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行刑改革会議 第1分科会 第3回会議

日時: 平成15年9月29日(月)
    14時05分~16時55分
場所: 法務省矯正局会議室(14階)



午後2時05分 開会


〇宮澤(浩)会長 それでは,第1分科会のきょうは3回目の議事ということになると思います。前回欠席された菊田委員から後で自分の御意見をそれぞれなりに補足されても結構ですし,全体にわたった御意見でも結構ですし,またそのときに今回視察をされたアメリカの状況なども織り込んでお話しいただければ,ためになるのではないかと思いますので,どうぞ御遠慮なく適宜ひとつ御発言ください。
○富山調査官 まず,お手元にお配りしております資料の確認からさせていただきます。
 本日の配席図が,まず1枚物がお配りされていると思います。それから,本日第3回の議事次第という1枚物のペーパーがあるかと思います。本日は,ここに書いてあるような形の議事を予定しているということでございますので,よろしくお願いいたします。そのほか配付資料といたしまして,「動作要領の状況等」というのが1枚目になっております。全部で14枚物の資料がお手元にあるかと存じます。右下の方にページ番号が手書きで1~14まで振ってある資料でございます。第1分科会の本日の配付資料は以上でございますが,それ以外に前回の各分科会,第1分科会も含めまして各分科会の議事概要もお手元に配ってあるかと存じます。他の分科会の議事の概要も配った方がいいという御意見を何名かの委員の方からちょうだいいたしまして,お手元に配付してございます。第1分科会の議事概要につきましては,別添の配付資料は前回お配り済みですので,それは省略してございまして,2枚物のペーパーで議事概要がお配りしてあります。

1.前回の議事概要の報告

(1)前回の議事について

○富山調査官 まずは,「前回の議事概要の報告」ということで,お手元にあります「第1分会の第2回会議議事概要」という2枚物のペーパーに基づきまして,2枚物の薄いペーパーになっております,添付資料は前回お配りしたものであるということで省略しておるかと思います。そちらに基づきまして,前回こんな議事概要であったということを簡単に私の方で取りまとめましたので,御紹介させていただきたいと思います。
 前回ですが,「会議経過5」と書いてある部分から御説明いたしますが,当初はスケジュール等について細かな修正等を施したものを御説明しまして,修正案どおりということで了承いただきました。その後個別の論点に関して,当局の方からプレゼンテーションをいたしました。その際には,当日欠席なさいました菊田委員からも意見書が出ているということで御紹介させていただきました。
 その後意見交換が行われたわけですが,各論点に関連して出た主な意見ということを事務局の方で取りまとめさせていただきました。
 まず処遇困難者の処遇につきましてですが,いわゆるキレる人などがふえているのではないか。そういう人を類別して別の処遇ができないか。処遇困難者を一つのグループとして定義づける必要がある。やはり薬物中毒などに起因する精神障害者や,そういった医学的分類には入らないが,いわゆる性格異常者などが該当するのではないだろうか。当局のプレゼンの中で出てきた外国人受刑者は,言葉や文化の違いにより意思疎通は難しいであろうが,全員が処遇困難者ということはないであろう。あと,暴力団関係者はどうなのだろうかというような意見が出されております。
 また,処遇困難者にまで毎日8時間作業をさせる,これは無理があるのではないか。もっと特化した処遇を考えなくてよいのか。今の刑法の規定を前提にしながら,1週40時間の刑務作業にこだわらずにできる処遇のやり方を考えることはできないのか。
 自由刑の目的というのは,社会からの隔離と改善更生であって,作業は改善更生の一つの道具であるのではないか。そのためには,1週40時間などと区切るのは最後の話であって,そのようにできない人には作業を1時間,あとはカウンセリングでもいいのではないか。またその作業の内容についても,産業廃棄物の分別など社会に貢献をさせるなど,現代にマッチした内容の意味のあるものに変えていって,受刑者にもプライドを感じさせることが必要ではないのか。
 また,国家から見れば,安全の確保という視点が出てきているのではないか。役務などという生産性の悪いことはある意味どうでもいいのだ。まじめに働こう,薬をやめようという気持ちにできる,そういう処遇ができればいいのではないか。そういったような御意見が主なところで出ていたかと思います。
 次に,処遇の基本原則について。まず累進処遇は余りにも中身が古い。今の生活パターンに合うような優遇制度をつくることとすべきではないのか。累進処遇の恩典として,花卉と書画などというものがあるけれども,今の若者には合わないのではないか。本当にインセンティブとなるものを考えるべきである。例えばまじめに服役していれば早く出所できるというようなことになれば,そういったことは大きなインセンティブになるのではないのか。
 また,分類の話に入りまして,覚せい剤の受刑者の教育をするというような収容分類,処遇分類が必要ではないのか。今までは犯罪別の分類というのはしていなかったようだけれども,それを考えたらどうか。特に男子の受刑者の4分の1,女子の受刑者の半分が覚せい剤事犯者であるならば,そういった者に焦点を合わせた処遇が要るのではないか。旧来的な分類にとらわれる必要はないのではないか。また,常習的に幼児に性犯罪を繰り返すような者から社会を防衛するというコンセプトも必要ではないか。ただし,それは矯正の理念が後戻りするものではないということは,もちろんはっきり明示しなければならない。
 分類処遇だけではなくて,もちろんそれに対応した施設や専門家の要請もセットで提言をしなければならない。そういった者を収容する特別な刑務所をつくるか,幾つかの刑務所にそういう者を重点的に収容する区画を設けて,薬物濫用者などの処遇技術を擁した職員を研修して育てていくことも必要。また矯正施設の職員だけではなくて,民間人の活用も当然考えていかなければならない。
 そして3点目の民間人等の活用ですが,民間活力の導入は,後ろ向きの議論をするのではなくて,これを推進する方向で意見をまとめなければならない。またどのような処遇をするかが固まってくれば,おのずと民間活力を導入できる範囲も見えてくるのではないか。更に,心理学,社会学,教育学などの専門性を有する人たちを処遇に入れた民間活用も必要であろう。また少年院や少年鑑別所の職員にも,こういった専門性を有する人が多いので,部内での交流ももっと活発に行うことが望ましいのではないか。
 あくまでも事務局の方での取りまとめではございますが,おおむね前回このような御意見が出て審議をいただいたというふうに考えております。以上でございます。
〇宮澤(浩)会長 私の記憶では,大体皆さんの間で出た御意見がまとまっていると思うのですが,どうでしょう,菊田委員。何かこの点問題があるとか,あるいはもうちょっとこれではどうだとかいうようなもし御発言があれば,まず御発言をお願いします。刑法の条文を変えないということで,そしてこの議論でうまく施設内処遇のあるべき方向性を打ち出すというのはなかなか難しいので,前回の,作業という言葉にこだわらないとしても,その言葉を避けるわけにもいかないし,なかなか難しいなというようなことを議論しましたけれども。
○菊田委員 これは,刑務作業の何十時間ということは,懲役そのものとは関係ないんですね,基本的にはね。
〇宮澤(浩)会長 そういうことというふうに我々の間では了解したのです。そういう40時間にして5で割って1日8時間というようなことを形式的に全員にやったって,作業に適しない者をどうしたらいいかとか,それから必ずしも作業でなくたって立ち直れるというような人にわざわざ作業をやらせる必要はないだろうとか,そういう御意見が多い。
 それと,もしかすると菊田委員から,この処遇困難者というレッテル張りはやめた方がいいんじゃないかという御意見が出るのではないかというようなこともちょっと。
○菊田委員 意見書で,ちょっとそういうのを出させていただいたのですけれども。
〇宮澤(浩)会長 ただ現実問題として,乗りにくいのが多分かなりいると。
○菊田委員 いるんですよね。いることはいるのですから,それはまあ,理屈はともかく現実にいるわけですから。
〇宮澤(浩)会長 性格が偏っていて,いわゆる医療刑務所の対象ではないけれども,それがいることによってその施設に相当困難を招くような者が少なからずいますからね。
○井嶋委員 これがまた一時的な傾向ではなくて,何かずっと10年,20年統計を見ていっても,そういう者がやはり多いというのは,やはり何か一つの社会の実像,実相のあらわれなのだと思うのですね。だから,やはり長期的に見てそれに対する対策というものを考えないと,応急的なものではやはり間に合わない対象者だろうという気はするのですけれども。薬物なんかも,もう昔からやっていて,何回やってもやはり抑えられない。これはやはり一つ社会の必要悪だと,こう考えざるを得ないのだろう。となると,やはりこれも長いスパンで対応するということにならざるを得ない。
○滝鼻委員 薬物の問題については,必ずしも罪名から来るだけではなくて,薬物にも2種類あって,自分自身は,被収容者自身は全然薬物に何も汚染されていないのだけれども,それで金もうけしたとか,密輸入したとか,あるいは販売したとかいう,そういう人はいる。こういうのは,多分処遇困難じゃないんだと思うのです,多分。そうではなくて,大半の人はやはり薬物によって自分の精神状態とか肉体とか,そういうものがぼろぼろになって,ああいう形になってしまうという。数字としては,そっちの方が多いのでしょう,やはり。
○井嶋委員 そうですね。その覚せい剤の中でね。前回覚せい剤という形で僕は2分の1だとか4分の1だとかという数を紹介したのですが,実質は正におっしゃるとおり,薬による中毒によって精神的,身体的な影響が出ている者と,そうでない常人とをやはり比較した,分別した処遇が必要だろう。
○滝鼻委員 所持罪というのはあるのだろうけれども,それプラス本犯みたいなのがあるわけでしょう,多分。殺人とか,それから暴行だとか傷害だとか,強姦だとか。
○井嶋委員 ですから,罪名ではなくて,このまとめにもあるように薬物中毒者という,逆に言えばシンナーなんかでも相当中毒の進んだ者はどうしようもないですから。
○滝鼻委員 シンナーと,それからもっと覚せい剤より強い薬物がありますからね。コカインとかね。
○井嶋委員 アルコールは当然ありますしね。やはりそういうものを含めた類型として考えるのがいいのかもしれないですね。
〇宮澤(浩)会長 それと,どうでしょうか,薬物で金もうけしている者の中には,相当暴力団系のもいるんでしょう。
○富山調査官 もちろんおります。
○滝鼻委員 ほとんどダブっているんでしょうね。
〇宮澤(浩)会長 でしょうね。そうすると,彼らは施設内で幾らよくなってももとへ戻れば組へ戻るのでしょうからね。
○滝鼻委員 ただ,処遇という面では,余り問題点は抱えていないのかもしれませんね。
○井嶋委員 処遇困難な人たちではないのかもしれませんね。
○滝鼻委員 ただ,改善更生という点では,それは再犯率高いのですから。
○井嶋委員 それは期待可能性はないと。
〇宮澤(浩)会長 よく女子の受刑者が,そういう人が多いということを言いますよね。戻ると男が待っていて,また。だから,施設内では改善するんだけれども,戻っていくと帰る先はその男のところしかないというような,そういう。よく更生保護会の施設の人と話をすると,更生保護施設で薬物から身を守れというような訓練をして,それが成果を上げているんだと彼らは言いますがね。
○井嶋委員 言いますね。そういう人もいるけど。
〇宮澤(浩)会長 そういうのは少しは取り入れられならないのかなと。
○菊田委員 前回見ますと,累進処遇のところでははっきりまだ結論が出ていないというような印象を受けますけれども。つまり,刑事施設法案の段階では累進処遇はもう廃止するという一応の結論になっているようですけれども,やはりそれをある程度方向づけることによって,今おっしゃっているような個別的な処遇という方向に移動できるわけでして,逆に累進処遇があるためにそういうことができないというようなのが現状ですよね。ですから,理想としては規則に違反を度々するような者は,それ相当のやはり厳格な隔離もしていくという,そういう方向に行かないとやはり秩序は保てないということになるのでしょうから,その前提としては今のところは累進処遇といっても処遇困難であるのないのも初めから入ったときは厳しくやるという,そういう形になっていますからね。そこのところは,やはり基本的な問題ではないかと思いますけれども。
〇宮澤(浩)会長 私も含めて前回4人の方で,累進処遇は結構な制度だから残すべきというような意見ではなかったような気がするのですけれども。隊長さんとなるには初めは二等兵という,ああいう発想はもうやめた方がいいのではないかと。やはり,その人に合ったような,最初から開放処遇がもし適当な人がいれば,それはそれでもいいだろうというようなことで,累進という発想が,最初がみんな第一,スタートラインが用意ドンで,その発想はやめた方がいいというのは,大体皆一致していたと思います。
○菊田委員 結論として。
○井嶋委員 ただ何かインセンティブになるものを入れたものが必要だろうということは分かるなとなりました。
〇宮澤(浩)会長 やはりあめとむちではないけれども。
○菊田委員 やはり規則に違反すれば,だんだん厳しくする。しかしちゃんとまじめにやっていれば緩やかにすると。それが一番合理的だと思うのですよ。受刑者にとっても納得できるという。
○井嶋委員 中身まではまだ議論はしなかったのですが,発想はそういうことでした。
○菊田委員 その方が,刑務官も非常にやりいいと思うのです。お互いに納得できますから。
○井嶋委員 前回段階的処遇の資料なんかも若干。
〇宮澤(浩)会長 前回の監獄法改正のときに,こういう発想で処遇,いわゆる累進とどういうふうに違うのかというような比較の資料などもありました。もちろん,菊田委員には差し上げたのですね。
○富山調査官 前回の議事資料ということで,中にとじてあると思うのですが。
〇宮澤(浩)会長 あと,やはり前回の僕はいい議論だったなと思うのは,部内の中でそういう専門家を刑務所へもう少しシフトして,そしてやはり処遇という観点からそういう専門家の意見がフレキシブルに入るような,そういうのは大事なのではないか。もちろん,少年院や鑑別所の人に来たくないと言われてはそれまでだろうけれども,でもそういうのを制度として置いておいた方がいいでしょうね,事実上やってくださいというよりも。
○菊田委員 実際は,少年院,鑑別所からかなり刑務所へ人事異動はあるようです,現在でも。
○富山調査官 ある程度の人事異動はやっております。
〇宮澤(浩)会長 管理職的な人じゃないの。
○富山調査官 管理職ももちろんなんですけれども,例えば少年院勤務経験がある法務教官が行刑の教育部門に来るとか,あるいは鑑別所勤務経験のある技官が行刑の分類の方に来るとか,そういう形の人事異動は現実にございます。
〇宮澤(浩)会長 全部どの刑務所でもそういう人が動くというよりも,むしろそういう貴重な人材なんだから,どちらかというとそういう知識が生かせるような,例えば少年刑務所というのが今八つありますが,あるいは例の分類センター的な八つの刑務所に重点的にそういう人が行くというようなことはないのですか。
○富山調査官 少なくとも,心理技官に関しては分類センターにはかなり重点的に配属されています。
〇宮澤(浩)会長 府中なんかでも。
○富山調査官 府中は分類センターではありませんので。
〇宮澤(浩)会長 だけど,割合にもう一度細かく分類した方がいいような,そういうのが大分いるのではないかなという意味で。
○富山調査官 もちろん大きな施設ですから心理技官は配置されていますけれども,施設の規模の割にはいかがでしょうか,そこはちょっと何とも今正確なデータは持っておりませんけれども。
○井嶋委員 提言している管理者の活用というのは,現場で,直接処遇を担当する人の中にという趣旨が入っているのでね。
〇宮澤(浩)会長 どうでしょうか。菊田委員,別にまた後でも大いに発言していただきたいのですが,とりあえず前回についての御紹介を終えたということで,きょうのこの(2)の刑務所の規律に関する部分について御説明いただいて,それで議論をするというふうに進んでよろしいですね。
○菊田委員 はい。
〇宮澤(浩)会長 では,そういうことでお願いいたします。

(2)刑務所の規律等,懲罰

○富山調査官 それでは,お手元にあります14枚物の資料に基づきまして,御説明をさせていただきます。本日御審議いただきますのは,規律と懲罰ということで,大きく分けますと規律に関すること,それから懲罰制度に関することと,懲罰の手続に関することと,三つに分けてプレゼンテーションをさせていただきたいと思います。
 まず規律に関することですが,資料に入る前に口頭で規律や秩序を維持することについての意義というようなものを簡単に御説明させていただきたいと思います。
 行刑施設には,当然のことですが性格や生活歴が全く異なった大勢の収容者が収容されており,集団で生活をしています。こういった場所では,すべての者が安心して生活できる環境というのが当然不可欠です。規律や秩序が乱れますと,強い者が弱い者をいじめたり,あるいは規則違反をするものが横行したり,逃走や殺傷,暴動といった一般社会を不安にさせるような事故が発生して,そういったことが起きた結果,施設本来の使命である身柄の確保ですとか,未決拘禁者であれば罪証の隠滅,受刑者であれば改善更生のための働きかけ,こういったことができなくなるというようなことが起きてしまいます。したがいまして,被収容者の収容を確保して処遇のための適切な環境や安全かつ平穏な共同生活を維持するために,行刑施設の規律,秩序,これを厳正に維持しなければならないと私どもは考えております。
