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経済安全保障シンポジウムにおける米連邦捜査局(FBI)法務官による基調講演について(令和4年6月2日)

2022年7月5日 更新


 
「経済安全保障の促進と知的財産の保護ー米国政府全体の取組におけるFBIの役割」

(仮訳)
〈経済安全保障の推進に向けたFBIの役割〉
 FBIは、1908年に司法省内に設置された法執行・情報機関であり、米国全土で捜査、活動する権限を持つ。
   FBIは、インテリジェンスを収集し、重要な問題について啓発するため、政府機関、国民、アカデミア、民間セクターに対して情報を共有する。FBIや司法省が発するプレスリリースも、注意を喚起し技術流出を防ぐための重要なツールである。昨夏以来発出しているロシアのサイバー攻撃に関するプレスリリースは、FBIが政府や大学、企業に同攻撃から身を守ることに資する情報を提供した一例である。
   情報提供のため、FBIはSNSも活用しているほか、YouTubeでの動画公開も行っている。経済安全保障に関しては、「Game of Pawns」、「The Company Man」、「The Nevernight Connection」など複数の動画を公開しているが、  数か月前に公開した最新の動画「Made In Beijing: The Plan for Global Market Domination」は、これまでの動画と異なり、実際の被害者や捜査官のインタビューを交えている。この動画を見れば、中国政府が多種多様な産業を標的とし、法や国際的な基準を気にしていないことが分かる。
   中国共産党は、過去数十年に渡り、複数の「5か年計画」を策定している。最新の第14次計画において、中国共産党は、イノベーションと発展は経済成長のためのみならず、技術的な自立、国家安全保障、そして国際的影響力のために重要であると強調した。
   第14次5か年計画は、中国共産党の「中国製造2025」計画の戦略に基づいている。同戦略において、中国共産党にとっての10の重要産業が示されている。それは、  海洋建設機械・ハイテク船舶、先進軌道交通設備、農業用機械設備、電力設備、先端デジタル制御工作機械・ロボット、次世代情報通信技術、航空・宇宙設備、省エネ・新エネルギー自動車、バイオ医薬・高性能医療器械、新素材である。
   これらの分野で中国と協力することを事業拡大の好機とみる者もいるかもしれないが、「Made in Beijing」の動画は、短期的な利益が長期的な目標を大きく損ない得るという4つの明確な例を示している。
   電力設備産業においては、風力タービン用のハードウェア・ソフトウェアを製造していたある米国の超伝導体関連企業が中国の技術窃取により大打撃を受けた。省エネ・新エネルギー自動車分野については、中国とジョイント・ベンチャーを設立した米国のエネルギー・化学企業が、どのようにして大量の知財窃取にあったかということを示している。海洋建設機械・ハイテク船舶分野については、シンタクチックフォーム(合成複合材料)製造の先駆けであった米国企業が中国によって技術を盗まれた。バイオ医薬・高性能医療器械分野では、中国のエージェントが米国の農場から遺伝子組み換え種子を文字通り盗み去った。
   日本は、半導体製造、AI開発、長寿命の車用バッテリーなど、幾つかの先端技術分野でリーダーを務める。もし皆さんが、これら産業に関与しているのであれば、可能な限り積極的に技術を保護する重要性について無視することはできない。内部脅威と外部からのネットワーク・ハッキングの両面から技術を守ることについて投資をしなければ、皆さんの技術を無料で中国共産党に与えることになりかねない。
   動画の中で、1人の被害者が明確に述べている。「二つのタイプの企業がある。ハッキングされ、侵入されている企業と、ハッキングや侵入に気付いていない企業だ。」。  この考え方を皆さんの企業、大学、機関の経済安全保障に当てはめると、皆さんは自らの弱点、脆弱性、あるいは既に被害にあっている証拠を見つけなければならないと思うだろう。願わくば、それはまた、皆さんの知財、重要技術、機微なデータを守るための全ての必要な措置をとることにつながるだろう。こうした防御的でありながら攻撃的な姿勢によって、皆さんの企業内で働いている者、しばしば「内部脅威」と言われる者、から受ける脅威から自身を守るための適切な措置をとることになる。また、システムを監視して侵入の兆候を見つつ、コンピューター・ネットワークを強固にするための全てのことをするだろう。    
   
