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平成12年改正少年法に関する意見交換会(第4回)議事録

第1  日時

平成18年12月11日(月)午後1時34分から午後4時3分

第2  場所

法務省第一会議室

第3  出席者(敬称略,五十音順)

甲斐 行夫(法務省刑事局刑事課長)
川出 敏裕(東京大学教授)
河原 俊也(最高裁判所家庭局第二課長)
久木元 伸(法務省刑事局参事官)
佐伯 仁志(東京大学教授)
武 るり子(少年犯罪被害当事者の会・代表)
武内 大徳(弁護士)
松尾 浩也(法務省特別顧問)
松村  徹(最高裁判所家庭局第一課長)
三浦  守(法務省大臣官房審議官)
望月 廣子((社)被害者支援都民センター・相談支援室長)
安永 健次(法務省刑事局付)
山崎 健一(弁護士)

第4  配付資料

第5  議題

最高裁判所からの意見表明

第6 議事

● 甲斐 それでは始めさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 最初に,手続的な関係ですが,議事録のホームページ掲載について御説明をさせていただきたいと思います。
● 久木元 前回の意見交換会でお配りいたしました第1回,それから第2回の意見交換会の議事録につきましては,先週までに法務省のホームページ上に掲載しております。インターネット上の法務省のホームページ,アドレスを申し上げますと,https://www.moj.go.jp/でありますが,これを開いていただいた上,最初のページ上の「法務省からのお知らせ」というところの中の「平成12年改正少年法に関する意見交換会について(2006/12/1)」というところがありますが,それをクリックしていただきますと御覧いただけます。
 また,同じ情報は,最初のページの左側に英語で「What’s new」という欄がありますが,そこをクリックしていただいて,その後に出てくる画面中,「平成12年改正少年法に関する意見交換会について(H18.12.1)」というところをクリックしていただいても同じところに行って御覧いただくことができます。
 今後,前回の第3回,それから本日の会議の議事録につきましても,作業ができ次第掲載させていただく予定であります。
 以上でございます。
● 甲斐 ただいまの説明について何か御質問等ございますでしょうか。特になければ議事に入りたいと思います。
 それでは,今日の予定ですが,最高裁から御意見をちょうだいしたいと思いますが,そのほかに山崎先生から補充の御意見をちょうだいするということで,どちらから先にした方がよろしいですか。
● 山崎 基本的には紙を配付していただければということで。
● 甲斐 配付でよろしいですか。
● 山崎 ええ。基本的には配付していただければ結構です。
● 甲斐 そうですか。分かりました。では配付をお願いします。
 追加の御意見ということで書面の配付をいただきました。
 それでは,最高裁判所から御意見をちょうだいしたいと思いますので,よろしくお願いします。
● 河原 それでは,少年審判制度を運用しております家庭裁判所の立場から平成12年改正法のこれまでの5年間の施行状況やその実情等について説明したいと思います。
 机上にレジュメを配付させていただいておりますので,その順番に沿って説明いたします。
 改正法の要点は大きく分けますと,少年事件の処分等の在り方の見直し,少年審判の事実認定手続の適正化,少年事件の被害者のための配慮の充実という3点ですので,以下,この順に沿って説明します。
 なお,改正法施行後5年間の施行状況の統計的な点については,第1回意見交換会で法務省から説明があったとおりですので,それについては,それぞれの事項について必要な限りで触れることといたします。
 最初に,改正の1つ目の要点である,少年事件の処分等の在り方の見直しに関する事項について説明いたします。
 まず,刑事処分可能年齢の引下げの施行状況については,第1回意見交換会で説明があったとおり,改正法施行から5年間で,14歳又は15歳の年少少年で逆送された者の人員は5人でした。
 家庭裁判所としては,この改正については,年少少年について処分の選択の幅が広げられたものであり,個々の事案に応じた適切な処遇選択が可能となるとの意義が認められると考えています。
 各家庭裁判所では,特に重大事件において,この5年の間,年少少年の事件についても,非行の重大性,悪質性のほか,少年の資質や生育史,生活態度等非行に至った個別具体的な事情を総合的に考慮した上,それぞれの事案について,保護処分が相当か刑事処分を選択すべきか等の判断をしています。
 これまでは,結果としてほとんどの事案で刑事処分以外の措置が選択されていると言えますが,義務教育の対象年齢である14歳,15歳の少年は,精神が未発達であり,重大犯罪を犯したとしても保護処分をとることが相当と認められる場合がやはり多いのではないかと思います。
 14歳,15歳の年少少年について逆送が問題となるような事件は少年事件全体から見れば必ずしも多くはないように思いますが,家庭裁判所としては,年少少年による事件についても,被害の重大性や少年の資質等を適切に考慮して,引き続き法の趣旨に沿った適正な運用に努めてまいりたいと考えています。
 次に,原則逆送制度についてです。
 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件,いわゆる故意致死事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年によるものについては,家庭裁判所は原則として逆送決定をしなければならないこととされましたが,この対象となる事件の少年の人員は,改正法施行後5年の間で349人であり,第1回意見交換会で説明があったとおり,そのうち216人,割合にして61.9%が逆送となっています。
 逆送となった事案について見ますと,動機や経緯に酌むべき点がないとか,態様も悪質であるとか,共犯において果たした役割が大きいなどといった事案が多いようです。
 他方,少年院送致等の保護処分が選択された事案は,例えば,殺人の場合であれば,女子少年によるえい児殺であったり,少年の精神状態に問題があるもの,親族間のトラブルから事件に発展したものなどが多く,傷害致死の場合であれば,少年自身が果たした役割が他の共犯者に比べて極めて小さいものなどが多いようです。
 原則逆送の対象となる事件について,原則どおり逆送とする場合でも,例外的に刑事処分以外の措置を選択する場合でも,社会調査を尽くして非行のメカニズムをできる限り解明することが求められていることに変わりありません。これは,法律上,原則どおり逆送とするか例外的に刑事処分以外の措置を選択するかの判断は「調査の結果」行われることとされていることからも当然のことと考えています。
 したがって,基本的には,他の事件と同様,非行理解や要保護性の判断に資する事項,具体的には,少年の性格や行動傾向,行状,学業や就労状況,家庭環境等について十分調査が行われています。また,原則逆送の対象となる事件では,被害者を死に至らしめたという結果の重大性に照らし,被害者の遺族の方々の置かれた立場や心情等を的確に把握することが必要とされるため,ほとんどの事件で,後で述べるいわゆる被害者調査が行われています。
 原則逆送制度については,これまで5年間の施行状況を見ると,法の趣旨に沿って,原則的には被害者の死亡という結果の重大性を十分に考慮した処遇選択を行う一方で,例外的な事情のある事案ではその点も考慮するという運用がされていると考えており,今後とも適正な運用に努めてまいりたいと考えています。
 次に,少年法25条の2に明定された保護者に対する措置について述べたいと思います。
 家庭裁判所では,今回の改正前から,審判や調査の過程において保護者に対する訓戒や指導等を行ってきたところですが,平成12年の改正少年法で明文の根拠規定が置かれた趣旨を踏まえ,保護者に監護能力を回復させ,あるいは向上させるため,複数の保護者らを集めて保護者会を実施しているほか,被害の実情や被害者の方々の心情等を保護者にも実感させるため,犯罪被害に遭ったことのある方にその御経験や心情等を,少年らにはもちろん,保護者らにも直接語ってもらう「被害を考える教室」に参加させたり,地域清掃活動等の社会奉仕活動に少年とともに保護者も参加させたりするなど各地の実情に応じた工夫をしているところです。
 家庭裁判所としては,改正少年法で25条の2が設けられた趣旨を踏まえて,調査・審判等の様々な機会をとらえて保護者に教育的な働きかけを行うことで,保護者に対し少年の監護に関する責任を自覚させ,再非行防止につながるよう一層の努力をしていきたいと考えています。
 なお,少年本人に対する家庭裁判所の終局処分としては,全体から見れば,いわゆる不処分決定や審判不開始決定も多く選択されているところですが,この意見交換会でも,松尾先生から,例えば,不処分については「審判終結決定」といったもっと積極的なイメージの言葉を使った方がよいという御提言もいただいていますので,ここで,少年に対する教育的働きかけ,いわゆる「保護的措置」について紹介いたします。
 家庭裁判所では,家庭裁判所調査官による面接調査等の際に,少年に対し必要な指導等を行っています。また,審判が開かれる事案では,少年法22条1項に,審判は少年に「内省を促すものとしなければならない」と定められたところを踏まえて,裁判官から,自己の非行について真剣に考えさせるような訓戒を行うように努めています。
 場合によっては,先ほど述べたとおり,被害に遭ったことのある方の声を直接聞かせたり,地域清掃活動に参加させたりするなどして非行に対する責任を自覚させ,再び非行を起こさないとの意欲を喚起することに努めているところです。
 このように,様々な調査や少年や保護者に対する教育的な働きかけを通じて少年の再非行が防止できるかどうか慎重に見極めた上で,不処分あるいは審判不開始という決定を行っているのが実情です。
 今後とも,少年の内省を深めるのに効果的な働きかけを行っていくよう努めてまいりたいと考えています。
 次に,改正の要点の2つ目である,少年審判における事実認定の一層の適正化についてです。
 このうち,家庭裁判所における運用にかかわるものとして,3人の裁判官による審理を行うことのできる裁定合議制度の導入,少年審判に検察官及び弁護士である付添人が関与する審理,いわゆる検察官関与制度等の導入,さらに,検察官関与決定のあった事件に関する検察官の抗告受理申立制度の導入,観護措置期間の最長4週間から最長8週間への延長,いわゆる観護措置の特別更新制度の導入があります。
 まず,裁定合議制度についてですが,家庭裁判所としては,事実認定にせよ処遇選択にせよ,判断が難しい事件について,知識や経験の異なる複数の裁判官が合議で審理することによって,より客観的で的確な判断が可能になったと考えています。
 次に,検察官関与制度についてですが,第1回意見交換会で説明のあったとおり,家庭裁判所において検察官関与決定がされた保護事件の少年の人員はこの5年間で97人であり,家庭裁判所に送致される少年事件の全体から見ると,検察官関与決定がされた事件の数は必ずしも多くないように思われますが,これは,少年事件では,少年が非行事実を認めるいわゆる自白事件が大半を占めることや,否認事件であっても,裁判所は,記録を読み込んだ上で,証拠関係や少年の弁解内容などを頭に入れて審判に臨むことができるため,検察官関与を求めなければ正確な事実認定ができない事案はそれほど多くはないことなどにも関係していると思われます。
 検察官関与が行われる事件では,検察官から関与の申出があって関与決定がされたものばかりでなく,家庭裁判所から検察官に関与申出をするかどうか意見を求めた上で検察官関与の決定がされる事件もあります。
 検察官から関与申出のあった事件については,殺人,傷害致死,強盗致死といった故意致死事件が多い一方,家庭裁判所から関与するかどうか意見を求めた事件では,故意致死事件以外の事件が多くなっています。
 家庭裁判所からすれば,被害者が死亡したような事件以外の事件であっても,少年側の主張や証拠関係等から見て事実認定上の問題があり,検察官関与の必要性が認められる事案もあるので,検察官からの関与申出がない場合であっても,検察官に対し関与するかどうか意見を求めている実情がうかがえます。
 ちなみに,検察官から関与の申出があったが家庭裁判所が関与決定をしなかった事件の少年について,非行なし不処分とした例はありませんでした。
 検察官関与決定がされた事件のうち,証人尋問が行われた少年の人員は60人,鑑定又は検証が行われた少年の人員は9人でした。
 検察官が関与した審理における証人尋問や少年本人に対する質問は,裁判官らによる研究によれば,裁判官が最初に尋問等をする場合と付添人や検察官の尋問後に裁判所が補充的に尋問等をする場合とがほぼ半々とされています。個々の事件において尋問の進め方は異なると思いますので,一律にこのように行っていると言うことは困難ですが,どのような審判進行を採るにしても,当該事件において,いかにすれば適正かつ迅速な証人尋問を行って事案を解明することができるかという観点から工夫されているものと思われます。
 また,平成12年の改正によっても,職権主義的審問構造という少年審判の基本構造は変更されておらず,検察官は,弁護士である付添人とともに審判の協力者として手続に関与することとされており,これまで検察官が関与した審判でも,検察官は審判の機能に十分配慮しており,少年に対する教育的雰囲気を損なうようなことはなかったと承知しています。