 ところで,お手元にお配りしました資料の1ページ目でございますが,これは「動作要領の状況等」ということで,我が国の行刑施設ではしばしばいろいろなところでも意見が出ておりますが,例えば舎房と工場を往復する際には整列をさせて行進をさせている,あるいは朝と夕に行われます点検という人頭確認の制度があるのですが,その際には部屋の中で決められた位置に整然と座らせて点検をとっているとか,そういった所内において一定の場面においてはこういうふうに行動をしなさいと受刑者を指導しております動作要領というものがございます。この動作要領というのは,一番上の段に書いてありますとおり,収容目的を達成し,規律,秩序を維持し,また管理運営上どうしても協力をしてもらわなければならないそういう制約があるために,収容者に周知をして協力をしてもらっているものでありまして,もちろん保安状況の変化によって適宜内容の見直しは図っているところです。そういった動作要領を行っているわけですが,主に言われている事柄について,以下,若干各論的ではありますけれどもまとめてみたのがこの表でございます。
 まず作業時間中の脇見や私語ですが,これはすべての施設で何らかの制約をしております。これは,一つは危険な機械などを扱っていたりする受刑者について,特に作業に集中させないと事故が起こってしまうおそれがあるということ。それから,それほど危険ではない作業の者についても,作業に一生懸命集中をさせるという意味で,これを行っております。もちろん休憩時間,休息時間には私語は禁止しておりません。
 それから,脇見や私語を行った受刑者は全部が全部懲罰にするのかといえば,決してそんなことはなくて,口頭での注意等を行って,何度注意をしても一向に従わないといった一定の悪質な事案の場合にのみ懲罰の対象としております。
 次に点検時の姿勢ですが,点検というのは間違いなく収容すべき受刑者が本当にいるかどうかということを確認するために朝と晩にそれぞれ行っているわけなのですが,これは部屋で行います。その際には,多くの施設で決められた場所に座って正座か安座で座るようにということを指導しております。このような形にしているのは,一つは居房のドアをあけて点検をとりますので,いきなり立ち上がって飛びかかってこれないような姿勢をとらせるということが一つ。それから,一列に並べて皆職員の方に顔を向けさせていることで,迅速的確に人頭の確認,あるいは顔色などを見て健康状態の確認などができる。そういったために,きちんと座っていてもらう必要があるからです。もちろん,外国人等で正座の習慣がない者ですとか,あるいは足が悪くて正座ができない,そういった者に無理に正座や安座を強制することはありません。その場合には,足を投げ出したり,できる形の姿勢で座っていることを許しております。また,極めて短時間,長くても5分程度で終わるものであります。
 次の,居室における着座位置。部屋にいるときには座っている場所が決まっているというのは,多くの施設でそういったことを行っております。これは,大抵雑居房ですと部屋の真ん中に長机があって,みんながその周りを囲んで座るような形になるのですが,それぞれあなたは一番席,あなたは2番席という定位置が決まっております。そういったことを意味いたします。これは,まず座っている場所をきちんと決めることで,職員が一瞥しただけで動静が把握できるということ。特に,横になって寝てしまうということは,それが体調が悪くて横になっている,あるいはだれかに暴行等を受けて横になっているというようなこと等を見分ける必要がありますので,用がない,横になる理由がないのに横にならないようにということを指導しております。もちろん,体調が悪い,具合が悪いという者は,担当職員がその都度仮横臥ということで横臥を認めて,申出があれば横臥を許しますが,何の理由もないのに昼間から横になりたいということは許していないという取り扱いをしています。座る場所を決めるのは,それも決めておかないと力の強い者が例えばトイレから遠いところに座ってしまうとか,そういったことがありますので,公平になるように施設の方で位置を決めております。
 次の集団行進・整列ですが,これは多くの施設で工場と舎房の行き帰りに整列をさせて,いわゆる行進をさせております。これは,舎房と工場の移動の間というのは,いわば一番保安上危険な状況であります。というのは,外塀以外はその被収容者を隔離するものが何もない状態になります。しかも工場に出る受刑者が全員一斉に動き出しますので,職員数に比してそういう自由な状態に置かれる被収容者が非常に数が多いということがありますので,数少ない職員で人員を確実に確認して的確に移動させるためには,列をつくって行進をさせることが一番合理的であるというのがまず一つの理由です。
 それから,自由に歩かせておきますと,よくやくざ者が肩で風を切って歩くというような動作で,それがまた肩が触れた,足を踏んだというようなことで,けんか等の規律違反行為に派生する可能性もある。そういったことも,きちんと行進をさせていますと基本的に起きないということで,それも行進が行われる理由の一つとなっております。
 あと行進の方法なのですが,一時期は非常に不自然な行進,手を例えば頭の上までこんなふうに上げさせたりするような行進形態をとらせていた施設がありましたが,それは通常やる行進の方法ではないのではないかということで,よくオリンピックなんかの入場行進とか,あるいは小学校なんかでもやるような通常の行進の方法でやるようにということで指導して,今では全施設がそういった形で行っていると思います。行進をやっている施設についてはそういう形で行っていると思います。
 次の裸体検査ですが,これは舎房から工場へ出る際,また工場から舎房に戻る際,これは洋服を着がえます。舎房で着ている服から工場での作業着に着がえるのですが,その着がえる際にいったん全裸にさせて,何か異物などを持っていないかを検査をする裸体検査,これは約半数の施設で実施しております。特にB級の施設で多く実施しております。この裸体検査を行っている理由の一つとしては,着衣のままでは必ずしも十分な検査が行えない場合があるということ。それから,検査の際にはできるだけ他の収容者から見えないようにしています。実際の裸体検身の実施方法というのは,大きな更衣室がありまして真ん中が壁で仕切られております。仕切られている反対側,片側の方では舎房で着ていた衣服を脱ぐ場所。反対側の部屋の方で工場の衣類を着る場所というふうになっております。その仕切られている部屋同士を移る際には,ちょうどドア一個分ぐらいの隙間のあいている場所がありまして,そこを通っていく。その通る際に,正面に職員が立っておりまして,その全裸で通る受刑者を職員が見まして,異物を持っていないかどうか。更に職員の前で大きく口をあけて番号を唱えます。自分の唱呼番号を唱えます。433番とかいう形で番号を唱える。その際に,職員は口の中に異物を隠していないかどうかということを確認します。更に,職員の前を通るときに,手に物を持っていないかということを示すために手を見せたり,足の裏にセロハンテープなんかで物を張りつけていないということを見せるために,足の裏を上げてみせるというような動作をとらせている施設がございます。こういった動作をとらえてかんかん踊りをさせているというような批判も現に受けております。当局としましては,そういったドアをくぐる形でいわば真正面から裸体を見ることができるのは,正面に立っている職員だけという形にはしておるわけなのですが,そういった検査の仕方が必ずしもよろしくないのではないといった批判が現に出ております。
 そのほか,就寝時間中の動作ということで,要は寝ている間,寝る時間,消灯してから朝起きるまでの時間は,基本的に横になって寝ていなさい。トイレに行ったりするのはもちろん仕方ありませんけれども,原則として横になって寝ていて,起きて何かをすることはしないようにということを多くの施設で指導しております。これは,集団生活のために他の者の安眠を確保する必要が高いということと,特に夜間は職員が少ないので,勝手な行動をされますとそれを防止するのがなかなか難しいということであります。なお,支障がなければ,特に独居房に入っている者などは,日が上った後起床時間までの間の読書などは認めております。
 以上が,動作要領の主だった状況の説明であります。
 次の2ページ目に入らせていただきます。2ページ目,これは我が国の行刑施設における保安事故の発生状況,過去10年分をまとめたのが上段の表でございます。
 逃走事故については,おおむねゼロ件の年もあれば2件ないし3件の年もある。過去10年間を見てみますと,大体この程度の頻度で逃走事故が発生しております。逃走人員についても,件数に比例しておおむね1件につき1名なのですが,平成8年だけは2件で8名と大変多くなっております。これは後ほど御説明いたしますが,東京拘置所からイラン人7名が集団脱走したという事件がございました。そのときの1件7名があるために,2件8名となっております。
 過去10年間では,暴動・騒じょうと言えるような事故は発生しておりません。
 また職員殺傷,傷害の方は全治1か月以上のもので切っておりますが,職員殺傷事犯は発生しておりません。被収容者同士の殺傷事件につきましては,死亡人員は平成8年に1件だけございます。その余は傷害事件ではありますが,全治1か月以上というかなり重い傷害を負ったケースが毎年何件かは発生しております。
 最後に自殺の事故ですが,毎年必ず自殺事故が発生しております。最近になって増えてくる傾向がありますが,平成14年で18件,これが過去10年では一番多い件数でございます。ちなみに,一番右側には参考までに各年の1日平均収容人員を掲げてございます。これが我が国の最近の保安事故の発生状況です。
 一方,下段には各国の行刑施設ということで,たまたまデータが手に入りましたアメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,それぞれ2000年,あるいは2001年のデータが手に入りましたので,逃走,自殺,対職員の暴行事案を掲げてございます。参考までに,我が国2002年のデータということですが,逃走,自殺,職員暴行を掲げております。
 下の方に括弧に入って数字が書いてございますが,これは各国収容人員がばらばらであるために,収容人員が仮に10万人であったとしたら何件なのだろうかというふうに換算した数値が,下の括弧でございます。これを見ていただきますと,逃走は日本が圧倒的に数値が少ないことがお分かりいただけると思います。10万人当たり4.5人,アメリカで57.3,イギリスで39.2,フランスで66.1,ドイツで88.3となっております。更に,この日本以外の国につきましては,開放的な処遇をしている施設から逃走したようなケースは逃走とは数えないという統計の取り方をしているそうです。あくまでも塀で囲われて,職員が戒護しているような閉鎖施設から逃走した事案,あるいは職員が護送中に逃走した事案を数えた数値であって,日本の場合はどんな場面であっても開放的な施設から逃げた者でも逃走と数えておりますが,そういった数え方はしていないということでございます。
 次の自殺でございますが,日本は18件というのは近年まれになく多い,一番多い時期の数値なのですが,諸外国と比べますとアメリカは日本より比率が少なくなっておりますが,その余の国は日本より大分比率が高くなっております。
 また対職員暴行についても,フランスは日本の半分程度の比率になっておりますが,その余の国はアメリカがほぼ同数,イギリスが日本の3倍以上の比率で対職員暴行の数字が挙がっております。なかなかそれぞれ各国いろいろ基準が違うと思いますので,一概に比較することは困難なのですが,一般的に言いますと我が国の行刑というのは逃走や自殺や職員暴行といった事故の件数が比較的少ないということが言えるのではないかということが思われます。
 次に3ページ目に入りますが,イギリスについてはいろいろホームページに情報が出ておりまして,その中から保安の状況を調べるのにちょうどいいものがありましたので,ここに引用しております。イギリスは毎年このKey Performance Indicatorという行刑施全般において達成すべき政策目標というものを10項目ぐらい掲げまして,毎年それが達成できたかできなかったかというのをホームページで公開しています。この2002年度,2002年~2003年の会計年度ということのようなのですが,そこでの目標値を見ていますと,例えばカテゴリーAという収容者の逃走はゼロ件にする。これは達成しております。これは極めて重警備が必要な受刑者を,イギリスではカテゴリーAと分類しているようです。
 次にそうではない受刑者で,収容中護送中の者の逃走ということで,収容人員の0.05%以下というのが目標になっておりまして,結果としては17名しか逃走していないということで,達成している。17名程度の逃走は,むしろ目標達成だというような形で評価していることがうかがわれます。
 以下,例えば平均収容人員の9%以下に暴行事犯がおさまれば目標達成,これは残念なことに若干達成できなかった。次が,薬物検査における陽性反応10%以下ということで,要は受刑者にランダムに薬物の検査を行うことによって,こっそり薬物を使っていた者が判明するわけなのですが,その確率が10%以下になるようにしようというのが政府の目標です。これが残念なことにこの年は達成できずに,11.7%程度であった。要は,刑務所の中でも約1割の者は麻薬その他の薬物を使っているということが判明しているということです。
 次は,これは余り保安状況とは関係がありませんが,意図的活動,刑務作業ですとか教育ですとか,受刑者に対する有意義な働きかけの時間を毎週24時間以上行うことにしようという目標を立てているようですが,残念なことにこれは22.6時間,若干達成できなかったというような状況にあるようです。
 それから過剰収容については,単独室,独居房に2名以上収容するような事態が,平均収容人員の18%の者を超えないことという目標を立てているのですが,イギリスの過剰収容が深刻なようで,平均人員の2割の者が単独室に2名以上入れられているという状況にあるようです。
 次の自殺は,先ほどの数値を紹介いたしましたが,収容人員10万人当たり105人よりも自殺者を減らそうという試みをしたのですが,残念ながら146%,10万人当たり150人近い自殺者を出してしまって達成できなかったというような結果になっているようです。以下,犯罪行動プログラムですとか費用,あるいは職員の病休などといった項目も目標に立てているようです。このようなイギリスの保安状況がございます。かなり我が国とは状況が違うことがうかがえるかと思います。
 次の4ページ目ですが,これは我が国の行刑施設において過去に発生しました大きな事故,幾つかを取り上げてまとめてみたものです。
 まず松山刑務所の不祥事件としては,これは昭和40年6月ごろから発生していた事件ですが,特定の暴力団の収容者を多数収容していたことから,これらの者が職員に対して強圧的な態度に出ることが多くなって,次第にこの松山刑務所の拘置所がこの暴力団関係収容者の実質的な支配下に置かれて運営されるようになって,やがては遂にはその圧力に屈し,当該暴力団関係収容者が居房の鍵も手に入れて,他の者の居房の開扉を自由に行ったり,居室内でたばこを吸ったり賭博を行ったりといったような秩序びん乱状態に至ってしまった。これは約半年ぐらいこういった状態が続いたのですが,41年3月ごろに当時着任した若手の課長補佐の職員がこの暴力団に襲われるという事件がありまして,逆にそれが契機となって体制立直しが図られて正常化に向かったというような,秩序びん乱事件が発生しております。これが代表的な事件なのですが,ちょうどこの昭和40年代には,こういった事件がほかにも何件か起こっております。
 また昭和45年には,静岡刑務所での不当処遇事例ということで,これは特定の被告人に対して,到底許されないような優遇した処遇が行われたという事案です。この事案は,その被告人が弁護人と面会した際に,面会室に包丁とかヤスリなどを持ち込みまして,私はこんなものが持てるのですよと言ったことをその弁護士が写真に撮って新聞に流したことから,事案が発覚いたしました。これを受けて急遽調査をした結果,この被告人は発覚するまでの間,居房の中で日用品や食事などについて所内の規則を全く無視した物品,カメラも持っていた,あるいは朝鮮漬けといったおよそ手に入るはずがない食べ物なども自分からそれを職員に要求して持ってこさせていた。そういった特別待遇が公然と行われていたというような不正,不当処遇が明らかとなっております。
 これは昭和45年の事案なのですが,最近でも,今はまだ裁判中ではありますが,千葉刑務所で被告人に職員が籠絡されまして,携帯電話などをこっそり差し入れて居房の中から携帯電話で外部と連絡をとったりしていたというような職員籠絡事犯が同じように発生しております。
 また,福岡刑務所では昭和54年から,8月から11月ごろにかけまして散弾銃密造事件というのが発生しております。これは,受刑者3名が工場内において金属作業の作業資材の残りを利用しまして,組立式の散弾銃2丁を密造して,作業指導員,これは刑務作業を指導するために外部から来ていただいている人のことなのですが,この人に依頼して刑務所外に持出しをした。この作業指導員はその受刑者に脅かされてそういうことをやってしまったということのようですが,そういった事件が起きております。その後,これは昭和57年の9月には,暴力団の抗争事件においてその散弾銃が使用されたといった新聞記事も掲載されております。逆にそのころ発覚をしたということでございます。
 それから一番最後の段は,先ほどもちょっと申し上げました東京拘置所のイラン人集団脱走事件でございます。これは平成8年2月12日の未明に,雑居房に収容されていたイラン人7名が,鉄格子一本を金のこのようなもので切断しまして屋外に出て,当時たまたま東京拘置所の改築工事中で資材置き場に置かれていました建築資材の鉄パイプ,鉄筋,角材等を用いてはしごをつくって,これを塀に立てかけて外塀を越えて逃げた,そういった事件でございます。いずれももちろんあってはならない重大な事故事例であります。我が国においても,こんな事故が発生しておりますが,これもその発端はごくわずかな規律の緩みが発端になっているということで,それが次第次第に傷が広がってこういった事故に至っているというようなものでございます。
