場合
には、路面の凍結状況を踏まえてそもそも最高速度が低く定められているような場合を除き、この要件に該当し得ると考えられます。
 また、

 時速30キロメートルの最高速度が定められている道路において、多くの児童が下校している中を、数値基準に準ずる速度で走行し、歩行中の児童に衝突した場合
にも、この要件に該当し得ると考えられます。
 他方で、走行速度が数値基準に準ずるものである場合であっても、例えば、

 夜間に、車両の通行量がほとんどない、最高速度が時速60キロメートルの道路を走行中、信号機のない交差点において、左方から進行してきた車両と衝突した場合
などには、この要件の該当性が否定され得ると考えられます。


  〔殊更滑走等類型について〕 
Q15  改正後の法第2条第6号は、具体的にどのような行為を危険運転致死傷罪の対象とするものですか。
    
A15 改正後の法第2条第6号は、公道上において、車体を横滑りさせながらカーブを曲がったり二輪車の前輪を浮かせて後輪だけで走行するなどの行為を、やむを得ない事情がないのに意図的に行う行為を危険運転致死傷罪の対象とするものです。