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法教育研究会第1回会議議事録

日時 平成15年9月22日(月)
午後2時~午後4時10分

場所 法務省大会議室
開会


大塲参事官 所定の時刻になりましたので,法教育研究会の第1回会議を開催させていただきます。
 初めに,法務事務次官からあいさつがございます。

但木事務次官 法務事務次官の但木と申します。本日,法教育研究会の発足に当たりまして,一言お礼を申し上げたいと思います。
 皆様御承知のとおり,ただいま我が国は大きな転換点に差しかかっております。行政による法的規制,あるいは行政指導,あるいは護送船団方式による保護主義というような社会から,自己責任,あるいは自律的判断に基づく自由な活動,あるいは公正で透明性のあるルールに従った紛争の解決というような社会に転換しようとしております。このような社会を実現するためには,どうしても国民の気持ちの中に,自分の権利をしっかり守って公正な解決を求めるという,そうした意識が醸成されることが必要不可欠であると思っております。
 さらに,現在政府では,裁判員制度の検討を行っておりますが,この制度は,更に国民が司法に主体的に参画するという道を開くものでございまして,国民の一人一人に,司法に対する深い理解と,また法というものに対する理解というものを深めていかなければならないと考えております。
 最近の世相を見てみますと,少年問題,例えばいじめもありますし,少年非行の問題もありますし,逆に少年に対する虐待というような問題もございます。あるいは,ヤミ金融というような問題もございます。弱者がいろいろな形で被害を被りつつあるというようになってきております。もちろん,法や司法についての教育が行われたからといって,これらの問題がなくなるとか,直ちに解決できるという問題でないことは自明のことではありますが,こうした問題に直面したときに,国民がどう立ち向かっていくのかということについて,不安感を抱かないように,あるいは正しい解決の道を選択できるようにすることが極めて重要であるというふうに考えております。法や司法についての理解を深めるだけでなく,日常的に法的な考え方をする,生活の中に法意識を持ち込んでいくということも,これからの社会にとっては非常に重要なことであるというふうに考えております。
 「法教育」という言葉は全く成熟した言葉ではございません。恐らく国民の人たちも,「法教育」という言葉を聞いて,これを直ちに理解できるというふうな状況にはなっていないと思います。非常に立ち遅れた分野であり,また我が国の社会の,あるいは歴史的な諸条件,あるいは諸環境というものが法教育というものを相当遅らせてきているというふうに思っております。将来の我が国を担う人たちのために,真に役立つ法教育の在り方について,是非皆様に御論議,御提言をいただきたいと思っております。
 皆様方,それぞれに大変お忙しい中で,本研究会に御参画いただくことにつきまして御快諾をいただきました。また,本日,御多用中のところをこの会議に参加していただきまして,誠にありがとうございます。この研究会の大きな趣旨は今申し上げたようなことでございますので,我が国の将来にとってかなり重要な,基礎的な研究になろうかと思います。どうぞそのような趣旨を御理解いただいて,この研究会に今後とも是非御参画いただきますよう,心からお願いとお礼を申し上げて,私のあいさつといたしたいと思います。

大塲参事官 ここで,暫時休憩いたします。

(暫時休憩)

大塲参事官 それでは,会議を再開いたします。
 本日は,御多忙中にもかかわりませず御出席をいただきまして,誠にありがとうございます。私は,法務省大臣官房司法法制部参事官の大塲と申します。よろしくお願いいたします。
 この研究会を進めるに当たりまして,司法法制部が事務局として庶務を担当させていただきますので,今後ともよろしくお願いいたします。
 本日は,座長が選任されるまで私が議事進行を務めさせていただきたいと思います。
 まず,配布資料の確認でございます。
 皆様,お手元に「法教育研究会(第1回)会議配布資料」がございますでしょうか。1番が「法教育研究会の開催要領」,2番が「研究会の公開について(案)」でございます。3番が「法教育研究会の今後の進め方について(案)」,4番が「法教育研究会の会議予定日時」,5番が今日予定しております江口委員からの説明のときのレジュメでございます。
 6と7というのが配布してあると思います。一つが「諸外国の学校カリキュラムにおける法的資質の教育に関する基礎的研究」,もう一つが「テキストブック「わたしたちと法」」という本でございます。
 それでは,まず資料1の「法教育研究会の開催要領」,これを御覧になってください。
 この要領の4の(2)に,「研究会に座長を置き,委員の互選により選任する。」と,このように記載があります。委員の方々には,後に自己紹介をお願いしたいと思っておりますが,座長選任に当たりまして,私から委員の方々の御紹介を申し上げます。こちらから,お名前をお呼びします。

(委員紹介省略)

大塲参事官 それでは,座長を選任したいと思いますが,どなたか適任者の推薦というのはございますでしょうか。

江口委員 私の方から。京都大学の土井委員にお願いしたらと思っております。

大塲参事官 今,江口委員の方から,京都大学の土井委員を座長にというお話がありましたが,ほかに……。

鈴木委員 私の方からも,土井委員にお願いしたらと思っております。

大塲参事官 ほかに,御意見はございませんでしょうか。
 それでは,土井委員に座長をお願いするということに決したいと思います。土井委員,よろしくお願いいたします。
 それでは,これから先の議事進行につきましては,座長に選任されました土井委員にお願いしたいと思います。
 土井委員,こちらの方にお移りいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

(土井委員 座長席に着く)

土井座長 ただいまこの研究会の座長を仰せつかりました土井でございます。京都大学で憲法を専攻しております。
 先ほど,事務次官の方からお話もありましたように,法というものは本来国民に広く根差して,国民全体で支えていくべきものだと思っております。とりわけ,これからは我々国民一人一人が自らのかけがえのない生活を守るために,司法を積極的に利用していく,またそれだけではなくて,司法に参加することで市民としての責任を果たしていかなければならないと考えております。その意味で,法教育の充実を図るということは大変重要な課題であると考えております。これから1年余り,各委員の皆様方の御協力を得て本研究会を進めていきたいと思いますので,どうかよろしくお願いいたします。
 それでは,本日の議題に入ります前に,この種の研究会の慣例といたしまして,議事の公開の問題をあらかじめ決めておく必要がございます。この点について,まず御審議をお願いしたいのですけれども,あらかじめ事務局の方で案を作成していただいておりますので,資料2の方を御覧ください。
 それでは,事務局から説明をお願いいたします。

大塲参事官 配布資料の2を御覧ください。「法教育研究会の公開について(案)」というものでございます。
 御覧になっていただければ分かるとおりでございますが,発言された委員のお名前を出させていただくという形で議事録を作成することを考えております。
 その他はここに記載されたとおりでございまして,傍聴の件,あるいは議事録,議事要旨の公開等を1から4に従ってこういうルールで進めていくのはどうだろうかということの案でございます。

土井座長 この案につきまして,御意見ございますでしょうか。
 よろしゅうございますでしょうか。法教育の問題は,広く国民の皆さんに理解していただく必要がございますので,できるだけ公開という形で進めさせていただきたいと思います。
 それでは,この件に関しましては特に御異論も無いということのようですので,この案のとおり決定させていただきます。
 それでは,今の決定に従いまして,報道関係者の方の入室を認めたいと思います。よろしくお願いいたします。
 それでは,初対面の方も少なくないと思いますので,まず委員の方々から,お一人大体1分程度で簡単な自己紹介をお願いいたしたいと思います。

安藤委員 私,本当にこういったことに関して素人でございます。現実の生活の中では,介護度5の母の在宅介護をしておりまして,娘が大学4年と高校3年生,そして夫と5人家族で暮らしております。その日常生活の中で,法というものをどういうふうに考えるか,私の中では法というのはこの国に生まれた国民の一人として必要最低限の生きていく上でのモラルの原点だと思っています。
 何か,今の子供たちを見ていますと,確か文部科学省の調査だったと思うのですけれども,ほかの国の子供たちと比べて大人からいじめをしないようにとか,弱い者いじめをしないように,悪いことをしないようにといった,本当に昔だったらばおじいちゃん,おばあちゃん,お父さん,お母さんから脈々と受け継いできたはずの道徳心というものが,全くパーセンテージでいきますと低いのですね。そして,今日新聞を見ましたら,学校の先生方が子供たちの教育に非常に自信を失っている。自信を持っていらっしゃる先生は,1割を割っておりました。そういう中で,これから子供たちをどういうふうに法とモラルと,そういうものを絡めて考えていくか,すごく大きな問題だと思っております。
 法を考えるということが,人間教育につながることだと思っております。法的なことは全く素人でございますけれども,そういったところから私のできる限りのことをやっていきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

江口委員 筑波大学の江口と申します。後ほど研究の内容に関しましては発表させていただきますので,こういう研究に着目した若干の背景を紹介させていただきます。私は中学校,高等学校の社会科,公民科教育のことについて考えたり,研究したり,あるいは教員養成に関わってきたのですが,たまたま10年ぐらい前に筑波大学に赴任したときに,アメリカの教育の中に法に関係した教育というのがどんどん社会科の中で大きくなっていくことに気付いていました。ところがそれに比例して日本の場合にはほとんどそこに着目されず,学校の中からある意味では忘れ去られていることが気になっていました。ところが,状況としては社会はもっと法とともに向き合って,あるいは子供たちが法の精神を生かしながら生きる時代が来たのじゃないかと,こんなふうに思っておりました。そこで,ここ7,8年やっているうちに日本弁護士連合会及び関東弁護士連合会という法曹の一翼を担う方々が少し着目してくれまして,少しはずみがついたかなと思った瞬間に法務省の方々が,研究やってみたいという形で少しこの研究に光を当ててくださいましたので,非常に感謝しております。
 この研究会が実りあるものになればと思っております。