 次に5ページ目ですが,これは裸体検身による不正行為等の摘発事例でございます。これは現在,先ほど申し上げたようにB級施設を中心に約半数の施設では全裸での身体検査を行っております。またそうでない施設についても,下着等を着用した状況での検査というのは行っているわけなのですが,これは平成14年1年間で現実にこのような摘発事例があるということが,たまたま調査結果がありましたので引用させていただきました。
 上から見ていきますと,YA級の施設では,裸体検査をした際に収容者の顔等がはれ,体中にあざが発見された。これで暴行事案が判明したという事案。玉入れ検査を実施した際に,受刑者が陰茎部に玉を挿入していたのを摘発した。玉入れというのは,これは刑務所の中で時々流行するものなのですが,自己の陰茎部に小さな直径せいぜい5ミリか6ミリ程度の球状の玉を挿入するというようなもので,余り刑務所の中でそんなことをしても何のメリットもないのですが,特に若年受刑者などを中心にそういったことを行うケースがございまして,非常に不衛生で時には陰部が腐ってしまうようなこともありますので特に厳しく検査等をするのですが,そういったものが発覚した事例です。
 LA級の施設では,パンツに作業材料であるセロハンテープで洗濯札を巻きつけて所持していたとか,靴下に金属片を隠匿していた。メリヤスパッチの腹部のゴム付近に写真を切り抜いて挟んでいたというようなことが摘発されています。
 B級施設でも非常に数多い摘発事例がありますが,脇の下に薬を挟んで持ち出そうとした。肩に鉄片,右足の甲に磁石をテープで張りつけて隠匿していた。お菓子を隠匿していた。パチンコ解体作業で発生した小さなサイコロ3個を隠匿した。胸部にあざがあることで,けんかが判明した。刺青の自傷行為。これは施設の中で刺青を入れたという意味です。湿布の中に別の薬を隠していた事案。同衆の電話番号などを記したメモを隠匿しようとしていた事案。工場で使う石けんを自分の部屋に持ち込もうとして,脇の下に隠匿した事案。同衆が,別の収容者が処方された湿布を自分に張っていた事案。足首や肩口に刺青をした事案。また次は,いわゆる玉入れを行うための玉を密作して持ち込もうとした事案。薬を持ち込もうとした事案。また玉を口の中に隠していた事案。ポケットから密書を落とした,それを見つけた事案。足の指に薬を隠匿していた。眼鏡入れに爪楊枝を入れていた。それから暴行を受けたとする負傷箇所を発見した事案。薬をビニール袋に入れていた事案といったようなものが摘発されています。
 YB級の施設では,これはちょっと物が書いていないのですが,上衣,下衣のそれぞれのポケットに隠匿,あるいは陰部に隠匿,手に隠匿といった事案が摘発されているという統計が出ております。
 W級,女子の施設におきましても,陰部から瀬戸物の破片と金色の毛髪の束を発見したという事案。陰部から便箋を発見した事案,化粧石けんを発見した事案。パンツの中に化粧品類を隠匿した事案。靴下の中に軟膏を隠した事案。陰部に薬を隠した事案。ゴムを隠した事案。
 拘置所でも,同様な玉入れ事案ですとか,ガムや密書を隠していた事案といったものが摘発されたケースがあるということです。
 摘発された物品そのものは大したことがない些細なものも含まれてはおりますが,こういった持込み事案がきちんと検査をしていても現実に発生しているということ。また,最近では名古屋刑務所を出所した受刑者が,工場内での受刑者の人名簿,これを持ち出していたというようなことも新聞で報道されております。これなども,工場にあった受刑者の名簿をこっそり持ち出したということで,やはりこういった検査をしているのですが,その検査をくぐり抜けて持ち出してしまったということで,なかなか検査をかいくぐるケースが現実にあるということをうかがわせる事例であります。
 次のページですが,6ページ目は懲罰に関する資料になります。まず,現在監獄法で定められている懲罰,ここにありますとおり懲罰の種類が全部で12種類ございます。非常に数多い種類があるのですが,右側の主要な件数と他に併科された件数というのを見ていただきますと,ほとんど使われていない,科されていない懲罰の類型が結構ございます。
 主要な懲罰と他に併科された懲罰というのは,複数の懲罰を併科すること,あわせて科すことができる関係で,メインの懲罰で数えたものと,それに付随して科されたと数えたものがありますので,両方の欄がございます。叱責という懲罰は,主に叱責を科したケースが5,669件。他の懲罰に叱責をあわせて科したケースが2件あると,そういった意味でございます。
 そういった目で見ていきますと,次に文書,図画閲読禁止,これは3か月以内文書,図画の閲読を禁止する懲罰ですが,これを主な懲罰として科した件数はわずか233件しかありませんが,他の刑罰と併科した件数は3万4,206,非常に多くなっております。実務的には,後で御説明いたします軽屏禁という懲罰とこれを併科するケースが多いかと思います。その後非常に件数が少ないかゼロかというものが続いておりまして,比較的次に多いのが作業賞与金計算高の減削という懲罰で,刑務作業を行いますと毎月平均すると4,000円程度なのですが,作業賞与金の計算高がそれぞれの受刑者に計算されます。その計算高の一部を,あるいは全部を削減する処分です。これが主たる懲罰として科されたものが2,225件。他の懲罰と併科されたケースが2,093件ございます。
 それから,次に軽屏禁という懲罰,これは期間は2か月以内,受刑者を厳格に隔離して謹慎させて,精神的な孤独の苦痛により反省を促すということで,独居房に収容します。そういう懲罰です。ただ独居房に入れるだけですと中で自由に本を読んだりして退屈しのぎをしてしまいますと懲罰の意味がないことから,実務上は先ほど申し上げました文書,図画閲読の禁止という懲罰を一緒に科すことで,部屋の中で手持ちぶさたにさせて退屈だということで苦痛を与えるという懲罰です。これが3万4,183件で,非常に多い件数が科されております。これが平成14年1年間の懲罰の科罰件数でございます。
 次のページに,他国との比較ということでイギリスのデータが手に入っておりますので,7ページ目で懲罰に関する日英比較というものをしております。これは,イギリスのデータが平成13年(2001年)のデータで,我が国の方のデータも平成13年のデータとしております。
 まず年間の科罰件数なのですが,我が国においては3万7,393件。イギリスは10万8,367件,約絶対数で2倍ちょっとでしょうか,3倍まではいきませんが,増えております。
 1日平均収容人員は,日本がこの13年では6万3,415人,イギリスは6万6,300人。イギリスが若干多い程度です。これを平均収容人員当たりの科罰件数という形で計算してみますと,日本は0.6,イギリスは1.6と,日本の2倍以上イギリスの方は懲罰の頻度が高い。懲罰を打つケースが多いということが分かるかと思います。
 どんな規律違反行為で懲罰を受けているのかということで,我が国について見ますと,1位が暴行,2位が怠役,仕事をしたくないと言っている事案です。3番目が争論,これはけんかの中で手を出していない口げんかの部分です。4番目が抗命,これは職員の命令に意図的に背いたケースです。5番目が物品の不正授受。許可されていないような物品をやりとりをしたケースなどが日本では多くなっております。
 一方イギリスでは,指示違反,指示に違反したのがトップです。2番目が脅迫的・虐待的な言動,3番目が不正物品の所持,4番目が規制薬物の使用,恐らく麻薬等の使用だろうと思いますが,そういったもの。5番目がけんかとなっております。日本とは若干規律違反行為の項目の多い順番が違っていることが分かります。
 またどんな懲罰を科しているか。これは日本とイギリスは全く制度が違いますので,単純比較は意味がありませんが,イギリスでは一番多いのが服役日数の延伸。これは,イギリスの制度では所長の権限で刑期を42日以内延ばすことができるという制度があるそうです。これは我が国の法制度ではおよそ考えられない制度だと思うのですが,イギリスではそういう制度があるそうで,それが一番多く用いられております。2番目が優遇の剥奪という懲罰です。これは,前回Incentive and Earned Privilege Systemという制度があるということを御紹介いたしましたが,恐らくそれの関係でさまざまな優遇を奪ってしまう懲罰なのではないかと推測されます。
 それから,3番目が作業報酬の停止又は減削ということで,イギリスの場合は作業が報酬制度で行われているようですが,我が国で言う賞与金の減削と同じように,その報酬をとめたり削ったりするという懲罰があるようです。
 次の独居拘禁,これが恐らく我が国の軽屏禁に相当する懲罰ではなかろうかと思います。
 その次が戒告,これが恐らく我が国の叱責に該当するような懲罰なのではなかろうかと思われます。その他というのは,統計上そうなっておりますが,ちょっとどんなものかがよく分かりません。この辺,より詳しい運用については,今度のイギリスの視察の際などに是非聞いてきたいと思っております。
 次のページに参ります。8ページ目は,我が国の受刑者の懲罰の回数を調べてみたものです。これは,平成14年1年間に出所した受刑者が,その出所するまでの間の服役期間中,ですから短い者もいればそれこそ10年,20年服役した者も中にはいるわけですが,その服役した期間の間に何回懲罰を受けたかという統計でございます。57.5%,約6割近くの受刑者は,服役期間中一度も懲罰は受けずに出所している。そして19.5%の者が1回だけ懲罰を受けて出所している。以後2回,3回,4回,5回,6回となっていきます。要はほとんどの受刑者はそれほど懲罰を受けずに出ていっているのですが,一部の受刑者の中には特に6回以上という頻回者が4.8%出所者の中にいる。恐らくこの6回以上という者は,その施設ではかなり処遇が困難であった者と言えるのかもしれません。そういった統計数字が出ております。
 次の9ページ目と10ページ目,これは以前全体会議の方で府中刑務所の遵守事項というものをお配りしたことがあったかと思いますが,要は府中刑務所においてこういった行為をした場合には規律違反として懲罰に科することがありますということで,受刑者に示しています規則が,この遵守事項でございます。全部で40数項目あるわけなのですが,それを今回少し整理をしてみまして,行為の類型ごとに12の類型に分けて,それぞれに当てはめるという作業を行ってみました。これはあくまでも試みの整理でございまして,何か根拠があってやったわけではございません。
 全部を細かに言いますと長くなりますけれども,例えば収容の確保を妨げるおそれがある行為。要は逃走してしまうとか,職員に見つからないようにこっそり隠れてしまうとか,あるいは自殺をしてしまって自ら命を絶つとか,そういった行為でございます。
 それから,2番目が施設の安全を害する行為,火をつけたりとか,騒じょうを行ったりといった行為です。
 3番目が集団生活の平穏を害する。大声を出すとか,虚偽の風説を流布させるといったような行為です。
 4番目が,施設の環境衛生を害する行為。物品,設備,備品などを汚損したり,その他環境衛生を害するような行為。
 5番目として,所内での物品の適正な管理を妨げる行為ということで,許されない物品をひそかに作ったり隠したりやりとりをしたりといったようなものを分類してあります。
 6番目として,他人に迷惑を及ぼす行為。けんかをしたり,誹謗,中傷をしたり脅かしたりといったような行為です。
 7番目が風紀を害する行為。賭博をやったり,猥褻行為をしたりといったような行為です。
 8番目が,作業の適切な実施を妨げる行為ということで,作業を拒否したりあるいは殊更に不良品をつくったり,作業材料を汚したりといった行為です。
 9番目が,職員の職務執行を妨げる行為ということで,職員の指示を無視したり,あるいは職員にうそをついたりといったようなことを分類してあります。
 10番目は,そそのかし行為。これは今まで分類したような行為を自分でやるのではなくて,他の収容者にやらせるようにそそのかすような行為。
 11番目,これはどこにもちょっと当てはまらなかったので作ったのですが,行刑施設の適正な管理を妨げる行為ということで,決められた動作時限などに従わないこと,あるいは禁じられている場所や時間において不正に話をすることというのはこの類型に入れてあります。
 そのほか,刑罰法令に違反する行為が12番目というような整理をしてみました。
 何でこんな整理をしたかと言いますと,他の国ではどうなのだろうかということをあぶり出すためにやりました。次のページの11ページと12ページが,全く同じ類型にイギリスの監獄規則に定めるイギリスの遵守事項を当てはめたらどうなるだろうかというのでやってみたのが,次の表でございます。
 1~12の類型に入れていきますと,ごく一部どうも見た限りでは当てはまらない,同じような類型に当てはめるものがないものが幾つかございました。3の集団生活の平穏を害する行為。大きな音を出したり,騒音を出したりする,あるいは虚偽の風説を流布する。我が国では,そういった遵守事項があるのですが,イギリスの場合は眺めた限りでは,どうもぴったりここに入るようなものがない。あるいは次の行刑施設の環境衛生を害する行為,例えば設備,備品を汚損する,落書きをするとか,残飯をその辺に投げちらかすとか,そういったものを規制するものがどうも見当たらなかったということがございます。
 次のページに行きまして,行刑施設の風紀を害する,7番目の類型です。我が国で言いますと賭博をしたりあるいは猥褻行為をしたりというような部分に該当しそうなものが,見た限りではありませんでした。
 それから最後の,どこに入れていいかちょっと分類に迷ったという行刑施設の適正な管理運営を妨げる行為,これもそれに当たるものはございませんでした。
 一方,我が国の方では分類しようがないものとして,一時釈放条件違反というのがございました。これは,我が国に多分制度がないからだと思いますが,一時釈放というのはいわゆる外出,外泊に関するもので,それに違反した場合ということで,これは我が国に制度がありませんので適用のしようがないということで,こちらに入れました。
 要は,こういった分類をしてみますと,日本とイギリスだけを比べるならばそれほど大きな違いはない。幾つかの類型で,日本では遵守事項があるけれども,イギリスにはない。ただ,それが本当に正しい整理の仕方なのかは,実はイギリスの規則をきちんと読み切れてなくて,そういった行為が禁止されているのかどうか,これはまた今回の視察の際に確認してきたいと思っております。以上が懲罰の制度,あるいは内容に関する部分の資料でございます。
 次の13ページ目が,懲罰の科罰手続に関する説明でございます。これは,我が国の懲罰の科罰に至るまでの流れを書いたものですが,まず一番最初のところは,入所する際に所内の遵守事項,先ほど御説明しました,守らなければいけない規則,これは口頭での告知をいたします。また,その遵守事項は冊子にいたしまして居房に備えつけてありますので,いつでも見ることができます。こういう形で,やってはいけない行為が何なのかということは受刑者に周知徹底しています。その上で,職員が規律違反行為があるということを認知いたしますと,まずはその旨を所長に報告をして,容疑者に対して取調べに付すという旨を言い渡します。その結果取調べが始まります。取調べに当たっては,職員からの報告書を徴すること。容疑者となった受刑者からも事情を聞くこと。そのほか,規律違反行為を見聞きしている他の受刑者等からも事情を聴取いたします。そういった取調べを行った結果,所長が懲罰は必要がないと認めた場合は,直接本人に懲罰は科さないという旨を告知しまして,取調べは解除になります。これが左側の矢印です。
 一方,そうならない場合には懲罰審査会というものを開催いたします。*1となっていますが,下段にその説明が載っています。懲罰審査会というのは,その施設に所属する職員の中から所長が指名いたしまして,5名を下回らない人数の委員をもって構成されます。通常規模の施設ですと,処遇部の部長,これが議長になりまして,そのほか処遇部門の首席,企画部門の首席,あるいは処遇部門の統括,企画部門の統括などが構成員となる事例が多いと思います。そういったメンバーで懲罰審査会というのを開催いたします。この審査会では,容疑者を審査会の席上に出席させまして,まずは取調べの結果認定しました容疑事実を告知いたします。その上で,容疑者に弁解をさせます。口頭で意見を述べるほか,弁解書といった書面を提出することも認められています。また,補佐人による弁解の補助が行われます。この補佐人というのは,懲罰審査会に出席をして容疑受刑者のために意見を陳述する者で,その任務にかんがみまして規律違反行為を調べる部門である処遇部門に属する職員は除外されます。そうではない,例えば企画部門の首席,教育部門の統括といった職員から指名することとしております。そういった補佐人が,本人の弁解を補助することを行います。
 より具体的に言いますと,事実認定自体が間違っているのではないかという疑いがあるということを述べたり,あるいは事実認定はそうかもしれないけれども,受刑者の方にもこんな事情があったと,こういう情状は十分考えるべきであるといったような意見を陳述いたします。そういった陳述が終わった後,懲罰審査会の構成員で容疑事実の有無の認定,そして容疑事実があるとすれば,どの程度の懲罰が相当かといった意見を書き,先ほどの補佐人の方の意見も添えまして所長に報告をいたします。その結果,所長が科罰をするか不科罰にするか,科罰をする場合にはどんな懲罰にするかということを,審査会の意見も参考にしながら決定をいたします。懲罰を科す旨が決定されますと,本人に対して懲罰の言渡しが行われます。その際に,懲罰の内容が戸外運動の停止,減食又は屏禁の場合には,執行前に医師による健康診断を実施いたします。その結果執行差し支えないという診断が出なければ,懲罰の執行は開始されません。その後執行差し支えなしという診断が出ますと,懲罰を実施する。そういった手続になっております。