〈FBI、民間企業、アカデミアのパートナーシップの重要性〉
 技術流出の脅威に対抗するための強力なパートナーシップ形成の重要性に話題を変えたい。それは1人ではなし得ない。我々には経済安全保障を確保するために強力なパートナーシップが必要である。
   我々は、FBI内にOffice of Private Sectorとして知られる非常に重要な部署を設置している。同部署の主眼は、FBI、企業、アカデミアにおける強力な信頼関係及び相互に有益な支援体制を構築することにある。我々-政府、民間企業、アカデミア-は、パートナーとして共同で取り組む必要がある。FBIのOffice of Private Sectorは経済安全保障及び国家安全保障の確保に向けて、戦略的なパートナーシップを構築、強化、支援している。
   FBIのレイ長官は、これらの主要なパートナーに言及した最近のスピーチで、「経済スパイがFBIのカウンターインテリジェンスプログラムの主要な部分を占めている。これは、これまで以上に敵があなたの資産、アイデア、イノベーション、研究開発、技術を標的にしていることを意味する。民間部門で活動する皆様は今後、一層頻繁に、一層切実に、こうした問題に直面することになるだろう。」と述べた。また、レイ長官は続けて、「企業はFBIと、双方が懸念又は直面する脅威情報を共有すればするほど、共同防衛に向けて相互に良い影響を与えることができる。」と述べた。
   民間部門は、発展と繁栄に向けた米国のエンジンである。経済安全保障は国家の安全保障に大きな影響を与えるため、事業の成功は、成長をもたらし、雇用を創出し、経済の強靱さと安定を促進する。Office of Private Sectorは、民間部門が直面する新たな脅威に対処するため、FBIが専門家と産業界のリーダーをつなぐ機能を果たしている。
   Office of Private Sectorは、民間部門とFBI間における双方向の情報共有を容易にし、民間企業に適切なタイミングで適切なFBIの分析プロダクトを提供している。我々は、こうした関係を容易にするツールを展開し、情報共有のための機会を創出している。
   こうした連携は民間部門に限らない。FBIは、アカデミアともこうした重要な関係を構築している。約100億ドルの予算と15万2,000人以上の学生を有する米国最大の高等教育システムの一つについて言えば、ある大学の総長は、FBIとの連携について、「我々はFBIと定期的に連絡を取り、連携している。FBIが米国の安全保障上脅威だった海外の研究所を特定した。そのタイムリーな情報によって、我々は同研究所との関係を終わらせることができた。また、FBIは我々の幹部に対して、全ての研究の安全を確保するために極めて重要なブリーフィングを定期的に行っている。それは、当大学の安全保障にとって非常に価値あるものである。」と述べている。
   FBIが米国で、しばしば"Fortune 1000 companies"と呼ばれる多くの成功企業に所属するセキュリティ担当幹部と形成している公式な連携枠組みの一つについてお話ししたい。このパートナーシップは、Domestic Security Alliance Council又はDSACと呼ばれ、FBIが米国のビジネス界との重点的な関係を構築する機会となっている。DSACは、FBI、国土安全保障省及び民間部門間のセキュリティ及び情報共有イニシアティブである。DSACは2005年に創設され、米国のビジネス、経済・国家の安全保障に影響を与える脅威の阻止、発見、捜査を補助するため、FBIと参加メンバー間の効果的な双方向の情報伝達を可能にしている。DSACメンバーには我が国の最も尊敬すべき企業が複数社含まれる。
   皆さんはコカコーラを御存じであると思うが、同社もDSACのメンバー企業である。最近のインタビューで、同社のKelly Johnstone副社長兼最高セキュリティ責任者は、「我々は世界200か国以上で事業を行っているが、どこにいても常にFBIに連絡することができる。私は、直面するどんな脅威に関しても、常にFBIから助けを得ることができる。彼らと協同することや、彼らの業界・脅威に関する知識は、継続的な情勢の把握に極めて有益である。」と述べた。
   我々の組織は強力な民間部門とのパートナーシップから非常に多くのものを得ている。民間部門は、我々が連邦政府にいて見ることのできるものとは異なる様々なアクセス及びアウトリーチが可能である。我々が経済安全保障の確保に向けて努力している中で、民間部門の信頼は非常に有益である。彼らはより大きな構図を見る手助けをしてくれる。他方、我々独自のアクセス及び分析は民間部門が自らを守る一助となっている。我々は真に助け合っている。
   DSACよりも古い"InfraGard"として知られるプログラムについても言及したい。1996年、民間部門と政府当局者の小グループが、サイバー空間上の脅威の特定に向けてFBIのクリーブランドオフィスと共に取組を開始した。FBIは、パートナーの施設及びコンピュータネットワークの安全確保を支援するため、サイバー空間上の不正侵入や犯罪の傾向について、把握している情報をパートナーに伝達した。他方、我々のパートナーは、情報技術の専門知識やサイバー犯罪の可能性に関する情報をFBIに共有してくれた。  同小グループは、公益事業会社、輸送システム、電気通信ネットワーク、水・食品供給会社、公衆衛生、金融サービスのような重要インフラ事業の保護に焦点を当てていたことから"InfraGard"として知られるようになった。
   オリジナルのプログラムが大きな成功を収めたので、我々はそれを国家版として再現した。そして、サイバー空間上の脅威が過去25年以上の間に大きくなったのと同様に、"InfraGard"も拡大した。今日、"InfraGard"は、民間部門、政府及びアカデミアを代表する7万5,000人以上のメンバーを擁するほどに成長し、対象分野は発足当初のサイバー犯罪だけでなく、テロリズム、諜報、犯罪、安全保障に及んでいる。  今日の脅威はより複雑になっているが、任務は変わらない。"InfraGard"は、FBIがパートナーシップを通じて米国の重要インフラ部門を守る一助になっている。
   パートナーシップは非常に重要であり、米国内56か所の主要な現場全てで、Private Sector Coordinatorが常駐している。その役割は、企業の懸念を聞くこと、リスク特定の手助けをすること、そして、パートナーシップを通じてそのリスクを軽減することである。
   今日、私がこの会場で目にしているのは、FBIが米国で有益かつ効果的と認識している、政府、民間企業及びアカデミア間における"whole of society"連携の一種であり、このシンポジウムに参加しているリーダーの皆様には、こうした取組の継続を奨励したい。認識を高め、経済の保護及び経済安全保障の促進の最前線にいる社会の様々なセクターとの対話を増やしてほしい。また、私が説明したような正式なパートナーシップの創設も奨励したい。
 