大杉委員 文部科学省の視学官の大杉でございます。よろしくお願いいたします。
 私も,江口委員と同じように,ずっと社会科,公民科に関わって今まで仕事をやってきました。社会科,公民科は,子供が学習対象として個人と個人の関係,あるいは個人と社会との関係を学ぶというのが基本で,その中にやはりルールがある。私も結婚しましたときには,妻と約束をしてルールを作っておりますけれども,そういった個人と個人,個人と社会の間のルールをどう考えるかということで,これから学習対象としても大きな意味を持つと思いますので,非常に期待を持って参加させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

沖野委員 学習院大学の沖野でございます。専攻担当は民法を専門分野としておりまして,民法という分野は,契約関係ですとか,あるいは不法行為等の損害賠償関係ですとか,あるいは財産法関係といった,非常に私どもに身近な分野を扱う学問,領域かと思っております。
 大学では法学部ですけれども,1年生に対してはいわば身近な導入ということで,やや序論的な話を一般にいたしますけれども,その中でも私たちの生活の1日というのは,民法の制度なくしてはあり得ないというような話をいたします。非常に法というのは思ったよりもずっと身近なもので,私たちの生活を支えているのだということを最初の導入でやるわけですけれども,しかしながら,それを言いながら,一体これは法学部でやるべきことなのだろうか,むしろ幅広く,すべての人に知っていただくことではないのかという印象を常に持っておりました。
 また,その規律の対象,客体としての人というだけではなくて,そういう法制度自体を作り挙げていく主体という意味も持っているわけで,そういった面を含めて,そういう部門をやることが法教育の一環の分野ではないかと思っておりまして,その意味では従来関心を持っていた点でもございますので,この会議におきましては,従来の関心領域も含めて何がしかの貢献ができればと考えております。どうかよろしくお願いいたします。

荻原委員 日本テレビの荻原です。私生活では,ちょうど公民を習っている中3の息子と,政治・経済を習っている高2の娘がいまして,中間テストや期末テストで教科書を一緒に勉強しております。
 それで,ああ,そうだったのか,良いこと書いてあるなと喜んでいたのですけれども,今回,この委員に選ばれるということで,いろいろ法律のことを勉強しましたら,あ,これでも不十分だったのだということが分かりまして,そういって自分の仕事と照らし合わせてみますと,私の今やっている仕事というのは,身近な,本当に小さな出来事の疑問点を追求していって,どこが問題か,どうしたらいいかというのを特集にして放送しているのですけれども,ネギになぜテープが付いているのかというところから,パーキングメーターのお金はどこにいってしまうのかまでやっていくのですけれども,変な点が出てくるわけですね,いろいろなところで。そうすると,視聴者からはどういう反応が返ってくるかというと,こういう問題があるのだったら,日本テレビは放送するだけじゃなくて何とかしてくれと私の方に来るわけです。言いっぱなしでけしからんというのですよ。そこで,これって全部私がすることなのって思ってしまうのですけれども,そこで何が問題かと今回と結びついたのですけれども,ある法律が悪い,政令が悪いとかいうことが分かったときに,それを変えていくのは本当は自分たちなんだよということが日本の国民によく分かっていないのだな,だれかがやってくれることなんだといつも思っている,それを変えるのは法教育なのかということに気が付きまして,非常にやりがいのある委員になったなと思いました。
 現場で幾つかの疑問点とか,たくさん感じて,私自身がこの二十数年間会社で働いているわけですけれども,法教育を受けたようなものです。ですから,こういう教育を凝縮した形か,あるいはコンパクトな形か,子供たちに何とか伝えて,自分が何かやらなければ世の中は良くならないということを伝えていけたらいいのかな,そういう教育になったらいいなと思っております。
 私の手帳には,憲法が書いてあるのです。憲法12条が。これは本当にもうぼろぼろになっていますけれども,「この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によって,これを保持しなければならない」。これは,子供の期末テストで私は勉強して書いたのですけれども,そうだったのだという,これは私の戒めにして,自分で努力しなければ,国民が努力しなければ本来は弱い者のためにある法律が強い者のための法律になってしまうのだよということを分からなければいけないなと思いました。
 非常に期待して,この法教育が検索かけると胸を大きくする「豊胸育」に出てしまうのですよ,今のところ。これが「法教育」とちゃんと出るようになったときに,日本は良くなるのではないかと思っております。よろしくお願いします。

唐津委員 荻原委員のように話がうまくないので,退屈かもしれませんけれども。新日鐵化学の唐津でございます。
 私は,親会社の新日本製鐵に入社してから25年たちます。その職歴の中で,3分の2がいわゆる法務部門,リーガル・デパートメントというところで働いてまいりました。
 企業の法務って一体何をやっているのだろうと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが,これもやはり歴史的な変遷を経ていまして,もともとは公害訴訟等,ああいう訴訟,トラブル対応の専門的なセクションということで,それぞれの企業で法務部門が作られたのだと思います。私が入社したころの新日鐵でも,そういうトラブル対応の専門家集団という,そういうイメージで法務部門をみんなが見ていたと思います。
 それが,その後,海外プロジェクトが増えるといわゆる契約交渉,契約作成という,我々からすれば「予防法務」と言われる仕事が増えてまいりました。さらに,最近ではいろいろ規制緩和-規制緩和を裏から言いますと私的自治の強化ということになりますが,そういうことからいろいろ法務部門がむしろ積極的に創意工夫を凝らして提案しなければいけない,いわゆる経営法務の時代ということになってきております。したがいまして,昔は専門家の集団であったものが,いわば企業経営の一つの必要不可欠なものとしてビルトインされてきて,逆に法務の人間だけじゃなくて,営業,購買,あるいは製造現場の人間まで含めて,いわゆる法意識,あるいは法務というのが分からなければいけないということで,最近の法務部門の仕事で一番大きいのは,法務教育,社内法務教育というのが一番大きな仕事になっているというのが現状です。
 こういう委員になったということで,私もそういう企業の現場という立場と,それから3人の子供がおりまして,今正に一部はまだ義務教育の就学中でございますけれども,そういう子供を持つ親の立場,この両面からいろいろ意見を申していきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

絹川委員 最高裁判所総務局制度調査室長の絹川と申します。裁判官になってまだ12年目でございます。これまで,ほとんど民事の事件を担当してまいりました。
 この研究会に参加するに当たって考えてみたことなのですが,まず裁判手続,法教育に当たっては裁判手続等を御理解していただくということが一つの大きなテーマになってくるかとは思いますが,裁判手続というものは幸福を直ちに求めるものではなくて,まず不幸が起こったときにそれをどう修復するかということでございますので,なかなかインセンティブがわきにくい分野ではないか,国民にとってインセンティブがわきにくいところであろうかと思っております。ですからその辺り,いかにインセンティブをわかせていただくか辺りに心を配って進行していただければと思っております。
 また,裁判手続というものをよく当事者の方が起こしになりますが,やはり片方の見方に偏ってしまう,凝り固まってしまいまして,非常にデッドロックに乗り上がってしまっているという方々が多くございます。そういった方々に対しては,裁判所としてはいろいろな,逆の見方もあるのですよとか,そういったことを御説明して説得しているのが日々の仕事でございますが,正解は一つではなくて,物の見方によっていろいろな答えが出てくるのだという辺りについても,幅広く御議論していただけたらと思っております。
 まだ裁判官として非常に未熟者でございますが,法曹の一員,一裁判官としていろいろ情報提供,あるいは意見を申し上げられればと思っております。よろしくお願いいたします。

鈴木委員 鈴木と申します。今,御紹介がありましたように,日弁連の広報の室長をしておりますけれども,普通に弁護士もしておりまして,最初に私自身の弁護士の始まりのころから関心を持っているのは少年法,少年事件というもので,そんな中で非行化した子供たちとどういうふうに向き合うのか,ルールをどういうふうに理解してもらうのかというようなことで悩んだ思い出があります。
 その後,広報室の方に入りましてからは,社会科見学という形で学校の方たちがたくさんお見えになります。弁護士会は,実は会館自体に見せるところは余りないので,ビデオを見ていただいて,その後にお話をするわけですけれども,なかなか法律家が考えていることの理解が得にくい,実像がうまく伝わっていない,またルールについてもどの程度分かっていただけているのかというような点で悩んだりしておりました。
 そんな中で,学校の先生たちと全国法教育ネットワークという形で組織を作らないかというお話がございまして,それは面白そうだということで加わらせていただきまして,その後江口委員,橋本委員なんかにもいろいろ教えていただいて,アメリカの話も聞きました。
 そんな中で,これまで我々法律家,特に弁護士会はハウツー的な知識の供与,例えば消費者教育であるとか,あるいは少年事件はこんなですよというようなことはやるのですけれども,なかなか本当の法の中身,理解,基本的な考え方というところについての話に及ぶことは少なかったと思います。そういう点について,法教育というのがアメリカ等で試みられているということですので,それを是非日本でもというふうに考えておりましたところ,今回,法務省の方でこういう研究会を設けていただけたということですので,是非参加させていただきたいということで参加させていただきました。よろしくお願いいたします。

高橋委員 司法書士の高橋と申します。まず,司法書士は登記業務をずっと中心にしてまいりまして,不動産であるとか会社の登記であるとか,身近なところで皆様の権利を保護するというような仕事をしてまいりました。昭和50年代後半のころから,我々司法書士の仲間で,裁判書類の作成手続業務という中で,多重債務者の事後救済の仕事をする者が増えてまいりました。そのころから,特に消費者教育という面でさまざまな場面で学校に行ったり,公民館に行ったりというところで,契約の知識であるとか多重債務に陥らないためとか,そういったテーマでの教育活動を行ってまいりました。
 ここにあります初等中等教育推進委員会というのは,平成11年にできまして,全国的に自然発生的にそういった教育活動が起きまして,そういうものを取りまとめて,やっていない地域へ良いものですからもっとどんどん推進しようということで,こういった委員会の活動を行っております。
 現在,司法書士は全国に1万7,000人余りおりますけれども,まだまだこの教育に携わる会員は少ないところがあります。また,委員会の中でも議論しているところですけれども,消費者教育だけではなくて,もっと幅広く法教育の部門にも輪を広げながら,子供たちに本当に自立できる,力強い子供たちになってもらいたいという思いを伝えるための教育をしたいということで,今,議論しております。
 地域ではいろいろな活動をしていまして,学校に行く者,それから離島に行って法教育するような若い会員も出てきました。それから最近は,ホームレスに対する法教育なんていうテーマを掲げて研究している者もいます。そういったことで,私自身もそういった教育現場に行っておりまして,毎年十数校の高校に行っていろいろなお話をしていますので,そういったところで受け手側の空気も感じた中での議論をさせていただければと思っております。
 個人的には,数年前から裁判所の調停委員もやらせていただいておりますけれども,非常にそんな中で依頼者の権利意識の高さというのを感じたり,また調停の相手方になった方の逆に非常に知識不足であったり,法的なそういうものの不足であったりというのを拝見しながら,非常にギャップを感じているところでもあります。そういった面で,いろいろなところで法教育の必要性があるのじゃないかと思っているところでございます。どうかこれからよろしくお願いしたいと思います。