 家庭裁判所としては,この検察官関与について,一定の重大な事件について非行事実に争いがあり,その判断が必ずしも容易ではない事案で,検察官や弁護士である付添人が,裁判所とは異なる視点から証拠調べに加わったり意見を述べたりすることにより,より客観的で的確な判断が可能になったと積極的に受けとめており,今後とも,必要な事案では検察官関与制度を活用していきたいと考えています。
 検察官関与決定がされた97人の処分結果は,第1回意見交換会で述べたとおり,検察官送致が33人,少年院送致が41人,保護観察が10人,不処分が13人となっています。不処分13人のうち8人がいわゆる「非行なし」不処分であり,これを罪名別に見ると,強姦4人,強姦致傷3人,強制わいせつ致傷1人となっています。また,少年院送致となった41人のうち1人,及び保護観察となった10人のうち2人については,検察官関与決定のあった事件自体は「非行なし」の判断がされており,このいずれの事件もが強姦でした。
 検察官関与決定のあった事件で「非行なし」とされたこれら11人のうち5人については,検察官から高等裁判所に対し,平成12年改正により新設された抗告受理申立てがされ,高等裁判所では,このすべての申立てを認めて抗告受理決定がされています。この5人のうち4人については,家庭裁判所の非行事実なしとの判断に誤りがあると判断されています。少年審判における事実認定手続の一層の適正化という観点から,この抗告受理申立制度も一定の効果を上げているものと考えられます。
 次に,観護措置の特別更新についてです。
 改正法施行後5年間でこの特別更新がされた人員は,観護措置が採られた人員に比して0.2%にとどまっています。また,特別更新した事件の平均観護措置期間も約43日となっています。
 このような運用状況を見ると,観護措置期間が8週間を最長とするよう改正された後も,家庭裁判所では,基本的に,少年の心身等に与える影響等も考慮しつつ,特別更新を行う必要性について慎重に判断しているということができると思われます。
 観護措置の特別更新については,これまでの意見交換会でも説明してきましたが,家庭裁判所としては,事実認定のために必要な審理期間が確保される必要があり,仮に改正前の4週間に限定されるようなことがあれば,適切な事実認定が困難となる懸念があるといわざるを得ません。現に,全体の事件数から見れば少ないですが,特別更新の要否を慎重に見きわめつつも,249人については4週間を超える観護措置期間がとられており,個々の事案に応じた適切な審理期間が確保できるよう,制度的に担保しておく必要性は高いといえます。
 最後に,改正の要点の3つ目である被害者への配慮の充実に関する制度についてです。
 この点,平成12年改正により,被害者等による記録の閲覧・謄写,被害者等の申出による意見の聴取,被害者等に対する審判結果等の通知の3つの制度が導入されたところです。これらいずれの制度についても,申出があれば,形式的要件を欠くなどの例外的な場合を除き,そのほとんどが認められている状況にあるといえ,基本的に被害者の方々の要望に応えた運用がされていると考えています。
 ここで,もう少し詳しく各制度の運用状況について見てみたいと思います。
 まず,被害者等による記録の閲覧・謄写について,その申出をしたものの,これが認められなかったものは44人いますが,申出が認められなかった理由を見ますと,事件の審判が開始されなかったことを理由とするものが11人,法定の申出資格のない者からの申出であることを理由とするものが8人,非行事実に係る記録以外の記録の閲覧又は謄写の申出であったことを理由とするものが8人,既に閲覧等を認めた共犯事件の記録と重複した閲覧等の申出であることを理由とするものが4人などとなっております。法定の申出期間である終局決定が確定した後3年の経過を理由に申出を認めなかった例はありませんでした。
 なお,記録の謄写については,犯罪被害者等基本法の趣旨等を踏まえ,謄写業者の一つである財団法人司法協会の職員が謄写業務を請け負っている家庭裁判所では,平成17年8月から,被害者の方々からの申出に基づく記録の謄写料がこれまでの半額に引き下げられています。
 いわゆる社会記録の閲覧・謄写に関しては,現行の少年法では,被害者の方々による閲覧・謄写は当該保護事件の非行事実に係る記録に限られており,社会記録についてはこれが認められておりません。
 この部分の閲覧・謄写の要望も出されていますが,社会記録は,家庭裁判所調査官等の専門職による専門的かつ詳細な少年の人格・環境の調査結果を記録したものであり,これには,例えば少年の出生の秘密や幼児期からの親子関係など少年や関係者のプライバシーに深くかかわる情報が含まれており,この閲覧等を認めることは,少年らのプライバシーの保護の点から問題があります。
 また,社会記録も被害者の方々にも閲覧等がされるとなれば,少年らが開示を意識して家庭裁判所調査官と少年らとの人間関係の構築が難しくなり,調査の際に少年を的確に理解するための情報が得にくくなるなど調査の実効性にも影響してくるおそれもあり,これは,ひいては再非行防止のための適正な処遇選択にも影響を及ぼすと考えられますので,慎重な検討が必要であると考えます。
 次に,被害者等の申出による意見聴取について見ますと,これが実施されたもの791人の罪種別の実施数については,第2回意見交換会で説明しましたとおり,傷害が319人,業務上過失致死が77人,傷害致死が51人,業務上過失傷害が44人,殺人が35人などとなっていますが,強盗致死,危険運転致死も含むいわゆる故意致死事件全体で見ると,申出があった合計112人のすべての方について意見聴取が実施されております。
 また,審判期日において意見聴取された者は90人おりますが,これについて罪種別に見たときには,故意致死事件が38人,傷害が17人などとなっており,家庭裁判所に送致される罪種別の事件数の違いも考えると,故意致死事件については他の事件に比べて意見聴取が実施されることが多く,その方法も,審判期日での意見聴取によることが多いと言えます。
 被害者の方々から意見聴取の申出がされたが,その実施はされなかった者は34人いますが,実施されなかった理由について見ますと,被害者等が申出を取り下げたり意見聴取の期日に出席しなかったりしたなど申出人側の事情を理由とするものが14人,法定の申出資格がない者からの申出であることを理由とするものが10人,事件終局後の申出であったことを理由とするものが3人などとなっています。
 なお,家庭裁判所では,被害者の方々から意見聴取の申出があるかどうかにかかわらず,事案に応じて,前述したいわゆる被害者調査を行っています。これは,非行をより客観的に理解したり少年の問題を的確に把握したりする必要があるときや被害者の方々の心情等を把握する必要があるときに,家庭裁判所調査官による社会調査の一環として,面接や書面照会等により,被害者御本人やその家族や遺族の方々から,被害者の方々から見た非行の状況や被害の実情,少年の処分に対する意見等をうかがうというものです。特に,被害者の方が亡くなられているような殺人等の重大事件では,ほぼすべての事件について被害者調査が行われています。
 次に,被害者等に対する結果等通知について,その申出をしたもののこれが認められなかったものは27人いますが,その理由について見ますと,法定の申出資格がない者からの申出であることを理由とするものが12人,他の家庭裁判所に送られた事件について申出がされたことを理由とするものが5人,既に結果通知の申出が認められていた者から再度同様の申出がされたことを理由とするものが3人,法定の申出期間である終局決定の確定後3年を経過した時期に申出がされたことを理由とするものが3人などとなっています。
 これらの被害者配慮制度については,被害者の方々の御希望にできる限り沿った運用に努めていくべきであると考えています。
 また,被害者の方々への応対等についても,これまでも,司法研修所における裁判官に対する研修や裁判所職員総合研修所における裁判所職員に対する研修を行ってきたところです。今後とも,裁判官や裁判所職員が被害者の方々の置かれた立場や心情等について理解を深めるように努めていきたいと考えています。
 さらに,東京家庭裁判所などでは,取り扱う事件数も多いことなどから,家庭裁判所調査官が被害者の方々から被害の状況やお気持ちを聞いたり,逆に,被害者の方々が家庭裁判所調査官に意見を述べたりする際に使用するため,被害者の方々の心情等に配慮した暖かい色の机やいす等を置いた部屋を設けており,この部屋は,被害者の方々が証言などのために家庭裁判所に来られたときの待合室としても利用されていますし,他の家庭裁判所でも,来訪した被害者の方から個別に御要望があれば,待っていただくのに適した部屋をできるだけ用意しております。
 ところで,これら3制度は,いずれも被害者の方々の申出によるものであることから,被害者の方々の御要望にできる限り応えられるようにするために,各被害者配慮制度を被害者の方々に周知するよう努めるべきとの御意見がこの意見交換会でも出されたところであり,昨年12月に閣議決定された犯罪被害者等基本計画においても,政府において検討すべき事項として取り上げられているところです。
 第1回意見交換会でも説明したように,裁判所では,被害者配慮制度について分かりやすく説明したリーフレットを作成して関係機関に配付を依頼したり,ホームページその他での広報活動を行ってきましたが,これに加えて,一定の事件について,家庭裁判所に送致されれば,被害者の方々からの申出を待たずに,これら各制度について分かりやすく説明したリーフレットと担当書記官の名前や内線番号などを書いた文書を被害者の方々に郵送して制度を案内するという取組を始めています。既に本年12月1日現在で,東京,大阪,名古屋など30庁を超える各家庭裁判所でこの取組が行われています。
 他の家庭裁判所でも,同様の案内の実施について準備,検討されているところであり,来年の1月1日から,または準備が整い次第,この案内が実施されることとなる予定です。
 さらに,先に述べた家庭裁判所調査官による被害者調査を行う際には,家庭裁判所調査官の方から被害者の方々に対して,被害者配慮制度の内容や申出時期等について説明したり,希望があればその申出のための書類等を渡したりしているところであり,これによって,例えば,被害者の方々が意見聴取制度を利用できることを知らないまま事件が終わるといったことができる限り生じないようにも配慮しているところです。
 家庭裁判所としましても,これらの取組によって,平成12年改正法により導入された被害者の方々のための各制度がより一層利用できるようできる限り努めていきたいと考えています。
 次に,被害者等による審判の傍聴についてです。既に第2回及び第3回意見交換会においても,被害者の審判傍聴を認めるべきであるとの意見が出されたところですし,犯罪被害者等基本計画では,「少年審判の傍聴の可否を含め,犯罪被害者等の意見・要望を踏まえた検討を行い,その結論に従った施策を実施する。」とされており,裁判所としても,これらの点については重く受けとめなければならないと考えています。
 その上で,被害者の方々の審判の傍聴の検討に当たっては,審判とはどういったものかということを理解していただくこともまた重要であると考えますので,少年の再非行防止という機能を担う少年審判の運営の実情等について改めて御説明したいと思います。
 少年審判では,まず,前提となる少年の非行事実を適正に認定した上で,再非行防止のために最も適切な処分を選択できるように,犯行の動機,態様及び結果等の非行事実のみならず,少年の行状,経歴,資質,環境等といった要保護性,つまり,少年が再非行を犯す可能性についても十分な審理を行う必要があります。
 また,どのような処分が選択されるにせよ,少年自身に真に内省を深めさせ,二度と非行を犯さないとの自覚を持たせる必要がありますから,審判の過程では,事案や少年に応じた教育的な働きかけを加えているところです。
 要保護性について審理を行う場合には,少年や保護者のプライバシーに相当踏み込んだやりとりが必要となります。その際に扱う事柄は,少年の病気や障害に関するものであったり,性的な事項であったりすることもあります。あるいは,保護者の夫婦関係や幼児期からの少年への虐待に関係している場合もあります。
 また,少年の内省を深めさせるためには,少年に自らその行いを十分振り返らせ,率直な気持ちを語らせるとともに,裁判官が少年の内面に深く立ち入ってその問題点を厳しく指摘し,それを受けとめさせるという教育的な働きかけが必要となります。
 しかし,被害者の方々が少年審判を傍聴した場合には,少年や保護者がプライバシーに関する事項について発言することをためらい,その結果,家庭裁判所が少年の再非行可能性を判断するのに必要な情報を得られなくなるおそれがありますし,少年が内面をさらけ出すことなどができなくなり,審判が表面的なものとなって,裁判官の働きかけも空回りし,その効果を上げることができなくなるおそれもあります。
 審判のうち,非行事実を認定する部分であれば,傍聴に問題はないのではないかという意見も考えられるところですが,実際の審判は,非行の内容や非行に至る経緯それ自体の中に改善されなければならない少年の重大な問題があらわれていることが少なくなく,非行事実の審理と要保護性の審理を相互に関連させながら進めており,非行事実のみに関する審理と要保護性のみに関する審理というふうに区別することはなかなか難しい面があります。
