検索

検索

×閉じる

途上国の法整備支援


ミャンマー連邦共和国派遣検事
経歴
 平成21年に任官後,東京,大阪,水戸,名古屋,富山の各地方検察庁に勤務。
 その他,法務総合研究所で勤務,ミャンマー連邦共和国に派遣。

アジア諸国に対する法整備支援の仕事

 「アジア諸国に対する法整備支援の仕事」
 皆さんは,検事にも国際協力をする仕事があるって知っていますか?
 私は,現在,検事任官11年目ですが,法務省での約2年間の国際協力業務を経て,東南アジアにあるミャンマー連邦共和国の首都ネピドーに駐在して,「法整備支援」に携わるJICAプロジェクトの長期派遣専門家(チーフアドバイザー)として国際協力の仕事をしています。(JICA=独立行政法人国際協力機構)
 ミャンマーでの国際協力や法整備支援と聞いて,私が外国で実際にどのような仕事をしているか想像できるでしょうか。
 「JICA長期派遣専門家」とは,JICAが途上国等で実施する様々な技術支援プロジェクトを現場で実行するために,支援対象国に数年単位で駐在する日本人専門家です。技術支援を行う分野は,橋や道路の建設,病院や医療体制の改善,金融システムの構築など多岐にわたります。
 JICA法整備支援プロジェクトは,日本国内外の関係者と協力して,支援対象国の法律や司法制度の問題点を洗い出し,その国の政府機関とともに協議し,問題点を改善するための技術支援を行うものです。法務省は,ミャンマー以外にもベトナム,ラオス,カンボジア,インドネシアなどアジアの国々を中心に法整備支援をサポートし,現地に検事を派遣しています。
 ミャンマーでのプロジェクトのメンバーは,チーフアドバイザーで検事の私と,裁判官,弁護士,業務調整担当の合計4名の日本人専門家のほか,現地のミャンマー人スタッフ3名を雇用して英語やミャンマー語-日本語通訳を介しながら協力して活動しています。
 私は,チーフアドバイザーとしてプロジェクト全体を統括する立場にあり,ミャンマーにおける法の支配の貫徹や投資環境整備,司法に携わる人材の育成といったプロジェクト目標に向かって,日々,ミャンマー連邦最高裁や連邦法務長官府の職員,他の国際援助機関,日本の法務省や外務省,日本国大使館など様々な人とともに活動しています。
 ここミャンマーは多民族国家であることに加え,イギリス植民地時代,社会主義体制時代,軍政時代,そして民主化した現在とその歴史上様々な体制移行があり,それらの影響もあって法律のわかりにくさや,時代の異なる法律相互の矛盾,裁判以外の紛争解決手段の乏しさなど,法制度上も様々な問題を抱えてしまっています。
 そこで,私たちのプロジェクトは,少しずつでもミャンマーの法や司法制度が良くなるよう,省庁が法律を作る際のガイドラインの普及活動や,民事調停制度の導入,知的財産をはじめとする商業裁判制度等の導入のほか,関係機関の研修内容の改善など人材育成に協力しています。
 このような国際協力の仕事は,刑事法のみならず民事法や経済法,知財法など様々な分野に及び,一般的な検事としての業務経験が活かされるのか疑問に思われる方もいるかもしれません。しかし,一言で言うと法科大学院での学習経験や,検事としての業務経験が国際協力での様々な場面で役立っていると感じています。
 検事の仕事は,多くの刑事事件の捜査・公判を通じて,警察等の関係機関と連携しつつ,発想や思考を巡らせて多くの問題を解決しながら進めることが基本です。その際の思考力の基礎は特に法科大学院時代や司法修習時代の法律や判例の勉強を通じて自然と培ったものだと思います。
 私のミャンマーでの主な仕事は,支援対象国の法制度上の多岐にわたる課題について,それに関係する機関や人々と協力し,適切な解決方法やその実現プロセスを考え,実行するというものです。文化や言葉の違いなど国際協力特有の困難さもありますが,省庁をはじめとする組織と協力し,多様な思考を巡らせて適切な解決方法やそのための実現プロセスを考えるという仕事は,学生時代の苦労や検事任官後の業務を通じて得た経験が活かされていると実感していますし,文化や言葉の違いは仕事をする上でも,日常生活でも楽しみの一つです。
 新型コロナウィルスの影響で国際的な往来が以前より縮小していても,世界全体の持続的な発展のためには,国際協力の仕事がなくなることはなく,むしろ途上国に対する支援の必要性は増してきていると感じています。
 法整備支援の仕事は,相手国の制度設計や運用というその国の国民全体に関わるとてもやりがいのある仕事です。これを読んでくださった検事を志す皆さんも,検事としての経験やご自身の人生経験のすべてを法整備支援の仕事に活かしてみませんか。