 なお,この取調べを開始してから,懲罰を科すか科さないかを決定するまでは,原則14日以内,どんなに長くても28日までに行うということが訓令上決められております。これが我が国の懲罰の科罰の手続です。
 次のページに,たまたま手に入りました英国における懲罰の手続の流れというものを流れ図にしてございます。基本的な部分は同じかと思いますが,まず規律違反容疑行為がありますと,規則に従って認知・告発なるものが行われます。これは通常,施設の職員が行うことになります。そして,容疑者を特定して手続を行うのが,48時間以内に行わなければならないということになっているようです。そして,告発があった場合には,遅くとも翌日から最初の取調べが開始されなければならないというようなことが決められているようです。
 そして,規律違反容疑行為の告知というのがあるわけなのですが,本人には書面を読み上げる形で規律違反容疑行為は告知をされる。またそれとともに,遅くとも取調べが行われる2時間前までには,どんな容疑行為かということを書かれた書面,あるいは懲罰の手続の流れを記載した書面,こういったものが交付されているようです。そういった書面交付手続があるようです。そして必要な取調べを行うのですが,本人が懲罰手続を理解しているかを確認する,また弁明のための準備期間が十分にあるか,本人が弁明書を準備したかといったようなことを確認するようです。
 その後,更に取調べの開始時に,所長は本人に対して何らかの扶助が必要かということを確認するということです。そして,この本人から扶助の希望があった場合には,法的代理人や友人,助言者等について検討する。ただし,これは本人に扶助を求める権利が与えられているわけではなく,あくまでも希望に応じて所長が告発の中身,予想される懲罰の重さ,本人の能力,合理的な早さで決定を行うことの必要性などを考慮して決定するということで,実際にこういった扶助が与えられることは極めてまれ。イギリスのプリズンサービスが発行しています受刑者用のマニュアルを見ますと,法廷代理人等が与えられることはquite rareと書いてございます。極めてまれだということでございます。それから,次の手続として,証人喚問を求めるかどうか本人に確認する,あるいは本人の弁明の内容を「F256」という用紙に記載をする。報告した職員に証拠の提出を請求するといった,要は調べる際のいろいろな手続が流れ図として書かれております。
 この中での本人の証人の喚問を求めるかどうかというようなことですが,これも本人が証人の喚問を希望した場合には,通常は希望に応じて証人喚問を行っているようです。この点の詳細もよく分かりませんが,イギリスに視察に行った際に,先ほどの扶助の話も含めまして運用の実際をよく聞いてみたいと思っております。そういった手続を踏まえまして,懲罰を科すか科さないかという決定をすることになります。
 懲罰を科した場合にも,なおかつ本人から科罰軽減の求めがあった場合は,必要に応じて検討をするというようなことがあるようでして,その上で懲罰の言渡しと決定を書いた書面をまた本人に交付をする。そういった手続があるようです。
 基本的には我が国と同じような流れなのですが,随所に書面が出てくるということ。あとは扶助であるとか証人の喚問といったあたりが,我が国の手続とは若干違っている面かなと思います。以上でございます。
〇滝鼻委員 13ページの懲罰の科罰に至るまでの流れ,日本の場合について若干お尋ねしますが,最終的に,懲罰を科さない旨の告知,それから懲罰を科す旨の決定の言い渡し,これは権限は所長なのでしょうけれども,誰がやるのでしょうか。
○富山調査官 通常,これは施設によって若干違うかもしれませんが,処遇部門の責任者である首席矯正処遇官が行うケースが多いのではないかと思います。
〇滝鼻委員 これは各刑務所にいらっしゃるのですか。
○富山調査官 必ずおります。それも処遇担当の首席矯正処遇官です。
〇滝鼻委員 どのぐらいの地位の人なのですか。
○富山調査官 処遇部門の責任者になりますので。
〇滝鼻委員 副所長ぐらい。
○富山調査官 いえ,もうちょっと下になります。所長の下に部長がおります。処遇部長,総務部長という二人部長が通常おりまして,その処遇部長の下に首席矯正処遇官が二人おります。そのうちの一人です。
〇滝鼻委員 処遇部長の下ね。
○富山調査官 イメージ的には課長に近いのかもしれませんが,課長のちょっと上ぐらいというイメージでしょうか。
〇滝鼻委員 そうですか。それで,いずれにしてもこれは非常に所長が権限を持っていますよね。取調べを開始して懲罰を科さない旨の告知,これは所長が判断するわけでしょう。
○富山調査官 そのとおりです。
〇滝鼻委員 それから懲罰相当というのも所長が判断して,懲罰審査会が開かれるわけですよね。それによって量刑も所長がやるわけでしょう。
○富山調査官 そうです。
〇滝鼻委員 形の上では全部所長なのだけれども,実際はこの首席矯正処遇官がやっているケースが多いのですか。それとも本当に所長が判断しているのですか。
○富山調査官 これは実際に所長が判断しております。すべての懲罰は,所長が出張等で不在の場合はもちろん別ですけれども,そうでない限りは所長自身が決裁印を押していると思います。
〇滝鼻委員 おまえに任せたと言って,首席矯正処遇官の人にやらせっぱなしということはないのですね。
○富山調査官 私の承知している限りは,それはあり得ません。どこの施設でも,所長が見ていると思います。
〇滝鼻委員 いずれにしても,これは処遇者というか,受刑者にとっては不利益処分ですよね。
○富山調査官 そのとおりです。
〇滝鼻委員 悪くてやったのはその男かもしれないけれども,不利益処分ですよね。それは必ず所長の目は通っているわけですね。
○富山調査官 はい。先ほど言ったとおり,所長が出張等で不在の場合には,総務部長が代決をしまして,後日所長が後閲をするという場合はございます。
〇宮澤(浩)会長 判こを押すだけじゃないのかという質問がありました。
○富山調査官 それは私の経験から申し上げまして,私も長野刑務所で平成5年,6年にこの今の正に首席矯正処遇官の処遇担当という業務をやっておるのですが,懲罰審査会が終わりますと,その書類を私自身が持って所長室に行きます。きょう懲罰審査会がありまして,例えば13件審査をいたしましたということで,1件1件書類を所長に見せまして,概要を説明して,特に本人が否認しているケースなどは,この調書,この調書,この調書で認定をいたしましたというようなことを全部報告いたします。所長からはそれでいいということもあれば,それではだめだ,もう一回この点もよく調べなさいということで差し戻されることもあります。
〇滝鼻委員 あなたの経験から言うと,不科罰の割合というのはどのぐらいなのですか。
○富山調査官 それは取調べの段階で,もう懲罰審査会を開かないというケースは結構あります。少なくとも2~3割はあると思います。
〇滝鼻委員 そんなにあるのですか。
○富山調査官 というのは,例えばけんかをしたということで2名取調べしてみたら,実は片一方は被害者で一方的にぶん殴られていたというようなこともあるわけです。要は調べていくと,全然片方には悪くないのだということが分かれば,すぐ取調べを解除するということもありまして。
〇滝鼻委員 審査の結果,不科罰にしたのは,どのぐらいあるのですか。
○富山調査官 これは,多分相当少ないと思います。一桁台のパーセントだと思います。
〇滝鼻委員 厳密な言い方ではないけれども,審査会に回すというのは要するに起訴したような感じなのですね。
○富山調査官 そうですね。かなりやはり,もともと懲罰を付すまでもないと判断すれば落としてしまいますので。
〇成田委員 この首席矯正処遇官,この人たちの御年配は,大体どれくらい,経験……。
○富山調査官 私などは,一番若い年でやったと言われているのですが,それで30代後半でした。年配の人になると,50歳を超えている方もいると思います。
〇井嶋委員 取調べは誰がやるんだったっけ。
○富山調査官 これは警備隊に所属している副看守長または看守部長などが中心にやります。
〇井嶋委員 いわゆる担当さんは入ってこないね。
○富山調査官 担当は入りません。全く別です。
〇井嶋委員 別の組織ですか。組織は処遇か。
○富山調査官 処遇部門ではあります。部門は同じです。
〇井嶋委員 同じだけれども,警備系統の人が入る。
○富山調査官 いわゆる警備隊でやっているケースが多いと思います。
〇滝鼻委員 統括矯正処遇官というのがいますよね。この方と首席とはちょっと違うのですね。
○富山調査官 はい。首席の下に統括がおります。
〇滝鼻委員 その人たちが,いずれもこの審査会を構成するのですよね。
○富山調査官 恐らくそうだと思います。各施設で所長が所内規則で決めるのですが,おおむねそういう形になっていると思います。
〇菊田委員 この流れを見ていると非常にしっかりしていますけれどもね,実際の話を聞くのと大分違いますね。例えば具体的に違反したときに,そのときは従来の居房に入れておいて,後からこれだと審査が始まるようになっているけれども,その場では場合によっては保護房に入れることもあるわけだろうし,いろんなケースで即決していくわけでしょう。
○富山調査官 まず保護房収容は懲罰手続とは全く別の話ですので。
〇菊田委員 だから,暴れたという,規則に反したときに暴れたときに,いきなり保護房へ入れるということは現実にあるわけでしょう。
○富山調査官 それは規則違反をしたからではありませんので。ですから,全く保護房収容はこの流れには入っておりません。
〇菊田委員 違うけれども。これだけ見ていると非常にしっかりしていますよね,形は。
○富山調査官 要は保護房というのは,全くこれと切り離してお考えいただきたいので,要は現実に大声出して叫んでいるとか暴れている者をとりあえず隔離する措置ですから,それはもちろん懲罰でもありませんし,この懲罰の流れとは全く縁のない行為です。
〇菊田委員 いや,縁がありますよ。それはだって違反したときに,機動隊が来たときに抵抗すれば,やはりそこで保護房ということになるわけでしょう。違反と保護房というのは結びついているわけでしょう。
○富山調査官 懲罰というのは,あくまでも本人が行った規則違反に対して行政処分である罰を科すための手続でして,それは通常規律違反をすると取調べのための独居拘禁というのを付するのです。それは保護房ではありません。通常の独居房に隔離をして,他の者と示し合わせて共謀などができないような状態に隔離をする。そのおそれがない者は雑居のままということもありますけれども,隔離をするのが原則です。
〇菊田委員 今私が言っているのは,保護房でもいいのです,独居房でもいいのです。とにかく独居房に入れるわけですよね。
○富山調査官 取調べのための独居拘禁というのは,これは監獄法施行規則にも書いてございまして,それは取調べを行う前提として本人の居室を独居にする。現在独居に入っていればもちろんそれは独居のままですけれども。ただ,保護房は全く別ですので。
〇菊田委員 分かりました。私は保護も独居も同じ意味で言っているのだけれども,これでいくとあくまでも従来の居房に置いておいて後から審査が始まるようになっているけれども,実際はそういうように独居房に隔離するということが現実ですよね。
○富山調査官 これ,居房のことは何もここには触れてないのですけれども。ただイギリスも同様でして,やはり隔離という措置があるのです。
〇菊田委員 アメリカの場合は,原則としてあくまでも規則に違反しても正式の審判が下りるまでは従来どおりの条件のもとに置くというのが基本なのですね。そこのところが日本の違いではないかということを私は言っているわけなのです。
○富山調査官 アメリカの例は今承知してないのですが,イギリスでは監獄規則の45条に隔離という章がありまして,規律違反容疑行為者を他の者から隔離して収容するということ。これは自動的ではないものの,極めて一般的に行われているようでございます。その意味では日本と似ていると思います。
〇滝鼻委員 府中刑務所の遵守事項ですよね。これに基づいて説明されたわけですけれども,この遵守事項というのは刑務所によって違うのですか。
○富山調査官 各施設で定めることになっておりまして。
〇滝鼻委員 勝手に定めていいわけ。
○富山調査官 勝手にと言いますと若干語弊がありまして。
〇滝鼻委員 ひな形みたいなモデルケースみたいなのは,矯正局かあるいは省令とかそういうので決まってないのですか。
○富山調査官 現在のところは決まってないのです。
〇滝鼻委員 そうすると,極端に違うことはないかもしれないけれども,それぞれの施設でまちまちの遵守事項,言ってみれば規律違反のもとになる違反しちゃいけないよというものができているのですか。
○富山調査官 でき得る状態に現在はあるのです,法的には。
〇滝鼻委員 でき得るって,実態はどうなのですか。
○富山調査官 実態は,ほぼ同じです。言葉遣いが違うという……。
〇滝鼻委員 府中型とか網走型とか,そういうのがあるわけではないわけ。
○富山調査官 言葉遣いが施設ごとに,ここに府中刑務所の遵守事項を,例えば二つの項目を一つに合体させて書いているとか,非常に微妙な書き方の違いはあるのですが。
〇滝鼻委員 例えばさっきの懲罰の流れの一番頭のところに,そういう遵守事項をそれぞれの房に小冊子でぶら下げてあるというのでしょう。それを読めというわけですよね。それは刑務所によって中身が少しずつちょっと違うわけですか。
○富山調査官 微妙に表現は違います。これ,統一したらいいのではないかというのもありますけれども。
〇滝鼻委員 別々の刑務所に入る人は,いることはいるのだろうけれども,それはなぜ全国統一にしないのですか。
○富山調査官 もともと別々にしていたのは,やはり施設ごとに保安の状況なんかも違いますので,例えば市原刑務所のように非常にまじめな施設では,がんじ絡めに縛る必要もないというか,しばらなくていい項目もあるわけなのです。
〇滝鼻委員 例えば女子の刑務所と,それから府中なんかとも違うのですか。
○富山調査官 やはり違います。ただ,では大きく違うのかと言われますと,そんなに大きくは違ってないのです。
〇滝鼻委員 それともう一つ,懲罰の流れですよね,さっき言った。これはもちろん一緒なのでしょう。
○富山調査官 これは全国共通です。訓令と通達で規制しておりますので。
○滝鼻委員 そうですか。
〇菊田委員 何か刑務官の人によると,所長命令というのですか,そういうものがしょっちゅう出て,職員の人も理解できないぐらいの数が出てくるというのですが,それはどういうことなのですか。
○富山調査官 所長命令というか,いわゆる所内でのいろんな約束事を決める際に,所長達示,所長指示というのがまずあります。これは比較的大きな事柄について決めてあります。あともっと細かなことについては,首席指示とか部長指示といったようなものもございます。例えば何月何日から夏服になるので,受刑者の服を長そでから半そでにするとか,そういったいろんな連絡事項を全部指示の形で出します。ですから,特に首席の指示なんかは,かなりの通数が1年間に出ることになると思います。
〇菊田委員 受刑者も,もちろんそれに応じて変化しなければならないということは出てくるわけですよね。
○富山調査官 そうです。ですから受刑者の例えば処遇も,夏になるからうちわの使用を許しますとか,いろんな夏になれば夏の処遇があるわけです。
〇菊田委員 それの違反は,当然規則違反になるわけね。
○富山調査官 それは処遇の変更ですから,今まで冬服だったのが夏服に変わりますよという話ですから,違反しようにも服が変わってしまいますから,違反はできないですよね。ですから違反したら懲罰になるというのは,この遵守事項だけです。それ以外のことは,いわゆる事務連絡みたいなものがしょっちゅう出ますので。
〇菊田委員 それは要するに,職員に対する指示ということ,中心は。
○富山調査官 職員に対する指示ですし,しかしそれが指示を受けた職員がこれを受刑者に伝えて,今度夏服になるとか,例えば週に1回パン食になったとか,いろんなことを伝えたりやらせたりするわけですね。これからこういうふうになるのだよと。
〇菊田委員 だけどシャワーは今まで何分だったけれども,今から10何分にふやすよというような指示に対しては,やはり受刑者に対しても直接影響があるわけだから,それに従わなければならないわけでしょう。
○富山調査官 もちろんそうですね。
〇滝鼻委員 それから,さっき菊田さんとあなたの間で論争していた規律違反における隔離房というのかな,隔離房という名前ではないけれども,どこか別のところに入れるということでしょう。それと菊田先生が言っていた保護房というの,その辺が僕はちょっと分からないのだけれども。流れが,あなたは全然違う流れだと言っていた。それは何がどう違うのですか。
○富山調査官 保護房というのは,府中刑務所等御視察いただきますと,本当に何もないのっぺらぼうの部屋があったと思うのです。
〇滝鼻委員 あのレッドゾーンのところ。
○富山調査官 レッドゾーンの中で,奥の方に今ちょっと様子がおかしい受刑者が入っていますということで。そこが保護房でして,ここは要は大声を出したり,あるいはそれこそ糞尿を投げつけたり,そういうような人を入れておく部屋です。これは規則違反をしたかしないかではなくて,要は普通の部屋にとても置いておけない人を入れるための部屋です。
〇滝鼻委員 だけどその人だって,基本的には規律違反をやっているのでしょう。大声出したり糞尿投げつけたり。
○富山調査官 それも規律違反なのですが,はっきり言ってもう保護房に入るような状態の人は,これは懲罰を科してもそれを理解できないだろうということで。
〇滝鼻委員 もっと進んだ人のこと。
○富山調査官 多分実務ではもう取調べもしないと思います。
〇滝鼻委員 審査会にかけてもむだだというような感じの人。
○富山調査官 要は保護房というのは応急措置なのです。どっちにしても。今普通の部屋に置いておけない人を,とにかくここへ入れておくという部屋なのです。
○滝鼻委員 その人が静まったら,懲罰の手続をとるのですか。
○富山調査官 とる場合もあります。
〇滝鼻委員 やっているわけ。
○富山調査官 とる場合もあるのです。
〇井嶋委員 法律的にはそうですね。事後的にはとれる。