 裁判所としては,「事実を知りたい」との被害者の方々の御要望については,まずは記録の閲覧・謄写や審判結果の通知といった現在ある制度をより一層活用してもらうよう努めているところですし,今後も一層そのように努めてまいりたいと考えています。その上で,審判の傍聴については,どのようにすれば,今説明したような少年審判の機能をできるだけ損なうことなく被害者の方々の要望も反映させられるのかについて,バランスのとれた検討が行われる必要があるものと考えています。
 以上,平成12年改正法の施行状況等について説明いたしましたが,家庭裁判所としては,少年非行について適正な事実認定を行うという点からも,少年にいかなる処分を課すかという点からも,少年審判制度そのものに対して被害者の方々を初めとする国民からの信頼を得られるように,今後とも引き続き制度の適正な運用に努めていきたいと考えています。
 これで平成12年改正法の施行状況やその実情等に関する裁判所の説明を終わります。
● 甲斐 ありがとうございました。
 それでは,質疑あるいは御意見に移りたいと思いますけれども,よろしくお願いをします。
● 久木元 今,最高裁からのお話の中で,これに対する質問というわけではありませんが,被害者に関する制度の周知について,今の取組のお話がございましたので,法務省の取組につきましても,前回も少し触れさせていただきましたが,ここで御報告させていただきたいと思います。
 これまでの御意見の中で,この被害者の方々への配慮制度に関して,被害者が自ら調べなくてもそういう制度が活用できることが分かるようにしてほしいという御意見や,被害者通知に併せて被害者配慮制度に関するパンフレットを送るようにしてもらえないかという御意見がございました。
 私どもといたしましては,できることはできるだけ早く実行できないかという観点から今検討を進めておりまして,年内のできるだけ早い時期に,全国の検察庁におきまして被害者通知の御希望を確認する際には,検察庁の方から家裁における配慮制度を説明するとともに,パンフレット,こういうものがございますということを紹介して,これをお渡しすることを希望されるかどうかを確認しまして,御希望のある方にはこれを,お会いした場合には手渡しさせていただき,または,電話等でお話しした場合には御希望に沿って郵送させていただくなどして,制度の周知徹底を一層図っていくという取組を可能な限り早い時期に徹底させていきたいと考えておりますので,御報告させていただきます。
 以上です。
● 甲斐 それでは,御質問等があれば,どうぞお願いします。
● 松尾 先ほどの御説明の中で,少年事件では争う率が低いということが印象的でした。成人の場合は,否認事件の割合が低下してきたとは言われるものの,やはり7%程度はあると思います。少年の場合,それよりはるかに低率であるとすれば,ある部分は審判不開始決定のところで落ちているのが一つの理由でしょうか。
● 河原 否認事件の率がどうして成人と比べて差異があるのかについて,その詳しい理由についてまではまだ必ずしも十分検討しておりません。
● 松村 実務的な感覚からしますと,否認しているので事実が認められないから不開始ということは余りないのではないかと思いまして,少年が否認していても,それなりの証拠がそろって送致されてくるのが通常ですので,そういう事案では,調査,審判に進んだ上で,弁解を確認して事実を認めるなり認めないなりの方に進むのではないかと。ですから,審判不開始があるから否認が少ないということではないのではないかと思いますけれども。
● 松尾 分かりました。平成12年改正に至る審議をしていた段階では,少年はえてして捜査段階では安易に事実を認めながら,家庭裁判所に送致された後で否認を始めるという話がありました。このようなケースに対応するためにはどうしたらいいかというのは一つの大きなテーマであると思うのですが,それは実数としてはそれほどない。もちろん少数といえども重大な事件が含まれるだろうということは想像に難くありませんけれども,事実認定の特性が大きく問題になる事件というのは,数としては少ないのだと考えてよろしいでしょうか。
● 河原 しっかり統計をとっているわけではございませんけれども,そのような御理解でよろしいのではないかと考えております。
● 甲斐 それでは,ほかにございますでしょうか。
● 武内 弁護士の武内から伺います。
 被害者配慮制度の周知について先ほど取組の御紹介がございましたけれども,一定の事件について,申出を待たずに通知をされておられると伺いましたけれども,一定の事件というのは大体どんな罪名というか,どういう範囲のものについてそのような運用がなされておられるのかということがお分かりでしたら教えてください。
 あと1点,12月の時点で東京,大阪,名古屋など30庁近くということでしたけれども,この取組については大体いつごろからやられておられるのかについても,もしお分かりでしたら教えていただけますか。
● 河原 まず,前者でございますけれども,これは各家庭裁判所それぞれの取組でございますので,全国一律の基準とかそういったものがあるわけではございませんけれども,見てみますと,大体いわゆる検察官関与対象事件を基準としている庁が多いようでございます。
 その次の,いつから始めているのかということにつきましても,これも今の答えと関連しますけれども,大変大がかりなものとしまして,一昨年,昨年ぐらいから,特に名古屋高等裁判所管内でこういった取組をやったらどうかということなどがかなり大きな動きとしてあったようですけれども,それ以前から各庁においてこういう案内についてはいろいろやっているようでございます。ちょっと具体的にいつぐらいから始まったかということについてまでは承知しておりません。
● 武内 はい,分かりました。ありがとうございます。
● 武 お聞きしたいのですけれども,意見陳述なんですけれども,被害者による意見陳述が審判廷で行われるというのが90人あったと思うんですけれども,それは審判廷で,加害者のいるところで行うんですかね。
● 河原 そうです。
● 武 ということは,この審判というのは大体1回で終わりと,私は1回で終わる場合が多いと聞いているんですけれども,この審判の傍聴と審判での意見陳述と違うと思うんですけれども,でも1回しか行われないわけですよね。そうしたら,この意見陳述をしたらすぐに出るということなんでしょうかね。被害者は,その傍聴してはいけない,今傍聴は認められてはいないわけなので,意見を言うことはできるけれども,傍聴はしてはいけないということですよね。ということは,意見だけ言ってさっと出るということなんですか。
● 河原 具体的にどういう形でやっているかというのはすべて我々が承知しているわけではないのですけれども,聞いているところでは,今,武さんがおっしゃったように,意見を述べていただいて,それで被害者の方には退席していただくといったケースが多いようでございます。
● 武 感想でもいいでしょうか。
 この被害者の権利が盛り込まれていまして,説明があったんですけれども,一見すごく権利が確立されたなと思うんですけれども,犯罪被害者等基本法もできまして,基本計画もできまして,大人の犯罪の場合の刑事裁判への手続の参加とか,そういうのから比べると,もっとまた差が出たなと思うんですね。
 といいますのが,閲覧にしても,社会記録は出せないって言われたんですね。というのが,刑事裁判であれば,傍聴に行けば,その傍聴の中でやっぱり触れるんですね,被疑者の育ち方とか。私は傍聴も行ったことがあるんですが,触れるんです。ということは,もし閲覧できなくても知り得る方法があるということなんですね。でも,少年犯罪の場合はそれが断ち切られるということなんです。
 ということは,民事裁判を起こしたときに,武内先生もこの意見交換会の何回目かでおっしゃったんですが,保護者が責任をとったり,被害者がまたそういうことを立証するときに苦労するわけですね。ですから,またここでもすごく差があるなってすごく感じたんです。基本法ができたことによって,基本計画ができたことによってまたものすごく差が開いてきたなって感じるんですね。
 この審判の傍聴なんですけれども,傍聴も考えられているということなんですけれども,やっぱり少年審判というのは加害者のものなんですね。前は言っていました,穏やかに行うものだっていうことをおっしゃっていました。そこに被害者を入れては,加害者の教育の邪魔になるかのような,邪魔になるというか,スムーズにできないかのようなことを言われているので,何か被害者というのは,傍聴が認められてもまた遠慮しなければいけないなというか,制限があるなというのをものすごく実感しているんですね。せっかく被害者の権利が盛り込まれているんですけれども,権利として書かれているんですけれども,何か本当にそれを実現するというか,被害者が経験するにはものすごく遠慮が要るなというのを感じたんですね。そういう感想を受けました。
● 甲斐 成人の手続との比較ということをおっしゃられましたが,確かに今,法制審議会の方でも成人の手続について,さらに被害者の権利をどうするかということで御審議いただいております。
 私どもの感覚としては,それで差をつけるということでは全然なくて,だからこそこちらの少年法の方もそれにどのように追いつくのか,あるいは,それでも少年と成人とでまた違いがある部分はどのように対応するのがいいのかという考えなので,成人の手続が若干先行している部分は確かにもちろんあるんですけれども,あれでまたギャップができるということではないんだろうと思いますので,またその辺は御理解ください。
● 松尾 社会記録の話が出ましたけれども,逆送されて刑事手続に移行した場合,社会記録の扱いはどうなっておりますでしょうか。ある程度家裁での記録が刑事裁判所の方へ送られると思いますけれども,その場合,社会記録は家裁側に留保されていることが多いのでしょうか。
● 河原 各個別の裁判事項ではございますけれども,地方裁判所からの社会記録の取り寄せに対して家庭裁判所の方で応じて,それを地方裁判所で調べていただくと。ただ,コピーについては,やはりちょっと関係者の方を含めて遠慮していただくという運用でやっているものが多いと承知しております。
● 久木元 私が述べるのが適当かどうか分かりませんが,最近ちょっと調べてみたところでは,刑事裁判での多くの実務の運用としては,検察官,弁護人と裁判官で了解をして,なるべく傍聴人の前では朗読等をしないようにして,中は非常にプライバシーの濃い部分なので,そこはそういう配慮をして,書面で証拠提出をして,要旨の告知等は極めて簡略にというのが現在の刑事裁判における運用であると,裁判官の書かれた論文等で読んだことがございます。
● 川出 刑事裁判所としてはなるべく社会記録を利用するというのが,全体としての傾向だと理解してよろしいですか。
● 河原 特に少年事件,若年刑事事件を担当された裁判官の書かれた論文を見ますと,やっぱり利用するべきだという意見がございますし,そういう意見が一般的だろうと私も考えております。
● 川出 それとの関連ですけれども,以前の御説明の中で,原則逆送事件の取扱いとして,例外的に保護処分となる事件というのは,客観的な行為態様等において悪質性に欠けるような事件であるというお話がありましたが,そういう前提で,すべての事件について社会調査もしっかりやるというわけですね。そうしますと,必ずしもそう図式的ではないのかもしれませんけれども,原則逆送事件では,送致されてきた事件の客観的な側面を見れば,ある程度,これは逆送だという予想がつくのだろうと思います。そうだとしますと,その場合の社会調査というのは,主として,その結果が刑事裁判で利用されることを念頭において行われるということになると思うのですが,そのような理解でよろしいでしょうか。
● 河原 調査官も,原則逆送事件ですので,この事件は基本的には刑事裁判に行くということは念頭に置いて調査していると思います。
 ただ,これは,調査,特に原則逆送事件における調査は何を目的とするのかとか等々にも関連してくるのではないかとも思いまして,もちろん刑事裁判で使うということも念頭には置いてはいるのでしょうけれども,そうはいっても家裁においてのやはり本当に例外的事由がないのかどうか,非行のメカニズムはどうなのかということを明らかにするためにやはり社会調査を行うと,こういう違いもこれまた否定できないと考えますが。
● 川出 そうしますと,例えば行為態様等については特に酌むべき事情がないという場合でも,社会調査の結果によって例外事由に当たることもあり得るということでしょうか。
● 河原 先生の書かれている論文などには確かにそういう御趣旨のことが書いてあるのは私も拝見いたしましたけれども,ちょっとどういう事案になるのかというのは私も分からないのですけれども,理屈の上ではそういうことというのはやはりあり得るのではないかとも思うのですけれども。
● 川出 もう一点関連してですが,先ほど保護的措置のお話をされましたけれども,原則逆送事件でも,同じように保護的措置というのは行われているのですか。
● 河原 私どもで説明いたしました「被害を考える教室」ですとか保護者会ですとか,こういった事案はやはり原則逆送事件では適さない保護的措置だと思いますけれども,釈迦に説法ではございますけれども,その審判,調査の過程そのものが少年に対する教育という意義を持っておりますので,そういう意味で原則逆送事件についても保護的措置自体は行っております。ただ,今私が説明したようなものは原則逆送事件には適さないと,保護的措置だと考えております。
● 武 以前に調査官の方とお話ししたことがあったんですけれども,調査ってあるんですけれども,加害少年の調査なんですけれども,だんだんとしにくくなったっておっしゃっていたんですね。昔は足を運んで,自分たちが足を運んで調査をして回ったんだけれども,だんだんとそれが,やっぱりプライバシーとかいろいろなことだと思うんですが,しにくくなったとおっしゃったんですね。だから,できることがものすごく限られてきて,それはいけないことなんだけれども,ケースワーカー的な,机の上での少年との向き合いが多くなったということを聞いたんですね。