館委員 東京都の公立中学校,そして現在所属しております筑波大附属中学校で,教員を28年ほど続けています。今回,法教育研究会に参加することになり,法教育で目指されている目標と今の生徒たちの現実を見比べましたときに,ああ,なかなか目標が達成できてないなと思いながら,今日この席に参りました。
 授業で実際に公民的分野をやっていて良く思うのは,憲法って何とか,権利って何なのとか,権力とはみたいな,結構法教育の基本になるような概念についての認識が,生徒たちは意外と持っていないというか,持ちにくいなということです。それから,生徒は感覚的には政治を行う人たちはやはり何となく偉い人がやっているように思えてみたり,裁判というものが言ってみればお上が行うようなものというような感じにどうしてもとらえがちなのですね。
 この間,ちょっと驚いたのは,民主的なんていう言葉,民主的な人とか民主的な考えというのは今の中学生には余りピンとこないのだなということを分かったりして,やはり生徒たちが現在持っている様々な認識とか,感覚的なものも含めてですけれども,そういったものを本当に地に着いたと言いましょうか,法教育が目指しているような方向に向かっていかなければいけないのだなと常々思っています。
 そもそも社会科の目標自体が,法教育の目標と一致するものだと思っておりますので,ここで様々な方々の御意見を聞きながら勉強し,考え,法教育の実践に少しでもお役に立てればなと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。

永野委員 私,東京都の都心近くの公立中学校で社会科教諭をしております。小規模校なので,何でもやらないといけません。ここ数年,1,2,3年の社会科と選択と総合的な学習と,担任を持てば道徳と学級活動と,ということになります。実際にそういうふうに何年かやっていますと,保護者,生徒ともに何しろ普通の公立中学校ですので,親子二代にわたって教育を受ける姿勢といいますか,こういう法教育を展開していくという,例えば授業という形を通してですが,教育を受ける姿勢そのものに非常に課題の多い現場です。
 小学校で,実際には法教育であるとか,権利意識は非常に高いのですが,話し合いで決めたことを最低限守っていくとか,守らなかった子がいたときにどうするのかというような,そのようなことは学級活動を通して学んでいきますけれども,授業を通してはほとんど触れずに中学校に入学してきます。中学校の3年間のうち,最後の3年生のほんのわずかな社会科という教科の時間の中で,法教育の法らしい,「法」という字を聞いて卒業していくことになります。したがいまして,積み上げていく歴史的な分野,地理的な分野という上に,公民的というのがありまして,決して中学校は専門的な教育を施す場ではありません。したがいまして,選択何々という教科であるとか,総合的な学習であるとか,道徳であるとか,学級活動などの活用も視野に入れないと,単に積み上げるのではなくて,変化のある繰り返し,スパイラルに小学校の段階から積み上げていかないと,なかなか目指す法教育が許容できる時点まで到達しないかなという気持ちがしています。
 授業という具体的な形で,どのように現場に取り入れていくかということを考えていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

西山委員 法務省大臣官房司法法制部付の西山でございます。もとより本研究会の目標である教育という分野でいきますと,私も全くの専門外でございまして,委員の皆さんの御意見を伺いながら勉強させていただく立場にはありますけれども,私も10年余り法曹の一員として勤めてきたという経験もございまして,この研究会が法や司法に関わる教育ということでございますので,私も法曹の一員として意見を申し述べる機会がございましたら幸いに考えております。
 また,私自身の経験でも,私自身,法とは何かと最初に考えたのはいつだろうというふうに考えてみると,やはり法学部に入ってからということになりまして,今回,法教育というものを初めて知ったときには,こんな小さなときからこういうことを教えるのかというところで非常にびっくりもしましたし,非常にこれから日本でも実現できれば本当に良いなというふうに純粋に思いまして,この研究会でもいろいろと皆さんと一緒に勉強しながら考えていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

橋本委員 兵庫教育大学で社会科教育学を専攻しております橋本です。社会科教育学のうちでも,公民教育を専門に研究しております。
 今は大学の方に勤務させていただいて2年目になります。その前は高校の現場に6年半ほどいさせていただきました。ですから,合わせて8年半ほどになりますが,この8年半の間,アメリカの法教育のカリキュラムの研究を進めていまして,カリキュラムの研究と同時に,カリキュラムの中で使われている授業を実際の現場で実践していくということを続けてまいりました。
 アメリカのカリキュラム分析をしていく中で,共通して言えることは,法を守るべきものというよりは,むしろ市民が法を作るものという意識で作られているということです。今から江口委員が一つのアメリカの法教育の概略を紹介されると思いますが,例えばアメリカでは歴史教材を使った法教育とか,地理教材を使った法教育とか,社会参加型の法教育など,様々なカリキュラムが実際作られております。こういうカリキュラムの一端を紹介させていただいて,日本の法教育の内容の改善につながっていけばと私は考えます。こういう研究会が実際に作られ,それに参加させていただけることになったということを大変有り難く思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

山根委員 主婦連合会の山根と申します。よろしくお願いいたします。一般消費者を代表しまして,そしてうちには3人の子供,高校生,中学生,小学生がおりまして,その子育てに奮闘しております母親の立場で参加させていただいております。
 「法教育」ですとか「司法」という言葉を聞きますと,やはり堅くて,難しくて,そういうことをイメージしてしまいますけれども,是非この新しい今回の取組みが,子供たちの心に素直に響いて,彼らの健全な成長と,そしてやはり何よりも不正や犯罪の無い社会に向かうことに大きく働いて欲しいというふうに願っております。よろしくお願いいたします。

土井座長 非常に多彩な面々で,活発な意見交換ができますことを期待いたしております。
 それでは,議事を進めさせていただきたいと思います。
 まず,初回の研究会でございますので,この研究会で今後どのようなスケジュールでどのような事項について議論をしていくかということを決める必要がございます。ただ,その前提としまして,法教育というものが一体何なのか,現在の教育の一体何が問題で,そういう問題に対してこれまでどのような取組みが行われてきたのかという点について,委員の間である程度認識を共通にしておく必要があろうかと考えております。
 そこで,今後のスケジュールにつきまして具体的な検討に入ります前に,我々委員の中で,特にこれまで法教育について積極的に取り組んで来られました江口委員と鈴木委員の方から,そもそも法教育とは何なのか,これまで日本や諸外国において法教育についてどのような取組みがなされてきたのかという点につきまして発表をお願いいたしたいと思っておりますが,よろしゅうございましょうか。
 それでは,まず江口委員の方から,法教育に関する現在の日本における取組み,諸外国の制度の概要について,簡単に御説明をいただき,引き続き鈴木委員の方から,日本弁護士連合会等における法教育の取組みについて,それぞれ御説明を伺うことにいたしたいと思います。
 進め方といたしましては,両委員の方にそれぞれ御説明をいただいた上で,その後まとめて質疑応答,意見交換を行うことにいたしたいと思います。
 それでは,まず江口委員の方からお願いいたします。