〇滝鼻委員 実態はどうなのですか。
○富山調査官 例えば工場で殴り合いのけんかをする。その殴り合いのけんかをしている過程で非常に興奮してしまって手がつけられない錯乱状態になる。そうすると,保護房に入れます。でもこれは,その前のけんかはある意味正常な意識から始まっていますから,錯乱状態がおさまれば保護房から出して取調べにします。ただもともとちょっと様子がおかしくて保護房に入るような人は,これは取調べにして懲罰を科してもほとんど意味がありませんので,そこはもうそういう形はしないという。
〇宮澤(浩)会長 言ってみれば,責任能力がない。
○富山調査官 強いて言えばそんな感じになるのでしょうか。
〇滝鼻委員 原則14日間,最大で28日まで延長可となっていますね。取調べ開始から懲罰を科さない旨あるいは科す旨の決定を出すまで。これはもう守られているわけでしょう。
○富山調査官 14日が原則です。
〇滝鼻委員 その場合に大暴れする人がいて,これは懲罰もへったくれもない,まず保護房に入れておかなければいけない。しかし,おさまったというときには,この2週間から4週間の枠内の科罰手続というのに乗せるのですか,乗せないのですか。
○富山調査官 その間は数えません。保護房に入っているとかあるいは重い病気になってしまって治療しているとか,実際に取調べができない期間は数えません。その14日間には数えないことになっています。
〇滝鼻委員 しかし,どうも話を聞いていると,本当におかしくなってしまって,正に前回議論していた最処遇困難者というのは,もう懲罰もへったくれもなくて,そういう保護房みたいなところへ入れておく。そっちが優先されるということなのですかね,現実は。
○富山調査官 そうせざるを得ないケースはあります。保護房とすぐそばにある居室とを行ったり来たりしていると。
〇宮澤(浩)会長 保護房は,そんなに長くは入れないのでしょう。
○富山調査官 ちょっとでも落ち着けば出すのですが,出せばまた暴れ出してまた入れるということの繰返しになってしまったりするケースもあります。
〇滝鼻委員 そこが正に問題なのでしょう,ここで議論しているところの。
〇宮澤(浩)会長 今保護房を菊田さんの言われるように懲罰なのか保護房なのかよく分からないというような,そういう使われ方を現場の裁量でやっているということはあるのですか。今のこういうぴしっと説明されたような範疇でないような使われ方があるのかなという。
○富山調査官 絶対にないのかと言われますと,それは74ある現場の中でそういう運用をした個別案件はあるかもしれません。ですけれども,それは決して当局として認知すべき話ではなくて,そんな案件があれば厳しく指導しなければいけない。あってはならない使い方なのですね,懲罰のかわりに保護房を使うとしたら。保護房というのは,あくまでも応急措置なのです。
〇滝鼻委員 だけど,手のつけられない,どうにもならない,処遇できないような人は,やはりのっぺらぼうの空間の中に入れていますよね。多分府中で僕らが見たのは,そういうケースだと思うんだよ。だから,それはあなたが言うように懲罰の流れとは違うわけだよね。しかし,不科罰にしたわけでもないのだな。
○富山調査官 それはケースによるのですね。それはですから,保護房とは全く関係なしに別途科罰すべきかしないのかという話があり得るのですね。
〇滝鼻委員 それは形式的にはそうなのだけれども,実際は一番問題は,我々が議論してどうしようかと思っているのは,そっちの方なのでしょう。
〇菊田委員 おっしゃるとおりですよ。保護房は懲罰的に使われているというのは,実務家を含めて受刑者が言っていることだから,そこのところはやはりぴしっと議論しておく必要はあります。
〇滝鼻委員 全部が全部懲罰的に使われているのではなくて,手のつけられないような人をさ。懲罰だったら,だって法廷にも出たら暴れるのだろうしね。法廷ということはないけれども,法廷に似たようなところへね。懲罰審査会。だから隔離して,自傷行為もやるのだろうから,そういうのっぺらぼうの空間に入れるわけでしょう。だから,本来はこの審査会にかけなければいけないのを,その首席矯正処遇官の虫の居どころが悪いからといって保護房へ入れておけと,そういうことは多分,彼はやっているのではないかと疑うのだけれども,どうなの,それは。
○富山調査官 絶対にありません。
〇滝鼻委員 それはやってはいけないことだと言っているわけだ。
〇菊田委員 それ,やってはいけないのですよ。
〇滝鼻委員 見たわけではないのでしょう,だって。
〇菊田委員 本来は,保護房というのは自殺を防止するためのものなのですよ。
〇滝鼻委員 だって審査会だって,暴れちゃったら審査にならないのだから。審査会のときに糞尿をまき散らしたりなんかしたらどうにもならないでしょう。
〇菊田委員 だけど,それは独房があるのですよ,独居房が。保護房ではないのですよ。独居房に入れればいいのですよ。
〇滝鼻委員 だけど,自傷行為とかそういうこともあるのではないですか。だから,懲らしめがわりにのっぺらぼうの空間にぶち込んでいるのではないかと,そういうケースもあるのではないかと,そういうふうに菊田先生は疑っているわけでしょう。
〇菊田委員 もちろん全部ではないけれども,あり得るということを言っているわけ。
〇宮澤(浩)会長 そういうのは,なかなかこういう偉い人のところには上がってこないという。
〇滝鼻委員 偉い人のところには上がってこない。
〇富山調査官 ただ,保護房収容というのは,これは当然統括以上の者が指揮をしますし,収容されたとなれば所長……。
〇滝鼻委員 統括以上というと。
〇富山調査官 いわゆる現場で言うと看守長という階級にある者が収容という指揮をするのです,入れる必要がある場合には。そしてそれは,当然首席にも報告が来ますし,所長にまで報告が行きます。最終的には所長が権限を持っていますので,所長が「だめだ,出せ」と言えば,すぐ出さなければいけないのです。
〇滝鼻委員 ただ言えることは,最悪のケースに近いケースほど,やはり手続的にはきちんとしておいた方がいいということは言えるね。だからああいう事件が,あれが有罪か無罪か知らないけれども,ああいう事件が発生し,かつそれが闇から闇に葬られる。今度は闇から闇に葬られなくて起訴されたわけだからそうじゃないけれども,最悪のケースほどやはり手続的には透明にしておいた方がいいということは言えるよな,これは。
○富山調査官 おっしゃるとおりです。その点は保護房収容中の全時間をビデオで録画するという措置を今とれるように予算措置を講じようとしていますので,今現時点ではできておりませんけれども,近い将来にはそれができるようになります。
〇名取課付 そういう意味で,次の分科会で保護房収容の要件というのを別途議論していただくことに。
〇滝鼻委員 別の分科会ですか。
〇名取課付 この分科会で,次回の分科会で保護房収容の要件というのを議論していただくことになって,そこでも関連してくる話かなと思います。
〇滝鼻委員 それはそうですね。
〇井嶋委員 流れ図のところに,取調べ開始のところに,今でもやっているのでしょう,要するに14日間独居へ入れるでしょう,取調べのために,それを書いておいた方がいいですね,ここへ。英国のは拘禁と書いてあるのです。隔離と書いてありますが,日本も取調べのためには独居へ移すのです,雑居じゃだめですから。独居へ移して14日間取調べするわけです。それ,入れておいてください。
〇成田委員 全然初歩的な質問をしますけれども,これはお酒,アルコール,たばこというのはどうなのですか。
○富山調査官 これは,監獄法施行規則で禁止しておりまして。
〇成田委員 禁止,アルコール。
○富山調査官 はい。酒,たばこの摂取は認められておりません。厳密に言いますと,監獄法施行規則の条文が最近新しくなっておりまして,今別の省令ができておりますが,いずれにしても禁止しております。これも次回の保護房使用と所持物品のところで説明いたします。
〇成田委員 何かここに,英国監獄,処分される遵守事項,11ページですか,アルコール……。
〇菊田委員 それは,不正にアルコールをつくるのですよ。
〇滝鼻委員 前にちょっと戻したいのだけれども,最初に説明した動作要領の状況って,こういうことがいろいろ規律としてあるよという説明があったですね,この1ページのやつね。これをルール化したのが,各刑務所におけるルールブックとして各房につり下げてあるものなのですか。
○富山調査官 この動作要領というのは遵守事項ではなくて,もう一ついわゆる「所内生活の心得」というような冊子がありまして。
〇滝鼻委員 それに違反するとどうなるの。
○富山調査官 違反しても,特にそれだけでは何もありません。
〇宮澤(浩)会長 しかられるぐらい。
○富山調査官 正におっしゃるとおりなのです。それに違反すると,職員が注意,指導するわけです。それはこの標準的な生活の仕方に合わない。
〇滝鼻委員 だけど,懲罰の種類の中に叱責ってあるじゃないですか。
○富山調査官 あります。
〇滝鼻委員 これ,しかることでしょう。
○富山調査官 ただ,その意味での懲罰にすらいきません。「所内生活の心得」にただ違反しただけでは。
〇滝鼻委員 ああ,そうですか。
〇宮澤(浩)会長 昔の少年法みたいに,所長が叱責するというのはもう前科になるわけですよね。
〇滝鼻委員 これは日常生活の行動規範みたいなものですか。
○富山調査官 そうです。ですからこれだけではありませんで,もっといろんなことがいろいろ書いてあります。
〇滝鼻委員 これは絶対やってはいかんというのが,各刑務所で決められたルールブックになるわけ。
○富山調査官 遵守事項というのは,それに違反すると懲罰になるかもしれませんよという,もう絶対守らなければいけない事項というのが遵守事項です。こちらの動作要領その他は,「生活の心得」という別のオリエンテーション用の書物がありまして,これも居房にあるのですけれども。
〇滝鼻委員 そっちのやつはあるわけね。
○富山調査官 そうです。
〇滝鼻委員 「心得」と「遵守事項」。
○富山調査官 「心得」と「遵守事項」と2冊あるのです。「生活の心得」というのは,本当に施設ごとにさまざまです。これはその施設の建物の構造からいろんなところから来る違いがありますので。
〇宮澤(浩)会長 この間,それこそ事務局に差し上げたのですが,差出人の名前だとかそれから具体的な看守の名前を塗りつぶしたものを。複数の受刑者から僕のところへ来た手紙の中に,一切私的な話はしてはいけないのに,職員によってはそういうおしゃべりができるようなところで見て見ぬふりをするような者がいたりするというようなことを書いてあるとすると,およそここにあるように休憩時間は私語を禁止していないというのではないのかと思ったのだけれども。一切しちゃいけないのに,うるさく禁止する人もいるかと思うと,そういうことをしないで黙認しているようなこういうだらだらした職員がいると。そのように府中には,職員の義務違反的なことをやっている,怠けているような職員もいるけど,けしからんと受刑者から僕のところに,そういうふうに今や使命感のない職員がいるんですというような手紙が来たんです。
〇滝鼻委員 それは,厳しいのと余り注意しないのと個人差あるのかもしれないね。警察官だってそうだしね。
〇宮澤(浩)会長 思うのはそれはいいけどね,だけどやはり人によっていろいろな考え方もあるだろうから,余り画一的にとがめたりするのはおかしいのではないかと私は思いますがねという返事は出しておいたんだけれども。
○富山調査官 今の件,よろしいでしょうか。恐らく私の実務経験から言いますと,絶対規律違反行為に当たるのだからきちっと注意をしなければいけない場面で,いわば受刑者が怖くて注意ができないとか,注意をすると後々嫌だからということで逃げる職員が多分いるんだと思います。それは手紙に書かれた職員が本当にそうかどうかは分かりません。だけども,一部にはそういう職員は多分いると思います。そういう職員が,先ほど千葉でも籠絡事件があったとかというようなことを申し上げたのですが,気をつけないと手練手管にたけた受刑者などから籠絡されていいように使われてしまって,施設の規律を乱されてしまうというようなことがあります。これは管理者としては,絶対そんな職員が出ないように一生懸命研修するのですが,そういう側面では残念ながらやはりどこの施設にも見逃してしまうような逃げる職員がいるのかもしれません。
〇滝鼻委員 これは,過去の松山事件についても静岡事件についても,一度弱味を握られるとどんどんどんどんそれが拡大していくのですよね。
〇滝鼻委員 それから松山もそうだし静岡もそうだけれど,刑務所の責任者が自殺か何かしたですよね。
○富山調査官 何人も死んでいます。
〇滝鼻委員 そうですよね。だから,ちょっと弱味を見せて,例えば1,000円札1枚握らせたと。それはもうやってはいけないことだけれども,自分のポケットへ入れてしまったというところから,どんどん人のすき間をねらって違法行為を拡大していくのですよね。
〇宮澤(浩)会長 ですから,そういう意味では日本の刑務官というのは,本当に疲れる仕事ですよね。というのは,がんじ絡めにきちっきちっと余り規則をつくると,今みたいなことでふっと息抜きができないということになる危険があるのですよね。それがドイツなんかを見学にいらっしゃったら,そこのところが大分変わってきているのだというのを見てきてほしいというのは,そういうことを言いたいのですよ。
〇滝鼻委員 ただ受刑者から見ると,先ほど宮澤先生のところに手紙が来たように,公平であってもらいたいということはあるのでしょうね。
〇宮澤(浩)会長 そういうことかもしれない。
〇成田委員 今のお話を伺っていても,やはり刑務官にもいろいろな人格があるわけでしょう。でも基本的なもの,やはりここがしっかりしないと矯正もできないよね。だから,私は今後問題になってくるでしょうけれども,やはり刑務官の教育という問題も非常に大きいのではないですかね。もう社会変化が激しいでしょう。本当善悪がもう変わってきているというか,かなりお互い違いますよ,年齢によって。
〇宮澤(浩)会長 そういうふうになっていますよね。社会がめちゃくちゃになっているのに,ある意味では逆行しているみたいな,そんなことまで一々とがめ立てるように職務しなければならない仕事というのは疲れるなというふうに僕は思ったのだけれども。
〇成田委員 私はもう割とクールに決めていく。変に人格的に尊敬されるだとか何とかというのは……。
〇宮澤(浩)会長 これは菊田さんの御意見も聞きたいのだけれども,日本の場合は刑務官が処遇担当と,それからいわゆる監視役みたいなのとがごちゃごちゃでしょう。外国のを見ると,処遇はもう処遇の関係の人に任せて,おれは処遇じゃないのだ。おれは逃げないようにするのが仕事なのだというふうに割り切れるけれども,日本の場合は両方一緒になってしまっているから。
〇成田委員 私もそうだと思うんですよね。
〇滝鼻委員 やはりそれをごちゃごちゃにしているのが,刑務作業ですよね。
〇宮澤(浩)会長 それもそうでしょうね。
〇滝鼻委員 刑務作業が義務づけられているから。
〇宮澤(浩)会長 義務としての作業という。
〇滝鼻委員 義務なのでしょう,40時間。それをもうちょっと柔軟に考えないと,さっき言ったように本当に保護房へ入れるような人は刑務作業もへったくれもないかもしれないけれども,もうちょっと刑務作業をやらせるよりカウンセリングをやらせるとか,精神病の治療をするとか,あるいは薬づけから何か脱却する治療をするとか,そっちの方に時間を使うようにした方が。もうちょっと段階的処遇というのですか,そういう柔軟な……。
〇宮澤(浩)会長 更生にふさわしい処遇。
〇滝鼻委員 どうしても今法律改正できないというのなら,現行法の弾力的な運用とか,そういうことをやらないと,なかなか難しいですね。それは刑法学者みたいに,これは刑務作業やらせないと刑法違反だというようなことをいつまでたっても言っているようでは,なかなか。
〇宮澤(浩)会長 刑法学者は余り言わないので,内閣法制局の人が。
〇滝鼻委員 内閣法制局が言っているのですか。
〇宮澤(浩)会長 あれが大変なのですよ,とにかく。
〇成田委員 やはり一番プロフェッショナルでなくてはいけないポジションでしょう。一番悪い人たちが入ってきて,そこに私は今までの考え方ではちょっと教育できない。全人格的なあれというのは難しい。やはりセカンドベスト,サードベスト。そういう人たちしか来てないわけでしょう,心理学者入れていくだとか何とか言ったってね。これは私はだんだん世の中難しくなっていますから,すべてをやるということは非常に難しいと思うのですよね。だから分別して,これはこれだ,これはこれだというような形でやった方が何か処置しやすいのではないかな。
〇滝鼻委員 心理療法士とかソーシャルワーカーだとか,そういう治療サイドにいる人を技官と言うのですか。技官なんていう呼び方をするのですか。
○富山調査官 呼び方ですか。これは余り理由はございませんで,要は法務省の場合は法務事務官と法務教官と法務技官と,その3種類に職員を分けておりまして,なぜそう分けたのかというと,多分大分昔にそういう切り分けを決めて,それ以来変えてないというだけだと思うのです。
〇宮澤(浩)会長 法務教官というと,教員免状か何かがないとだめとかじゃなくて。
○富山調査官 なければだめというわけではなくて,法務教官という官職なのですね。ですから,少年院の教官はみんな法務教官ですし。
〇菊田委員 いずれにしても,最初のこの1ページの規律及び秩序の維持と言っていますけれども,刑事施設法のときもそういう批判がありましたけれども,規律及び秩序の維持ということが大優先ということには今は余り言うべき時期ではないのですよね。規律維持ということからいけば,こういうことになりますよ,それは。軍隊方式って,これは表現がいいかどうか分かりませんけれども,いわゆる軍隊方式というのはもうやめようじゃないですか。これは人を人として扱うという場合に,ちょうど軍隊と同じなのですよ,今の日本の刑務所は。それはミリタリー方式というのは世界の恥ですよ,これは。
〇滝鼻委員 ただ,必要なものもあるのではないですか。必要なことも。
〇宮澤(浩)会議 分列行進なんかやらされる。
〇菊田委員 もうオイチニ,オイチニでしょう。
〇滝鼻委員 だけど,そこをばらばら歩かせたら逃げられたときにどうするの。