 ここで今話を聞くと,調査もすごくしている,いろんなことをものすごくしているとおっしゃっているんですけれども,そういうふうに聞いているんですけれども,できているんでしょうか。
● 河原 その調査官がどういう状況で言ったのか分からないんですけれども,やはり調査という仕事の性質上,完璧というものはありませんので,尽くせば尽くすほどやるべきことはあると。そういう意味で,さらにやはりやるべきだという趣旨で言ったのではないかと思います。
 私自身も,かつて東京家裁で勤務しておりましたときに,当時の主任の調査官から,自分たちが若いときはもっと少年の家とか関係者とかいろんなところを回ってきたけれども,最近の若い調査官は本当にパソコンにばかり向かってやっている,これでは調査にならんのだということを言っているという話を聞かされましたけれども,それは,より高いもの,やっぱり現場を見て,現場に触れてというものを,それは当然いろいろな調査をしてそれを精密に文書にまとめということはできた上で,さらに高いものを求めていると思います。
 現に,私自身が原則逆送事件を担当したこともありますけれども,共同調査をしたり,いろいろな,共同でないにしても,ほかの家事の調査官の助けなども借りながら,かなり詳細にいろいろなものを調べ,いろいろなところを見聞きしてかなり詳細な調査報告書を上げてまいりましたので,それは本当に頑張ってやっているというのは実態としてあると私は思っております。
● 甲斐 前回,武さんたちの御意見で,原則逆送制度の関係で,原則ではなく,重大事件はやはりもっと刑事の裁判所で裁判をやるように逆送してもらいたいという御意見があって,聞きようによってはちょっと家裁の立つ瀬がないような気もしないではないのですが,そういう問題意識に対して裁判所としてはどのようにお考えでしょうか。
● 松村 我々が実際今,原則逆送の対象となっている事件を扱っている中で,法律で定められたようにやっているわけですけれども,その対象事件の中に,原則どおり逆送したものが数的には多いのですけれども,少数ですが,裁判所の感覚から見ても例外的に保護処分にした方が事件として適切だと思われるようなものもあって,今の制度は,犯罪による被害の重大さと実際の事件における妥当な結論の選択の余地を残したという面の両面から見て,それなりに我々としては使いやすい,運用しやすい,妥当な結果も認める制度ではないかなと思っているわけですけれども,今言われたような形で,そこの余地がなくなってしまうとなると,なかなか,この事案でこんな結論でいいだろうかというような悩みが出てくるものもどうしてもあるのかなと思われます。
● 川出 資料の「1 少年事件の処分等のあり方の見直しに関する事項」に関して,(1),(2)それぞれについて妥当な運用がなされているのではないかという評価をなさっていたのですが,他方で,それぞれの運用としては妥当であるとしても,14歳,15歳の場合と,16歳以上の場合とで,あまりにギャップが大き過ぎるのではないかという見方もあるように思いますが。つまり,14歳,15歳の場合は,16歳以上であれば原則逆送の対象となる犯罪の場合であっても逆送されるのは例外的であるのに対し,16歳以上になると,原則逆送制度が適用される結果,逆送率が一気に上がるわけです。現場の感覚として,年齢でこれだけ区別をつけているということ自体について,何かギャップが大き過ぎるというような感覚はないのでしょうか。
● 河原 一般論としまして,確かに逆送するかどうかというものを判断するに当たって,年齢というものもそれなりの要素であることは間違いないと思います。それと,先ほど御説明しましたとおり,14歳,15歳というのは義務教育の対象年齢とされているということもこれまたやはり大きな事情かとは思います。
 ただ,何といっても14歳,15歳の事件,件数が少のうございますので,この件数から一般的なことはどれだけ言えるかということもまたあろうかとは思っています。
● 川出 そうしますと,16歳で区別しているということ自体は,現場の感覚としてはそれほど抵抗はないわけですね。はたから見ていると,そこで適用基準が全く変わってしまうというのは何かやりにくいのかなという感じもするのですが,それはそうでもないのでしょうか。
● 松村 その少年の発達段階から見ると,我々は,年少少年,年中なり中間少年と言っていますけれども,年少少年とそれより上とでは,思春期で変わってくる時期で,特に重大な犯罪に走ったり走らなかったりするという意味でも,割と実態に合った年齢の線が引かれているのかなという感じはします。
● 武 原則逆送のことなんですけれども,前回のときに,質問がありまして,えい児事件とか親族間の,多分そう言われたと思うんですけれども,その場合,死亡事件だったら私たちが言うように逆送しなくてもいいのではないかって,そういうふうな質問がありまして,そのときに答えたのがどうしても私は心残りがありまして,ちょっとつけ加えたいと思います。
 前回は,えい児事件と言われると,やっぱり私も女性なものですから,心情的に思ったんですね。それは逆送しなくてもいいんではないかと思ったんですけれども,よく,ずっと今日まで考えていまして,いろんなものを見ていたんですけれども,やっぱり死亡事件で分けてほしいなというのがあります。そこで,それこそ私はただし書きに,別で外すようなことを入れてほしいと言ったんですけれども,そういうふうにただし書きを入れることで判断が分かれるんですね。ここでは逆送になるけれども,同じような,同じものはないですけれども,似たようなえい児事件であってもここは逆送されてここはされないという差が出るので,私は,一応は逆送にしてほしいというのがあるんですね。
 それはなぜかというと,やっぱり事実認定をしっかりするべきだと思っているんです。といいますのは,もしかしたら性犯罪が絡んでいるかもしれない,いろんなものが絡んでいるかもしれないわけですね。私は今,性犯罪に遭っている人の相談を受けているんですが,性犯罪に遭った場合,事件にしにくいんです。話をしにくいんです。だから事件にならないものがすごく隠れています。特に相手が少年であったり被害者も少女であったりすると特に言えないんですね。だからすごく埋もれている事件がたくさんあるというのを最近知ったんです。今までは性犯罪の被害者の人と話をしたことがなかったので分からなかったんですが,その方は勇気を持って事件にされたんですけれども,そのほかに事件があったけれども,ほかの被害者はやっぱり届けなかったっておっしゃっていました。
 だから,それほど埋もれていることがあるので,やっぱりしっかりと事実認定をしてほしいなという意味で,対審構造こそ私はそれが大事だと思っているんですね。そこに初めて工夫をしてほしいんです。工夫はできると思うんですね。顔を出してはいけなかったらつい立てをするとか,名前も出さなくてもいいんです。でも,やっぱり事実はしっかり出すべきだと思います。
 そして,もしそこで事実を知った場合には,また家庭裁判所に送り返すという方法が残されているんですね。だから,もし家庭裁判所に送り返せないというんであれば考えないといけないんですが,送り返せるというのが残されているので,私はやっぱり事実をしっかりやるべきだし,今はインターネットもすごく盛んになっているので,変なうわさが立ちます。といいますのは,被害に遭うと,社会的に騒がれなくても,地域,自分たちの住んでいるところではそれはいろんなうわさが飛び交います。大きな声が走っていくというか,大きな声がひとり歩きすることもあるので,インターネットも使われたりいろいろあると思うんですね。それらを正すためにも私は必要だと思うんですね。
 親族間のことでも思ったんです。最近では板橋の事件で14年という判決が出ました。それは本当に珍しいということで,新聞は,私も思いましたし読みました。確かに,山崎先生たちは多分反対されているんだと思いますが,本当に重大なことだと思うんですね。それもやっぱりしっかりと事実認定をしてそういうふうに結果がなったんだと思うし,親族間であっても,親を殺しただけが残ってしまうのと,ちゃんと事実認定をして,こういうことがあってこういう流れがあってこんなふうに親子関係があって,ひょっとしたら地域が絡んでいたりいじめが絡んでいたり,いろいろあると思うんですね。そういうものをしっかり出さないとこれからの少年を社会は受け入れられないと思うんです。そういうものを出した上で社会は私は受け入れるべきだと思うんですね。だから親族間であってもです。
 中には父親の暴力があったとか,一方的に言われることもあって,刑事裁判にならないで終わることもあるんですが,本当に親はそういうことをしたのか,愛情がなかったのかっていつも私は疑問なんですね。だから,親族であろうがえい児事件であろうが,しっかりと事実認定をするために刑事裁判にして,そして戻す方法があります。
 本当は将来は少年刑事裁判ができてほしいと思います。きめ細やかな,そういう裁判ができてほしいなと思います。
● 佐伯 私が申し上げたことかもしれないので,1点だけ。事実認識の問題になると思うのですけれども,家庭裁判所の事実認定と,それから刑事裁判所の事実認定とどちらが優れている,優れていると言ったら変ですね。より深い事実認定ができるかということについての認識についてですけれども,確かに事実自体が争われている場合には,対審構造で,事実の解明をした方がより正確な事実認定ができるということはあるかもしれませんが,事実自体が争われていない,全くその少年が事実を争っていないというような場合について,刑事裁判だから,対審構造であるからより深い事実認定ができるかというと,決してそのようなことはないのではないかと私は思います。
 背景的な事実を解明するのに刑事裁判と家庭裁判所とどちらが適しているかというと,事案によってはむしろ家庭裁判所の方がより突っ込んだ事実の解明ということができる場合もあるように思いますので,事実の解明という部分だけですべて刑事裁判にすべきであるという意見には,私は,それは意見の相違というよりは事実の認識の問題なのかもしれませんけれども,ちょっと賛成しかねるように思います。
● 武 もう一つ刑事裁判の意味がありましたが,公開というのも大きいです。なぜかというと,少年審判は,うちの場合は10年前ですから,審判内容も教えられない,期日も教えられませんでした。それから少年法が改正になりました。被害者には通知制度ができました。だけれども,社会というんですかね,公開にはならないわけですね,一般的には。
 社会から見て大きな事件,少年法が改正にならなくても,うちの後に起こった,半年後に分かった神戸の児童殺傷事件の場合は少年審判がすべて公になりました。社会にも,そして遺族にもです。今でもそうですね。少年審判が,もし遺族の人がもらえたとしても,大きな事件であれば多分社会にも出ると思うんですが,出ないんですね。ほとんどが多分出ないと思います。審判の通知をもらうと,これを外部に漏らしてはいけないみたいなことがしっかりと書かれてあります。
 でも,少年犯罪の場合,地域で起こすことが多いし,住む,自分たちが生活しているところで事件を起こすことが多いんですね。ですから,被害者と加害者が近くにいたりするので,その結果というのをやっぱり外に出したいわけですね。でも,少年審判はなかなか自分からは出せないというところがあるので,公開というのがとても大事なんです。
 例えば,親族であろうがえい児事件であろうが,事実の公開というのは私は大切だと思います。名前とかそういうことを言っているのではないんです。事実の公開がないと,誤解をされたり,子供を殺してしまったことが残ってしまうということが私はあると思うんです。そんなに世間は,世の中捨てたもんじゃないですけれども,でも,悪いうわさも本当に立つんです。だから,そういった意味で公開というのが私はとても大切じゃないかなと,それもあります。
● 松尾 今,武さんおっしゃいました家庭裁判所の把握した事件の真実というものをどの程度広く社会に示すべきかというのは大切な論点だと思いますが,事件の背景まで含めた事実認定の確かさという点では,先ほど佐伯さんが言われたことに私も共感します。家庭裁判所には独自の機関として調査官という制度があります。私も昔は調査官の人たちと話をする機会に恵まれていたんですが,最近はどうもそれがなくなってしまいましたけれども,先ほど河原課長から,調査官はしっかり努力しているというお話もありまして,そのとおりだろうと思ったわけです。刑事の裁判所には調査官がいませんが,刑事手続には7・5・3という言葉がありますそうで,弁護士さんが真相を7知っているとすれば検察官は5である,裁判官は3であるというのを,これは私は刑事のベテランの裁判官の方から伺いまして,その方は自戒を込めて,そうならぬように努力しておりますと言われたわけなんですが,私は,調査官は非常に深いところまで少年について,あるいは彼の起こした事件について理解しているのではなかろうかと考えますが,いかがですか,直感的に,調査官は7・5・3のどの辺に当たると思っていいでしょうか。
● 松村 気持ちとしては8,9と思っています。それは調査官の気構えとしては,少年事件においても,付添人あるいは検察官はそれぞれ活躍されていますけれども,やはりそれ以上に踏み込んで,できる限り少年及び非行,それから被害の実情を踏み込んで核心に迫って理解して,審判の資料となるように調査するように努めていると思います。