江口委員 お手元の資料5が,今日の私の発表内容の中心になろうと思います。
 私の本当のイメージとしては,今,先生方が自己紹介なさったこういう発言が子供たちにできればいいということでしょうか。あるいは少しの紹介でも,自分の人生を語ってくれて,かつルールを守りつつというのが本当の法教育の私のイメージです。そんなつもりでこの研究を見ていただけると,意外と面白いという発表をさせていただきます。
 私の想定する法教育とは何かということですが,本日お手元に二つの資料をお配りしました。一番分かりやすい方は,『わたしたちと法』だと思います。これはアメリカの小学校の4,5年用のテキストです。実際にこの内容については,関東弁護士連合会の先生方及び日弁連の鈴木委員も一緒に調査に行きましたし,授業の内容そのものも見てきましたので,このテキストの内容は後ほどのビデオと併せれば良く分かるだろうと思います。
 簡単に説明いたしますと,8ページに「アメリカの法教育」という部分があります。この「法教育」の定義というのは,やればやるだけいろいろな解釈ができますし,膨らんできます。また範囲が問題になりますので,この言葉を認めることから始めたいと思います。法に関連した教育なのか,あるいは法そのものの教育なのか,憲法を基盤にした教育なのかは別として,法に着目して,ルールに着目して,あるいは慣習や道徳に着目して,教育を考える教育と,その程度に最初思っていただきますと非常に分かりやすいのじゃないかと思います。
 この法教育というのは,そこにも書いてあるとおりに英語で言いますとLaw-RelatedEducation,すなわち法に関連した教育,法に関連する教育,法関連教育です。「関連」というのを議論し始めると,とてもじゃないけれども私は日本では普及できないだろうと思ったのです。それは,鈴木委員も御存知だと思いますが,どういう定義,あるいはどういう範囲の中でこの訳語を使うかというところで,「関連」というところで頓挫することにもなりかねません。では,憲法教育というベースがあるのだから,それを広げて憲法の「憲」を除けばいいじゃないかと。もっと広い側面から考えてみたらどうなのだろうかと,そんなつもりで研究を始めました。アメリカの訳語とはちょっとずれるかもしれませんが。簡単なことはLegal Education,法学教育とは違うと。ここには法務省の方もいらっしゃいますし,弁護士の方もいらっしゃいます。また裁判所の方もいらっしゃいますし,法学部の方がいっぱいいらっしゃるけれども,大学の法学教育とは違って,もっとすべての人に,しかも子供たちに早いうちから教える法に関わるような部分,そんな教育だと見ていただきますと,大体イメージがわくと思います。
 アメリカの場合には,法に関連した教育の法律を作ります。予算がどれだけあって,どういうカリキュラムにより,どういうような成果を挙げたかというモニターや説明責任があるので,教育法に基づいてこういう教育も動きます。そのときの定義が,そこに書いてあるものです。すなわち,「法教育」とは法律専門家で無い人々を対象に,thelaw-ここでは私は「法律」と訳しましたけれども,ここも余り杓子定規に制定法なのか国家法なのかと議論し始めると切りがないだろうと思って,「法律」という形で書きました。それから,法律形成過程,thelegalprocess,これを「法プロセス」と訳せば非常にイメージが拡張してきますので,法を作る,あるいは法を作っていこうとするプロセスだと考えました。それから,thelegalsystem,これも「法体系」とすると多分憲法体系とか憲法を基にしたという,そういう議論になるので,ちょっと広いだろうということで,「法システム」と訳しました。そういうようなものを対象にした教育,そしてこれらの基礎にあるような原理や価値に関する知識の教育を含んでいるものと。
 私は,ちょうど今日訳したテキストの開発をしたアメリカのCenterforCivicEducationというロサンゼルスのカラバサスのところにある機関を3回訪れたのですけれども,彼らは丁寧に法教育の意味について教えてくれました。一番最初に行ったときには,ちょうどコソボでの公民教育,市民教育の普及を担当していた方が帰って来たばかりのとき,日本から来た英語も余りしゃべれない私らに会ってくれて,今コソボから帰って来て,コソボの治安安定に関わっているけれども,日本からこういう教育をやりに来たのだったら教えてあげるよという形で,丁寧にテキストを紹介してくれました。
 それから,2回目は,他のアジアの人も一緒で,そのセンターの方が,「そこにクッキーがあってコーヒーがあるけれども,江口が全部食ったら彼女や彼は食べられないだろう。そのクッキーどうして分けると良いと思う,あるいはどういう基準で君はそのクッキーを食べようとするの。」ということを言うのです。そしてそれが法教育なんだと。要するに,もし言い分があって必要があったら食べればいいでしょうと,そういうような教育が法教育だと説明してくれました。3回目は,日本弁護士連合会及び関東弁護士連合会の方々と一緒に行きまして,幾つかのカリキュラムを実際の授業の中で見ました。それはこのテキストに書いてあるものです。意外とアメリカの人たちは,言葉を大切にします。それからテキストを大切にします。書いてあることに基づいて授業をし,そしてそれを超えて子供たちが議論したり意見を言ったりする。これは多分法教育の可能性を議論していることだろうと思うし,そこにとどまることなく新しい解決方法を考えようというプロセスだと思っております。そこで法教育とは,そういうような最低限の知識とか技能とか議論を学ぶ機会,学習機会だと思ってください。
 ところで公民教育において,私は憲法教育も大切だし,人権教育も大切だと思っています。私の先生は実は大杉委員と同じ職にいまして,憲法教育というのを長いことやってこられ,戦後の制憲議会にも関わった稲田正次先生の弟子で,本当にずっと憲法教育が大切だと教えてくれました。私もその後任として筑波大学に行ったので,憲法に向き合う教育の必要性を痛感しています。ただ憲法以外の法に向き合うことも大切だという時代も来たかもしれないと考え始めています。そして,憲法教育をもう一回形にするためにも,憲法に限定しないで法の教育から入った方が良いのじゃないかという発想を持ちました。人権とは何,人間の尊厳さとは何というときに,上から教えても人間の尊厳さをここまで守るべきだとか,人権はここまで守るべきだと,絶対分からないと思い始めたのです。
 例えば,プライバシーを守るときに,判例でここまで許せるよという形で伝えた方が分かりやすいでしょうし,そういうような教育とみなせば憲法と乖離することもないし,ひょっとしたら憲法の背景にあるような最低限のモラルや社会通念みたいなものとフィットしていくだろうと思いました。
 ところで配布した本の内容をここでしゃべることは到底時間が足りませんが,法教育の範囲ってどこまでかということを考えると,もう一つのテキスト(事務局注:配布資料「諸外国の学校カリキュラムにおける法的資質の教育に関する基礎的研究」)の中の62ページにある「アメリカの法教育の理論」が参考になると思います。ちょうどこの6月にアメリカの法教育の責任者の一人でありますブローニング先生という,ABA(アメリカ法曹協会)の教育担当の方がおいでになったのですけれども,その先生方が中心になって作ったものです。アメリカでもある程度の範囲や基準みたいなことを決めなければいけないと考え,ブローニング先生たちが中心になって作ったものです。例えば憲法から始まって,判例を利用し,それから歴史的な文書を生かす。そういうものを教材として学校の中に生かしてみたらどうですかというものです。
 多分,日本でもこういう範囲が決まっていくと,教材開発ができますし,それから道徳教育とはここですみ分けましょうということになると思います。あるいは大杉委員や私が担当している公民の政治教育や経済教育との関係が多分見えてくるのだろうと思います。それは簡単にはいかないが,少しずつやっていって見る,あるいは子供たちの声を聞いて,作っていく時代になったと思っています。これができると,日本での法教育がうまくいくのではないかなと思っております。
 実はイギリスが着目し始めたということを示したいものが,この冊子の26ページからの紹介です。
 ここの内容に関しましては,読んでいただけると意外と面白いです。例えば,弁護士になって考えてごらんとか,あるいは被害者だけに着目しないで,もっと別な方面から考えてごらんというような教材をイギリスのある機関が作っていきます。ところで,イギリスも長いこと公民教育とか法教育にはほとんど無頓着でした。それは多分,犯罪が少なくて,イギリスの国家,イングランドという共同体がしっかりし,歴史や地理を教える方がそれまでは適切であったことによると思います。また,教育しやすいし,人々の意識を収斂できるからやりやすかったのだろうと思いますが,最近の犯罪の増加,これは少年事件も含みますが,それからがEU,ヨーロッパ連合のプロセスの中で人権を統一していこうという議論が始まり,犯罪,人権,司法が学習の中に入ってきつつあると言えます。そして,小学校,中学校,高等学校で学ぶ機会を作ろうとしています。この作ろうというのは非常に大きいことです。イギリスの場合は長いことやっていなかったのです。公民教育は要らないと言っていたのだから。たまたま,イギリスの担当者でヨーク大学の助教授のイアン・デービス先生が文部科学省で講演していますが,法教育をイギリスも着目しつつあることが問題にされていると思います。
 私のここにも資料があるのですが,歴史や地理だけではなくて,法や公民に関してもっと教育を充実することが大切だと思い始めています。こうした傾向が多分法教育の現状だし,世界の状況だと思います。
 昨日,我々の学会でも,イアン・デービスさんがいらっしゃいまして,これについて講演なさいました。むしろアジアの中でも少年犯罪が少ないわけではなく,ひょっとすると例えば中国の方が一生懸命法教育をやっているかもしれません。そういうこともありまして,実は中国や台湾や韓国も法教育に着目し始めています。ある意味では日本も,うまく地域の共同体や家族の共同体の中でこういう法意識みたいなもの,人のことを配慮しつつ自分の利益を確保するような精神が長いこと生きてきただろうと思うのです。それをもう一回復活させるというのは絶対必要と思いますが,だからといって道徳教育で今それが代替できるかというと,ちょっと時間がかかるだろうと思います。10年,20年は絶対かかるだろうと思います。そこで,そのつなぎでもいいし,そこを含むような形でもいいからこういう教育ができないだろうかと思っているのです。
 今,「はじめに」の次の1のことについて若干しゃべらせていただきました。2のことに関しては,日弁連の鈴木委員及び関弁連の後藤先生から発表があると思われます。私は2点だけ,今日書いてきました。一つ目は,「子どもたちの伝えるべきことのひとつとして」として,法的資質,法的リテラシーがあり,子供たちの力の糧となること,またなるようにということです。
 私も法学部や法律とは全然無縁ですし,むしろモラリズムの方が強い人間かもしれませんが,ここにいらっしゃる鈴木委員が,附属中学校の館委員のクラスである犯罪事件での匡正的正義というか,刑事司法を教える授業を行いました。そのときに,私は犯罪を犯してはいけないことしか考えなかったのに,鈴木委員が簡単にポツリと,「この犯罪者にも言い分はあるのだよね。」と,「被疑者ですが,この人にも言い分はあるのだよね,ちょっと聞いてからでも判断するの遅くない。」,「そこに着目してごらん。」と。それぞれの言い分はあるわけだから,その言い分を聞いて判断してみる,判断してみてやはりだめであるならば何らかの処置の必要を考えればよいでしょうという,そういう流れの授業をアメリカのテキストに即してやってくれました。そのときに私自身本当に目からうろこでした。それぞれに言い分があるし,だれも犯罪が良いとは思っていない,でもその中に理があるならば,聞いてからでも遅くないだろうと。やはり悪いことであるならば悪いという処置を考えると。そういう教え方を少し子供たちの中に伝えていくということは絶対必要だろうと思いました。
 そういう内容が,今,公民的分野の中では全然遅れています。公民ではいつも司法という切り口から「国家公民」を語り,絶えず教えているので,これはなかなか子供たちにも苦しいし,しかも大学受験や高校受験には余り出ないので,子供たちはそうした内容も二の次にする。でも,実際社会に出た瞬間にそこが一番大切となってきます。どの企業に行っても,また公務員になってもです。その一部でも,どこかで伝えたら良いと考えますし,「法的資質」とか「法的リテラシー」とかいうことの育成に関連して学習の機会を用意すべきだと思います。
 それからもう一つは,法に向き合い,法を基に考えるという若干抽象的な議論が大切だろうと思います。少し高度なルールを使いながら,喧嘩せず,殴らず,その前にちょっと考える,それから第三者に聞いてみる,それからひょっとしたら司法の事例も調べてみる,そういうような抽象的なことを訓練をしてみて,法やルールを生かしてみたらどうかと言うことです。それでもおかしいと思ったら,法を超えて生きていく,自分のパワーで生きていく教育の経験が必要だと思います。そういうような教育の契機の可能性が法教育にはあるのではないかと思います。
 今は,子供たちだけに着目したのですが,社会そのものに着目しても,やはり法があまねく一般化してきたというのは事実だろうと思いますし,憲法とももう既に50年以上向き合ってきています。憲法体制をとりつつ新しい法整備も進んできたわけだから,それに応じて教育課程の充実は行われるべきだろうと思います。その例として,消費者教育とか消費者契約法の教育とか,そういう部分に着目した教育が展開されつつあるのだと思います。
 ところで,私は,法教育は特殊な教育とは考えておりません。私の先生である梶哲夫先生が憲法教育は大切だよと言ったのと同じように,法に関係した教育は大切だと,現在では思っています。現在においてもこれからにおいても,大切だと思います。だからこそすべての子供たちに伝えるべきだと。例えば,「環境教育」とありますけれども,環境教育は絶対大切です。これと同じような意味で,環境を生かすときの手続とか,環境を生かすときのやり方とか,あるいは環境の生かし方とかに関連して,法教育の意義もありだろうと思います。
 さらに,社会的な要請としては,予防司法的な意味があるだろうと思います。ある犯罪を犯した子供たちの防止教育とか,治療教育ではない,予防教育の必要性です。法教育をやったからといって,全部がうまくいくとはだれも思っていません。アメリカの人たちもだれも思っていません。一つの努力としてやる,あるいはメッセージを与えることだろうと思います。その中で多分犯罪が起きた場合には幾つかのプロセスが出てくるだろうと思います。カウンセリングをやるとか。そのときにも,実は法教育は生きてきます。そういう意味で,私はすべての子供たちにこういう予防司法的な教育はあり得るし,現在では犯罪,人権侵害などの予防教育として役に立つと考えています。
 さて,これからの課題として必要なものは何かというと,私は法曹三者にもっと学校の子供たちの教育において人的資源として表に出てきて欲しいと考えています。アメリカのABAは,自分たちのスタッフはEducationalresourceだと言っています。教育的資源だと。だからどこでも出ていく。あるいは,教育的な資源を作るためにサポートする。この精神は,日本の教育では忘れられてきたことだと思っています。法曹三者自体が真正面に出なくてもいいから,そのresourceとして協力して欲しいと思います。その一つが,私はこの研究会の場だろうし,大杉委員がいる文部科学省だろうし,鈴木委員がいる日弁連だろうと思います。
 実は,それよりももっと大きいのは,今日安藤委員が最初におっしゃったことです。こうした教育ではやはり家庭の力が必要だろうと思っています。そういうような環境を継続して維持できるかどうか分かりませんが,家の中で一生懸命に道徳が大切と説き,あるいは社会・家庭を守る教育が行われることが大切なんですが,外部の教育機関としての学校や外部の人々がそこに支援していくことも大切だと思います。そういう両者の関係が必要なんじゃないかと思うのです。
 それから,最後の(2)ですけれども,私は法教育の基本や志向はどこかで一致できると思っています。間違いなくこれはイデオロギー論争になるはずがないと思っていますし,してはいけないと思っています。ただ,そこでは一致できるだろうと思いますけれども,実際に利用される有効・多様なタイプのカリキュラムの開発が必要だろうと思います。例えばどういう判例を使うかとか,どういうような司法システムを見せるかで教材は大分違ってくるし,刑事と民事のどっちに重心を置くかで違ってくると思います。多分民事事件の場合には,大人の力を借りないで,自分たちの世界で考えてみなさい式のカリキュラムだろうと思います。やってみてダメだったら大人を入れて再度挑戦する式のカリキュラムだろうと思うし,刑事の場合には,大人や過去の経験を生かすようにという議論だろうと思います。だから,どこにカリキュラムの焦点を置くかはこれからの問題だろうと思いますけれども,この研究会でそういう教材の開発ができればと思っております。
 以上,少し散漫な発表になりましたが,これで私からの発表を終わらせていただきます。