〇菊田委員 ばらばらなんて言いませんよ,普通に歩かせればいいのです。
○富山調査官 どういうことをおっしゃっているのですか。今は別にばらばら歩かせないという意味では正に整然と行進をさせているのですけれども,それがいけないとおっしゃるのですよね。
〇菊田委員 そういうことを言っているんじゃない。オイチニ,オイチニと言っているでしょう。
○富山調査官 掛け声をやめろということですか。
〇菊田委員 はい。
○富山調査官 それだけなのですか。
〇菊田委員 いや,すべてそうでしょう。ここに来ているのは,普通の行進ならいいですよ,普通の行進は,おっしゃるように。だけど今はこんなことやっているでしょう,オイチニ,オイチニって。それから,何で部屋に正座して返事をしなければいけないの。どういうふうに座ってようといいじゃないですか,居房にいる限りは。
○富山調査官 正座,安座は点検時の話ですよ。
〇菊田委員 点検にしても,全部いろんな面がここに出ていますよ。点検のときとか工場にいるときとか,かんかん踊りとかね。かんかん踊りを既にやめたという話を聞いているけれども,やっているところもまだあるのでしょう,これ。裸でやっているところは。
○富山調査官 裸体の検査は,約半数の施設でやっております。
〇菊田委員 まだやっているでしょう。そんなの,今新しい空港でも機械があるのだから,幾らも着衣の上から検査できるわけですよ,するなら。だからそういう方向で,裸はもう全部やめるというようなことをやはり思い切ってやるべきじゃないですか。
○富山調査官 その辺は事務局から説明させていただきたいのですけれども,まず軍隊的行進とおっしゃる部分は,そのイチニ,イチニという声を出させることだけをもしおっしやっているのであれば,それは別にやめても支障はないのですけれどもね。
○菊田委員 それは象徴的ですよ。刑務官だって,こんな形で直立不動でやっているでしょう。何であんなことやるのですか。あんなの,軍隊のまねばかりやめようじゃないかと,そう思いますよ。
〇成田委員 今の小学校あるいは中学校で,我々は戦中派だから気をつけなり何なりというのは分かるのだけれども,今の子供たちはどうしているのかなと,小学校,あるいはデモクラシーのアメリカだとか何とかの学生たちは,あるいは今小学生,中学生にしても,あそこに行こうよといった場合にどういう形で行くのか。何かそういうものをちょっと研究してみたらどうかなという気がしたのですよ。何か今日本だってそうでしょう。大分変わっているのではないですか。
〇宮澤(浩)会長 少人数で,短時間で次のことをやらせるというようなことで,こういうふうになってしまうのかもしれませんね。
〇成田委員 ただ,何か私はやり方が菊田さんが言われるように,本当,軍隊調というか,何かもっといいやり方が。
〇菊田委員 すぐにガラッと変えるということは難しいと思いますよ。だけども,やはり普通の自然体でいくという方向で変えてほしいと思いますね。
○富山調査官 まず職員の敬礼なんかも,別にこの敬礼じゃなくたって何だっていいのですけれども,形自体は何でもいいのですが,要は上司が来たときには異常の有無を報告する。これは逆に言うと,報告がなければ異常である。異常発見をいかに迅速にやるかという意味なのですね。そういう形で,上司が近づくと異常の有無を報告する際に,たまたま旧帝国陸軍の敬礼を借りていると。
〇滝鼻委員 敬礼なんていうようなことは余りどうでもいいようなことで,それはガードマンだって敬礼やっているから,大学の警備員だって敬礼やっているじゃないですか。それは異常なしとお互いに点呼し合って確認し合うという意味があって,敬礼しているから軍隊方式とは思わないね,僕は。そういう表面的なことじゃないのですよ,僕が言いたいのは。そうじゃなくて,例えば裸体検査が菊田さんはやめろと言うけれども,裸体検査やめろと言っているわけではないのだね,かんかん踊りをやめろと言っているわけね。
〇菊田委員 いや,裸体検査ですよ。
〇滝鼻委員 ただ,裸体検査のいい,悪いの問題じゃなくて,例えばそこで何かを逃走のためのものを隠し持つとか,あるいはここにあるように,不正行為等の摘発事例ってあるでしょう。こういうことはやはりあってはいけないことだと思うのですね。それによって逃亡が発生したりね。それを防止するためには,今一番簡単かどうかしらない,それはやる人だって嫌な思いしてやっているのだろうけれども,裸体検査の方向で例えばパンツの中に何か持っているとか,それからこれ見るともう陰部にW級なんていうのはいっぱい入れているわけですよね。そういうものを防止しようとしているわけですよ。だから,裸体検査がいけないのではなくて,そこに行い不正行為を防止しようとするために,その方法論として裸体検査やっているわけ。これにかわる,今言った飛行場に置いてあるような異物検査できるようなものがあれば,これはそれだっていいと思うんだ。
〇菊田委員 そういうところに大いに金使えばいいんですよ。
〇滝鼻委員 すぐそこ飛んでしまうけれども,陰部から小さく折り畳んだ書き損じた便箋1枚とか密書とか,そんなものは金属探知機じゃ発見できないよね,これ。
〇菊田委員 そんなものは逃走に関係ないのだから。
〇滝鼻委員 それから密書とかさ。
〇菊田委員 不正だと言う方がおかしいのですよ,そんなものは。不正でも何でもないでしょう。逃走のための手段でも何でもない。
〇滝鼻委員 それは,何かそういうやばいものもあるかもしれないですよ。
〇菊田委員 だけど疑ってかかれば,何でも物すごく厳密に言えば,それは女性の膣内まで調べなければならないという,極端に言ってあるのですよ,そういうことが。麻薬なんかの関係でね。
〇滝鼻委員 そういう人間の尊厳を傷つけるような検査の方法はやめろと言うのだったら,それによって生じた社会不安というのを我々は甘んじて受けなければいけないのだね。
〇菊田委員 だから空港のようなものは。
〇滝鼻委員 それは金属しか写らないじゃない。
〇菊田委員 いいよ,それは。金属以外に,それは何だって武器になりますよ。今の小学校でナイフを禁止するなんていうあれがありましたけれども,鉛筆削りまで制限する。鉛筆削りだって凶器になります。だから刑務所だって,どんなことだって,紙からでもナイフつくってしまうのですよ。だから警戒すれば,幾らでも武器はつくるのですよね。そこなのですよ。やはり許された範囲というのはあると思う。
〇滝鼻委員 過去の数字を見ても,他国に比べて逃亡件数が少ないということは,悪いことなの。
〇菊田委員 それはまた議論になりますけれども,逃走が少ないのがいいのか悪いのかは,なぜ少ないかという,そこのところですよ,問題は。原因がどこにあるのか。
〇滝鼻委員 他国に比べて,他国の行刑施設に比べて日本の逃亡件数というのは少ないでしょう。自殺とかそういうのはちょっと別としてね。逃亡件数は少ないでしょう。10万人当たり4.5人。
〇菊田委員 だから,少なくすることが矯正施設の目的なら,幾らでも厳しくすれば少なくなります。
〇滝鼻委員 そんなことは言わないけれども,他国に比べてこの3とか4.5という数字を誇れないのですか。
〇菊田委員 私はだから,簡単に誇れることではないということを申し上げたいのですよ。
〇滝鼻委員 ただ,その行刑の目的というのは,ともかく犯罪者を,刑の確定犯罪者を社会から隔離することにまず問題がある,自由刑の場合はね,使命があるわけでしょう。作業というのはその付随した問題だから。だから,隔離すべき人が逃げるということは,行刑の目的を果たしてないということになる。
〇菊田委員 それですべてが果たされなかったというふうに評価するかしないかの問題なのですよ。
〇滝鼻委員 ちょっとおっしゃっていることが抽象的過ぎるから分からない。
〇菊田委員 何年間に一人も逃走がなかったら。
〇滝鼻委員 3人はあったのです。
〇菊田委員 3人あったのだけれども,それがゼロになったら日本の行刑が100%いいのかというと,そうでもないでしょう。
〇滝鼻委員 そんなことはない。少なくても763人逃げるよりはいいよ。
〇菊田委員 簡単にいいとは言えないというのが,私の議論なのですよ。
〇滝鼻委員 どうして。
〇菊田委員 これから,じゃ開放処遇とかあれをもう少し地域社会に密着した開かれた刑務所にしていこうというときになると,いろんな社会からの人が入ってくるしカウンセラーの人も出入りが出てくるわけですよ。そうすると,そこで開かれたところではどうしてもそれにまじっていろんな逃走の計画も容易になってくるでしょうし,いろんな弊害も出てくる。
〇滝鼻委員 開放処遇した市原刑務所から人が逃げてどこかへ行ってまた,あそこは自動車事故の人だけだから余り人を殺したり刺したりする人はいないのかもしれないけれども,そういうことは余り聞かないでしょう。市原刑務所から逃げた人というのは。
○富山調査官 市原は,かつて1件だけ逃走事例があります。
〇宮澤(浩)会長 もうすぐ仮釈放というような人が逃げちゃったらしいのですよ,一人。
〇滝鼻委員 ただ僕は,ちょっと議論をもとに戻すと,この一番最初の動作要領を全部なくせというのは,僕は余り賛成できないな。
〇菊田委員 そんなこと言ってない,僕は。
〇滝鼻委員 だから,再検討すべき問題はあるでしょう。
〇菊田委員 そうです。
〇滝鼻委員 だって今,私語はだめ,これは菊田説によると大体全部これは戻せとくるから。
〇菊田委員 かんかん踊りは,もう矯正当局がやめましたと言っているのです。
〇滝鼻委員 かんかん踊りと裸体検査は違うわけでしょう。
〇菊田委員 いや,同じことですよ。
〇滝鼻委員 同じことなの。
○富山調査官 着がえるときにパンツも脱いだ全裸の状態で職員の検査を受けるのが裸体検査です。先生がおっしゃっているかんかん踊りというのは,恐らくその際に例えば足を上げ手を上げという形で,そういうのを見せる動作をさせていると,それはいかにも踊りを踊っているみたいなのでかんかん踊りと言われていると思うのです。
〇滝鼻委員 それは分かったけど,裸体検査をやってない刑務所が半数あるというのでしょう。それは何でやらない刑務所とやる刑務所があるの。市原は別として。
○富山調査官 先ほども,約半数のほとんどがB級施設と言ったのですが,やはり収容されている受刑者の質が違うということで,A級,初め刑務所に入ってくる犯罪性の進んでない人たちを収容している施設は,基本的にパンツぐらいはいてやっても大丈夫ではないかという,いわば信頼してやっている。ただ,その結果としては実際,先ほどの摘発事例を見ていただきますと,Aの施設でも摘発はありますので,必ずしもそれでうまくいっているわけでもないのですが。
〇滝鼻委員 そういうこと。そうすると,この心得も動作要領というのも,刑務所によって違うわけですね。
○富山調査官 これは微妙に違います。微妙というか,結構違います。ただ,ここで挙げられている中で,上の方の四つについては,多くの施設でとかすべてとか書いてあります。最後の就寝時間中の動作もそうですが。
〇成田委員 さっきの集団行進,整列。あれも,これよりか方法ないのだろうなという気も……。
〇滝鼻委員 ある一定程度逃げても構わないというのはどうかね,だけど。健全じゃないというのでしょう,こんなにゼロだというのは。仮にゼロだったらさ。
〇井嶋委員 これからある程度は開放処遇に向かっていかなければならないという傾向の中で,逃げるということを重要視するかどうかというウエートの置き方を変えていかなければいけないということが,菊田先生の御意見でしょう。だけど,やはりそれは両方を追求しなければだめなのですよ。
〇滝鼻委員 自由刑と言っている以上,もうある程度逃げられてもしようがないのだということには賛成できないね。
〇井嶋委員 両方を追求するというつもりがなければできないです。
〇菊田委員 もちろんおっしゃるとおりなのです。だけども逃がさないために規律を厳しくすればいいということにはならないということ。
〇滝鼻委員 だけど,それは程度の問題だよね。人間の尊厳を傷つけるようなことはよくない。
〇菊田委員 そういうことです。
〇成田委員 日本の行刑史を見ていると,何か脱走しないということだけが非常に大きなテーマになっているような気がしたのですよね。逃がさないというか,脱獄しない。そのためにあらゆる懐柔策から何からやってきたというような気がしたのですよね。それも必要だけれども,やはりやり方が時代とともに変わってくるのではないかなと。
〇井嶋委員 逃亡を防止するのがまず第一ですよね,それは。だからそのために動作心得があるわけでしょうが,人間性を無視するようなことはしてはいかんと。これまた現代的に言えば真実なのです。ここは改めてもらいたい。
〇滝鼻委員 それは賛成です。だけど逃亡はある程度やむを得ないというのは,僕は絶対反対だ。なるべくなら,ゼロは不健全と言われるかもしれないけれども,それはゼロに限りなく近づいてもらいたい。
〇井嶋委員 それはそういう努力をしなければいけない。
〇滝鼻委員 自由刑を科しておいて,ある一定程度10%なら10%逃げるのは当然の社会の健全な姿だなんて言われたら,僕は反対です。
〇菊田委員 そんなことは言っていない。
〇成田委員 秩序を維持するために,ある厳しい制約,あれを守らないと維持できないですよ。この人たちをやっていくというのは,かなり厳しい規律。
〇滝鼻委員 事務局の方は理路整然と説明されるけれども,現場ではいろんな苦労があって,苦労と格闘しながら濃淡があるのでしょう,多分。僕は全部の刑務所知らないからね。
〇井嶋委員 僕も現場知らないのですけれども,さっきやった遵守事項,府中刑務所の,これずっと類型見ていっていても,逃走だとか自殺行為だとか何とかかんとか書いてある,みんなある程度行為で分かるものですよ。でも最も分かりにくいのは,要するに指示違反なのです。刑務官の指示違反というやつ。これは行為というのが,要するに刑務官の主観が入るわけですね。
〇滝鼻委員 府中のやつね。
〇井嶋委員 府中の10ページの2枚目,9の41。これ,法令,所内規則及び所内生活の心得という,さっきの動作心得なのですよ。これに基づく指示,命令に背いてはいけない。ですからこれは非常に,さっきの逃亡とか明白な遵守事項,だれが見ても分かる猥褻行為とか,そういうようなものとはちょっと質が違って,やはりここでいろんな刑務官の研修を受ける度合いだとか,資質とか,若年とか高齢,経験の多数とか,いろんなことによって変わってくる可能性がある。そこで結局いろんなトラブルが起こる。このトラブルのもとは,僕はこの指示違反だろうと思うのです,ある意味では。
〇滝鼻委員 これを統一基準つくるのは不可能ですよね。
〇井嶋委員 これを統一基準つくるのは難しいけれども,逆に指示違反という項目を例えばなくしてしまう。抗命とか何かになれば別だけれども,指示違反程度ではもう懲罰にしない,あるいは何回かやったらやるとか,そういうもっと客観化したものをつくらないと,ほかの行為とは非常に違いがあるので,しかも主観的だから相対的だから,受刑者との間にあつれきが一番起こしやすい部分なのです。主観性がある,しかも経験の差も違いますしね,年齢の差も違います。だから,ここを恐らく今度の事件もほとんどこういうところから来ているのだろうと思うのです。
〇滝鼻委員 その積み重ねでね。毎回毎回面倒かけやがってと。
〇井嶋委員 だから,さっき例えば動作要領で私語というのがあるでしょう。私語というのは,禁止されている場所でやってはいけないわけですよ。ところが私語も,遵守事項の方で見ますと,不正交談という33番のやつがありますね。これは交談を禁じられた場所で正当な理由なく話をしてはならない。これで規律違反になるのですね。これは,懲罰になるわけですね。そうすると,所内動作の私語というのと交談とどこがどう違うのか。恐らく私語を何回かやって指示をしているのにかかわらず禁止に従わないから不正交談に持っていくとか,そういうようなことになっていくのではないのかな。
○富山調査官 類型的には,正に先ほどの私語が不正交談ではあるのですが,1回やったぐらいでは懲罰を科してないということなのです,運用として。
〇井嶋委員 だから指示はすると,何回か。やめなさいと。そういう結局指示というのが間に入って,交談に上がっていくというようなものになっていくのだろうと思うのです,ある意味では。だから懲罰の前提となる指示が果たして合理性があるのかどうかという点が,両当事者間にけんかになる,いさかいになるもとではないのだろうか。
○富山調査官 もちろん合理性がないような指示で懲罰を打つことはありませんし,それだと先ほど言われたように命令に背く程度だったらばともかくという,やはりともかくに当たる部分で通常やはり指示違反というのは懲罰になるのですね。
〇井嶋委員 そこの現場において,トラブルのもとにそういうものが相当ありはしないかなという気はする。僕はそこは分かりませんけれども,そういう気がしますが,どんなものですかね。
○富山調査官 ただ,これはやはり抽象的な規定ではあるのですが,英国の監獄規則にも正に同じようなものがございまして。
〇井嶋委員 そうすると,指示というのをもっと根拠づけるとか,明確化するとか何とかしないと,あるいはだれでも同じ指示が出るというような形にしないと,懲罰の前提にする以上は。というようなところがあるのかもしれないなという気はするのです。
○富山調査官 ここはあくまでも法令とか所内規則,所内生活の心得に基づく指示でして,要するにそこにもとがないとだめなのですね。
〇井嶋委員 だから私語をやっていたら,これに基づいてやるでしょう。やめなさいと。
○富山調査官 あくまでも基づく指示なので,それをどこで発動するかが先ほどの会長のお話にもあったようにさぼっていてやらない職員がいると。それは正にけしからん話で,なかなかそこを統一するのが難しい面はあるのですけれども。
〇井嶋委員 だけど,やはり動作心得は団体でやっているのですから必要だろうと思いますね。これは必要だけれども,人間性を冒とくするようなものであってはいけない。
〇成田委員 規範は,割と軍隊調だというのが出ていますね。規律をあれすると,何かうまい方法ないのかな。例えば我々ゲット・アウトということ,レッツ・ゴーとかいうのといろいろあるじゃないですか,言い方。何か今子供たちはどうやっているのかな,普通,学校で。若い方がいらっしゃるけれども。運動部なんて……。