 それから,松尾先生が最初におっしゃられた,少年事件において,裁判所が把握した事実をどのように社会に出していくかという武さんの御懸念の点でありますけれども,最近多くの家庭裁判所で,社会から注目される少年事件の審判を行った場合に,その審判の結果でありますとか,それから審判で認められた事実の要旨を社会の皆さんに情報としてお伝えをするというような形で行っている例が増えていると思います。新聞でいろいろ報道される少年事件の結果であるとか,こういう理由だったというものが,多くの裁判所でそういう取材に答える形でそこは開示をするというのがもうかなり一般的になっているだろうと思います。
 そこについても,お答えできる範囲とできない範囲とはありますけれども,できる限りそういう社会の皆さんに,どういう事件であって,家庭裁判所がどういう理由でその処分を選択したのかということは家庭裁判所としても説明をしていかなければならないという,今そういう考えで行われてきていると思いますので,大分その辺も変わってきているのではないかと考えております。
● 山崎 一つは,今調査官のお話が出ましたけれども,私の実感としても,松村さんがおっしゃったような調査官の方が多数だと思います。要するに,付添人として,少年に一番近い立場としていろいろ少年の言い分を聞いたり,あるいは家族と会ったりするわけですけれども,多くの調査官というのはやはり非常に専門的な技量を持っていらして,少年と接したり,非常に情報を収集するという能力もたけていらっしゃいます。ですから,私たちが知り得ない,これは少年に有利なこと不利なことを含みますけれども,大変よく調査をされて,処分に反映されているのではないかというふうに思っています。
 あと,先ほど幾つか出ましたけれども,恐らく今日その論点になるであろうと思いまして私の方のペーパーを用意したということがありました。それで,先ほどから武さんの方から,対審構造,公開が大事なので,重大事件は刑事裁判にということがおっしゃられていますけれども,事実認定という意味では,例えば先ほどおっしゃられたような性犯罪といったような側面ですとか家庭内の虐待といったことになりますと,むしろ公開の刑事裁判の方がそういった事情はやはり出づらくなるということは否めないと思っています。ですから,そういった事実を客観的に的確に踏まえて処分の前提として評価していくというためには,少年法がとっている非公開の審判手続というのがやはり有効だろうと思っています。
 それに基づいて,刑罰ではなくて教育によって改善,更生を図って,それが,再犯の防止という観点から非常に有効であるということがこの法律の歴史的な結論といいますか,実証的にそれが有効なのであるという考え方に基づいていると思いますので,そこについては基本的にやはり維持されるべきであろうというふうに思っています。
 ただ,先ほどから出ていますように,家庭裁判所の方からどの程度まで公表可能かどうかを見きわめつつ,社会に対して知らせるべきことは知らせていくということは必要だろうと思っています。
 それとあと,刑事裁判になった場合ですけれども,必要な場合は家裁への移送が認められているということも御指摘されていますが,実際には,刑事裁判官の方としましては,家庭裁判所の方で調査を尽くして,刑事処分が相当ということで逆送されてきますので,それを再度法律に基づいて家庭裁判所に移送するということについては,極めて慎重な態度がとられているというのが実情だと思います。
 ですので,送った上で,必要があれば移送すればよいのではないかという点については,少なくとも現状の移送制度の運用としてはやはりちょっと違うのではないかというふうに感じております。
 それと,先ほど板橋の事件が出ましたけれども,今日の私のペーパーで3ページ,4ページ,そして5ページの部分に書きましたけれども,少年にとっては,一つは,自由を拘束する期間というのが成人と同じようには判断できないのではないか。その少年にとっては同じ時間であっても,成人と比べて大きな制約になるという点が指摘できようかと思います。
 それともう一つは,10代中盤から後半にかけての少年ですので,通常であれば社会の中で様々な経験をし,場合によっては恋愛もし,社会に出て,うまくいくことといかないことがあり,そういった経験の中で獲得していかなければいけない課題というのを刑務所の中ではやはり獲得が難しいという問題も指摘されています。
 ですので,少年に対する処遇を考える上では,大人と同じように刑罰がいいのではないか,あるいは同じような期間刑罰に付した方がよいのではないかということについてはやはり慎重に考えるべきではないかというふうに思っています。
● 望月 私は被害者の方と接することが多くて,今まで被害者の話を聞いていく中で,本当に良かったとか,こういうことをしてもらってありがたかったという話は余り聞かないんですね。だから,被害者を説得するということは私は何かすごく違和感がありまして,それと,加害少年が当然獲得すべき例えば社会的なマナーであるとか経験すべき結婚であるとか友人を作るとかということとおっしゃいましたけれども,極端な話,殺された人にはそれはないわけですよね。だから,そういうことで被害者を説得するというのは全く説得力がないというふうに私は感じます。
 もちろん何もしていないとは思いませんし,それなりの経験者なり知識を持った方が対応していらっしゃるわけですから,個々の事件については本当に慎重な検討がなされて少年審判もなされていくんだろうと思いますけれども,それをもってしても,今まで私たち支援をする者の耳に入ってくる被害者からの言葉というのは,やっぱり納得していない言葉だとか怒りだとか,あと,改善をしてほしいとか,そういうことが圧倒的に多いわけです。
 だからそういうことを踏まえて,被害者を説得するというようなことに私はちょっとなじめないというか,それぞれのお立場はあるかと思うんですけれども,なぜ少年法が改正されたかということ,あと被害者の視点を取り入れたかということを,もう一度そこに立ち返って,していないということではなくて,新たな道ですとか,被害者にとってもうちょっと展望が明るくなるような施策ですとか制度ですとかということを考えていっていただきたいなというふうにすごく感じました。
● 武 山崎先生がおっしゃったんですけれども,いつもおっしゃるんですけれども,刑罰を与えるよりも保護処分で教育した方がいいとおっしゃるんですね。私はいつも話をするのは死亡事件の話をする,重大犯罪に限ってなんですけれども,せめて死亡事件は,言っているように,刑事裁判にしてほしいと言っているんですけれども,刑事裁判にもしないのであれば,被害者はどこで納得したらいいんでしょうか。
 私は,死亡事件なものですから,一生何があっても納得はできないと思うんです。法律が変わっても制度ができても,どれだけ支援してもらっても納得はできないと思うんです。でも,加害者に対しての責任を負わすというのは日本では刑罰なんですけれども,それがあるのとないのと違うんですね。
 そこでもし事実認定をした上で本当に被害者には非がなかったと,加害者に刑罰を負わすべきだということになった場合なら刑事裁判があります。でも,それでもあえて保護処分の方がいいという場合もあるんですね。そうしたら,その保護処分になった被害者の遺族はどうやって納得したらいいんでしょうか。私は,そういう遺族の方から電話をもらうんですけれども,どう慰めたらいいんでしょうか。もうどうしようもできないことです。刑事裁判はないわけですから。
 じゃ,山崎先生は,どこに私たちは頼っていけばいいというか,何を考えていけばいいんでしょうか。
● 山崎 被害者の方が保護処分では納得できなくて刑罰では納得できると言われるのは,どういう点をおっしゃっているんでしょうか。
● 武 それはやっぱり責任をとらすということです。命に対しての責任というのは保護処分ではできないです。刑罰です,やはり。国で刑罰を与えるということは大きいんです。もし自分の家族がそうなった場合を一回考えてみてほしいんですね。
 私たちは言われました。刑事裁判もないって分かったときに,少年だから仕方がないというようなことを言われました。納得できないです。命に対しての責任はだれもとっていないんです。だから仕方なく民事裁判をしました。でも,民事裁判もできない人がいるんですね。そうしたらその被害者支援で助けてもらうんでしょうか。
 まず大事なものは,やっぱり責任をとらすということが大事だと思うんです。それでも納得はもちろんできないんですけれども,でも,子供の命に対しての一つの納得であるんです。大きいんです。
● 佐伯 よろしいですか。
 少年の責任を問うためには刑罰でないといけない,故意で人を死なせた場合には刑罰でないといけないというふうに考えますと,故意で人を死なせた場合には刑事裁判で,しかも刑罰を科さないといけないということになります。先ほど武さんは,すべて逆送にした場合にも,少年にとって保護処分の方が適切であれば,また家庭裁判所に戻してもいいとおっしゃったのですけれども,故意で人を死なせた少年の責任を問うためには刑罰でないといけないと考えますと,それさえもできなくなるということになってしまうおそれがあると思うのです。
 保護処分というのは,従来は少年の責任を問うものではないと考えられてきましたし,名前も保護という名前がついておりますけれども,しかし,やはり犯罪を行ったことについて少年は責任を問われているのだと思います。そして,実際には,故意で人を死なせたような場合については,保護処分といいましても少年院に収容され,最近では2年,3年という期間自由を拘束される場合もあるわけですので,それも一つの責任の問い方ではないか,そういうふうに考えた方が,保護処分と刑罰を連続的なものとしてとらえて説明することができるのではないかと私は考えております。
 もちろん被害者の方からすればそれで納得できるというわけではないかもしれませんけれども,ただ何の責任も問わないんだということではなくて,少年にふさわしい責任の問い方をしているのだと考えることはできないでしょうか。恐らく被害者の方も,成人と少年では,同じ犯罪であってもやはり責任の程度は少し違うというふうにお考えでしょうし,少年によっても,年齢によって,やはりそこには程度に差があるということはお認めになると思うのです。
 その程度の差を適切に反映させる方法として,納得できないとおっしゃられるかもしれないですけれども,ある種の少年にとっては,刑罰よりも保護処分という形で責任を背負う方が適切な場合もあるのではないか。そういう可能性をやはり残しておくべきではないかというふうに私自身は考えているのです。
● 武 私が言ったのは,刑事裁判にして,すべてに刑罰を与えるという意味ではなくて,刑事裁判にして,もしかしたら被害者にも非があるかもしれないんですね。10対0だったり9対1だったり,もしかしたら被害者の方から因縁をつけてそれがなった場合もあると思います。だから,そういう場合には,事実に基づいて家庭裁判所に送り返すことはできるのではないかなという,私は専門家ではありませんので,そういうふうな考えなんですね。
 それだったら私はあきらめたと思います。まず刑事裁判にしてもらって,もし息子に何か非があったといえばあきらめたと思います。でも,何もしない前から保護処分だったんですね。だから,命というのは本当に尊いってみんな言います。でも,刑事裁判もせずに保護処分で片づけられると,残された家族はやりきれないです。
 それから,子供はもう後の人生はないんですが,家族は生きていかないといけないんですね。せめて家族が,残された家族が少しでも穏やかに生きていけるように,一番まず大事なことだと私は思います。たくさんの遺族を見ています。みんな最初のその段階でとてもやりきれなさを残しているんです,刑事裁判にしてもらえなかったこと。ちゃんと事実認定をした上であきらめるのと,事実認定というか,刑事裁判ですよね。しっかりと対審でやってもらうことであきらめることと,私はとても納得,納得は一生みんなできないんですよ。要求は多分みんなあると思うんですが,やっぱりある程度の気持ちのおさめ方というのがあると思うんですね。
 私は,一番悲しかったのは,息子が死んでしまったらこんなに簡単に処理をされると思いました。そういう感覚なんです。処理でした,それは。それも,うちの場合お正月が挟みましたので,四十九日までかからなかったです。そんな処理の仕方で,死んでしまった命というのはそんなに軽いものでしょうか。私はそう思います。多くの遺族の人は最初のその段階での思いを今も残しています。十何年生きている人もいるんですね。
 私は思うんです。この前,前回,矯正教育のことで,少年院の教育,少年刑務所の教育ということがお話しされて,すごいなと思いました。とてもいろんなことを考えられて,国が罪を犯した人のことを応援しているわけです。それは大事なことだと思います。でも,私はいつも考えるんです。その陰にひょっとして被害者がいる場合があるわけです。遺族もいるわけですね。
 私は思いました。この矯正教育を受けているこの裏側で被害者は泣いているし,病気になったら自分でお金を払って病院に行く。病院も行けない人が,力もない人がいるんですね。この何年間の間に亡くなった人もいます。もちろん年齢のこともありますし,自分で病気を持っていたという人もいるかもしれません。でも,犯罪で身内を殺されたということは大きいんですね。その上にちゃんとした国としての,ちゃんとした法律で被害者を守ってくれていなかったり法律でしっかりと裁いてくれないということはとても大きいんです。それは残された家族が穏やかに生きていくためにまず必要なことだと私は思いました。今も病院に入っている人がいます。悲しくなります。