土井座長 大変情熱的なお話,ありがとうございました。
 続きまして,鈴木委員の方からお願いいたします。

鈴木委員 私と一緒に,後藤弁護士にも手伝ってもらおうと思っております。
 今,江口委員の方でかなり法教育について熱い思いも込めてお話をされたものですから,弁護士会としてこれまでどう取り組んできたのかといった辺りを中心に,それからどういう授業を展開してきているのかということをお話ししたいと思います。

(パワーポイント上映)

・ この「法教育の取り組み」の右下のものですけれども,これは6月のシンポジウム,先ほどのABAの方をお招きしてシンポジウムを開いたのですが,そのときのチラシであります。
・ 法教育とは,これは江口委員が今御説明されたように,Law-RelatedEducation,LREの訳語として用いられているということで,弁護士会の方もこの概念を基本に据えています。今,法曹養成で専門家教育がロースクールだとかそういう形で活発に議論されていまして,弁護士会の力もかなりそちらに向いているのですが,そういう部分だけではない,法律の専門家でない人たちに対する教育を考えるべきではないかということで始めております。
・ これは,江口委員のテキストの最初の部分に出てくるのですが,CenterforCivicEducationというアメリカの法教育団体が考える理想的市民,法教育の目標とする理想的市民を作るという場合の理想的市民とは何なのかということで言われる三つの輪であります。詳しい図は江口委員のテキストの中にありまして,これ実は各三つの輪に知識,技能,信念と振ってありますが,その重なり合う部分はこういうことですよというようなことも細かく書かれております。
 しかし,往々にして法的な知識の部分を法教育あるいは教育の部分ではこれまで伝授しようとしてきたのではないかと思います。私も昔の中学,高校時代の,先ほどあった公民的分野,あるいは政治経済といったときの憲法とかを思い出すと,条文を覚えたり,あるいはこんな裁判例があるということを覚えようとしたりというような形で取り組んだような覚えがあります。しかし,むしろそうした法的な知識はともかく,そういった法の手続に参加する,あるいはそういうものに参加するためにどういう技能が必要なのかというようなことであるとか,あるいは更に言うと,そういったものを使ってやっていこうという思い,主観的な面も必要なのではないか,そういったものを備えた市民を育成することが必要なのではないかと。公民教育というものも公民を育てるということだと思いますが,この理想的市民というのは,日本で言う公民に当たるのかなと考えております。
・ 先ほど,事務次官からもお話がありましたように,法教育の必要性は今いろいろな社会の変革の中で説かれるのだろうと思います。一つは,社会構造が民主主義という憲法原理が実際に根付いているのかどうか,更に個人の価値観が多様化している中で,法的なトラブルをどういうふうに解決していくのか,それから規制緩和といった流れがありますけれども,そういった中で法というルールをどういうふうに用いていくのか,法化社会という形で言われる中で,個々の市民がそれをどういうふうに身に付けて利用していくのかといった部分でも必要なのではないかと思います。
 それから,先ほど司法書士の高橋委員からもお話がありましたが,市民の法に対する不十分な理解というのは,我々弁護士も日常的に感じているところであります。もうちょっと法的な知識,あるいは手続を知っておられれば,こういったことにはならなかったのではないか,あるいはせめてもう少し早い段階で法の専門家に相談していただければ,ここまでのトラブルにはならなかったのではないかというようなことは間々感じるところであります。
 また,司法制度改革の動きの中で,審議会の方では「法の支配を社会の隅々まで」というような表現がされていますが,その社会の隅々までというのは,弁護士だとか法律の実務家が社会の隅々にいるということだけではなくて,国民,あるいは市民の人たちが法というものを理解するということがなければならないのではないかと思っております。
 また,裁判員制度の導入というものも,この制度自体のために教育が必要であるということではありませんが,その基盤としてはやはりこういった基本的な考え方の理解というものを伝えておくということは必要なことだろうと思っております。
・ これまでの弁護士の取組みですけれども,こういった法教育という視点で取り組んできてはおりませんでした。先ほど申し上げましたように,消費者教育であるとか,あるいは職業案内,例えば弁護士になりましょうよというような形で,弁護士ってこんな仕事をしていますと。あるいは裁判手続はこんな形でやっていますよというようなこと,それからもちろん憲法教育,人権教育という分野で弁護士を授業に呼ぶというような形のことが行われていました。
 また,方法としてもこれまでの試みの中では模擬裁判を学校に行ってやる,あるいはロールプレイといって役割分担をしてディスカッションをするというようなことをやったりもしてきております。また,最近増えているのは法廷傍聴,裁判所の協力を得ながら法廷傍聴に弁護士も一緒に行っております。
 それから,社会科見学は先ほど私が話しましたように,総合的学習というものがありますので,非常に数が増えております。また講師を派遣して授業を行うということも行ってきております。
・ しかし,こうしたことだけでは足りないのではないかという中で,先ほど江口委員の話にあったアメリカの試みに触れることになります。
 アメリカは,40年近い歴史があると聞いております。また,今ここに表示してありますアメリカのABA,法曹協会ですけれども,それからCCE(CenterforCivicEducation),それからStreetLaw, PhiAlphaDeltaという四つの大きな法教育団体が存在して,それぞれがカリキュラム,あるいは教材をお互いに作り合って,それぞれの分野,特色を出して学校がそれを使って授業をしているという形で行っているということを聞いて,また我々もそれを見に行っております。
 関弁連で,アメリカのCCEを訪れたときに授業を見せてもらったので……。

(ビデオ上映)