〈中国共産党について〉
 私は今日、技術及び重要な知的財産を窃取する幾つかの国及びその試みについて話をしているが、甘い考えはやめるべきだ。今日、我々の経済安全保障にとって、中国政府が最大の脅威である。もちろん、中国人ではなく、中国共産党である。中国共産党の野心は明白である。実際、彼らは5か年計画を発表し、成長・強化を望む産業や技術を説明している。問題は、彼らは何があっても他国から最新の技術を盗むことをやめないということである。中国政府は、無慈悲で容赦ない経済スパイの方針を継続する意思、その人材及び能力を有している。
   FBIのレイ長官は今年始め、先代のFBI長官と同様にはっきりと、かつ率直に以下のとおり述べた。  「我々がカウンターインテリジェンスの観点から国として直面している最大の脅威は、中華人民共和国、特に中国共産党由来のものである。現在、ロシアの諜報機関やイラン、北朝鮮のような国も明らかに我々の懸念の対象であるが、中国ほど広範に、我々のアイデアやイノベーション、経済安全保障に対して重大な脅威を示す国はない。そして、彼らは歴史上前例のない規模で、我々のイノベーション、営業秘密、知的財産を標的としている。サイバー分野では、ほかの全ての主要国を組み合わせたものよりも大きなハッキングプログラムを持っており、あらゆる国を組み合わせたものよりも多くの米国の個人及び企業データを窃取している。そして、彼らは保有するあらゆるツールを使って個人や企業データを狙っている。彼らは、世界最大のハッキングプログラムを通じてサイバー上の手段を行使しているほか、企業や組織内の腐敗した内通者や、名ばかりのジョイントベンチャー、詐欺会社の取引を通じた手段も用いている。これが手法の全体像であり、中国政府の窃盗キャンペーンの標的は、大都市から地方にまで及ぶ。また、トップ100社から小さなスタートアップ企業にまで、農業から航空、ハイテク、ヘルスケアなど、経済のあらゆるセクターに影響が及ぶ。業界を刺激するものは何でも彼らの標的となる。」
   FBIは、米国の安全保障や経済権益を標的とした中国政府の悪意ある活動に関する新たな捜査を毎日のように行っている。日本ではどうだろう。もし皆さんが気付いていない、又は懸念していないのであれば、こうした米国での出来事が注意喚起となることを願っている。経済大国としての世界における日本の立ち位置及び米国と日本の特別な関係を考慮すれば、皆さんの企業、大学、知的財産、研究、革新技術、営業秘密、従業員-高度に熟練した者又はその他の者-、は全て標的となっている、又は潜在的に標的となり得ることを保証できる。

〈提言〉
 標的となっている産業・情報、技術・知的財産の窃取に用いられる手法、内部脅威の脆弱性・指標・軽減策等について説明 (注:詳細に関心がある企業・大学等の方は公安調査庁の経済安全保障相談窓口まで御連絡ください)。
   私のプレゼンテーションを通じて、皆さんに参考となる有益なものを見つけていただいたこと、そして、皆さんの価値ある技術や営業秘密、知的財産、機微データの保護が成功することを願っている。米国内におけるFBIの成功事例を聞くことで、皆さん自身を守るための着想につながると幸いである。経済安全保障の促進を継続するためにやるべきことは依然として多数ある。技術漏えいを阻止するために、我々は相互に有益なパートナーシップを形成しなければならない。こうしたFBIの事例が、皆さん自身の信頼関係を形成する上で実施可能なアイデアにつながることを願っている。

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