 それはやっぱり国の責任だと思います。加害者のことも考えないといけないですが,被害者のことをやっぱりもっと。被害者のことだけを考えてとは言いません。私は自分にできることはしますっていつも言います。でも,余りにも考えられていなかったんです。すみません。
● 松尾 お話のとおり,被害者には全くの,一点の非もない,全面的に加害者に責任があるというような殺人事件が実在するのは事実です。それに対して国が制度としてどう対応していくかということが今問われているわけですけれども,制度というものには限界があります。刑事裁判にして刑罰を科しても,被害者の方は本当には納得なさらないでしょう。懲役30年,しかし,30年たったら釈放されて出てくるではないか。無期懲役でもまだ足りない,結局最後は命には命をというところへ行かざるを得なくなるわけですが,それでもしかしまだ納得なさらないかもしれないですね。
 人間の歴史をずっとさかのぼりますと,人の目を傷つけたらおまえの目をという,歯には歯をという時代がありましたですけれども,それを制度として少しづつどの国も作りかえてきて現在に至っているわけですが,その課程で,確かに被害者の方の心情というものを軽く見ていたのではないかということは,我々痛切に反省しているところです。平成12年の改正というのもその反省に立って行われたわけで,今後もっとこの方向を充実させる努力をしなければならないとは思いますけれども,しかし,制度というものには限界があります。「納得」とおっしゃるのは人間の心の問題で,それに完全な答えを出すことは不可能であるように思われます。
● 甲斐 今の御議論で少し整理しますと,刑事裁判の方に持っていくべきだという考え方には2つあるのだろうと思うのです。一つは,やはりそれだけの重大事件を犯した以上は責任をとって刑事罰を与えるべきだという考え方で,刑事罰を与えられるのは刑事の裁判所でしかないわけなので,それはおっしゃるとおりなんだろうと思うのです。それは,ある意味,刑事政策的にどこがどんな事件についてどこまで刑事裁判で刑事罰を科すべきかという問題だろうと思います。
 もう一つは,事実認定をきちんとしてほしい。手続的な意味で刑事裁判の方がきちんとしているはずだからこっちでやってほしいと。結果は,結果としての罰を与えるか保護処分にするかは,それはまた裁判所の方で考えればいい,これはちょっと違う観点なんだろうと思うのです。
● 佐伯 割り込むようですが,もう一つ,公開の問題があります。だから3つあるのでしょうね。
● 甲斐 公開の問題もあるのだろうと思うのです。
 手続的な問題は,別に刑事裁判だけが手続ができているわけではなくて,それは家庭裁判所も手続はとっているわけで,そちらはそちらでどうすればもっと信頼できる,納得ができる手続になるのかということも論点としてはあり得るのだろうと思います。そこはどのように考えたらいいでしょうか。
 例えば,それこそ,私が常々感じているのは,自分の目に見えないことを信頼しろと言われても,それはだれもなかなか,はいそうですかと言う気にはなれないわけで,非公開のものというのは,それはそれで一つの重要な役割を担っていたのだろうと思うのですが,関係者の納得を得るという意味ではやはり十分ではない仕組みであったのだろうと思うのです。
 そういう意味で,傍聴というのか在廷というのかは別にして,そういうやり方で,そんないいかげんにやられているものなのか,あるいは自分の言いたいことも聞いてもらえているものなのかということを確認するという方法も一つの方法であることは間違いないだろうと思います。それが全部を解決するとは思えないし,それに対する副作用というのも多分あり得るんだろうと思うのですが,その辺はどうでしょうか。今日,最高裁はバランスのとれた検討が行われる必要があるということでしたが,ここは結構難しいところだろうとは思うのですが。
● 武内 よろしいですか。
 第2回の意見交換会の発表のときにも私ちょっと述べたんですが,今まさにおっしゃられていたように,家庭裁判所の審判の過程というのが被害者側から見たときに全く見えなくなっているというのがやはり一つ検討すべき問題だと思っております。
 現状だと,検察官からの通知制度で送致しましたという通知が来た後,しばらくたって家裁から審判結果だけが通知が来ることになります。原則逆送になって,実は逆送になってもらえば公開の法廷でかなりの部分見ることができる,記録もとれる,あるいは,今法制審で審議されているのだと,記録の閲覧の範囲も拡大できそうだし,さらには意見陳述を超えて,質問というようなことも一応検討のそ上に上がっていると。成人刑事については被害者を含めた関係者に対する情報提供という機能がかなり拡充されつつあると。
 翻って,今日,最高裁判所の御意見としては,知りたいということに対しては記録の閲覧・謄写とかいう制度も運用してもらってということだけれども,実際平成12年に改正されてから,被害者の基本法,あるいは昨年12月ですか,基本計画で,改正されたけれども,さらに傍聴の可否を含めてというふうな要望が被害者団体等から強く上がっているというのは,やっぱり知りたいというのは,現状,平成12年改正ではまだ満たされていない,足りないという声がこれだけ強く上がっているわけですよね。この時点で。しかし現行の制度を活用すれば何とかなりますよという回答をするということが果たして世論の納得を得られるのかということはやっぱり若干危惧を持っています。
 私が接する限りにおいてですが,被害者の方の知りたいという要望は二通りあって,一つは,何が起きたのか知りたいという,いわゆる非行事実,あるいはその背景事情を知りたいということももちろんですけれども,今どんな手続で審理されているのかと,今どんなことを裁判所は考えてどういう作業をやっているのかという手続を知りたいというのもやっぱり同じようにあります。
 この手続の進行具合について知りたいということに関して言えば,関係者あるいは非行少年のプライバシー侵害の危険というのはやっぱり累計的に低いと思いますので,まだこれも私自身どういう方法が考えられるのか,うまく制度設計できないけれども,審判結果の通知の前に,現行でも調査官による被害者調査を通じてある程度裁判所の考え方とかというのは出ているようだけれども,もう少し裁判所が,いつ期日を開くのか,あるいはそこでどんな手続をやるのかという程度,外形的なものであっても情報提供はできないかなというふうに思います。
 自分の経験で,小さな範囲で言ってしまうと,原則逆送対象事件,殺人事件だったんですが,原則逆送されるだろうと思いつつ,逆送,本当に決定出るかなというのが実際その審判の結果の通知をもらうまで非常にどきどきして,弁護士であって,ある程度手続なり裁判所が今こういうことをやっているんだろうなという想像はついたとしても,全く情報が分からないまま,これは本当に逆送してもらえるだろうかという待っている期間というのは非常に緊張感が高かったと。あの辺を何とかフォローすることによって知りたいという部分の手続的なことを知りたいというのを少しかなえることはできないかなと思います。
 それから,非行事実等について知りたいというのでも,逆送されない事件であっても,例えば傷害事件とかで,ちょっと脱線しますけれども,被害者,特に被害少年なんかの場合,いわゆる侵害された法益自体は決して大きくないと。侵害された法益に着目した場合の結果は重大じゃないと。言いかえれば,我々が言うところは重大事件ではないけれども,例えば女性ですね。ひとり暮らしの女性で,夜住居に侵入されたと。住居侵入は微罪だけれども,非常に被害者にとっては精神的なダメージが大きいとか,少年同士の傷害事件,確かに傷害結果自体はそれほど重大じゃないかもしれないけれども,少年の心身に与えたダメージは極めて大きいというケースって結構あるんですね。
 そうすると,必ずしも逆送の対象になるような重大事件じゃなくても,被害者としては加害少年のことを知りたい,あるいは,なぜ自分がターゲットにされたのかを知りたいと強く希望するケースって決して少なくないのです。
 確かにおっしゃるとおり,少年事件というのはかなり要保護性認定に際してはプライバシーの部分,関係者のところに踏み込んでいかなければならないと。生育歴とかそういったものも考えなければいけないというのは事実だろうけれども,でも現実問題,すべての少年事件においてそのように深い背景事情とかプライバシーとかというのは問題になっているわけでもないのであれば,現行の少年審判規則と同様に,裁判長の裁量によって,この事件の被害者に関して,そしてこの非行少年との関係だったらこれは傍聴させてもそんなに問題じゃないんじゃないかというケースはやっぱり少なからずあるんではないかと私は思っております。
 だから,全面的に排斥するんじゃないにしても,裁判長の裁量,判断によって一定の場合には傍聴できるんだという制度設計を作ることが何か考えられないかなというふうに今日のお話を聞いていても思いました。
 その上で,横に座っている先生の意見に反論するのも失礼なんですが,今日いただいた山崎先生のだと,被害者一般の傍聴を認めるべきでないと。一定の場合には認めてもいいんじゃないのというところでは前回同じような結論かなと理解しておったんですけれども,意見書3ページ目の中段ぐらいですけれども,「少年審判規則29条に基づき」以下ですが,「あくまで少年の更生をはかるため」と。少年の更生に資するかどうかだけで被害者の傍聴を判断するとちょっとやっぱりずれが出てくるのではないか。特に当事者の感情とのずれは大きいのではないかと。
 端的に言うと,自分は聞きたい,あるいは見たいということで被害者が傍聴を申し出たときに,うん,君は少年の更生に役立つから認めると。あなたは少年の更生に役立たないから認めないというような制度設計の仕方だと,単純に言って被害者の人は,また利用されたと,また加害者の更生のために踏み台にされたという気持ちを強くするんではないかと思いますので,仮に何らかの裁量的な作用によって制度設計するにしても,少年の更生に資するかどうかということをメルクマールにすることにはちょっと懸念を抱かざるを得ないかな,そんなふうに思います。
● 山崎 私と武内さんの意見の違いはそこに行き着くだろうと思っていますので,まさにそのとおりで,私の意見はただここに書いたとおりなんですが,武内さんのような形で,教育的な効果があるかどうかというのと別の視点で被害者の例示をした場合に,それを認めるべき場合と認めない場合をどうやって裁判所が判断するか。そのメルクマールというのが逆にまた別の観点で考えなければいけなくなってきて,それもかなり難しい判断にはなるんではないかなと思うんですが,その点はどうお考えなんでしょうか。
● 武内 はい。では続けて。
 ただ,現行,記録の閲覧・謄写についても,少年法の5条の2だと,例えば被害者側に正当な理由があったとしても,少年の健全な育成に対する影響,事件の性質,その他の事情を考慮して,不相当な場合には閲覧・謄写を認めないことができるわけですよね。とすると,傍聴に関しても,同じような形で,例えば少年の健全育成に与える影響等をかんがみて不相当と認める場合には傍聴させないことができるとか,ちょっとこれだと原則と例外が逆転になっちゃうか。相当と認める場合には傍聴を許可することができるというような制度設計自体は一応理屈上は可能だと思いますね。
 その判断が難しいじゃないかといっても,閲覧・謄写に関しては今現在どういうような形で認めないかという理由を裁判所は摘示する必要がないし,不服申立ても一切認められていないですから,裁判官が,いやおれがだめだと言ったらだめだという形にはなってしまうかもしれませんけれどもね。
● 三浦 ちょっといいですか。武内先生に質問ですけれども,傍聴させるという場合に,裁判所の御説明などでもありましたし,議論の中でも出ていたのですが,要保護性の審理であるとか,あるいは少年側のプライバシー,その生い立ちであるとか家庭の問題であるとか,いろんな問題があるところについて被害者に開示することに問題があるということについて,そこはやはりそういう問題があるので制限せざるを得ないというふうにお考えでしょうか。それとも,そこも,刑事裁判になれば多かれ少なかれその部分が出る場合もあるわけで,一定範囲で被害者に,それは傍聴という形にするのか,何らかの閲覧という形にするのかはともかく,そこまで踏み込むこともあり得るとお考えでしょうか。
● 武内 現段階でそこまで私自身が詰めて考えているわけではないですけれども,被害者の傍聴というか,審判廷への在廷を認めるにしても,少年のプライバシー侵害というのもちょっと語弊があるかな,プライバシーに当たる影響等が過度に大きくなることはやっぱり望ましくないと思います。ですから,ある程度の範囲で,例えば要保護性認定にかかわる部分に入りそうだったら,裁判所としては分けて論じるのは難しいという御意見があったけれども,もろにこれから少年の生育歴とかに踏み込まなければいけない場面では,例えば途中からの退席を認めるとか,あるいは,そもそもこれはどういうふうに傍聴させたとしてもそこに触れざるを得ないというときであれば,それはもう全面的に認めないということもやっぱりやむを得ないんじゃないかと私は考えています。
● 松尾 大変難しい問題ですが,被害者の方が審判に出席して真実を知りたいという気持ちを持たれるということについて,それによって,被害者には全くの非がなかったと,100%悪かったのは加害者だということが確認されたり,あるいは,場合によっては被害者にも若干の非があったということが分かったりするわけですが,それは法律家の世界では,責任という言葉と結びつけて考えます。つまり,被害者には責任は全くない,加害者に100%の責任があるというように判断するのです。