 今の授業は,江口委員の「わたしたちと法」の29ページの「ハスティングスにやってきたトロール船」という部分に関する授業です。今ありましたように,先生が説明をして,それぞれがディスカッションをしていくという形のものです。

(パワーポイント上映)

・ それで,私たちの方で,我が国ではどうなっているのかというようなことをちょっと考えてみたりもしたのですが,憲法についての教育というのはかなり行われている,それも多重的に行われています。小学校,中学校,高校という形で。しかしながら,一般の法律,例えば民法であるとか刑法であるとか,そういった法律,更にはルールを学ぼうと,あるいは法の根本的な考え方というようなことは少し教えにくくもあり,また教えられていないのではないかというようなことを考えます。
 また,その問題の一つには教科書にも問題があるのではないかというようなことで,少し教科書の分析も行ったりしました。
 また,教え手,教師の方々もなかなか法律というのは難しいというようなことで手控えられているのかなという感じを持っております。
・ こういった法教育ですけれども,論点として一つあるのは,だれが教えるのかという問題があります。広く法教育というのを行っていくためには,やはり学校において教師の方々が担う必要があるだろうと思っております。しかし,逆に我々法律実務家も,これまで余りに教育現場に出て行かな過ぎたのではないか,むしろ定着するまで,あるいは法教育というものが理解されるように,我々がむしろ出て行って,模擬的な授業,あるいは普及するための教師の方々に対する広報活動といったものをしていかなければならないだろうし,また定着した後も,法律実務家が法律問題,あるいはそういうものについて教師の方々,現場の先生方と一緒に連携をとっていく必要があるのではないかというふうに,今,弁護士会の方では考えております。
・ また,だれに教えるかということに関しましても,小・中・高校生を中心にというふうに考えております。また,中学校,あるいは高校生というのは社会に出て行く直前でもありますので,そういった人たちには特に手厚いものが必要かと思います。
 これは,私が法教育について最初にアメリカの話を聞いたときに,実は幼稚園児でも法教育的なことを習うのだよというふうに聞きまして,どんなことをやるのですかと聞いたところ,ブランコをどういうふうに並んで順番を決めるのかというようなことで法教育的なことをやるのだと。それは最初分からなかったのですが,幼稚園の端にブランコがあって,そこに休み時間子供たちがたくさん集まって,だれから最初にやったらいいかというようなことで争いになったときに,先生がどうやって決めたらいいかをみんなで議論させると。そんな中で,ある子は力の強い子が一番でいいと,ある子は足の早い子が一番だ,ある子はじゃんけんだ,ある子は先生が決めればいいと,いろいろなことを言い出すだろうと。だけど,そこでいろいろな中で議論をして,議論といっても子供たちの議論ですからどこまでのものか分かりませんが,一応考えを述べさせて,ではどうしようと決めさせる。そして決めたことにはみんなで従いましょうというようなことを幼稚園児でもそういったことはできるのだというふうに聞きました。
 もちろん,法の細かな知識というようなことになれば幼稚園児にどうのこうのということはありませんが,先ほどありました学級活動というような部分でも法教育的なことは十分教えられるのではないかというふうに思っております。
・ 何を教えるか。一つは知識の面ですけれども,これについては簡単に「憲法の知識」,「法学概論的な知識」というようなことを書いておりますが,これは先ほど江口委員がABAのエッセンシャルズがピンク色の本(事務局注:配布資料「諸外国の学校カリキュラムにおける法的資質の教育に関する基礎的研究」)の中に紹介されていると指摘がありましたが,その中に記載があります。それを見ていただくと,本当に憲法の教科書の見出しがバッと並んでいる,それもアメリカ憲法の教科書の見出しが並んでいるというような形のものになっております。ですから,羅列をするとなると,恐らく日本の憲法の見出しを書き並べるというような形になるのかもしれませんけれども,そういった知識面は恐らくそれで過不足はないのだろうと思います。
・ しかし,次に考えられる技能の面,知識を応用させる技能,技術を把握する力,利害関係を分析する力,対立利益を評価する力,更に利益調整を工夫する,そういった力というものを身に付けることが必要なのではないかと思いますし,また参加していく技能,自分の意見を主張する自己主張の力,更に討論をしていく,合意を形成していく,また民主的手続をどのように選択して利用していくかという,こういった参加の技能というものも身に付けられるようにしていくことが必要なのではないかと思います。
 この部分だけを見ると,これが公民あるいは社会科教育ですかというようなことを言われるわけですけれども,社会科教育かどうかは別にして,法教育というものを身に付けていく,法的なリテラシーを身に付けていくということであれば,こういった部分は欠かせないのではないかと考えております。
・ それをどういうふうな方法で教えるか,具体的な方法についてですけれども,生徒さんたちは身近な問題でなければなかなかなじみません。ですから,先ほどのトロール船というのも子供たちにとってはちょっと縁遠い話ですけれども,物語のようにして先生が説明をして理解をさせていくという形で何とか雰囲気を作っております。
 それから,先ほどありましたが自由に意見を述べる雰囲気作りというのがきちんとできなければならないだろうと思います。また,討論,ディベート,ロールプレイ,模擬裁判,こういった部分は工夫が十分必要だと思います。
・ 簡単にこの部分を紹介しますけれども,この6月のシンポのときに,実は弁護士会館の中で小学生に対する模擬授業を行いました。そのときのタイトルは,ローラーブレードはダメかどうかということで,ローラーブレードというローラースケートのような靴があるわけですけれども,それで遊ぶことがはやっているようで,それを禁止したいという親が出てきた,そんな中でどうしたらいいのかということをグループごとに分かれて子供たちに議論をしてもらいました。
 ちょっと写真が見にくいとは思いますけれども,幾つかのグループに分かれて議論をしてもらっています。
・ 授業は,事案を説明して,考える視点,どういった方向で考えたらいいかというようなことを説明して,グループで討議をして意見を発表するという形で行っておりまして,先ほどアメリカの例で行われたような形で行っております。
・ 今のは小学校の例ですけれども,中学での授業というのは3時間,時間をもらって授業をやっております。
 これは東京ではなくて福井の,私立の中学校で行ったものです。テーマは,社会生活の中のルール,ルールの評価,ルールをどういうふうに策定するのかというような形で授業を行ったものです。
・ ディスカッション設例,これはちょっと時間がありませんので後ほど,先ほどお配りした資料に出ておりますので御覧いただければいいかと思いますが,バスケットボール部でのチーム作りをどうするかというようなことが設例になっております。
 この学校では,バスケットボール部が全国で優勝するくらい強いということで,こういったテーマを設定したとのことです。
・ そのときに,ディスカッションのシート,これは後ほど後藤弁護士の授業の中でも出てくるかもしれませんが,ディスカッションシートを使って議論をしてもらうということで,ただ単に考えろというような茫漠とした質問を投げかけるものではありません。
・ 授業は,先ほど言いましたように身近な素材,それから考えるための道具,視点をはっきり明示をする。
 そしてもう一つ,これは法教育の一つの面白い点ですが,ただ一つの正解,例えば1足す1は2であると,2と書いた子はマル,3と書いた子はバツというのではなくて,正解は一つではない,ただその結論をどういうふうにして出したのか,そしてまたそれをどう説明できるかということが大事なのだということを強調して授業を行っていくということになります。
・ 弁護士会としての現在の取組みですけれども,日弁連の中では市民のための法教育委員会,これは市民のためというのが実はポイントでありまして,小学校,中学校,高校といった生徒さんたちに対するだけではなくて,市民一般に対する法教育が必要だろうというふうに考えて取組み始めております。そして各弁護士会,この後紹介のある茨城の弁護士会などでは,法教育の担当する委員会も設置するようになってきております。
・ 今後は,教材の作成,カリキュラムの策定,それから先ほどありましたように弁護士による実験授業をどんどん展開していきたいと思っております。
・ これは,最後に日弁連ということではないのですが,最初にちょっと紹介しました全国法教育ネットワークという団体がございます。これは江口委員にも入っていただいておりますし,また司法書士会にも団体加入をいただいております。教員,学者,弁護士,司法書士などで組織する団体でありまして,研究会を開催して,最近は教材作りも計画をしております。「法教育の可能性」という本,あるいは「プロジェクト・シチズン」という本を出版をしております。御関心がありましたら,ホームページにも出しておりますので,御覧いただければと思っております。
 それでは,この後,後藤弁護士が茨城で実際に授業したものを少し紹介してもらおうと思います。

後藤弁護士 自己紹介をさせていただきます。茨城県弁護士会の後藤といいます。

(パワーポイント上映)