〇井嶋委員 運動部が駆け足していますよね,校外を。道路を走っていますよ。あれは掛け声かけながら走っていますよ。
〇宮澤(浩)会長 わっしょい,わっしょい,掛け声かけて。
〇井嶋委員 体育会系だから。
〇成田委員 「行くか」とか言って,ゴーとか言ってやっていると思うんだね。何か私も非常にあれ見ていて,菊田先生言っておられるけれども,何かそういうものを感じた。何かうまいあれはないのかなと。
〇滝鼻委員 知恵は出した方がいいと思うけれども,ともかく逃亡を助けるようなことは認めるべきじゃない。
〇成田委員 それは絶対いかんですね。
〇滝鼻委員 しかし,両極端ですよ。これに全部違反しているようなことが,渋谷の町で若者がやっているわけだからね。
〇井嶋委員 電車の中だって着座していますよ,堂々と。車座になってね,床に。
〇宮澤(浩)会長 よく分からないのだけれども,これに対応するような社会生活が全く崩れているわけだから,それで大きなギャップが出てくる。
〇成田委員 今までそういう社会に住んでいたのが入ってくるわけでしょう。だから非常に矯正手段としていいのかなと思う面もあるのですよね。
〇菊田委員 出たらまた別の完全に違った世界へ戻らなければいけないので,それは戻れないのですよ,今度は。余りにも刑務所になれ過ぎて。
〇宮澤(浩)会長 逆にね。
〇菊田委員 逆に。
〇宮澤(浩)会長 滝鼻先生のおっしゃったのも分かるのだけれども,僕はもちろん自由刑というのは自由を剥奪したり拘束したりするのが本質である。したがってそれに矛盾するような逃亡というのはやはりあってはならないものだ。それはそうなのです。だけれども,同時に自由を拘束された人間が逃げたいと思うのは本能なのだ。本能に基づく行動をして,しかも施設当局がちんたらちんたらやっていたからそれを利用して逃げられたら,これは非難してもいいけれども,何から何までとにかくそういうところから逃げたらこれは施設の責任だというような追及の仕方をするのも不自然だなという意見を僕は持っているのです。例えば少年院から逃走事故があったなんていうと大騒ぎをして,矯正局長に責任とれなんていうようなことをやりかねないけれども,それは無理です。それから開放処遇を認める以上は,そのリスクはあってもしようがないというのは,ある程度の暗黙のあれがあると思うのですけれどもね。その辺が建前と現実,入れられた人間の心理とそれを拘束する者の心理とのいろんな葛藤があるから,これはなかなか難しいのですよね。というのは,余り逃がさないように,逃がさないようにすると,人に対する処遇が非常に非人間的になってしまうという面もあるわけですよね。その辺のところのあうんの呼吸というのがあるわけで,しかしこういう会議の議論となるとどうも建前論が先行してしまうということがあってね。だから,本当にそうなのだな,難しいですよね。
〇成田委員 私は菊田先生が言われたように,非常に逃亡者がいない,脱獄者がいないというのは,やはり,そういうものを目的にした行刑が行われているのではないか。
〇宮澤(浩)会長 どこかで聞いたことがあるのですけれども,これはもしかするともう今はやめているかもしれないけれども,黒羽刑務所の構外作業場というのがあったのです,喜連川の。あそこは広い農場で,民間の土地か刑務所なのか分からないような簡単な柵かなんかでこうなっていて,そこの中は受刑者は一々職員がくっついて歩くなんてことをしいのですよ。そういうところの職員と話したときに,結局何が受刑者たちをつなぎとめているかというと,自分の担当の人に迷惑かけたくないという,その心理的なものが物理的な塀よりも大きな意味を持っているのだというような説明を受けて,そういうことも日本の矯正ではあるのかなと。それはさっきの,職員が単なる監視ではなくて,処遇担当者だというようなごちゃまぜになっているようないわく言いがたいのが日本の自由刑なのかななんて,その話を聞いたときに思ったのですけどね。
〇滝鼻委員 それは喜連川あるいは黒羽というああいうところだから,多分担当さんに対する人間関係とかそういうものがあって,あの人は裏切ってはだめなのだということを心理的拘束状態にあるのかもしれないけれども,今問題にしているのはそういうところではなくて,府中だとか東京拘置所だとか,名古屋とか大阪とか,そういう基幹的な刑務所でこういう事件が発生して,それをどうするかということだと思うのですよね。
〇菊田委員 だけど人間というのは,基本的には人間ですからね。やはり,おまえ信用するよということを言葉だけではなくて,やはり食べ物でも人としておまえをこういう食事をあげているのだよということであれば,どんな悪人もそこからやはり,あ,信頼してくれているのだなという思いが出てくると思うのですよ。刑務所へ行って,おまえはばかだ,悪いことしてきたと,社会のためにおまえは反省しろ,しろなんて言われれば言われるほど,このやろうという気にはなるのですよね。そこのところは兼ね合いですよ。
〇滝鼻委員 そういうことを言っているわけではないでしょう,ばかだって。だから行刑全体の全国の刑務所をどうするかというのではなくて,こういう事件が発生しているような重要な刑務所についての処遇をどうするかということでしょう,我々が議論しているのは。
○富山調査官 1点補足よろしいでしょうか。規律の維持は,今例えば逃走事故とか,もちろんそういう社会に大きな迷惑を与えることを防止することも大きな目的なのですが,もう一つ受刑者間での弱い者いじめの防止というのも,実はかなり大きなものとしてございまして,例えば刑務所にしかない規律として食べ物の授受というのがあるのです。例えば自分はトンカツが嫌いなのだけれども,隣の席の人がトンカツが大好物なのだ。私は食べないからよかったらどうぞというようなことを一切やってはいけないと,禁止しているのです。そのぐらいいいじゃないかというのは多分皆さん思うのですが,要はそれをいいと言うと,力の強い者が暗黙のうちに,みんな私は食べませんからどうぞ召し上がってくださいというようなことになってしまう。過去にそういうことがいっぱいあって,やはりそこはもう一切だめなのだと。
〇滝鼻委員 ボスをつくってしまうのだね。
○富山調査官 一切だめだと規制しないと,どうしてもうまくいかない。あるいは部屋の中で,だれがどこへ寝るんだというような布団の位置なんかも全部指定するのですが,これも好きにしなさいと言うと力の強いものがトイレから遠くて職員から見えづらい位置に行きたがる。やはりそういうのがあって,日本はそういうのが非常にきめ細かく規制しています,ある意味。それは,多分諸外国では余りないのかもしれません,そのようなことは。ですから,その辺が正に欧米は自由だけれども日本は規則づくめでやっているのではないのかと言われるのですが,逆に言うと弱い者がいじめられたりするような機会はかなり少なくなっているのではないかなと。私どもはそういうふうに思っています。すべての者が公平に扱われるように何とかしたいのだと。ただ,それが余り行き過ぎると,公平に扱う以上に規則でがんじ絡めにしてしまう。その辺がなかなか,正にバランスの難しいところだとは思うのですけれども。
〇成田委員 私は,これ初めいいじゃないかと思ったけれども,今理由を聞いて,ああ,なるほどそうだよね,それが結局いじめにつながったり,よこせよということで変なことになっていくから,やらせないのだということが分かって,それは僕はいいなと思いましたよ。だから,そういう趣旨が徹底していればいいのではないですか。こういうことで授受というものは行わせないと。そういうことはしないと,秩序を守れないですものね。いいと思う,非常にいいと思います。
〇井嶋委員 逆説的な言い方をすれば,要するに当局がこういう合理性があるからといってやっていることが,そんなところまで当局は責任持たなくてもいいよという考えで見直してみたら,もっと規則が少なくて済まないのかという指摘があるのだろうと思います。ですから,今いじめられてはかわいそうだからと。かわいそうだけれども,それぐらいもう団体だから仕方ないというふうに例えば考えるならば,その部分は飛ぶわけですよ,ルールとしてね。そういうような見方で,当局がこれは合理的な理由があるといって一生懸命説明する部分をもう一回見直してみたら,案外ドロップできるものが出てきはしないかという疑問はないわけではない,ある意味では。
〇滝鼻委員 やはり真人間にして社会に戻してやるなんていうことは,それはできないから,そんなものはやめた方がいいと思います。改善更生の方向はいい。方向はいいけど,大体まだ戻ってきてしまうのでしょう,ほとんどが。真人間になって戻してやるなんていうことは,考え直した方がいいね。
〇成田委員 願いだけどもね。
〇井嶋委員 余りにも当局が何でもかんでもやらなければいけないという気持ちを持ち過ぎているというのが,日本の行刑当局の特色だ。
〇滝鼻委員 仮出獄ってあるでしょう。満期じゃなくて出てくる人が多いですよね。
○富山調査官 仮出獄と満期というと,比率的にはほぼ半々だと思います。
〇滝鼻委員 そうすると,こういう規律違反を犯した人の履歴というのは,何とか更生保護委員会ってあるじゃないですか。地方更生保護委員会とか中央更生保護審査会,そこに資料として出るのですか。
○富山調査官 出ます。懲罰を累行するような者は,基本的に施設側からも申請をしません,仮出獄の。
〇滝鼻委員 そうすると,さっきイギリスでは刑期を40日間延ばすことができると言ったけれども,それは日本ではできないわけだけれども,仮出獄するかさせないかというところで事実上の刑期を延ばしたり縮めたりする効果はあるわけだね。
○富山調査官 そうですね。
〇滝鼻委員 それを厳しくするということの方が,収容者にとっては怖いのかもしれないね,そうしたら。
〇菊田委員 ほとんど満期まで入ることを覚悟して規則違反もやりますから,悪いのは。
〇宮澤(浩)会長 しかもそういう刑期が日本は比較的軽い。
〇滝鼻委員 そういうのが満期で出てくると思うとぞっとするよね。
〇宮澤(浩)会長 そこは,だからしようがないのですよ。そこはこの国の,本当に日本の社会守る気あるのかねというような問題がないわけではないのですけれども。そうなってしまうと,我々の仕事の範疇を越えますからね。
〇井嶋委員 この前もあったけれども,暴力団が物すごくたくさんいる。覚せい剤がたくさん5割もいる,4分の1もいるというようなことになったときに,3分の1いるということになったときに,どういうふうにして,どの系統の者をどこの房へ入れ,どの系統の者を離してどの房へ入れるということを考えるのですよ,行刑は。物すごく大変なことですよ。不可能になってくるわけですね。しかしそれは,やはり何とかしてこの中で系列の者がしゃべったらいけないとか,何とかしてはいけないということを防止するために必要だとおっしゃるわけだけれども,そんなものしゃばでは自由にやっているわけだから,たまたま入ってきたときにそういうことをされないだけのことを幾らやろうとしたって,そんなものむだだから,そんなこと考える必要ないでしょうといえば,その部分で何か規律化しているものは飛ぶわけですね。そういう発想というのはもうちょっと考えてもらえないだろうかなということはある。
〇滝鼻委員 日本型刑務所のきめ細かさというのは多分あるのでしょう。
〇井嶋委員 物すごくいいことですよ。悪いとは言わないのだけれども。
〇滝鼻委員 だから刑務官がピストル持たないで同じ作業所の中にいたり,それからよく映画なんか見ると,アメリカだかイギリスだか知らないけど,機関銃みたいなのを持って檻の外から警戒しているでしょう。ああいうことは日本にないですよね。
〇宮澤(浩)会長 監視塔ですか。
〇滝鼻委員 そうじゃない。両側に房があって,真ん中をピストル持った看守が歩いたりしているでしょう。日本はないでしょう。それはある程度,そういうきめ細かい処遇をして,若干の信頼関係をつくりながらうまくやっていこうという積み重ねがあった。それが余り行き過ぎてしまって,きめ細か過ぎちゃって,かんかん踊りだとか私語禁止だとか,行き過ぎたところはあるのだろうね。
〇井嶋委員 そうなのです。過剰収容になって対象者はふえる,職員は少ない,ますます大変です。
〇滝鼻委員 だから今井嶋さんがおっしゃったように,少々の山口組と何とか組が一緒になっても構わないと。
〇井嶋委員 構わないとは言わないけれども。そんなところに頭使っていくのは大変でしょうと。
〇滝鼻委員 けんかしろと。そのかわり刑務官は外でピストル持って警備すると。そういうふうにガラッと変えちゃえというのなら,それはそういう手もあるかもしれないね。
〇井嶋委員 象徴的に言ったのですよ,僕は今。それをやれとは言ってないのだけれどもね。
〇成田委員 限りなく性善説である面と,限りなく性悪説的な面が共存しているんだね。向こうはもうはっきり,性善,性悪でもない。
〇滝鼻委員 この議論の中でもそうだもんね。
〇成田委員 もう檻の中から出たら殺すよという形でしょう,向こうは,はっきり。
〇滝鼻委員 そのかわり電話も何も自由だと。自由でもないらしいけど,電話かけてよろしいと。
〇宮澤(浩)会長 あれ,アメリカの場合は,電話はだれが払うの。受刑者が払うの。
〇菊田委員 コレクトコールで家族が負担する。
〇宮澤(浩)会長 だと,相手が家族じゃなくて暴力団ということもあり得るでしょう。
〇菊田委員 あるんですよ。ただリストを出しまして,こういう人って初めから決まっているのですけれどもね。何か月ごとに変更できるのです,名簿を変更できる。それほど厳格ではないのです,制限は。ただモニターされていますから,しゃべっているのは。
〇成田委員 それからさっきの,私は食べ物をこういうルールだとか何とか,そういうさっきも出たけれども,それはお節介じゃないかと,そういうことももう一人立ちしろよというような考え方もあるでしょうけれども。
〇井嶋委員 考え方としてね。そういう見直しをしないと解決しない。人は少ない,相手はどんどんふえてくるというときにどうするのということになったら,何かそういうところを少しシャッフルしないと,何もならないじゃないのということも言わなければいけないだろうと思うのですよ。だからといって,本質がなくなってしまったら意味がない。そこの難しさなのですね。
〇菊田委員 我々の班のあれではないけれども,例えば面会にしましても,日本は一人一人あそこに刑務官が立って,何しゃべっているまであれしているわけでしょう。あんなことやったら,刑務官幾らふやしたって足りないですよ。やはり大きな広場に集団で面会させて,刑務官が一人いて,家族がわいわいしゃべれるような,これはどこでも外国でやっていることだから,私は日本は是非ともそれを実現してほしいと思いますね。
○富山調査官 ただイギリスなんか,正にそういうやり方をしているのですけれども,その結果先ほど御紹介したように所内での麻薬使用率が10%を超えているという。そこのリスクを考えていただかないといけないということだと思います。
〇井嶋委員 授受があるわけですね,そういう機会。しゃべるだけならいいんだけどね。
〇滝鼻委員 外国でやっていることがすべていいとは限らないから,いいところだけは取り入れて,悪いところはもうイギリスの刑務所でもアメリカの刑務所でも日本には取り入れないというふうにしないと。
〇菊田委員 ただ面会については,私はそういう方式をとることは必要だと思いますね。
〇井嶋委員 その結果若干不正授受が行われても,それは目をつぶるぐらいのことを考えないと。
〇菊田委員 チェックは厳重にした方がいいですよね。家族の出入りのときは厳重に調べるとか。
○富山調査官 イギリスも厳重にチェックしているのですよ。私たちも見学に行くときに,ベルトまでとられて,ズボンのベルト外せと言われて,ベルトを外して全部チェックされて,日本の政府から来たといってもそのぐらいされるぐらいなチェックはしているのですよね。それでも,やはりだめなのです。
〇菊田委員 子供がお父さんに会いに来ても,お父さんだって抱いてももらえないような面会の在り方というのは,やはり問題だと思いますよ。
〇宮澤(浩)会長 そこが問題なのですよね。これから累進制ではないようにしようという考え方とすれば,比較的問題のないと言ったら変ですけれども,処遇の容易な受刑者の入っている施設では,やはり所長の裁量でもって,ガチッと遮断しているところしか行かれないというのではなくて,そういうところだったら1級者でなくたって2級者でなくたって,天気のいいときは外の面会するようなベンチみたいなところでやってもいいというふうになってほしいなと思うのですけれどもね。今みたいなものですと,どうしても全部画一的,一斉にというふうに法律をしなければなかなかできないというのだと,1級者ならこういうことができるけれども,あるいは2級者ならいいけれども,あるいは市原ならいいけどというふうに,あそこは4級じゃなくて2級待遇から始めるのだというようなことで合理化しているのかもしれないですけれどもね。市原的なものでない,それこそ比較的感情のいいのも要るだろうし,今度東西に500人ずつ初犯を入れるというようなことを構想するとすれば,そういう刑務所のやはり面会の在り方とかいうようなものは,もうちょっとフレキシブルに考えていいのではないかなという気はしますがね。
〇滝鼻委員 僕が非常に心配するのは,成田さんとか僕みたいに行刑に全く今まで関係ない素人の委員がこういうところへ入っているというのは,仮に現行のルールを若干緩和することによって,逃亡者が激増するということは多分ないと思うけれども,いずれにしても一般社会がある程度の危険を甘受する,何かあってもこれは社会としてはこのぐらいの危険はしようがない。それよりも受刑者の人間性とか人権の方が尊重しなければならないだろうと,そういう意識になれば僕はいいと思うのです。ただ,何か有事の,事件があるいは事故が発生したときに,なぜ刑務所はもっと厳しくしないのだという意見が必ず起こるのです。それはマスコミが書くというのではなくて,一般世論がそういうことになると思う。そういうときに,成田さんとか僕みたいな外からこういう議論に参加している人たちが,とかくやはりいいじゃないか,いいじゃないかの方に流れているケースが今までほかの審議会なんか見るとあるのです。しかしこのケースについては,ちょっと待てよといつも僕は頭の中でブレーキかけているわけ。成田さんも多分そうだと思うんだね。ある程度社会が,刑務所から発生するいろんな危険信号とか,あるいは危険を含んだような事故,事件が甘受するだけに日本の社会というのは成熟しているかどうかということです。