 しかし,これまで私が若干被害者の方とお話をしてきた経験では,御遺族の方は同時に自分の責任ということを考えられやすいような気がします。こっちの学校へ行けばいいと思ったのにこっちへ行かせてしまったために事件に遭ったとか,あるいはその日に右の道を通りなさいと言えばよかったのに左の道を通らせてしまったとか,そういうことで自分を責めておられるケースがあるように思うのですが,法律の言葉で言いますとそれは責任の問題では全くないのです。
 それは,責任とは別個の因果関係の問題です。こっちへ行けば事件に遭わなかったという意味での因果関係はありますけれども,「責任」というのは,それが非難されるようなことであるというのが大前提でして,その場合,御遺族に責任というものは全然ないわけですから,それで自分を責められるということはすべきでないし,その必要はないというのが,法律家としての判断です。
● 武 そう言っていただいて本当にうれしいです。そういうことを専門家の方に言っていただくって本当に救われます。まず遺族というのは,私たちは子供を亡くしている家族が多いんですが,子供を救えなかったことだけで責めてしまうんですね。でも,これは責任はないと分かっていても,生きていく上でずっと責め続けると思うんですね。死んでしまった子供の命,年齢を数えていくんですね,みんな。だからこれは一生背負うものだと思うんです。でも,専門家の方にそういうふうに言っていただくと,本当に救われました。10年かかりました。
 国から本当は言ってほしいんです,あなたたちは悪くないんですよって。本当は加害者が責任を負うのが本当なんですよと本当に言っていただきたかったです。本当に今聞いてうれしかったです。ありがとうございました。
● 甲斐 大分御議論も進んでいるところですけれども,ほかの部分についても是非御意見をちょうだいできればと思いますけれども。
● 山崎 よろしいですか。細かい点なんですけれども,先ほどの捜査段階の検察官の被害者等への通知の制度という御説明ありましたけれども,別の資料等を見ますと警察の方でも通知制度を持っているというふうにも読めた部分があったんですが,これは,警察庁が行っているものと法務省が行っているものは別という理解でいいんですか。
● 久木元 そうですね。警察は自らの捜査段階で,節目節目で必要な事項を伝えるようにしており,被害者連絡制度と呼んでおります。私どもは被害者通知制度と。別にわざと変えているわけではないですけれども,これは重大事件や,あるいはお話を聞いた方々には,希望をお聞きして,希望のある方にはその後の処分結果等を通知するという制度です。
● 山崎 それは,例えば進捗状況というようなことに関してはどの程度の通知がなされていると考えたらよろしいんでしょうか。
● 久木元 それは捜査のですか。
● 山崎 捜査についてですね。
● 久木元 それは,警察の方では,確か逮捕時,あるいは検察官に送ったことを連絡し,併せて,基本的には少年の名前,生年月日,親の名前等を連絡しているようです。ただ,やはり少年事件ですので,個別の判断で,相当でないというときは成人と比べてやや制限することはあるようですが,節目節目でやっていると聞いております。検察庁におきましては,そういう重大事件だと大概は勾留期間は20日間でございますので,その間に,事情をお伺いした際にお教えできることは言っていると思いますし,処分,例えば不起訴,起訴,どこの地裁に起訴しましたということはお教えして,刑事裁判の場合は,その後の公判期日等の通知は希望するかということをお聞きして,希望があればお教えしているということでございます。
● 武内 これは余談めいた話ですけれども,この検討会で考えるべきことではないかもしれないんですけれども,被害者の方,特に捜査段階から付添いというかサポートに入っていて時々思うのは,捜査段階あるいは送致,送検された検察段階,あるいは家庭裁判所とかに置かれた段階とかによってそれぞれ通知の来るところ,さらに言うと申出をするところが違ってくるんですよね。これがなかなか弁護士であっても分かりづらいというのもあるのです。
 なかなか,ではどういう仕組みを考えたらいいかというのは私もそんなに突っ込んで考えたことはないけれども,特に弁護士がサポートに入っていないような被害者の方も少なくないわけだから,シームレスなのです。とにかくここに,最初に問い合わせたところに問い合わせれば最後までずっと手続の流れが分かるとかというのがあるといいな,そういう制度があるといいなと思います。大体,警察の方でも検察に送致しましたと,今後のことは検察庁にお尋ねください,検察庁から来るのも,家庭裁判所送致しました,今後のことは家庭裁判所にお尋ねくださいということになって,ちょっと手続ごとにぶつ切りになっちゃうんで,何かうまい工夫はないのかなと常々思います。
● 松村 そこがなるべくそうならないように,さっき御紹介したような家庭裁判所で始まっている動きも,家庭裁判所の方に事件が来ましたと,これからこういう手続はこちらの方で受け付けますので申し出てくださいという形で,そこはなるべく念を入れて御案内していく形にしないといけないということで,今そういう動きが出てきているので,そこは少しでも改善しようという動きだと理解していただければありがたいんですけれども。
● 武内 例えば,検察庁から今後のことは家庭裁判所にお問い合わせくださいというときに,家庭裁判所のリーフレットが入っていれば知識としてつながりがとりやすいし,あるいは,なかなか全部の事件で難しいかもしれないけれども,家庭裁判所にお問い合わせください,ちなみに家庭裁判所の電話番号は何番何番でと。とりあえず担当窓口はどこどこですよと書いてあるだけでも相当違いますから,何かその辺の工夫ができるといいなといつも思います。
● 武 一ついいでしょうか。14歳以下の少年犯罪の場合も私は心配なんですけれども,それはやっぱり厚生労働省がかかわってきますのでここではどうなのか分かりませんが,14歳以下であっても重大犯罪を犯す事件ってあるんですね。私たちが目にしているのは,新聞に出る死亡事件であったりするんですが,それになるまでの何か事件もあるかもしれないわけです。だからもっと考えないといけないと思うんですね。
 だから,本当に重大と考える事件を14歳以下であっても児童相談所に任すのではなくて,そこでは家庭裁判所が関わるとか。もちろん児童相談所から家庭裁判所に送られるということはありますが,もっと考えていくことが必要じゃないかなと思うんですね。
 それでないと,今虐待の問題とかがすごくニュースになったりしていますが,虐待の問題を児童相談所が把握できていながら救えなかったという話がよくニュースで流れているんですね。それほど児童相談所はそういうものを手に負えないというところだって,専門家が少ないとかおっしゃっていました。それはニュースだけの話なんですが。だから,それだったら,重大犯罪を犯すような子供が児童相談所に送られるとなると本当はあってはならないです,14歳以下の事件はね。でも,私はもう考える必要があると思うんですね。社会的に大きな事件が起きてから考えるのでは遅いと思うので,14歳以下の少年犯罪についてももっと考えていただきたいと思います。
● 甲斐 これはどうでしょうか。
● 久木元 14歳,正確に言うと未満ということ。
● 武 未満ですね。
● 久木元 この点につきまして,長らく国会に出したまま,なかなか審議が進んでいない少年法改正案でございますが,その中では,14歳未満で触法少年,法に触れた触法少年と呼ばれる少年につきまして,警察が事実解明のために任意調査,今までもやっておりましたが,これはできますということを明記するとともに,必要に応じて裁判官の令状によって押収,捜索といった物に対する強制処分ができるようにするという内容を一つ盛り込んでおります。
 その上でどのように14歳未満の少年の手続を考えているかと申しますと,今の改正法案の中では,触法少年の場合,まず児童相談所に送るという原則は変えておりません。ただ,送られた児童相談所としては,人が死亡したような重大事件の場合は原則として家庭裁判所に送ってくださいという道筋を考えております。
 それは,そのような重大事件は事実認定が何より大事であると。これは本人に対して適切な処遇を選ぶためにも大事ですし,もちろん家裁,そういう司法の機関で事実認定をすることが被害者のためになることにもありますし,現実にも家裁で審判をされれば,閲覧・謄写とか意見聴取等の制度も活用できるということで,14歳未満の少年が重大な事件を起こした場合は,基本的に児童相談所を経由するという制度は維持しながら,事案の重大性にかんがみて,よほどのことがない限り原則として家裁で審判してくださいと考えておるのが今の法案ですので,今,武さんがおっしゃった意味からは,十分とは言えないのかもしれませんが,1歩2歩前進した内容に何とかならないかと考えているところでございます。
● 武 そこで,聞いてもいいでしょうか。私たちは,最初から意見書とか要望書に書いていたのは,年齢に関係なく死亡事件は逆送にしてほしいということを言っていたんですが,14歳未満であっても,本当は私たちの要望は,死亡事件であればやっぱり刑事裁判にしてほしいというのが要望なんですね。そこには絶対工夫が必要だと思うので,しっかりと工夫してほしいんですが,そういうことって,果てしなく難しいことを私たちは要求しているんでしょうか。
● 久木元 今おっしゃっているのは,14歳未満でも重大事件の場合は刑事裁判でということでしょうか。これになりますと,少年法の問題といいますより,何歳から刑事責任の対象にするかという刑法で定められた責任能力の問題になってしまいますので,そこはやはりかなり慎重な議論が必要になるんだろうなと感じております。
● 甲斐 ほかに。どうぞ。
● 川出 戻ってしまって申しわけないのですが,審判の傍聴に関して,非行事実に関する審理と要保護性に関する審理を分けるのは難しいというお話でしたが,例えば検察官関与事件では,あるところまでは非行事実の認定のための審理,それから後は要保護性に関する審理ということで分けているわけですね。
 もっとも,検察官が関与する事件は非行事実自体が争われるような事件なので,分けることができるのだということなのかもしれませんが,被害者の方が傍聴を希望される事件というのは,おそらく,重大な事件ということになると思いますので,そういう場合であれば,少年が非行事実を争っていないような場合であっても,非行事実の審理と要保護性の審理というのを分けることも可能なように思うのですが,それはやはり難しいでしょうか。手続を二分していない刑事裁判でも,運用上は,一応順序立てて審理されていると思いますので,一つの可能性として考えられないのかなという気がするのですが,どうなのでしょうか。
● 河原 実務的な感覚からいたしますと,形式的に非行事実の審理と要保護性の審理を分けるということはある程度可能かとは思いますけれども,それは,先ほど申しましたとおり,審判をかなり形式的なものにしてしまうと思います。まさに川出先生がおっしゃいましたように,刑事裁判も順序立ててできるではないかと。まさにそれは順序とかを立てること自体が審判をどうしても形式的なものにしてしまいます。
 検察官が関与するような事件というのは事実がかなりし烈に争われておりますので,そうはいってもまずそこは前提事実だからということで分離するということはかなり可能かと思いますけれども,普通の事件は,先ほども申しましたとおり,これは少年に内省を促す,少年に問題点を気づいてもらう,そのために事案とか少年の個性とかに応じて,行きつ戻りつ,ちょっと言葉は悪いですけれども,手を替え品を替えかもしれませんが,そういったいろんな方策をとりながら,要保護性の事実の審理,非行事実の審理というものが本当に交錯しておりますので,それを無理に分けようとしますとかなり表面的な形式的な審理になって,結局は再非行防止というそもそもの目的に照らしましてそぐわない結果が出てくるのではないかと。
 もちろんこれはすべての事件がそうだと申し上げるつもりはありませんけれども,多くの事件はやはりどうしてもそうなってしまうのではないかなと。この2つを形式的に分けるということはかなり難しいと考えております。
● 佐伯 よろしいですか。被害者の事実を知りたいという利益と少年の改善,更生という利益は最終的には対立する部分があって,うまく予定調和的におさめることは多分できないんだろうと思います。両者が対立したときにどちらを優先させるかという場合に,今まではすべて少年の改善,更生の利益を優先させてきました。しかし,それでいいのかと言われると,少年の改善,更生の利益が一部譲らないといけない部分もあるかもしれないという気がいたします。被害者の事実を知りたいという利益も当然事件によって一律ではなくて,万引きのような事件と,それから被害者が死亡しているという場合とでは当然事実を知りたいという利益には違いがあるでしょうし,一方,少年の改善,更生という利益も事件によって違うでしょう。先ほどの分けにくいという面も確かに一般的に言えばあると思うのですけれども,比較的分けやすい事件もあるでしょうし,重大事件ほど一般的に言えば事実の認定のウエートというのは大きくなると思いますから,それだけ分けやすいというところもあると思うのです。
 ですから,確かに何らかの形で少年が意見を言いにくくなるというデメリットがあることは否定できないと思いますけれども,そういうデメリットがあるので一律に認めないという今までどおりでいいかと言われると,そこはちょっと考えていく必要がある範囲であるのかなという気がいたします。