・ 先ほど,弁護士会の方でいろいろ取組み始めたというお話がありましたけれども,正式に委員会としてこういったことをやっているのは,恐らく茨城県弁護士会だけであると思います。名称は「市民のための法教育委員会」ということで,私はそこで委員長をさせていただいておりますので,本日は,実際に弁護士が地域でどんな取組みをしているかということを紹介させていただきます。
・ まず,取組みの狙いですが,先ほど江口委員や鈴木委員の方からお話があったと思いますけれども,従来型の憲法教育とか司法教育ということでは我々は考えておりません。欧米型の法教育ということを考えておりまして,立憲民主主義社会の構成員としてふさわしい,自立した市民,国民を育成するのが法教育と考えております。そのため,先ほど三つの輪の図がありましたけれども,知識,機能,徳を兼ね備えた,自分で考えることのできる市民の育成ということを目指しております。
 なぜこういう委員会を作ったのかということでございますけれども,平成14年度に関東弁護士会連合会という,関東ブロックの弁護士会の集まりがあるのですけれども,そこのシンポジウムで「子どものための法教育」ということを取り上げました。その担当会が茨城県であったということでございまして,担当して言いっぱなしではまずかろうと茨城県弁護士会で先駆けて実践することになったわけでございます。
 茨城県弁護士会の会員数は99名でございまして,この委員会の人数は12名ですので,約10分の1の委員が関わっております。
・ 本年度の実施状況ですけれども,県内各中学校への出前授業をやっております。50校派遣予定だったのですけれども,現在まで9校の申込みがありまして,5校について実施いたしました。なぜ数が少ないかというのは,後で申し上げます。
 それから,もう一つは学校に行くのではなくて,弁護士会の方に子供を集めて来ていただいて授業をするという催しもやっております。題して「子供のためのロースクール」,最近「ロースクール」という言葉がはやっておりますので,そういうキャッチフレーズでやっております。夏休みとか冬休みの実施プログラムでございまして,今年の夏休みも実施しました。17人参加していただいて,3日間実施をいたしました。
 それから,通常の体験学習として,職場に小・中学生を迎え入れて,我々がどんな仕事をしているのかということを1日体験してもらうことも行っており,今のところ12名受けております。
 それから,法教育等に興味がある教師の方から,研修会に来て欲しいという要請がありますので,そういう研修会にも講師を派遣しております。
・ それで,特徴のある出前授業ですが,幾つかのタイプに分けたいと思っております。教員の側から要望があるのは,一つは弁護士ってどんな仕事をしているのですかというようなことで,職業として知りたいというようなもの。それから,二つ目は,弁護士の人生論というか,生きざまを聞きたいというようなもので,いわば道徳型になるのでしょうか,なぜ弁護士になったのかとか,これまで苦労した仕事とか,生き甲斐を感じるときとか,これから君たちにどんな人生を送って欲しいとかいうことを,これまでの仕事の中から得た体験に基づいてお話しするもので,これは結構子供たちに良い影響を与えているようであります。
 それから,教科書の知識に肉付けした授業をして欲しいというものがあります。教科書に記載がある憲法について,条文なんかについてもうちょっと専門家の立場から詳しい説明をして欲しいというものです。
 そして,新しい法教育型ですが,技能重視であり,自分で問題解決ができるような能力を身に付けてもらうということを目的でやっているものです。これは,基本的にはアメリカの公民教育センターの教材を参考にしながら,自分たちでいろいろなものを作っております。配布資料に添付してありますが,後で説明させていただきます。
・ こういった出前授業をして,反応はどうかということですが,お世辞もあるのでしょうけれども,生徒さんたちにはかなり喜んでいただいているようです。全く見たこともないような弁護士が来ていろいろなことをしゃべるので,それで身近に感じるといった感想で,非常に好評です。
 それから,弁護士が一方的にしゃべるということではなくて,対話型,できるだけ対話したりグループ討論するようにということを委員で心掛けております。そういった点で授業中に自分の意見を言うことができたという感想もあり,好評であるようです。
 それで,法教育の場合,○×のような決まった答えがありません。どちらかというとどういうふうにして考えるのかということを重視しておりますので,その点について,新鮮だという感想はアンケートを取ると多く出てます。
 教師の側にとっての法教育の授業ですが,私たちの授業で生徒たちが非常に生き生きとしているのを見て,好評であるのでまた是非来てくださいと言われるのがほとんどです。ただし,カリキュラムの制約というものがあるようで,社会科の場合,わざわざ法教育のために1時間取るのは非常に困難であるというふうに言われることがあります。
 それから,弁護士を派遣する場合に幾らお金がかかるのか,費用の問題も心配のようです。
 次に,弁護士の側の問題ですけれども,これは慣れてしまえば問題はないのですが,弁護士は,法廷に立つというふうに相場が決まっておりまして,多数の子供たちの前に立って授業をするのは結構緊張いたします。新しい法教育型で授業をする場合,そのプログラムを作るという作業が非常に最初しんどいこともあり,その点が負担になっております。しかし,いったん授業を経験しますと,子供たちとのやりとりが法曹としての初心を思い出させてくれますので,また是非機会があれば学校に行って子供たちと語り合いたいとなるようです。
・ 次に,この派遣事業等についての評価と今後の課題ですが,第1には,いずれも好評であるということで,一定の成果は挙げていると考えております。今後,一層この方向で我が会は推進していきたいと考えております。
 それから,先ほど県内中学校50校に弁護士を派遣するのに,わずか9校しか申込みがない原因ですが,まず出前授業の制度のPRが遅れたことがあげられます。PRが今年の3月末ごろであったため,教師側の方で授業計画の中に入れることが困難になったという時期的な問題がありました。もう1点は,法教育のために弁護士が行きますよと言われても,一体その法教育とはどのようなものであるか分からないというのが教師側にあるためではないかと考えます。この点,PRの必要があるのかなというふうに思っております。
 今言いましたように,法教育ということは非常に新しい言葉ですので,それがどのようなものであるのかという点について,教師側も弁護士側も,十分な認識がないというのがありまして,そのギャップが問題になっていると思います。今後,双方に対する啓蒙活動が必要であるし,教師と弁護士の交流会,そういうのも必要ではないかと思っております。
 それから,教師の側からよくあるのは,授業時間を法教育のために取れないということです。この辺りは,カリキュラムなど制度的にバックアップしてもらう仕組み作りも必要なのではないかなと考えています。
 次に,派遣する弁護士のための教材の開発が必要であると思っております。法教育のために授業時間が取れないということですので,1時間ぐらいである程度伝えることができるものを何本か作ることが必要と思っております。
 最後になりますが,一応理想的な市民ということの育成を目指して我々の委員会はやってきたのですが,中には,表現は悪いのですが,底辺校というものがあり,授業が成立するかどうか,ぎりぎりのところで成り立っている学校もあると思います。そのような学校では,みんなで問題を考えて議論しようよと言いましても,なかなか授業として成立しないということがあるわけで,そのような子供たちに対しては,法を守ることが大切であるという遵法精神を喚起するような,非行防止にちょっと力を注いだようなプログラムも作ってみてはどうかなと考えております。今後そういう方向でもやっていきたいと思っております。
 それから,配布資料の方を説明させていただきます。皆さんのお手元に,「弁護士による法教育の実践報告(9/22) 弁護士 後藤直樹」というのがいっていると思いますが,2枚目を見ていただきたいと思います。
 2枚目は,私たちの方で学校に行って使った教材です。模擬裁判のものですが,「ジャックと豆の木」という素材をとった模擬裁判であります。後で,ビデオでこの内容を見ていただきます。
 シナリオの概要とか狙いについては,参考資料1という資料の「指導の目的」とか「素材の概要」というところに内容が記載してあります。
 参考資料の2,CCEの知的ツールもコピーして付けてあります。これは,模擬裁判をやったというだけでは何となくその場が盛り上がったということで終わってしまいますので,ある一定の考え方に基づいて問題を解決するやり方を身に付けてほしいということで,こういった知的ツールを使って指導しております。
 その次のページは,その具体的な展開のものです。「匡正的正義の考え方」ということで,どういった手順で考えていくのかということを表にしたものです。
 それからもう一つ,参考資料3?1というのがありますが,模擬裁判も一つだけではつまらないので幾つか作ってあります。もう一つはオオカミ対三匹の子豚という素材がありまして,「「オオカミなんか怖くない」損害賠償事件」というものです。その資料も一応付けてあります。内容については,御覧いただければと思います。
 それから,最後のペーパーですが,資料4,これは模擬裁判ではないのですが,子供たちに話をすると,なぜルールに基づかないといけないのか,裁判をしなければいけないのかを問われる場合があります。そういう場合に,裁判はあるのだ,憲法がそう決めているのだからと説明をしてもなかなか納得を得られません。そこで,まずトラブルを扱ったテレビドラマのビデオを流して,それを見て議論する方法があります。君たちの中で,身近なトラブルとか紛争を挙げてごらんと指摘させます。次に,それを解決するためにどんなことを君たちは考える?というふうに持っていきます。まず話し合いによる解決ですね。話し合いによる解決ができないとなると,次は暴力で解決しちゃおうなんて言う子供がいるかもしれません。歴史的に見ると,神様の前で真実を誓って決闘するとか,くがたちなどの方法もあったのだとか,王様が解決する方法もあったのだとか,いろいろな方法を挙げまして,君だったらどれを選ぶと問いかけます。そうして考えてみると,裁判というのは一定の紛争解決の方式として有効であると理解してもらえる,そういう流れです。これは,どちらかというと模擬裁判の前に,なぜ模擬裁判をするのかのところで使ったり,あるいは1時間の授業のときに,司法はなぜあるのか,裁判があるのかというところで使ったりするものです。
 以上,長々お話しさせていただきましたが,これから実際に私が授業を行った茨城県の笠間市立東中学校の模擬裁判の授業を見ていただきたいと思っております。
 最初に,NHKの取材が来ておりましたので,まずそれを見ていただきます。

(ビデオ上映)