〇菊田委員 おっしゃることはよく分かりますけれども,ただいつも議論に出るように,5年なら5年で必ず彼らは外に出るわけですよ。そして今7割,8割がまた刑務所に入ってくるのですね。その間には,また新たな被害者が出ているわけですね,社会に。やはり逃げることを防ぐことも必要だけれども,社会の安定も大事だけれども,その刑務所というところは基本的には悪いことをしたのだけれども,被害者のためもあるけれども,その人間が出てからやはりもう犯罪しないようにという一つの目標のもとにあるのだ。これがやはり一番社会にとっても大事なことではないかということは,私は言うべきだと思いますね。
〇滝鼻委員 そうすると,自由刑の社会からの隔離,健全な社会からの隔離するというよりは,真人間になって出してやろうという方に重点を置くべきだと。
〇菊田委員 そう思います,それは。
〇宮澤(浩)会長 理想かもしれないけれども,やはり社会復帰というのもネグレクトしたら,刑務所としてはね。
〇井嶋委員 10人のうち何人かはそうして更生できるわけですから。
〇成田委員 私も,それはまともになる人はなって欲しいし,そういう期待がありますよね。ただ半端で出てあれすると,非常に今ちょっと殺人だとか何とか,かなりけた違いのあれで。
〇滝鼻委員 出戻り率を低くすればいいのだと,こういうことですね。
〇宮澤(浩)会長 それが難しいのですよね。
〇菊田委員 それは難しい。どの国だって成功していませんからね。アメリカだって7割,8割が再犯していますからね。しかし,理屈としてはそのために施設があるわけで,目標に向かってやる。それと同時におっしゃるように,自由刑というのは自由を拘束するのだということ,今世界的にそういう原理になってきて,そこで不自由を味わわせるのだということなので,あとは人として扱うというようなのが基本ですよね。
〇滝鼻委員 人として扱うのはそうだけれども,それは刑罰を受けているのだから,我々外にいる人と全く同じということはあり得ないのだよ,それは。
〇成田委員 生命として,人間としてというものはあらなくてはいけないだろうし。
○富山調査官 今再犯の話が出ましたので,再入の統計が手元にあるのですが,出所後6年以内の再入率というのを法務省では統計をとっておりまして,全体的に言いますとおおむね48%前後,最近は。出所してから6年間の間に再入をして戻ってくる者が全体としては48%前後。50%弱おります。仮釈放の者については,それが大体40%ぐらい。満期の者は60%弱ぐらいな比率になっております。これは6年間という期間を置いた再犯ですので,かなり長期間にわたって見ております。
〇滝鼻委員 仮釈は30何パーセント。
○富山調査官 仮釈をされた者のうちの再犯が,たまたま平成9年に出た受刑者が14年末までということで,40.8%になっております。
〇滝鼻委員 満期が。
○富山調査官 満期の場合は,この平成9年で見ますと58.6%が再入しております。6年以内の再入です。
〇成田委員 私はやはり多いと思うけどね。
○富山調査官 この再入というのは,期間をどこでとるかで実はいろいろ数字が変わってきますので,諸外国との比較の際には,一体出所後何年までの再犯をカウントしているのかというのを見ないと,えらく数字が違ってしまいます。長いスパンです。大体2年ぐらいでとるケースが多いのですが,日本の場合はかなりしつこく追いかけて統計をとっていますので。
〇成田委員 怠け者にとっては楽なところだものね。
〇宮澤(浩)会長 ただ再犯という概念がこれまた難しいので,交通事故は入らない。
○富山調査官 日本のこの統計はいわゆる再入率でして,再び受刑することではなくて,要するに罰金ぐらいでは入らないのです。また自由刑に処されて初めてカウントされる。
〇宮澤(浩)会長 これ,罪種ごとのあれはないのでしょう。例えば窃盗の場合はどうだとか,殺人ならどうだとか。窃盗だと大分,同じようなことをやる人が多いから。
○富山調査官 ぴったり当てはまるものが出るかどうか分かりませんが,結構再入受刑者の統計も,この統計年報には入っておりますので。
〇滝鼻委員 規律を緩めると,この再入率というのは下がっていくのかな。その因果関係が分かれば,それは相当緩めてもさ。そんな単純な話じゃないでしょう。
〇菊田委員 そうではないですから。
〇宮澤(浩)会長 家族が崩壊したかもしれないしね。親が全然拒否してしまって,寄りつかせない。その親に対する憎しみで事件を起すなんていうのもいるしね。
〇成田委員 今あの人たち刑務所に入るということは,昔とかなり違うような気がするのですよ。
〇宮澤(浩)会長 どういうふうにですか。
〇成田委員 昔は,もう刑務所に入ったといったらえらいことだ,その家にとっては。ところが最近は,余り……。
〇宮澤(浩)会長 覚せい剤のときは,親がどうもそんな感じでしたね。僕は1例しか知らないけれども,もう幾ら言っても言うこと聞かないのだから,刑務所へ行って懲りてらっしゃいなんて母親が言っているのでびっくりしたことがありました。
〇成田委員 今こちらの刑務所の生活は,そんなに苦しくないですよ。それは自由刑でこうやられているけれども,5年,6年入るけれども。だって,食事はあるわけでしょう。
〇宮澤(浩)会長 それは衣食住が保障されているから。
〇成田委員 だって,今の人たち,大体そういう人たちが戻ってきている面もあるのではないですか。この間だれかに聞いたら,歯を治すために入ってきたという。そういう人たちもいる。
〇宮澤(浩)会長 余りちゃんとした治療はしてくれないらしいけどね。
〇成田委員 それと医療の設備だってある程度あれでしょう。ですから,何か刑務所へ入ることは恥だ,恥ずかしいとかいうようなものがなくなってきているような気がするのですね。
〇滝鼻委員 再入所率48%,そういう現実を社会一般が知って,刑務所のルールを緩和するということ,それはもともと変なルールは改正するとしても,ルールを緩和する。ルールを緩和する理由は人間性の回復ですとかよ,いろんなことを言って世の中の人は納得するかしら。
〇菊田委員 それは専門じゃないのだから,納得しない面も多いと思います。被害者の面を考えても……。
〇滝鼻委員 被害者だけではなくて。
〇菊田委員 一般国民は,どちらかといえば被害者側に感情的には荷担するわけですよ。悪いことした人というのは,そんなに一般の人は余り同情的じゃないですから。だからそれは刑罰を重くしろという一般国民の意見は,歴史上ずっと高いですよ。だけどそれを政府なり我々専門家なりが刑務所をどう改善していくかというのは,世論に逆行してでもリードしなければならない面はあるわけですよ。そういう理屈だと私は思っていますがね。
〇滝鼻委員 そういう考え方は僕も賛成ですよ。必要なら世論に逆行しても,大衆に迎合しないで変えるべきものは変えるという考え方は僕は正しいし,僕も同じ考え方だけれども,このケースについてはどうかなという。
〇菊田委員 このケースといいますと。
〇滝鼻委員 今議論している行刑の問題。
〇菊田委員 我々は日本の行刑全般を考えているのですから,それこそ不遜ながら……。
〇滝鼻委員 大衆迎合するなと。
〇菊田委員 そうでないと事を改革できませんよ。
〇成田委員 大衆迎合というのは,どういうのが大衆迎合。
〇菊田委員 先生が今おっしゃったように,世論がもっと刑罰を厳しくしろということであれば,今人道的に行くということについては消極的な方がいいのではないかという意味のことをおっしゃるから,そうではないということを私は申し上げているわけです。
〇成田委員 ある面では,刑罰が厳しくないから戻ってくるのかもしれないね。
〇滝鼻委員 菊田先生,刑罰を厳しくしろと言っているのではなくて,処遇の問題を言っているのですよ。刑罰は刑法にあるのだから,僕らはそんなことまで手をつけるのは僕らの越権。処遇の問題よ。処遇とか刑務所内ルールだとか,そういうことの問題。
〇宮澤(浩)会長 僕は時々怒られる議論なのですけれども,やはり刑事政策にはある程度冒険をするところが必要なのだという。やはり最終的にはだから性善説なのかなと思いますけどね。やはり受刑者たちが自分でしまった,これはいかんというような気持ちが持てるような,そういう処遇であってほしいなと。もうがんじ絡めで,悪いことしたのだからしようがないやといって自分に納得させるよりも,これだけ信用してもらえているのだなとか,一昔前の刑務所と違って随分我々のことを国は考えてくれているのだなというようなことを思わせるような,そういうものであるとするならば,余り何から何まで杓子定規に手も足も出ないようにするのはいけないのではないかなというのが,僕の基本的な考え方なのではあるのです。
〇滝鼻委員 であるのだったら,ここで議論する問題ではないけれども,刑務官がもっと全体的にレベルが上がって,自分の職業に対して誇りを持ち,かつプロフェッショナルにもうちょっと訓練されないと,なかなかそういう冒険というのは難しいですよね。
〇宮澤(浩)会長 だから全部の刑務所にそうやれと言うつもりはないのですけれども,A級の刑務所だとか,それから今度できるであろう500人ずつの初犯者を入れてどうのこうのというような施設は,やはり余りがんじ絡めじゃないような施設であってほしいなと。
〇滝鼻委員 PFIの……。
〇宮澤(浩)会長 そうです。あるいはどうにもならない方々が入っているようなところで,あっちの区画はずるいじゃないか,こっちの区画は厳しいけれどもというふうな,同じ中で差が余りぎらぎらすると,かえってまたきつい方に入れられた者がひねくれちゃったりするかもしれないから,やはりその施設によって,少年刑務所の場合はこうだとか,A級で比較的質のいいのが入っている場合にはこうだというようなことを所長としてできるようにするには,余りこういうふうにしておかない方がいいなというのが,僕の個人的な考えではあるのです。
〇成田委員 だから,そういう意味でも刑務所が一つの学びの館であるという面もあるでしょうし,私は法治国家だからルールはルールだよ,それはだめよということで入れて,それで何年かあれすると。それが本当痛い思いをして,これは二度とやめたということでやっていくような更生の道を歩んでいけば,もっと望ましいわけですよね。
〇宮澤(浩)会長 夢だなんて言われるかもしれないですけれども,監獄法改正のときに提案した中に,釈放が比較的近くなったときに旅行日を入れて1週間家族のところへ返すとか,そういう制度なんかも恐らく念頭に入れなければならないだろうし,それから外部通勤,こういうようなものも案では考えたのです。
〇成田委員 私は半分の人は,やはりもう二度とここへ来ることはしないよということで帰っていっていると思うのです。半分は,また再度お世話になる。だからある面,もうフィフティフィフティだという割切り方でいいのか,それだけやはり社会の構造が変わってきていると。昔はやはり恥ずかしくてというあれが,親子何代のあれだというような形で。
〇宮澤(浩)会長 受取り方の差なのですけれども,6年間という間に再犯しないのが50%を上回っているというのは,僕は国際的に見たらすごい数字だと思いますが。ですからそういう意味で,やはり日本の矯正は失敗ばかりしてないのですよ。だけど,その50%近いのが失敗しているというのも厳然たる事実であることは事実なのだけれども,ただ6年間というのはいかにも長いですね。
〇菊田委員 失敗しているかどうかは分からないですよ。何も矯正効果によってこの程度で終わっているのかどうか,それはどうも分からないです。
〇宮澤(浩)会長 この間のあの人なんかもそうだものね。最初に説明した漫画家の人もそうだし,もう一人小説書いている安部さんなんかもそうなのでしょうね。
〇成田委員 私はしかし一貫してあれするのは,やはり刑務官の心の持ちよう,要するに何なのだというようなものをはっきりしてやらないと,この人たちの負担が重たくなってくる。それと,それの持っていくまでに分別しようではないか。そういうふうにした方が,一つの効果は高いのではないかというような気がするのですね。何か一律にやるのではなくて。
〇井嶋委員 きょうは規律と懲罰ですけれども,規律も説明では刑務所によって中身に違いがあると言っているわけですから,重い,軽いも違いがあるのだろうと思うから,これは今皆さんがおっしゃったようにそういう方向で更に深化していくのは認めていいのだろうと思います。逆に重くする,つまり重警備的な分類をする要素というものが若干入ってきて規律がそっちへ行くのというのは,今度は菊田委員先生は反対されるかもしれないけれども,そういう重警備,軽警備みたいな要素を入れて規律ともう少し合理性を持ったリンクをさせてやっていくと,もう少し重警備の刑務官はそれは大ベテランになるし,軽警備の人はこっちへ持ってきたら全然役に立たないけれどもこちらで頑張ってもらいますというようなことに将来になっていくのかもしれない。
〇菊田委員 こういうこともあるのです。重警備に入っていても,善行な,規則違反しなければ軽警備に移すとか。そういうことなのですよね。
〇井嶋委員 それはもちろん,そういうワタリがあってもいいのですよ。
〇菊田委員 永久に重警備は重警備じゃないわけですから。
〇井嶋委員 ワタリがあってもいいのだけれども。
〇菊田委員 規則違反すれば,悪いやつはもう重警備に入ると。
〇井嶋委員 重とか軽とかという,規律というのはある程度警備ですからね,本質は,ですからそういう要素を加味した,今までは重警備という分類はしていませんから。だけどそういう要素を加味した規律の在り方,処罰の在り方みたいなものをきめ細かくやっていけば,宮澤さんがおっしゃったようにPFIの方はほとんど懲罰なしでいいというようなものになっていくのではないだろうかということで,見直しもそういう方向も一つあるのだろうと思いますね。
〇滝鼻委員 重警備と軽警備の刑務所では,あるいはゾーンでは,規律が違ってくるわけ。
〇井嶋委員 若干そうです。
〇滝鼻委員 法のもとの平等とか,青臭いことを言えば,そういうことは余り……。
〇井嶋委員 そこが,今度は行刑当局は平等の問題を持ち出すわけです。そういうことをしては困るという。だけど,それはもちろん不平等になってはいけませんが,憲法に反しない限りはできるわけですから,正に公共の福祉じゃないけれども,刑務所の内の公共の福祉ですよ,ある意味では。だから合理性がなきゃいけませんよ。いけませんが,そういうものを要素として入れる余地はないのかなと。
〇成田委員 私はやはり,ディシジョンしなくてはいけない面はあるわけですからね。決めなくてはいけない。実際重警備,軽警備だとかいろいろ問題が起こったときに,やはり判断するのは人が判断するので,そこに間違いが起こらないようにするということで。
〇菊田委員 前回でしたか,だれか参考人を呼んだらどうかという意見がありましたけれども,まだ時期は早いのでしょうか。私の提案としては,実務家と研究者と,できれば二人を参考人に来てもらって,今の本当の,そこにも実務家はいらっしゃるけれども,現場の人の話をもう一度聞くということと,イギリスやフランス,ドイツなどの専門家がいるものですから,一人私の候補は一人いるのですけれども,そういうのを呼んで話を聞くというのはいかがですか。
〇井嶋委員 行かれるのでしょう,イギリスは。
〇菊田委員 行きます。
〇成田委員 私は刑務官の話もお聞きしたいのだけれども,刑務官も非常に慎重で話しにくいだろうね。
〇滝鼻委員 しかしこういうところに出て,この間も出てきたのは刑務官というのは模範生なのだ,みんなね。本当に苦労してどろどろになってこのやろうなんて思っているのは,こういうところへ来てヒアリングなんて受けないのだから。そういうのを連れてきて,それは菊田先生のところへ文句言ってくるような刑務官を連れてきて,ここでしゃべってもらえば,それは参考になるかもしれないけれども。模範生連れてきたって。ただ,聞かないより聞いた方がいいかな。
〇井嶋委員 この前も言ったけれども,現場の人確かにいいのだけれども,アンケートの結果がもうすぐ出るそうだから,それを見てからということでこの前申し上げたのです。
〇滝鼻委員 研究者はだって二人いるのだから,もうこれ以上研究者は要らないです。
〇井嶋委員 実務家いいけれども,どんなアンケート結果が出るのか,ちょっとそれを様子見てからでいいのではないですか。あれはB級に限らない,万遍なくとったのでしょう。
○富山調査官 職員は,たしか網走刑務所と……。
〇井嶋委員 B級以外で。A級なんかも入るのでしょう。
○富山調査官 大分刑務所の職員からもたしかとっています。
〇滝鼻委員 自由刑もあるわけでしょう。
〇井嶋委員 あるわけだから,それを見ればもう少し僕は実感として分かると思うのですね。それを見てからにしましょうよ。僕はA級の刑務官が危機意識を持っているのかどうかよく分からないのだけれどもね。どうだろう。
○富山調査官 やはり今過剰収容はむしろAの方がひどいところもありますから。
〇井嶋委員 人数が多いことはあるけどね。Aの人は聞いてみたいなという気はするのだけれども。

3.その他

〇宮澤(浩)会長 もうそろそろ5分だけれども,そちらから何かおっしゃることはありますか。
○富山調査官 特段連絡事項等はございませんが,きょうは規律と懲罰ということで御議論いただきましたけれども,また次回若干リフレインしていただくような部分もあるかと思いますので,また会長と御相談して次回の議事次第を決めさせていただきたいと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。
〇井嶋委員 一応予定としては,保護房と所持品か。
○富山調査官 はい。
〇滝鼻委員 6日ですか。
○富山調査官 6日です。ちょっとお時間からしますと,きょうはまだ懲罰に関して余り具体的なお話をしていただいていないような気がしますので,その意味では来週は所持品はとりあえず落としまして,保護房と昼夜独居拘禁というようなことで,その辺に限らせていただいた方がよろしいのかなとも思うのですが。
〇宮澤(浩)会長 どうもありがとうございました。


午後4時55分 閉会