 特に,先ほどの,なぜ刑事裁判を被害者の方は求められるのかというところで,公開という点,公開というか,社会に全面的に公開するというよりは,被害者が事実を知りたいという御要望が非常に強いということからすれば,私は,だから逆送にするというよりは,少年審判をある程度開いて被害者の御要望をかなえるという選択の方がいいのではないかという気がしています。
● 山崎 その点に関してですけれども,12年の改正があった後の少年犯罪の被害者の方で,現存の新しい制度を利用してもなお,最後はそこで審判を傍聴して知りたいのだという方が数多くいらっしゃるということなのかどうかが私もよく見えないんですけれども,確かに改正される前の制度であればほとんど分からなかったと。今は,先ほど最高裁から話があったような制度を適切に使えることが前提ですけれども,そうした場合になお審判廷で知りたいということがどの程度の御要望として出ているのかというのは何かとられたりしていますのでしょうか。
● 望月 とってはいないですけれども,例えば,私たちが支援する中で,電話相談ですとか,あと情報の中で得られた限りにおいては,先ほど申し上げたような納得できないという声が多いということになると思いますね。
● 山崎 それは閲覧とかされて,意見陳述もされた上でどの点に。
● 望月 例えば,一番最初のころあったように,知りたい情報が何しろ全部知ることができるというわけではないわけなので,それこそ個々の被害者によって違いますので。だから,全部に適切に適応できているか,あるいは納得するようなものになっているかと言われれば,それはノーだと言うしかないかなというふうに思うんですが。
● 山崎 私が被害者の公費による代理人制度というのを考えるべきじゃないかと今日も書いたのはまさにその点で,その制度を十全使えるようなことをまずやるべきではないかというのが私の考え方なんです。それでいくとかなりの部分はもう知ることができる制度になっているのではないかと。本当に最後ぎりぎりのところで,あと,先ほど佐伯先生がおっしゃった知りたいという利益が,どういったことをどういう状況で知りたいという利益なのか。その局面で少年とのどういう衝突があるのかどうかというのをもう少し具体的に詰めてみた方がいいのではないかなというのが私の感想です。
● 望月 今,改正少年法の中でということではなくて,恐らく全部逆送してほしいとか,あるいは全部に傍聴させてほしい,あるいは意見を述べさせてほしいということではなくて,それに代わるもっと適切な制度なり方法なり。それが双方にとって傷つきにくいというか,行動すれば被害者も,知ることはできても,また,受けるものもあるわけですね。日本の社会ってそれほど成熟していると思わないので,公開されれば入ってくるものもあるわけですから,そういうことを見据えた中で,何かもっといい方法があればそれはそれでもいいんで,それは支援者の立場からなんですけれども,もしそういう制度ができれば大いに利用させていただきたいと思いますし,それをもってして被害者といい関係をとりながら説明なり何なり,あるいは仲介者としての役割を果たしていけるのかなというふうに思っています。
● 武 私も,前にも言ったんですけれども,審判って傍聴するというイメージを,刑事裁判のようなものを描いている人が圧倒的に多いということはあると思います。私のところに電話が来るのは,普通に生活をしている人が突然事件に遭っているんですね。法律も知らないし,私もそうでした。刑事裁判であろうが,少年審判ということも知らなかったぐらいですから。それは一般的に刑事裁判のイメージをされているので,なぜ被害者がそこに行けないのという感覚が私は一番強いと思います。
 もう一つ,先ほど山崎先生が公費で被害者に弁護士さんがつくべきであってとおっしゃっていました。前回も私は言ったんですけれども,確かに必要です。本当に早い段階から専門家がつくと私は違うと思いました。後で振り返って思ったときに,もっと早く弁護士さんに相談をしていたなら逆送になったんじゃないかとかいろんなことを思いましたので,やっぱり専門家というのはとても大事でした。
 でもその前に,弁護士会の中で被害者支援をやろうという先生方を育ててほしいです。まだまだ少ないです。まだまだマイナーというか。言われました。田舎に行けば行くほどいなかったり,被害者の支援をなぜ弁護士がしなければいけないと言う人がまだまだいるんです。それの方が先だと思います。
● 武内 頑張ります。
● 甲斐 ほかに何か。せっかくの機会ですから。
● 望月 すみません,お願いなんですけれども,私たち都民センターでは,家裁で交通講習にゲストスピーカーとして遺族の方とともに行っているんですが,そこで一つ問題が起きまして,回復された遺族ならだれでもというわけにはいかないんですね。こういう要望に対してはこの方に是非話してほしい,この方に話してもらう方が説得力があるというようなことでお互いに話し合いとか説明会を持ちながら決定していくわけなんですけれども,たまたま地方の方だったものですから,その旅費ですとか謝金ですとかということに問題が生じまして,結果としてその被害者の方も担当者の方もすごくつらい思いをされてという事態が起きてしまったんですが,そのあたりのことで,例えば,東京だけじゃないわけですから,もうちょっと融通がきいた柔軟な経済的なシステムというんでしょうか,そういうものが是非確立されるといいと思いますし,また,その担当者の説明ですと,自分たちは一生懸命やっていても,その提出する場所が違って,そこのまた窓口が全く理解がないと,これでやらなければだめだとかこういう制度しか使っちゃいけないとか,被害者の好意に甘えてはいけないとかっていろいろおっしゃるらしいんですが,そうなると何の変化も望めないわけですし,被害者が自分の体験をもとにして社会にどうにか声を上げていこうという思いに応えらるということにならないので,是非そのあたりのことは考慮していただきたいと思います。
● 甲斐 ほかにございませんでしょうか。
● 武内 一つだけ。またすみません,余談になります。余談になってしまうかもしれないんですけれども,裁判所の方が東京家庭裁判所で被害者用の待合室とか意見聴取室というのかな,お作りになられたというお話をいただいて,実は私,東京の家庭裁判所じゃないんですけれども,某地方裁判所で被害者用待合室ができたという新聞報道を聞いたので,意見陳述の期日に使わせてくださいと言ったら,それは法廷から遠いところにあるから使わないでください,公衆用の待合室で待っていてくださいと言われてしまったことがありまして,やはりこういう仕組みというのは作って新聞に載せたりパンフレットに載せるではなくて,実際に使わせてもらえないと余り意味がないので,是非,地方裁判所みたいにならずに,家庭裁判所はいっぱい使わせてもらえるようにしてほしいなとちょっと思いました。
● 松尾 前々回でしたか,「不処分」という用語について少し疑問を述べましたけれども,今日のお話などを伺っていると,保護手続という名称も若干問題を含んでいるのではないかと感じました。アメリカの最初のスタートラインのように,放置された子供とか養育されていない子供を含めて考えていたときは確かに保護手続であったと思いますけれども,それから,非行少年に絞った場合でも,ごく軽微な非行だけを想定したときはやはり保護手続,保護処分でよろしかったと思いますけれども,今の少年法のように全件送致主義をとり,非常に重大な事件まで包括している場合に果たしてこれは保護処分ですと言うのが適切かどうか。例えば「少年手続」とかそういった用語で置きかえることも考える余地があるのではなかろうかという気がいたしました。
● 甲斐 最高裁の方からはまとめで何かございますでしょうか。
● 松村 望月さんと武内さんの御意見の点については,いろいろな制約もありますけれども,できるだけ被害者の方への配慮の気持ちでやってまいりたいと思います。
 それから,今日いろいろ御意見を伺った傍聴のところも,冒頭申し上げましたけれども,被害者の方々の御要望が非常に強いということは重く受けとめながら,それと今の審判とどうバランスをとるかという難しい問題を考えていかないとと思っておりますので,今後も検討に協力をさせていただきたいと思っております。
● 武 すみません,一つ聞きたかったんですけれども,保護者への指導というのがあったんですね。いろんなことをおっしゃっていて,保護者にちゃんと指導しているんだって初めて知ったというか。というのが,民事裁判をしたら,保護者が本当にひどいんですね。子供のやったことを分かっていないし,そして賠償金も払わなかったりするので。今だからこういうことをやっているんです。少年法改正後からもう5年間やっているんでしょうか。
● 河原 これは,御説明したとおり,昔からやってはいたんですけれども,少年法で25条の2が設けられた趣旨を踏まえまして,より積極的にこれを取り込んでいこうということで,保護者会ですとか被害を考える教室ですとか,そういういろいろ改善,工夫をやっているというところです。
 おっしゃるとおり,実務の経験に照らしましても,保護者に対する指導訓戒というのは審判でも本当にやりにくいところです。これは子供よりも親の方が問題だと思うような事件は本当にございます。
● 武 それで,私たち,例えば被害者がいる事件の場合,私たちは調書を取り寄せたりするんですね,民事裁判を起こすときに。ひたすら,必死で読む人がいるんですね。読めない人もいますけれども,すごくたくさんの調書を読み込むんですが,事件を起こした方の親,保護者は読んでいないんですね。読んでいないというか,保護者はどうなっているんでしょうか。そういうのを読ませたらいいと思うんです。
 私は,そういうときには,被害者には配慮があって,本当にひどい状態の写真を除いたり,私の弁護士の先生は,武さんどうしますか,見られますか,見ませんかって尋ねてくださったほど,写真が入っているわけですが,その加害者の保護者にこそそういうのは見せてほしいんですが,そういうのをやってもらうわけにいかないんでしょうか。
● 河原 先ほど,審判のやり方はいろいろだということを申しましたけれども,例えば,ほとんどの事件は本当に何の争いもないんですけれども,争いのない事件をわざと裁判官が微に入り保護者の前で審判廷で少年に尋ねることがあるんです。これは,保護者に,あなたのお子さんが起こした事件はこういう事件ですよということを認識させたいんですね。やっぱりどうしてもおっしゃるとおり,保護者は,記録を読む人はまずおりませんし,割に自分の子供,特に集団の事件の場合は,私の子供は巻き込まれただけで,大したことをしていないと思っている人が多いので,わざとそういうことをしている。少年だけではなくて保護者に聞かせているのです。
 こういうことがありますので,先ほどから申し上げているとおり,これは事件にもより,少年にもより,保護者にもより,いろいろなやり方があるので,一律に,ここからはこうやって,その次からこうやってと分けるというのはなかなか少年審判では難しい。事件に応じたいろいろなやり方をして,何とか少年とか被害者に対して事件の重み,被害者の痛み,そういったものを感じてもらって,もう二度と再犯を起こさないんだというような自覚を持ってほしいと。こういうふうに少年審判は頑張っていると,こういうところを御理解いただきたいと思います。
● 山崎 よろしいですか。
 その点に関しては,少年の付添人というのは,ある意味でちょっと誤解されているかもしれませんけれども,特に熱心にやる付添人の場合は,恐らく親に対してもしっかり,こういう事件を子供はやったんだということを知らせていると思います。私なども,当然,調書を渡したりコピーをさせたりすることはできませんけれども,場合によってはそれをほぼ読み上げるような形で,こういう事件をやったんだということで認識させた上で,さて子供とどうするかというのを考えていっているという付添人も多くいることは御理解いただきたいと思います。
● 甲斐 よろしいでしょうか。では,一通り皆さんから御意見をちょうだいしましたので,一応予定のスケジュールはこれで終わらせていただきたいと思います。
 どうもありがとうございました。
 最後に,三浦官房審議官の方からごあいさつがあります。
● 三浦 4回にわたりまして長時間それぞれ熱心に御議論いただきまして本当にありがとうございました。
 平成12年の少年法改正,いろいろ項目がございまして,この5年間の施行状況についていろいろな立場から御議論をいただいたと思っております。その改正内容について,施行状況を踏まえて見直すかどうか,さらには,昨年の犯罪被害者等基本計画を踏まえてさらに新たに手当てが必要かどうか,こういうことを中心にいろいろなお立場から御意見をいただいたということで,私どもといたしましては大変意義が大きかったと思いますし,今後この問題について私どもがいろいろ検討する上で十分参考にさせていただきたいと考えております。
 今回の5年後のこの見直しにつきましては,もちろん政府の中での検討もございますし,また,政治といいますか,政党の方でも今後いろいろな形で議論がされると思います。そういった政党の場の議論においても,もちろん私どもが御説明をする機会もあると思いますので,その際には,この意見交換会の議論の様子も可能な限り御紹介をさせていただきたいと思っております。
 こういった議論を踏まえてできる限り早い機会に法務省としての考え方もまとめて,必要な施策を実現していきたいと思っておりますので,引き続き御協力をお願いしたいと思います。
 どうもありがとうございました。
● 甲斐 それでは,これで終了させていただきたいと思います。
 どうもありがとうございました。
-了-

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