 もうちょっと後で,今度は授業の全体を通して撮ったものがありますので,それを見ていただくと展開が分かると思います。
 先ほど,子どもに法律を教えるというのがありましたけれども,その教材の一つがこれです。絵本で,幼稚園生とか小学校低学年に教えるというその教材で,後でお回しいたします。
・ 先ほど,知的ツールの中で損害と不正という用語がありますのでそれについてまず説明をしたところです。模擬裁判やる前に知的ツールについて十分に説明をする,それから模擬裁判に入っていきます。
・ このシーンは,だれでも知っている「ジャックと豆の木」ですけれど,事件のあらましを確認しているところです。
・ このシーンで,黒板に貼ってあるのは知的ツールの図表です。この知的ツールの図表の中に,いろいろ考えて書き込むとことになっています。
・ 次に子どもたちにシナリオをああいうふうに読んでもらって,後は各自それぞれのシートに従っていろいろ考えて検討するという作業があります。その次にグループ討論をしてもらいます。グループ討論の場合,なかなか意見が出なかったり,逆に変な方向に行ってしまう可能性もありますので,教師や私が各テーブルを回って,いろいろな考え方があるのだとか,サゼスチョンしているところです。
・ このシーンですが,ジャックが逃げるときにどういうことを言ったのかという問題です。「ぶっ殺すぞ,このくそがき」と言ったか,それとも,「待て,返せ」みたいなことを言ったのか,そんな話のところですね。
・ グループ討論が終わった後は,それぞれのグループから検討の結果を発表してもらいます。
・ このシーンですが,量刑の理由のような話をしています。被害者の方に落ち度があれば,その分だけ軽くなるのではないのかを議論しているところです。
 という具合でして,今回ビデオで流したのは模擬裁判のものですが,それ以外に模擬裁判ではないグループ討論というものもやっております。
 先ほどちょっと紹介させていただきました,この教材です。公正なクマさんの家族がいるのですが,その公正なクマさんの家族が蜂蜜の配分を巡って問題になっちゃうケースがあります。このようなものを使って,先ほど江口委員が言いましたけれども,もし給食の時間に本当は40人分のものが必要なところに10人分しか手違いで届かなかったら君たちどうするのというような議論をしたり,例えばクラスの中で掃除当番を決めなければならないけれども,どうやってそれを決めるのかのような問題について議論をさせたりしています。ただ,模擬裁判の方がみなさんに御覧いただくには,盛り上がりがあっていいのかなと思い,紹介させていただきました。
 それから,素材のヒントというのはアメリカのABAの教材の方からいただいております。幼稚園生ぐらいから小学生向けの童話に素材をとった模擬裁判ものが出ています。制度が違いますから,そっくりそのまま日本語に訳しただけで使えないので,いろいろ工夫は必要になってきますが,こういったものが非常に参考になっています。お回しいたしますので御覧いただければと思います。ご清聴,どうもありがとうございました。

土井座長 貴重な報告をありがとうございました。
 これから質疑応答,意見交換を予定しているのですが,少し時間も押しておりますし,それから次回以降,自由に御意見賜る機会があろうかと思いますので,5分から10分程度,自由に御意見をいただければと思います。どなたからでも結構ですので,御発言や御感想,御質問等あればいかがでしょうか。
 では,私の方から一つ伺わせていただきたいと思います。
 江口委員あるいは鈴木委員の御報告でもありましたけれども,小学校,中学校,高校という形でいろいろと法についてお話しされるということであれば,我々法の専門家が考えている法というのはかなり堅苦しいところがありまして,法と言うとだれからも怖がられるというところがあるわけです。けれども,そういう形で話をされるということになると,法というものをもう少しふわっとした形で理解されるというか,法と道徳をどう区別するかというような点を,余り厳密にせずに,ルールだとか,どういうふうに話し合うのかというようなところから話した方がいいのかなというイメージも受けたのですけれども,その点,江口委員,いかがでしょうか。

江口委員 いや,私は専門家でもありませんので,定義を厳密にやることは無意味だと思っております。それで良いのじゃないですかと思います。土井座長のそういう感じのもので結構です。

土井座長 鈴木委員の方はいかがでしょうか。

鈴木委員 私も弁護士という仕事をしていますから,常日ごろは逆に六法とか見ているわけですが,こういうお子さんたちというか,生徒さんたちに話をするときには,むしろそれはちょっと脇に置いておいて,逆に原理原則みたいなものだけを頼りに話をしていくというふうにしています。もちろん,質問があれば,それはどこの法律に載っているのですかというようなことを聞かれれば,条文を見ながら指摘をしたりしますけれども,むしろそういうことが教えたい内容では無いということをあらかじめ言った上でお話しするようにしています。

土井座長 その辺りのところ,必ずしも法律の専門家というわけではありませんけれども,いろいろと御関心がお有りだということなので,荻原委員,どういう感じでしょうか。
 法というものを厳密にとらえずに,もう少し一般的にルールを守るとか,そういう形から議論するのが良いのじゃないかみたいな感じを私は持つのですけれども,その辺りを含めて。

荻原委員 今のいろいろな,「ジャックと豆の木」の話なんかは,子供のころから,ただ物語をそのまま読むだけじゃなくて,ジャックはいつも成功者だと私なんか思っていたのですけれども,ジャックもこんな悪いことしていたみたいな,新しい視点が入っていて面白いなとか思って,これはもうそのまま日本語に訳して小学校からやってもらって……。
 私,いつも報道で思うのですけれども,いつもだれかが善人で,悪人がいて,水戸黄門とか時代劇みたいな,そんな日本人ってそういうふうに割り切ってしまいがちなんですね,だから実は良いことを言っているような人が,その裏ではこんなことをたくらんでいたみたいなのがあったりすると,複雑に物を考えられるようになるなと思って,いいな,これ,と思って。
 環境問題が私は専門なんですけれども,スウェーデンでは,批判する能力を付けることが教育の最終目標だと言っているのですって。批判する能力を付けることなんていうのは,日本じゃそんなの絶対にあり得ない,素直が一番よくて,先生が言うことは素直に受け入れて,お国が言うことも上の人の言うことも素直に受け入れるのが良いことみたいなのがずっとありましたので,批判するのは悪いことだというのが,親もずっとあるのですね。多分,先生も余り批判的な子供というのは好きじゃないと思うのですけれども,それを教育の目標が批判できる子供,ただ批判といってもよくあるように批判ばかりして何も建設的な意見を言えないようなんじゃなくて,責任のある批判ができる,建設的な批判ができる子供を育てるというのが教育の最終目標だというのを聞いて,やはりそういうビジョンを持たなければ公民は育たないのだなと。そのためには,良いとされているストーリーも実は裏には……とか,何かいろいろな見方のできる教え方というもの,これはそのまま訳して使って欲しいなと思いました。

安藤委員 宮沢賢治が昔演劇教育というのをやって,それぞれの立場を持ち回りで演じさせて,それぞれの立場を理解させたというのとすごく似ていると思うのですね。こういうのって,もっと低学年のときからやっていっても分かりやすいのじゃないかなと思いました。本当に視点によっていろいろな立場のことが分かってくるし,今何か子供たちって自分の権利だけ主張して,自分たちがやらなければならないということを大人たちから教えられていないような気がするので,こういうものを通して分かりやすく教えていくというのは大事だなと思いました。
 公民とかやっていても,さっき荻原委員が学校で良いことをやっていらっしゃるとおっしゃったのですけれども,うちの子供たちに中学校のときどうだったと聞いたら,チョーつまんなかったと言うのですね,だから非常に現場の先生の指導の仕方によって,それが実になったりならなかったりという落差が大きいと思うので,やはりある程度統一していった方が良いのじゃないかなという気もするのです。今のこういうのをもっとどんどん取り入れていったならば,子供たちが結構食らいついてくるというふうに思います。

土井座長 自分の考えを自分ではっきり述べていく力をつけるということと,他人の考えている気持ちとか考え方というのを十分理解していくことの,両方が重要なわけで,それを法というものを題材にしながら考えるというのは確かに面白いことではないかと,ビデオ等見せていただいて感じました。
 本来でしたら,法教育の精神からいって自由な討論の時間を十分取るというのが本来の趣旨かと思いますが,今日は少し時間の関係がございますので,議論の方はこの辺で終わらせていただいて,次回以降,具体的ないろいろな御意見を伺いたいと思います。
 それで,今日もう一つやっておかなければいけないことといいますのは,今後の研究会の進行の具合について少し御検討いただきたいと思います。
 事務局から配布されております資料3「法教育研究会の今後の進め方について(案)」というのを御覧ください。
 それに基づきまして,最初に事務局の方から御説明をしていただきたいと思います。

大塲参事官 この資料3「法教育研究会の今後の進め方について(案)」というものでございます。これは,資料1にあります開催要領,ここの3のところに「研究事項」とありますが,これに基づいて具体的に書いてみるとこういった案になるのではないかなということで作ったものにすぎません。これ以外にも,委員の方々から御提案がございましたら承りたいと思っております。
 検討・研究すべき課題としては1に挙げてあるとおりでございまして,2以下については今後の法教育研究会の進め方の案でございます。1年で終わるかどうかという御意見もありましたけれども,取りあえずこういったプランを考えているところでございます。
 こういった検討や研究すべき課題につきましては,もちろん初回である今日だけではなくて,今後も適宜委員の方々から御提案をいただきたいと思っております。

土井座長 事務局の方からの説明は以上でございますが,今後の進め方等につきまして御意見がございましたらお願いいたします。
 今,事務局の方からも御説明がございましたように,今日ここでこういうふうに確実に決めるということではなくて,今日,両委員からの御説明,御報告もございましたので,そういうものを参考にしていただきながら少しお考えをいただいて,また御意見等を事務局の方に伝えていただきましたら,御意見を踏まえて更に詳細な今後の進め方について検討させていただきたいと思います。それでよろしゅうございますでしょうか。-ありがとうございます。
 今日お配りいただいた事務局の案に列挙してございます事項につきまして,研究・検討を行うということにつきましては,御異論がないかというふうに承りましたので,今後各委員からの御意見も踏まえまして,検討・研究の順序につきましては御一任をいただきたいと思います。
 それでは,ここにも挙がっております法教育における消費者問題につきまして,次回は,まず我が国における法教育の実践例等を踏まえて,ヒアリング等を行いたいと思っております。
 ヒアリングの対象となる方につきましては,事務局の方で適宜御検討をいただきたいと思います。ただ,検討・研究課題に含んでおります先ほど申し上げました消費者問題等につきまして,高橋委員が所属されております日本司法書士会連合会の方で,以前から取り組んでおられるというふうに伺っておりますので,次回,この点につきまして日本司法書士会連合会の方からプレゼンテーションを行っていただきたいと思うのですが,よろしゅうございますでしょうか。

高橋委員 はい,承知いたしました。

土井座長 それでは,よろしくお願いいたします。
 それでは,少し予定した時間を過ぎましたけれども,本日はこの程度とさせていただきたいと思います。江口,鈴木両委員及び後藤弁護士には,貴重なお話を賜りまして大変ありがとうございました。お礼を申し上げます。
 次回は,本年10月15日水曜日,午後2時から法務省の第1会議室において開催を予定しておりますので,御出席方よろしくお願いいたします。
 それでは,本日の議事はここで終了したいと思います。本日はどうもありがとうございました。